艦息?いいえポケモンマスターです。   作:晴貴

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第2話

 

 

「か、勝ったぁぁぁ~……」

 

 不気味な化け物が完全に沈黙したのを確認して、俺は力なく崩れ落ちた。

 情けないかもしれないが、なんの準備もなくいきなり命のやり取りをしたんだ。むしろよくやった方だと自画自賛してやりたい。

 やったぞ俺、すごいぞ俺。生きてるって素晴らしい!

 

 しかしあいつら背後から一斉射撃されても沈まないとか頑丈すぎるだろ。曙達を背後や真横に移動させてノーガードのところに撃ち込むこと4度目でやっとこさ撃沈って。

 そもそもなんなだったの?あいつら。

 

「ねえ、ちょっと」

 

「ん?」

 

 生の悦びを実感していると曙が話しかけてきた。勝利の直後だというのにその瞳は厳しい。というか怖い。

 思わず後退りしそうになる。幼女にメンチ切られてビビる男子高校生とか……。

 

「アンタ何したの?」

 

 曙から放たれたのは予想通りの質問だった。後ろの3人も俺を注視している。そりゃ気になるわな。

 とはいえ俺も全部把握できてるわけじゃないんだよねぇ。なんと言えばいいのやら。

 

「えーっと、まあ簡単に言うとテレポート……かな?瞬間移動ってやつ」

 

「やっぱり!くぅ~、そんないかにもチートです的な能力持ってるとかお兄さんやりますねぇ!」

 

「あ、ああ、どうも……」

 

「何いきなり信じてるのよ漣!」

 

 やたらテンションの高いピンクの髪は漣というらしい。となると消去法で茶髪の子が朧か。

 その朧は漣とは対照的に落ち着いた様子で言葉を口にする。

 

「でもそれ以外に説明できる?誰よりも瞬間移動を体験したアタシ達こそ、このお兄さんの言ってることが真実だって分かってると思うけど」

 

「そ、それは……」

 

 朧の反論を受けて、曙は言葉を告げずに押し黙る。

 そんな空気の中で漣がこんな提案をしてきた。

 

「お兄さん、ものは提案なんですけど漣達を瞬間移動で鎮守府まで送ってもらえたりしません?中破寸前まで行ってるので帰るのも結構辛くって」

 

 言われて気付く。確かに4人とも結構ボロボロだ。特に衣服が大変なことになっていて、見た目小学生くらいとはいえまじまじ観察するのをためらうレベル。

 ただ骨折や流血といった怪我らしい怪我をしていなさそうなのは救いだった。

 

「あー、その鎮守府?ってのはどの辺」

 

「ここから西に……だいたい180キロくらいですね」

 

 漣が指を差した方角を見やる。俺の目には大海原しか写らないが、向こうに鎮守府というのがあるらしい。

 いけるのか?

 

「……ものは試しだ。とりあえずやってみるか」

 

「何よその不確定な言い方。確証はないわけ?」

 

「さっきみたいな近場ならまだしもそんな長距離だと不安はある」

 

 なにせ自分でもよく分かってない力だからな。

 自信を持って「上手くいく」なんて言い切れるわけがない。

 

「……どうする?」

 

 俺の言葉を受けて4人が頭を突き合わせるようにして相談を始める。

 正体不明の男のおかしな力を借りるか、多少の疲労はおして確実な方を取るか。

 その結論はすぐに出た。

 

「じゃあ今回は遠慮するってことで」

 

「まあその方がいいわな」

 

 失敗しても責任とか取れないし。

 

「そうと決まればさっさと帰るわよ。当然、アンタにもついてきてもらうから」

 

「了解。ここに放置されたら困るから連れてってくれ」

 

「そう。それじゃまた曳航するからあたしの肩に捕まりなさい。変なところ触ったら承知しないんだから」

 

 曙は口こそあれだが俺を逃がそうとしてくれたり気を遣ってくれたり悪い子じゃなさそうだ。

 これでなんとか人のいる場所まで行ける。どこかも分からないまま、大海原の真ん中に一人でいるのはかなりの孤独と恐怖を感じただけにようやくホッとした。

 

「……一人ぼっちは、寂しいもんな」

 

 ホッとしすぎてそんな言葉が漏れた。いやこれ死亡フラグじゃね?

 せめて鎮守府とやらに到着するまでは緊張感を持ってた方がいいな。また深海棲艦とやらに遭遇するかもしれないし。

 

 しかし掴んだ曙の肩のなんと細いこと。これでよくあんな化け物と戦えるもんだ。

 そんなことを思いながら漣を先頭に潮、曙とその肩に捕まる俺、殿に朧と1列に並び、そのまま引かれる。しばらくそうしていると不意に曙が口を開いた。

 

「改めて聞くけどアンタはなんで艤装もないのに海の上に立てるのよ?」

 

「その答えは俺が知りたい」

 

 2度目の問いに、俺も同じ答えを返す。

 

「瞬間移動なんてできるからそれも超能力なんじゃないの?」

 

「別に俺は超能力者ってわけじゃないし」

 

「じゃあなんなのよ?」

 

「普通の高校生」

 

「「それはない」」

 

 曙と朧の言葉か被る。

 まああんなことやったあとに一般人ですって言われて信じるわけないよな。

 ただ俺はさっき海の上で目が覚めるまで本当にその辺にいる一介の男子高校生だったんだけど。

 

 その後も曙や漣にあれこれ聞かれながら彼女達の拠点、横須賀鎮守府を目指す。その間に俺の方からも色々と質問させてもらった。

 そして知り得たのが以下についてである。

 

 まず“かんむす”とは艦娘と書くらしく、かつて沈没した日本の軍艦の記憶を持って生まれ変わった少女達のことらしい。もちろん曙達もそうだ。

 ……いきなりの超展開である。とりあえず軍艦を擬人化したような存在として認識することにした。

 

 で、さっき戦ったのが深海棲艦。詳しい生態……そもそも生物かどうかも分かっていないとのことだが、あいつらは揃いも揃って人間を激しく忌み嫌っていて人間や彼らを守る艦娘を攻撃してくるらしい。

 その理由も不明であり言葉による交渉も不可能なんだとか。

 

 艦娘に深海棲艦。そんな存在は初耳だ。

 しかし曙達によればこんなことは小学生でも知っていることであり、言うなれば常識だ。あくまでも“この世界の”という枕詞がつくが。

 

 俺の世界にとって人類最大の脅威は同じ人類だ。深海棲艦なんて化け物じゃない。

 艦娘なんて影も形も存在しなかった。

 ここまでくればこういう考えを持たざるを得ない。

 

 もしかしたらこの世界は、俺がいた世界とは違う……いわゆる異世界というやつなんじゃなかろうか。

 

 しかしそう判断した割には冷静だな、俺も。まだ実感できてないだけか?それともさっきの戦闘で高揚しすぎた反動で今は余計に落ち着いているだけなのか。

 なんにせよ仮にここが異世界だとするなら優先すべきは生活環境を得ることだ。

 この世界に定住しなければならないにしろ元の世界への帰還を目指すにしろ、生きていく環境を用意しなければ話にならない。身元も経歴も一切ない人間にとってそれはかなり困難だが……。

 

 なんて内心で愚痴りつつ曙達に引かれていると、深海棲艦と遭遇した際に発信していたという救援要請により出撃してきた救援部隊と合流した。俺もついでに保護してもらって横須賀鎮守府まで直行することになった。

 横須賀ってことは神奈川か。艦娘は日本語喋ってるし一応日本ではあるんだよな。異世界ってよりはパラレルワールドの方が近いのか?

 なら文化的な面で生活に悩むことは無さそうだけど。

 

 ちなみに救援にきてくれたのは戦艦の金剛に翔鶴と瑞鶴という空母、そして陽炎・不知火・黒潮の駆逐艦3人、計6人だった。

 全員が曙達の無事を喜び、深海棲艦を沈めたということに驚いていた。どうやらあいつらは曙達だけで勝つにはかなり手に余る相手だったらしい。

 すげー頑丈だったもんな。デフォルトで“かたくなる”でも積んでんじゃねーか?

 

 あと瑞鶴と不知火の俺を見る目が鋭すぎる。俺はそんなに不審か?……まあ不審だよな。

 一応曙達が説明してくれたが、テレポートの下りで救援部隊全員の視線が訝しげなものに変わった。そりゃ又聞きでんなこと言われてもはいそうですかとはならんよね。

 とりあえず敵意はないことをアピールしておくことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――以上が今回の遠征についての報告よ、クソ提督」

 

 曙がいつも通りのクソ提督呼ばわりで報告を終える。その呼び名はどうでも……良くはないが、今さらなのでスルーだ。

 問題はいつも通りじゃない出来事の方である。

 

「まさか解放海域で戦艦ル級やタ級に遭遇するとは……」

 

「それにル級はflagshipだったわ」

 

「ならば遭遇した海域周辺の調査と巡回の強化をしなければな。何はともあれよく無事に帰ってきてくれた」

 

「ふん!……アイツがいなきゃどうなってたか分からないわよ」

 

 曙がそっぽを向きながら口にした“アイツ”という言葉。ある意味今回のMVPにして、最も頭の痛い悩みの種。

 ル級らとの戦闘中に出会った、人間であるにも関わらず艦娘と同じように水の上に浮く少年。その名は……。

 

八坂(やさか)東壱(とうい)君、だったか」

 

「本人はそう名乗っているようです。学生手帳も預かっていますが、調べたところ存在しない、架空の学校のものでした」

 

「つまり偽造だと?」

 

「そう判断するのが妥当かと」

 

 大淀がそう告げる。まあ普通に考えたらそうだよな……。

 彼女の言葉に反論する者はいない。第七駆逐隊の面々が少し気まずそうな顔をしているのは、彼に恩を感じているからだろう。

 

「それで八坂君はどうしてる?」

 

「客室で待機してもらっています。見張りの天龍さんと龍田さんから報告はきていないので大人しくしてくれているようですね」

 

「ふむ……」

 

 彼の処遇をどうしたものか。

 まず解放海域とはいえ一般人の立ち入りが禁止されている海域にいたこと。これは立派な法律違反だ。

 難破の末に漂流していた等の理由ならば罰する必要性はないが、ここ最近一般人が乗った船や民間の船が難破したという事故は発生していない。

 

 そして身分偽造の恐れがある学生証を有していた。この時点でだいぶ怪しい。厳しく取り調べなければならないだろう。

 他国の工作員ということも考えられる。

 で、極めつけだが……。

 

「艤装もなしに、というか人間にも関わらず曳航されながらとはいえ水上を航行し、あまつさえ瞬間移動ができる、か。これは本当に事実なのか?」

 

「少なくともアタシは本当だと思ってる。じゃなきゃ一瞬で敵の背後を取るなんてできないと思うし」

 

「瞬間移動とは些か現実的ではありません。何か仕掛けがあるのでは?」

 

「漣達4人を抱えて何度も深海棲艦の後ろを取ったんですよー?おかげで好き放題攻撃できたし、あれが手品なら世界中の手品師を雇うことをオススメします」

 

 喧々諤々、その力を目にした曙達肯定派に、突拍子のない話を聞かされただけの不知火達否定派が激しく意見を交わす。そうなるのも当然か。助けてもらったという事実と、作り話としか思えない非現実がせめぎ合っているのだ。

 こりゃ、この場で結論を出すのは難しいな。

 

「大淀、八坂君をここに呼んでくれ」

 

「良いのですか?まだ安全とは言い切れませんけど」

 

「それを確かめるために直接話を聞くさ。言っておかなければいけないこともあるしな」

 

 色々と怪しい立場の八坂君だが、彼のおかげで第七駆逐の4人は無事だったのだ。彼女達の提督として、まずは礼をしなければいけないからな。

 

 

 

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