Side一誠
「…まだあの子達は目を覚まさないか…」
俺達がメサリア山脈で黒猫と少女を保護した翌日、未だ目を覚まさない彼女達を皆心配していた。
世界神様に聞いてみたがどうやら彼が冬夜みたいにミスしたという訳ではなく恐らく転移魔術の事故でこの世界に飛ばされてきたのだろうとの事。
ドタドタ!と変わりばんこに介抱していたスゥが大慌てでやってきてこう言った。
「イッセー、大変なのだ!黒猫さんがいないのだ!」
「なんだって!?」
既に目覚めていて交代の隙を狙って逃げたのか?
「きっとまだ屋敷の中に居る筈!さが…」
「ひにゃああー!?」
「!あっちか!」
探そうと言おうとすると聞きなれない女性の悲鳴が聞こえてきた。
俺達は声の聞こえたキッチンへと向かった。
其処には
「す、凄く辛いのにゃあー…何なのにゃコレ…人の食う物じゃないにゃ…」
何故か悶絶している尻尾と猫耳を生やし着物を纏ったお姉さんがいた。
「ま、まさかイッセーさん、お姉ちゃんに料理させたんですか?…」
「ん?まあ彼女がどうしてもやるっていうものだから任せたけど…」
リンゼが恐る恐るそう聞いてきたので答える。
すると彼女はこう言った。
「お姉ちゃんって味覚が可笑しくて何でも辛い味付けをしちゃうんですよ…だから家では絶対台所に立たせないんですが…」
「あー…」
それを聞いてこの状況に納得した。
恐らくこのお姉さんはエルゼの作った料理の匂いにつられてつまみ食いして思わず卒倒してしまったのだろう。
「という事だからエルゼ、料理は今回限りだ」
「なんでよ?イッセーだって私のランチ美味しいって言ってたじゃない!」
それは俺がお前と同じ辛党だから大丈夫だったって話だ。
「でお姉さん、君はあの黒猫なのか?」
「…」
「大丈夫だ何もしはしないよ俺達は。
一体何があったのか話してみてくれ」
「…分かったにゃ」
黒猫のお姉さん、黒歌と名乗った彼女は未だ警戒を解いてはくれないが観念し静かに語り出した。
「そんな事が…酷い!」
「私だってそんな奴ブン殴ってボコボコにしてやってるわよ!」
「私だって焼き尽くしてますよ!」
黒歌の話を聞いたエルゼ達は口々に物騒な声を上げていた。
その話を纏めるとこうだ。
彼女は元々「猫又または猫魈」と呼ばれる妖怪の一族だったがある日妹さんと共に彼女達の持っていた「仙術」の力を狙ってきた悪魔に誘拐された挙句無理矢理に転生悪魔にさせられたらしい。
黒歌と一緒に倒れていた少女は何処からか誘拐されてきた神器所持者らしく酷い扱いを受けていたみたいだ。
それでまたある日その悪魔が黒歌と交わしていた筈の約束を反故にしまだ幼かった妹さんまでも無理矢理に力を開放させようとしていたのでそれに激怒した彼女はその悪魔を殺した。
当然の報いだな。
そのおかげで黒歌と彼女のおかげで逃げ出せた少女だったが殺した悪魔の眷属に事実と異なる罪を着せられS級はぐれ悪魔として追われる身になってしまい追っ手の悪魔達に追い詰められた窮地に残っていた力を振り絞って転送術を起動、その際の予想外の事故によってこの世界に来てしまったみたいだ。
その後の妹さんの安否は分からないみたいだった。
「白音…私は一体どうすれば?…」
「黒歌、君に提案があるんだ」
「?」
妹さんの名を呟きながら顔を俯かせる黒歌に此処は違う異世界である事、俺の素性、これからの事を話した。
当然、彼女は驚いた表情をしたがようやく警戒を解き提案を受け入れてくれた。
後は少女にも話を聞かないとな。
「そうだ!ユイリ!」
黒歌は猫の姿にぽんっと戻ると少女を寝かせているベッドに急いだ。
俺達も後を追う。
「ユイリ!」
「ん…黒歌ちゃん?ここドコ?…」
ようやく目覚めた少女ユイリは周囲を見渡し見慣れない景色だという事に気が付く。
「よかった!本当に!…」
「?」
何時の間にか人の姿になっていた黒歌が思い切り少女を抱きしめる。
状況が未だ飲み込めていないのか彼女は首を傾げていた。
「ユイリさんでしたっけ?
貴方の話も詳しくお聞きしてもよろしいですか?」
「えっと…」
まだ果ての悪魔の恐怖が抜けていない為かユフィナが手を差し伸べるも何処か怖がっていた。
ああ、そういえばそうか…。
彼女は転生悪魔故光も怖がっているんだ。
「俺は君を元の人間に戻せるかもしれない」
「!それは本当かにゃ!?」
「ああ、だから君の事をよく知りたいんだ」
「分かった…」
俺の問いにユイリは静かに語り出した。
彼女は元々身寄りの無かった捨て子で教会に拾われ育てられ日々の生活を営んでいた。
だがある日現れた一人の男の手によりそこは地獄へと変わってしまった。
「聖剣計画」人工的に聖剣を扱える者を作り出すという計画の被験者として駆り出されたが彼女は失敗作として烙印を押され他の被験者と共にガス毒で殺されてしまった。
そこに遺体を売られ買い取ったあの悪魔の手によって転生悪魔として蘇らされその時に神器も同時に覚醒したが悪魔には到底敵わず地獄の日々を強いられてきたらしい。
「今迄よく頑張ったんだね…」
「ほんとに酷い話だよ…」
「その様だな…」
浮浪児で両親のいないレネやサナは最も共感し涙を流していた。
俺も黒歌達の話を聞いて密かに激しい怒りを湧き上がらせていたと同時に又目標が出来た事に人間らしくあれた事に誇りを感じた。
早速、俺はデュアルダ・カーポとアポーツを併用しユイリの中にあった悪魔の駒を取り除いて人間に戻した。
その後、俺はレジーナ博士から教わった「解析<アナライズ>」の無属性魔法を悪魔の駒にかけ解析していた。
すると驚くべき機能の弊害が判明しもし悪魔側がロクな調査もせずにこの機能が発動していたらと思うとゾっとした。
救いようのない糞野郎だったとはいえ殺した罪を背負うと言っていた黒歌にこの事を話すと驚愕はしたがそれでも戻るとは言わず、悪魔の駒の製作者は善人だからと遠慮した。