午前中の授業が終わり、やっと昼休みになった。
ぴこぴことポニーテールを揺らしながら美波がやってきた。
「アキっ、お昼食べよ」
「あ、うん」
「せっかくだから屋上で食べない?」
「うん、いいよ…雄二たちはどうする?」
「ん?人の恋路を邪魔すると馬の尻尾に蹴られるからな。今日はここで食べるか」
「そうじゃな。姫路もおらんし、たまにはゆっくり二人で食べてくると良いじゃろう」
「…………屋上の盗聴器は今機能していない」
みんな気を使ってくれてるのか。涙が出そうになるな…特にムッツリーニ。
「じゃあ飲み物を買って屋上に行こうか」
「うんっ」
-屋上-
今日も良い天気だ。そんなに風も強くない。
今日は珍しく僕と美波の二人だけだから階段から少し離れたところにあるベンチに座る。
「昨日サンドイッチだったから今日は御飯なんだけど…」
そう言いながら小さめの弁当箱を渡される。
「ありがとう」
「それでおかずと御飯は別々なの」
そう言って、手渡された弁当箱より二回りくらい大きい弁当箱を開ける。
中には所狭しと色々なおかずが敷き詰められていた。
どう見ても一時間やそこらで作れる物ではなさそうだ。
「すごいご馳走だけど作るの大変だったんじゃ…」
「昨日はさすがに買い物に行く余裕は無かったから殆どありあわせよ」
「ありあわせに全然見えないよ。ありがとう」
手渡された弁当箱を開けると…ハートマークだった。
「ほっ、ほらっ…御飯って白いから何か色を付けようかなって…」
「あ、味も変わるし、ちょっ、ちょうど良いんじゃないかな」
「「あははは…」」
二人で少し笑ったあと…
「じゃあ、いただきます」
「あ、アキ。ちょっと待って」
「?」
周りを確認している美波。そしておかずを一つ摘むと
「あーん」
「じ、自分で食べれるよ」
「ウチが作ってきたんだからウチの言うとおりに食べなさい」
「はっ、はいっ」
ぱくっ…もぐもぐ…時々ピリッと来る刺激的な辛さがアクセントになってて美味しい。
でも、これって…
「ひょっとして、このピリッとしてる辛さってハバネロ?」
「良く判ったわね。昨日たくさん食べたから?」
「もぅこりごりだよ…」
「ふふっ。はい、あーん」
ぱくっ…もぐもぐ…
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」
結局殆ど美波に食べさせてもらった。
「今日は本当にありがとう。すごく美味しかったよ」
「今度はアキに作ってもらおうかしら」
「そうだね。昨日今日とご馳走になりっぱなしじゃ美波に悪いもんね」
「約束よ」
「うん」
「あのさ、美波。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…いいかな?」
「なに?」
「今朝のお嫁さんとか…なんであんなに興奮してたのかなと思って」
「そっ、それは…」
「やっぱり女の子って結婚のことになると負けたくないって気持ちになるのかな」
花嫁って一生に一度の晴れ舞台だしね…やっぱり憧れはあるんだろうな。
その相手が僕で良いのかが判らないけど。
「そっ、そうね…それもあるけど…」
「ウチもアキに一つ聞きたいんだけど…」
「なに?」
「瑞希と…ウチのどっちが良いのかな…って」
美波が探るような目で僕を見ている。
「もちろん美波かな」
即答する僕。
「あ…アキ…」
目を潤ませながら美波がいきなり抱き付いてきた。
「みっ、美波?」
「ウチ嬉しいっ」
「姫路さんのお弁当は刺激的だけど美波のお弁当は安心出来ると言うか…」
「……………………お弁当?」
「うん、お弁当。僕には美波のお弁当の方が合ってるかな」
あれ?美波の攻撃色が目に痛い。
「アキの鈍感バカァァッーーーーー!!」
ハグから、そのまま全身を使った関節技へ移行された。
いろんな意味でドキドキするな。
「許して欲しかったら明日ひざが擦り切れるまで膝枕よっ!!」
「は…はい」
石畳とか重石に比べれば…ちょっぴり嬉しいし。
そろそろ昼休みも終わるので教室に戻ろうと思って美波と一緒に階段の方に向かった時。
いきなり門扉が開いて……
「お、お姉さまは…わ、渡し…ません…」
息も絶え絶えだった。
「み、美春?」
「清水さん?」
髪型は、いつもの螺旋が見る影も無く、棒状双髪になっていて
顔はマスクにおでこに熱を冷ますシートを貼り付け
上はダウンジャケットに下は制服のスカートの下に更にジャージを履いている。
どう見ても立っているだけで辛そうだった。
「そ…そこ、の…ぶっ豚、野郎を…し、始末…して…(ドサッ)」
言い切る前に倒れてしまった。
「わわっ、清水さんっ」
僕は清水さんを抱え上げ
「美波っ。保健室へ急ぐよっ」
「そっ、そうね」
-2年Fクラス-
コンコン…
ガラッ…
「「失礼します」」
僕と美波が後ろの扉から教室へ…さらに鉄人が現れる。
鉄人は授業をしていた遠藤先生と話をしている。
(どうしたんだ、明久?昼休みが終わっても戻ってこない上に鉄人と現れて)
(屋上から戻ろうとしたら清水さんが現れて倒れちゃったんだよ)
(何やったんだ、お前…)
(何もしてないよっ。清水さん結構な熱があるのに無理して来てたみたいなんだ)
(それでなんでお前と島田の二人が帰る準備をしてるんだ?)
(清水さんが美波と一緒ぢゃないと帰らないって駄々をこねて)
(なんでお前まで?)
(そしたら美波が僕と一緒じゃなきゃ嫌だって駄々をこねた)
(親が居るだろ)
(喫茶店が今忙しいらしくて手が離せないって)
(先生は?鉄人今暇なんじゃないのか)
(連休だから交代で休み取ってるらしくて結構先生少ないみたいだよ)
「吉井早くしろ」
(そう言う訳だから先帰るね)
(お前も大変だな)
「先生お待たせしました」
「では遠藤先生失礼しました」
鉄人を先頭に僕と美波が二人並んで歩いている。
「全く清水にも困ったものだな」
「「……」」
僕と美波は顔を見合わせるしか出来なかった。
学校でタクシーを呼んでくれていた。
僕や美波が清水さんをおぶって帰る訳にも行かないしね。
車は程なく駅前の喫茶店『ラ・ペディス』に着いた。
「美春、立てる?」
「大丈夫です…でも布団の中で立てそうに無いので添い寝してください」
とりあえず病人なので突っ込むのは止めておこう。
表から入ってお店に迷惑が掛かってもいけないので裏口から、お邪魔するかな。
「「失礼します」」
「み、美春…ディア・マイ・エンジェル…!」
「お父さん………お店は?」
「美春の事が心配で心配で…ずっとここで心配してたんだよ」
お母さん一人で働いているのか…連休でお客さんも多いのに一人だと手が離せないよね。
「美春、早く部屋で寝なさい」
「わかりました、お姉さま…早く布団で美春を暖めてください(ポッ)」
「何言ってるのよっ!?」
「きっ、貴様…性懲りも無く、また娘をたぶらかすのかぁぁぁぁぁっ!!」
(美波、さっさと帰ろう)
美波の手を引いて表通りの方へ走っていく。
「お姉さま、美春を忘れてますっ。美春はここですっ」
「ディア・マイ・エンジェルッ…何処にも行かないでおくれ」
「ふぅ…前に来たときと全然変わってないね」
「本当ね」
「お母さんにも一言伝えておいたほうが良いかな」
「そうね、やっぱり心配してるでしょ」
「また会わないことを期待して行くしかないか」
「表から入れば大丈夫じゃない?」
「そうだね」
--カランコロン
「いらっしゃいませ」
人当たりの良さそうな女の人が応対してくれた。
「二名様ですか?」
「僕たちは清水さんの友人で」
「あら、美春を連れて来て頂いたんですね。わざわざすみません」
「いえ…それで裏口の方から、お邪魔させて頂いたので店長に清水さんをお願いしてきました」
「有り難うございます。せっかくなのでコーヒーでもいかが?」
「お店忙しいみたいですし邪魔になると思いますので」
「大丈夫ですよ。ちょうどお昼時も過ぎたので私達も一息つける時間帯ですから」
(美波どうしようか?)
(少しだけお邪魔してすぐ帰りましょ)
(了解)
「では遠慮なく頂きます」
「はい。こちらへどうぞ」
清水さんのお母さん(仮)が言う様に店内は、さほど混んではいなかった。
僕たちはカウンターに案内された。
「注文が決まったら声をかけてね」
「「はい」」
僕たちは飲み物を頂きながら
清水さんのお母さん(確)はカウンターの中で仕事をしながら
話をしていた。
「美春は学校では、どんな感じですか?」
「「えっと…」」
「ウチはクラスが違うのでいつも一緒ではないのですが会うと元気です」
「僕もクラスが違うのですが見るたびに元気ですね」
美波の前だと特に元気過ぎて正直少し迷惑です。
「あの子、性格が性格だからイジメられたりしてないか心配なのよ」
「それは無いですね」
「そうね」
どっちかというとイジメられてるのは僕の方だ…命がけで。
「どちらかというとクラスの中心ですね」
試召戦争の時は、ひどい目にあったし。
Fクラスに来るたびに配下が増えてる気がする。
「それなら良いけど…ところで貴方島田さん?」
「はい。そうです」
「良く貴方の話をしてるわ。奥ゆかしいとか静かな湖の水面のようだとか…よっぽど落ち着いた人なのね」
「そっそうですか…」
や、ヤバい…美波の闘気が高まってるのが判る。
たぶん後で対応を間違えると、それが全部僕に向けられるだろう。
「そうすると貴方が吉井君?」
「はい、そうですが…僕の話もされてるんですか?」
あれ?僕の話をしてるような気がしないんだけど…
「そっ、そうね…男の子が細かいことを気にしちゃだめよ」
清水さん。家で僕のことをなんて言ってるんだ…たぶん聞かない方が幸せだろうな。
「それではそろそろ失礼します」
「ご馳走様でした」
「また遊びに来てね」
清水さんも無事家に帰れたし任務完了っと。
6時間目が終わるまで一時間くらいあるな。