艦息?いいえポケモンマスターです。   作:晴貴

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第5話

 

 

 異世界生活、2日目。

 まあ異世界といっても基本的には日本なので文化的に大きな違いがあるわけじゃないが。昨日の夜に食べたカレーは美味しかったし、与えられた部屋は普遍的な洋間だった。

 

 そんな部屋で朝を迎えた俺は、窓から差し込む柔らかな日差しを浴びながら歓喜の声を上げ……そうになるのをすんでのところで堪える。

 朝もはよから奇声を上げて騒ぎを起こすのもあれだからな。

 

 しかしこんなテンションになるのも仕方ない。今俺の目の前にあるのは真っ二つにされたメモ用紙。

 それをさらに4分割して確信を得る。

 

 ――“いあいぎり”が使える!

 

 そう、昨日使いきったいあいぎりのPPが回復しているのだ。

 もったいないがメモ用紙をひたすら裁断し続ける。今日も使用回数が30回を数えたところで使用不能になった。

 全回復だ。これが全ての技に適用されるならPPの問題はほぼ解決したと言っていい。

 

 これなら技の実演は出し惜しみしないでやれる。

 ここで俺の有用性を示して鎮守府……海軍の後ろ楯を得るぞ!

 

 ――なんて思っていた時期が俺にもありました。

 すいません調子乗りました。後ろ楯とか打算的なこと考えた罰かこれは。

 氷川さんとの話し合いから数日。軟禁生活の最中に行われた身体検査や軽い尋問みたいなものを経て、ついに訪れた本番当日。俺は置かれた状況に頭を抱えたくなっていた。

 

 いやまあ冷静に考えれば当然というかなんというか。

 こんなデカい鎮守府をたった1人の提督で運営してるとかあり得ないし、俺みたいな得体の知れない男の能力を検証する機会を他の提督が視察するのも危機管理的に至極当然のことだった。

 

 鎮守府内にある、船舶が停泊するための港湾。その岸壁に立って凪いでいる水面を眺める。

 風もほとんどないから海に出るには適した環境だ。

 

「さて、準備はいいかい?八坂君」

 

「……はい」

 

 嘘である。氷川さんだけならともかく、もっと年配で山ほど死線を潜ってそうな厳ついオッサンが物見櫓(ものみやぐら)……というか馬鹿デカい艦橋みたいなとこに雁首揃えているのを見て「行けます!」とか気軽に言えるほど能天気じゃないんだよ。

 けどだからといって歴戦の戦士みたいな顔をしたおっかないオッサンらをお待たせするような度胸もない。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。ある程度指示は出すからそれにしたがってくれればいい」

 

「分かりました」

 

 まあどうせここまできたらやるしかない。それに昨日だって深海棲艦に遭遇して割りと命の危機に瀕したじゃんか。

 あれと比べたらこれくらい大したことない気がしなくもないし。

 

「じゃあこれをつけてくれ」

 

 氷川さんから手渡されたのは通信用に使う肩耳タイプのヘッドセット。それを言われるがままに装着する。

 これで指示を出してくれるのか。

 

「では僕も大元帥のところに戻る。天龍、龍田、八坂君の先導を頼むぞ」

 

「おうよ、まかせとけ!」

 

 すでに海に出ている2人は昨日から引き続き俺の世話役みたいなことをしてくれるらしい。龍田さんはつかみどころがなくてよく分からないけど、天龍さんは単にポケモンの技を見るの楽しみにしてるだけだよな。

 待ちきれないって顔してる。

 

 そう思いつつも言葉にはすることなく、俺は岸壁から飛んで水面に立つ。

 こうなったら開き直りだ。気合い入れて頑張りますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八坂君が海の上に立つと他の提督からどよめきが起こった。まあ僕も内心は同じようなものだったけど。

 聞くのと見るのじゃ大違いだ。

 

『……艤装もないのにマジで海の上に立てるのか』

 

『本当に不思議ねぇ。確か波乗りって言ったかしら?』

 

『はい。これがあれば海や川といった水上を移動することができます』

 

 ヘッドセットのマイクを通して3人の会話がこちらに届く。こちらの気なんて知ったことじゃない、とばかりにとんでもないことをさらっと言ってくれる。

 さて、今日はこれからどれだけ驚かされることになるのか……。

 

「天龍、龍田。八坂君を先導し予定地点までの航行を開始せよ」

 

『こちら旗艦天龍、了解したぜ』

 

 僕の指示に従って天龍達が沖に向かう。目的地は演習海域だから到着まで時間はそうかからないだろう。

 八坂君は天龍と龍田に挟まれる形で、特に問題もなく航行している。

 

 八坂東壱という少年は未知数だ。正直、僕の手には余る存在と言っていい。

 なので刺激しないよう彼の言い分をある程度認めながら監視役をつけ、その間に上の人間と協議した。そして迎えた彼を見極めるための機会。

 

 と言っても彼をどうするかなんてすでに決まってしまったようなものだけれど。

 海の上に立ち、1度訪れた場所にはテレポートできる。それだけで指揮と戦線を繋ぐことが可能だし、人や物を一緒に運べるのだからその上限によっては移動・輸送の負担が劇的に改善される。

 おまけに磯風に確認してもらい妖精さんの言葉まで理解できる能力が本物であることが確認された。

 

 妖精さんとコミュニケーションが取れる。それだけで建造や開発の成功率が上昇するのだ。

 沈めても沈めても湧いてくる深海棲艦との戦争で消耗戦を強いられている人類からすれば、狙った艦娘の建造や必要な装備の開発成功率が上がるというのは戦線の押し上げに多大な影響を与える。

 

 ……だがそれ故に、八坂君はもう逃げられない。

 確かに身元不明で不可思議な能力を使う少年だが、結局のところただ1人の人間だ。目立たず侵入したならまだしもこうまで存在が明け透けでは監視の目を掻い潜っての内部工作などまずムリだろう。

 八坂君の行動を鎮守府全体で目を光らせながら、その上で彼の能力を運用した方がメリットは大きい。

 ……大元帥含め、上層部は判断している。

 

 問題は、その思想も一枚岩の元ではないということだが。この横須賀鎮守府にも派閥というものが存在する。

 今回、八坂君をより高く評価して自分の手駒に加えることができれば戦果も向上し発言力・影響力を高めるだろう。

 深海棲艦との戦いに心身を削りながら、派閥争いにも気を配らなければいけない。人間の醜悪さというものが浮き彫りになっているな……。

 

 そんな気が滅入りそうなことを考えている内に3人が目的地に到着した。普段なら艦隊同士の演習に使用されている海域だ。

 鎮守府からだと望遠設備を用いても黙視は厳しいので、飛ばしている映像記録用の艦載機から届いた映像をリアルタイムで観覧艦橋に写し出す。

 

『こちら天龍。指定されてる場所に到着したぜ』

 

「よろしい。八坂君、海上に浮いている標的が見えるかい?」

 

『ブイから生えて揺れてるやつですよね?』

 

「そうだ。まずはこの間訓練場でやっていたようにあれを狙って攻撃をしてほしい」

 

『近距離と遠距離、どちらでですか?』

 

「なら遠距離での攻撃を行ってもらう」

 

『了解しました。あ、天龍さんと龍田さんはちょっと離れて見てて下さい』

 

『何でだよ?危ない技でも使うつもりか?』

 

『この間より強力な技を使いますから。出せるかどうかも分からないレベルなので念のために』

 

 万が一制御を誤った時のためだろう。

 八坂君は天龍達を遠ざけてから改めて標的と向かい合う。

 

「そんな不確定な技を使用して大丈夫なのか?」

 

『平気です。不発なら残念、暴発しても死ぬなんてことにはなりませんよ』

 

 八坂君の声に気負いの色はない。その言葉に嘘はないのだろう。

 他の提督達も資料でしか目にしていない彼の能力を一目でも早く見たいのか、反対の声を上げる者はいなかった。

 

「そうか。ならば最初は君の判断に任せる」

 

『ありがとうございます』

 

 八坂君はそこで一旦会話の流れを切ると、小さく息を吐いてからその言葉を口にした。

 僕の、そして他の提督達の耳にもこう聞こえただろう。

 

 ハイドロポンプ、と。

 

 次の瞬間、まるで滝壺に叩きつけられる水流のような轟音と共に、直径2メートルはあろうかという巨大な水柱が、前に突き出された八坂君の右手の先からとてつもない勢いで噴出される。

 かなりの水量であるはずのそれは、どういうわけか水面とは平行して突き進み標的に直撃……いや、飲み込んだという表現の方が正しいだろう。

 

 暴力的な水流が通りすぎた後、そこにあったはずの標的はブイごとどこかに消し飛んでいた。

 当たり前だ。あんな威力の、しかも弾丸とは違い継続性のあるダメージを与えられて耐えられる仕様ではない。

 

 誰しも……そう、誰しもがだ。

 僕も、他の提督も、大元帥さえもその馬鹿げた威力の攻撃にしばし声を失う。そんな短い沈黙を破るように、八坂君の声が響く。

 

『……とりあえず使えはするのか』

 

 何気ない呟き。だがそこに込められた意味は聞き逃すことなど出来ない。

“とりあえず”“使えはする”

 その言葉の意味するところは明確な不満。拍子抜けとも言えるかもしれない。

 少なくとも彼の世界にいるというポケモンが使うハイドロポンプは“この程度ではない”という真意がありありと伝わる一言だった。

 

「八坂君、今使った技の説明をしてもらえるかい?」

 

『今のはハイドロポンプという、水タイプの攻撃技です。反動が存在しない水タイプの技の中では最大火力を誇ります』

 

「反動が存在しない、というのは?」

 

『ポケモンの技、特に威力の高い技には使うとしばらく動けなくなったり、体にダメージを受けるものがあるんです』

 

「裏を返せばハイドロポンプはデメリットなく使えるということか?」

 

『デメリットがないわけじゃありません。まずこの技は1日に5回が限界です』

 

 5回が限界、か。少ないように思ってしまうが、八坂君が人間の身であるということを忘れてはならない。

 艦娘ならまだしも人間の体でポケモンなる生き物の技を行使しようとすれば負担も大きいのだろう。

 

『それと命中率もあまり高くありませんね』

 

「確率的にはどれくらいだ?」

 

『80パーセントくらいしかありません』

 

「は、80パーセント……8割だと!?」

 

 申し訳なさそうな八坂君の声とは対照的に、静観していた提督達がついに我慢ならずに大きな声を上げた。

 それがなければ僕が似たような声を出していただろう。事実、今の僕の頬は引きつっている。

 

 対象との距離や視界の状態、対象が攻撃か回避かどちらの行動を取るかなどによって左右されるが、艦娘の主砲の命中率はその半分以下だ。

 艦娘は人形となったことで軍艦時代よりも最大射程が短くなり、深海棲艦との戦いは近接戦闘が主である。それでも命中率は平均して3割にも届いていない。

 練度が高く、経験と実力を兼ね備えた艦娘でさえ4割を越えることはない。

 

 その中であれだけの威力の攻撃を8割の確率で当てられる。驚異であり、脅威である。

 そうとしか言いようがない。

 しかもそれをもってして、彼は尚“命中率が低い”と言い切った。

 

 戦線と指令部の繋ぎ役?移動・輸送の負担軽減?

 それどころではない。彼の能力を十全に発揮できればどれほどの戦果を期待できるのか……。

 

 その皮算用をしているのは僕だけじゃないだろう。むしろ一部の、反大元帥派と噂のある提督にとってはこれほど都合のいい存在はいない。

 自称異世界の人間。この世界では戸籍も他人との繋がりも持たず、“死んでも表沙汰にならない”人間。

 ……いや、彼を人間と見る者がどれだけいるか。艦娘をただの兵器だと主張する提督が存在する中で、異世界からきた異能を使える少年を兵器として、自分の利権や派閥の争いのために使い潰す光景が目に浮かぶようだ。

 

 これ以上その力を見せつければその流れは加速していくだろう。

 それを分かっていながら、僕はこの品評会(・・・)を続けなければならない。

 

「それで命中率が低いということは高火力でかつ命中率の高い技が存在すると?」

 

『はい。そうですね、多少威力は落ちますけど……』

 

 言いつつ先程と同じように突き出した右手から今度は火炎が放たれた。

 その炎は標的を包み込むとあっという間に燃やし尽くす。確かに物理的な威力はハイドロポンプには劣るかもしれないが、これが深海棲艦に燃え移れば瞬く間に延焼し誘爆させられるかもしれない。

 

『これは“かえんほうしゃ”といって、見た通り炎タイプの技です。何らかの妨害でもない限り命中率はほぼ100パーセントと考えてもらえれば』

 

 あちこちから「素晴らしい」「鎮守府に迎え入れるべきだ」という声が上がる。白々しい反応というか、予定調和だ。

 予想外だったのは八坂君の戦闘能力の高さだが、それも彼らにとっては嬉しい誤算に過ぎない。完全にメリットがデメリットを上回っているのだろう。

 

 しかし、これは本当に八坂君が異世界の人間だと認めるしかないかもしれないな……。

 タネと仕掛けでなんとかなる手品の域ではないだろう。

 

「それでは次に……」

 

『ちょっと待った提督!電探に感有り!』

 

 天龍から予想だにしていなかった報告が入る。「演習海域で深海棲艦だと?」「巡視艦は何をしている?」などといった声もするが、それに構っている暇はない。

 

「深海棲艦か?艦種と数は?」

 

『数は駆逐艦1、軽巡洋艦1、重巡洋艦2の4隻だ。重巡洋艦は2隻ともflagshipだな』

 

『どうして敵がこんなところにいるのかしら~?』

 

『さあな。知らねぇけど、さっさと倒しちまおうぜ』

 

「待て!」

 

 彼女達なら勝てるだろうという信頼感はある。だがその場には八坂君いるのだ。

 不用意に戦闘に巻き込むのは危険だ。確かに彼の能力は圧巻だが、それが深海棲艦に通用すると決まったわけでは……。

 

 そこまで考えて思い至る。

 そうか、これはそういうことか。目的に見当はついたが、誰だ?

 ……いや、今は捨て置け。最優先は深海棲艦への対応だ。

 誰の仕業かは不明だが、これは暗に八坂君を戦わせろという圧力だ。その上で指揮を執る僕に対して彼が死ねば責任を取らせようという魂胆もあるかもしれない。

 八坂君の能力の真偽はさておき、妖精さんと会話できる力は真実だ。それを失ったとなれば……。

 

「天龍、龍田、そして……八坂君。緊急事態だ、敵を沈めてくれ」

 

『おいおい提督!東壱も出すのかよ!?』

 

『しっかりと準備を整えてからの方がいいんじゃないかしら?』

 

 2人の言い分は最もだ。僕も自分しかいなければ八坂君を戦線に送り出すことはしないだろう。

 

「……これは命令だ」

 

 だが、僕はそう言わなければならない。僕も結局は組織の中で生きる、汚れた歯車のひとつに過ぎない。

 そんなことを言えば鳳翔に怒られてしまうかもしれないが……。

 

『……氷川さん』

 

「なんだ?」

 

『それは命令なんですよね?』

 

「ああ、そうだ」

 

『了解しました』

 

『おい、東壱!そんな簡単に……』

 

『天龍さんが見たがってたテレポートを体験させてあげますよ』

 

『マジで!?』

 

『あら、良かったね~天龍ちゃん』

 

 もう少し緊張感を持ってくれないだろうか。

 それにしてもまさか八坂君が戦闘を前にここまで落ち着いているとは。ポケモン同士を戦わせることが日常茶飯事だったという話は聞いたが、それによる影響なのかもしれない。

 

『そういうわけなので氷川さんもしっかり見ててください。今から敵の背後に飛びますから。せーのっ!』

 

『うおおっ!?』

 

『……さすがにビックリねぇ』

 

「し、信じられん……!」

 

「まさか本当にテレポートを!?」

 

 気持ちは備えていてもやはり実際目にするとにわかには信じがたい光景を前に誰もが驚嘆する中で、それを成した張本人はどこまでも冷静だった。

 

『今です。撃ちましょう』

 

『お、おう!天龍様の攻撃だ!』

 

『あはははっ!砲雷撃戦、始めるね』

 

『――“10まんボルト”』

 

 砲撃による爆炎と、それを塗り潰すかのような目映い閃光。

 その2つが晴れた時、すでにそこから深海棲艦の姿は消え失せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「て、天龍、龍田、それから八坂東壱の以上3名、無事に戻ったぜ」

 

 旗艦である天龍の報告はどこかぎこちないものだった。それもそのはず、テレポートを体験していとも簡単に深海棲艦を撃破したらと思ったら、帰還命令を受けた2秒後には鎮守府に戻ってきていたからである。

 もちろん八坂君のテレポートによるものだ。本当に、なんというか……僕の中の常識が音をたてて崩れていく思いだ。

 

「みんなご苦労だった。怪我はないようだがゆっくりと休んでくれ」

 

「ああ、そうさせてもらうぜ」

 

 普段なら八坂君にもっと色々見せてくれとせがみそうな天龍が大人しく引き下がる。たぶんそれだけ受けた衝撃が大きくてまだ自分の中で消化できていないのだろう。

 それは龍田も、そして僕も同じだ。

 

「俺も休んでいいんですか?ほとんど何もやってないんですけど……」

 

 何もやってない、ときた。

 いやまあ八坂君にとってはそうなのかもしれないが、完全に未知な異世界の文化でぶん殴られた身としてはじゃあもう1度……とはならない。

 

「構わないよ。それよりもまだ正式な軍属と決まったわけではないのに戦闘に巻き込んでしまって済まなかった」

 

「いえいえ!むしろあれで少しは役立つと知ってもらえたら幸いですし」

 

 少しは役立つどころではない。彼の存在によって深海棲艦との戦闘が様変わりする可能性すらある。言葉を変えれば“革命”が起きるかもしれない。

 それだけのことをやってのけた自覚が八坂君からは全く感じられなかった。

 どういう世界で生きてくればこんなことになるのか。

 

「それよりも提督?今『まだ正式な軍属と決まったわけではないのに』って言いませんでしたか~?」

 

 さすが龍田、勘がいいな。

 今さら隠すことでもないのでその場で告げる。

 

「八坂君、実は大元帥をはじめ提督達の間で君を横須賀鎮守府に迎え入れたいという話が出たんだが……」

 

「本当ですか?ありがとうございます!」

 

「……君はそれでいいのか?」

 

「はい。そのために機会を設けてもらったわけですし。それに軍としてもこんな危なっかしい力を持ってる自称異世界人を野放しにはできないでしょう?」

 

「お前、言いにくいことズバッと言うのな……」

 

 天龍は呆れているが、八坂君の言う通りだ。言葉の端々から鎮守府……海軍に属したいという思いが滲み出ていたのもあってトントン拍子で事が進んだ。

 しかしそれだけ自分の立場が分かっていながら、どうして不用意に能力や戸籍も身寄りもない、利用しやすい人間だと自ら明かしたのだろうか。

 彼がその先に待ち構えている未来を予想できないとも思えない。

 

「なら八坂君は横須賀鎮守府の一員になることを望む、ということでいいんだね?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「……分かった。では諸々の手続きが整うまでは申し訳ないが昨日の部屋で待機してもらうことになる」

 

「了解しました」

 

「ははは、敬礼の仕方が違うぜ東壱!」

 

「え、そうなんですか?」

 

「海軍式の敬礼はこうやるの~」

 

 笑顔を浮かべながら龍田に敬礼を教わる八坂君の姿は年相応で、その不用意さもある意味では仕方のないことなのかもしれないと、そう思えた。

 

 それが間違いだったと知るのは数日後。

 横須賀鎮守府の提督が一堂に会した、八坂君の入隊式でのことである

 

 

 


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