艦娘症候群   作:昼間ネル

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やったね!姉妹が減るよ!




妹達へ…

ある鎮守府の昼下がり。

その司令室で二人の男女がお互いを見つめあっていた。

やがて、男性はそっと小さな箱を出し、意を決した様に彼女に告げた。

 

「金剛、これを受け取ってほしい。私とケッコンしてくれないか?」

 

そう言って彼、提督は箱を開けた。中には銀色の指輪が入っていた。

それを聞いた、金剛と呼ばれた彼女は驚きの表情を見せる。嬉しいのか恥ずかしいのかどちらとも言えない表情を見せた後、暫くうつむいて…

 

「もちろんデス!」

 

言うが早いか彼女は提督に抱きついた。

 

「嬉しいッ。提督、私とっても嬉しいです。」

 

「こ、金剛…」

 

一瞬戸惑った提督も優しく彼女を抱きしめ、その気持ちに答えた。

 

「沈んでいった妹達の分も、私、幸せになります」

 

涙で濡れた目を拭いながら彼女は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は数ヶ月前に遡る。

 

私の名前は金剛型戦艦1番艦、金剛と言います。

今はこの鎮守府で日々戦っています。

私のいるこの鎮守府は今でこそ大規模になり、私達4姉妹も勢揃いしてますが、かつてはもっと小さな規模だったと聞いています。

 

そんな時、私はこの鎮守府に来ました。

提督は私を見るなりいきなり腕を掴み

「待ってた、待ってたよ金剛!」

そう言って熱い眼差しで私を見つめマシた。

あの時の提督の嬉しそうな顔は今でも忘れられまセン。

私は必要とされている事をとても喜びました。

そして誓いました。この人と一緒にここで頑張ろうと!

 

やがて、戦いが進む中、戦力の拡大の為に新しい戦艦も入って来ました。その中には私の可愛い妹達、比叡、榛名、霧島も居ました。どうやら提督がワタシの為に頑張って揃えてくれた様です。

戦いは辛いですが、私には妹達がいる。その妹達を守る為にも今まで以上に頑張りました。

そうすれば、あの人の期待に答えられる。その思いは、いつしか私を一番に見て欲しいと思う様になるのに、さほど時間は掛かりませんでした。

 

…提督は私にとても良くしてくれます。私を大事に思っているのは、間違いありまセン。

でも、女としては…必ずしも一番ではないのかもしれまセン…。

 

加賀サン。私が来る前に建造されたこの鎮守府の最古参の一人。その為か提督は彼女を秘書艦にして重用している様でス。

何か大事な事や大きな戦いの前には、提督は必ず彼女に相談します。

彼女はよく「前に提督が言っていたのだけれど…」「貴女が来る前に提督が…」と、私の知らない提督の話をします。

それは私の方が提督をよく知っている、私の方が提督に相応しい!そう言ってる様にも聞こえました。

 

これは女のカン、の様なモノですが、提督も彼女の事は信頼できる部下、だけではなく一人の女性としても見てる気がします。

そんな二人を見ている内に、私は二人の間には入れない、提督のイチバンにはなれない…そう思う様になっていきました。

 

そんな時でした。

戦いから帰って来た私は提督に呼ばれました。

司令室のドアを開けた私は何やら部屋の雰囲気がおかしい事に気づきました。

そこには何故か、榛名と霧島も居まシた。

二人とも何故か暗い表情でうつ向いてます。

アレ?なんで二人ともココに?比叡が居まセンが…

それを口にしようとした時、提督は口を開きました。

 

「金剛、落ち着いて聞いてくれ…比叡が沈んだ」

提督がそう言うと、ワアッと榛名が泣き出し、霧島に抱きつきまシた。

「私の采配が悪かった。許してくれ!」

 

そう言って提督は帽子を取って深々と頭を下げマシた。

戦いに身を投じている以上、こうなる事もあり得る。

頭では分かっていたつもりでも、とても悲しかったです。

「気にしないで提督。私達もベストを尽くしたネ。でも敵の方がそれを上回った。仕方ないヨ」

泣きついてくる榛名と霧島の二人を慰めながら、私は言いました。

 

次の日の食事の時、鎮守府の皆サンが、代わる代わる私に話かけて来まシた。

「金剛さん、あまり気を落とさないでね」

「比叡の仇はオレがとってやる!」

「金剛さん、私の分のカレーあげるから元気出すっぽい」

 

皆サン、私に優しくしてくれました。皆が私を心配してくれる。皆、今だけは私の事を考えてくれる。それがとても幸せに感じられました。

…この時は、この感情が何なのか気付いていまセンでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の戦闘。

この日の戦闘はとても激しかったのを覚えてマス。

私は霧島と同じ艦隊で出撃。予想していなかった敵の待ち伏せに遭い、思ってもみない苦戦を強いられました。

私と霧島の火力でもこの状況を打破するのは難しく、仲間が次々と被弾、中には大破する娘も。

そして何とか活路を切り開こうと躍起になっていた私の後ろに、敵の砲火が。

沈む!

その言葉が頭を過った時、私の前に躍り出る影。

「お姉さま!」

私の前に飛び出した霧島が、攻撃の全てをその身に受けてしまいました。

 

「霧島ッ!」

 

私は思わず叫びました。

 

「ご免なさい、お姉さま。私はもう駄目みたいです…。比叡お姉さまと一緒にあの世から祈っています。どうか、ご無事で…!!」

 

そう言って霧島は私に手を差し向けながら、沈んでいきました。

 

霧島の犠牲で何とか活路を開いた私達の艦隊は無事、鎮守府にたどり着きました。

出迎えた皆の中に霧島がいない事に気付き、その意味を理解したのか涙ぐむ者も出てきました。

 

「提督、金剛艦隊、帰投しました」

 

「お帰り、金剛、皆。…霧島がいない様だが…?」

 

「…霧島は、私を庇って沈みました」

 

提督の顔が驚きの色に代わり、その隣に立つ秘書艦の加賀サンも目を見開き、衝撃を隠せない様でした。

 

「金剛、すまない。掛ける言葉も見つからない…」

 

そう言って提督は私の肩にそっと、手を置きました。

「ウゥ、ウワアァァッ」

 

私は提督の胸の中に泣きながら飛び込みました。そんな私を提督もギュッと抱きしめてくれました。

 

今、提督は私の事を、妹を失った私を心の底から心配してくれている。そう思うと…何故か私の心は満たされました。

 

比叡を…そして霧島と大事な姉妹を二人も失った事はもちろん悲しいデス。

でも、それとは違う、沸き上がるこの感情が何なのか。それが理解できませんでした。

 

翌日、鎮守府の皆サンが以前の様に話かけてきました。

「比叡さんに続いて、霧島まで…。残念だったわね」

「元気出せ。オマエまでそんなじゃ、沈んでいったアイツらも悲しむぜ」

「わ、私もっともっと、皆さんをお守りできる位頑張ります!」

 

あぁ、まただ。今、私は絶対…

 

 

「金剛さん、その…」

 

私がイチバン驚いたのは、彼女の反応だった。

 

「辛かったわね。私も赤城さんが沈んだらと考えると言葉も出ないわ…。すぐには無理だと思うけど、元気出してね」

 

加賀サン。彼女も今、私の事をココロから心配している。もちろん、共に戦う戦友としてだろうケド…。

 

それから暫く、提督は私を慰めようとしているのか、何かにつけて話かけてくる様になった。

秘書艦も加賀サンから私に変えた。

 

私は恐らく皆から妹を二人も失った、それでも健気に振る舞う姉と写っているのだろう。特に提督には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数週間後、鎮守府付近に現れた深海棲艦を迎え打つべく、私と榛名は共に出撃した。

以前とは違い、侵攻を予測した私達は提督の作戦に従い、これに当たった。

決して楽な戦いではなかったが、それでも私達は優位に戦いを進めていった。

 

「お姉さま!二人の仇を打ちましょう!」

 

榛名が叫ぶ。

もちろん私もそのつもりでいました。

 

<榛名…。アナタまで沈んだら、また皆、私に同情するんだろうネ…>

 

苛烈さを増す戦場はあの時と、霧島が沈んだ時と同じかそれ以上だった。

私は榛名を、榛名は私を庇う様に戦った。

そのせいか、私と榛名は味方から離れてしまった。辺りに響く爆音と水柱で周りの味方はどこにいるかさえ分からなかった。

「ああっ!!」

 

「榛名!!」

 

榛名が中破した。私は榛名に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫です。それよりも敵はあと僅か…。目の前の敵だけです。私とお姉さまとなら倒せます。そしてこの戦いを終わらせましょう!!」

 

榛名は痛みを堪えて私の前に駆け出した。

私は主砲を構え、狙いを定めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金剛艦隊、帰投しました」

 

「…お帰り皆。金剛、話は無線で聞いたよ。我々の勝利だが、その代償はあまりにも大きすぎた。特に金剛、君にはね」

 

「比叡や霧島に続き、榛名まで…。本当にすまないと思っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、私は提督にケッコンを申し込まれました。

榛名が沈んだ戦いの後、悲しみを堪え、気丈に振る舞う私に提督は

「妹達を失った悲しみを、私に癒させてくれないか?」とプロポーズしてくれました。

 

これは私にとっても、サプライズな出来事でした。

てっきりケッコンカッコカリの相手は加賀サンだとばかり思ってましたから。

 

そして今、私は提督に受け取った指輪に指を通します。

 

 

 

 

 

『…お姉さま…』

 

だから、この事は私が沈むその日まで内緒デス。

 

『…どうして…』

 

比叡、霧島。そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうして榛名を撃つんですかっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、私は妹の榛名を撃った。

もちろんこの事は誰も知らない。…榛名以外は。

 

もし、ここで榛名を失えば、鎮守府の皆や提督は私の事を悲しみに負けず最後まで戦った、なんて立派なんだと褒めてくれるでしょう。

そう、褒めてくれる…!!

そう思った時、私の主砲は敵ではなく、目の前の榛名に向いていました。

次の瞬間、私は何のためらいもなく妹を撃っていた。

何が起きたか理解できない榛名の顔は今も忘れられません。

海に沈んでゆく榛名の顔を、その時の私はきっと無表情で見下ろしていた事でしょう。

そして、妹を失った私を皆は誰よりも褒め称え、悲劇のヒロインの様に扱ってくれました。

私は涙を流しつつも、皆に認められている自分、女神の様に崇められている自分に陶酔していました。

 

<もっと見て!>

 

<もっと私を褒めて!>

 

そう、その時私は初めて、この気持ちが何なのか理解しました。醜く、それでいて甘美な願望に。

 

さようなら、私の可愛い妹達。

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう。

 

 

 

 

 




代理ミュンヒハウゼン症候群
周囲の関心を自分に引き寄せる為にケガや病気を捏造する症例だが、その傷付ける対象が自分自身ではなく、身近の者に代理させる。
症例は子を持つ親に多く見られ、その傷付ける対象の多くは自分の子であり、懸命または健気な子育てを演じて他人に見せることによって、周囲の同情をひき、自己満足することを挙げられる。

ちなみに金剛姉妹では、霧島が一番好きです。
今回はハードラックとダンスっちまった様ですが…。
何とかしてやりたい…。
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