艦娘症候群   作:昼間ネル

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フタタビ…コノ話ヲ…
閲覧…シタイノカァ…!?
キサマラガ…ッッ…!

(またこの話を読んでくれるの?
中枢棲姫カンゲキ!!リメイクしたから
ゆっくりしていってネ!)訳:戸田 奈津子

新しい話はこの次に出すので許して下サイヤ人。深海チームは中々出せないので、書いてて楽しくなってしまいました。



メールシュトロームの中心

「うう…提督…逃げて…」

 

至る所から火の手が上がり、遠くの海では砲撃音が鳴り響いている。そんな中に一人の男が佇んでいた。

苦しそうに地面に這う女が、彼に手を翳した。

だが、そんな彼女の声は届いていないのか、彼は辺りを右往左往するばかりだった。

やがて彼女に気付いたのか彼が駆け寄ろうとすると、その瞬間を待っていたかの様に、目の前の海に一斉に水柱が上がった。そしてその中から現れた、人であって人ではない者達。

二つのツノを生やした黒いドレスの者。

小さなツノに足まで達する白髪の者。

白い髪に重々しく光る黒い鎧を着た者…。

彼女達を筆頭に十数人の女達が妖気を放ちながら、男を取り囲んだ。

男は慌てて懐から銃を取り出した。

 

辺りに銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一日…いや、二日か」

 

浜辺の横倒しされた丸太に座る男が、海を見ながら呟いた。

 

〈今頃、鎮守府の皆は俺を探してるだろうな〉

 

「食べ物ヲ持ッテキタ…」

 

彼は背後に人の気配を感じた。

その声に振り返ると、黒い袴の様な服を着た少女、駆逐古鬼が大きな箱を抱えていた。少女は男の前に箱を置くと背を向けた。無言で立ち去ろうとする少女に男は声を掛けた。

 

「俺を殺さないのか?」

 

〈…そんな命令は受けていない〉

 

彼女、駆逐古鬼はさっきと違って一言も発していない。だが彼の頭にはっきりと彼女の声が響いた。彼女達深海棲艦は海で生まれた生物の為か、人間には無い能力を持っている様で、このテレパシーもその一つらしい。

 

「良かったら一緒に食べないか?一人の食事は寂しくてね」

 

彼は肩をすくめ、おどけて見せたが、少女は顔色一つ変えず彼の顔を一瞥した。

 

〈…それはオマエが食べる為に持ってきた。私が食べる訳にはいかない〉

 

「そうか…ダイエット中だったかな?」

 

〈…だい…えっとって…何だ?〉

 

「一緒に食べてくれたら教えるよ」

 

〈…〉

 

少女は背を向けると海に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はある鎮守府で提督を務めていた。

これと言って評価も高く無いが、上手く艦娘達を纏め評判も悪くなかった。

戦いは均衡状態を保ち一進一退を繰り返していたが、ある日それは一変する。

ある日から彼の艦隊は、(ことごと)く勝利を手にする事になった。一度ならまぐれかもしれない。だが彼の作戦は面白い様に成功し、着々と海域を拡げていった。

人も艦娘も、なまじ勝ちが続くと慢心するもので、いつしか自分達は強いのだと信じて疑わなくなった。

 

ある海域に敵が集結しているとの報を受けた提督は、主力艦隊をその海域に向けた。

だが、いざ戦いが始まると敵はまるで戦う意思が無いかの様に散り散りに逃げ出した。

何はともあれ勝利に沸き返る艦娘達の下に、悲痛な無線が届いた。

 

『鎮守府襲撃!!』

 

その時になって初めて艦娘達は気付いた。これが連中の狙いだったのだと。

艦隊は全速力で鎮守府に帰還した。幸いにも鎮守府は大した被害も無く艦娘達も安堵したが、その彼女達を迎える者は姿を現さなかった。彼女達はすぐに理解した。

 

提督は拐われたのだと。

 

鎮守府で報告を待っていた提督は、予想外の知らせを受けた。鎮守府近海に敵が現れたと。

主力のほとんどが出払っている鎮守府は容易に侵入を許し、あっと言う間に占拠された。逃げようとした提督は、黒い影を見たと思った瞬間、意識が途切れ、気が付けば無人島に寝ていた。

目を覚ました彼に一人の少女が近付いてきた。駆逐古鬼だった。当然身構えた提督だったが、彼女は自分に危害を加える気は無いらしい。それどころか日に何度か水と食料を置いていく。途方にくれながらも彼は、どうやってこの島から脱出するか思案を巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐古姫は些か不機嫌だった。

部下の駆逐古鬼と共に待機していた彼女は、鎮守府を一気に攻め落とすつもりでいた。ところが戦艦棲姫からの命令は彼女が想像すらしない事だった。

 

『艦娘達を束ねる提督を拐え』

 

血気に逸る駆逐古姫だったが、まさか命令に背く訳にもいかず、提督を拐うことに成功した。

駆逐古鬼に予め用意させた島に彼を囲うと、後は何もしなくていいと告げられた。

 

〈一体何で、あんな人間を…〉

 

ふと浜辺を見ると、彼女に付き従う駆逐艦が集まっていた。

 

「くそっ…!!」

 

駆逐古姫が左手に持つ鬼の様な艤装で乱射すると、駆逐艦達は慌てて海の中へ潜って行った。

 

「あの…」

 

「…ん?」

 

駆逐古姫が振り返ると、彼女と全く同じ姿の駆逐古鬼が立っていた。

 

「食事を…運んで来ました」

 

「…そうか」

 

駆逐古鬼は一礼すると、その場を去ろうとしたが、何かを思い出したかの様に足を止めた。

 

「古姫サマ…一つ聞きたい事が…」

 

「聞きたい事…何だ?」

 

「だい…えっと、とは何ですか?」

 

「何だそれは…あの御方にでも聞いてみればいいんじゃないか?」

 

「…!この島に…来て!?」

 

「今頃、あの人間に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエ達は…」

 

食事を終えた提督がその場を立ち去ろうとすると、再び波の音が上がった。てっきり駆逐古鬼が引き返して来たのかと思い振り返ると、そこには三人の女が立っていた。

白い長髪を片方で束ね、黒いセーラー服の様な物と黒い甲冑を着けた者。

黒い長髪、額に二本のツノを生やした黒いドレスを着た者。

そして、その後ろに立つ、三人の中で最も強大な存在感を放つ者…。

 

「オマエが…俺を連れて来たのか」

 

〈そうだ…〉

 

提督の頭に透き通った女の声が響いた。

手前の二人、空母棲姫、戦艦棲姫は(うやうや)しく道を開けると、彼女は提督の前に進み出た。

足元まで届く白い髪、一糸纏わぬ均整の取れたその姿に一瞬提督は見とれたが、よく見れば規則的に空いた縫い目の様な隙間から紅い光が漏れている。

その少女の様な顔を上げると、彼女は口を開いた。

 

〈私は中枢棲姫…オマエ達がそう呼ぶ者だ…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日以来、彼女、中枢棲姫は毎日の様に提督の元を訪れた。提督も、最初は戸惑っていたが、彼女に敵意が無い事…少なくとも自分を殺すつもりは無いのだと知ると、次第に彼女の話に耳を傾ける様になった。

 

「…じゃあ、俺を殺すつもりは無いんだな?」

 

〈そのつもりなら、最初から拐ったりはしない〉

 

〈頭の中に声が響く…凄いな〉

 

「…人間ノ様二、口デ話シタ方ガイイカ?」

 

「い、いや、そうじゃなくて。まだ慣れないだけだから」

 

〈そうか…人間は不便だな〉

 

「まぁ、その美声が聞けないのは残念だが…」

 

「ヤハリ口デ…」

 

「い、いや!さっきので頼むよ」

 

〈そうか…〉

 

〈声はいいけど、カタコトなんだよな…〉

 

「そんな事より…どうして俺を拐ったんだ?何か聞き出したいのか?」

 

〈そうではない…。ただ、言っても理解できないかもしれない。私自身でも解らないのだから〉

 

「自分でも…解らない?」

 

〈それについては…追い追い話そう。ここから逃げ出そうとしなければ危害は加えない〉

 

「そんな心配は無用だよ。泳ぐのは得意じゃないし、アイツらが水遊びは駄目だとさ」

 

提督は目の前の海に目を向けた。そこには巨大な魚の様な敵駆逐艦、兜の様な黒い化け物の口元からそっと顔を出し、こちらを伺う潜水艦達で溢れかえっていた。

 

〈アイツらにはオマエの護衛を命じてある〉

 

「護衛…ここにはお前の部下しか居ないだろう?」

 

〈オマエを取り返すそうとする奴らが来るかもしれない〉

 

「…面倒掛けて、すまないな」

 

〈食料は足りているか?何か必要な物があれば部下に持って来させよう〉

 

「そうだな、鎮守府と連絡を取る無線が欲しいかな」

 

〈構わない〉

 

「…本気か?」

 

〈だが、そんな事をしなくても私が直接伝えに行こう…部下を全員引き連れて〉

 

「…暫く休暇も悪くないか」

 

〈…この島にある物は好きにしていい〉

 

「そうか。請求書は鎮守府に廻しといてくれ」

 

〈フッ…もう代金は貰っている〉

 

「…え?」

 

〈…今日はもう帰ろう。明日、また来る〉

 

「あ、ああ」

 

中枢棲姫は立ち上がると、黒い獣の様な艤装に乗り海へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中枢棲姫が自身の島へ戻ると、戦艦棲姫と空母棲姫が彼女を出迎えた。いつもなら特に用も無ければここへは来ない二人が揃っている事に彼女は疑問を感じた。

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ…」

 

「姫、聞きたい事があります」

 

「ん?」

 

二人の後ろに一人の少女が立っていた。駆逐古姫だった。

 

「こ、こら!」

 

駆逐古姫の姿を見た空母棲姫が彼女を手で制しようとするが、彼女は構わず口を開いた。

 

「あの人間をどうするつもりですか?」

 

「…どうもしない」

 

「今ならアイツの鎮守府は弱体化しています。一気に攻めるべきです!」

 

「駆逐古姫よ、姫はその必要は無いと言っている」

 

「な、何故です!私と空母棲姫(アナタ)が一緒に攻めれば…!」

 

「アナタにもいずれ解るわ…あまり嬉しくはないけれど」

 

「…?戦艦棲姫、それはどういう…ハッ!」

 

「…」

 

途中まで言い掛けた駆逐古姫だったが、背中を向ける中枢棲姫に無言の圧力を感じ、それ以上話すのを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、今日もいい天気だね」

 

朝、提督は起きると必ず島の海岸へと向かう。すると、それを待っていたかの様にどこからともなく一人の少女、駆逐古鬼が彼に近付いてきた。

 

〈食事を持ってきた〉

 

「ありがとう。名前は…何て言うんだい?」

 

〈名前は…無い〉

 

「そうか。でも名前が無いと呼びづらいな。そうだな…不知火(しらぬい)って読んでもいいかな」

 

〈シラ…ヌイ?何だそれは?〉

 

「俺の鎮守府に居る艦娘の一人だよ。何と言うか雰囲気が似てると思ってね。嫌だったかな」

 

〈…シラヌイ〉

 

「お、気に入ってくれたみたいだな。じゃあよろしく不知火」

 

〈…ああ〉

 

「じゃあ不知火、一つ頼みがあるんだ」

 

〈何だ?〉

 

「良かったら一緒に食べないか?前も言ったけど一人じゃ寂しくてね」

 

〈…でも、それはオマエの〉

 

「一緒に食べてくれないと、不知火が飯を食べちゃったって言い付けちゃおうかな…」

 

〈わ、私はそんな事はしない!〉

 

「あ、インスタントのラーメンか。これ好きなんだよ。食べた事ある?」

 

〈…〉

 

「凄い美味しいんだよ。これ食べないなんて人生損してるよ」

 

〈…そんなに…オイシイの?〉

 

「ああ。食べないなら俺が全部食べちゃおっかな…」

 

〈…私も…食べる〉

 

「ハハ、嬉しいな。他の奴には内緒にしとくからさ、な?」

 

〈…うん〉

 

駆逐古鬼は内心釈然としなかったが、彼に言われるまま腰を下ろした。彼女は気付いていなかったが、その表情はどこか嬉しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈さっきまで駆逐古鬼(あの娘)が居た様ね〉

 

食事を終えた提督が砂浜を散策していると、彼を待ち構えていたかの様に中枢棲姫が立っていた。

 

「…やあ。今日は早いんだな」

 

〈そうか?少しいいかしら〉

 

「俺に拒否権は無いよ…」

 

そう言うと彼は砂浜に座った。暫く彼を見つめていた中枢棲姫も彼の隣へと腰を下ろした。

 

「なあ、前から思ってたんだが…一つ聞いていいか」

 

〈…何だ?〉

 

「お前達の…服って、誰が作ってるんだ?」

 

〈服…?部下達が着ている物か?〉

 

「ああ。その…一人一人違うから、自分で作ってるのかと思って」

 

〈私は着ないから解らないが…今度聞いてみよう〉

 

「いや…別にそこまでしなくてもいいが」

 

〈…私も着た方がいいか?〉

 

中枢棲姫の言葉に、提督は彼女の身体を眺めた。確かに所々人とは違いはするが、見た目は成人女性とほぼ変わりない。改めて見れば大きくはないが形のいい胸、締まった腰と、男なら思わず見とれてしまっても無理はなかった。

 

「い、いや…今のままの方が…嬉しい…かな」

 

〈…どうして胸を見るのだ?〉

 

「いや…見るなと言われてもなぁ」

 

〈私の仲間の中に胸が大きい者が居たが、一部の艦娘に目の敵にされていたと聞いた事がある。やはり不快なのでは…?〉

 

「そいつもしかして、帽子被ってる軽空母の艦娘じゃ…」

 

〈気になるなら隠そう…〉

 

「いや、別にそのままでも。ミロのビーナスみたいで綺麗だよ」

 

〈き、綺麗…私が…か?〉

 

「あ、ああ…」

 

〈…その、“びいなす”と言う者よりも?〉

 

「ウエストは負けてないんじゃないかな。ビーナスが見たら嫉妬するかもな」

 

〈そ、そうか…私は綺麗なのか…〉

 

彼女は言葉を反芻するかの様に何度もブツブツと呟き、暫くは提督の問い掛けも届いていない様だった。

その後、一時間程会話をすると、彼女は島を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら…」

 

戦艦棲姫は目の前を歩く駆逐古鬼に目を止めた。彼女は中枢棲姫から提督の世話係りを任されており、今日も輸送ワ級に届ける食事を積んでいる様だった。それだけなら戦艦棲姫も気に止めなかったが、今日はいつもとは違う事があった。

 

「ねぇ、アナタ…彼の所に食事を届けに行くのよねぇ」

 

「はい、今から向かう所ですが…」

 

「それにしては…量が多いんじゃないかしら。彼に頼まれたの?」

 

「そ、そういう訳では…」

 

「…ねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、提督がいつも通り海岸に座っていると輸送ワ級が島に近付いてきた。だが、昨日とは違う事が一つだけあった。

 

「…今日はあの娘じゃないのか?」

 

〈“しらぬい”じゃなくてガッカリした?〉

 

「…聞いたのか?」

 

〈ええ…アナタとはずっと話したかったの。姫が来る迄の間だけどネ〉

 

「そうだな…まあ座れよ。何も無くて悪いな」

 

〈お構い無く…で、合ってるかしら?〉

 

戦艦棲姫は腰を下ろした。

 

〈ねぇ…アナタ、駆逐古鬼に何か言ったの?〉

 

「何かって…あの娘が何か言ったのか?」

 

〈あの娘、妙に食料を多く持って行こうとしたから、気になって聞いてみたのよ。そうしたらアナタと一緒に食べるからって〉

 

「あの娘が…?ああ、一緒に食べないかとは言ったが。まずかったかな」

 

〈そうじゃないわ。ただ…驚いてるのよ。私達と違って駆逐の娘達は人間が嫌いな娘が多いから。あの娘が自分からそんな事するなんて…〉

 

「そうか…それは嬉しいな。無理に付き合ってくれって言ったのは俺だ。叱らないでやってくれ」

 

〈そうね…じゃあ一つ聞かせてくれる?〉

 

「…何を?」

 

〈私って綺麗?〉

 

「…どうしたんだ急に」

 

〈アナタ、姫に聞いたんでしょ?私達の服って自分で作ってるのかって〉

 

「アイツ…本当に聞いたのか」

 

〈服は着ない方がいいとも言ったのよネ?〉

 

「…まあね」

 

〈じゃあコレは邪魔かしら?〉

 

「えっ!?」

 

戦艦棲姫は黒いワンピースの肩紐に指を掛けると、グイグイと引っ張ってみせた。指に引っ張られた衣服が大きく広がり、半分以上露出している胸元がこぼれ落ちそうになった。

 

〈ウフフッ♪どこを見てるのかしら?」

 

「悪かったな」

 

〈別に怒ってるんじゃないのよ。だってそうでしょ?私、人間の女に負けない位、綺麗って事でしょ?〉

 

「まあ…俺も驚いてるよ。深海棲艦ってのは、もっとおどろおどろしい化け物かと思ってたが、こんな美人揃いとはね」

 

〈び、美人?そ、そう…私、美人なの…。嬉しい事言ってるくれるわね〉

 

「ああ、そんな君に頼みがあるんだ」

 

〈ウフフッ、何かしら。ここから逃がしてほしいって頼み以外なら聞いてあげるわよ〉

 

「…暇潰しに雑誌でも欲しいな。ついでにモーターボートも」

 

〈雑誌…の方は用意させるわ〉

 

「そりゃどうも、陸奥(むつ)

 

〈ム…ツ…?〉

 

「ああ、すまん。ウチの鎮守府に居る艦娘だよ。何か陸奥と喋ってる様な気がして。嫌なら別の〈ムツ!!〉

 

「な、何だ?」

 

〈ムツ…そう、これからは私の事、ムツって呼んでちょうだい〉

 

「気に入ったのか?」

 

〈ええ。シラヌイって呼ばれて、あの娘とっても嬉しそうだったから。私も羨ましくてね〉

 

「分かったよ。まあ宜しく頼むよ、陸奥」

 

〈…!!ええ!…でも、そのムツって艦娘、気になるわね。一つ聞きたいのだけど…その艦娘と私…〉

 

「…もちろん君の方が綺麗だよ」

 

〈ありがと。モーターボートの件も考えておくわ〉

 

「そりゃどうも」

 

〈…ねえ〉

 

「今度は何だい」

 

〈私と中枢棲姫サマ…どっちが綺麗?〉

 

「…それは」

 

〈…!返事はまた今度でいいわ。それと私がここに来た事は内緒にしてね。じゃ〉

 

戦艦棲姫は彼の肩を掴むと、頬に口付けした。彼女は名残惜しそうに手を振ると、来た方角と逆の砂浜に消えて行った。

 

「…」

 

暫く呆気に取られていた彼だったが、目の前の海に人の気配を感じると、なに食わぬ顔で彼女を迎えた。

 

「おはよう…そりゃ本人の前じゃ聞けないわな」

 

〈…何の話だ?〉

 

「こっちの話だ、気にするな」

 

〈…?〉

 

中枢棲姫は彼の横に腰掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深海中枢泊地にある、中枢棲姫の居城。

本来なら彼女と数名の護衛しか居ない筈だったが、あいにく城の主は不在だった。本来なら自分達の領域ではない場所で、二人の女が顔を合わせた。

 

「あら、空母棲姫。こんな所で何をしているの?」

 

「べ、別にどうでもいいじゃない。そう言うアナタこそ、どうして?」

 

「ムツよ」

 

「…何?」

 

「私の事はこれからはムツって呼んでちょうだい」

 

「どうしたの急に…まるで人間みたいに」

 

「知りたい?」

 

「…ええ」

 

「う~ん、でも、これ言ったらアナタ怒るかもネ」

 

「…怒らないから教えてよ」

 

「そ~お?…やっぱりや~めた!」

 

「…」

 

「ちょっ…!そんな怖い顔しないでよ!…あの人間に名前を付けてもらったのよ」

 

「名前…?」

 

「そう。彼の艦娘の名前だけど、よく似てるって言ってたわ。まぁ、私の方が美人らしいけど♪」

 

「…アナタ…嬉しいの?」

 

「フフッ、ええ。だって、私の事を名前で呼んでくれるなんて…私が特別って事でしょ?」

 

「特…別…」

 

「中枢棲姫サマだって、まだ名前で呼んでもらってないのよ。…私達は姫サマに限り無く近い…身も心も。アナタもそうなんでしょ?」

 

「…」

 

「そういえば彼、退屈だから何か読む物が欲しいって言ってたわよ」

 

「…それがどうかしたの?」

 

「別に?言っただけよ」

 

「ねえ、ムツ…聞きたいのだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたんだ、その…格好は」

 

翌朝、昨日の様に駆逐古鬼を引き止め一緒に朝食を取った後、入れ替わる様に中枢棲姫が現れた。

だが、彼女は昨日とは一つだけ違う事があった。外見だった。昨日までの彼女は、ゆたかな髪で覆われている事を除けば、一糸纏わぬ姿だった。ところが今日は、まるで戦艦棲姫と同じ様な黒いワンピースを身に纏っていた。

 

〈に、似合わない…か?〉

 

「い、いや…そんな事はないが…」

 

〈そ、そう…良かった〉

 

中枢棲姫は安堵の吐息を吐くと、彼の横へ座った。

 

〈あ、あまり見ないで…〉

 

「ああ…すまない。だけど、一体どういった風の吹き回しで…」

 

〈昨日、アナタに会った後、何故か無性に…その、身体を隠したくなったの〉

 

「それは…恥ずかしいって事か?」

 

〈解らない。ただ昨日、オマエは私の胸をしきりに見ていただろう〉

 

「そんな事は…」

 

〈そうか?私が目を反らす度に妙な視線を感じたが…〉

 

「うん、まぁ…すまん」

 

〈昨日は何とも思わなかったが…今日になって、なぜかその姿で行くのに躊躇ってしまって…

 

〈い、いや、私を見るなと言っているのではない。私が綺麗だから見たくなる気持ちは判る。ただ…その…身体を直接見られると思うと…急に…隠したくなって…〉

 

「うん…まあ、それが普通なんじゃないか」

 

〈そ、そう?私は今まで間違っていたの?〉

 

「いや…深海棲艦って魚とか鯨みたいな物だと思ってたから…」

 

〈我々をあんな単純生物と一緒にするな!〉

 

「わ、悪かったよ。…まあ、その割にはお前の部下の戦艦棲姫とかは普通に服着てるから、その…もしかして、そういった趣味なのかと…」

 

〈そういった…趣味?何だそれは?〉

 

〈うん…その…裸を見られて喜ぶタイプかと…」

 

〈…!!わ、私はそんな趣味は無い!!〉

 

「だ、だから悪かったって!本当に知らなかっただけなんだから、怒らないでくれよ」

 

〈見られて…わ、私がそんな事で喜ぶ訳が…〉

 

「分かってるよ。だから今日はそんな格好で来たんだろう?」

 

〈そうか…アイツらが身に纏うのは…そんな理由があったのか…知らなかった…〉

 

「まあ…そっちも似合ってるよ」

 

〈…オマエは何も着けない方がいいのか?〉

 

「え?い、いや…やっぱり服は着た方が…」

 

〈分かった。明日もこの姿で来る事にしよう〉

 

「そう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中枢棲姫も帰り、海の水平線に夕日が沈み始めた。特にする事もなく、彼は少し早いが寝床に戻ろうとしていた時だった。波打ち際に大きな音を立てて一人の女が現れた。もちろん、こんな場所に人間が、まして独力で来れる筈もない。

空母棲姫だった。

彼女は自分の倍はある黒い鮫の様な艤装から降りると、恐る恐る近付いてきた。

 

〈す、少し用事があって来たの。迷惑だと言うなら…帰るわ〉

 

「迷惑じゃないが…今日は来客が多いと思ってね」

 

〈姫サマと…ムツが来ていたのね〉

 

「ああ。まるでホストになった気分だよ。今度から指名料でも取るかな」

 

〈お、お金を取るの?どうしよう…私、人間のお金は持ってない…〉

 

「い、いや冗談だよ。と言うより…行った事あるのか?」

 

「ムツに聞いた事があるの。その…下着一枚のオスが踊っていて…自分の側に来たらお金を…し、下着に挟むって〉

 

「…空母棲姫だったな。オマエ多分からかわれてるぞ」

 

〈…ええっ!?じ、じゃあお互いにお菓子を口に加えるポッキーゲームや、当たりの棒を引いた者の命令を聞く女王様ゲームも…で、出来ないのッ!?」

 

「いや、その位だったらするお店もあるかもしれないけど…て言うか、したいのか?」

 

〈フ、フザけないで!!私が人間相手にそんな事する訳ないでしょ!〉

 

「うん…だよな。俺もやりたいとか言われたらどうしようと思ったよ」

 

〈それはどういう意味?私とじゃイヤなの?〉

 

「いや…別にイヤじゃないけど…」

 

〈なぜ私とはイヤなの?ム、ムツとはしたんでしょ!?〉

 

「お前、もう少し人を疑う事を覚えた方がいいぞ」

 

〈そう…出来ないの…〉

 

「…そんな事より、用があって来たんじゃないのか?」

 

〈ハッ!そ、そうだったわ。その…ムツの奴に読む物を持ってきてくれと頼んだでしょ?彼女は艦娘の相手があるから、仕方なく…そう、仕方なく私が持ってきたの〉

 

「(嘘だな…)ありがとう、いい気分転換になるよ。陸奥にも礼を言っといてくれ」

 

〈持ってきたのは私よ?〉

 

「ありがとう…加賀(かが)

 

〈…!!私にも名前を付けてくれるの!?〉

 

「まあ…呼んで欲しいのかと思って」

 

〈フ…フフッ…カガ…か。悪くないわ。ちなみに…これも艦娘の名前なの?その…カガと言う奴は…どんな奴なの?…その…つまり…〉

 

「大丈夫、お前の方が可愛いよ」

 

〈…!そ、そう…私は…可愛いの…フ…フフ…〉

 

「…取り込み中悪いが、受け取っていいかな?」

 

〈え、ああ!ごめんなさい、この中に…〉

 

空母棲姫は、待機している艤装の口元を開かせると強引に腕を突っ込み、大きな袋を取り出した。

 

「(なんて所に…)じゃ、ありがたく…ってオイ!」

 

〈な、何?濡れてはいない筈だけど…〉

 

「そうじゃなくて…玉子倶楽部に雛倶楽部…男の俺にどうしろと…」

 

〈な、何?〉

 

「いや…これは子供がいる女性が読む物だ」

 

〈そ、そう!…これは私が貰うわね〉

 

〈なぜ?〉

 

〈後は…人間の裸が…写真って言うの?〉

 

「不謹慎な…でも一応目を通して…『ドキッ、男だらけの相撲大会!ポロリもあるよ♪』って、力士か!」

 

〈き、気に入らなかった?〉

 

「もしかして、これ買ったのって…」

 

〈ムツだけど「だと思ったよ!!」

 

〈ご、ごめんなさい。一応私も選んで持ってきたけど…〉

 

「深スポ、週刊渦潮…あぁ、こんなので良いのに」

 

〈…〉

 

「…?えっと…ありがとう、助かったよ」

 

〈…うん…〉

 

「…」

 

〈……〉

 

「か、加賀…どうして帰らないんだ?」

 

〈えっ!?女王様ゲーム、しないの!?〉

 

「い、いや…お菓子〈ここにあるわ!〉

 

「…じゃあ、する?」

 

〈ア、アナタがどうしてもって言うなら…付き合ってもいいけど…〉

 

「俺は別に…」

 

〈…明日から、シラヌイ来なくなるかも〉

 

「女王様ゲーム、やらないか?」

 

女王様ゲームは、なぜか空母棲姫だけが当たりを引き、彼が当たりを引く事は無かった。当たりの棒を見せろと詰め寄ると、ゲームは一方的にお開きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、目を覚ました提督は、浜辺へ向かおうと寝泊まりしている小屋を出た。すると入り口の脇に小さな女の子が座っていた。

 

「不知火…?」

 

「スウ…スウ…ハッ!」

 

シラヌイこと、駆逐古鬼はすっかり眠りこけていた様で、彼の言葉に慌てて立ち上がった。

 

「おはよう」

 

〈お…おは…よう…〉

 

「今日は随分と早いね。それにどうしてこんな所まで?」

 

彼の言う通り、いつもなら浜辺で座っているとシラヌイが現れる。そこで食糧をもらい、彼女と話しながらの食事が日課となっていた。

ところが今日は、彼女の方から彼の寝倉に訪れた。寝ていた所から察するに、彼が目を覚ますのを待っていたらしい。

彼女は寝ていた顔を見られたのが恥ずかしかったのか、少し顔が赤かった。

 

〈い、一緒に…食べようと思って…〉

 

「ありがとう。ここじゃ狭いから浜辺へ行こうか」

 

〈うん〉

 

彼女と共に歩きながら、提督は見れば見る程、彼女は不知火に似ていると不思議がった。

見た目、雰囲気、駆逐艦とは思えないオーラ。艦娘と深海棲艦は何らかの縁があるのだろうか?暇潰しに考えてみるのも悪くない、そう考えながら彼は腰を下ろした。

 

「今日は何を持ってきてくれたのかな?」

 

〈焼き魚…前にお箸があればって言ってたから作ってきた〉

 

「あ、ありがとう。覚えててくれたんだ」

 

〈それと…その…前に好きだって言ってたカップラーメン…持ってこれなかった…〉

 

「え…あ、いや別に気にしなくても」

 

〈その…人間の町には行ったの!で、でも…買い物の仕方が解らなくて…買えなかったの。御免なさい…〉

 

「い、いや…いいんだよ。…て言うか買い物行ったんだ。凄いな…」

 

〈『しゃしん、撮らせて』とか『ユー、私に着いて来なよ』とか一杯言われた。凄く怖かった…〉

 

「あ~…そら怖いわな」

 

〈お店で、これ欲しいって言ったら『西瓜(すいか)はお持ちですか?』って…。ムツさんから、これ渡せば買えるってお金貰ったのに…西瓜(すいか)と交換なんて聞いてない…騙された…〉

 

「あ~…それは、騙されたんじゃなくて、別の“スイカ”の事かと…」

 

〈私、“ぱすも”しか持ってないのに…〉

 

「カードの意味は理解してるのね」

 

〈だからムツさんが前にやってた事、マネすれば貰えると思ったの…〉

 

「前に?ムツは何をやったんだ?」

 

〈こう…しゃがんで胸の谷間見せて『オマケして?』って…〉

 

「アイツ絶対、前世は人間だろ」

 

〈でも、この服じゃ胸見えないってムツさんに言ったら、別のやり方教えてくれた〉

 

「…一応聞くけど、どんなやり方?」

 

〈『オマケして、お兄ちゃん』って言えば上手くいくって…〉

 

「もうアイツの言う事は聞かない方がいい」

 

〈そしたら、お金いっぱいくれた〉

 

「実践したんだ!てか、人間チョロいな!」

 

〈この魚、全部そのお金で買った〉

 

「今度は上手く買えた!少し感動したよ!」

 

〈シラヌイ…偉い?〉

 

「ああ、そのお陰でこんな旨い魚食えるんだから、感謝してるよ」

 

〈…ゥフフ♪〉

 

「お、初めて笑ってくれたね」

 

〈わ、笑ってない〉

 

「悪い事じゃないんだよ。深海棲艦でも女の子なんだから、笑ってた方が可愛いんじゃないかな」

 

〈シラヌイ…可愛いの?〉

 

「ああ、ウチに居る不知火も、この位可愛げがあればいいのに」

 

〈私…そのシラヌイよりも可愛い?〉

 

「ああ。だから次はラーメンもよろしくな」

 

〈うん!シラヌイ頑張ってみる。次はスイカも忘れない〉

 

「そこは忘れような。あと…さ、ちょっと頼みがあるんだけど…」

 

〈何?しゃしん?〉

 

「いや、それもいいけど…『不知火に落ち度でも?』って言ってくれないかな?」

 

〈いいけど…どうして?〉

 

「さっきも言ったけど、こっちの不知火にそっくりでさ。聞いてみたくなって」

 

〈…シラヌイに落ち度でも?〉

 

「おお…頼んでもいないのに、ツリ目も再現して…そっくりだ」

 

〈ホント?そんなに似てた?〉

 

「ああ…でも笑顔はこっちの不知火の方が可愛いかな」

 

シラヌイは突然立ち上がると、海へ走り出した。

 

「し、不知火!どうしたんだ!?」

 

〈待ってて!ラーメンいっぱい買ってくる!〉

 

「い、いやいいから!また今度で!」

 

〈待っててお兄ちゃん!〉

 

「それはもっとダメ!!」

 

この後、必死に買い物に行こうとするシラヌイに引き摺られ、海水をたらふく飲む羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古鬼…最近姿を見ないがどこに行ってるんだ?〉

 

「そ、それは…」

 

「…それは…あの人間の為の食料か。持っていけと言われたのか?」

 

「い、いえ…あの人間が…食事の時は一緒に居てくれると嬉しいと言うので…」

 

「…?命令ではないのか?」

 

「ひ、姫もあの人間は大事な人質だから大切にしろとおっしゃっています」

 

「それはそうだが…」

 

「で、では行って参ります」

 

「…」

 

〈おかしい…〉

 

駆逐古姫は妙な違和感に囚われていた。

元々彼女は物事を深く考えるタイプでは無いが、ここ数日の仲間達の変化に困惑していた。

あの人間、提督を拐った事も彼を人質にして艦娘達を攻撃するのだと思っていた。

ところが、主である中枢棲姫からそれ以上の命令はない。戦艦棲姫、空母棲姫の二人も事ある毎にあの人間の島に通っている。

妹の様な存在である駆逐古鬼も、自分には内緒であの人間との食事を楽しみにしている様にも見える。

 

〈あの人間は危険だ…ここに居るべきではない〉

 

中枢棲姫が何を考えているのかは解らない。だが、何を考えているにせよ、あの人間は自分達を変えてしまうのでは…。

駆逐古姫の焦燥感は日々募っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ…そろそろ聞かせてくれないか?どうして俺を殺さない?何の為に拐ったんだ?」

 

提督がこの島に来て早や三日目。

中枢棲姫は毎日彼の元を訪れる。彼は自分を拐った目的は、鎮守府や艦娘に関する情報を引き出す事だと思っていた。ところが話す事は差し障りの無い日常会話だけ。特に何かを聞き出そうともしない。

この数日で、彼も彼女の人となりを把握し始めた。痺れを切らせた彼は話の核心へと触れる事にした。

 

〈いいだろう…。だが前にも話したが、上手く説明できないかもしれない〉

 

「説明できない…?」

 

〈どこから話そうか…そうだな、私の部下に…オマエ達が港湾棲姫と呼ぶ者が居る。ある時、彼女は姿を消した。私はてっきり戦いで沈んだのだろうと思っていた。

 

〈ところがある時、部下から彼女がある島に居る事を知らされた。それだけなら驚きもしなかった。彼女は元々争いを好まなかったから、大方、争いに嫌気が刺しただけだろうと…。

 

〈私は…只の気紛れに、彼女の島を訪れてみた。…今思えば行くべきではなかったと後悔している〉

 

「…何かあったのか?」

 

〈その島には彼女を含めて三人が住んでいた。一人は仲間、そしてもう一人は…人間が〉

 

「人間って…もしかして、俺みたいに拐ってきたのか?」

 

〈それは判らない。だが本当に驚いたのは…彼女と一緒に居た仲間、北方棲姫だ〉

 

「その…”ほっぽちゃん”とやらが、どうかしたのか〈勝手に名前を付けるな…

 

〈彼女は…港湾棲姫が産んだ子供だ〉

 

「それがどう…え、ちょっと待ってくれ。それって…もしかして父親は…」

 

〈…その人間だ〉

 

「…!?」

 

提督は暫し唖然としていた。

彼女達、深海棲艦は人間の前に立ちはだかる天敵の様な物。確かに姿形は人を模してはいるが、明らかに人ではない。その深海棲艦と一緒に暮らし、あまつさえ子供をもうけるとは…。

そんな事が可能なのか。そもそも何故その港湾棲姫とやらはその人間を襲わないのか。何故その人間はそこから逃げないのか…。今の彼には幾ら考えても答えの出る事では無かった。

 

〈どうやら彼女…港湾棲姫は、その人間に強い愛着を示している様だった。私は…ほんの戯れに彼女に聞いてみた。『もし、その人間を沈めるとしたら?』と。彼女は敵意を剥き出しで私に言った。

 

〈『彼を沈めて、アナタも沈めます』とな…〉

 

「…」

 

〈私は驚いた。彼女の変貌振りに。一体何が彼女をここまで変えたのかと…〉

 

「…その人間が、何を考えて彼女と一緒に居るかは解らない。でも、お前みたいな美女にそんな事言われたら男冥利に尽きるな」

 

〈…私が同じ事を言ったら…嬉しい?〉

 

「『彼を沈めて』が無ければね」

 

〈私と沈むのは…イヤ?〉

 

「こうして話す事は出来なくなるけど、それでもいいのかい?」

 

〈それは…イヤね〉

 

「部下達も悲しむぞ」

 

〈フフッ、返って喜ぶかもしれない〉

 

「…どうして?」

 

〈直に解る…〉

 

「…そうか。ところで俺を拐った理由だが…」

 

〈理解できると思ったのだ〉

 

「理解…その、港湾棲姫の気持ちが、か?」

 

〈ああ…今なら彼女の気持ちが解る。…人間、オマエは恨むかもしれないが…私はお前を帰したくはない〉

 

「…」

 

〈その代わりと言っては何だが…もし望むなら、何でも言って欲しい。も、もちろん…この私でも…〉

 

「…フッ、もし子供が出来たら俺は海の王様になるのかな?」

 

〈オマエが望むなら…私はそれでも…〉

 

中枢棲姫は提督の掌に自分の手を重ねた。暫くは彼女の成すがままにさせていた彼だったが、やがて優しく彼女の手を振りほどいた。

 

〈あっ…〉

 

「少し…考えさせてくれないか?」

 

〈…明日、また来る〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古姫様…何を?」

 

翌朝、いつもの様に彼と朝食を共にしようと駆逐古鬼が出掛けようとしていた時だった。駆逐古姫は輸送ワ級に積んだ食料を何故か下ろしていた。

 

「それは、あの人間に持って行く物です」

 

「…もう、あの人間の下へは行くな」

 

「…!何故です?姫の命令ですか?」

 

「オマエはあの人間に食料を届けると言ったが、ならなぜ一緒に食事をしている?監視しろとでも言われたのか?」

 

「そ、それは…」

 

「私が今から、あの人間の所へ行く」

 

「な、なぜ古姫サマが?」

 

「…あの人間を殺す」

 

「なっ…!そ、それは姫の命令ですか!?」

 

「姫もそうだが、戦艦棲姫も空母棲姫も皆おかしい…オマエもな」

 

「わ、私の何がおかしいのです?私は言い付け通り…」

 

「元々オマエは私と同じで、あの人間を連れてくる事に反対だった筈。それがどうだ、今やあの人間の下へ行く事を喜んでいるじゃないか」

 

「ひ、姫の…中枢棲姫サマの命令に背くのですか!?」

 

「私があの人間を殺せば、姫もオマエも目を覚ます。待っていろ、直ぐに正気に…なっ!」

 

駆逐古鬼が鮫の様な艤装を古姫に向けた。艤装が禍々しい口を開けると、彼女に狙いを定めた。

 

「オマエッ、な、何をしているんだッ!?」

 

「…そんな事させない」

 

開かれた口から放たれた砲撃に、駆逐古姫は海へと弾き飛ばされた。

 

「な、なぜ…?わ、私は…オマエの姉だぞ…」

 

「例え、姉サマでも…許さない。そんなの絶対に…ユルサナイ…!」

 

駆逐古姫は力尽き、その場に倒れた。

たった今迄、自分に憎しみを向けていた駆逐古鬼は食糧を拾うと輸送ワ級に詰め込み始めた。その瞳を見た駆逐古姫は理解した。もう彼女の頭の中に、自分など居ないのだと。

 

〈あんな人間…連れて…来なけれ…ば…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、不知火」

 

〈今日は…アナタの好きなの持ってきた…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈顔色が悪い様だが…具合が悪いのか?〉

 

「い、いや…そうじゃないんだが…」

 

翌朝、いつもの様に中枢棲姫が訪れたが、彼は表情が暗かった。いつもなら彼の方から話し掛けるが、今日の彼は心ここに在らずといった感じで、彼女の話に黙ってうつ向くだけだった。

 

「その…部下達が、どうしてるか気になってね」

 

〈オマエの部下の艦娘か…おそらく必死に探しているだろうな〉

 

「拐った本人に心配されたくなかったな…」

 

提督は海を見つめた。もちろん陸が…彼の鎮守府が見える訳でもでもない。

 

〈帰りたいの…?〉

 

「浦島太郎っておとぎ話知ってるかな。亀を助けた人間がお礼に竜宮城に招かれて、乙姫にもてなしてもらうんだけど…

 

「帰ろうとすると、玉手箱を貰うんだ。で、地上に戻ると何十年も経っていて、玉手箱を開けると老人になってしまうんだ。

 

「鎮守府に戻ったら誰も俺の事、覚えてないんじゃないかって怖くなってきてね」

 

〈その時はまたここへ来ればいい〉

 

「老人になるよりは、マシかもな」

 

〈…私が”おとひめ“では不満?〉

 

「そんな事はない。だから玉手箱は結構だよ」

 

暫しの沈黙が流れた。お互いに何かを言い淀んでいる様だったが、次に口を開いたのは彼だった。

 

「…一つ、提案がある」

 

〈なん…〉

 

彼は中枢棲姫の手に自分の掌を重ねた。

 

〈な、何故…どうして…て、手を…〉

 

彼女は彼の突然の行動に狼狽えたが、彼の手を振り払う事はしなかった。それどころか、気が付けば自分から彼の手を握り返していた。

 

「俺を鎮守府に帰してほしい。その代わり二つの事を約束する。一つはこの海域へは攻撃しない。

 

「もう一つは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もうそろそろ引き返さないと、お前はまずいんじゃないのか?」

 

翌朝、彼は戦艦棲姫と共に中枢棲姫の下を出発した。小さな舟に乗った彼は、戦艦棲姫の巨人の様な艤装に引かれ、海を進んでいた。

 

〈大丈夫よ…あ、見えて来た〉

 

戦艦棲姫の言葉に彼は目の前を見るが、陸は見えない。どうやら戦艦棲姫は、先に見える小さな島へ向かっている様だった。

 

「おいおい、俺を鎮守府に帰してくれるんじゃなかったのか?」

 

〈その前に寄りたい所があるのよ〉

 

「お花でも摘む…うわっ!〈あら、ごめんなさい〉

 

彼が言い終わる前に舟は激しく揺れた。

戦艦棲姫と提督は、目の前の島へと降り立った。

 

「一休みか?水でも持ってくれば良かったな」

 

〈ねえ、一つ聞きたいのだけど…どうして姫サマはアナタを帰す気になったの?〉

 

「…アイツに話すなと言われてる」

 

〈そう…。ところで…ここで私が引き返したら、アナタはここから動けないわね〉

 

「おい、約束が違うぞ!」

 

〈それは姫サマとの約束でしょ?私はそんな約束してないわ〉

 

「…何が望みだ」

 

〈私だって女よ…言わせないで欲しいわ…〉

 

戦艦棲姫は肩紐に手を掛けると、黒いワンピースが脱げ落ちた。

 

「お、おい…」

 

一糸纏わぬ彼女は、恥ずかしげに胸を隠すと、彼に近付いた。

 

〈この島までが姫サマとの約束よ。でも、ここから先は私との約束が必要よ…姫サマと同じ条件で…ね〉

 

彼女は彼の手を取ると、自分の胸へ導いた。

 

 

 

 

翌朝、彼はある漁村で倒れている所を保護された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、よく戻って来てくれた!」

 

「大丈夫か?アイツらに変な事されなかったか?」

 

鎮守府に戻ると、長門や天龍を始め、皆が彼の無事を喜んだ。聞けば彼の居ない一週間程、彼女達は方々に手を尽くして探し回ったらしい。それを聞いた彼は申し訳なく思うと同時に、そこで起きた事を洗いざらい話すべきか悩んだ。だが、ある事をした後ろめたさが、彼の口を固く閉ざしていた。

 

 

 

 

 

 

 

提督が戻って来て一ヶ月、鎮守府がかつての様に機能し始めた頃、その報せは訪れた。

 

『深海中枢へ進軍せよ』

 

他の鎮守府の艦隊と共に、敵の本拠地へと進めと言う、任務自体は何らおかしい事は無い。部下の艦娘達も一度はしてやられた事に対して、復讐に燃えていた。

だが、当の提督だけは乗り気では無かった。

彼は自分を解放する条件として、彼女…中枢棲姫の海域へは手を出さない事を約束した。だが、まるでその事を試すかの様なこの命令。

彼もその約束自体は深く考えていない。あくまで中枢棲姫の許から逃げ延びる為の口約束に過ぎない。

だが、彼は滞在した一週間程で、深海棲艦達の戦力を観察してきた。果たして自分の艦隊で倒せるかどうか…。

とは言え大本営の命令に逆らえる筈もなく、彼は言われるがままに艦隊を派遣する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、やりました。我々の勝利です!」

 

長門からの無線を受け取った大淀が、息を切らせて執務室へと飛び込んで来た。

 

「そうか…では、中枢棲姫は倒せたのか?」

 

「いえ…中枢棲姫を倒すには至らなかったそうで…姿を眩ましたそうです」

 

「そうか…こちらの損害は?」

 

「大丈夫です。大破した者はいる様ですが、皆、無事です」

 

「分かった。皆にも伝えてくれ」

 

「は、はい!」

 

提督は椅子に腰を下ろすと、深い溜め息を吐いた。

 

〈ひとまずは…一件落着か〉

 

彼が懸念していた事、それは敗北する事だった。

もし負ければ、中枢棲姫は約束を破った自分を決して許しはしないだろう。それだけが不安の種だったが、その心配も無くなった。

…そう、これであの場所で起きた事を知る者は、誰も居ない。

 

 

 

 

 

 

 

数日後、艦隊が帰投する日の事だった。

そろそろ艦隊が帰って来る頃合いかと提督が席を立とうとした時だった。廊下の方が何やら騒がしい事に気付いた。

 

〈もう帰って来たのか?予定より早い気が…〉

 

そんな呑気な考えを打ち砕く様に、大きな爆発音が鳴り響いた。

 

「な、何だ!?」

 

彼は慌てて廊下へ飛び出ると、窓から顔を出した。港方面で無数の砲撃音が鳴り響き、至る所で煙が立ち上っていた。

 

「て、提督!」

 

「お、大淀、これは一体…」

 

「て、敵です!無数の深海棲艦が鎮守府に現れて…!」

 

「な…!」

 

窓の外の砲撃音は、徐々に大きくなってきていた。

 

「大淀、一旦皆を引かせろ。鎮守府はもう放棄する」

 

「て、提督は…」

 

「俺もすぐに追い付く。先に行っていろ」

 

「わ、分かりました!」

 

提督は重要な書類を鞄に無理やり押し込むと、銃を懐に港へと走り出した。

港は至る所から火の手が上がり、傷付いた艦娘達が何人も倒れていた。

 

「う、うう…提督…」

 

「お、大淀!」

 

そこには、ついさっき別れたばかりの大淀が倒れていた。彼女は最後の力で提督へ手を伸ばす。

 

「に、逃げて…」

 

提督は彼女に近寄ろうとしたが、その先に一人の女が立ちはだかっていた。もう、二度と会う筈の無い者が。

 

〈久しぶり…だな…〉

 

「お、お前…生きていたのか!?」

 

そこには白い肌の半分以上が焼け焦げた様に黒く染めた中枢棲姫がいた。かつての優雅な佇まいは最早無く、立っているのもやっとと言った感じだった。

提督は懐から銃を取り出すと、彼女に向けた。

 

〈フ…案ずるな…私はもうすぐ息絶える。…だが、最後にもう一度、オマエの顔を見たくなってな〉

 

「…」

 

〈最後の…最後のお願いだ。もう一度、私を抱き締めてくれ。あの時の様に…頼む〉

 

本来ならこんな頼みは無下にするかもしれない。だが、今の彼女は戦うどころか抵抗する気力も残っていない。そう感じた彼は、彼女の願いを聞き届ける事にした。

 

「…分かった」

 

提督は彼女の前で両手を広げると、彼女は倒れる様に彼の胸に飛び込んだ。

 

〈フ、フフッ…不思議だ。もうすぐ沈むというのに…とても満たされた気分だ…〉

 

「…約束を破った事は謝る」

 

〈気にしなくていい。それは…私も同じだ〉

 

「…何?」

 

〈前に言ったな…港湾棲姫の島へ行った事を、私は後悔していると〉

 

「それが…どうかしたのか?」

 

〈私達、深海棲艦は頭で考えた事を周りの者に伝える力がある。今、オマエの頭に念を送っている様に…

 

〈だが、それは何も考える事だけでは無いのだ…その者の感情も…受け取ってしまうのだ…〉

 

「感情を…受けとる…?」

 

〈そう…私が…オマエを拐った本当の理由は…港湾棲姫の感情を受け取ってしまったからだ。

 

〈その人間を…自分だけの物にしたいと…〉

 

「…」

 

〈出来れば港湾棲姫の人間を奪ってやりたかったが…私は変わりの人間を探す事にした〉

 

「…それが俺だったと言う訳か」

 

〈そうだ…そしてそれは、他の者も同じなのだ〉

 

「それは、どういう…」

 

〈私が抱いた、オマエを自分の物にしたい気持ちは…そのまま他の者にも伝わっている…〉

 

「な…ま、まさか…」

 

()()が何故、こんな危険を侵して迄、ここへ来たのか…解っただろう〉

 

「じ、じゃあ…まさか…あいつらも…」

 

〈私は…もう満足だ。後は他の者に任せるとしよう…サラ…バ…〉

 

彼女は力が抜けた様に、スルリと彼の胸から崩れ落ちた。そして、まるでその瞬間を待っていたかの様に、周囲に無数の水柱が立ち上がった。

 

「…!!」

 

その中に現れたのは無数の深海棲艦達。

 

「う、うわあっ!」

 

彼は慌てて逃げようとしたが、既に周囲を囲まれていた。

そんな中、見知った顔の者が一人、前へ進み出た。

 

〈久しぶりね…顔色良くないわヨ?〉

 

「…お前に言われたくはないよ」

 

彼の前に立つ戦艦棲姫は惚けた顔で笑った。よく見れば、空母棲姫、駆逐古鬼もその中に居た。だが、戦艦棲姫を含め、以前の様な穏やかな雰囲気は無かった。まるで何かを決意したかの様な血走った目で彼を見ていた。

 

「こんな所迄、何しに来たんだ?まさか観光って訳じゃあるまい?」

 

〈それも悪くないわね。でもこんな殺風景な場所じゃ話も出来ないわ…場所を変えない?〉

 

「…嫌だと言ったら?」

 

〈…勘違いしないで欲しいのだけど、私達は別にアナタを傷付けるつもりはないのよ。姫サマも仰ってたでしょ?〉

 

「ああ。だから尚の事、誘いには乗れない。残念だったな」

 

〈と言っても、この状況をどうにか出来て?〉

 

「…ああ。一つだけな」

 

〈…それは?〉

 

「…こうだ!」

 

「…ナッ!ヤ、ヤメテッ!!」

 

辺りに銃声が木霊(こだま)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の新聞に、ある鎮守府が襲われた記事が載り大きな波紋を呼んだ。鎮守府に居た艦娘は轟沈。慌てて戻った艦娘達も轟沈を何名か出す、戦いが始まって以来の敗北だった。

その鎮守府から提督の物と思われる拳銃と血に濡れた衣類が見つかった。遺体こそ発見出来なかった物の、これ等の遺留品から、壮絶な最後を遂げた勇敢な提督と、国民の涙を誘った。

 

 

 

 

 

 

 

 

提督は、自分が囚われたのは情報を引き出すか、或いは自分を人質にでもするつもりだろうと思っていた。

ところがいつまで立ってもそんな様子は無く、何が目的なのか皆目検討が付かなかった。

彼女、中枢棲姫が自分を拐った理由を聞く迄は。

彼女が港湾棲姫の感情、人間の男性を独占したい気持ちを共有していると知った提督は、ある取引を持ち掛けた。

 

『自分との間に子供を作ってもいい』と。

 

中枢棲姫も彼を手離すのは惜しかったが、駆逐古姫の様に彼を匿う事に疑問を持つ部下も出始めている。

このまま彼を閉じ込めるのは容易い。

だが、彼を愛でる気持ちが僅かに彼を縛り付けようとする気持ちに勝り、彼女は彼の提案に乗る事にした。

 

彼女の唯一の気掛かりは、生まれたばかりの子供を残して来た事だけだったが…部下に無理を言って最後に彼の顔を見る事も出来た。後は部下達に全てを託し、彼女はその生涯を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深海棲艦に囲まれた提督は、中枢棲姫の最後の言葉を思い出していた。

彼を自分の物にしたい気持ちは、そのまま他の者も共有している…。

自分を囲む彼女達の獲物を見つけた肉食獣の様な眼を見て、彼は全てを悟った。仮に彼女達に捕まっても、殺される事はないだろう。

そう、死ねないのだ。

もし捕まれば、一生彼女達と共に過ごさなければならない。その恐怖に耐えきれなくなった彼は、自分の頭を撃ち抜く事で、この現実から解放される道を選んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事ムツ?話が違うじゃない!」

 

「わ、私だって…まさか彼が自殺するなんて思わなかったのよ」

 

「こ、この人は…もう修復出来ないのですか?」

 

「それは無理よシラヌイ。彼は私達や艦娘とは違うの。治す事は出来ないの」

 

「そんな…」

 

「姫サマが…最後に会いたいって言うから連れてきたのに…姫サマが居なくなれば、また私達の許へ来てくれるって思ったのに…」

 

「そう落ち込まないでよカガ。忘れたの?姫サマが私達に残した、あの子の事を」

 

「…そうだった。私達には姫サマの子供が居る」

 

「そうよ、早く帰りましょう。でも私達と戦った艦娘達が、大急ぎで引き返して来ているわ。無事に帰れるかどうか…」

 

「大丈夫よ、あの時は姫サマを守りながら戦っただけだもの。今度は手加減なんてしないわ」

 

「艦娘…潰す…」

 

「そうね。私も少しムシャクシャしてるから思いっきり暴れたいわね…行きましょう」

 

彼女達は提督と中枢棲姫の遺体を回収すると、海へと降り立った。

 

〈カガも言ってたけど…まさか彼が自殺するなんて。彼の性格からして、観念して大人しく着いてくると思ったんだけど…

 

〈まぁ、いいわ。私達には姫サマの残した子が居る。それに…

 

〈カガやシラヌイと違って、私の身体の中にも命が宿っているのを感じるわ。二人がこの事を知ったら、さぞ羨ましがるでしょうね♪〉

 

「ムツ!艦娘達だ!」

 

彼女達の視線の先に、血眼の表情の艦娘達が、こちらへと進んで来るのが見えた。

 

「皆、姫サマの弔い合戦よ!準備はいい?」

 

「「おお!!」」

 

戦艦棲姫の号令の下、空母棲姫達が雄叫びを挙げた。それに答える様に彼女達の生きた艤装も唸りを挙げる。

長門率いる艦娘達と戦艦棲姫率いる深海棲艦の最終決戦が、今ここに幕を開けた。

 




以前の話だと他のキャラがイマイチ出て来た意味が無かったので、少し出番を増やしてみました。
参考までに会話の表現について。
深海棲艦同士→普通に平仮名表記。
深海棲艦が提督に話し掛ける→カタカナ表記。
深海棲艦が提督にテレパシー→平仮名表記。
タイトルはウィザードリィってゲームの「災禍の中心」からです。

ろ~ちゃんの話を書いた後は、年内に別の話のリメイクを載せるつもりです。その次は天龍と妙高さんの話を考えてます。天龍は記憶に関する話、妙高さんは愛が重い話です。








深海目録

提督 相手が誰であろうと積極的に話しかける社交性溢れる人。今回はそれが裏目に出た。ちなみにどっちかと言うと、戦艦棲姫の方が良かったみたい。

中枢棲姫 見た目の割りにしゃべり方がババ臭い。意外と年イッてるのかもしれない。服を着る概念が無いヌーディストのオボコ。

戦艦棲姫 深海では一番ススンでる。多分非処女。一時期ホストクラブにハマっていた。この後、女の子を出産。

空母棲姫 根は小心者で騙されやすい。人間の振りして夜の街に行くも、いつも入れずに引き返してくる。

駆逐古姫 深海勢の中では、唯一の良識派。提督の事が嫌いというよりは、妹にちょっかい出すのが気に入らなかった。

駆逐古鬼 あまり男と話した事が無い田舎の中学生みたいな感じ。提督の好きなラーメンをわざわざ買いに行っていた。

大淀 伝言係。今回はいいトコ無し。

長門 この後、戦艦棲姫と二回戦目に突入する。

天龍 今回はチョイ役。少し先でピンの話が内定している。
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