あ、まだBGMはいらないよ?
Sideワルダック宰相
「糞っ!…」
クラウド王子の突然の失踪と同時に自身の領地に捕らえていた筈のエリア王妃の消失。
まず間違い無くクラウドが何者かの協力を得て助け出したに違いない。
恐らくは自身の権力を乱用して更迭したクープ侯爵率いるクラウド派の貴族連中か。
それは間違い無いのだが権力を維持する事に躍起になっている彼には他にもクラウド王子を支援する存在がいる事を知る由はない。
「もう少しで私の長年の悲願が達成されるという所で!…もしもの時を考えておくべきか…」
クラウド王子達の行方が未だに掴めていない今派手に動くのは大変危険。
そう感じたワルダックは自身の管理する金庫へと手を伸ばす。
「!?無い!金が無い!?…」
宰相の権力を利用し国営金や国民から徴収した税金を横領し保管していた筈の活動資金が忽然と消えて失くなっていたのだ。
「クープ侯爵!奴等の仕業か!」
クープ侯爵の査察が入ったに違いないと仕方無くワルダックは奥の手を選ぶ事にした。
「おい奴隷!絵は完成しているか?!」
「…」
「聞いているのか!」
地下の隠し通路に行きワルダックは独房で奴隷としている美しい少女に怒号を飛ばした。
彼は副収入源としてサンドラの奴隷商人から買った彼女をこき使っていたのだ。
少女は無言、何処か様子が可笑しい。
それもその筈、彼女は自身の描いた絵が物凄く高値で売買される為と主人であるワルダックによってほぼ不眠不休で描かされていたから衰弱するのも無理はない。
「ちょっと!これ以上私の御主人様に酷い事するのはやめてよ!」
「なんだと!只の使い魔風情が私に偉そうな口を利くな!
お前の主人がどうなっても知らないぞ?絵など片手あれば十分なのだからな!」
「あうっ!?…」
少女の傍にはもう一人桃色の可憐な少女がワルダックに対して説得するが彼にそう脅迫され怯えるしかない。
「とにかく一刻も早く五十枚の絵を完成させろ!
いいな!?」
「そんな!?…」
ワルダックはそう無茶過ぎる難題を言い放ち独房を後にした。
Side?
「御主人様これ以上あんな奴の言う事なんか聞く必要無いよ!
じゃないと体が!…」
「…だ、大丈夫…だから…」
「全然大丈夫じゃないよ!…」
私の使い魔であるプリマが酷く心配してくれるが私は平静を装う。
どの道プリマの力で運良く此処から逃げ出せたとしても私の両足は嵌められた隷属化の輪によって跡形も無くもぎ取られてしまうだろう。
そうなれば一貫の終わり…またあの人に逢えないまま今世を終えてしまう事になりかねない。
もうそんな思いをするのは沢山だ。
あの人とは未だに再会出来ていないが私はその度に五千年前の事を思い出してそれからずっとこの胸に抱いた想いを信じて待ち続けているのだから。
「…魔王様…」
Side一誠(五千年前)
「…」
自身の持っていた強大な力から各々から魔王アルーザスと呼ばれる様になり、領地拡大。
力無き者達の為傲慢な貴族達の領土を次々と侵攻していった。
「む?…そうか…」
ある日、魔王部隊直属の者から興味を引く伝令が伝えられた。
すぐに目的の場所へと向かう事にした。
「あ、貴方様は!?どうして此処に?…」
「此処に凄腕の絵描きの娘が居るとの噂を耳にしたのでな」
「は、はあ…」
貴族の親父は訪れた俺の姿に驚くが何処か様子が可笑しい。
「もしよろしければなのだがこれでその娘を引き取りたいのだ」
「!?」
俺がそう告げ金貨百枚近くを出すと親父は驚いた表情をするがすぐに
「そうですか…ですがそれだけでは足りませんなぁ」
「…話にならんか…」
「あ、ちょっと!?…」
この強突張りが!…このままでは埒が明かないと悟った俺は親父を完全に無視し、屋敷を散策件の部屋であろう場所を見つけ扉を勢い良く開いた。
「!…」
俺は部屋を開いて件の娘を目にした瞬間、後ろから追ってきていた親父に対し激しい怒りを燃やしていた。
「おい貴様!一体あの娘に何をした!?」
「ッ!…」
問い詰めると彼は口篭る。
明らかに彼女の体には虐待による傷跡がいくつもあったからだ。
「とにかく彼女は私が保護する!」
「ぬかせ!…汚らわしい魔族風情が!」
娘を保護しようと動こうとした瞬間、開き直った親父は俺に向けてファイアーストームを放ってくる。
「甘いな!リフレクション!」
「何!?ぎゃああああー!?熱い熱いー!……」
奴が放ってきた魔法を俺は即座に反射し跳ね返す。
跳ね返された炎に包まれ奴は火ダルマとなる。
俺はアクアを唱えてぶっかけて消す。
命は助かっただろうがこれから先満足に動けないだろう。
因果応報だ。
後に調べるとあの親父は病で早くに亡くなった少女の母親の再婚相手、つまりは義父であった事が分かった。
母親が生きている内はおとなしくしていたという訳か。
ともかくこれで安心して少女を保護出来る。
俺は早急に少女を魔王城へと連れ帰り回復魔法をかけ介抱する。
「…う?…」
「目が覚めたか!」
「ここは…どこ?…」
しばらくして目を覚ました少女は不思議そうな顔で周囲を見渡していた。
「何があったのかは此方で調べ上げている。
辛かったよな…」
あの再婚親父が少女の描いた絵に価値があると知り無理矢理に描かせていたのだ。
「これからはお前が心から描きたいと思ったものを描けば良いのだ!」
「…ホントにいいの?…」
「ああ!」
「!…」
俺はそう言いながら少女を抱き締めた。
少女はあの義父の所業のせいで少し怯えがあったが落ち着いてくれた。
かくして少女ローナ・ファティアを保護し何事もなく日々を過ごしていた。
「ローナどうだ調子は?…ってまた俺の顔を描いてたのか
他にないのか?」
「ううん…魔王様が私の一番描きたいと思うものだから…」
「そ、そうか!…」
俺はローナに非常に良く懐かれていた。
彼女は何故だろうか俺の似顔絵ばかりを描いている。
たまに青空とか風景画の時もあったにはあったが。
彼女には魔術の才もあったらしく自衛の為にと俺が教えると凄い飲み込みが早かった。
それから数年が経ちローナは更に美しい魅力的な女性として成長していた。
彼女への恋心を自覚した俺は思い切って告白。
見事受け入れられた。
「ねえ魔王様…」
「んなんだ?」
「…魔王様と一緒に海を見に行きたい!…」
「!」
確かに此処数年魔王城と付近の街を行き来しているだけだ。
流石に彼女も飽きがきたのだろう。
「そうか、なら約束だ!
今度のお前の誕生日に一緒に行こう!」
「うん!…」
だが彼女と交わした約束を果たす事が出来なかった。
世界に突如として襲来した正体不明の化物によって…。