はくのん「どうしてこうなった」   作:いあいあ!

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 まずはじめに。
 皆さん、たった1話だけであれだけの評価、ありがとうございました。おかげさまで、このように続投を決心いたしました。どうぞこれからもよろしくお願いします。「続きを待つ」という感想には、この第2話をもって返信とさせて下さい。本当にありがとうございました。

 感想欄で、第1話の内容に関する質問も頂きました。質問には全力で解答していくつもりです。どんな質問でも、どしどし送ってきてください。
 またこれだけ字数が多いと、どうしても誤字が出てしまうかもしれません。その際はぜひご指摘をお願いします。恥ですので。

 ノープロットなので既に矛盾が出そうで怖い
 あと、うちのワカメは噛みごたえのあるワカメです。


第2話 第五次聖杯戦争、開幕

 2月1日午前一時。真夜中の出来事である。

 かの黄金のサーヴァントは、初めて新しい契約者の「夢」を見ていた。――一般的にこれは、ラインが繋がった事による契約者同士の記憶の共有とされている。

 

 (ほう、これがあやつの言っていた「ムーンセル」か……。最新の電子の世界とやらも、中々侮れないものよ)

 

 ギルガメッシュは少女の初めの記憶に身を任せながら、自分の登場を楽しみにすることにした。

 

 ――きっとあの愚鈍な女の事だ。我の登場シーンでは感動に打ち震え、我に縋るあやつの心が覗けるだろうよ!

 

 記憶の中で、少女は少しずつ「日常」の違和感に気付いていく。そう、「与えられた役割(ロール)を脱する事」が、月の聖杯戦争予選の内容だったのだ。そして少女は予選の最後に、偽りの日常を捨て、真実に目を凝らすことを選択する。

 

(ん?なんだ、あやつが言っていたこととは若干内容が異なるが)

 

 真実を選択した少女に与えられたのは、一体の人形。これでマスターたる資格を示してみろ、とどこからともなく声が告げる。

 しかし少女に与えられた運命は「敗北」。マスターたる資格無し、と宣告された少女の運命は、「死」以外にはありはしない――と思われたが。

 諦めない、という少女の心が、一人の英雄を呼び寄せる――!

 

 ――ほう。その強い疑問、聖杯の代行として聞き逃せないな。

  君は、死に瀕しながらも己が生に疑問を抱き、死に飲まれながら自らの不明を恥じた。

  よろしい。その心の在り方に期待しよう。君のような人間に相応しいサーヴァントが残っている。

  無名の魔術師には、無銘の英霊が似合いだろう。――――健闘を期待する。

 

 ステンドグラスで出来た部屋の中央には、いつのまにか、ぼうっと何かが浮かび上がりつつあった。その姿は、紅――

 

 

 

 

「我ではないではないか!なんだあの(あか)いのは!」

 

 がばっ!と上体を起こしてギルガメッシュが叫ぶ。――ええい、我の光輝なる登場を期待していたというのに!なんだこの肩すかしは!と半ギレのご様子である。

 

 ――むう、しかし冷静に考えてみれば、ムーンセルとやらは可能性の世界も記録しているのだから、アレはあやつの中のムーンセルと我が繋がったことで見た「可能性」であったか、と無理矢理納得するも、ギルガメッシュのイライラはなくならない。

 

「だが、可能性とはいえ我以外と契約するぐらいなら()く死ぬべきであろうが。よし、帰ったら仕置きだな。あと万が一あの赤いのに会ったら殺す」

 

 どう転んでも怒りの矛先ははくのんに向くという理不尽がここにあった。ちなみに、可能性なら他にも2パターン存在する事を彼は知らない(知らなくてよかった)。

 

 だが、このギルガメッシュがこの「夢」を見たのには理由(わけ)があった。なぜギルガメッシュが彼女と紅いアーチャーの契約シーンを見る羽目になったのか?……それはまさにちょうど同じ時間、ここ冬木氏で全く同じ「アーチャー」が召喚されたからなのである――

 

 

 

 聖杯戦争、開戦間近。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで、岸波さんは教会のお仕事関係で今日からしばらくお休みになります。おらー、お前ら今のうちにはくのんもふもふしとけよー」

 

 とか何とか言いながら教卓の隣に立つ岸波白野の髪の毛を実際もふもふする担任教師。――そこまでにしておけよ藤村。

 ……というのは置いておいて、さて、この話題を聞いたクラスメイト達は大いにざわついた。岸波白野は意外なことに、穂群原学園内でも何気に遠坂凛と並ぶ注目度を誇る有名人なのである。

 

 というのも例によって無自覚に魔人(この世全ての欲)している彼女は、日常生活においてもあらゆる人間から「欲望」を集めるという嫌なキャラ設定を持っている訳で、遠坂凛は「遠坂さんやっぱりかわいいなー」「ねー!」と爽やかにアイドル扱いされる一方、我らが主人公は「あ、あのさあ……岸波さんってよく見るとかわいいし、シスターだし、あとなんかたまに、え、エロくね?」とこそこそ言われる感じだった。いやー不憫ですね(棒読み)。

 

 教室内が悲報を嘆き悲しむ声で包まれる中、そんな騒ぎどこ吹く風とあらぬ方向に視線を向ける男子が一人。――間桐慎二、それがこの男の名前である。

 

 「間桐慎二」もまた穂群原学園における有名人の一人。女子に優しく、ルックスも良く、その他モテる要素を兼ね備えた逸材と噂されるが、チャラ男であることも確かで、容姿のいい女子と遭遇すれば必ずと言っていいほど声をかける彼。だがそんな彼も、どうやら苦手な人間が一人だけ存在するようだ。――それがまさに、ちょうど今クラス内で騒がれている岸波白野なのである。

 

 

 少し過去の話をしよう。

 

 多くの人間が夢にも思わない事だが、間桐慎二は幼い頃から家庭の中で最も蔑まれてきた人間である。――無関心。それが幼児期に彼が受けた扱いだった。魔術の才能が無いと早々に見放され、何の関心も期待も寄せられず、蟲に犯される義理の妹を黙って見ているだけの日々(ジゴク)

 

 だが、突如そんな日々が終わりを迎える。言峰教会に属する二人の聖職者が、間桐邸を襲撃したのである。

 何の前触れもなく目の前に現われて、自分達の恐怖の象徴である「お爺さま」を一片の肉片も残さずに消滅させ、そしてその片割れの女が、自分に優しく微笑む。――もう大丈夫だからね、と。

 

 率直に言おう。自分達が助けてもらったのは明白な事実で、ありがとうと言うべきなのだろうが(実際礼はちゃんと示したが)、間桐慎二にしてみれば、この聖職者も怪物にしか見えなかった。――その恐怖が、岸波白野に対する第一印象。

 

 まあしかし、その後、ようやく間桐臓硯から解放された桜と慎二の二人の生活を支えてくれたのも岸波白野という少女であり(こいつは本当に自分と同い年なんだろうかと何度思ったか分からないが)、あまりに一生懸命自分たちを助けようとする少女の姿を見て、怪物なんて思って悪かったな、とは思った事もある。だが第一印象とはなかなかに強烈なもので、……つまり、その結果が「岸波白野は苦手」、というものだった。

 

 

 さて、間桐慎二は当然、岸波白野の休学の理由、「教会の仕事」の内容を理解している。あの怪しい神父が、間桐家にも関連することだ、とかつて説明してくれた事に、記憶を走らせた。

 

 ――そろそろ、「聖杯戦争」ってやつが始まるってことか……

 

 脳裏に浮かぶのは、義理の妹、桜の事。魔術の才能が無い自分よりも、彼女の方が「間桐家」枠としての聖痕を刻まれる可能性が高いだろうことは、義妹との間の共通認識である。少なくとも未だ自分に聖痕の兆候は無い。このまま何のイレギュラーも無ければ、桜がマスターも一人として選ばれるだろう。そしてそれは、桜も納得している事柄だった。いや、ひょっとしたら自分が知らないだけで、もう既に桜がマスターになっている可能性すら存在する。

 

 本当にこのままでいいのか……?

 

 「魔術」を受け持つのはいつも桜。そのために桜は間桐家にやってきた。……しかし、そのせいで桜がこれまでどんなひどい目にあってきたのかは、すべてこの目で見てきた。

 そして、そんな桜がまた訳の分からない殺し合いに巻き込まれようとしている。

 

 知らず知らずのうちに、拳に力が入る。

 間桐慎二は、騒がしい教室の中、一人である決意を固めていた。

 

 

 

 ふっ、と視線を元に戻すと。

 

 岸波白野がじっとこちらを見つめていた。

 

 ――ニコッ。

 

 

 彼女が微笑みを浮かべた瞬間、アレと同じ微笑みで言ったセリフが脳裏を(よぎ)った。

 

 ――シンジは出来るワカメだって、知ってるからね!私。

 

 

 間桐慎二には訳の分からない、無償の善意。

 

 ――ああ、だからお前は苦手なんだよ、と、間桐慎二は溜め息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃ、そうゆうわけで、私正式にマスターになったから。登録よろしくね』

 

――了解しました。遠坂凛を六人目のマスターとして承認します。

 ……あと関係ないけど、いつでも凛の紅茶とお菓子は用意してあるから。暇な時、いつでも遊びに来てね。

 

『そう。じゃあまた今度そっちに行かせてもらうわ。

 監督役、頑張ってね』

 

――こっちも、凛の勝利を祈ってるよ

 

 

 教会に備え付けられた電話を切る。ようやく、凛がマスターになったことが正式に決まった。きっと言峰さんも喜んでいる……と思う。なかなか凛からサーヴァント召喚成功の連絡が来ないので、やきもきしていたのだが、どうやらなかなかいいサーヴァントを引き当てられたようだ。機嫌の良さが声から伝わってきた。

 

 これまでに揃ったマスターは六人。凛、バゼットさん、桜、アインツベルン、それと私もよく知らない外部の魔術師二名だ。つまり一人足りない。聖杯戦争の監督役の役割には、七人のマスター全員をちゃんとそろえるというものもある。……協会に頼んで、魔術師の補充をお願いしなくてはならないかもしれない。

 

 不安だ。聖杯戦争の始まりが近づいてきている。――現実世界での、ルール無用の殺し合い。バゼットさんや凛、桜がひょっとしたら死んでしまうかもしれないと思うと、どうしてこんな殺し合いをしなければならないのか、と叫びたくなる。

 

 だが、自分には「力」がある。その気になれば、聖杯戦争を一日で終わらせることが出来る戦力。――横目で上半身裸になっている相棒を見る。朝はなんだかよく分からないいちゃもんを付けられたが、この男が英霊の中でも最強の性能を持っていることは確かだ。電子の世界で見た、あの「対界宝具」の衝撃を忘れることはない。

 

「ん?なんだ?横目でちらちらと……。我が肉体を見たいのならば、いつでも見せてやるが?我の肉体はまさに黄金律。全身隈なくこの世の宝と言えよう。

 ……ああそうか、花も恥じらうなんとやら、というやつか。だが貴様がそこまで期待するなら、我の(なま)の全身像を見せてやることもやぶさかではない」

 

 ……そして、あの唐突なキャストオフ……「対女宝具」も忘れることは無い、というか忘れたい。セクハラだよね、アレ。三倍脱げとかもさ!……ではなく!

 

「ははは、そこまで興味津々という顔をされては仕方ない。聖杯を手に入れた暁には、褒美として我が黄金の肉体を賛美することを許す。励め」

 

 ええい、あんたが個人的に脱ぎたいだけだろう!……んん!とにかく、聖杯を手に入れる以前の目標。――自分の知人を、死なせたりはしない。その為には、自分の聖杯戦争の運営能力、そしてこの男をどう扱うかが鍵となっている。

 もう既に不正行為はしているのだ。これ以上不正を積み重ねても、怖いものなど何もない。それに、桜も凛もバゼットさんも、そう簡単にやられるような人間ではない。――だから、今は自分に出来ることをしよう。

 

 とりあえず、マスターとサーヴァントの情報を集めるところから始めよう。なに、猶予期間が延びた、マトリクス集めのようなものだ。今までと何も変わりはしない。

 

 こうして夜は、更けていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、2月2日、夜――

 

「それじゃあ、始めましょうか」

 

 夜の校舎を歩き出す。……「ソレ」に気付くのは、魔術師にとってみれば当たり前の事。

 

 一日ぶりに学校に来てみれば、そこにはおぞましい結界が張られていた。

 

 どこのバカな三流魔術師かは知らないが、こんだけ隠蔽がなってない邪法の結界を張ったのだ。ぶちのめされる覚悟は出来ていると勝手に受け取った。

 結界の起点の一つは屋上にあった。だがやはりというか、たかが魔術師程度ではどうこうしようもないような構造をしている。サーヴァントの宝具の(たぐい)とみて間違いないだろう。だが、この術式は……

 

「……これ、魂喰らいよね」

「そうだな。霊体であるサーヴァントにとっての、いわゆる食料となる。マスターのスペックが低い場合、有効な手段だな」

 

 魂喰らい。つまり、この結界の中の全ての生物を物理的に溶かし、魂を集めて喰らう。……吐き気がする。魔術の隠蔽もあったもんじゃない。

 はくのんには悪いけど、これは教会に連絡した方がいいかしら……

 

「だけどその前に、私たちに出来ることはやっておくわよ、アーチャー」

「了解だ。俺もこんな無差別な害悪を放っておく気はない」

 

 起点に手を(かざ)す。私では消すことは出来ないけど、精々邪魔ぐらいなら、してやってもいいはずだ――

 

 と、呪文を口にしようとして。

 

 

 

 その瞬間、空気が凍った。

 

 

 

「マスター!隠れろ!」

 

 悪寒で体が動かない私を、アーチャーが抱えて飛んでいく。情けないと思う余裕すらない。まさか、殺気と呼ばれるものが、ここまで濃くなるものなのか――!

 屋上から退避し、もっと広く場所が取れる、校舎の最も高い場所――時計塔の上まで移動する。先ほどの殺気の気配を辿り、校庭に目をやると……

 

 ――そこに神話があった。

 

 二人の男がいる。一人は全身真っ青な格好で、手に持つのはそれとは対照的に真っ赤な魔槍。――おそらくあれがランサー、と呼ばれるモノ。

 対するは、現代衣装に身を包んだ金髪の男。見た目だけではサーヴァントとは分からない、だがあの男をサーヴァントたらしめているものは何か。――男の背後に波紋のように浮かぶ、武器、武器、武器の数々――!

 

 ランサーの突きはまさに神速。槍における一般的な攻撃法というものを一切無視して、恐ろしいほどの勢いで突く突く突く……!だが奇妙、金髪の男はそれらの突きを、背後の空間から発射する剣の数々で弾いていく。あんな戦い方がこの世に存在するものなのか!

 

「アーチャー……」

(マスター、静かに。もしもあの二体がこちらに気付き、一斉に襲い掛かってきたら逃げられる自信がない。念話で頼む)

(え、ええ、了解したわ。……でもなんなのアイツ。あっちは明らかにランサーだけど、あの金髪の武器は何なの?あんなに宝具をたくさんもった英雄なんて、いるわけないわ!)

(何らかの絡繰りがあるかもしれん。マスター、私はアーチャーだが、どうやら無尽蔵に剣を出して戦うらしい)

(え、そうなの?それは後で追及するけど……でもこれはチャンスだわ。あんなの初見じゃ対処できないけど、知っておけば全然違う。アーチャー、ここであの二体のサーヴァントを観察するわよ)

(了解だマスター。その切り替えの早さは君の美徳だな)

 

 息を殺してその殺し合いを見つめる。……正直に言えば、私は見入っていたのだ。神話の再現、サーヴァント同士の戦いというものに。

 

 数十合の打ち合いの果て、どちらともなく攻撃の手を止める。槍兵は酷く不機嫌そう、一方金髪の男は顔に余裕の笑みを浮かべている。

 

(マスター、あの槍兵の正体はある程度つかめたぞ。収穫だな。あの金髪のサーヴァントも、恐らく私と同じく、槍兵の正体に至ったのだろう)

(えっ、うそ!今ので!?)

 

 衝撃だ。今の戦闘で得るものがあっただなんて。認識を改める。やはり英霊というやつらは、ヒトの手に負えない暴力の化身、戦闘の化け物である、と。

 

 

 

「解せねえな。百三十七。俺が吹っ飛ばしたテメエの武器の数だ。真っ当じゃねえその戦い方、アーチャーか、キャスターか」

 

(アーチャーはうちだから、ありえないわね……)

 

「ふん、何とでも言うがいい雑種。いくら吠えようが喚こうが事実は変わらぬ。貴様では我には勝てん。ああ、そういう貴様は……どこぞの野犬か」

「……よくぞ、俺の事を『犬』と言った」

 

 

 ――その瞬間、ランサーの槍を中心にして、空気が軋んだ。

 

 空気中のマナが、槍に反応して次々と暴風のように吹き荒れ、……氷のように固まった。

 

 直感で分かる。あの武器が次に放たれれば、金髪のサーヴァントは死ぬ。

 なぜ、どうしてそうなるのかは分からないが、きっとあのサーヴァントは、心臓を貫かれて死ぬ。

 

 ――にもかかわらず、なぜあの金髪のサーヴァントは、未だ不敵に笑っていられるのか。

 

「ほう。なるほど、原典を(・・・)超えたか(・・・・)。いや、認識を改めよう。貴様は確かに、賛美に値する英霊だ」

「そいつはどうも。テメエが何を言ってるのかはさっぱり分からねえが……ここできっちり死んでもらうぜ!」

 

 槍兵が槍を構える。次の瞬間には、あの槍から死の一撃が放たれる。……両者の指一本でも動けば、それが開始の合図となる。

 だから、もしそれを止めるような要素があるとすれば。

 

 ――ガサガサ、タッタッタッタッタッタ……

 

「――――誰だ!」

 

 私のような、第三者の乱入以外にありえない。

 

(とか言ってる場合じゃないわ!まさか、こんな時間に一般の生徒がやってくるなんて……!)

(この校舎の中に入っていったぞ。マスター、どうする!)

(決まってる!遠坂としても、聖杯戦争で余計な死者を出すわけにはいかないわ!)

 

「ちっ、今日はこれまでか。金髪、次は殺す」

「……おい、我は雑種の処分などせぬぞ」

「チッ、分かったよ!」

 

 金髪のサーヴァントは、その場から離脱した。あの会話の意味は……考えるまでもない。

 

(急ぐわよアーチャー!)

(了解だ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひっそりと無音の廊下。……血まみれの男子生徒の姿。

 間に合わなかったのだ。

 

 

「アーチャー、あなたはあのランサーを追いかけて。……マスターの元に戻るはずだから」

「……」

 

 アーチャーが消える。

 急いで男子生徒のもとに駆け寄った。……夥しい血。だめだ、この短時間でこの出血量ではとても……

 

 なぜ偶然という可能性に思い至らなかったのか。目撃者は消すのが魔術師のルール。それが嫌だから目撃者を出さないようにしてきたのに、なぜ今になってこんな失敗を……!

 

 せめて。自分が守れなかった人の顔だけでも覚えておこうと、うつぶせの男子生徒をゆっくりと仰向けにして。

 

 

 

 

「……ウソ。なんだってこいつが」

 

 ……頭を殴られたような衝撃を覚えた。

 

「――――――」

 

 こいつが死んだって聞いたら、聖杯戦争なんて関係なく桜は泣くだろう。あの子は優しい子だから。……あの子が、初めて好きになった他人だから。

 

 でも、これはたまたま。私の不注意と、こいつの間の悪さが最悪に噛み合っただけ。

 

 だから、私が今からしようとしていることは間違ったことだ。これは私が聖杯戦争を勝ち抜くための貴重な魔力の塊。――父さんの形見。

 私のためだけの、大切な大切な――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、やっちゃった」

 

 残ったのは、随分軽くなってしまった宝石と。

 私が助けた、大切な、人の命の温もりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰ったぞ」

 

 ギルガメッシュが悠々と、ふんぞり返って教会の扉を開ける。……もうずいぶん夜も遅い。とっくの昔に街は静まり返っている時間帯だ。

 先ほど凛から、『教会に寄らせてもらう』との電話があったのだが、ギルガメッシュがどこにもいなかったので、ひょっとしたらギルガメッシュと凛が鉢合っちゃったりしちゃうこともあるんじゃないかとか、本当にどぎまぎしていたのだ。ギルガメッシュに念話で「はよ帰ってこい」言うても完全無視だし、ああ、なんか帰ってきたよ……という静かな怒りが湧き上がってくる。

 

 私の言いたいこと、分かります?

 

「なんだ」

 

 こんな夜遅くに、一体ナニをしていたんですかね。今日の門限は23時だって言ったでしょ――!?

 

「お前は我の母親か!……いやなに、少しばかり聖杯戦争をしてきた。ランサーと鉢合わせたので適当に嬲ってきた、と言っているのだ。……ああ、あのランサーめの正体は恐らくクランの猛犬、クー・フ―リンだな。まさに噛ませ犬、という感じであった!」

 

 ……。

 

 本人曰く、ランサーと戦ってきたらしい。私に何の断りもなく。

 

 あの。いろいろと突っ込みたいことは有るんですが、たしか最初は傍観者に徹しているのではなかったのですか!?

 

「ウソだとは言わん。だが鉢合わせてしまったものは仕方あるまい。いや、貴様が通っていた『学校』とやらが、どれほどみすぼらしいものか見たくなったのでな」

 

 ふはは、やはり貴様に似合う犬小屋のような学び()であったわ!と馬鹿笑いする金ピカ。

 

 この人なんか最近ますます調子に乗ってきてる気がする……。

 

 ダメだ、こんな我様サーヴァント、手綱を握れる気がしない……!何か、何かこの男の弱みのようなものが無いだろうか!とりあえず、(一応ありがたいことに)ランサーのマトリクス情報、真名をゲットしたが、今自分が最も求めるべきが、ギルガメッシュ(サーヴァント)を黙らせる材料だとは。一番の敵は身内だった……。

 

 

 

 と、その瞬間、教会の外に人間とサーヴァントの気配。

 

『もしもーし』

『遠坂、そんな友人の家みたいに……』

『うん。友人の家よ、ここ』

『え……』

 

 外から凛ともう一人、男の人の声が聞こえる。どうやら本当にギリギリのタイミングだったようだ。危ねえ……。

 ギルガメッシュ、奥の部屋に、と目配せする。ギルガメッシュは、ヒラヒラと手を振って応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠坂に連れられてやってきたのは、丘の上にある大きな教会だった。ここに聖杯戦争の監督者がいる、とのことだ。セイバーを教会の表に残して、教会の敷地内に足を踏み入れる。

 随分と豪勢な教会だ。夜の街の中でもこちらを威圧するような雰囲気を放っている。……ここを任されるってことは、きっとここの神父さんは相当な人格者なのだろう。

 

 だが、「友人の家」、とはいったいどういう意味なんだ?

 

 教会の大きな扉を開ける。

 

 外見からの予想通り、広く荘厳な礼拝堂が広がっていた。席の数も多く、日中もここに訪れる人が多いだろう事がうかがえる。

 さて、聖杯戦争に詳しいという人物はどこにいるのか、と礼拝堂を見回していると、礼拝堂の奥の扉から、自分もよく知っている人物が現れた。

 

「あ……そうか、岸波はここのシスターだったのか」

 

 岸波白野。自分や慎二と同じクラスに在籍する、少しウェーブがかった綺麗な茶髪が特徴の子。彼女がシスターだという事は周知の事実となっているが、なるほどここのシスターだったのか。

 先日の藤姉のホームルームを思い出す。彼女はここしばらく休学するとの話だったが、ひょっとしたら彼女も自分と同じく、「聖杯戦争」とやらに巻き込まれた人物なのかもしれない。

 

 「監督役」とやらのお手伝いか、それとも本当に何も知らない純粋な「シスター」なのか。

 

 何をどう切り出せばいいのか考えあぐねていると、遠坂が一歩前に出て、はあい、と岸波に手を振った。

 岸波が早足でこちらに駆けてくる。

 

「こんばんは、衛宮君、凛。今夜はどんな御用事ですか」

「こんばんは、はくのん」

 

 はくのん……!?

 意外、遠坂と岸波は既に深い仲だったようだ。

 学校でこの二人が話す光景なんて今まで見たことがなかったから、二人がこうして話している光景はなんだか新鮮に感じられる。

 

「朗報よ。新しいマスターが見つかったわ」

「……。彼が七人目、という訳ね、凛」

 

 岸波が俺に視線を向ける。

 何だろうか、少しざわざわする。

 まるで彼女の無機質な目が、自分という人間の価値を測る機械のようで……ではなく。

 

 今、彼女は「七人目」、と言ったのか。 

 

「え……ひょっとして、『監督役』っていうのは、」

「そうよ。彼女が今回の聖杯戦争の監督役。――衛宮君は知らなかったかもしれないけど、彼女は昔から、『魔術の世界(こちらがわ)』の住人よ」

 

 ……馬鹿な。

 

 岸波が「こっち側」だってことはいい。魔術は秘匿するものだ。見つけられなかった自分が未熟なだけだろう。

 だが、自分はてっきり。こんな馬鹿げた殺し合いの「監督役」なんて、絶対に価値観の壊れた狂人に決まっている、と思っていたのに。

 

「そんな……君が、こんなふざけた殺し合いに関わってるなんて……!」

「違うのよ衛宮君。彼女はあの十年前の火災の生き残りでね、それでこの教会に引き取られて育てられたのよ。本当はここの神父だった言峰、ってやつが監督役だったんだけど、そいつ、この前勝手にポックリ逝っちゃって。

 彼女、そいつの弟子だったのよ」

 

 ――一瞬。あの地獄が、脳裏に浮かんだ。

 

「……そうか、君もご両親を」

 

 俺がこう口にすると、今までこちらを見つめるだけだった少女が初めて反応した。

 

「――――ええ。だから安心して衛宮君。私が監督役になった以上、あの十年前の悲劇はもう二度と、絶対に繰り返させません」

「十年、前……?

 な、いや、ちょっと待ってくれ。

 ごめん岸波、今のは一体、どういう意味なんだ……?」

「ああそうか。あなた、ついさっきまで聖杯戦争の名前すら知らなかったんだっけ。それじゃ知るわけもないか。

 あのね衛宮君。死傷者五百人、全焼した建築物百三十四棟。――あの原因不明の火災は、第四次聖杯戦争の『結果』よ」

 

 遠坂のその言葉を、岸波の視線が肯定する。

 

 そして自分も、ようやく遠坂の言葉の意味を理解して。――猛烈な吐き気に襲われた。

 

 あの日の(にお)いが、焼き付くような感覚が蘇る。

 

 焦点が虚空を彷徨い、視点が定まらなくなる。

 

 ぐらり、と体が崩れ落ちそうになるのを、ただ沸き立つ怒りだけで押し殺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、遠坂が他人(おれ)を本気で心配するという事案が発生したため、すぐに正気に戻った俺だったが、そのまま岸波と遠坂から聖杯戦争に関する基礎的な知識を教えてもらった。

 

 令呪は簡単に破棄できるようなものではない事。聖杯戦争という「儀式」の事。監督役の役割。今回の聖杯戦争は「第五次聖杯戦争」であり、既に四回の聖杯戦争が行われている事。

 そして、岸波は、十年前の悲劇を繰り返さないよう、彼女なりに戦っている、という事。

 

 

「では、衛宮士郎君。君が聖杯戦争に参加するのかの意思を、ここで決めてください」

 

 岸波が、透き通るような目で自分を見つめている。

 

 もはや言われるまでもない。自分の答えは、とうに決定している。

 

「――戦う。十年前の火事の原因が聖杯戦争だっていうんなら、俺だって、あんな出来事を二度も起こさせる訳にはいかない」

 

 俺の言葉をどう受け取ったのかは知らないが、彼女は俺の答えを聞くと、了解しました、と小さく頭を下げた。 

 

 

 ――了解しました。衛宮士郎君、君を七人目のマスターとして認めます。

 この瞬間に今回の聖杯戦争は受理されました。――これより、マスターが最後の一人となるまで、この町における魔術戦を許可します。

 衛宮君、君は今から、殺し殺される関係となりました。帰り道にはくれぐれもご注意を。どうか、死なないで。

 

 彼女の言葉は、どんな祈りよりも慈愛に満ちたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……?ギルガメッシュが、ワインの香りを楽しみつつ、閉じた扉の向こうをじっと見つめている。

 

「――して、どのような来客であった?」

 

 お察しのとおり、最後の一枠、セイバーが召喚された、という事をギルガメッシュに伝える。

 最後のマスターは意外な人物だったが、ついに七体のサーヴァントと七人のマスターが揃ったのだ。

 

 衛宮君は魔術師としては全くの初級者(アマ)だが、凛がいれば衛宮君もきっと安心だろう。もし衛宮君の命が危なくなっても、凛ならば彼を死なせずにきちんとこの教会に送ってくれるはず。

 

 だが、ギルガメッシュはそんな私の思いとは全く関係なく、一人で静かに口元を歪めている。

 

「セイバー、か。

 そうか、やはり外の気配はあやつのもの。……再び集う七人もの英霊、当然、聖杯の奪い合いともなれば、あの女が招かれるのは必定であったか。――愚かなものよ、(ことごと)くあの聖杯の中身を知りもせずに」

 

 静かに笑うギルガメッシュ。その顔にあるのは――なんだろう、愉しみと哀れみ、だろうか……?

 

「っふ、いずれ会おうぞセイバー」

 

 ギルガメッシュはクールに去る。彼のいたテーブルをふと見やると、いつも通りお残しのワインが。

 

 飲みかけのワイン片すのやっぱり自分なんすね。知ってた。

 

 それはさておき、どうやらあの男は、衛宮君のセイバーに随分とご執心らしい。生前、もしくは前回の聖杯戦争で浅からぬ縁があったのだろうか。

 ……これはひょっとして、ギルガメッシュの操縦に使える大事な情報かもしれない。なるほど、このように情報を少しずつ集めていけば、ギルガメッシュを思いのままに操れる日がやってくる、という訳か。というかあの金ピカ、実は結構ちょろい男だし……ごにょごにょ。

 

 というところまで考えて、なんか自分ますます黒幕に磨きがかかってね?とショックを受けることになる私なのだった。

 

 もういい。ふて寝します。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。目を覚まし、近所の魔力の流れに異常を感じたので現場に急行してみると、教会からの坂道沿いの墓地が嵐にあったかのように滅茶苦茶になっていた。

 

 唖然。……明らかにサーヴァント同士が暴れまわった結果である。

 

 さて、こんなものどうやって隠蔽すればいいのだろうか。こんなものは事後処理とは呼ばない気がする。

 

 言峰さんの霊が、ポン、と肩を叩いた気がした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~マイルーム~

 

 

 ⇒桜と話す

  クローゼット

  情報マトリクス

  ギャラリー

  外に出る

 

 

(先輩、ついにこちらでの聖杯戦争が始まりましたね)

 

 ああ、桜さんや……。今や君だけが心のオアシスであります。

 

(先輩?どうしたんですか?顔色が……

 あの、元気出して下さい。私が何でも相談に乗りますよ!)

 

 ありがとう、桜。

 いやね、うん。聖杯戦争が始まったのはいいんだ。

 ギルガメッシュも「セイバー」が召喚されてから大人しい。

 

 だけど、あの墓地の隠蔽工作なんて自分には不可能やでえ!

 ただでさえ新都では「ガス漏れ」が多発してるっていうのに!

 言峰さん、頼むから戻ってきて……前回の聖杯戦争どうやって運営してたの……

 

(私の調べによれば、前回の聖杯戦争では川に「海魔」まで召喚され、政府から出動要請を受けた戦闘機二機を捕食した、という事例まであったそうです)

 

 小林いいいいいいいい!

 

 ……いや、言いたかっただけです。はい。

 

(でも先輩、あの火事だって10年経った今でもダイナミックに原因不明ですし、ぶっちゃけ起こってしまった災害は修復せずに、要するに適当な理由だけでっち上げればいいんじゃないですか?そのあとの情報操作は主に「協会」スタッフの仕事ですし)

 

 言われてみればそうだった。

 でもね桜。あの墓地、聖杯戦争とか関係なく、普通に教会(うち)の管轄なんですよ。

 

(あ……)

 

 というか墓地を破壊とか不謹慎すぎるでしょー!?

 

 私、あれをやったコンビだけは絶対許しません。

 

(あ、先輩、協会の方から連絡です。なになに……?

 穂群原学園における、魂喰らいの結界に対する処置について……?)

 

 も、もうあかん!誰か……誰か助けて……

 

(先輩!ほ、ほら、ギルガメッシュさんに貰った飴でもなめて、落ち着いてください!ね!)

 

 むりぽ。

 

 私はずぶずぶと、椅子の中に沈んでいくのだった……。




月桜に出番を!という事でマイルーム導入しました。

さて、前回と同じく内容の補足を。

~真冬の夜の淫夢
うわあ……これは鯖紅茶ですね……たまげたなあ。

~岸波さん、なんかエロくね?
たまに同性にも興奮されてる。

~無関心。(自称)
嘘です。臓硯さんは、苦しみ歪んでいく慎二の様子を見て楽しんでいました。あくまで慎二の印象。

~それと私もよく知らない外部の魔術師二人だ
一人がキャスターを召喚した人、もう一人はマスターをぶっ殺して葛木先生と契約し、アサシンを召喚したキャスター。つまりキャスターの事実隠蔽工作。

~チッ、分かったよ!
目撃者は殺すのが魔術師の当たり前のルール。ましてやバゼットさんは封印指定の執行者。容赦はない

~この人なんか最近ますます調子に乗ってきてる気がする……。
でも振り回される現状がちょっと気に入っている。はくのんのSG1もきっとテンプレーション。真の意味でお互いに信頼しあっているからこそのこの二人の関係。

~――――ええ。
本当はあの火災とは何の関係もないはくのん。話を円滑に進めるために肯定する自分と、本当に地獄を見た士郎や死傷者の方々を比較し、自己嫌悪中。

~彼女の言葉は、どんな祈りよりも慈愛に満ちたものだった。
型月の聖職者はどうせ後で本性をあらわすので序盤のこういう言葉には何の意味もない。

 今回はこんな補足の形式にしてみました。どうでしょうか?(そわそわ)

 この他にも何かありましたら、どしどし質問を送って下さい!
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