【休載中】TS吸血鬼な勇者は、全てを失っても世界を救いたい。   作:青木葵

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日常回は筆が乗るぅ!
という訳で本日分の投下となります!


第6話 魔導士シェリア

「うぉー……危うく彼岸へと至りかけるところだった」

 

 乱れた呼気を整える為に深呼吸を行う。

 脂肪で遮られた時と違い、清涼な空気が肺を満たす感覚がする。

 死ぬなら巨乳に埋もれて死にたいと昔は思っていたが、あれは撤回しよう。

 

「ごめんユーキ。

 吸血鬼化は聞いてたけど、リリシアそっくりだとは思わなかった」

 

「外見の変化ぐらいならそっちにも伝わってるだろ。

 もうちょっと考えてくれ」

 

 随分と泣きじゃくっていた彼女をアレクが説得するのには大分骨が折れたらしい。

 彼は死にかけのオレと同じぐらい息を切らしている。

 

 だけど、彼女がオレをリリシアと間違えるのは無理もないだろう。

 シェリアはリリシアとかなり仲が良かった。

 なんでもシェリアは幼い頃から魔法の修行にばかり明け暮れていたので、オレたちとパーティを組むまでは友達がいた経験がなかったそうだ。

 初めてできた同性の友達という事もあり、彼女といられなかった時間が辛かったのだろう。

 

 その寂しさを抑える土俵が、リリシアに似たオレを見て決壊したのだろう。

 無理もない。

 ディートリヒは隣にいただろうけど、アイツも人付き合いが得意な性分ではないし彼女を上手く支えられていなかっただろう。

 

「でも……こんなにリリシアにそっくりなのに」

 

「リリシアはここまでチビじゃないぞ、そこで気づいてくれよ……」

 

 とはいえ、本音を言えばこの身長差から違和感を持ってほしかった。

 息もできないほど苦痛な抱擁を思い出し、自分でコンプレックスを刺激するのも(いと)わず彼女に毒づく。

 確かにオレも水面に映った自分を見た時、リリシアが幼ければこんな容姿なのだろうと思ったけれども。

 

「確かに、リリシアはこんなに目つき悪くない」

 

「目元を突くな、危ないだろ。

 あと、目つきが悪い件について詳しく聞こうじゃないか」

 

 油断をしていると、シェリアが顔を触ってきた。

 というより近い、異性間の距離じゃない。

 こいつ、さてはオレが女性化したせいで接触に抵抗感なくなってるな?

 

「でも、お肌は変わらずぷにぷに」

 

「ほっぺを突くな」

 

「髪も同じくサラサラ」

 

「隠してるんだから、わざわざ帽子から引き摺り出すな!」

 

「胸は……リリシアの方がちょっとある」

 

「セクハラすんなやぁ!」

 

「いたい」

 

 徐々にエスカレートしつつあったシェリアの接触を止めるべく彼女に腹パンを加える。

 当たった時の音がポスンという気の抜けるものがだったので、多分痛みはなかっただろう。

 痛い、という発言も恐らくただのポーズだ。

 ちくしょう、折檻する力もないのは実に悔しい。

 

「それはそれとして、久しぶり。

 また会えて嬉しい」

 

「ああ、俺もだ。

 久しぶりだな、シェリア」

 

 聖剣奪還とは別件だけど、シェリアたちとの再会もオレの重要な目的だ。

 先ほどの狼狽(ろうばい)ぶりからリリシアの行方は知らなそうだが、ディートリヒが今何をしているのかは分かるだろう。

 それらの新しい情報をシェリアから色々と聞きたい所なのだが――。

 

「「……」」

 

 今までの出来事、これからの行動、話したい事も話すべき事はいくらでもあるのに、言葉が出てこない。

 それはシェリアも同じらしく、お互いに無言のまま時間が過ぎていく。

 不和の原因がオレとはいえ、彼女にも思うところがあったのだろう。

 その結果築かれた微妙な距離間が、二の句を継ぐ事を許してくれなかった。

 

「あの、シェリアさんですよね。

 元はユウ……いや、ユーキと以前旅をしていた」

 

「うん。君は?」

 

「あ、僕はアレクです。

 今はユウと一緒に行動しています」

 

 無言のオレたちを見かねたのか、アレクが助け船を出してくれた。

 アレクならきっと、彼女との会話の足掛かりを築いてくれる。

 

「そう。安心した」

 

「え?」

 

「ユーキは一人で抱え込むから。

 支えてくれる人と新しく出会えたみたいで」

 

 何やらアレクと自己紹介をしただけで、シェリアは納得したような表情を浮かべている。

 理解が早いのは助かるが、それを全て彼女の頭の中だけで処理されてるので、急展開に思わず困惑してしまった。

 彼女はオレが一人きりじゃなくて安心したとの事だ。

 確かに自分から孤独に走ってしまって迷惑をかけてしまった自覚はあるが、そこを指摘されるのは非常にこそばゆい。

 

「やっぱり、ユーキの助けになりたい。

 できる事は私も手伝う」

 

「いいのか? 言っちゃ悪いが、オレに付いてくると迷惑ばかりかけると思うぜ」

 

「うん、放置してるとまた暴走しそうだし。

 私が安全装置になる」

 

「人を暴れ馬みたいに言いやがって……」

 

「仕方ないんじゃないかな、ユウだし」

 

「お前もか、アレク」

 

 そんなやり取りに思わず苦笑してしまう。

 会話の流れでシェリアの協力を得られるようになったのは有難い。

 2人から微妙に悪い扱いを受けているのは気になる。

 だが、それ以上にシェリアの助力と関係の修復が嬉しかった。

 

「それじゃ、ついてきて」

 

「何処に行くんですか?

 僕たち、夕方までに済ませたい」

 

「ユーキのこれからに必要になる物、それを手に入れる」

 

 いつになく固い表情で、シェリアはその言葉を告げる。

 これは四の五の言わずについていった方がよさそうだ。

 彼女は天然気味だが、ふざける性分ではない。

 そんな彼女がこの先旅で必要になる物というなら、それは絶対に手に入れておきたい。

 

 全幅の信頼を彼女に置き、オレたちはその背中を追いかける。

 その選択を後悔する事になるとは、この時は予想だにしていなかった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

「なあ、この買い物はオレのこれからに必要なんだよな」

 

「うん、必要」

 

 彼女は自信満々に告げる。

 彼女の口角は綺麗に吊り上がっていた。

 ドヤ顔の一例として飾りたいぐらいに出来がいい。

 

「まあ、オレもシェリアの仲間だしな。

 言わんとする事は分かるぞ」

 

「理解が早い。助かる」

 

「だけど納得するかは別だぁ!

 な・ん・で! 半ばオレのファッションショーみたいになってるんだよ!」

 

 そう、オレがシェリアに連れてこられたのは洋服店だった。

 それも女性物専門の。

 その中でオレは、シェリアの選んだ服をとっかえひっかえ着せられていた。

 

 今無理矢理着せられているのは、黄色のワンピースだ。

 段のようについたフリルが花弁のようになっており、さながら大地に咲くタンポポの花のようだ。

 きっと、オレもこの光景を傍から眺めていれば可愛い女の子がいるなぁ、と思っていただろう。

 今の外見に似合っているのは否定できない。

 だが、オレ自身はこんなのを着たいとは微塵も思っていない。

 

「確かに女性化したオレが怪しまれないよう、女性物の服を買うってのは妥当な考えだ!

 だけど、オレがそれを素直に聞くと思ったか!」

 

「ユーキは変な所で合理的。

 現に今も着てくれてる」

 

「二択で渡してくるから、比較的マシな方を選んでるだけだ!

 というより最初のドレスといい、何でフリフリの服ばっかり持ってくるんだよ!

 オレたちはこれから放浪の旅に出るっていうのに、そんなの着られる訳ないだろ!」

 

「似合うと思ったから」

 

「だー! 会話が成立しないィ!」

 

 謎のスイッチが入ってしまったのか、笑みを浮かべながら新しい服をオススメしてくる。

 時折渡されるボーイッシュで機動性を阻害しない物以外は全て却下しているので、購入予定のカゴに入っているのは渡された1割にも満たない。

 何でそんなにガーリッシュな服装ばかりオレに薦めるんだよぉ!

 

「アレク。感想は?」

 

「何のですか?」

 

「服の」

 

「うーん、そうだね……」

 

 シェリアは突然にアレクへと質問を投げかける。

 まだ彼女独特のテンポに慣れないのか、質問で返す事も多い様子だ。

 だが、これはいい機会だ。

 ここでアレクが適当に切り上げる提案をしてくれれば、多数決ですぐに出られるだろう。

 期待の意味を込め、ワクワクした視線をアレクに送る。

 

「馬子にも衣装、かな?」

 

「ぶっとばすぞてめぇ」

 

 アレクから帰ってきた返答は、普通にファッションへの品評である上にオレを的確に傷つける発言だった。

 言葉の意味としては褒め言葉として言っているのは分かるが、微妙に(とげ)のある表現だ。

 まるで普段のオレの言動がガサツ過ぎると言いたいのだろうか。

 その上、着たくもない服を似合っていると言われたオレの心情を(おもんばか)ってほしい。

 

「馬子にも衣装の評価に怒る。

 つまり現状に納得してない。

 より可愛く着飾るしかない、うん」

 

「そういう意味じゃねーよ!

 勝手な解釈で自己完結するな!」

 

 謎の結論に至ったシェリアは、秒速で洋服店の端々から可愛らしい服をかき集めてくる。

 全力を尽くしたためか、彼女の息は荒い。

 いや、よく聞けばそれは疲れからくる荒さではなかった。

 フンスフンスと鼻を鳴らす、興奮していた様子の物だ。

 

「リリシアはガードが固かったから。

 ふふふ、色々と新鮮」

 

「た、助けてくれアレク!

 この猛獣は危険すぎる!」

 

 目の前の捕食者(プレデター)の魔手から逃れたい。

 だが魔法も十分に使えない今のオレでは、抵抗すらできないだろう。

 

 本日何度目か分からないアレクからの助け舟を、今度は自分から求める。

 3ヶ月の付き合いで分かった事だが、彼は意外にも口が回る。

 きっとシェリアの事も上手く言い含めてくれるだろう。

 

「しぇ、シェリアさん。

 ユウも嫌がってますし、このへnゴフッ」

 

「大人しくして」

 

 チョ、チョークスリーパーホールドォ……。

 瞬時に決まった即死技に、思わず背筋が凍る。

 技をかけるついでにアレクの首が360度回転していたが、本当に大丈夫なのだろうか。

 

「……ごめん、僕には無理だったよ」

 

「アレクぅぅううううー!」

 

 2秒で死に体と化した彼に、思わず追悼の意と無念さを込めて叫んでしまう。

 ああ、逃げ場はもう失われてしまった……。

 

「さぁ、ユーキ」

 

「ひぃっ」

 

 拝啓、リリシア様ならびにディートリヒ様。

 今、貴方がたが何処で何をしているのか、残念ながら僕の存じ上げる所ではございません。

 ですが、確かに伝えたい事があります。

 

「これ、着てくれるよね?」

 

「お、お手柔らかにお願いします……」

 

 僕は今日、男として大事な尊厳を失います。

 さようなら。

 ユーキより。

 

 シェリアの右手に握られた桃色のロリータドレスが、彼女の足音と共に迫ってきた――。

 




シェリアさんは真面目です。
ええ、真面目ですとも。
少なくとも本人の視点からすれば。
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