艦娘症候群   作:昼間ネル

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「オレ達の戦いは、始まったばかりだッ!」

今回はこんな話です。
応援ありがとう ございました。
先生の次回作に ご期待下さい!!
(※続きます!)



錨は巻き上げられ 炎の時代が始まる

〈クトゥルフ〉が、いつからそこに居たのかは誰も知らない。

気の遠くなる様な昔、戦いに破れた〈クトゥルフ〉は再び力を取り戻すその日まで、長い眠りに就く事にした。

たが、いつからか世界は騒がしくなり、彼の者の眠りを妨げ始めた。

〈クトゥルフ〉〈深海棲艦〉を造った。

 

目障りな〈人間〉を消す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、ただいま帰投しました!」

 

「ああ、お帰り。無事で何よりだ」

 

「最近は張り合いのない戦いばかりだぜ」

 

「…天龍さん、一番最初に大破したのです」

 

「あっ、テメェ電っ!」

 

顔を真っ赤にして怒る天龍から逃げる電。提督はそんな光景を微笑ましく見守っていた。

 

「提督、大和帰投しました」

 

「同じく武蔵、帰投したぞ」

 

「ああ、お疲れ。無事で何よりだ」

 

大和型一番艦、大和。

白と赤を基調にした服に腰まで届く黒髪。小さな日傘の様な艤装。奥ゆかしさを醸し出す様な所作。もし後ろの艤装が無ければ理想的な大和撫子と言った所だろうか。

 

「まぁこの私が率いる艦隊が負ける筈がないからな」

 

「…ちょっと武蔵。旗艦は私ですからね」

 

「あぁ、分かっているよ姉上殿」

 

「分かってないでしょ?絶対分かってないでしょ!?」

 

武蔵。

褐色の肌に寝癖の様な白い髪が特徴の大和型二番艦。やや露出過多なので、提督としても目のやり場に困ってしまうのが玉に瑕だった。少しぶっきらぼうだが竹を割った様なその性格は他の艦娘達からも人気がある様だ。

 

「提督。報告、宜しいですか?」

 

「ああ。聞こうか」

 

大和は戦果を語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼がこの鎮守府の提督になって早数年。

彼は艦娘をとても大事にしていた。世の中にはブラック鎮守府と呼ばれ艦娘達を道具の様に扱う所もあると言う。だがここの艦娘達がその事を聞いても口を揃えてこう言うだろう。

 

『そんな所が本当にあるのか?』と。

 

彼が提督を目指したのも偏に国を守りたい一心だった。そんな彼が提督になった時、自分達人間を守ってくれる守護神の様な彼女達を何よりも大切に思うのは極めて自然だった。

ある時は親の様に彼女達を暖かく見守り、またある時は恋人の様に彼女達を励ました。

そんな彼の、自分達に対する深い愛情に答えようと艦娘達も健気に彼を支えた。

提督と艦娘の理想の関係があるとすれば、この鎮守府よりも素晴らしい所は無いだろう。

そんな彼の、彼女達の奮闘が実を結んだのか、今、戦いは大きな転機に差し掛かっていた。

 

深海中枢海域、進撃!!

 

人間と深海棲艦の戦い…。この鎮守府の提督がまだあどけなさを残す少年だった頃から始まったこの戦いも、今まさに最終局面を迎えていた。

この深海中枢での戦いが終われば、この戦いにも終止符が打たれる。

彼に…提督に英雄願望は無かったが、自分達の手で歴史の一ページを刻む事に高揚するなと言う方が無理かもしれない。

彼は日毎に高まる達成感に包まれていた。

 

だが、それとは別に彼にはある気掛かりがあった。

 

自分達の手で戦いを終わらせる。この気持ちは提督も艦娘達も共有している筈だった。彼女達もその為に邁進してきた。

だが、戦いが終盤に近づくに連れ、艦娘達がどこか寂しげな表情を見せる事が多くなった。

大和、武蔵然り、その他の鎮守府の艦娘然り…。

 

提督もそれには気付いてはいたが、仕事に忙殺される日々が、いつしかその疑念を心の奥へと追いやっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武蔵さ~んっ!おっ帰んなさ~いっ!!」

 

「ああ、ただいま清霜」

 

腰まで届く灰色の髪を振り乱した少女が、入渠に向かおうとした武蔵に近寄って来た。

夕雲型19番艦の駆逐艦、清霜。

彼女は艦だった頃の記憶がそうさせるのか、武蔵をまるで実の姉の様に慕っていた。

武蔵もそんな彼女を年の離れた妹の様に可愛がり、普段は見せない柔軟な一面を見せていた。

 

「大丈夫?怪我はない?」

 

「フッ、この私を誰だと思っている?戦艦武蔵だぞ」

 

「すっご~い!戦艦は怪我なんかしないんだね!」

 

いや、そういう訳ではないんだが…と思わず言いかけた武蔵だが、清霜の澄んだ瞳を見ているとそうも言えず、彼女の頭を撫でながら苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

夕方の執務室。

デスクワークも片付きあくびをしていた提督は、大和の姿に姿勢を正す。

 

「クスッ、そんなかしこまらなくてもいいんですよ。もう今日の仕事は終わりですか?」

 

「あ、あぁ。一段落したから夕食でもと思ってね。そういう大和はどうしたんだ。何か報告でも?」

 

「もうっ、報告が無いとここに来ちゃいけないんですか?」

 

大和が唇を噛んで拗ねた様な表情を見せる。

 

「い、いや、こんな時間に来るのは珍しいと思ってね」

 

「一緒に夕飯でもと思いまして。最近は他の娘とばかり食べてますから、たまには私と…お嫌ですか?」

 

「嫌なんかじゃないさ…そう言われてみればそうだな。じゃあ、一緒に間宮にでも行くか」

 

「ハイ!喜んで♪」

 

 

 

 

 

 

 

「あら、珍しい組み合わせですね」

 

「おっ、提督じゃん。大和さんとデート?」

 

「アンタが間宮に来るなんて珍しいじゃん。一緒に食べてあげてもいいわよ?」

 

提督と大和が食堂に付くと、その組み合わせが余程珍しかったのか側にいた艦娘達が群がってきた。結局、側にいた4~5人と一緒に食事を取る事になった。

 

〈もうっ、久しぶりに二人で食べれると思ったのに。他の娘とばかりお喋りしてっ…!〉

 

「…大和、何か怒ってないか?」

 

「…別に怒ってなんかいません!」

 

「そ、そうか」

 

女心…もとい艦娘心はよく解らんと思いつつ、提督は箸を口に運んだ。

 

 

 

 

 

…私、大和がこの鎮守府に来たのは戦局も中盤に差し掛かる頃でした。

戦艦だった私はその役目を終え、海の底で眠りに就いていました。本来ならそのまま永遠のまどろみの中にいる筈でした。でも私は海の底から沸き上がる様な強い力に導かれ、気が付くと今の姿となって第二の生を得ました。

矢矧や雪風といったかつての仲間達も私を暖かく迎え入れてくれました。

何より、そんな自分に寄り添い暖かく導いてくれた提督。

私達、艦娘にまるで自分の娘や恋人の様な惜しみ無い愛情を注いでくれる…。たまに、その愛情を独占したくもなるけれど。

後から生まれてきた武蔵も、きっと私と同じなんだろうか。

私がこの姿になったのは、きっとこの人と歩んで行く為なんだ。きっとそうに違いない。

 

でも、何か大事な事を忘れている気がする。

とても大切な、私が生まれてきた本当の…

 

「…大和?どうしたんだ、自分から誘っておいて。食欲無いのか?」

 

「あっ!い、いえっ!提督とここに来るのも久しぶりだな~って、懐かしく思って」

 

「確かに、最近はあまり一緒に食事取る機会は無かったな。これからはできるだけ皆と取る様にするよ」

 

「…皆、ですか?」

 

「…大和と。これでよろしいですか、旗艦殿?」

 

「クスッ…とってもよろしいです♪」

 

「あ~っ!大和さんズルいですっ!」

 

「アンタ、何鼻の下伸ばしてんよっ!」

 

「あ、あの提督。明日は私と…その…///」

 

周囲の艦娘達の嫉妬に、大和はほんの少しだけ優越感に浸るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は既に九時を回り、ほとんどの艦娘達も就寝に入っていた。武蔵は執務室から灯りが漏れているのに気付き、ドアを開けた。

 

「失礼するぞ…っと、どうしたのだ提督、こんな夜更け迄起きて」

 

「あぁ武蔵。明日からの作戦の準備だよ。今迄以上の大規模なものになるからな」

 

武蔵は机に置いてある資料を何枚か手に取り目を通した。

 

「あまり根を詰めるなよ。もし作戦が失敗したからと言って、それは私達の力が足りなかっただけだ。誰もオマエを責めたりはせん」

 

「ありがとう。だが、そうも言ってられない。その玉の様な肌に傷が付くのも嫌だろ?」

 

「フフッ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。…どれ、そんな提督殿をこの玉の肌で慰めてやろうか♪」

 

武蔵はからかう様な笑みを浮かべると、提督の顔を自分の大きな胸の谷間に埋めた。

 

「お、おいっ///こらっ!…く、苦しっ」

 

「フフッ、冗談だ」

 

「(あ、もう?)ま、全く、他の奴が見たら誤解するだろ」

 

「…私は別にそれでも構わん」

 

「…え?」

 

さっきまでの勝ち誇った様な笑みから一転、武蔵は急に俯き頬を赤く染めた。

 

「…ありがとう。武蔵みたいな美人にそう言ってもらえて俺も男冥利に尽きるよ」

 

「…ホントか?」

 

「あぁ。でもその前に今回の作戦が終わらないとな。それはそうと、こんな時間にどうしたんだ。何か用があったんじゃ?」

 

「いや、提督に用と言う訳ではないが、清霜の奴を探してな。部屋には居なかったので、てっきりここかと思ったんだが…」

 

「いや、今日は見かけてないが。もう部屋に戻ってるんじゃないのか」

 

「かもしれん。邪魔したな」

 

踵を返し、部屋を出て行こうとした武蔵は、何か思い出した様に立ち止まった。

 

「…?どうした」

 

「提督よ、私はこの先何があっても、オマエの側にいる。何があってもだ。この気持ちは姉上にも負けん。艦娘としても…女としても。それだけは忘れないでくれ」

 

「あ、あぁ。そうか、ありがとう」

 

武蔵はドアを閉めた。

 

 

 

 

 

…この私、武蔵がこの鎮守府に来てからもう半年も経つのか…。

最初にあの提督を見た時は、正直、軍人にしては冴えない男だと思った。だが既に着任していた姉の大和が彼を信頼している事は直ぐに解った。

ある時、鎮守府近海に私に出撃命令が下る程の大規模な深海棲艦達が現れた。私達は提督の指示の下、出撃に向かったが、これは罠だった。私達主力艦隊を引き剥がした敵は、裸同然の鎮守府に奇襲を仕掛けた。

私は慌てて引き返した。幸いにも鎮守府は軽少の被害で済んだ。そんな中、提督はこちらの気持ちも知らず、まるで何事も無かった様に私を出迎えた。

私は呆れて怒ったものだ。

 

『何を呑気に笑っている!危うく死ぬ所だったんだぞ。何故さっさと避難しなかった!』

 

すると奴は言い放った。

 

『オマエ達が戦っているのに俺一人が逃げる訳にはいかない。もし、オマエ達が死ぬなら俺も一緒に付いてってやるさ。…それに、俺は死なない事は分かってた』

 

『…何故だ?』

 

『武蔵、オマエがいるだろ。オマエならきっと来てくれるって信じていた。逃げる必要があるか?』

 

『…』

 

そこまで…まだ会って間もない私を、そこまで信頼してくれるのか…。

 

その時私は決めた。

この男に付いていこうと。

この先何があっても、私が守護してやろうと…。

例え、私の生まれた目的に叛く事になろうとも…!!

 

「あっ、武蔵さん。私を探してるって夕雲お姉ちゃんが言ってたけど、どうしたの?」

 

「あぁ、探したぞ清霜。オマエに頼みたい事があるんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、日付も変わる頃、書類整理も一段落した提督は外の空気でも吸おうと窓を開けた。目と鼻の先には広大な海が広がっている。

この海に彼女達を送り出すのもこれで最後…。そんな彼女達の未来に想いを馳せつつ、窓を閉めようとすると庭先で動く黒い影に気付いた。どうやら誰かが話をしているらしい。こんな時間に何をしてるんだと呆れるものの、提督は彼女達の会話に耳を澄ませた。

 

明日だね

 

てるかな

 

どうやら明日からの作戦について話している様だった。彼女達も不安なのだろう。

盗み聞きも野暮だと思った提督は、静かに窓を閉めようとした。

 

たら私達

 

うんさんはそのだよ

 

〈うん?〉

 

ふと、提督は彼女達に気付かれない様に耳を傾けた。

 

でもはあんまり

 

それはもだよだからさんもそうって

 

そうだよねだったら

 

〈よく聞き取れないが、何を話しているんだ?〉

 

そんな提督の疑問を余所に、黒い影は話しながら宿舎へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、鎮守府は朝から慌ただしく動いていた。

提督に呼ばれた艦娘達が、今回の深海中枢への侵攻作戦の説明を受けていた。

 

「…以上が、作戦の全容だ。今回はかなり厳しい戦いになるだろう。各自の奮闘に期待する」

 

「「「ハイ!!」」」

 

…この日が提督…歴史の大きな転機になる事を今の彼はまだ知る由も無かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソンナ…バカナ…シンジラレナイ…!」

 

深海中枢泊地での苛烈な激戦も終焉を迎えつつあった。

大和を旗艦にした主力艦隊が今、正に中枢棲姫にとどめを刺さんとしていた。

 

「大和さんっ!!」

 

「大和ォッ!!」

 

千切れた服が示す身も心も満身創痍の大和が、残る力の全てを込めた一撃を放つ。

 

「これで、終わりですッッ!!」

 

大和の三連装砲から放たれた全ての砲撃が、放物線を描く様に中枢棲姫へと吸い込まれてゆく。

一瞬の静寂、そして…!!

 

『『『ヴォアアアアッッッ!!!』』』

 

中枢棲姫の断末魔が海原に響き渡る。彼女を守る四足獣の様な艤装が爆砕し、周囲の艦娘達を巻き込む程の巨大な爆風が辺りを包んだ。

 

「キャアアッ!」

 

「うわあっ!」

 

「くっ、くう…ッ!!」

 

その場にいた艦娘達は皆、爆風に耐える。中には堪えきれずに吹き飛ばされる者もいた。

 

〈ハァ…ハァ…これで倒せなければ…〉

 

煙が少しずつ晴れていく。その煙が消えた時、そこには誰もいない…筈だった。

 

「そ、そんなっ…!」

 

「直撃だったぞっ!」

 

その白い身体のほとんどを、黒く染めた中枢棲姫がそこにいた。

 

「く、くそっ!これでも倒せないのかっ!」

 

「…!?待ってっ!」

 

大和は怯む味方を制した。そしてゆっくりと中枢棲姫へ近付いて行った。

 

「なっ、おいっ!」

 

「大和さんっ、何をっ!」

 

大和は中枢棲姫の前へ、お互いが一足飛びで掴みかかれる距離迄近寄ったが、彼女は大和を見つめたまま動かなかった。

 

「ウマレタ…リユウヲ…成シ遂ゲタノダナ…」

 

「…」

 

「ダが…私が消えレバ…おまエたチも…」

 

中枢棲姫は虚空に手を伸ばした。…だが、その手は何も掴む事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和お姉ちゃ~ん!」

 

緊張感から解き放たれた大和の下に、一人の駆逐艦が駆け寄って来た。

 

「清霜ちゃん…」

 

清霜は大和に駆け寄る勢いで、そのまま大和へ抱き付いた。

 

「あっ、ちょっと清霜ちゃんっ!」

 

「大丈夫?痛くない?」

 

自分の胸に顔を埋める清霜の泣きそうな顔を見た大和は、彼女の頭を優しく撫でた。

 

「平気です。私は武蔵の姉ですよ、この位何でもありません」

 

「凄いなぁ!やっぱり戦艦は怪我なんかしないんだね!武蔵さんの言う通りだ!」

 

さっきまでの泣き顔はどこへやら、清霜は目を輝かせて大和を見つめる。

 

「それに大砲もこんなにおっきいし…」

 

「あっ、こら、清霜ちゃん。あんまり触っちゃダメですよ!」

 

清霜は大和の艤装にぶら下がる様にくっ付く。

彼女が武蔵や自分達戦艦に強い憧れを持っているのは大和も知っている。戦いも終わった事だ、少し位ならいいかと大和は清霜の好きにさせた。

 

そう考えた大和の顔が暗く沈んだ。

深海棲艦との戦いは終わった。

だが、自分達にはやらなければならない事がある…。

 

「あ、武蔵さん達も来たよ。お~い!」

 

でも、その前に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊、帰投したぞ」

 

武蔵を筆頭に、主だった艦娘達が執務室へ勝利の報告に訪れた。

執務室のドアを開けた武蔵が見たのは受話器越しに叫んでいる提督の姿だった。

 

「…いい加減にして下さい!冗談にしても悪質過ぎ…あぁ武蔵!失礼します。冗談はエイプリルフールだけにして下さい!」

 

提督は叩き付ける様に受話器を置いた。

 

「どうしたのだ提督。何やら揉めている様だったが…」

 

「あぁ、大本営や他の鎮守府から電話がひっきりなしでね。それも皆つまらない冗談ばかりで」

 

「冗談?」

 

「あぁ。何でも自分達の鎮守府の艦娘が一人残らず居なくなったそうだ。朝から何度もこんな電話ばかりだ。そんな事がある訳ない。全く馬鹿馬鹿しい」

 

提督の話を聞いた艦娘達の表情が一瞬強ばった。さっきまでの勝利の満足感に満ちた表情から一転、皆、提督へ鋭く視線を送った。

 

「お、おまえ達、どうした…武蔵、勝利の報告に来たんだろ」

 

〈うん?大和がいないが…〉

 

「無論それもある。それともう一つ、大事な話があるんだ。

 

「今、他の鎮守府の艦娘が消えたと言う話をしていたな」

 

「うん?あぁ、俺を担ごうとしてるんだろ。全く冗談にしても笑え「提督よ…

 

「残念だが、その話は本当だ」

 

「…え?」

 

ふと、気が付くと艦娘達はいつの間にか提督を取り囲んでいた。赤城、矢矧、天龍、清霜とこの鎮守府の主だった面子が皆提督ににじり寄る様に詰め寄った。

 

「な、何だ…どうしたんだ、おまえ達」

 

武蔵が一歩、前へ進み出た。

 

「提督よ、深海棲艦は何処から来たのか、何が目的なのかを考えた事はあるか?」

 

「ど、どうしたんだ武蔵。そんな事より早く報告を…」

 

ふと提督が周りを見渡すと部屋は静まり返っていた。武蔵だけではない、自分を取り囲む全ての艦娘から熱い視線を感じる。これは殺気ではない。むしろその逆の…。

 

「深海棲艦は、海に眠る力がある目的の為に生み出した者だ」

 

「海に眠る…力?」

 

「それが何なのかは私も分からない。だがそれは、人間を邪魔に思ったらしい。その力は海に漂う恨みや憎しみ、そう言った負の感情に形を与えた。それが、深海棲艦だ。

 

「深海棲艦は、理解しているのかは分からないが、その意思に従って人間を滅ぼそうとしている」

 

武蔵は驚く提督の横を通り過ぎ、窓を背に壁へ寄り掛かった。

 

「…本来なら、深海棲艦によって人間達はとっくに滅ぼされている筈だった。だが、奴らを生んだ〈力〉も予想していなかったある誤算が生まれてしまった」

 

「…誤算?」

 

「そう、それが我々〈艦娘〉だ」

 

「…」

 

赤城が一歩、前に出た。

 

「深海棲艦は海に漂う負の感情が人の姿になった者。ですが、それは我々も同じなんです。我々艦娘は、かつての戦いで沈んだ戦艦の生まれ変わりだと言うのは知っていますよね?

 

「我々艦娘は、もう一度戦いたい、今度こそ守ってみせるという感情が人の姿になったのです。

 

「いわば我々艦娘と深海棲艦はカードの表と裏の様な物。裏が消えれば当然、表も…」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ赤城。話が急過ぎて着いていけない。それにその話が本当なら…つまり深海棲艦が消えれば、おまえ達も消える…そうなるが」

 

「えぇ、その通りです」

 

「も、もし、おまえの言う事が本当なら、他の鎮守府の艦娘が消えたと言うのは説明できる。

 

「だとしたら、お前達も消える筈じゃ…。だが、おまえ達は現にこうしてここに…」

 

「…我々を生み出した意思に誤算があった。武蔵がそう言っただろ?」

 

天龍が得意気に呟いた。

 

「ど、どういう事だ?」

 

「…分からないか?提督」

 

武蔵は提督へ近付くと、優しく彼を抱き締めた。

 

「あなたを愛してしまった、と言う事だよ」

 

「…!」

 

提督は、自分に抱き付く武蔵の呼吸が少し荒くなっているのに気付いた。それに心なしか震えている様にも見える。

ふと武蔵の肩越しに他の艦娘達を見ると、皆、顔が赤く上気しているのが分かった。まるで飢えた狼の群れに肉を差し出した様に、鼻息を荒くして二人を見つめている。

武蔵は名残惜しそうに提督から離れた。

その武蔵と入れ替わる様に、矢矧が提督の前へと進み出た。

 

「今言った通り、深海棲艦は人を滅ぼす為に生み出され、私達艦娘は人を守る為に生まれたの。

 

「でも、この何年もの戦いの中で、我々も考えが変わってしまった…。と言うよりは、元に戻りつつあるわ」

 

「元に…戻る?」

 

「分かりやすく言うとね~人間は眠りを妨げる悪い子って武蔵さんが言ってた」

 

「…!!」

 

清霜の言葉に頷く様に、周りの艦娘達の目付きが殺気を帯びたものへと変化していた。

 

「ですが、さっきも言った様に本来なら我々も他の鎮守府の艦娘と同じく消えて無くなる筈でした。…だが、そうはなりませんでした。それは何故か…

 

「そう、提督…あなたのお陰です!」

 

赤城は両目を見開き、恍惚とした表情で提督を見つめた。矢矧が続ける。

 

「本来なら私達は消える筈だった。だが私達はある時期から自分達は消えないだろうと確信したの。その理由は提督、あなたが私達を深く愛してくれたからよ!!」

 

「あ…愛?」

 

「世の中にはブラック鎮守府と呼ばれ、我々艦娘を道具の様に扱う所もあると言うわ。

 

「だがあなたは私達をまるで親兄弟の様に、恋人の様に深い愛情を注いでくれた。その愛情を感じる程、我々もあなたに…それこそあなたの為なら喜んで死ねる程の強い愛情を抱く様になったのよ。

 

「その愛情を感じた時、我々は自分達を生んだ意思から解き放たれた気がしたわ。そして皆で話し合い、ある決意をしたの」

 

「け、決意…?」

 

「そう、それは…」

 

赤城、矢矧、天龍、清霜、その場に居る全ての艦娘が武蔵に視線を送る。

その武蔵が、大きな胸を揺らしながら提督の前へ歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督(キサマ)以外の全ての人間を滅ぼそうと!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…だって…」

 

提督が呆気に取られていると、夕雲が執務室へと駆け込んで来た。

 

「あら皆さんお揃いで。武蔵さん、霞さんから連絡がありました。いつでも出撃できるそうですわ!」

 

「そうか、ご苦労。では手筈通り、先ずは大本営だ」

 

「…?お、おまえ達、一体何を始めるつもりだ?」

 

「提督、これから私達は武蔵さんと共に大本営へ攻め入ります」

 

「なっ!」

 

赤城の言葉に提督は声を張り上げた。

 

「実は、全ての艦娘が消えた訳じゃないのよ。私達と同じ様に提督と相思相愛になった艦娘達は消えずに残っているわ。その艦娘達とも連絡を取り合って、先ずは一番目障りな大本営を潰そうって決めたのよ」

 

矢矧が悪びれるでもなく、まるで当然の事だと言わんばかりに説明する。

 

「さっき武蔵さんも仰いましたが、元々私達艦娘も深海棲艦と同じ様に生まれました。…やはり我々も深海棲艦も本質は同じなのでしょうか、彼女達が人を憎む気持ちがだんだん理解できる様になった、と言いましょうか…」

 

「深海棲艦がいなくなれぱ、人間は再び増え始める。そうなれば深海に眠る『意思』が自分の眠りを妨げる人間を滅ぼす為に深海棲艦を産み出し、それに呼応する様に私達もまた現れる…」

 

「そこで我々は理解したのだ!この終わりの無い連鎖を絶ち切る為には、人間を滅ぼせばよいのだと!」

 

「お、おまえ達…」

 

提督は心の何処かで、まだ自分は担がれているのだと思っていた。その内武蔵が、今のは冗談だと言い出すのではないかと。そんな提督の希望を掻き消す様に、彼女達は嬉々として語り続ける。

 

「人間を滅ぼす?そ、その手始めに俺を血祭りに上げる、って事か?」

 

提督は震えを堪えながら、精一杯の虚勢を張った。

 

「とんでもありません!提督に手を掛けるだなんて、そんな事!!」

 

「私達はあなたに忠誠を誓ったのよ。例えこの身が海に沈もうとも、あなたの為に戦うと…!」

 

「…そういう事だ。我々は邪魔な人間を滅ぼすとは決めたが、それも全ては提督、おまえの為だ。

 

「我々はおまえの命令なら、例え火の中水の中…。も、もしおまえが望むなら、この身体、す、好きにしても良い。こ、これでも胸には自信があるんだ…///」

 

武蔵が二の腕で胸を押し出し、これでもかとその豊満な胸を強調する。

 

「あ~っ、武蔵さんズルい~っ!」

 

「て、提督っ!どう?この阿賀野型のスタイルの良さ。い、いつ仕掛けてきてもイイのよ?」

 

矢矧が短いセーラー服から除かせる腰に手を当て、精一杯の悩殺ポーズを取る。

 

「て、提督。わ、私、最近胸当てがきつくなってきまして…。し、暫く外していてもいいでしょうか?」

 

赤城が慌てて胸当てを外す。白い着物から胸の谷間が露になるが、赤城はそれを隠そうともせず提督に見せつける。

 

数瞬の間、茫然自失としていた提督は、ハッと我に返った。

 

「お、おまえ達、人間を滅ぼすって…。そ、そんな事が本当にできると思うのか!?」

 

さっきまで下を俯いていた武蔵が、背を正した。

 

「その点は心配御無用だ。深海棲艦の攻撃に比べれば人間の兵器など豆鉄砲みたいな物だ」

 

「武蔵さんの言う通りよ。幸い他の鎮守府にいる阿賀野姉も能代も消えずに済んだみたいだし、これに酒匂が加われば怖い物なんてないわ!」

 

「その通りです。提督、加賀さんも消えなかった様で、今は私達より先に大本営へ向かったそうです」

 

提督が彼女達にたじろいでいると、その緊張を破る様に電話がけたたましく鳴った。提督は恐る恐る受話器を取った。

そこから聞こえてきたのは…

 

『き、君はこの鎮守府の提督か?急いでそこから逃げるんだ!か、艦娘達が反乱を起こし…や、止めろっ!ぎゃああっ!!』

 

「!!もしもし、どうしたんです?もしもしっ!」

 

提督が何度問い掛けても答えは返ってこなかった。その代わりに聞こえてくるのは銃声と逃げ惑う人の声…。

 

「これで分かったろう提督。我々がその気になれば、人を滅ぼすなど造作も無い。何、一年もあればこの地上にあなた以外の人間は居なくなる」

 

「そして、あなたはこの世界の王になるの。この私、矢矧と共にね!」

 

「…矢矧さん、それは聞き捨てなりませんね。提督には軽巡の矢矧さんより、一航戦の旗艦も勤めた私の方が相応しいかと…」

 

「あらあら、赤城さんはもっと控えめな人だと思ってたのに、随分言うじゃない」

 

「矢矧さんこそ、身体で誘惑だなんて…艦娘の誇りは無いのでしょうか?」

 

「…」

 

「…」

 

「おまえ達、止めないか!まだ戦いは残っているんだ。仲間同士で歪みあってどうする!」

 

武蔵が二人に割って入った。

 

「…それに、提督は私の胸が大層お気に入りだ。この間も幸せそうに顔を埋めていたぞ…///」

 

「な、何ですってぇ!」

 

「て、提督っ!それは本当ですか!この赤城と言う者がありながらっ!」

 

「みんなズルい~~っ!私だって戦艦になれば、武蔵さんみたいにおムネおっきくなるんだから~!」

 

いつの間にか清霜も参戦していた。

 

「…大和は」

 

「うん?」

 

「大和はどうしたんだ?あいつは第一艦隊の旗艦だった筈だ。どうして大和がいないんだ?」

 

皆は急に静まり返った。やがて、武蔵が口を開いた。

 

「姉上は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉上、随分と派手にやられた様だが…大丈夫か?」

 

後続に控えていた武蔵が大和の下へと辿り着いた。

 

「大丈夫だよ!大和さん、武蔵さんと同じ戦艦だもん!怪我なんてしてないんだって!」

 

清霜は武蔵に駆け寄ると、目を輝かせながら語った。

 

「フッ、そうだな。私の姉上だ、この程度ではな」

 

「えぇ、そうね武蔵。何しろ私にはまだやらなきゃいけない事があるんだから!」

 

言った瞬間、大和は三連装砲の全ての照準を武蔵に向けた。

 

「…何の真似だ、姉上」

 

「深海棲艦との戦いが終われば、例の計画に移る。そうでしょ?」

 

「あぁ。そもそもこの計画は姉上が言い出した筈。まさかこの後に及んで心変わりでも?」

 

「違うわ武蔵…少し無駄が多いと思ったのよ」

 

「…無駄?」

 

武蔵は清霜に下がっていろと、手で合図を送る。

 

「私が自分の使命に目覚めた時、最初に思ったのは大好きなあの人を一緒に滅ぼしたくないと言う事。幸い提督も私達の計画にはまだ気付いてはいなかった。全ては上手く行っていたのよ。

 

「…武蔵、あなたが来る迄はね」

 

「…」

 

「私はあの人と何年も一緒に頑張ってきたわ。そんな所にあなたがやって来た。提督は態度にこそ出さないけど武蔵、あなたに興味があるのは姉である私が一番分かるわ。

 

「こんな事が許せる?私の数年は一体何だったの?たった半年居たあなたに壊される程、脆い絆だったの?

 

「私一人だけが勘違いしていたの?…違うわ!絶対違うわ!!あの人は私に優しくしてくれたわ!まるで恋人の様に…。あれが嘘だったなんて、そんな事絶対にあり得ない!!

 

「…提督も男の方ですからね。あなたの身体に興味があるだけよ。一番は私!例えあなたでも譲る気は無いわっ!!」

 

「つまる所姉上、嫉妬しているわけかな?」

 

大和の顔が目に見えて怒気を帯び、思わず清霜が武蔵の腕へすがり付く。

 

「嫉妬…そうかもしれないわね。何しろこんな感情、生まれてこの方味わった事が無かったんですもの…そうね、これが嫉妬と言うのかしら」

 

「で、姉上は嫉妬の原因である私を沈めようと…?」

 

「武蔵…できれば私もこんな事はしたくなかったわ。でも、提督の側に二人も大和型はいらないでしょ?」

 

「止めてくれ姉上。私は姉上を撃つ事は出来ない」

 

「…驚いたわ。あなたの事だからてっきり力ずくでも提督を奪う、と言うと思ったのだけど」

 

「私達はこの世に二人しかいない大和型だ。まして姉上を撃つなんて出来ない」

 

「…ありがとう武蔵。私、あなたを姉妹に持てて本当に嬉しいわ。だから…

 

「沈んでちょうだい!!」

 

大和の主砲が武蔵めがけて火を噴き、大海原に無数の砲撃音が響き渡った。辺りを爆風が包む。

だが、その爆風が消えた場所に立っていたのは…

 

「…ッ!?なっ!!」

 

武蔵も清霜も微動だに動いていない。にも関わらず、弾き飛ばされたのは、攻撃を加えた筈の大和だった。

 

「い、一体何が…!?」

 

背中から強い衝撃を受けた大和は、てっきり誰かに砲撃を受けたのかと思い後ろを振り返った。だがそこには誰もいない。ただ青い水平線が広がるだけ。

ふと大和は自分の艤装を見つめると、砲身は全て爆発でねじ曲がり、艤装本体も、最早修復不能な迄に破壊されていた。

 

「ふ、不発弾?まさか、こんな時に…!」

 

「言っただろう姉上。私は撃つ気はないと…」

 

「…くっ!そ、そんな馬鹿なっ!」

 

大和は武蔵が来る前の出来事を思い出していた。自分の艤装は万全だった。それは中枢棲姫を倒した事からも間違いない。もし不調になったとすれば、その後…。

そう、最後に彼女の艤装に触ったのは…

 

「…清霜ちゃん!?」

 

武蔵の後ろに隠れていた清霜が、そ~っと顔を出し、大和の様子を伺う。

 

「姉上、どうやら私達は考えている事も同じだったらしい。きっと姉上は私を沈めようとするだろうと思ってね。清霜にじゃれ付く振りをして砲頭に細工してもらった。

 

「だが姉上、私は姉上を信じたかった。もし姉上が妙な気を起こさなければ、帰投した後こっそり修理するつもりだった。…本当に残念だ」

 

ふと気付くと、武蔵の後方に赤城や矢矧達が近付いて来た。

 

「武蔵さん、これは…」

 

「見ての通りだ。我が姉、大和は中枢棲姫を倒すも力尽きて轟沈。それだけだ…」

 

「…分かりました」

 

武蔵は背を向けた。皆、大和を見て何かを言いたげだったが、武蔵の迫力の前に何も言えず後に続いた。

 

「ま、待ちなさいっ!む…武蔵…!!」

 

大和は最後の力を振り絞り、残りの副砲を武蔵の背中目掛けて照準を合わせた。

だが、副砲は大きな音を立てて砕け散り、艤装本体は熱で膨れ上がった。

 

「アアッ!!」

 

やがて、撤退する武蔵達の後ろで爆発音が鳴り響いた。コツン、と武蔵の頭に小さな鉄の塊がぶつかった。武蔵が足下を覗くと、大和の持つ赤い傘だった鉄屑が漂っていた。

 

〈大和型は二人もいらない…か。確かに提督の側には私一人がいれば充分だ。安心して眠ってくれ…姉上〉

 

〈轟沈〉した旗艦大和の後を次いだ武蔵率いる艦隊は、撤退を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…大和さんは、中枢棲姫との戦いで轟沈なさいました」

 

「…!!」

 

赤城の報に提督は肩を落とした。

意気消沈する提督の前に武蔵が立ちはだかる。

 

「姉の事は私も残念だ…だが、何時までも悲しんでいては姉上も浮かばれん」

 

「そ、そうですよ提督。大和さんは残念でしたが、まだ私達がいます!」

 

「そうよ提督。あなたにはこの矢矧が着いているわ!あなたはただ命令してくれればいいのよ。どんな相手だろうと倒してみせるわ!」

 

「提督!」

 

「司令官!」

 

自分をまるで教祖の様に崇める艦娘達。彼女達の眼は、まるで大好きな飼い主を見つめる子犬の様にキラキラと輝いていた。

さっき迄は、こんな馬鹿げた反乱を何とか考え直させようと考えていた。だが、今はそんな考えは露程も無い。

その気になった彼女達がこれ程恐ろしいとは…。大本営でさえ、彼女達にすれば赤子の手を捻る様なものだろう。

もし、彼女達の主になる事を拒んだ時、彼女達から逃げる事が出来るのか?

その答えが出た時、彼の心には彼女達を止めるだの、この国の危機等と言った建前は吹っ飛んだ。

逆らえば殺される…!!

あるのはただ、恐怖だけだった。

 

「…分かった。おまえ達に任せる。ただ、俺の家族は助けてやってくれ。お願いだ」

 

「勿論ですっ!私の将来のお義父様、お義母様になる方ですもの。直ちに保護致しますっ!」

 

「えぇ提督っ!この矢矧が責任を持ってこちらにお迎えしますわ!」

 

「…」

 

「…」

 

「おまえ達…」

 

武蔵は頭を抱えてため息を付いた。

 

「ねぇ~武蔵さん。清霜、ちゃんと言われた通りにやったよ。これで戦艦になれる?」

 

「ん~、そ、そうだな…まだまだ練度を上げてだな…」

 

「分かった!清霜、頑張るよ!いつか武蔵さんみたいな戦艦になって、提督を〈のうさつ〉するんだから!」

 

「清霜…どこでそんな言葉を…」

 

「う~んとね、秋雲姉さんの本に載ってたよ。こうやって胸の間に提督の主砲を「清霜ォ!!」

 

武蔵が慌てて清霜の口を塞いだ。

 

「どうして怒ってるの?ねぇ、提督さんは人間だよね?提督さんも主砲持ってるの?」

 

「そ、それはだな、提督の股間が膨張して…って、そんな事は知らなくていい!秋雲め、何て物を描いてるんだ!後で没収せねば…」

 

「「…(ジーッ)」」

 

「…何だその目は…ち、違うぞ?そんな破廉恥な物は教育に良くないと言ってるのだ!どうやるんだとか、今度提督に試してみようとか、そんな事は一切考えてないぞ!!」

 

〈武蔵さんって、意外とウブなのかしら…〉

 

〈主砲って…ア、アレの事よね?ぴゃあ~っ!さ、酒匂っ、お姉ちゃんは恥ずかしさで大破しそうよ///〉

 

「武蔵さん、戦艦になるには主砲がなきゃいけないよね?私も提督さんみたいな大っきな主砲欲しい!」

 

「て、提督みたいなって…だから提督には主砲はだな…」

 

「ん~、でも秋雲姉さんの本だと、大和さんも一撃で沈める程大きいって…」

 

〈〈〈ゴクリ…〉〉〉

 

〈なん…だと…!て、提督は…そんなに…?〉

 

〈た、例え提督がどれ程でも迎え撃ってみせます!…一航戦の誇りに懸けて…///〉

 

〈だ、大丈夫よ、この矢矧は一撃じゃ沈まないわ!5、6発は撃たないと沈まないんだから///〉

 

「清霜も武蔵さんみたく大っきなお胸になるから、待っててね提督さん!」

 

「別に戦艦だから胸が大きい訳では…現に姉上は…いや、何でもない」

 

「武蔵さん、そろそろ止めた方がいいのでは…」

 

「何がだ、赤城?」

 

「清霜ちゃん、本気で戦艦になれると思ってますよ」

 

「そうよ武蔵さん。早めに白状しないと恨まれるわよ~♪」

 

「じゃあ、お前から言ってやってくれないか、矢矧」

 

「そ、それは…そんな残酷な事、言える訳が…」

 

「…」

 

「わ、私も無理ですよ武蔵さん。それに私は空母ですから…やはり武蔵さんの口からの方が…」

 

「とは言っても…清霜のあの純粋な目を見てると…言うに言えなくてな…」

 

〈武蔵さんって何気に子供好きなのよね…あんな格好してるのに…〉

 

〈そうですね、意外と面倒見いいですものね…あんな格好なのに…〉

 

「…聞こえてるぞ」

 

「!!ま、まぁこの件は全部終わってからで!ねぇ赤城さん?」

 

「そ、そうです、矢矧さんの言う通りです!今は計画を優先しないと!」

 

「…何はともあれ戦闘開始だ!大本営に攻め入るぞ!」

 

「「「ハイッ!!!」」」

 

武蔵の号令の元、その場にいた全ての艦娘が雄叫びを上げた。

 

 

 

 

―――この日、人間と艦娘の互いの存続を懸けた戦いが始まった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い…

体が…動かない

 

ここは…そうか、私は武蔵に…

 

ふふっ、それにしても、まさかこんな手段で来るなんて…

正直相討ちも覚悟していたのだけれど…

 

完敗だわ…流石私の妹…

今回はあなたに譲るわ…

 

でもね、武蔵…

私もまだ諦めた訳じゃないのよ?

 

この身体はもう使えない…

でも、またすぐに生まれかわってみせるわ!

次はこの手は使えないわよ…

 

待っていて下さいね、提督…

あなたが愛した大和は、必ずあなたの下へと戻ります

 

ねぇ、そうでしょ?

 

だから力を貸して…

お願い、私にもう一度、力を…!

 

”お父様…“

 

ふんぐるい むぐるうなふ

 

るるいえ うがふなぐる ふたぐん!!

 

沈み行く彼女は、頭の中で自らを産み出した主に祈りを捧げた。

 

深く…海の奥深くに落ちて行く彼女の先から気泡が浮かび上がった。

やがて幾つかの泡が、まるで意志を持つかの様に彼女にまとわりついた。

 

彼女は自分の身体が溶けて行くのが分かった。

だが、不思議と恐怖は無かった。

彼女の本能が伝えていた。

自分は帰って来たのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――大いなるクトゥルフの下に…。

 

 

 

 

 

 

 

 




話的には最終話の様な展開ですが、まだまだ続きますよ(亀仙人)
元ネタはスターウォーズのある命令です。この命令でジェダイの部下だったクローン兵がジェダイを裏切る、みたいな設定です。これ使えないかなと思ってアレンジしました。タイトルも元ネタから取って「Order 99」にしようと思いましたが、こっちの方が分かりやすいと思ってこうしました。

作中でも触れましたが、自分の中では艦娘は深海棲艦と対になってる様な感じで深海棲艦がいなくなれば艦娘達も役目を終えて消滅すると思ってます。
最後、実は大和も清霜に同じ事を依頼していて大和と武蔵の共倒れにしようって考えたんですが、それだと説明する人がいなくなっちゃうんで武蔵は生き残らせました。
分かる人は分かると思いますが、タイトルはF.S.Sからです。

次回は短い短編です。1000文字位の短いやつなんで、多分明日には載ってると思います。









おまけ 艦娘型録

大和 妹の武蔵がストリーキングなので自分もそうなのでは?と在らぬ疑いを懸けられている。本当は艤装の傘は無くてもいいのだが、提督に傘を持っている姿を褒められたのが余程嬉しかったのか、常に持ち歩いている健気な人。龍驤がパッドを着けた時、誰よりも早く見抜いた。

武蔵 姉の大和からしきりに服を着ろと言われるので、最近は競泳水着で出撃しようと考えている。そもそも服を着るという概念が無いらしい。中枢棲姫とは気が合いそう。何故か長門から目の敵にされている。最近、同名の人が地下闘技場のチャンプと戦っている。

提督 艦娘からの評価がグンバツな人。大和や武蔵との会話でも分かる通りリップサービスも忘れない。そんな所が人気の秘訣かもしれない。両親は他県に住んでおり、年一回帰郷する。最近実家の犬(柴犬)が子供を産んだ。

赤城 鎮守府の台所事情が傾く時、その裏に必ず彼女の影があると言う。食が絡まなければまともな人。何故か麻雀に誘われる事が多い。海に舞い降りた天才。

矢萩 大和、武蔵の戦艦コンビに押されて存在感は薄いが、二人を除けば自分が一番イケてると思っている。最近お腹に肉が付いてきたのを気にしている。尊敬する人はビリー隊長。

清霜 天使の笑顔でとんでもない事をいともたやすく行うえげつない小悪魔。秋雲の薄い本に描いてある事を周りに聞くものの誰も教えてくれない。

中枢棲姫 本当はそれなりに強い筈だが、話の展開上、HP一桁だった。裸族。以前たまたま西海岸のヌーディストビーチを見つけ、仲間がいると思い近づいたら思いっきり逃げられた事をいまだに引きずっている。下は処理してる模様。

天龍 今回はほぼチョイ役。書いてる途中で存在を忘れられたのは本人には内緒。ピンの話を書かれる事が内定している。もう暫くお待ち下さい。ただラブロマンスにはならない模様。キャラが被るので木曾とは組みたくないらしい。眼帯コレクション。

夕雲 耳年増。見た目の割りに変な知識がある。秋雲の本を清霜に見せている張本人。
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