艦娘症候群   作:昼間ネル

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この巡洋艦スゴいよォッ!

さすが鹿島のお姉さんッッ…!(CV 子安 武人)




香取さんの言うとおり

港に一人の少女が立っていた。

両脇に纏めた髪と紺色のミニスカートが風になびいていた。

もう何分も、まるで時間が止まったかの様にその場から動かず、虚ろな目で海を見つめていた。

彼女は懐から何枚かの手紙を出すと、それをゆっくりと破いた。

急に突風が吹き、バラバラになった手紙を海へと飛ばした。

 

「皆さん…ごめんなさい…」

 

彼女の目から涙がこぼれ落ちた。

 

「姉さんを…許してあげて下さい…」

 

海面に浮かぶ小さな紙片が、波に飲まれて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、朝ご飯に卵焼き作ったの!良かったら食べる?」

 

瑞鳳(ずいほう)が司令室の扉を開けると、そこには食事中の提督と羽黒がいた。

 

「あぁ、ありがとう。頂くよ」

 

机には羽黒が作ったであろう、朝食が並んでいた。

 

「ご、ごめんなさい瑞鳳さんっ!私、瑞鳳さんも作ると知らなくてっ!」

 

羽黒は申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「あ、ううん、私が勝手に作っただけだから…じゃあ、卵焼きここに置いとくね」

 

「あ、あぁ、良かったら一緒に食べないか?」

 

思わず、うん、と言いそうになったが、羽黒の困った様な視線を感じた。

 

「う、ううん、お邪魔しちゃ悪いし」

 

「そんな、お邪魔だなんて…」

 

羽黒は少し照れた様に下に俯く。瑞鳳は笑顔で扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瑞鳳がこの鎮守府に着任したのは今から一年程前だった。当時はこの鎮守府の規模も小さく、また初の軽空母と言う事もあり彼女は非常に重宝された。

瑞鳳も、そんな提督の期待を嬉しく思い、この人の為に頑張ろうと切磋琢磨した。

そんな瑞鳳の頑張りが身を結んだのか、それとも提督の努力の賜物か鎮守府の規模はあれよあれよと一年前とは比べ物にならない程膨れ上がっていった。

正規空母の加賀を始め、高速戦艦の金剛、重巡洋艦の羽黒。瑞鳳は数ある艦娘の一人へと埋没していった。

自分や提督の頑張りが身を結んだのは良い。だがそのせいで自分の存在感が無くなっていく不安を日々感じていた。

 

〈提督はもう、私の事なんてどうでもいいのかなぁ…〉

 

最近では練習巡洋艦の鹿島も着任し、提督と話をする機会もめっきり減ってきた。

瑞鳳は肩を落としながら廊下の角を曲がった。

 

「きゃっ!」

 

いきなり瑞鳳の目の前が暗くなり、柔らかい何かにぶつかった。

 

「あら、ごめんなさい。大丈夫?」

 

髪を後ろで纏め、眼鏡を掛けた女性が優しげな微笑みで瑞鳳に話しかけた。

 

「だ、大丈夫です!えっと…アナタは誰ですか?」

 

「もう、鹿島ったら何も伝えてないのかしら」

 

「鹿島さん…?」

 

眼鏡の女性はスッと瑞鳳に手を差しのべた。

 

「私は鹿島の姉で、香取型練習巡洋艦の香取(かとり)と申します。今日からこちらでお世話になる事になりました。よろしくお願いしますね」

 

「あっ、ハイ。わ、私は瑞鳳、祥鳳(しょうほう)型軽空母の2番艦、瑞鳳(ずいほう)ですっ!」

 

瑞鳳は香取の手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが話に聞く、彗星ですね」

 

瑞鳳がいつもの様に訓練をしていると、聞き慣れぬ声が耳に入った。振り返ると、いつからそこにいたのか彼女を微笑ましく見つめる一人の艦娘がいた。

 

「あ、香取さん。こんにちは」

 

「こんにちは。瑞鳳さんの彗星は一度見てみたかったんですよ」

 

「アハハ、そう言ってもらえると嬉しいです。でもこの子、整備が大変で…」

 

瑞鳳は自分の周りを旋回する彗星を見ながら苦笑する。

 

「ふふっ、手の掛かる子程、可愛いって言いますからね」

 

「ま、まぁそうですね。九九式とはちょっと違う、かな?」

 

最近は出撃の機会が少ない事もあり、瑞鳳はよく港で艦載機の訓練をしていた。香取も駆逐艦の訓練で港にいる機会が多いせいか、瑞鳳とは顔を合わせる機会が多かった。

香取は指導者としての一面もある為か、いわゆる聞き上手で最近では瑞鳳もちょっとした相談をする仲になっていた。

 

「…浮かない顔ですね。もしかして提督の事ですか?」

 

「ふええっ!な、何で分かるの?」

 

瑞鳳は驚いた顔で、香取を見る。

 

「ふふ、顔に書いてますよ。提督さんがかまってくれなくて寂しいって」

 

「そ、そんな事…///」

 

体育座りの瑞鳳は、膝の間に顔を埋める。

 

「…提督、前は私の卵焼き、毎日でも食べたいって喜んでくれたのに、最近はあんまり…」

 

「なるほど。そういう事ですか」

 

香取は暫く考え込む様に空を見ていると、瑞鳳に向き直った。

 

「瑞鳳さん、これからも提督さんにお料理、作ってあげるべきですよ」

 

「でも最近は羽黒さんや金剛さんもお料理作ってるみたいで、私なんか…」

 

落ち込む瑞鳳の肩に手を置き、香取は優しく語る。

 

「大丈夫です。提督さんも本当はアナタの料理が一番好きに違いありません。鹿島も瑞鳳さん位、お料理が上手いと良いんだけど…」

 

「そ、そうかなぁ…」

 

「騙されたと思って、頑張ってみて下さい。きっと提督さん、アナタの料理が一番だって言ってくれますよ!」

 

「…うん!」

 

瑞鳳は香取に礼を言うと宿舎へ帰って言った。

瑞鳳の姿が見えなくなるのと入れ替わる様に、一人の艦娘が近付いて来た。

 

「あら、アナタは…どうしました?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、上手い。やっぱり瑞鳳の卵焼きが一番だよ」

 

「ホント?嬉しいっ♪」

 

朝の司令室。

瑞鳳の作った料理を提督は満足そうに食べていた。

 

「金剛や加賀の料理も美味しいけど、瑞鳳の卵焼きは、何かクセになるな。何か隠し味でもあるのかい?」

 

「ふふっ、ヒミツ♪」

 

〈たっぷりの愛情、何てネッ…///〉

 

「ん、何か言った?」

 

「あ、ううん、何でもないの!」

 

瑞鳳は、急に辺りを見回した。

 

「今日は羽黒さん、来てないんですね」

 

ご飯を食べる提督も、今気付いた様に思い返す。

 

「そういえばそうだな。いつもはこの時間に来るのに」

 

〈てっきり、羽黒さんが朝ご飯作ってるから、食べてもらえないと思ってたのに…〉

 

提督は食事に夢中で、羽黒が来ない事は特に気にしていないようだった。瑞鳳もそれは気になったが、提督が自分の料理を美味しく頬張る姿を見ていると、どうでもよくなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、香取さん。この間はありがとう。提督、私の卵焼きが一番だって。香取さんのアドバイスのお陰だよ」

 

演習帰りの香取を見かけた瑞鳳は、嬉しそうに香取に話しかけた。

 

「その表情だと上手く行ったみたいですね。瑞鳳さんに喜んで貰えて私も嬉しいですよ」

 

「…でも羽黒さん、どうしたんだろ?私が朝ご飯持ってく様になってから全然来なくなっちゃって。何か悪い事しちゃったみたい…」

 

「きっと瑞鳳さんの情熱に敵わないなって思ったんじゃないでしょうか」

 

「そ、そんな!私、別にそんなつもりじゃあ…」

 

瑞鳳は下を向いて、少し困った様な顔をした。

 

「…瑞鳳さん。アナタが羽黒さんに申し訳なく思うのは分かります。ですが、それでは提督はアナタより羽黒さんを選んでしまいます。羽黒さんは大事な仲間かもしれませんが、それとこれは別です。時にはこういった決断も必要ですよ」

 

「…う~ん、分かった様な分からない様な」

 

瑞鳳は腕を組んで考え込む。

 

「最近は私の妹の鹿島も提督さんに料理持って行ってるんですよ。…まぁ、瑞鳳さん程上手くはないですけどね」

 

「え、そうなの?」

 

「フフッ、他にも料理の上手い方はいる様ですからね。うかうかしてられませんよ♪」

 

「う、うん」

 

「oh~香取、ここにいましたか~」

 

声に振り返ると、そこには金剛と加賀の姿があった。

 

「香取さん、ちょっと聞いてほしい事があるのだけど…」

 

チラリと自分に視線を向ける加賀に、自分の様に相談でもしたいのかな、と察した瑞鳳はひとまず立ち去る事にした。

 

「じ、じゃあ私はこれで。香取さん、ありがと」

 

瑞鳳は手を振ってその場を去って行った。瑞鳳を見送ると、香取は二人に向き直った。

 

「お二人が揃って来るなんて珍しいですね。何かあったんですか?」

 

「イエ~ス、実は提督が…」

 

そう言うと金剛は話しづらいのか、加賀に目線を送る。

 

「盗み聞きするつもりは無かったのだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、鎮守府はある話で持ちきりだった。南方方面の進軍に関する事だったが、どうも提督は難色を示しているらしい。

決して今の戦力では不可能ではないが、作戦の成功率は五分五分と言った所だった。

今の所、資材や弾薬にも多少の余裕が在り、長門や天龍と言った血の気の多い艦娘達は提督の出撃命令を今や遅しと待ち望んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの様に瑞鳳が港へ行くと、いつもは見慣れない二人が居た。

 

「あ、瑞鳳さん、こんにちは」

 

香取と何かを話し込んでいた鹿島は、瑞鳳に気付くと急に踵を返し香取に背を向けた。

 

「じゃあ姉さん、私はこれで。瑞鳳さん、またね」

 

「え、えぇ、さようなら」

 

二人に手を振ると鹿島はその場を去って行った。

 

「…もしかして、お邪魔でした?」

 

「いえ、どうって事もない話ですよ。それより浮かない顔をしている様ですが…どうしました?」

 

香取は瑞鳳に向き直り、微笑みかけた。

瑞鳳は少し悩んでいたが、話し始めた。

 

「次の作戦の話、香取さんも聞いてます?」

 

「ええ。今、皆さんが話している作戦ですね」

 

「提督…作戦を決行すると思いますか?」

 

「ええ、間違いなく決行します」

 

香取は、さも当然の様に答えた。

 

「そ、そうかなぁ。確かに無理ではないと思うけど、加賀さんや金剛さん達は反対みたいだしキツいんじゃ…」

 

瑞鳳は少し困った様に香取の顔を見た。

 

「確かに今の戦力では必ず、とは言えませんね。ですが不可能ではないと思います。…虎穴に入らずんば、虎児を得ずとも言いますからね。それに…」

 

「…それに?」

 

「瑞鳳さんもいるじゃないですか。彗星の良い所を見せるチャンスですよ」

 

香取は瑞鳳の背負う弓矢を指差して微笑む。

 

「…うん、そうだね!」

 

瑞鳳は笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室は些か険悪な雰囲気が流れていた。

提督が今回の作戦を少し先送りにしようと言った事で、その場に居た艦娘達の意見が二つに割れてしまったのだった。

 

「提督、確かに戦力的にはキツいかもしれん。だが、そんな事はいつもの事ではないか!」

 

「長門の言う通りだぜ!俺達が信用できないのかよ!」

 

長門や天龍と言った血の気の多い艦娘は、当然この意見には反対だった。

 

「落ち着いて頂戴。何も提督はできないと言っている訳ではないわ。今はその時ではないと言ってるのよ」

 

「加賀の言う通りネ~。Make haste slowly、急がば回れとも言いマ~ス!」

 

一方で加賀と金剛は長門達とは違い提督の判断を支持する立場を取っていた。

四人の睨み合いの中、加賀が瑞鳳の存在に気付いた。

 

「瑞鳳さん、アナタはどう思うの?」

 

「わ、私ですか?」

 

不意に自分に話を振られた瑞鳳は、どちらの味方をしていいものかと悩んだが、ふと香取の言葉が頭に浮かんだ。

 

『間違いなく決行します』

 

「私は今回の作戦…やるべきだと思います」

 

「よく言った!」

 

「だよな~!」

 

長門と天龍はよくぞ言ってくれた、とばかりに瑞鳳を見る。

 

「瑞鳳さん…」

 

一方の加賀は目を細めて瑞鳳を見据える。金剛は、残念そうに上を向いた。

 

「長門さん達の言う通りキツイのはいつもの事です。でも虎穴に入らないと小鹿…何だっけ…

 

「と、とにかくっ!私はやるべきだと思います!」

 

瑞鳳は提督の目を見て、力強く訴えた。

 

「…確かに、少し臆病になっていたかもしれないな」

 

「えっ?それじゃあ…」

 

提督は椅子から立ち上がり、その場にいる全員に告げた。

 

「南方海域進出作戦を決行する」

 

「いよっしゃぁ~っ!」

 

天龍は雄叫びを上げ、長門は満足そうに腕を組む。

瑞鳳も自分の意見が通るとは思っていなかったので、表情が和む。

ふと、加賀と金剛の二人を見ると、目を瞑り何とも言えない表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦は決行する様ですね」

 

訓練中の瑞鳳の下に、香取が話しかけてきた。

 

「あ、香取さん。そうなんですよ。私、てっきり中止になるもんだとばかり思ってて」

 

「ふふっ、提督に聞きましたよ。瑞鳳さんの鶴の一声が決め手になったとか」

 

「そ、そんなっ。私はただ香取さんの言ってた事を思い出して…」

 

瑞鳳は照れた様に下を向く。

 

「でも、瑞鳳さんの一声が提督さんの背中を押した様な物です。凄いじゃないですか」

 

「そ、そうかなぁ。エヘヘ…」

 

照れ笑いをしていた瑞鳳だが、急に黙って真剣な顔になった。

 

「もしかして…自分も今回の作戦に加わりたいのでは?」

 

「…うん。最近あまり出番無いし。私だって役に立つ所見せたいし」

 

優しい眼差しで瑞鳳を見つめる香取は、ポン、と瑞鳳の肩に手を置いた。

 

「瑞鳳さん。提督に直談判すべきですよ」

 

「えっ、でも…」

 

「何か、不安な事でも?」

 

「不安じゃないけど。その…空母は加賀さんもいるし、私の出番無いんじゃないかなぁと思って…」

 

香取は、真剣な顔になって瑞鳳に言った。

 

「今回の作戦は、空母の皆さんの活躍に懸かっていると言っても過言ではありません。加賀さんは勿論、瑞鳳さん、アナタもです」

 

「わ、私なんかが?」

 

「ふふっ、大丈夫ですよ。瑞鳳さんの努力は知っています。前も言いましたが、彗星の活躍する所、皆さんにも見てもらいたくないですか?」

 

「彗星の…活躍する所…」

 

暫く俯いていた瑞鳳だったが、やがて自信に満ちた目で香取を見つめた。

 

「私、提督に頼んでくる!」

 

「その意気ですよ、瑞鳳さん。きっと提督もアナタを必要としています」

 

瑞鳳は、香取に一礼すると走り出した。その途中で鹿島とすれ違った。鹿島は瑞鳳に気付くとペコリと頭を下げ、香取の下へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆の意見を振り切ってでも、制空権を取った方がいいと思います』

 

「艦載機を発進させましょう!」

 

香取の言葉を思い出した瑞鳳は、加賀に詰め寄った。

瑞鳳の言葉に加賀は振り返った。

 

「瑞鳳さん、気持ちは分かるけど、まだ早いのでは…」

 

「敵影発見!これは…空母ヲ級です!」

 

加賀と並走する翔鶴が加賀に伝える。

 

「!…了解。瑞鳳さん、準備はいい?」

 

「ええっ!攻撃隊、発艦!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南方海域への進行作戦は無事に終わった。

特に空母の活躍が大きく、当初は意見の別れた加賀も、瑞鳳の活躍は素直に認めていた。

 

港に帰投した瑞鳳は、駆逐艦の訓練を終えた香取の下へ、息を切らして駆け寄った。

 

「香取さんっ!作戦は無事、終了しましたっ!」

 

「お疲れ様です…その様子じゃ、活躍できたみたいですね」

 

「エヘヘ…。香取さんに言われた通りにしたら、上手く行きました。ありがとうございます!」

 

「いえいえ、瑞鳳さんの実力あってこそですよ。正直、こんなに活躍するとは思ってませんでしたよ。あの加賀さんも誉めていたみたいですし」

 

瑞鳳は照れ笑いしながら、頭を掻く。

そんな瑞鳳を見ていた香取は急に深刻な顔になる。

 

「…香取さん?」

 

「でも、問題はこの後です。私が思うに、この後、深海棲艦も黙ってはいないと思います」

 

「えっ、それってどういう…」

 

「…いえ、私の思い過ごしかもしれません。折角の勝利の気分が台無しですね。忘れて下さい」

 

香取は瑞鳳の肩をポンポンと叩くと、その場を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日後、まだ勝利の余韻も冷めやらぬ鎮守府に衝撃の一報が届く。

深海棲艦の一大反攻作戦が始まったのだった。

艦娘達は、事の真相を提督に確かめようと挙って司令室に押し掛けた。

 

「提督、深海棲艦達の反攻作戦が始まったと言うのは本当か?」

 

皆を代表して長門が提督に詰め寄った。

 

「あぁ、本当だ。だがそれに対する作戦編成も出来上がりつつある」

 

「…本当か!」

 

「ここにいる香取に、この事態を想定して考える様にと言われてな」

 

提督の横に立つ香取が照れ臭そうに長門を見る。

 

「大本営からの正式な命令があり次第、いつでも動ける。お前達もそのつもりで準備しておく様に」

 

「「「ハイ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香取さん、凄いなぁ。前に言ってた事、本当になっちゃったよ!」

 

いつもとは違い、今日の瑞鳳は些か興奮していた。今まで彼女が言った事はことごとく実現してきたのだ。瑞鳳には香取がまるで予言者の様に見えていた。

 

「まぁ本当は、実現しない方が良かったんですが、気になったので提督さんにも助言しておきました」

 

「でも、何でこんなに次から次へ分かるの?」

 

瑞鳳の質問に、香取は少し顔を暗くした。瑞鳳も一瞬、何か聞いてはいけない事だったのかと戸惑った。

 

「…瑞鳳さん。この事、誰にも言わないと約束できますか?」

 

「えっ、えっ?どうしたの急に」

 

香取は真剣な眼差しで瑞鳳を見つめる。

 

「…うん、誰にも言わない」

 

「実は私には…未来が見えるんです」

 

「…へっ?」

 

「私はそれを見て瑞鳳さんや提督に助言しているんです。もし酷い未来があっても何が起こるか分かっていれば、対処はできます。何でこんな力があるのかは分かりません。でも折角授かった力です。皆さんのお役に立てたいと思いまして」

 

「…」

 

「…やっぱり、こんな話、信じてもらえませんよね。ごめんなさい、変な事を言って。忘れて「信じるよ」

 

「…えっ?」

 

「私、香取さんの話、信じる。だって今まで私の事色々助けてくれたもん」

 

「ず、瑞鳳さん」

 

「その力、きっとみんなを助ける為に神様がくれたんだよ!だから、私、香取さんの事信じるよ!」

 

香取は急にその場にうずくまってしまった。目には涙を溜めていた。

 

「かっ、香取さんっ?」

 

「ごめんなさい、どうせ馬鹿にされると思っていたから、嬉しくって…!」

 

「ば、馬鹿になんてしないよっ!」

 

瑞鳳がうずくまる香取に近付くと、香取は瑞鳳を優しく抱き締めた。

 

「ひゃあっ!か、香取さんっ?」

 

「ありがとう。瑞鳳さん、信じてくれて…ありがとう」

 

瑞鳳の言葉が余程嬉しかったのか、香取は涙を流して喜んでいた。

 

「…うん」

 

瑞鳳は、香取を優しく抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈偵察隊はまだ何も言ってこないけど、そろそろかな〉

 

瑞鳳達の艦隊は次の海域へと足を進めていた。

今回も前回と同様、加賀や金剛、羽黒を含む編成となっていた。

 

「ヘ~イ、加賀~。随分静かですケド、大丈夫デスカ~?」

 

「まだ偵察隊からは何もないわ」

 

目的海域に入ってかなり経つが、未だに敵の姿は無かった。

 

「も、もう日が落ちてきましたね」

 

羽黒が不安そうに呟く。

空を見ると黒い雲が空を覆い始めた。

 

「…!敵影発見よ。空母、それに重巡級っ」

 

加賀の声に呼応するかの様に背後から駆逐イ級が数体、こちらに向かってくる。

加賀が矢を射るのを合図に、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「いったん引きましょう!」

 

加賀が皆に叫ぶ。

戦艦棲姫の出現により、戦況は刻一刻と悪化していった。

既に羽黒は大破状態。金剛はかろうじて持ちこたえてくれているが、加賀も瑞鳳も既に何度か被弾していた。

 

「いえ、ここは踏みとどまるべきです!」

 

「瑞鳳さん、アナタ何を言ってるの?明らかにこちらが不利よ。このままでは全滅は時間の問題よ」

 

「そっ、それはそうですがっ…それでもっ!」

 

『いいですか、瑞鳳さん。今度の戦いかなり厳しい戦いになります。でも大丈夫。皆さんが勝つ未来が私には見えます』

 

瑞鳳が出撃前に、香取に言われた言葉が頭を過った。

 

『帰ってくる瑞鳳さんを私が…。そして提督が迎えてくれる未来が、私にははっきり見えます』

 

〈香取さんの言う通りなら、私達は勝つ筈。だからここで退いちゃ勝てない!〉

 

『だから前に前に進んで下さい。結果的にそれが敵を押し戻し、勝利の鍵になります。

 

『全ては瑞鳳さん、アナタに懸かっています!』

 

「お願い、私を信じてっ!」

 

瑞鳳は矢を射る。

その矢が火花を散らし、空中で戦闘機へと姿を変える。

 

「行って、彗星っ!」

 

戦闘機達が戦艦棲姫めがけて爆撃を開始する。

 

「!!」

 

戦艦棲姫が驚きの表情を浮かべた瞬間、彼女の周囲に爆発が起こる。

 

「ギャアアァァッ!」

 

戦艦棲姫は苦悶の表情を浮かべながら、海に沈んでいく。

 

「…やった。やっぱり香取さんの言う通りだった」

 

自分の頭上に戻ってくる戦闘機達にニコリと微笑み、瑞鳳は加賀に振り返った。

 

「加賀さん。あと一息ですっ!」

 

だが、加賀の表情は険しいままだった。

瑞鳳に向けて、必死に何かを訴えようとしている。

 

「…か、加賀さん?」

 

「…ろっ」

 

「えっ?」

 

「後ろよ、瑞鳳っ!」

 

加賀の叫びと共に瑞鳳の後ろに水柱が立つ。

その中から伸びてきた手が、瑞鳳の肩を掴んだ。

 

「アイアン…ボトム…サウンドニ…

 

「シズミナサイッ!」

 

それが、瑞鳳が聞いた最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦は失敗に終わった。

瑞鳳のいた艦隊は、瑞鳳を含め加賀や金剛、駆逐艦数名が轟沈。大破した羽黒が救援艦隊に救われ、かろうじて鎮守府へと帰還した。

 

 

 

 

「やはりあの海域へは進攻すべきじゃなかった。…全ては自分の責任だ」

 

司令室で香取から報告を受けた提督は、自分の判断ミスを深く後悔していた。

 

「お気持ちは分かります。ですが、提督の作戦には問題はありませんでした。あまり気を落とさないで下さい…」

 

香取は、椅子に座り頭を垂れる提督の肩に手を置き慰める。

 

「だが、瑞鳳や加賀、それに金剛。他にも何人かの轟沈を出してしまった。彼女達の姉妹に会わせる顔が無い」

 

「それは私の方から伝えておきます」

 

「すまない…」

 

提督は椅子から立ち上がり、窓辺から外を見渡す。

 

「しかし、加賀には不利と思ったら、必ず撤退しろと言っておいたんだが。…本当に気の毒な事をしてしまった」

 

「戦場では何が起こるか分かりません。提督は悪くありませんよ」

 

「…そう言ってくれると、助かる」

 

「それにいつまでも悲しんでいては、沈んでいった彼女達も浮かばれません。彼女達の無念を晴らす為にも、次を考えましょう」

 

「あぁ。そうだな」

 

悲しげに窓を見詰める提督に、香取は優しげに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香取と鹿島は、それぞれ別の鎮守府にいたが、週に一度は連絡を取り合い、お互いを励まし合っていた。

ある時から、鹿島の手紙は彼女のいる鎮守府の提督の話題が多くなっていた。

手紙から察するに、鹿島はその提督を慕っているらしかった。

何度もそんな手紙を読んでいる内に、香取もその提督に興味を持ち始めた。

 

そんな折、香取のいる鎮守府の駆逐艦も練度が上がり、仕事も一段落着いた事から、彼女は鹿島のいる鎮守府へと異動願いを出した。

鹿島も姉を自分の鎮守府に呼びたかった事もあり、すんなり話は運んだ。

 

姉が同じ鎮守府に来てくれた事を最初は喜んでいた鹿島だったが、それはすぐに後悔へと変わった。

自分達は、やはり姉妹なのだと痛い程実感した。

自分が好きな物は、姉も好きなのだ。

鹿島には、姉の気持ちがまるで伝わってくる様に分かった。

香取もまた、提督に惹かれていると…。

 

だが、意外にも香取は必要以上に提督と接する事はせず、鎮守府の艦娘達との交流に精を出した。

鹿島も姉が自分の気持ちを知って、身を引いたのだと思った。

だが、香取が事ある毎に気遣う艦娘達にある共通点がある事に気付き始めた。それは鹿島と同じく、提督を密かに慕っている艦娘だった。

 

言葉巧みに話しかける内に、香取が目を付けた艦娘達は彼女に心を許す様になった。

 

最初に知り合った瑞鳳からは、提督に朝ご飯を作るのは迷惑では、と相談を受けた。

一方で羽黒からも全く同じ相談を受けた。

香取は、それぞれに正反対のアドバイスをした。

瑞鳳には作るべき、羽黒には少し間を置いてみては、と。

自分の料理を美味しそうに食べる提督を見て、瑞鳳はこれも香取のお陰だと、彼女に心を許し始めた。

 

暫くして、加賀と金剛、そして瑞鳳から同じ相談を持ちかけられた。

提督がある作戦を決行するかについてだった。

香取は、ここでも両者に真逆の答えを出した。

瑞鳳には決行するだろう、加賀達には止めるべきだ、と。

 

結果、提督は瑞鳳の意見に後押しされ決行する事にした。

瑞鳳にとって、香取の存在は益々大きくなっていった。

 

深海棲艦の反攻作戦を予言した香取だったが、これは別に外れても良かった。

香取に未来を見る力など無い。

瑞鳳も本来ならそんな言葉を信じはしないだろう。だが、瑞鳳に出した助言はことごとく的中してきた。

瑞鳳は最早、香取の言葉を疑う事は無かった。

 

二人が頻繁に会っている事に疑念を持った鹿島が、何を話しているのか聞きに来た事もあったが…。

 

香取にとって、自分の予言を信じさせる相手は誰でもよかった。

結果的に自分の言葉通りに動く様になってくれれば、瑞鳳でなくても構わなかった。

当たりの予言を引き続け、すっかり自分の言葉を鵜呑みにする様になった瑞鳳に、香取は自分の目的を叶えてもらう事にした。

 

…一人でも多く道連れにして、消えてもらおうと。

 

この新しい鎮守府では、香取は新参者。

提督を慕う連中を出し抜こうとすれば、間違いなく反感を買う。

ならば逆に信頼を得て、操れないかと考えた。

彼女の目的からすれば、より影響力のある相手、できれば長門や加賀辺りが理想だったが、そこまでは上手くいかなかった。

香取は最後の最後で、瑞鳳に嘘の予言を与えた。

『引かなければ、必ず勝てる』と。

それを信じた瑞鳳は、不利な状況にも関わらず最後の瞬間まで勝てると信じていた。

 

結果、瑞鳳は加賀、金剛と共に沈んだ。

これは香取にとっても嬉しい誤算だった。

 

〈瑞鳳さんがここまで活躍してくれるとは。できれば羽黒さんも連れて行って欲しかったですが…〉

 

〈ですが、これで邪魔者はあらかた片付きました。できれば鹿島に手を掛ける事はしたくないけど…〉

 

〈ごめんなさいね、鹿島。でもアナタも悪いのよ?〉

 

〈アナタが私をこの鎮守府に呼ばなければ、私もこんな事をしなくて済んだのに…〉

 

〈だから鹿島…お願いだから私にそんな事をさせないで頂戴ね〉

 

提督の背中を見つめる香取。

その顔は、慈しみとも情念とも分からない妖しい微笑みを浮かべていた。

 




今回の話、もうちょっと早く載せるつもりだったんですが、香取の動機考えてたら、これもうわかんねぇな状態で一週間過ぎてました。
あんまり考え込んでも意味無いですね。次からは、もう少し単純な展開を心掛けます。

次は妹です。ウフフッ♪






おまけ 艦娘型録

香取 人に話を振るのが上手い司会者タイプ。最近コンタクトにしようと思ったが、提督が眼鏡フェチだと知ったので止めた。前は素足だったが、お姉さんタイプに路線変更する為ストッキングにした。

瑞鳳 人の言う事を真に受けちゃう純粋な娘。一方で、卵焼き以外も普通に作れるが、それしか作れないキャラの方が受けが良い事も知っている侮れない娘。

提督 香取を呼んだのも鹿島に言われたからで、ちょっと流されやすい人。一方でそんな所がケッコンしたら尻に敷けると思われて香取に目を付けられた。眼鏡っ娘フェチ。

鹿島 今回の件には直接絡んではいないが、元々は香取にこっちに来てほしいと言ったのがそもそもの始まり。そういう意味では一番の元凶と言える。提督が眼鏡フェチだと教えたのもこの娘。

羽黒 ほとんどチョイ役だったので、辛くも命拾いした。瑞鳳と同じく提督の胃袋を掴もうと画策していたので、案外抜け目ないのかもしれない。腹黒と言ってはいけない。

金剛 前の話では妹沈めたりあまり良いイメージが無いが、今回はまとも。香取が来なかったら何かやらかしたかも。

加賀 今回はチョイ役だが、ピンの話が内定している。やりました。自分と違って料理が出来る瑞鳳と羽黒を警戒していた。金剛はノーマーク。

長門 戦力はピカイチだが、頭が残念な娘。最終的に戦えればそれでいい、戦闘民族みたいな人。

天龍 今回はチョイ役だが、加賀と同じくピンの話が用意されてる。フフフ、読みたいか?今回は長門の子分みたいな感じだった。一発芸の眼帯外しは駆逐艦にウケがいい。
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