バカとウチと恋心   作:mam

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バカとウチと迷子

 

 

 くいくいっ。

 ……ん?何か引っ張られているような。

 

 くいくいっ。

 やっぱり引っ張られてる。なんだろう?

 

「ママ…」

 

 小さな女の子と目が合う。でも、その目には涙が一杯溜まっていた。

 

「ママぁっ、ふぇぇーん」

 

「わわっ。なっ、泣かないで」

「ママぁ、えーん」

「みっ、美波っ、どどどうしよう!?」

「アキ落ち着いて」

 

 美波が優しく女の子を抱きかかえ頭を撫でる。

 そうか。葉月ちゃんでこういうのには慣れているんだな。

 

「もう大丈夫よ。怖いことは無いわよ」

 

 優しく諭す様に、でもはっきり聞こえる言葉で語りかける。

 女の子は落ち着いたのか泣くのを止めてくれたみたいだ。

 よく見ると葉月ちゃんより幼いな。まだ小学校にも行ってないだろう。

 ふわっとした優しい感じがする。姫路さんを幼くしたみたいだな。

 

「お名前は?」

 名前が判らないと呼びようが無いからね。

 

「ひっく…まいか…」

「まいかちゃんか。可愛いお名前だね。いくつなのかな?」

「ごさい…」

 

 僕も出来るだけ不安にさせないように笑顔で接しないとね。

 まいかちゃん五歳か…そうすると幼稚園かな。

 大体こういう場合はお母さんと、はぐれて迷子になってるとかだと思うんだけど…

 原因を直接聞いて、また泣いちゃったりしたら可哀想だしなぁ。

 

「まいかちゃんは、なんでここにいるのかな?」

「まいか、おねえちゃんとけんかして…おうちでてあるいてたらここにきたの」

「そっか。おうちに帰りたいけど判らなくなっちゃったんだね」

 こくん、と小さく頷く、まいかちゃん。

 

「でも、どうして僕達のところに来たの?」

 ここは駅前の広場だから昼間とはいえ、割と人通りも多い。

 ここからは見えないけど、交番もすぐ脇にあったはず。

 

「えっとね…おにいちゃんとおねえちゃんがいちばんやさしそうだったから」

「そっか。ありがとう」

 そう言って頭を撫でると嬉しそうに目を細めていた。

 小さな子ってみんなこうなのかな。

 

「アキ、どうするの?」

「そうだなぁ…」

 

 僕と美波を交互に見つめるまいかちゃん。

 僕と目が合うと笑ってくれた。

 

「連絡先が判るようなら僕達でおうちまで連れて行ってあげたいんだけど…」

「アキなら、きっとそう言うと思ってたわ」

 

 美波も嬉しそうに笑顔で頷いてくれた。

 僕達を頼って来てくれたまいかちゃんも知らない人に押し付けられるより、そのほうが良いだろうし。

 さて、そうなると連絡先を確認しないとね。

 ポケットを探ってみる…見事に何も無い。

 

(美波、キャンディとか持ってない?)

(あるわよ)

(一個くれないかな)

(はい)

(ありがとう)

 

「まいかちゃん。ママから困った時見せなさいと言われてる物はあるかな?」

「うん」

「じゃあ、このキャンディと交換しない?」

「うんっ」

 笑顔でポケットから連絡先が書いてあるカードを出してキャンディと交換してくれた。

 どれどれ……

 

「この住所だとウチの家の近くね」

「一応電話して連絡つかなかったら僕達で連れていってあげよう」

「うん」

 

 美波に電話してもらう。やっぱり男の僕より女の子の美波のほうが親も安心するだろうし。

 

「ダメね。繋がらないわ」

「そっか」

 時計を見ると午後二時を少し回ったくらい。

 この時間だと友達の家に遊びに行ったと思ってるかもしれない。

 

「じゃあ僕達で連れていってあげようよ」

「そうね」

「まいかちゃん、おうちに帰ろっか」

「うんっ」

 満面の笑みのまいかちゃん。やっぱり女の子は笑ってて欲しいな。

 

「まいかちゃん、おんぶしようか?」

 僕がおぶってあげた方が歩くの早い気がする。

 

「ありがとう、おにいちゃん」

「いえいえ、どういたしまして」

 ちゃんとお礼が言えるなんて礼儀正しい子だな。

 

「美波、悪いけど鞄持ってもらえる?」

「お安い御用よ」

 美波に鞄を持ってもらい、まいかちゃんをおんぶする。

 

「アキって本当に子供に好かれやすいのね」

「そうかな。僕は子供との接し方が良く判らないんだけど」

「ふふっ、自分で気が付いてないの?」

「?」

「まぁ、アキだから仕方ないか」

 すごく楽しそうな美波。

 葉月ちゃんはぬいぐるみの件があるから判らなくもないけど…

 僕より美波や姫路さん、雄二の方が子供との接し方がうまいよね。

 

「でもいきなりアキにママって泣き付いてきた時はビックリしたわよ」

「僕もビックリしたよ」

 

「てっきり坂本との子供かと思ったわ」

「ちょっと待って。なんで雄二と僕で子供が出来るのさ」

「アンタ達、愛し合ってるんじゃないの?」

「そんなこと全然無いよっ!!せめて秀吉にしてよっ」

「そんなこと言うのは、この口かしら」

 

 美波が涙目で僕の頬をつねってる。ものすごく悔しそうな顔してるな…

 

「いひゃい、ひっぴゃらないれくらひゃい」

「ふんっ。アキが悪いのよっ」

 今回は、すんなり手を離してもらえた。

 

「あのね、この際だから言うけど僕は女の子にしか興味ないからね」

「でも体育祭や肝試しの時、坂本や土屋にお願いしてたじゃない」

「あれはその…色々あるんだよ」

「色々って何よ?」

「えっと…その…色々は色々だよ」

「男ならハッキリしなさいっ」

 と、僕より男らしい美波に頬をつねられた。

 

「いひゃいれふ」

「色々とハッキリしないアキが悪いのよ」

 あれ、美波にしては珍しく歯切れの悪い言い方をするな。

 今のことだけ言われてるんじゃない気がする。

 

「美波。今、僕に攻撃すると、まいかちゃんが危なくなるかもしれないよ?」

「後で纏めてお仕置きでも良いけどアキに耐えられるのかしら」

 僕、今日生きて家に帰れるかな。

 

「おにいちゃんとおねえちゃん、なかよしさんじゃないの?」

「「……」」

 思わず美波と顔を見合わせてしまう。

 

「そっ、そうね。いつもは仲良しなんだけど、このお兄ちゃんすっごいバカだから」

「おねえちゃんこまってるの?」

「そうなのよ。もぅ本当に鈍感で…気付いて欲しい時に全然気付いてくれなくて」

 

 美波、幼稚園児に人生相談してるよ…しかも僕のことで。

 ひょっとしたら葉月ちゃんにも相談してるんだろうか。

 なんか悲しくなってきたな。

 

 とりあえず美波に人生相談やめさせないと。

 

「そうだ、美波。もう一度まいかちゃんのお母さんに電話してもらっても良いかな」

「そうね。そろそろ近くのはずだし」

 

 橋を渡ったところで美波が携帯を取り出し電話する。

 橋の反対側の歩道は通行止めにして工事をしていた。欄干と手すりを交換しているのかな。

 下は川が流れている。さすがに、この時期だと昼間でも水は冷たそうだな。

 

「アキ、お母さん迎えに来てくれるって」

「まいかちゃん良かったね。お母さんもうすぐ来るよ」

「うんっ」

 まいかちゃんを背中から降ろして美波から僕の鞄をもらった。

 

「美波、お母さんと何処で待ち合わせするの?」

「工事中の橋って言ったら、すぐここに来ますって言ってたわよ」

 

「舞佳ー」

 と呼ぶ声が聞こえた。

 

「ママっ」

 女の人の方に走って行く舞佳ちゃん。

 抱きついて頬擦りしている…すごく嬉しそうだ。

 うんうん、良かったね。

 

「この度は御迷惑をお掛け致しまして誠に申し訳ありませんでした」

 舞佳ちゃんを抱きかかえながら頭を下げるお母さん。

 

「いえ、舞佳ちゃん良い子でしたから全然迷惑じゃなかったです」

 本当に素直で礼儀正しくて可愛くて…雄二に爪の垢を煎じて飲ませたい位だ。

 でも雄二が可愛くなったら気持ち悪いからやめておこう。

 

「是非お礼をさせて頂きたいのでお名前と連絡先を」

「いえ、ウチの家がこの近くなので帰り道でしたから気にしなくても良いです」

 そういえば美波の家の近くって言ってたっけ。

 

「舞佳ちゃん、もぅ一人で遠くへ行っちゃダメだよ」

「うんっ。おにいちゃんおねえちゃんありがとう」

「「じゃあね」」

 僕と美波が手を振ると、舞佳ちゃんとお母さんはお辞儀をしてくれていた。

 

 

 結局普通に6時間目まで授業を受けているのと同じくらいの時間になったな。

 まぁ補習が無いだけマシかな。

 

 

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