艦息?いいえポケモンマスターです。   作:晴貴

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第4話

 

 

 俺が小人改め工厰妖精と会話できることが発覚して一時場が騒然となったが、なんかまずかったのだろうか?図らずもパー○ルタ○グをしゃべった時のハ○ー・ポッ○ーみたいにな空気になったんだけど……。

 まあいいか。気を取り直してやるべきことをやるとしよう。

 

 今俺が立っているのは屋外の訓練場だ。提督らや憲兵、そして艦娘も近接戦闘や体力トレーニングの際に利用するらしい。

 艦娘は船なのに格闘戦もこなすのか……。擬人化したからこその戦い方だな。

 その訓練場の床はコンクリート製なので多少濡れたり燃えたりしても大丈夫そうだ。てなわけで早速はじめよう。

 

 時刻はすでに夜の8時。当然日は落ち、本来なら使用時間が過ぎている訓練場を特別に使わせてもらえることになった。

 なんでこんなに急なのかって?いち早く答えを確かめるために決まってるだろ。

 ちなみに監視役だろう天龍さんと龍田さんも一緒だ。そして見学希望の曙達4人の姿もある。

 人の目は多いが気にしないようにしよう。

 

「それでこれから何をするんだ?」

 

「うーん、そうですね……」

 

「決まってないなら話にあったテレポートってのを最初に見せてくれよ!ずっと気になってんだ!」

 

 監視役とは思えないウキウキ顔で天龍さんが詰め寄ってくる。龍田さんは「あらあら、天龍ちゃんったら」とか言って笑ってるだけで止める素振りはない。

 ただ、ある確認が取れない以上テレポートはあんまり使いたくないんだよなぁ。

 

 その確認っていうのは技の使用回数についてだ。

 もし俺が使っているテレポートがポケモン仕様のものならPPが存在する。テレポートのPPは20。今日すでに5回使っているから残りは15回だ。

 ゲームならポケセンやアイテムで回復できるが、この世界ではどうなるか分からない。ましてや俺はポケモンじゃなくて人間だしな。

 

 自然回復するにしてもその回復率はどうか。一晩寝れば満タンかもしれないし、1しか回復しないかもしれない。そもそも回復しない、使いきりってことも考えられる。

 その辺の細かい確認が取れてない状況でムダ打ちするのは避けたい。もしポケモンの技じゃなかったとしたら使用上限のボーダーが全く分からなくなっちゃうしな。

 

「テレポートは明日のお楽しみってことで。その代わり色々試してみますからそれで満足してください」

 

 そう言って、俺は訓練場の設備のひとつである巻き藁を並べる。訓練場の中央部分に等間隔で並ぶ10本の巻き藁。

 対して訓練場の端に立った俺は、息を吐いて体の力を抜く。

 そして心の中でこう呟いた。

 

 ――こうそくいどう。

 

 バトル中に、自分の素早さをグーンと上げる技。これが発動すれば俺の能力がポケモンのものだとほぼ確定したと考えてもいいだろう。

 結果から言うと、俺の仮説は正しかった。

 技の名前を唱えると体が軽くなる。まるで体重や重力が軽くなったような感覚。今なら100メートル走で世界新とか出せそうだ。これは発動したとみていい。

 こうそくいどうは重ねがけもできるがまずはこの1回でどれだけの効果があるのかを確認しよう。

 

 足に力を込めて巻き藁の方へ駆け出す。感覚的には2歩ほど進んだ程度。

 だがもう俺の目の前には巻き藁があった。たった1回の使用でこれとは効果高すぎでしょ。

 さすがすばやさ2段階アップ技!世界新どころの騒ぎじゃなかった。

 

 感動しつつも間髪入れずに今度は“いあいぎり”を3回くり出す。刀なんて持ってないから手刀だ。

 それでも巻き藁は切り刻まれ、完全に切断された。巻き藁だった部分が3つに別れて床に転がっている。いあいぎりが使えてる。

 これはもう『俺の能力=ポケモンの技』で確定だろ。

 

 ちなみにまずこうそくいどうを使えるか試したのは自分の回避性能を上げたいからだ。深海棲艦なんて危ないもんが蔓延ってる世界じゃいつ襲われるか分かったもんじゃないしな。

 とにかく使えることが判明してひと安心である。その内“まもる”や“みがわり”なんかも試しておきたいところだ。

 

 で、次にいあいぎりを試した理由としては、無意識にだが最初に使っていたであろうなみのりと同じ秘伝技なら使えるんじゃないかと考えたからだ。そして万が一PPが切れて回復できなくなったとしてもダメージが少ない。

 ゲームの仕様上ではいあいぎりが使えないと進めない場面もあるが、現実なら避けたりなんだりで突破することは可能だ。

 自分の“こうげき”のステータスがどうかは知らないが、どうせ威力50の物理技だ。大したダメージソースにはならない。

 

 確認目標のひとつとしていあいぎりのPPを使いきり、明日の朝までにどれだけ回復しているか確かめる、というのを追加する。

 これで一生いあいぎりが使えなくなったとしても死にはしないしな。

 

 ついでにこうそくいどうの重ねがけの効果も調べてみる。

 その後さらにこうそくいどうを2回使い、アホみたいに加速しながら残り9本の巻き藁を全ていあいぎり3回ずつでぶった切った。

 最後にもう1回使おうとしたが、いあいぎりは発動しなかった。これで明日以降どう回復するかで技を使用する優先度を決める必要があるな……。

 

「ふぅ……とりあえず悪くないかな」

 

「悪くないってレベルかよ!」

 

 うお、ビックリした……。いきなり大声上げるなよ。

 やれやれと思いながら天龍さん達の方へ振り返る。天龍さんは瞳をキラキラと輝かせ、それ以外の5人はポカンとしていた。温度差がすごい。

 

「今のはテレポートじゃないのか!?」

 

「違います。ただ高速で移動して切っただけですから」

 

「そういやそれもだよ!お前の手はどうなってんだ!?」

 

 盛り上がり方がすごいなこの人。よく見れば腰に日本刀らしきものを下げてるし、剣の道を歩んでそうな天龍さんには興味深いものに見えたのかもしれん。

 10本切り落とすのに20秒もかからなかったからな。

 

「あはは……まあ詳しい話はまたあとで」

 

 時間が惜しいのですぐさま次の検証に入る。

 最初より強くなった視線が背後から飛んできてるのを感じながら、俺は右手を払うように横へ振った。

 するとそれに合わせてこぶし大より2回りほど大きな火球が表れて、巻き藁の残骸の方へ飛んでいく。

 

 それは残骸に直撃すると瞬く間に燃え上がり、焼き尽くす。

“ひのこ”でこの威力である。そして命中率100だからなのか、素人の俺が全弾的中させられるとは。

 

 とか考えてる内に巻き藁から煙が立ち上ぼっていた。これは目立つし焦げ臭い臭いが鼻にもつくな。

 さっさと消そうと今度は“あまごい”をしてみる。普通に雨が降り出した。

 

 ヤバい……ヤバくない?これでPP自然回復なら日本はおろか世界中から引っ張りだこだろうな。

 とりあえずこれで煙を目立たなくしてからの――

 

 “みずでっぽう”“あわ”“バブルこうせん”“みずのはどう”“うずしお”と立て続けに水タイプの、それでいて危険がないような威力60以下の技を放つ。意外にも全部使えた。

 そしてあっという間に鎮火完了。鎮守府を追い出されても消防士として生きていけるかもしれな……あ、戸籍ないからムリか。

 

「うわぁ、すごい……魔法みたいです!」

 

「やっぱりあの人チートですよ、チート」

 

「でも威力ならアタシ達の主砲の方が上だと思う」

 

「火力を艦娘と比較されてる時点でおかしいでしょ……」

 

 曙達の会話が聞こえてくる。潮はいい子だなぁ。

 しかしこんなんでチートだのなんだのと言われても、これで高火力技を見せたらどうなるんだろうか。たぶん人外扱いされそう。

 最後は“ねんりき”で炭と化した残骸を片付ける。“サイコキネシス”とか使ったら相手を圧縮して砕き潰すとかできんのかな、とか物騒なことを考えていると今度は龍田さんが声をかけてきた。

 

「今のは全部、貴方の言っていたポケモンの技なのかしら?」

 

「はい。まあほんの一部ですけど」

 

「一部ねぇ。技の数はどれくらいあるんだ?」

 

「えーと……正確な数は分からないですけど、たぶん600種類くらいはあると思います」

 

『600!?』

 

 俺を除いた全員の声が重なる。そのどれもが驚きに満ちたものだった。

 ……ああ、考えてみればそうだよな。ポケモンに慣れ親しんでるから当たり前の感覚だけど、技の種類が600って相当多いか。廃人はそれらの効果や威力をほとんど覚えてるってんだから頭おかしい。

 捕まえて育てこそすれ、厳選なんてしたことのない俺みたいなヌルゲーマーからしたら信じられない所業だ。

 

「もしかしてそれ全部使えるのか?」

 

「それは分かりません。その内確かめてみたいですけど威力が高くて危険なものや条件を揃えないと使えないものとかありますから……」

 

 ポケモンの技が使えるようになったとはいえ高火力の技まで扱えるかはまだ分からんし。

 確かめようにもここで“りゅうせいぐん”とか使ったらシャレにならないからね。落ちてくる隕石の規模によっては人類滅亡もありえる。

 ゲームじゃポケモンは死なないし建物やフィールドが破壊されることはないけど、あれがリアルに反映されたら間違いなく被害が出るだろ。

 あとはZ技とかどうなんだろうな。 ZリングもZクリスタルもないからさすがに難しいか?

 

 まあまずはその前にメイン火力になる技を調べたいところだ。PPの回復が望めない場合は使える回数がかなり限られる。

 明日いあいぎりが使えるようになってるかどうかで今後の方針を決めよう。回復なしだとお披露目はかなり地味になっちゃうけど……。

 

「とりあえず今日は終わりにします」

 

「あれ、もういいのか?」

 

 確かめたいことの事前準備はできたからな。

 もっと強力な技については提督に許可をもらってから、被害が出ないだろう海上とかで試すことにしよう。

 

「雨が降ってきちゃいましたから。これで風邪引いて本番で力が発揮できなくなったら本末転倒ですし」

 

 雨降ってきたのは俺のせいだけど。つーかこれ、いつまで降るんだろ?

 バトルなら5ターン経過すれば止むけど現実の時間はどれだけ必要なのやら。明日まで続いた場合は“にほんばれ”でも使って強制的に晴れさすかな。

 天気予報士にとっては天敵だな、俺。むしろ天気予報士になれるかも……あ、戸籍ないからムリか。

 

「おや、もう終わりか?せっかく見にきたんだが拍子抜けのようだ」

 

 ふとそんな声が聞こえた。振り向けば、そこにいたのは傘をさした少女。長い黒髪にセーラー服姿で、特徴的なのは左右で長さの違う靴下をはいているところだ。

 ハイソックスとニーソックスか?見てると落ち着かないはき心地なんじゃないかと思ってしまうが、あれもファッションってやつ?

 

「えっと……あ、俺は八坂東壱です」

 

「陽炎型駆逐艦の12番艦、磯風だ。よろしく頼む」

 

 なかなかに堅いしゃべり方をする子だった。ただどこかミステリアスな雰囲気とは合っていて、なんというか風格みたいなものがある。

 セーラー服よりも着物とか巫女服が似合いそう。

 

「陽炎型ってことは陽炎さんの姉妹艦?」

 

「ああ。姉達から貴方のことを聞いて会いにきた。なんでもこの磯風と同じ力を持っているらしい、とな」

 

 同じ力?まさかポケモンの技が使えるってことはないだろうし……。

 なんて考えていると、磯風さんの肩に乗っている妖精が目に入った。

 

「もしかして妖精と話せる力のこと?」

 

「そうだ」

 

『ヨロシク』

 

 磯風さんの肩に乗った妖精がフリフリと手を振ってくれる。

 なんとも可愛らしいが、さっきの妖精とは見た目が違うな。ヘルメット被ってないし。

 

「ああ、よろしく。君も工厰妖精?」

 

『チガウ』

 

「違うのか」

 

「この子は装備妖精と言ってな。艦娘の艤装と一心同体の存在なんだ」

 

 一心同体……付喪神(つくもがみ)みたいなもんだろうか?

 そう考えると受け入れやすいような気がする。まあ艦娘自体も相当非常識だし今さらか。

 

「っと、雨の中で立ち話もなんだ。少し移動しよう」

 

「どこにですか?」

 

「工厰さ」

 

 入るといい、と勧められるままに磯風さんのさしていた傘に入れてもらう。もちろん傘を持つのは俺だし、磯風さんが濡れないよう傘を少し右側に傾けながら歩く。

 曙達はもう艦娘専用の寮に戻っていった。天龍さんと龍田さんも右に同じ。

 あの2人監視役じゃなかったの?それとも磯風さんがいれば事足りるってことなのだろうか?

 

「しかし本当に妖精さんと話せるとは驚いたぞ」

 

 妖精も磯風さんの言葉にウンウンと頷いている。

 

「正直に言わせてもらうと虚偽かと思っていた」

 

「虚偽って……」

 

「すまない。だがそれくらい珍しい力なんだ」

 

「そうなの、なんですか?」

 

「敬語が苦手なら崩してもらって構わないが」

 

「……ありがとう」

 

 ならお言葉に甘えて磯風と呼ばせてもらおう。

 悪気はないんだが磯風や曙達みたいな明らかに年下という子を前にすると、気を抜いた瞬間に敬語が崩れてしまう。

 天龍さん達くらい年が近い見た目になると敬語も違和感なく使えるんだけどな。

 

「いいさ。その方がこちらとしても楽だ」

 

「その割りにはしゃべり方が堅いような」

 

「これが普段通りなんだ」

 

 磯風と雑談しながら鎮守府内を歩く。やがて大きな鉄製の扉がついている建物に到着した。ここが工厰か。

 工厰の扉は半分開いていた。そこから中に入ると数人……数体?の妖精さんがいた。

 何やら艤装と呼ばれている機械に群がっている。

 

「あの妖精は何してんの?」

 

「艤装の修理と調整さ」

 

「え?妖精ってそんなことできんの?」

 

「ああ。艦娘だって妖精さんが建造する。言わば全ての艦娘の母と呼んでも間違いではないだろう」

 

「マジかよ……」

 

 磯風の肩の上では装備妖精がえっへんと胸を張っている。この小さな体でそんなすごいことができるのか……。

 もしかすると艦娘以上に不思議な存在かもしれない。

 磯風はそんな妖精を優しく手のひらに乗せ、そのままズラリと並べられている艤装の上に置いた。

 

「ではまたな」

 

『マタネ』

 

「えっと、ばいばい?」

 

『バイバイ』

 

 そう言うと、装備妖精は艤装の中に消えていった。

 ……そうとしか表現できない。どういう原理だとか理屈だとか知ったこっちゃねぇ。

 

「この艤装があの子の家?なのか?」

 

「そうだ。……いつまで経っても綺麗なままの、な」

 

「磯風?」

 

 不意に磯風の声のトーンが落ちる。元々落ち着いているから変化が分かりにくいが、これは気落ちしてる……のか?

 

「なんでもない。お、どうやら雨は止んだようだぞ」

 

「あ、本当だ」

 

 工厰の外に出るといつの間にやら雨は上がり、雲も晴れて月が出ていた。

 あまごいの効果は30分ってところか。短いのか長いのか微妙なところだ。でも続けて使えば田畑を潤すには充分か。

 鎮守府を追い出されても農家としてry

 

「八坂」

 

「なに?」

 

「お前がここにきてくれたことを嬉しく思う」

 

「藪から棒になんだよ」

 

「言わせてくれ。同じ力を持った者と会えたのが嬉しいんだ」

 

「……そうか。まあ俺がここに居られるかどうかはまだ決まったわけじゃないんだけど」

 

 認められなきゃ俺はどうなんだろ?処刑や拷問にかけられるってことはないと思いたい。

 しかし認められたら認められたで俺も深海棲艦と戦うことになるかもしれないし、そういう覚悟もしておこう。

 

「それなら心配はいらないだろう。海軍としても手放したくない人材のはずだ」

 

「ポケモンの力が?それとも妖精と話せる力?」

 

「さて、どうだろうな?まあどちらもだ、と言わせてもらおうか」

 

「意味深だなぁ……」

 

 まあいいさ。なんにせよ、生きるためには自分の価値を証明するしかないんだ。

 そのために利用できるものは全部利用するぞ。改めてそう意気込む。

 

 そんな俺の横で月明かりを浴びる磯風の表情は幻想的であり、そしてなぜか少しだけ悲し気に見えた……ような気がした。

 

 

 




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