ミスミド王国へ向かう道中、野盗とはぐれ魔術師が現れたが俺達で無力化・捕縛した。
だが安心していたのも束の間でまたもや事件が発生した。
「なんだかこの森周辺の動物達が騒がしくなっている?」
「ええ…まるで皆何かに怯えているみたいに…」
出発して二日目の夜の事だった。
ふとオリガさんがそんな事を言ってくる。
確かにラングレーの町を抜けてからなんだかあちこちで動物達の騒がしい鳴き声が聞こえてはきていたが…。
「一体何が?…」
『ムッ?…そんな!?この気配は!…』
「『る、瑠璃?…』」
改めて周囲の様子を探っていると瑠璃の様子までもが可笑しい事に気が付いた俺はテレパシーを飛ばす。
『フン!…どうやらかなり厄介な輩が現れたようだ』
琥珀も気が付いていたのかそう言う。
『すみません主…白帝の言う通りのようです…』
申し訳なさそうに瑠璃が謝罪を述べてくる。
「グギャオォォー!」
「な、なんだ!?」
突如、何処からともなく何かの咆哮が聞こえてくる。
「アレはまさか!…黒い竜、ブラックドラゴン!?…なんでこんな所に!?…」
遥か上空にとても巨大な黒い竜が現れたのだ。
騒ぎの原因はこれか。
「聖域から滅多に出てこない筈の竜がどうして!?…」
オリガさんの話から察するにどうやらドラゴンは他の魔獣とは違い特別な縄張りを持っているらしいな…。
「まさか聖域を穢した不届き者でも!?」
「いえ、あながちそれだけが原因とは言い切れません。
時に竜は家畜等を狙って人里に現れる様な事もあるそうですから」
ミスミド護衛騎士が禁忌を犯した者がいるのではと騒ぎ出すがオリガさんはそうとは言い切れないと言う。
「家畜を?って事はまさか!?…」
「このままあんな馬鹿デカイ竜になんか暴れられたらこの先にあるエルド村までもが危ない!」
そう、黒竜はエルド村に狙いを定めて向かっていたのだ。
「その前に冬夜アレを!」
「アレ?…ああアレか!」
俺達は王様から預かっていた只の鏡台にゲートの効果を付与させた「転移の鏡(ゲートオブミラー)」を使ってすぐにユフィナ達VIP陣と戦力外の人達をベルファスト王宮に緊急避難させ急いで竜の後を追っていく。
「瑠璃、まさかとは思うが…」
『ええ…今正に暴れようとしている阿奴は我の眷属の一人でまだ成竜になったばかりの若い奴です!』
やはりか!…瑠璃の様子が可笑しいのは気のせいではなかったようだ。
『急ぎ阿奴と接触しなんとか説得せねば!…だがもしも我の言う事にも耳を借さぬその時は…我が一族の誇りと蒼帝の名において阿奴を断罪せねばならぬ!…』
「瑠璃…」
『主の手前あまり強くは言わん…言いたい事は山程あるのだがな…今はそれ所ではあるまいからの』
『白帝、いや琥珀…』
『フン!我自身の眷属達にも丁度良いひきしめになるだろうと思っただけだ』
琥珀も何か言いたそうだったが俺と冬夜が居る手前あまり強くは言わずに協力を申し出てきた。
「ギャオオオー!」
「しまった!?…」
瑠璃の身の上話を聞いている間にエルド村に着くが既に黒竜が一寸先でその強大な力を振るい暴走を始めてしまい村は炎に包まれてしまっていた。
『ッ!…』
「瑠璃ッ!」
黒竜の暴走を未然に防ぐ事が出来ずに茫然と立ち尽くしてしまいそうになる瑠璃に一喝する。
「今は後悔している場合じゃない!…これ以上被害が拡大する前にやるぞ!」
『主!…ええいきましょう!』
「ああ!
エルゼ達は村人達の救護活動を!
あのドラゴンは俺達がなんとかする!」
「分かったわ!」
エルゼ達に村人達の救出を任せ、なんとか気を持ち直した瑠璃が本来の蒼帝の姿に戻り翼を広げ俺をその背に乗せ黑竜の下へと説得に向かった。
「大丈夫なのかな?…」
『眷属が主に逆らう様な真似をしたらどうなるか目に見えている筈でしょうが…私も阿奴の言い分を聞いてみましょうか?』
「頼むよ」
『了解した!』
その下でもしもの時の為に援護を任せた冬夜と琥珀が呟いていた。
『黑竜よ、お主は…』
「グ?…」
瑠璃に気付いた黑竜が動きを止め此方を見てくる。
『この馬鹿者!お主は一体何をしでかしているのか分かっているのか?!』
「グルウゥ…!」
瑠璃が一喝入れるが黒竜は唸り声を上げるだけだ。
「グウゥ…!」
『何ッ!?…お主という奴はなんと浅はかな!…』
「なんて言っているんだ?」
『そ、そうでした…此奴は成竜に成り立ての者で四大獣言語以外はまともに話せないもので…だが此奴の言い分は!…』
俺には単なる唸り声にしか聞こえないので瑠璃が通訳していく。
『「我が享楽の邪魔をしよう愚か者は一体どのような者かと思えば一族の誇りである蒼帝ともあろう貴方が軟で脆弱な人間になぞ使役されているとは…」と…黑竜お主という奴は!』
享楽だと?…遊びでこの村の住人を襲ったとでもいうのか!?
『ナニィッ!?貴様は自らの主を愚弄するだけでは飽き足らず我が主までをも愚弄するか!?
人語も碌に話せぬ半人前の鼻垂レ小僧如きが!』
どうやら地上に居る琥珀にも黑竜は悪口を言ったようだ。
かなり怒っている。
「グルゥ!…」
と思いきや奴は何か言いたそうに唸る。
『何?…「しかし我は満たされぬ!この享楽は我の復讐の第一歩に過ぎないのだから!」だと?…お主はまだあの事を…』
「あの事?」
『ええ…阿奴は我の眷属になる前は普通の翼竜でした。
ですがある日、阿奴の両親が心無い人間の遊びと称した過剰なまでの狩りによって命を奪われてしまったのです!…』
「何だって!?…お前達竜族は滅多に聖域から出ない…それにこの国の人達にはちゃんと掟が…という事はまさか!?…」
俺は瑠璃の話を聞いてまさかと思い当たる。
『ええ…犯人は恐らく昨日主達が捕縛した盗賊一味でしょう…はぐれの彼等には掟など何の意味も成さないでしょうし…』
そんなの立派な密猟と侵略行為じゃないか!
知っていたらアイツ等にはもうちょっとキツくお灸を据えてやるんだったのに!
でもそれとこの村の住人達は全くの無関係だ。
人間に嫌悪感を持ってしまった事は仕方無いとは思うけどやって良い事と悪い事がある。
『黒竜よく聞け!
お主の両親を殺した輩は我が主、そして白帝の主とこの国の者達によって成敗された!
お主がこんな所で暴れる理由は最早無いのだ!』
「グ!?…グウゥ!…」
瑠璃の言葉に一瞬驚いた様な顔をする黑竜だったが尚も咆哮する。
『クッ!?…あまりにも人間の血を浴び過ぎ力に飲まれてしまったのか!…すみません主…阿奴はもう…阿奴の暴走は我の不始末が起こしてしまった事…尻拭いをさせてしまようで恐縮ですが共に阿奴を…!』
「グアアァー!!」
真実を聞いて自身が抱えていた闇と怒りを一体何処にぶつければ良いのか分からなくなってしまったのだろう。
それで尚も力を振るう事に快楽を覚え飲まれてしまった。
説得は最早不可能と悟った瑠璃の蒼帝としての決意を聞いて俺も決意する。
「ああ!アイツが力に飲まれたというなら俺達で止めてやらないとな!」
これ以上の血が流れてしまうのを、そして何より黑竜自身を闇から解放する為に。
『主!…ええ、参りましょうぞ!』
推奨戦闘BGM「hoopness」
「いくぜ!コード:ソード!」
臨戦態勢を取った俺は剣を黑竜目掛けて射出する。
だが奴の皮膚に阻まれる。
「チィッ!…思ったより硬いか!」
『黒竜は一族の中でも最も高い硬度の皮膚を持っています。
生半可な攻撃では阿奴にダメージが通りません!』
「ならコレで!『666のナイフ』!」
『我も!【蒼帝の息吹<シャイニングブルードラゴンブレス>】!』
瑠璃の助言を聞きすかさず俺は666のナイフを射出する。
「グゥッ!?…グガァー!」
御自慢の硬い皮膚が魔力で強化された666のナイフと瑠璃のブレスの前にいとも容易く斬り裂かれ剥がれるのを目にした黑竜は激昂し突撃してくる。
『主来ます!』
「ゲート!」
「!?」
回避しようと思えば出来たが俺はあえてゲートを発動させ、奴を転送させた。
それには理由がある。
「冬夜、リンゼ!準備は出来ているな?!」
転送した場所は冬夜達がいる所から少し離れた所にだ。
テレパシーを介して既に作戦を伝えてあった冬夜と救護活動をあらかた終え戦闘区域に戻って来ていたリンゼが叫ぶ。
「はい!」
「ああ!マルチプル!そして『光よ穿て 輝く聖槍シャイニングジャベリン』!」
リンゼが氷魔法で作った巨大な製氷を冬夜がモデリングでレンズへと作り変えて設置している。
そのレンズの手前にマルチプルで範囲を拡大させた光の槍を射出する。
「再びモデリング!」
するとレンズに当たった槍は取り込まれ冬夜が再度モデリングをかけてレンズの厚さを調整し、集点距離を転送させていた黑竜に合わせる。
「琥珀!」
『御意!【白帝の息吹<ヴァイスタイガーブレス>】!うおおおおー!』
「これでも喰らえ!」
そこで琥珀に指示しブレスと共にレンズに取り込ませていた光の槍を一気に解放した。
するとどうなるか?
「グアァー!?…」
溜め込まれていた光の槍は収束し超高温の熱を帯びた事で黑竜の体をボォッ!と激しく炎上させる。
そこに琥珀の息吹が追い打ちをかける。
「グッ…グオオオッー!」
苦しみながらそれでも尚炎のブレスを吐こうと口を開こうとする。
「させるか!『超すんげぇ重力<ハイパー・グラビティー>』!」
「グァァァー!?……」
俺の魔法で奴の周囲だけ重力を加算させ圧迫させた。
炎上+重力加算によるもろオーバーキルにより黑竜のその巨大な図体はズドーンと音を立て地に伏せた。
『…』
黑竜の目は再び開く事はなかった。
その姿を見て悲しそうに見つめる瑠璃。
『本当にコレで良かったん…ですよね?…』
「ああ…怒りをぶつけられる所を見つけられず力に飲まれるままに暴れるのをやめようとはしなかったんだ。
お前の判断は間違ってはいないだろう…」
『主…』
それでもやるせない所はある。
「この黒竜が犯した罪を償わせる方法はいくらでもあるさ」
『それもそうですね…』
非はあるが元はといえばあの盗賊一味の身勝手な行いのせいなのだ。
後日アイツ等に他族の領土侵犯の余罪があった事を進言しておこう。
そう思い地上に降りた直後
「!アレは…」
新たにもう一匹赤い竜の姿が現れたのだ。
『大丈夫ですよ主、彼は味方です』
俺達は慌てて再度臨戦態勢を取ろうとするが瑠璃にそう止められる。
すると赤い竜が口を開く。
『此方に交戦の意思は無い。
我は赤竜。暴走していた者を止めに来たのだが…どうやら一足遅かったようだ…』
本当だよ…もう少し早く来てくれれば此奴も死ぬ事はなかった筈だ。
やったの俺達だけどさ…。
『成程…白帝様それに貴方様は蒼帝様!?…通りで黑竜如きでは相手にならぬ訳だ』
赤竜は琥珀と瑠璃の姿に気が付くと驚愕しそう呟く。
『勘違いするなよ。
その小僧を打ち倒したのには我が主と蒼帝の主の尽力が大きいのだ』
『なんと!?…その人間達がお二方の主ですと!?』
『ええ、今の我は主に瑠璃という名を頂き仕えております』
琥珀と瑠璃の言葉に二度驚きを隠せない赤竜。
『こ、これは大変失礼申した!
我が同胞が迷惑をかけてしまい本当に申し訳無い!』
「良いよ」
「此奴だって心無い人間の身勝手な行いの被害者だった訳だしな…でも力の自制が出来る様にきちんと教育はして欲しい所だな」
『我からも頼むぞ赤竜。
勝手という事は分かっているが…我が主に仕え、聖域を離れているしばしの間、お主に同胞の教育を担って欲しいのだ』
『わ、分かりました…蒼帝、いや瑠璃様とその主様のお頼みとあらばこの赤竜、尽力させて頂く所存です!』
『うむ!』
赤竜の謝罪を受け止め俺達は過ぎた事だと許した。
その際、瑠璃と俺の頼みを赤竜は聞き入れてくれ、少し経ってから聖域へと帰っていった。