艦娘症候群   作:昼間ネル

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知らなかったのか?

大ヨドーからは、逃げられない…!


ヘラに抱かれて

二人の男女が鎮守府の正門に立っていた。

男の方は少しやつれた顔付きで、まだ若いのに白髪が見え頬も痩せこけていた。

そんな彼とは裏腹に、女の表情は幸せに満ちていた。

 

「ここでまた最初から、か」

 

男は少し疲れた顔で呟いた。その男の手を取って女は答えた。

 

「大丈夫です、私が着いていますよ。二人で最初から始めましょう」

 

「…ああ。ありがとう、こんな俺に着いてきてくれて」

 

「い、いえ。当然の事です。提督と一緒なら例えどんな所でも、私は着いて行きます」

 

女は少し顔を赤らめる。そんな彼女の言葉に気を引き締めた様に彼は一歩を踏み出した。

そんな彼の背中を、女は幸せそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊訓練、終わらせておきました」

 

「あぁ、ありがとう大淀」

 

ここは日本に幾つもある鎮守府の中の一つ。

最初は規模も小さな物だったが、深海棲艦の多い海域だった事もあり、今や50人以上の艦娘を抱える大所帯になりつつあった。

そんな鎮守府を纏める提督は、まだ若かったが戦略眼は確かな様で、大本営は勿論、艦娘からの信頼も厚かった。

 

そんな提督の下で働く一人の艦娘。黒い長髪に眼鏡を掛け、白いセーラー服に紺のスカートを履いた彼女。名前を軽巡洋艦の大淀と言った。

彼女は今でこそ明るく振る舞っているが、かつては今からは想像も出来ない位、物怖じする性格だった。

決して能力面で他の艦娘には引けを取らないものの、提督と大本営の橋渡しの様な後方任務が多いせいか、自分は他の艦娘に比べると戦力になっていないのでは?と、強い劣等感を持つ様になってしまった。

今の提督がこの鎮守府に着任した時も、彼女の持つコンプレックスを強く感じた。

提督は彼女に同情し、何とか彼女の自信を回復させようとした。彼女の仕事を理解し、その重要性を説明、事ある毎に必ず声を掛けた。

最初は戸惑っていた彼女だったが、いつしかその表情は自信に満ち、自分は役に立っているのだと、自負する様になった。

 

 

 

 

 

 

 

「香取型練習巡洋艦2番艦、鹿島です。よろしくお願いしますね、提督さん。ウフフッ」

 

「あ、あぁ、こちらこそよろしく頼むよ鹿島」

 

この鎮守府に新しく赴任する事になった鹿島が、その報告に訪れた。この鎮守府も戦力が大きくなるのはいいが、練度の低い駆逐艦の為にと大淀に相談した所、彼女を手配してくれたのだった。

 

「早速、今日からお仕事に取り掛からせてもらいますね」

 

「あぁ、最近は新入りの駆逐艦が増えたからね。今のままでは護衛任務もおぼつかないから。鍛えてやってくれ」

 

「ハイッ!必ず提督さんの期待に答えて見せます!」

 

意気揚々と司令室を後にする鹿島。

そんな提督に大淀が目を細めて呟く。

 

「提督、鼻の下が伸びてます」

 

「な、何を言ってるんだ大淀。そんな事はないぞ!」

 

提督の答えに無言で返す大淀。

鹿島がこの鎮守府に来て数日。鹿島もこの鎮守府に馴染んだ様で、他の艦娘との仲も悪くない様だ。

提督も彼女の事はあくまで部下だと割り切っているつもりだが、大淀からすれば彼女を女性として見てるのは一目瞭然だった。

確かに提督は鹿島の事を好意的に見ているのは間違いなかった。慣れ親しんだ部下の艦娘達とはまた違った新鮮さも含めて、彼女の女としての魅力に心奪われているのは提督本人も自覚していた。

だが、それが大淀の余計な嫉妬を買っている様で、その都度、彼女の機嫌を取る事になるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

「大淀さんは、提督さんの事どう思ってます?」

 

「えっ、な、何ですか急に!?」

 

港で艦隊訓練を終えた鹿島から報告を受けていた大淀は、鹿島の突然の質問に慌てて答えた。

 

「いえ、ここで一番提督さんと付き合いが長いのは大淀さんだと聞いた物ですから」

 

「そ、それはそうなりますが…」

 

「正直、男性としてはどう思ってます?」

 

「え、えぇ~っ///」

 

大淀は顔を赤くする。

鹿島がこの鎮守府にやって来て早一ヶ月。当初は練習艦としての自分の役割を終えたら、また次の鎮守府へと行くつもりでいた。だが、この鎮守府の提督に出会い、その考えは変わりつつあった。自分を単なる艦娘としてではなく、一人の女として扱ってくれる提督の下で、これからも働きたい、と。

鹿島も自分に女としての魅力がある事は、提督の反応から少なからず確信していた。それにこの鎮守府にはケッコンカッコカリをした艦娘がまだいないらしい。何より提督はまだ独身の様だった。

大淀が提督を慕っているのは薄々感付いていた。鹿島も彼女の事は良き先輩として慕っている。そんな彼女との軋轢を避ける為の確認、と言うのが本音だった。

 

「ここの提督さん、とても優しいし、憧れちゃうなぁ~って、思いまして」

 

「ま、まぁ確かに提督はお優しいですが…」

 

特にそれについては、大淀が誰よりも知っている。彼女を今の自分にまで立ち直らせたのは、他でもない提督なのだから。そんな提督を一人の男性として意識する様になるのに、大して時間は掛からなかった。

そんな提督を慕う部下が増えるのは、先輩としては喜ばしい事だが、女としては若干、複雑な心境だった。

 

「鹿島さんは、その…提督の事が好き、なんですか?」

 

「…ハイ。できれば部下ではなく、女の子として見てもらえればな~と。キャッ//」

 

一瞬、大淀の表情が固まったが、鹿島はそれに気付かなかった。

 

「そ、そうですか。まぁ提督も鹿島さんの事は悪く思ってない様ですし、構わないんじゃないかな~、と」

 

「…大淀さんは、提督さんの事は好きじゃないんですか?」

 

「…私は提督の部下ですから。そんな目で見た事はありません」

 

「そうですか。…成る程」

 

腕を組んで何かを考えている鹿島だったが、やがて明るい表情になると大淀に礼を言い、その場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の司令室。

いつもの様に実務を執り行う提督に、大淀はふと尋ねた。

 

「鹿島さんって、可愛いですよね」

 

「んっ?どうしたんだ急に」

 

提督は大淀の脈絡のない質問に驚いている様だった。

 

「いえ、見た目も可愛いし、私と違って明るいですから、男の人はあんなタイプが好きなんじゃないかと…」

 

正直、大淀の言う通りなのだが、その気持ちが顔に出ない様に振る舞いつつ、また大淀の悪い癖が出たかと思った。彼女はどうも自分と他人を比較したがる所がある様で、それだけならいいが結果「どうせ私なんて…」と自己嫌悪に陥ってしまう。

そんな大淀をどうやって慰めようかと思案していると、大淀から思ってもよらない一言が。

 

「彼女、提督さんになら、何をされてもイイそうですよ」

 

「えっ?」

 

それはどういう意味だ?と思ったが、聞くとまた彼女の自信を傷付けてしまうのでは?と思い、あえて口にしなかった。

 

 

 

 

次の日、大淀は月に何度かある、大本営からの書類を受け取りに行く、と言う名目で鎮守府を一日留守にした。

提督は随分急だなとは思いつつも、同時に別の事を考えていた。

深夜、提督は鹿島に司令室に来る様伝えた。

 

 

 

 

「失礼します。提督さん、こんな夜中にどうしました?」

 

「あぁ、実はちょっとした野暮用でね」

 

「野暮用、ですか」

 

「鹿島ともっと仲良くなりたいな、と思ってね」

 

そう言って提督は鹿島の後ろに立ち、彼女の肩に手を置く。

 

「あ、あの、提督さん?」

 

「鹿島。俺が君の事好きなのは気付いているだろ?」

 

「えっ?そ、それはその…///」

 

鹿島が喋り終わる前に提督は後ろから鹿島に抱き付いた。

 

「てっ、提督さんっ、止めて下さいっ!」

 

「何でだ?お前も俺の事好きなんじゃないのか?」

 

「た、確かに提督さんの事は好きですが、こんな形で結ばれるのは嫌ですっ!」

 

離れようとする鹿島を提督は強く抱き締める。

 

「前から好きだったんだ。いいだろ鹿島、俺の想いを受け止めてくれ!」

 

「イヤっ、お願い、離してっ!」

 

鹿島に覆い被さろうとする提督だが、鹿島にはね除けられ机に頭をぶつける。鹿島は涙ぐみながら、立ち上がった。

 

「私っ、私っ…。提督さんの事は好きでした。でも、今の提督さんは嫌いですっ!!」

 

「かっ、鹿島っ、待ってくれ!!」

 

鹿島は泣きながら司令室を出ていった。

暫くは、茫然自失としていた提督だが、やがて正気を取り戻したのか、後悔の念に襲われた。

 

「クソッ!俺は何て事をっ!」

 

提督は椅子を蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿島さんに何かしたんですか?」

 

翌日、大本営から帰ってきた大淀は誰から聞いたのか、昨日の事を聞いてきた。

 

「…いや、その」

 

提督は言葉に詰まった。まさか大淀が居ない隙に鹿島に手を出そうとしました、等と言える筈もなく、ただ俯くだけだった。

 

「ここに来るまでに少し噂になってまして、何があったのか聞いてみたら、どうやら鹿島さんがどうとか…」

 

「い、いやっ、何もない。確かに鹿島を呼んだのは本当だが、手は出してないっ!本当なんだ、信じてくれ!」

 

暫くは軽蔑する様な目で提督を見ていた大淀だったが、やがて軽くため息を付いた。

 

「大丈夫です、信じますよ。私は提督の味方です」

 

「大淀…」

 

「とりあえず、他の艦娘達には何か誤解があった様だと言う事にしておきましょう。鹿島さんにも提督は反省していると伝えておきます」

 

「あぁ、すまないがそうしてくれると助かる」

 

大事になりそうにないと分かると、提督は安堵した様に椅子に深く腰掛けた。

 

「…まぁ、彼女も女性の私から見ても、男性が誤解を招く様な感じはありましたから」

 

大淀は提督を慰める様にフォローする。提督は何も答えないが、彼女に感謝していた。と同時に、まさか自分が大淀に助けられるとは、と彼女の成長振りに驚きつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令室は緊迫していた。

ある作戦が始まり、提督は大淀を通じて旗艦の艦娘に指示を出していた。

ところが、敵の方が一枚上手なのか、思うように作戦が進まず、その度に大淀の無線に悲鳴と不満が届いた。

 

「提督、既に大破した艦娘も出ています。これ以上の進撃は無理かと…」

 

「…分かった。長門に作戦を中止して、帰還する様伝えてくれ」

 

「…了解しました」

 

提督は頭を抱えて椅子に座った。

 

 

 

 

 

 

「提督、あの指示はどう言う事だ?」

 

作戦の旗艦を務める長門が、不満を隠そうともせず提督に聞いた。

長門が怒るのも無理はない。実際戦っているのは彼女達なのだ。幾ら提督の命令と言っても、みすみす死にに行く様な命令に従う気はない。まして長門は戦場で部下を統率する立場にある。

 

「あの時は、我々の方が優勢だった。それが急に撤退等と。と思えば、戦力的に引くべき相手に突撃しろと…!」

 

「お前の不満はよく分かる。だが、あの時はそれが最善だと判断したからだ。…結果的にはお前の意見の方が正しかった様だが。すまない」

 

提督は長門の目を見れずにいた。

 

「提督。貴方もよくやってくれているのは私も認めている。だが、ここ最近の貴方は少し変だ。疲れているのではないか?」

 

「…そうかもしれないな」

 

「貴方が間違っているとは言わない。だが、貴方の命令一つで我々は全滅してしまうのだ。それを忘れないでくれ」

 

長門は司令室を去った。

苦虫を噛み潰した様な表情の提督を、大淀は黙って見つめていた。

 

 

 

 

数日後、ある海域に現れた深海棲艦の迎撃に向かった艦娘達だが、戦場は混乱していた。

敵の強さもさることながら、指令部の、提督の指示がことごとくずれていたからだ。まるでワンテンポ遅れている様にずれた命令が届く。その度に長門は無線で大淀に本当かと問い質す。だが「提督はそう仰っています」の答えが帰ってくるだけ。

既に周囲を敵に囲まれつつある。対してこちらは大破した者も多数。士気も低下しつつある。

長門は撤退を指示した。

 

 

 

 

 

 

「長門、何故撤退した」

 

「何故、何故だと?」

 

長門は怒りを顕に答えた。

 

「あのままあの海域に留まれば、敵に挟まれ、我々は前後から攻撃を受けて沈んでいた。それなのに進めと言うのか!?」

 

「…!確かに、お前の言い分は正しいのかもしれない。だが、無線での報告では敵は目の前だけと聞いたが」

 

「それは数十分前の話だ。戦況は刻一刻と変化している。敵は待ってはくれないのだぞ!!」

 

「…そうか。どうやら私の判断ミスだったらしい。分かった。お前の命令無視の件は不問にしよう」

 

長門は然も納得がいかないといった表情で司令室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

〈くそっ、何がいけなかったんだ?状況的にはそれが最善だった筈だ。今までだってそうだったじゃないか!一体なんでこんな事に…!〉

 

提督は焦っていた。ここ最近の戦いでの采配の不甲斐なさを痛感していた。以前はこうではなかった。敵の情報を元に戦略も立てている。だが、実際にはまるでこちらの作戦を読まれているかの様に的外れになってしまう。

一体何が駄目なのか?既に轟沈も何人か出ている。艦娘の中には、以前の鹿島の件もあって提督に不満を唱える者も出始めていた。提督は何もかもが上手く行かない事に苛立ちを覚えていた。

 

「元気を出して下さい提督。長門さんが何と言っても、私は提督の判断を信じます」

 

「…」

 

いつの間にか机の前に立っていた大淀が、優しく微笑む。

 

「大丈夫、大丈夫ですよ提督。今はたまたま上手く行ってないだけなんです。焦らず落ち着いて行けば、きっと上手く行きます。だから「うるさい!」

 

提督は大淀に平手を喰らわせた。大淀は小さな悲鳴を上げて床に突っ伏した。

 

「俺の命令一つで味方は沈む!そうならない為にあれこれ考えて出した指示はことごとく外れる!お前に俺の気持ちが分かるのか!?」

 

「提督…」

 

「俺はちゃんと考えてる!必死にやってる!その結果がこれなんだ!…何でなんだ?前は上手くやっていたのに。一体何を間違ったと言うんだ…」

 

提督は頭を抱え、側に大淀がいるのも忘れて涙を滲ませていた。

そんな彼を大淀は優しく抱き締めた。

 

「…同情なんかするな。お前も俺の事を無能だと思っているんだろ?」

 

「…そんな事思った事もありません。大丈夫、あなたはやればできる人です。今は少し上手く行かないだけなんです。きっと良くなります。例えどんな事があっても、私はあなたの側に居ます。だから涙を拭いて下さい」

 

そう言うと大淀はさっきよりも強く提督の頭を抱き締めた。

 

「…大淀」

 

「あっ…」

 

提督は椅子から立ち上がって、大淀を強く抱き締めた。彼女もそれは意外だった様で、顔を赤くして狼狽している。

 

「俺の…側に居てくれるのか?」

 

アワアワと狼狽していた大淀も、提督の言葉を聞くと優しく抱き返し、一筋の涙を流して答えた。

 

「はい…。私で良ければ…ずっとお側に居ます…」

 

彼女は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、大淀。頼まれてたやつ、手に入ったよ」

 

「ありがとう、明石。後で取りに行くわ」

 

明石は怪訝そうな顔をして大淀に尋ねた。

 

「まぁ、あなたの頼みだから、あの位どうとでもなるけど、何に使うの?」

 

「…迷惑は掛けないわ」

 

「…OK、まっ、それ以上は聞かないわ。私が渡した事は内緒でお願いね」

 

「…恩に着るわ、明石」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日の鎮守府はいつも以上に慌ただしかった。

それもその筈、深海棲艦の一大反抗作戦が始まったからだった。

ここ最近は比較的動きが無かった物の、数日前に解放海域の近隣に一大勢力が確認された。これを受けて他の鎮守府との連携での迎撃作戦が開始されたのだった。

既に作戦は立案され、艦娘達も出撃を今や遅しと待ち構えていた。

 

夕方、司令室には提督と大淀の二人が居た。

だが、提督の方は何やら落ち着かない様子だった。

 

「提督、気持ちは分かりますが、落ち着いて下さい」

 

大淀は机の前を行ったり来たりする提督が気になっていた。

 

「あ、あぁ。それもあるんだが…」

 

と言うと、提督は深く深呼吸して机引き出しを開けた。何やら小さな箱を取り出し、大淀の前に差し出した。

 

「えっ、提督っ、それって…!」

 

「あぁ、ずっと迷っていたんだがいい機会だ。思いきって言うよ」

 

提督は箱を開けた。中には銀色に光輝く指輪が入っていた。

 

「大淀、この作戦が終わったら俺とケッコンしてくれないか?」

 

「…てっ、提督っ///…!」

 

「色々不甲斐ない所もある。君に当たってしまった事もあった。でも君は、そんな俺の側に居てくれた。それでようやく気付いたんだ。俺には君が必要だと…。

 

「受け取って…くれるかい?」

 

大淀は涙を溜めて提督を見つめている。暫くすると、箱を持つ提督の掌を下から支えて答えた。

 

「はい…はいっ!喜んで…!」

 

提督は大淀を優しく抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、作戦は開始される…筈だった。少なくとも艦娘達は皆そのつもりだった。

だが、いつまで経っても提督の召集が掛からない。まさか作戦は延期されたのか、とも思われたが、それならそれで説明があるはず。

業を煮やした長門が、皆を代表して司令室に向かった。すると、長門と同じ事を思ったのか、大淀が司令室のドアを叩いていた。

 

「大淀、提督は何をしている?もう作戦の開始時間だぞ!?」

 

「わ、私もそう思って来たんですが、中から鍵が掛けてあるのか入れないんです」

 

「…大淀、下がっていろ」

 

「え?長門さん何を…」

 

「フンッ!!」

 

長門は強烈なタックルで司令室のドアを叩き壊した。

粉々になったドアから入った二人が見たものは。

 

酒に酔いつぶれて寝ている提督だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、提督は長門に叩き起こされたものの、そんな状態でまともな判断ができる訳もなく、散々な結果だった。

作戦自体は他の鎮守府の戦力で無事、成功に終わった。だが、その作戦に遅れて参加したこの鎮守府が大本営に厳しい詰問を受けるのは当然の事で、それが酒に酔い潰れていたとなると申し開きも出来なかった。

提督は首を覚悟していた。

だが、大本営からの査問に大淀が涙ながらに弁明し、どうか提督を首にしないで欲しいと頭を下げて懇願した結果、提督は別の鎮守府に異動、となった。

新しく異動する鎮守府は、戦略的には大した価値も無く、誰が見ても左遷だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さなバッグを持った男が立っていた。

つい昨日まで自分が提督を勤めていた鎮守府を、名残惜しそうに眺めていた。

迷いを断ち切る様に、彼は鎮守府に背を向けた。その彼の前によく見知った顔の彼女が立っていた。

 

「…大淀?」

 

「提督…」

 

提督は暫く大淀を見つめていたが、やがて自嘲気味に呟いた。

 

「色々すまなかったな。お前のお陰で首だけは繋がったが、最後まで迷惑を掛けてしまった様だ…」

 

「いえっ、迷惑なんて思っていません!」

 

「ありがとう。お前には本当に感謝しているよ。次の提督が俺みたいな奴じゃない事を祈るよ」

 

「…次の提督なんて、いませんよ」

 

「…?どういう意味だ」

 

次の瞬間、大淀は提督に近付くと彼に抱き付いた。

 

「お、大淀っ?」

 

「私の提督はあなただけです。忘れたんですか?ずっとあなたの側にいるって言ったじゃないですか」

 

「何を言って…」

 

大淀は提督から離れ、彼の目を見つめて力強く言った。

 

「私も一緒に行きます」

 

提督は驚いた。今回の件は彼の失態でしかない。むしろ大淀は被害者に当たる。その彼女が何故、自分の左遷に付き合うのか、と。

 

「提督を補佐するのは私の務めです。ですから提督の行く所なら、どこでも行きますよ。…それにもう異動届けも出しちゃいましたから」

 

大淀は照れくさそうに笑った。

 

「それに、提督もヒドいです!私とケッコンしたのに、勝手にどこか行っちゃうなんて。あれは嘘だったんですか?」

 

「いや、だが俺はもうここの提督じゃない。それにこんな俺には愛想が尽きたんじゃないのか?」

 

「…誰にだって間違いはあります。私だって昔は自分に自信がありませんでした。でもそんな私に手を差し伸べてくれたのは提督です。

 

「今度は私が提督を支えます」

 

「大淀…」

 

提督は涙ぐみながら、大淀を抱き締めた。

さっきまでは、失意の念しか無かった。だが、今は違う。こんな自分を支えてくれる彼女の為にも、もう一度頑張ってみよう、そう決意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直、こんな事になるとは思いませんでしたが、結果だけ見ればこれで良かったのかもしれません。

あの日、私は初めてあの人に会いました。

一目惚れでした…。

この人が私の提督!私は雷に打たれた様な衝撃を覚えました。

当時の私は、皆と一緒に出撃する機会が少なかったのがコンプレックスで、少し卑屈になっていました。

出撃する機会が無い訳ではありませんが、どちらかと言うと、私は大本営や他の鎮守府とのパイプ役になる事が多く、出撃の機会はどんどん減っていきました。

その結果、練度にも差が開き始め、私は自分が役に立っていないのでは?と強い自己嫌悪に陥りました。

 

そんな私に手を差し伸べてくれたのが、提督でした。

何をやるにも消極的になりがちだった私を誉めてくれ、如何に私の任務が大事なのかも教えて貰いました。

そのお陰で私は自分が皆の役に立っているのだと、再確認できました。心なしか他の皆の私を見る目も、変わってきた気がしました。

あぁ、提督。お慕い申し上げています!

 

そうこうしている内にこの鎮守府にも艦娘が増えてきました。それはいいです。

問題は提督に、私の提督に良からぬ思慕を抱く者も現れ始めたと言う事です。

その中でも鹿島さん…!あの娘は厄介でした。

ここの艦娘達は、提督を慕っていても露骨に態度に示す様な事はありませんでした。だが、あの娘は堂々と提督とケッコンできればと言い出しました。

 

私の提督に…!!

 

それに男性はああ言ったタイプに弱い様です。鹿島さんと話している時の提督は、始終口元が緩んでいました。

悔しいですが、提督は彼女の事を好きな様です。

今すぐにでも追い出したい所でしたが、そんな事を言えば私が嫉妬していると思われてしまうだけです。

私は逆に考える事にしました。

 

…提督をその気にさせてみては、と。

 

提督が彼女に下心を持っているのは一目瞭然。当の提督は、隠してるつもりなんでしょうが…。

そう考えた私は提督に彼女もその気なのでは?と唆してみました。あえてその日に任務で鎮守府から離れる事もしてみました。

鎮守府に帰ってくると、艦娘達が何やらひそひそ話をしていました。私は明石に何かあったのか聞いてみました。

案の定、提督が鹿島さんにちょっかいを出した様です。

正直、鹿島さんが提督の誘いに乗ってしまうのでは、との不安はありましたが、私の予想通りになりました。

私はその事を提督に聞くと、火消し役を買って出ました。

あの提督が、私を頼ってくれた…!こんな嬉しい事はありませんっ!!

それにしても…。フフっ、あの時の提督の困った顔。今思い出しても可愛かったです♪

 

この事件が引き金になったのか、私は一気に艦娘達の提督への信頼を落とす事を考えました。

出撃した艦娘達に提督の指示を伝えるのは私です。

私はこの立場を大いに利用させてもらう事にしました。

 

と言っても、出鱈目な命令を伝えては、たちどころに私が怪しいとバレてしまいます。

私は考えた結果、命令を伝えるタイミングを一つずらす事にしました。

今の状況ではなく、その一つ前の状況を提督に伝える。提督はその状況に合った命令を下す。私はその命令をそのまま伝える。結果、今の戦況とは違う的外れな命令が伝わる訳です。

これでは、勝てる戦いも勝てません。まぁ、そのせいで犠牲になった娘には、私も気の毒だとは思いますが。

 

私の計画通り、艦娘達は提督に不信感を抱く様になってしまいました。特に長門さんは、皆を代表してその感情をぶつけに来た程です。

私はそんな提督を慰めました。提督も苛立ってはいましたが、私は健気に支え続けました。

その結果、提督は私にケッコンの約束までしてくれました!

それだけじゃありません。

あの…提督と…は、初めて…

一夜を供に…しました///

私も知識だけはありましたが…やっぱり最初は恥ずかしいものですね//

気持ち良かった様な、痛かった様な…///

あまりよく覚えていませんっ…///

 

その後は簡単でした。作戦前日の夜、私は提督と一緒でしたから、明石に手配してもらった睡眠薬を提督のお酒に入れるのは造作もありませんでした。

司令室の鍵も提督からこっそり抜きとっておきました。提督が寝たのを確認して、私は部屋を後にしました。

後は誰かが来るタイミングを見計らって、さも私も今来た風に装うだけ。

長門さんが扉を壊すのは予想外でしたが…。

結果、提督は酔い潰れている所を叩き起こされ、慌てて任務に取り掛かろうとしましたが…。

 

正直、提督が首になるのでは、と私にとっても大きな賭けでしたが、私が必死に懇願した結果、首は繋がった様です。

まぁ、結果として今の小さな鎮守府に飛ばされてしまいましたが。

 

ですが、これも私にとっては好都合です。

ここの艦娘は私を入れても十数名。しかもどうして提督がここに来たかも、事前に情報を流しておきました。恐らく提督にあまり良い印象は無いでしょう。

 

私と提督は今、この新しい鎮守府の正門に立っています。

提督は少し落ち込んでいる様ですが、大丈夫、私が着いています。

また目障りなお邪魔虫が寄り付いても、私が全部払い落としてあげますからね。

だから私を…私だけを見て下さい。

私の…私だけの…

 

提督…。

 

 

 

 




今回はヤンデレの一つ、孤立誘導型をテーマにしてみました。自分で好きな相手を裏から追い詰め、自分で助けて依存させるタイプだそうです。
拉致って監禁、脚バッキンのミザリータイプよりはマシ、なのかな…?
こんなタイプになら捕まっても悪くはないかなぁ…。





おまけ 艦娘人気投票結果発表!

1位 オーヨド 5071票「みんなありがとう」
2位 オーヨド 3072票「フン」
3位 オーヨド 1802票「提督に感謝」
4位 オーヨド 721票「くっ、オーヨドに負けた!」
5位 オーヨド 514票「順当な順位ですね」

キミのお気に入りの
オーヨドは何位だったかな?
たくさんの投票、
本当にありがとう!!!

※ブルーレイ発売記念でハジケてみました。
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