艦娘症候群   作:昼間ネル

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鹿島、鎮守府辞めるってよ。





Bad apple

〈何故…こんな事に…〉

 

無数の砲撃を受け、海に沈みゆく一人の艦娘。

その後ろでは、沈んでいく彼女を無表情に見下ろす何人かの少女達。

 

「…皆さん、帰投しますよ」

 

その中の一人が命令を下すと、周りの少女達はその場を後にした。

 

〈ま、待って…くれ…!〉

 

沈んでいく彼女は、背中を向ける少女達に最後の力を振り絞って手をかざす。

少女達は立ち去った。

 

誰一人振り返らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久しぶりです、提督さんっ♪」

 

廊下を歩く男が声に振り返ると、目を輝かせた少女がいた。

 

「君は…鹿島じゃないか!…そうか、君ここの鎮守府だったのか」

 

男は嬉しそうに少女に話しかけた。

 

「もう一年振りですね。フフッ、元気そうで何よりです」

 

「あぁ、君も元気そうだね…」

 

「…どうしました?顔色悪いみたいですが。それに今日はまた、どうしてこちらに?」

 

「あぁ、実は…」

 

そう言って、彼は自分の悩みを彼女に話し始めた。

 

彼は別の鎮守府で提督をしていた。

鹿島とは、まだ見習いだった時に知り合った。お互い駆け出しの新米だった事もあり、何かと話す機会が多かった。

そうこうしている内に、彼は一つの鎮守府を任される事になり、鹿島とも会う事はなくなった。

 

鎮守府の提督になって早一年。

戦果は微々たる物だったが、まだ一人の轟沈も出しておらず、端から見れば何の問題も無い様に見えた。

少なくとも彼は、そう思っていた。

 

彼は何をするにも万全を期す為か、大きな敗北を喫した事は一度もない。一方で、そんな彼の性格に艦娘達はある不満を持つ様になった。

 

いささか慎重過ぎるのではないかと。

 

大きな口論になった事は無いが、艦娘達も彼の作戦に不満を漏らす事が多くなった。

 

特に血の気の多い艦娘達からは、自分達はもっと活躍できる、何故自分達を信用しないのか、中にはあの提督は臆病者だと陰口を叩く者もいた。

そんな事が続き、艦娘達との間に溝ができつつあった。

悩んだ彼は、この鎮守府の提督に相談をしに来ていたのだった。

 

「…そうだったんですか」

 

「あぁ。最近は命令無視もたまにある位でね。…もしかしたら自分は、提督には向いていないのかもしれないな」

 

「そ、そんな事ないですっ!それは私が保証しますっ!」

 

「ははっ、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」

 

「提督…」

 

塞ぎこむ提督を見ていた鹿島は、急に彼の手を握り締めた。

 

「かっ、鹿島っ!?」

 

「提督っ、私そっちの鎮守府に行ってもいいですか?」

 

「えっ?でも君はここの…」

 

「フフッ、それは大丈夫です。実はもうすぐ異動なんです。だからそっちの鎮守府にも行けると思います」

 

「そ、そりゃあ来てくれるのは嬉しいが、来てどうするんだ?」

 

「私に考えがあります。でも、一つ条件があるんです」

 

「条件?」

 

「えぇ。それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日から、この鎮守府に配属になりました香取型練習巡洋艦2番艦、鹿島です。皆さん、よろしくお願いします!」

 

新しく赴任した鹿島が、司令室にいる数人の艦娘達に挨拶をしていた。その中には鹿島の姉、香取もいた。

 

「鹿島、アナタもここに来たのね」

 

「久しぶりっ、お姉ちゃん。今日からよろしくね」

 

姉妹手を取り合い再会を喜ぶ二人。他の艦娘達も鹿島を温かく出迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、次の作戦が延期になったと聞いたが…理由を聞かせてもらおうか?」

 

妙高と共に司令室に来た那智は、不満を隠そうともせず提督に尋ねた。

 

「他の艦娘の練度も考えた結果、まだ進むべきではないと判断したんだ」

 

「確かに貴様の言う事も一理ある。だが、そう言って延期になったのは何度目だ?」

 

「那智、失礼ですよ。提督にも考えがあるんですから」

 

隣にいた妙高が那智を嗜める。だが、そんな妙高の意見を突っぱねて那智は続ける。

 

「いや、姉さん、これは私だけの意見ではない。足柄や羽黒も思っている事だ。…本当は妙高姉さんもそう思っているのでは?」

 

「私は…!そんな事は…」

 

妙高は言葉に詰まり下を俯く。

 

「司令官よ、アナタはいささか慎重過ぎるのではないか?我々を気遣ってと言うなら筋違いだ。…それとも司令官、貴様は我々を信用できないのか?」

 

「那智!」

 

「いや、そんな事はないが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですよ、提督。那智さんの言う通りにすべきです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?」

 

「鹿島?」

 

提督の隣にいた鹿島に、提督と那智が顔を向ける。

 

「ほう、貴様見た目の割に中々勇ましいな」

 

「いえいえ、那智さんの武勇に比べたら大したことは」

 

「フッ、それなら話が早い。貴様からも言ってやってくれないか?」

 

鹿島は提督に向き直ると語り始めた。

 

「提督っ、那智さんの言う通りにすべきです」

 

「鹿島、お前まで何を…」

 

提督はてっきり鹿島が自分の肩を持ってくれる物だとばかり思っていたので、いささか面食らった。

 

「例え護衛の駆逐艦や他の皆さんの犠牲を出そうとも進軍すべきです」

 

「えっ?」

 

「何っ?」

 

妙高と那智は驚いた様に鹿島を見る。

 

「鹿島、と言ったな。私はそういう意味で「那智さんはどれだけの犠牲を出そうが構わず進むべきだ、そう仰っているんです」

 

「お、おい」

 

「そうなのか?那智」

 

提督は怪訝そうに那智の顔を覗きこむ。

 

「ち、違う。そんな訳がなかろう!」

 

「えっ、そうなんですか?すみませんっ!私ったら勘違いしちゃって…」

 

「全く…。と、とにかく司令官よ。もう一度考慮してくれ。何なら私が旗艦を務めても構わん。頼むぞ」

 

那智はそのまま部屋を後にし、妙高も一礼すると那智と共に部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

那智の指揮する艦隊が激戦を繰り広げていた。

艦隊は彼女の性格を体現したかの様に、統制が取れてはいたが、那智は妙な違和感を感じていた。

駆逐艦達は自分の指揮には素直に従う。だが、いつもと何かが違う。それが何なのかはっきり表れたのは、正に戦闘の最中だった。

 

「きゃあっ!」

 

瑞鶴が敵の魚雷を喰らい、顔を歪める。

 

「瑞鶴っ!くっ、卯月、弥生っ。瑞鶴の前へ!」

 

那智が二人に指示を出すも、卯月も弥生も何故かその場から動こうとしない。その顔は恐怖に必死に耐えている様にひきつっていた。

 

「どうした二人共っ!聞こえないのかっ!?」

 

「いっ、嫌だぴょん!」

 

恐怖に耐えきれなくなったのか、卯月は弥生に抱き着き悲鳴を上げた。

 

「弥生も…嫌ですっ…!」

 

「なっ!何を言っているっ!瑞鶴の護衛に行くんだっ!」

 

那智も、卯月と弥生と共に出撃した事は何度かある。駆逐艦故の頼り無さを感じた事はあるが、敵を前に震える事は一度も無かった。

それが今日に限って二人共、いや、よく見れば横にいる睦月も何かを怖がっている。

ふと、那智はある事に気付いた。

卯月も弥生もそうだが、睦月も目の前の深海棲艦ではなく、自分を見て怯えていた。

 

「お、お前達、一体どうしたんだ…」

 

「嫌だっ、沈みたくないぴょんっ!」

 

卯月が背を向けその場から逃げ出そうとする。

那智は慌てて追いかけ、卯月の肩を掴んだ。

 

「貴様、今は戦闘中だぞっ!一体どこへ行くつもりだ」

 

「うーちゃんは沈みたくないぴょんっ!」

 

「だからと言って、逃げ出す奴が「那智さんは、うーちゃん達を沈める気だぴょんっ!うーちゃんはそんなの嫌だぴょんっ!」

 

卯月は那智の手を振りほどいて、一目散に逃げて行った。

 

「待って…」

 

それに続く様に弥生も卯月と一緒に逃げ出す。

よく見れば隣にいる睦月も顔をひきつらせて、今にも泣きそうな顔をしていた。

 

「睦月っ、お前まで一体どうしたと言うんだ!」

 

那智は睦月の両肩を掴んだ。

 

「那智さんが、し、沈めと言うならそうします。だから、妹達は見逃してあげて下さいっ…。お願いですっ!」

 

「なっ…」

 

両目に涙を溜めた睦月は、瑞鶴の下へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「卯月っ、弥生っ!」

 

帰投した那智は妙高に抱き付いて震えている二人の下へと駆け寄った。

 

「ひゃあっ!」

 

「ご、ご免なさいっ…!」

 

那智の声を聞いた二人は泣きながら妙高の後ろへと隠れる。

 

「那智、気持ちは分かるけど怒らないであげて。提督には私から言っておくから」

 

「いや、確かにそれもある。だが私が分からないのはそれではないんだ」

 

「逃げてしまった事でしょう?」

 

妙高は泣いている二人をあやしながら、那智に語った。

 

 

 

 

 

 

『駆逐艦の皆さんは、那智さんや瑞鶴さんが活躍する手助けをしなくちゃいけません。旗艦の那智さんが被弾しそうになったら必ず楯にならなきゃなりませんよ。…例え沈む事になっても、です』

 

睦月達は前日の訓練で、鹿島からそう教えられていた。

以前、那智と共に出撃した際に如月が大破した事があった。それは那智や他の者を庇ったのではなく、あくまで運が悪かっただけだったが、卯月達三人にはそのイメージが強く残っていた為、鹿島の言う事に必要以上の現実味を与えてしまった。

 

「私は如月を楯にしたつもり等ない!確かに如月は気の毒だったが、あれは敵の増援による物だ」

 

「えぇ、分かってるわ那智。あの時は私もいたし、お互い中破した位ですもの。

 

「でも、如月ちゃんの事が尾を引いて、この娘達にはそうは見えなかったんでしょう…」

 

妙高は震える二人の頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿島っ、貴様、駆逐艦達に何を吹き込んだのだ!」

 

司令室に踏み込んだ那智は、その場に鹿島を見つけると開口一番、彼女に問い質した。

 

「何を吹き込んだも何も…駆逐艦達の役目を教えたつもりですが…、何か問題でも?」

 

「何か問題だと?あいつ等は戦場で震えて逃げ出す始末だ。これが問題じゃないとでも言うのか?」

 

「そ、それは申し訳ありませんっ!次は逃げずにきちんと楯になる様に言っておきますっ!」

 

「なっ、そんな事を言っているのではないっ!」

 

「はいっ?では、何を?」

 

「きっ、貴様っ」

 

那智は椅子に座る提督に視線を送った。

 

「那智、妙高から話は聞いているよ。だが、駆逐艦の役目は本来そういった物だ。鹿島は悪くないと思うんだが…」

 

「なっ、司令官っ、貴様までコイツを庇うのか?」

 

那智は提督を睨み付けた。

 

「いや、庇うとかではなく…」

 

「う~ん、でも本来あの娘達の役目は那智さん達巡洋艦や空母の皆さんの護衛が主な仕事。その為の覚悟を教えたつもりです。私、何か間違ってるでしょうか?」

 

「きっ、貴様っ…」

 

鹿島は、まるで那智が何故怒っているのか分からない、とでも言いたげに笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城は決して提督に不満がある訳ではない。

提督が自分達の安全を何より考え、少しでも負担のでない様に心掛けている事は、重々承知している。

そんな彼女にも唯一の不満があった。

食事だった。

彼女は空母と言う性質上、他の艦娘よりも燃費が悪く、どうしても燃料を消費する。それを食事という形で賄っているのだが、正直足りない、と言うのが本音だった。

もう少し自分に食料を回してくれれば、きっと今以上の戦果を出せる。同艦の加賀さんもきっと自分と同じ様に考えているのだろう。

だが、提督は極力自分達の出撃を控え、その所為で自分達の食事も制限されている。彼女にもプライドがある。出撃もしていない自分が人並み以上に食べてもいいのだろうか?そんな思いもあり、彼女は大っぴらに食べる事を自らに禁じていた。

 

 

 

 

 

「赤城さん、顔色悪いみたいですが、大丈夫ですか?」

 

赤城が食堂で暗い顔をしていると鹿島が話しかけてきた。

 

「鹿島さん…。いえ、お恥ずかしいですが、食事の量が…その…」

 

「あぁ、赤城さんは空母ですものね。それはさぞお困りでしょう」

 

赤城は顔を赤くして頷く。

 

「…もし宜しければ、私の方から提督さんにお願いしてみましょうか?」

 

「えっ?ホントですか!…いえ、やはりお気持ちだけで…」

 

「…どうしてです?」

 

「いえ、私ばかりが特別扱いされるのは…」

 

「フフッ、大丈夫です。確か次の任務で赤城さんも編成されていると聞いてます。その為だと言えば、提督さんも頷いてくれますよ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

赤城はさっき迄の暗い顔はどこへやら、眼を輝かせて鹿島を見つめる。

 

「ハイッ♪早速、提督さんに掛け合ってきますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、今日は大変でしたね。お疲れ様です」

 

赤城を旗艦にした部隊が戦いを終え帰投した。

決してキツい戦いでは無かったが、共に出撃した駆逐艦達は、ほとんどが中破状態だった。

 

「私、役に立ちましたか?」

 

部隊の中でも一番ダメージの酷いのは如月だった。赤城を庇う為に何度か被弾していた。

 

「ご免なさいね如月さん、私の為に…」

 

「いえ、赤城さんが無事なら、それでいいんです」

 

「え、ええ。それはもう…」

 

ハッ?と赤城は周囲に視線を感じ辺りを見渡した。その場にいた駆逐艦達が感情を無くした様な死んだ目で赤城を見つめていた。

 

「み、皆さん…大丈夫です…か?」

 

「行こう、卯月、弥生」

 

「…」

 

如月は赤城に一礼すると、二人を連れてドックへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿島さん、あの娘達に何を言ったんですか…」

 

ドックで駆逐艦達と話す鹿島を見つけた赤城が、暗い表情で尋ねた。

 

「あ、赤城さん。作戦は無事終了とお聞きしました。赤城さんの活躍はこの娘達からも聞いてますよ」

 

そう言って鹿島が手をかざした駆逐艦達は、皆どこか拗ねた様に下を向いていた。

 

「さ、作戦が無事終了したのはいいです。ですが、この娘達いつもより動きがおかしかった様な…。鹿島さん、一体どんな指導をしたんです?」

 

「訓練自体は特に何も…。ただ…」

 

「ただ…?」

 

「赤城さんが活躍できる様に、あなた達はできるだけ食事を控えて、赤城さんに食べさせてあげなさいと言っただけです」

 

「なっ…!」

 

赤城は今日の戦いの不審な点を思い出していた。

確かに駆逐艦達は、以前より規律が上がっている気はする。一方で動きが心許ない、行動の一つ一つがふらついている気がしていた。

鹿島の言葉で全てに合点が行った。

 

「じ、じゃあこの娘達、食事は…!」

 

「ハイッ♪赤城さんに食べて頂いたので、食べていませんっ」

 

「!!」

 

確かにここ最近の食事は、何故か量が多かった。だがそれは、自分の出撃の為に提督や間宮さんが気を効かせてくれているのだとばかり思っていた。

実際は、駆逐艦達の分を食べていただけだった。

 

「か、鹿島さんっ。確かに私は空母と言う性質上、他の方より燃費が悪いかもしれません。ですが、自分の為にこの娘達の分まで食べようなんて、考えていませんっ!」

 

「もっ、申し訳ありませんっ!提督さんに相談したら許可を頂いたので、てっきり喜んで頂けるかと…!」

 

「てっ、提督も許可したんですか!?」

 

「ハイッ。赤城さんは作戦の要です。他の娘の分を削ってでも赤城さんに回すべきだと。この娘達もちゃんと理解してくれました♪」

 

「…!」

 

駆逐艦達は皆、苦虫を噛み潰した様な顔で二人の会話を聞いていた。

 

「ち、違いますよ皆さん、私は…」

 

「へっ、平気です。私達の任務は赤城さんの護衛ですから。この…位…」

 

笑顔で答える如月だったが、その顔はどこかひきつっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、鹿島さんっ」

 

鹿島が振り返ると、そこには思い詰めた顔をした睦月が立っていた。

 

「遠征や護衛任務は、私がこなします。だから妹達には、ちゃんと食事を取らせてあげてほしいのです…!」

 

「睦月さん、お気持ちは分かります。ですが、その為に那智さんや赤城さんにもしもの事があれば、責任を取れるんでしょうか?」

 

「そっ、それは…」

 

困った様に下を向く睦月の肩に手を乗せ、鹿島は微笑む。

 

「でも、睦月さんの言う事ももっともですね」

 

「…!じゃ、じゃあっ!?」

 

「ハイッ、皆さんの分を出撃しない艦娘の皆さんから分けて貰いましょう♪」

 

「えっ、それって…」

 

「でも睦月さんっ、そこまでするんですから、しっかり成果を上げて下さいね」

 

笑顔で立ち去る鹿島とは裏腹に、睦月は茫然自失でその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、提督命令と言う事で、食事及び補給に制限が掛かった。

だが、その日の出撃予定のある那智や睦月達にだけは、いつも以上の食事が許されていた。

当然、周りの艦娘達はどうして自分達は駄目で彼女達は何も言われないのか不思議に思った。

何も知らされていない那智や赤城は、何故か皆に謝る睦月から事の真相を聞かされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官っ、これはどういう事だ!」

 

那智を筆頭に、赤城や睦月が指令室へと押し掛けた。司令室には提督と鹿島がいた。

 

「那智、それに皆、一体どうしたんだ」

 

「どうしたではないっ!今日の食事の事だ!」

 

「食事?それがどうかしたのか?」

 

「提督、もしかして何も知らされていないのですか?」

 

那智の横にいた赤城が、堪えきれずに提督に問い質す。

 

「?何の事だ。私は鹿島の報告を受けて、今日の出撃予定の者に先に取らせろと伝えてあるが…」

 

「じゃ、じゃあ提督さんは皆の食事を減らせとは、言ってないんですか?」

 

堪らずに睦月も提督の前へと飛び出してきた。

 

「い、いや。それは言っていないが。鹿島、本当なのか?」

 

「わっ、私は提督の指示を把握して皆さんにお伝えしようと思っただけですっ!」

 

「…鹿島はこう言っているが」

 

「それだけではないっ!」

 

那智が提督の前へと歩み寄る。

 

「この鹿島は、駆逐艦のチビ共に我々の楯となって沈めと教えていたのだ!」

 

いつの間にか来ていた卯月と弥生が、ドアから恐る恐る顔を出して聞いていた。

 

「そ、それはいささかやり過ぎかもしれんが…。だが、前も言ったが駆逐艦の任務はお前達の護衛にある。鹿島の言う事も、あながち間違いでもないのでは…」

 

「提督、私は睦月さんや如月さんを犠牲にしてまで生き残る気はありませんっ!」

 

赤城が大声で提督に抗議する。

 

「そんなっ、私はただ、少しでも皆さんのお役に立てればと思っただけですっ!」

 

「鹿島、お前はこの鎮守府を掻き乱しているだけだ!」

 

那智が鹿島に詰め寄った。

 

「て、提督さんっ!私、何か間違っていましたか?提督さんも私の言う事に賛成してくれたじゃありませんかっ!あれは嘘だったんですか?」

 

「…」

 

「提督さんっ!」

 

「司令官っ!!」

 

鹿島と那智の呼び掛けに、提督は暫く頭を垂れていたが、スッと立ち上がり、そして…

 

那智の下へ歩み寄った。

 

「そんな!…提督さん…」

 

信じられないと言った面持ちの鹿島に向き直り、提督はすまなそうに語った。

 

「鹿島、お前が何をしているのか薄々分かってはいたが、何か考えがあるのだと思って黙認していたんだ。だが、皆が乗り込んでくるなんて普通じゃない。

 

「すまない、鹿島。やはり俺は自分の部下の方が大事だ…」

 

「提督っ!」

 

「司令官っ!」

 

赤城や那智を始め、その場にいた艦娘達から歓声が上がる。

一方で、鹿島は涙を溜めて立ち尽くす。

 

「そ、そんな…。私、皆の為にって。提督さんなら私の事を理解してくれるって…信じてたのにっ…!」

 

鹿島は嗚咽をもらしながら、その場から出ていった。

 

「鹿島っ!」

 

鹿島を追い掛けようとした提督の前に、那智が立ち塞がる。

 

「放っておけ。司令官には悪いが、あの鹿島と言う者、ここには相応しくない」

 

「わ、私も那智さんの意見に賛成です。鹿島さんは前の鎮守府に戻られた方が良いかと…」

 

「那智、赤城…」

 

ドアの外から様子を伺っていた卯月や弥生に目をやると、声には出さないが鹿島が出ていった事を喜んでいる様子だった。

 

ゆっくりと机に戻った提督は、椅子に腰掛け、そのまま皆に背を向けた。

 

「鹿島の件はこちらで処理しておく。…皆、すまなかった」

 

「いや、分かってくれればそれで構わん」

 

「私達も今迄以上に頑張ります。勿論、駆逐艦の娘達と一緒にです。ねっ?」

 

赤城が卯月達に微笑んでみせると、卯月と弥生が笑顔で赤城の下へと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方、練習巡洋艦、鹿島は一身上の都合で異動すると、皆に通達があった。

 

こうして、嵐の様に鎮守府を掻き乱した鹿島の件は幕を閉じた。

誰もがそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっ、大変だぴょんっ!しれいかん、いなくなっちゃったぴょんっ!」

 

「何っ!」

 

「ええっ?」

 

朝の食堂に卯月達駆逐艦が息を切らせて駆け込んで来た。

 

「何を言っている卯月。工厰かどこかにでも顔を出しているのではないか?」

 

「う、うーちゃんもそう思ったぴょんっ!でも、しれいかんの机にこの手紙があったぴょんっ!」

 

そう言うと卯月は那智に一枚の封筒を渡した。そこには提督の筆跡で『鎮守府の皆へ』と書かれていた。

何やらただ事ではないと感じた周囲の艦娘達も、那智の下へ集まり、あっという間に人だかりができた。

 

「な、那智さんっ。何て書いてあるの?」

 

封筒から手紙を出す那智に、睦月が興味深げに近付く。

 

「慌てるな。今読ん…で…」

 

手紙を読んでいた那智は、目を見開いて立ち上がった。

 

「司令官っ!」

 

「きゃあっ!」

 

「那智さん、どうかしたんですか?その手紙に何が…?」

 

那智は赤城に手紙を渡した。

 

「…えっ?そ、そんなっ…提督っ!」

 

「赤城さん、何て書いてあるぴょんっ?」

 

赤城の手から手紙がこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督は…私達より、鹿島さんを選んで…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年前、提督とそれぞれの鎮守府へと配属になった鹿島は、風の噂で彼が上手くやっている事を知り安堵していた。

そんな彼と思わぬ再会に感激していた鹿島だったが、一方の彼は一年前よりやつれた様に見えた。

聞けば彼の鎮守府の艦娘達が、彼の心労の原因だと言う。

一体何があったのか心配した鹿島は、兎にも角にも彼の鎮守府へと向かおうとした。

彼の心配を取り除いてあげようと。

 

鎮守府に着いた鹿島は、提督の仕事振りをそれとなく観察していたが、これと言った落ち度は見当たらなかった。

原因は、彼に甘える艦娘達にこそあった。

 

〈一体誰のお陰で一人の轟沈も出さずにやってこれたの?〉

〈誰のお陰で補給に困らず任務がこなせるの?〉

『自分達はもっと活躍できる』

〈あなた達が活躍できる戦場を提督が選んでいるのに気付かないの?〉

『何故、自分達を信用しないのか』

〈あなた達を信用して艦隊を編成しているのよ?〉

『あの提督は臆病者だ』

〈無茶な進軍をして轟沈を出す事が勇敢だとでも言うの!?〉

〈ふざけないでっ!!〉

 

彼の苦労に気付こうともしない艦娘達を見て、鹿島は怒りを滾らせた。

彼は、あなた達には勿体無い。

 

彼の側にいるのは、私こそ相応しい…!!

 

提督は彼女の提案には何も言わず頷き、他の艦娘が苦言を呈しても鹿島を庇った。

鹿島には何か考えがあるのだろうと提督は思っていた。

 

確かに鹿島が来てから駆逐艦達の練度も上がってきている。一方で、鹿島に対する評判が芳しくない事も耳にしていた。

 

そんな評判と呼応するかの様に、鎮守府の雰囲気も悪くなってきていた。

彼女が来る前以上に。

 

もしや、鹿島を信じたのは間違いだったのでは?

そんな疑念が過った時、那智や赤城が、鹿島の指導方針に真っ向から疑問をぶつけてきた。

 

これでは、以前よりも悪くなる…。

 

そう思った提督は、鹿島よりも部下の味方をする事を選んだ。

鎮守府の皆はそう思っていた。

 

提督が鹿島を追って、鎮守府を出ていく迄は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元々、彼女はこの鎮守府にはあくまで提督を奪いに来ただけで、長居をするつもりは更々無かった。

そんな彼女が考えたのは、意図的に嫌われる事だった。

周りの艦娘達に自分に対する不信感を植え付け、最終的には自分を追い出したくなる様にと焚き付けた。

時には那智や赤城を煽り、時には駆逐艦達に理不尽な仕打ちをする事で、彼女達の怒りを募らせた。

 

やがて彼女達は、団結して自分を鎮守府から追い出す様、提督に直訴するだろう。

 

――ここまでが、鹿島の計画だった。

 

彼に、提督を辞めて自分と一緒になろうと言った所で素直に頷く筈がない。

そう考えた彼女は、提督に〈自分の意思で〉彼女を追って来てもらおうと考えた。

生真面目な彼が、部下より自分を取るとは思えない。そうなる事を見越し、鹿島はある約束を取り付けた。

 

『何があっても、私を庇ってほしい』

 

 

 

 

 

 

〈これは、私にとっても賭けでした。

 

〈彼が鎮守府に残るか、それとも私を追ってきてくれるか…

 

〈結果、彼は私との約束を破った罪悪感から鎮守府を…部下を捨ててまで私を選んでくれました!

 

〈皆さんには悪いですが、後はどうなろうと知りません。

 

〈これは彼を苦しめた報い、罰です…!

 

〈彼の本当の優しさを見抜けなかった、あなた達へのね…!〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督が失踪した鎮守府は、一時的に那智が提督代理を務める事になった。

那智は作戦の立案から、補給計画まで鎮守府の経営を一手に引き受ける事になったが、その結果は散々だった。

こと戦闘にかけては、那智の強さは誰もが認めていた。

だが、直接戦う事と、艦隊を動かして戦う事は必ずしも一緒ではなかった。

 

…彼女は退く事を知らなかった。

 

敵を索敵すれば、問答無用で開戦。そんなやり方を続けていればあっと言う間に備蓄は底を付く。

真っ先に割りを食うのは駆逐艦達だった。

鹿島がいなくなった事で、那智達に対する誤解も氷解した筈だったが、後先を考えないその戦略は、出撃毎に駆逐艦達を轟沈の危機に晒した。

特に卯月の那智に対する疑念は根強かった。

今迄は鹿島が原因だと思っていた。ところが、その鹿島がいなくなったにも関わらず現状は良くならない。

 

『あなた達は、那智さんの楯になって沈まなければなりません』

 

〈那智さんもあの人と同じだっ…!!〉

 

いつ轟沈してもおかしくない毎日に、卯月の精神は限界に達していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵影発見しました」

 

「よし、艦隊、単縦陣。撃ち方用意っ!」

 

旗艦の那智の号令の下、駆逐艦達が単装砲を構える。

 

「撃てっ!!!」

 

だが、駆逐艦達は何故か誰一人撃たなかった。

 

「なっ、何をしているっ!命令が聞こえないのかっ!」

 

那智の叫びに卯月が単装砲の狙いを定める。

…那智に向けて。

 

「!卯月っ、誰に向けて…」

 

言い終わらない内に、卯月の単装砲が火を吹いた。

 

「ぐああっ!」

 

那智が苦悶に顔を歪める。

 

「きっ、貴様っ、一体何を…!」

 

「…うーちゃん、もう騙されないぴょんっ」

 

「なっ、何を言って…」

 

「やっぱり那智さんは、最初からうーちゃん達を使い捨てにするつもりなんだぴょんっ!そうはさせないぴょんっ!」

 

「きっ、貴様っ…。睦月、弥生!卯月を拘束しろ!」

 

睦月と弥生はお互いの顔を見合わすと、卯月に続き那智めがけて砲撃を加えた。

 

「ぐわああぁっ!!」

 

駆逐艦の攻撃にその場から吹き飛ばされる那智。

如何に駆逐艦の砲撃とは言え、この至近距離で三人に砲撃を受ければ重巡洋艦の那智と言えども一溜まりもない。

那智の悲鳴を掻き消す様に、一心不乱に砲撃を続ける卯月達。那智が苦悶に顔を歪める度に、三人は加虐的な笑みを浮かべた。

突然の卯月の反抗を慌てて制止しようとした赤城だが、睦月、弥生の二人もこれに加担する様を見て踏み留まってしまった。

 

この場には自分達しか居ないのだから…。

 

最早立つ気力も無い那智が、この造反劇を何故か静観する赤城に助けを求めようと手をかざした。

だが、赤城は無表情に那智を見下し、その場から動こうともしなかった。

 

「あ、赤城、オマエまで…!」

 

「ご免なさい那智さん。あなたのやり方では、私達はあっと言う間に全滅です」

 

「…!!」

 

〈それに、この場であなたを助けに入れば私まであの娘達の標的にされてしまう…〉

 

「…皆さん、帰投しますよ」

 

赤城の号令に駆逐艦達は一斉に背を向ける。

 

〈ま、待って…くれ…!〉

 

声にならない声を上げる那智。

その後ろに、深海棲艦の部隊が迫って来ていた。

 

〈どうして…こんな…事に…〉

 

薄れ行く意識の中で、那智は何故こんな事態になったのかを考えていた。

潜水ソ級達から無数の魚雷が発射された。

 

〈提督を信じれなかった私の所為か…〉

 

魚雷が海に白い尾を伸ばしながら、那智に迫る。

 

〈鹿島が来たからか…〉

 

あと10メートルにまで迫っていた。

 

〈それとも…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あと、1メートル…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




鹿島は、自分の中では無意識なサークルクラッシャー的なイメージがあります。それで話作れないかな~と考えたらこうなりました。

次はある話の続きになるかも。
ヒロインは榛名、かな。
うん、大丈夫です、問題ない。









おまけ 艦娘型録

鹿島 本人にその気は無くても何かと勘違いされる蠱惑的な人。同性の艦娘からの人気はイマイチらしい。本人は提督と同棲したいので辞めたいらしいが、上層部から引き留められている。退役後は家計を助ける為、コンビニで働こうと思っている。サークルKで。

提督 良くも悪くも冒険しない人。その為鎮守府ではヘタレ扱いされていた。そんな所が鹿島の母性本能をくすぐったのかも。本人は鹿島より姉属性の香取の方が好きだったので、それだけが心残り。

那智 性格もさっぱりしているし細かい事は気にしないリーダータイプだが脳筋。戦闘力と頭は必ずしも比例しない事が露見した。八の段が不安。

赤城 間宮の天敵。よく食う母。彼女専用コース、赤城盛り(加賀スペシャル)は見るだけで胃がもたれる。駆逐艦とは普段からコミュニケーションを取っていた事が那智との明暗を分けた。最近やたらと駆逐艦に間宮のあんみつを奢る様になった。

卯月 鎮守府の隠れアイドル。何だかんだで皆から愛されてる。ただいたずらをするにしても許してもらえるギリギリのレベルを見極める事が出来る、ある意味計算高い娘。

睦月 姉妹想いの優しい娘。一方でキレたら一番怖い。那智を一番撃ったのはこの娘。卯月も睦月にだけはいたずらしない。にゃしいとは言わない。

妙高 おかっぱ。髪型を変えようと思って三年が過ぎた。案外優柔不断なのかもしれない。最近、卯月に懐かれた。
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