君だけのヒーローになりたい!! 作:来海
実質まだ第一話です。
玄関脇の階段を上がり、自分の部屋に戻った俺は、
腕時計を学習机に置き、窓際に設置してある青が基調のベッドに倒れこんだ。
カーテン越しに部屋に入る夕日の明かりが、カーテンの柄である緑の葉を赤く色付けさせるのを眺めつつ、
今日起こった出来事を考えていた。
まるでアニメの主人公みたいに速く走れた。
火事場の馬鹿力か……?人間ってその気になればあそこまで早く走れるんだ……。
まぁ、なんにしても子供の命を助けられたし、ちょっと多いお金も手に入ったし、今日はいい日だな。
ヒーロー扱いされるのも悪くない、俺は優越感に浸りながら、再び目を瞑って眠りについた。
再びしばらくの微睡みの時間が流れると、耳から何かの音が響いてくる。
軽い音は規則的なテンポで何回かした。
俺は目が覚め、暗い部屋の奥、音のする方へ目を向けると、部屋に入るドアから音がしている。
「一斗、ご飯だってー」
あ、鈴<すず>か……もう夕飯の時間か。
どうやら妹の鈴がドアをノックしていた音だったらしい。
枕元の小物置を見ると、デジタル時計が現在の時刻を薄っすらと緑の光を放ち教えてくれていた。
現在、午後9時11分。
玄関で寝てからまた4時間も寝てたのか!?
「一斗ー、入るよー?」
折角の日曜日を睡眠に使ってしまった事を驚愕していると、部屋のドアが開けられた。
開いたドアから、廊下のオレンジ色の明かりが部屋に入るのと同時に鈴が部屋に入ってきた。
「うわ、暗ッ!?」
壁に手を伝わせ、部屋の照明のスイッチを見つけた鈴が照明を点灯させた。
「鈴、急に電気つけんな、眩しいって!!」
部屋に白い光が溢れ、急な明かりに目が眩み、手で光を遮る。
珍しく直ぐに目が光に慣れ、手をどけると……そこには『猫パンにゃ』と言う、
猫がパンダのきぐるみを着ているキャラクターがプリントされたTシャツを着た妹……。
高森<たかもり>鈴が寝ている俺を見ながら笑っていた。
「なんだよ、人の顔みて笑うんじゃねぇよ」
「ふふ、ごめっ……ご飯出来たってさ」
そう言うと鈴は、ご自慢の黒髪……ピッグテールとか言う2つ縛りの髪をゆらゆらと揺らし、
口を押えながら部屋を出て行った。
なんか顔についてるのか……?
何もついていない……からかわれたな。
俺も部屋の電気を消して、部屋を出た。
洗面所で手を洗ってリビングに入ると、我が家の変わらぬ味噌汁の香りが鼻を通り抜けた。
「母さんおはよう、今日の晩御飯なに?」
いつものお馴染みの質問を母さんに投げかけると、母さんが急に笑い出した。
「なんだよ母さんまで、俺の顔になんかついてる?」
そう言うと、テーブルに着いていた鈴がスマートフォンを操作した。
シャッター音がし、撮った写真をにやけた顔で見せてきた。
そこには確かに髪の毛が逆立っている俺の姿が映っていた。
「頭で大爆発起こしてるよ?」
「鈴ッ、お前気付いてたんなら言ってくれよ!?」
必死に手櫛で逆立った髪を元に戻す。
髪が元に戻る時には、母さんがエプロンを取っ手口に掛け、
両手に今日のおかずの豚の生姜焼きをもってテーブルまで来ていた。
「手を洗ってるときに気付かなかったの?どうせ後でお風呂入るでしょ、ご飯を食べて頂戴な」
「そうだな……その時でいいか」
四人掛けのダイニングテーブルに何時ものと同じく鈴の隣に座る。
俺と鈴、母さんと今家にいる全員がテーブルに着いた。
「はい、いただきます」
母さんの挨拶に合わせ、俺と鈴も手を合わせて「いただきます」と言った。
2人が食べ始めると、俺はお気に入りのマグカップを手に持って、牛乳を飲む。
はずだったけど、軽い音を立てて、マグカップの持ち手が折れ、
中身がズボンに全部掛かった。
「うわぁっ、冷た!?」
とんだ災難だ……子供の命を救いった日だというのに、
お気に入りのマグカップを壊し、挙句ズボンが牛乳まみれ……
世の中上手いことは続かないんだなぁ……。
そう思っていると背後から声がかけられた。
「ほら一斗、タオルッ!」
振り向いた瞬間、鈴が白いフェイスタオルを投げたのを見た。
いろんな抵抗を受けて減速していき、畳まれていたタオルが投げられた為に広がっていく、
俺は顔目掛け飛んでくるタオルに合わせ、右手を動かし……キャッチした。
「ナイスキャッチ一斗」
「お、おう、当然」
ゆっくりと飛んできたタオルに驚きながら、タオルで牛乳まみれになったテーブルとズボンを拭いていく。
「ごめん母さん、下着まで濡れたから流石にお風呂入ってからご飯食べるよ。
ラップだけ掛けてくれるとうれしい」
「わかったから早くお風呂入ってきなさい」
「ありがと、風呂入ってきます」
リビングを離れ、風呂場と繋がっている脱衣所で服を脱ぎ、俺は考えていた。
さっきのあれは何だったのだろうか……。
試しに今脱いだTシャツを真上に投げ、キャッチする。
うん、やっぱりなにもない……さっきゆっくり見えたのは勘違いだったのか?
服をすべて洗濯籠に入れ、風呂場の扉を開いた。
すると、またも顔目掛け何かが飛んできた。
「小バエ!?」
飛んできた小バエを両手で叩き潰そうと、手を合わせた。
手を合わせた瞬間、甲高い音が脱衣所に響き渡る。
でも、そんなに強く叩いたつもりはないはずだが、リビングまで聞こえるだろう騒音だったのは分かった。
「一斗、どうしたの!?」
「なんでもない、ハエがいて……」
声を掛けられて反射的に振り返るとなぜか、脱衣所の扉が開けられており、鈴の姿が見えた。
鈴の瞳が俺の顔から下へ動いた……。
あ、これは見られた。
兄妹揃い、すぐさま反対側を向き、俺は風呂場に入り扉を閉めた。
あとで謝りにいかないと……
そう思いながら、体の汚れと恥ずかしさを洗い流すため、シャワーの蛇口を捻った。