バカとウチと恋心   作:mam

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バカとウチとツーテールpart04

 

 

 そろそろ夕方に近い時間になってきた。帰る時間を考えると後一つくらいしか回れないだろう。

 

「葉月ちゃんは行きたいところはないかな?」

「葉月、観覧車に行きたいです」

 そういえば一番最初に行きたがってたね。

 葉月ちゃんには悪いけど美波も一緒だから告白は無理だろうけど…たぶん。

 

「美波も観覧車で良いかな?」

「ええ、良いわよ」

「そっか。じゃあ行こうか」

 

 

 観覧車乗り場に来ると…家族連れよりカップルで来てる人たちのほうが圧倒的に多いな。

 そろそろ夕焼けも見える頃なので雰囲気満点になるからだろう。

 葉月ちゃんを見ると目が潤んでいた…って欠伸してる。

 さすがに昼間はしゃぎ過ぎたのかな。

 

「葉月ちゃん大丈夫?」

 気付けのつもりで声をかけてみる。

「んにゅ~、大丈夫です…」

 とは言うものの眠そうに目を擦っている。

 

(美波、葉月ちゃん大丈夫かな?)

(そうね…とりあえずゴンドラに乗るだけ乗りましょ。後で乗らなかったって駄々をこねられても困るし)

(了解)

 

 日本で一番大きい観覧車として評判なだけに、かなりゆっくり回ってる気がする。

 実際に乗っちゃえば、そんなに長く乗ってる感じはしないかもしれない。

 葉月ちゃん、起きてる間に景色見れれば良いけど。

 

 やっと僕たちの順番が回ってきた。

 ゴンドラに乗り込み、弧を描きながら少しずつ上に昇っていく。

 残念ながら葉月ちゃんは待っている間に寝てしまった。

 

 ゴンドラに乗るとき僕は寝てる葉月ちゃんをひざの上に乗せて座った。

 座席の上に寝かせて、万が一落ちたら危ないからね。

 美波は向かいの席に………バッグだけを乗せて、僕の隣に座っている。

 

「美波さん、すごく近い気がするのですが…」

 ドキドキして思わず敬語になってしまう。

 

「アキが葉月に悪戯しないように見張るためよ」

「僕ってそんなに信用ないかな…」

「ふふっ、冗談よ」

 そう言って葉月ちゃんの頭を優しく撫でる美波。

 こういうときの美波の表情はすごく優しい。

 

「アキのひざの上ってそんなに気持ち良いのかしら」

 そういえば美波の家で勉強会をやった時も葉月ちゃん僕のひざの上で寝ちゃったっけ。

 

「今度ウチも試してみてもいい?」

「みっ、美波っ!?」

 一瞬で顔が熱くなった…たぶん耳まで真っ赤になってると思う。

 

「良いじゃない。減る物じゃないんだし」

「へっ、減りはしないけど…その、なんというか…」

「何よ。男らしくないわね」

 

 いえ、男だからドキドキしてるんですがっ。

 

「葉月は良くてウチはダメなの?」

 潤んだ瞳で僕を見上げる美波…そんな顔されると断れないじゃないか。

 

「だっ、ダメじゃないけど…」

「じゃあ、約束よ」

 パッと花が咲いたような笑顔になる美波。

 

 忘れないようにしよう。

 忘れてても実行されそうな気がするけど。

 ……ホントはちょっと嬉しいんだけどね。

 

 しばしの沈黙。葉月ちゃんの寝息が規則正しく聞こえる。

 葉月ちゃんの寝顔を見ていたら美波の写真のことを思い出した。

 誤解していたこと謝っておかなきゃ。

 

「あの…美波、本当にごめんなさい」

「何よ、いきなり謝って?」

「美波の部屋の写真のことなんだけど…てっきりオランウータンが好きなんだと誤解してたから」

「まったくひどい誤解よ。でも、いきなりどうしたの?」

「さっき葉月ちゃんに聞いたんだ。オランウータンの写真は葉月ちゃんのだって」

 

 いきなり顔を真っ赤にする美波。

 

「だだだ誰の写真か聞いたのっ!?」

「いや、ちょうどアトラクションに乗るところだったから聞けなかったよ」

 

 ホッとした顔をする美波。

 

「チンパンジーでもないからねっ」

「わかってる。人間なんだよね」

「そっ、そうよ」

 

 プイッとそっぽをむく美波。

 

 ……でも、しばらくすると、両手の人差し指をもじもじさせて俯きながら少し小さめの声で

 

「誰が写っていたのか、知りたくない……?」

「ふぇ?教えてくれるの?」

「アキにはちゃんと知っていて欲しいの」

 

 すごく真剣な表情でジッと僕の目を見る美波。

 ここまで真剣な表情の美波の話なら、ちゃんと聞かないといけない。

 

「あの写真は…ぬいぐるみをプレゼントしてくれた人よ」

「葉月ちゃん?」

 

「んにゅ、バカなお兄ちゃん葉月を呼んだですか?」

 

「「……!?」」

 

 びっくりした…いきなり葉月ちゃんが起きてきた。

 ちょっと騒がしかったかな。

 

「二人ともお顔が真っ赤ですよ?」

「はっ、葉月ちゃん。ほら、夕日が綺麗だよ」

「そっ、そうよ、葉月。ほら、外の景色も真っ赤よ」

「ほんとですっ。」

 

 僕のひざの上から外を見て喜んでる葉月ちゃん。

 うまく誤魔化せたんだろうか。

 

 そうしてるうちに僕たちを乗せたゴンドラはゆっくり降り口へ着いた。

 

 

 

 観覧車から降りると空は薄紫色で園内の電灯やイルミネーションが輝いていた。

「そろそろ帰ろうか」

「そうね」

「はいです」

 

 途中の電車の中で葉月ちゃんは、また寝てしまった。

 

 

 そして駅について僕は寝ている葉月ちゃんをおんぶして美波の家に向かう。

 

 僕の隣を美波が無言で歩いている。

 僕の背中では葉月ちゃんが静かに寝息を立てている。

 

「ねぇ、アキ」

「ん?なに?」

「今日は本当にありがとう…ウチ、すごく楽しかった」

「どういたませまして…どういためし?どういたしせ?…あれ?」

「ふふっ、どういたしまして、よ。アキ」

 

「まさかウチがアキに日本語を教えるなんてね」

「美波、日本語頑張ってたもんね…教えてくれてありがとう」

 

「ウチのね」

「うん」

「日本での思い出って全部アキが隣にいるのよ」

「え、そうなの?」

「そうよ、気が付いてなかったの?」

 

 美波のすごく優しい笑顔。

 なんだろう…胸が締め付けられると言うか、すごくドキドキする。

 

「友達になろうって言ってくれた時から…アキとウチの距離って近くなってるのかな」

 

 距離…そういえば前に姫路さんも言ってたな。

 何センチとか何メートルじゃないのは判るんだけど…うまく考えがまとまらない。

 

 

「そうだ。明日アキのお弁当作ってあげる」

「ええっ。今日疲れてるだろうし悪いよ」

「ウチが作るって言ってるんだから大人しく作らせなさいっ」

「本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。それに明日作らないと、しばらく学校で会えないじゃない」

 そうか。今週は飛び石連休だったっけ。

 

「じゃあお願いするよ。でも本当に無理しないで良いからね」

「ウチがしたいって言ってるんだから大丈夫よ」

 そう言って美波は微笑んでくれた。

 

 美波はバッグを持っていたので葉月ちゃんを家の中までおぶっていくことにする。

 

「アキ、悪いわね」

「全然たいしたことないよ。葉月ちゃんは軽いしね」

「ふふっ、ありがと」

 

「ただいま」

 美波が玄関のドアを開ける。

「お邪魔します」

 僕が玄関へ入ると

 

「おかえりなさい」

 スレンダーで手足がすらっとした綺麗な女性に出迎えられた。

「お母さんただいま」

「あら?吉井君?」

 

「初めまして吉井と申します。美波さんのクラスメイトです。えっと…僕をご存知なんですか?」

「ええ。毎日美波の…」

「お母さんっ」

 美波に会話を止められた。

 

「それより葉月を受け取って」

「あら。葉月がご迷惑をお掛け致しまして申し訳ございません」

 深々と謝られた。

 

「いえ、葉月ちゃんは良い子なので全然迷惑じゃありません」

 葉月ちゃんを渡す。

 

「ほら、葉月。お兄ちゃんにお礼を言いなさい」

「んにゅ、バカなお兄ちゃん今日はありがとうです」

「こちらこそ楽しかったよ。ありがとう、葉月ちゃん」

 僕は頭を下げた。

 すると…

 

「おやすみなさいのキスです」

 首に抱きつかれて、チュッと頬に可愛らしい感触。

 今、僕は顔が赤いだろう。

「あらあら」

「………」

 美波は目をぱちくりさせているだけだった。

 

「えっと…すいません。僕、これで失礼します。今日は本当にありがとうございました」

 なんか恥ずかしくて、いたたまれない。

「吉井君。今日は本当にありがとう」

「アキ、外まで送るわ」

 ぺこりとお辞儀して僕と美波は外へ向かった。

 

 

「アキのバカ…」

「ごめんなさい…」

 いきなりの葉月ちゃんのキス。全く予想してなかったから回避しようにも出来なかったのだけど

 謝っておいた方がいい気がしたので素直に謝っておくことにした。

 

「許して欲しかったら目を瞑って頬を出しなさい」

「はい…」

 素直に右の頬を出す。ビンタ程度で済むなら良いかなと思ってたんだけど…

 シャンプーの良い匂いがして…

 柔らかくて温かい感触があっただけだった。これって…

 

「ふふっ、おやすみ。アキ」

 ポニーテールを左右に揺らしながら美波は帰っていった。

 

 

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