艦娘症候群   作:昼間ネル

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「こ、こいつがボスだったのね。か、感じる…深海棲艦の魔力を…」
「アイオワ…戦う前に一つ言っておく事があるわ。アナタは私を倒すのに三式弾が必要だと思っているようだけど…別になくても倒せるわ」
「な、なんですって!?」
「そしてオマエの提督は痩せてきたので最寄りの漁村へ解放しておいたわ。後は私を倒すだけね…ウフフッ」
「フ…上等ね…私もアナタに一つ言っておく事があるわ。この私に5番目と6番目の妹がいた気がしたけど、そんな事はなかったわ」
「そう」
「ウオオオいくわよオオオ!!」
「さあ来なさいアイオワ!!」


アイオワの勇気が世界を救うと信じて…!!




そいつの名はディアボロ

夕暮れの海岸に一人の女が座っていた。

彼女はお腹に大事そうに黒い塊を抱き抱えていた。

寄せては返す波の音を聞きながら、ふと彼女は目を閉じた。

 

〈綺麗だ…〉

 

「ええ…本当に…」

 

頭の中に響く何者かの囁きに、彼女は一人呟いた。

 

「眠ったのね…お休みなさい…」

 

彼女は腕の中の塊に愛おしそうに頬を擦り付けた。

誰一人動く者の居ない時の止まった世界で、浜辺に打ち付ける小さな漣の音だけが、静かに響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッモーニン、アドミラル!一緒に朝食にしましょ!」

 

執務室のドアを開けて、上機嫌の艦娘が提督の机へ寄り掛かる。

 

「おはようアイオワ。でも俺はいいよ」

 

「何で?朝はとっても大事よ?」

 

そう言って彼女、Iowa級1番艦こと戦艦アイオワは提督に顔を近付ける。と同時に豊満な二つの胸が弾む。

 

「(で、デカい///…流石、戦艦)そ、そういう意味じゃなくて…」

 

「もう私と済ませたからよ」

 

隣の部屋から出て来た一人の艦娘に、アイオワは振り返った。

 

「あら、来てたの?ウォースパイト」

 

「秘書艦だもの。当たり前じゃない」

 

頭に小さな王冠を被り、肩まで出した白いドレスに身を包んだ彼女、Queen Elizabeth級2番艦、戦艦ウォースパイトは机にティーカップを置いた。

 

「…それにあなたの事だもの、どうせ朝からハンバーガーでしょ」

 

「朝食は素早く済ませなきゃ!アナタもそう思うでしょ、アドミラル?」

 

「あ、あぁ」

 

「アドミラルは私達と違って人間なのよ?もっと栄養を考えるべきだわ」

 

「フィッシュ&チップスよりは栄養あるわよ?」

 

「ち、ちゃんとした料理を食べるべきだと言ってるのよ!」

 

「…アナタの国の料理、あんまり評判良くないわよね」

 

「ほ、他にもあるわよ!例えば…例…え…えっと…」

 

言葉に詰まったウォースパイトがチラッと視線を送る。

 

「と、とにかくっ!今日はもう済ませたからさ!アイオワ、また明日な」

 

「そうね、アドミラルに免じて今日は退くわ。ウォースパイト、アナタもいる?」

 

「私は別に…」

 

「そう?一緒に食べれば胸が大きくなるかもよ♪」

 

「なっ!ア、アイオワッ!」

 

「アハハッ、じゃあねっ!」

 

茶目っ気のある笑顔で手をヒラヒラさせながら、アイオワは部屋を後にした。

 

「こ、この紅茶、美味しいな!」

 

「…日本に行った知り合いの戦艦にもらったの。気に入ってもらえて嬉しいわ」

 

「だ、大丈夫だって。イギリスだってミートパイやスコーンとか美味しい物あるって!」

 

「そ、そうよね!…って、何でこんなに落ち込まなきゃいけないのかしら」

 

「そ、それにハンバーガーだって悪くないぞ。アイオワも言ってたろ?素早く済むって」

 

「ま、まぁそれはそうだけど…」

 

「それに食事を手早く済ませれば、君を口説く時間も出来るだろ?」

 

「フフッ♪アナタに私が落とせるかしら?不沈艦の名はダテじゃないわよ?」

 

「こいつは手強いオールド・レディだ」

 

「それは言わないでくださる!?」

 

「あっ、ハイ…」

 

「…アドミラルは、アイオワみたいに胸の大きな娘の方がお好みかしら?」

 

「そ、そんな事はないさ…うん」

 

「そ、そうよね。私達は艦娘ですもの。そんな事些細な事よね?」

 

「あぁ、そうだとも。そんな事気にするなよウォースパイ子…あっ!」

 

「アドミラルッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは海外のある鎮守府。

彼女、ウォースパイトがこの鎮守府にやって来てもう半年が過ぎていた。ある海域をさ迷っていた所を、巡潜甲型改二潜水空母の1番艦、伊13(ヒトミ)と2番艦、伊14(イヨ)に発見され、現在に至る。

ウォースパイトの様に建造以外で艦娘が出現する事はたまにあり、彼女を発見したヒトミとイヨも、その一週間前に同海域で発見されたばかりだった。

その後、この鎮守府に所属する事になったウォースパイトは、既に着任しているローマやアイオワとは時に衝突する事もあるが、良き戦友になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ここに居たの?」

 

ドックから出て来たウォースパイトに近付いてくる眼鏡を掛けた艦娘が話し掛けてきた。

 

「あらローマ、ごきげんよう。私に何か用かしら?」

 

「用があるのは私じゃないわ。例の二人よ」

 

白を基調とした長袖に赤いスカート、目元の丸い眼鏡が特徴的なV.Veneto級4番艦の戦艦ローマは呆れた様に肩を竦めた。

 

「あ~、ヒトミ達ね」

 

「執務室に居ないからって、探してたわよ」

 

「分かったわ。すぐ行くわ」

 

後ろを向いたウォースパイトだったが、すぐに足を止めた。

 

「…どうしたのよ?」

 

「いえ、その…ごめんなさいねローマ。元々アナタが秘書艦だったのに」

 

「はあっ?別に謝る事でもないわよ。それは提督が決める事だもの。アイツがそうしたいならそれでいいわ」

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど…。ローマ、アナタはそれで良かったのかしら?」

 

「別にいいわよ。アイツ結構軽い所あるし…。まぁ、細かい事言わないのは気に入ってるけど…って、何言わせるのよ!」

 

「ありがとう、ローマ」

 

「…そんな事よりアイオワに気を付けたら?あの娘、積極的だから…」

 

「…ローマ、やっぱり胸かしら。胸が決め手なのかしら?」

 

「ちょっ…///!何胸触ってんのよ!アイツが見たら揉まれるわよ!?」

 

「え?ローマ、揉まれた事あるの?」

 

「そりゃ、アイツの秘書艦やってたんだから、一回や二回あるわよ。全く油断も隙も無いんだから…」

 

〈ど、どうして私は触ってくれないのかしら?胸?胸なの?で、でもローマには負けてない筈…負けてないわよ…ね?〉

 

「…あ~大丈夫よ。私が触られたのお尻だから」

 

「そ、そうよね!アドミラルは胸が大きい方が好きって訳じゃないわよね?」

 

「…何でそんなドヤ顔なのかしら?何か急に主砲撃ちたくなってきたわ」

 

「ご、ごめんなさい。顔に出てたかしら?」

 

「…まぁいいわ。せいぜいアイオワに負けない事ね。…それにしても、あの娘達、本当にアナタに懐いてるわね。まるで女王を守る騎士みたい。…騎士にしては随分頼りなそうだけど」

 

「フフッ、とてもキュートで可愛いじゃない。それに私はあの娘達に見付けてもらったから、何処か他人って気がしないのよ」

 

「まぁ気持ちは解るけど…。その…潜水艦は苦手なのよね。別にあの娘達が嫌いって訳じゃないんだけど」

 

「あら、あなたは爆撃機の方が苦手だと思っていたけど…」

 

「うっ!…それは言わないでちょうだい」

 

「…フリッツX」

 

「ヒッ!!…ウ、ウォースパイトッ!」

 

「フフッ、トラウマの克服は一日にして成らず、かしら?ごきげんよう♪」

 

からかう様に微笑むウォースパイトだったが、その顔はどことなくひきつっていた。

 

〈…言った本人がダメージ受けてどうすんのよ…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、姉貴っ、ほらっ!」

 

「あ、待ってよイヨちゃん…」

 

ウォースパイトに駆け寄ってくる二人の少女。頭に帽子の様な艤装を被り、白いセーラー服の下に紺の潜水服を着た二人。一見するともう一人の手を引く方が姉に見えるが彼女は伊13型潜水艦2番艦に当たり、その後ろでオドオドしている方が姉の1番艦だった。

 

「こんにちは、可愛いナイトさん達♪何か用かしら?」

 

「あっ、いや~。姉貴がウォースパイトさんと遊びたいっていうからさ~」

 

「イ、イヨちゃん…さっきイヨちゃんが、ウォースパイトさんの所、行こうって…」

 

「わっ!もう~言うなって姉貴」

 

「ウフフッ、そうね、じゃあ何処か行きましょうか?」

 

「やった!実はね、ここの近くに綺麗なサンゴ礁があってね~」

 

「…ごめんなさい、海の中はちょっと…」

 

「もう…だから言ったのに、イヨちゃんったら…」

 

「ンッフッフ~ッ♪そんな事もあろうかと、提督に水着を用意してもらってるんだ。それ着れば潜れるよ!」

 

「う~ん、そういう意味じゃ無いのだけれど…」

 

困った顔のウォースパイトを見ながら、ヒトミとイヨは顔を合わせニヤニヤしていた。

 

「…?私の顔に何か付いてるかしら?」

 

「あっ…その…そうじゃないんです」

 

「…と、言うと?」

 

「エッヘッヘ~。最近ウォースパイトさん、とっても幸せそうだな~って♪」

 

「そ、そうかしら?」

 

「イヨ、どうしてか知ってるよ!提督のおかげだよね~♪」

 

「な、何を言ってるのかしら!別にそんな事…そんな事」

 

「わ、私、嬉しいです…」

 

「嬉しい?」

 

「ウォースパイトさんは…私達と同じ、海で生まれた艦娘だから…」

 

「ヒトミ…」

 

「しかも、イヨ達と同じ海域で見つかったでしょ?だから、ウォースパイトさんは私達の姉貴みたいなもんだからさ」

 

「アラアラ、いきなり妹が二人も増えてしまったわね。こんな可愛い妹達の頼みじゃ、無下に断る訳にもいかないわね」

 

「えっ!じゃあ、一緒に海に行ってくれるの?」

 

「潜れないけど、それでもいい?」

 

「大丈夫!私達が用意した水着に着替えれば…」

 

「こ、今回は遠慮しておくわ!べ、別に水着に拘らなくても…」

 

「え~、せっかく提督さんが買ったのに…」

 

「アドミラルが買ったの!?」

 

「う、うん。水着着せて写真撮ったら、試作の晴嵐くれるって…」

 

「イ、イヨちゃん!それは内緒って、提督さんが…」

 

「…ごめんなさいね、二人共。海はまた今度にしましょう。少しアドミラルにお話があるの」

 

「あっ!う、うんっ!べ、別に私達はいつでも…なぁ姉貴!」

 

「う、うん…」

 

「ありがとう、じゃあまたね」

 

感情の無い笑みを浮かべたウォースパイトを、二人は恐る恐る見送った。

 

「イヨちゃん、後で提督さんに謝らなきゃ…」

 

「あ~あ。晴嵐の話は無しか~」

 

「…でもイヨちゃん。ウォースパイトさん、とっても…幸せそうだったね」

 

「…そうだね姉貴。〈私達〉には少し辛いけど、ウォースパイトさんがそれを望むなら…」

 

「そうね、イヨちゃん…もし邪魔する人が…いたら…私達…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…許さないんだから…!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『憎い…何もかもが、アイツらが…』

 

『…この光は何だ…何故こんなにも温かく…』

 

『少しだけ…この光を…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、珍しく朝寝坊したウォースパイトは執務室に向かう。ドアを開けようとした彼女は、室内からの話し声に気付きドアノブの前で手が止まった。

 

『…だから、どう?私を秘書艦にしてみない?』

 

〈この声は…アイオワ?〉

 

『嬉しい申し出だが今回は遠慮するよ。暫くはウォースパイトで充分だ』

 

『そう?私と一緒にいれば…ンッ、いつでもこうできるわよ?』

 

『オイオイ、誰か来たらどうするんだ』

 

『大丈夫よ。何ならその娘も混ぜる?』

 

『挟撃はフェアじゃないな』

 

『そうね。アナタが私以外の娘をそんな目で見るのは私も面白くないわね』

 

『俺もだ。恋も喧嘩も一対一の方が好きかな』

 

『フフッ、私達やっぱり気が合うわね♪』

 

『…そろそろ膝から降りてくれないか?こんな所ウォースパイトに見られたら何言われるか』

 

『嫉妬するのはイヤだけど、されるのは嫌いじゃないわ』

 

『その間に挟まれる俺の身にもなってくれ。嫉妬の炎で焼かれるのはこっちなんだからな』

 

『アナタとっても美味しそうだから、それも悪くないかしら。焼き加減はミディアムでいいかしら?』

 

『…火葬の手間は省けそうだな』

 

〈……〉

 

ウォースパイトは背を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、アイオワは鎮守府の近海にいた。

体が鈍るといけないからと、ローマを誘って演習に来ていた。

 

「それじゃ、この辺でいいかしら?」

 

「そうね。遠慮はいらないわよローマ。思いっきりかかってきてちょうだい」

 

「言ってくれるじゃない…行くわよ!!」

 

アイオワとローマの砲撃音が同時にこだました。

 

 

 

 

 

「ふぅ…。ローマ、今日はこの辺にしましょう」

 

「ハァ…ハァ…そ、そうね…全く嫌になるわね。火力は大して変わらない筈なのに。この私がここまで攻撃を喰らうなんて。これが練度の差ってヤツかしら」

 

「そうね。それに今の私は守りたい物もあるもの…愛の力ってヤツかしら?」

 

「お熱い事で…で、大丈夫なの?」

 

「大丈夫、って何の事?」

 

「ハァ…その様子じゃ全然気付いてないみたいね。ウォースパイトの事よ。あの娘、たまにアナタの事、凄い目で睨んでるわよ」

 

「ホント?…でもアドミラルとの仲は私の方が長いわ。それに彼も私に夢中よ」

 

「その自信は少し見習いたいわ。…まぁ何も無いならいいけど」

 

〈…ただ、ウォースパイトがアイオワを快く思ってないのは解るけど、ヒトミとイヨも最近はアイオワを…何か冷たい目で見てる時があるのよね。ウォースパイトに懐いてるからかしら…あらっ?〉

 

アイオワの後ろの海面に、ゆっくりと彼女に近付いてくる黒い影があった。

 

「ア、アイオワ!後ろっ!!」

 

アイオワが振り向くと同時に水面に水柱が上がり、その中から無数の深海棲艦が現れた。両手にまるで大きな盾の様な艤装を着けた重巡リ級、巨大な貝の様な軽巡ホ級、ト級が我先にとアイオワに群がる。

 

「はっ!?」

 

ローマの後ろからも軽巡ホ級とト級が数体現れる。

 

「くっ!こんな時にっ…え!?」

 

ローマの三連装砲が一体のト級を撃ち抜くが、残りの軽巡達はまるでそれに気付かない様にローマの左右をすり抜ける。

 

〈なっ、何なのコイツら!?〉

 

軽巡達が向かう先は、既に重巡リ級の砲撃に晒されているアイオワだった。

 

「ア、アイオワッ!!」

 

ローマは軽巡達の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしいな…もうそろそろ戻って来ても…」

 

「どうかしたかしら?アドミラル」

 

午後の執務室。

提督と秘書艦であるウォースパイトが実務に精を出していた。

 

「いや…確かアイオワの演習は午前中だけだった筈なんだが…」

 

「演習中に敵が現れなければいいけど…」

 

「おいおい、怖い事言うなよ」

 

〈…別にこのまま帰って来なくてもいいのに〉

 

「…え?」

 

「あ、ううん!…ねぇアドミラル。アイオワとは、付き合い長いんだったわね?」

 

「どうしたんだ急に…。まぁそうだな。ローマに続く二人目の戦艦だった事もあるし、色々助けてもらってるからな」

 

「…胸も大きいし」

 

「そ、それは関係無い…だろ?」

 

「何故、疑問形なのかしら?」

 

「い、いやその…何て言うか…あいつは良い意味でサッパリしてるからな。何でも気軽に話せると言うか。まるでハイスクールにいた頃を思い出すよ」

 

「…私は思い出にも残らない地味な生徒って訳ね」

 

「ち、違うって!ウォースパイトは…そ、そう!Queen Bee(クイーン・ビー)って感じだろ?俺みたいなSidekicks(サイドキックス)Nerds(ナード)じゃ見向きもしてもらえないさ!」

 

「ウフフ、お世辞だとしても悪い気分じゃないわね」

 

「お褒めに預かり光栄です、女王陛下」

 

「ねぇ、アドミラル。もしもよ?…もしアナタが私とアイオワのどちらかを選ばなきゃいけないとしたら…アナタはどちらを選ぶのかしら?」

 

「な、何だ?藪から棒に」

 

「答え…聞かせて貰えないかしら?」

 

「…俺は」

 

「て、提督さん、大変だよ!!」

 

執務室のドアを蹴破る様に開き、Maestrale級駆逐艦のリベッチオが息を切らせて入って来た。慌てた拍子に頭からずっこけ、白いワンピースが背中まで捲れ上がる。

 

「どうしたんだリベ…ネクタイとお揃いか」

 

「ひゃあっ!ンも~っ///」

 

「…リベッチオちゃん、アドミラルは後でツネっておくわ「えっ!?」どうかしたの?」

 

「あ、そ、それがねっ!アイオワさんが演習中に敵に襲われたって、ローマさんが!!」

 

「何だって!?」

 

「…」

 

「ア、アイオワは…二人は無事なのか!?」

 

「わ、分かんない。通信はそこで切れちゃったって…」

 

「ア、アドミラル、どこへ?」

 

「決まってるだろ!?港だ!」

 

提督は弾丸の様に部屋を飛び出して行った。

 

「もう~、今通信が入ったばかりだから、すぐ帰って来る訳ないのに。ウォースパイトお姉ちゃんもそう…思…う…」

 

「…どうしたの?リベッチオちゃん」

 

「う、ううん!何でもない!リ、リベも港に行ってみるね」

 

〈な、何だろ。あんなおっかない顔のウォースパイトお姉ちゃん初めて見た…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア、アイオワ!ローマ!大丈夫か!?」

 

提督が港で待つ事一時間、一時はウォースパイトが救援に向かおうかと提案したが、そんな矢先アイオワとローマが帰投した。所々衣服が乱れ中破状態だったアイオワはローマに肩を借り、提督の下へ辿り着くと溜め息を付きながら尻餅を着いた。

 

「心配掛けちゃってごめんなさい。でもこの通りよ。大した事ないわ」

 

「で、でもリベッチオに聞いた話だとかなりダメージを受けたとか…」

 

「…アア~ッ!!」

 

「ど、どうした?やっぱり…」

 

「そうみたい。でもアナタが一晩一緒に居てくれれば、治るかもしれないわ」

 

「…入渠の必要は無さそうだな」

 

「んもぅ!ツレないわねダーリン」

 

「…あたしはどうでもいいワケ?」

 

アイオワを抱き抱える後ろで、仏頂面のローマが二人を睨んでいた。

 

「も、もちろんローマも!とんだ災難だったな」

 

「…『も』って何よ、失礼しちゃうわね」

 

ローマが海から陸に上がると、リベッチオが彼女に抱き付いた。

 

「ローマお姉ちゃん、大丈夫?」

 

「…ええ平気よ。私はほとんど攻撃を受けなかったから」

 

「…どういう事だ?」

 

「モテる女は辛いわ…」

 

「アイオワ、少し黙ろうか」

 

「…それが私も不思議なのよ。そもそもあの海域は鎮守府の目と鼻の先よ。敵がいる訳無いのよ。いたとしてもせいぜい駆逐級位なものよ。なのに重巡クラスが現れるなんて」

 

「じ、重巡!?何でそんなヤツが?」

 

「知らないわよ。本人に聞いてみたら?ま、暗そうな奴だったから聞いた所で素直に喋るとは思わないけど?」

 

〈えぇ…〉

 

「…何か言いたそうね」

 

「い、いや。とりあえず話は後で聞くよ」

 

「…フン」

 

〈…それに妙だったのはまだあるわ。仮にも重巡と軽巡クラスが近付いて来れば、すぐに分かるわ。なのにアイツら、まるで潜水艦の様に海から湧き出て来たわ。

 

〈しかも私の事なんて眼中に無い感じだったし…。アイオワの奴、アイツらに恨みでも買ってるのかしら…〉

 

提督に如何に自分が重体かを力説するアイオワを眺める度に、ローマの疑問は膨らんでいった。

 

〈…チッ〉

 

ローマはふと視線を感じ振り向いたが、そこに人影は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《艦娘》としての生を受けてまだ半年足らずのウォースパイトは知らない事だが深海棲艦と艦娘との戦いが始まって、早十数年が経っている。

以前はその力の前に防戦一方を強いられてきた人と艦娘だが、半年程前から深海棲艦の勢力は、かつての勢いが嘘の様に弱まりつつあった。

人々は勿論、艦娘達も誰もが自分達の勝利を最早信じて疑わなくなっていた。

 

ただ一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

〈また集まって…最近よく見るわね〉

 

鎮守府の外縁のフェンス越しに数十人の人だかりができていた。これ自体はウォースパイトも何度か見掛けた事がある。彼らは自分達の代わりに戦う艦娘達を応援する、いわばマニアの様な物で、ウォースパイト達艦娘や提督を一目見ようと集まって来た連中だった。

自分達に感謝の意を示してくれるのはありがたいが、あまり注目を集めるのが苦手な彼女には、嬉しくもありむず痒くもあった。

もしこれがサービス精神旺盛なアイオワやリベッチオならば投げキッスで答え、その度に歓声が巻き起こるだろう。

ウォースパイトは恥ずかしさから、そそくさとその場を立ち去ろうとしたが、今日はいつもと様子が違った。

 

〈あら…?いつもだったら騒がれるのに…べ、別に残念な訳じゃないけど!〉

 

彼らと目を合わせない様に通りすぎたウォースパイトは気付かなかった。

 

その目が疑念に満ちている事に…

 

 

 

 

 

 

「イヨちゃん…」

 

「あぁ、姉貴。いよいよだね」

 

「あの人は…どっちを選ぶのか…」

 

「イヨは、まだいいかなぁ。結構気に入ってるんだ♪この潜水服」

 

「わ、私は…ちょっと恥ずかしい…」

 

「もう!姉貴も満更じゃない癖に。あそこの人達、姉貴を見に来てる人も結構いるのよ?姉貴ったら、すぐ逃げちゃって。ウォースパイトさんを見習ったら?」

 

「ウォースパイトさんみたいな格好したら…私、恥ずかしくて大破しちゃう///」

 

〈…まぁ、イヨ達じゃ胸ブッカブカだろうな~…〉

 

「…イヨちゃん。お姉ちゃん、急に魚雷撃ちたくなってきちゃった」

 

「な、何で分かったの!?お姉ちゃんがあんな服着たらお胸丸見えだって?」

 

「そ、そんな事ないもん!ちょっと位あるもん!!ちょっと位…イ、イヨちゃんのバカッ!ローマさんにいつも海の下からパンツ覗いてるの言っちゃうから!!」

 

「か、勘弁して!…って、それ言ったら姉貴も疑われちゃうけど…」

 

「あっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

『私達…このまま負けて…しまうの?』

 

『これじゃあ…私達の使命が…果たせない』

 

『そうでもないわ。私に考えがあるの…』

 

『そんな事…!』

 

『上手く…行くかな…』

 

『二人共…協力してくれる?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、アドミラル。世間ではもうすぐ深海棲艦との戦いは終わるって言われてるけど…知ってるかしら?」

 

ある日の鎮守府の昼下がり。

提督は仕事を一段落し、ウォースパイトと共に昼食を取っていた。そんな中、唐突に話題を切り出したウォースパイトに提督は少し驚きながら答えた。

 

「うん?…確かにここ最近の展開は自分でも驚いてるよ。以前は完全な膠着状態だったのに。それがキミがここに来てからは連戦連勝だ。俺にとってキミは、まさしく勝利の女神だよ」

 

「ウフフ…。アイオワやローマに比べれば、私なんて大した活躍もしてないけど…アナタが私の事をそんなふうに思ってくれているなんて意外だわ」

 

「双子の天使もいるしね、空は飛べないけど」

 

「まあっ…♪」

 

「…でもどうしたんだい、いきなり。戦いが終われば君たちも戦わずに済む。その綺麗な顔が傷付くのを見るのは、一人の男としては辛いよ」

 

「ドレスが傷付いた時は、とても嬉しそうだけど?」

 

「…意地悪な女神様だ」

 

「…でもねアドミラル、私不安なのよ。深海棲艦がこのまま大人しく滅びるのかしらって…。直接戦っている私達だからこそ、解る事もあるの。彼女達が本当にこのまま…」

 

「考え過ぎじゃないか?アイオワを見習ったら…とは言わないけど、あまり深く考えない方がいいぞ」

 

「…そうね。ごめんなさい」

 

〈…アナタは優しい。でもやっぱりアナタの考え方は人間のそれなのよ。私達艦娘とは違うわ〉

 

〈確かにこのまま戦いは終わるかもしれない。…でも、その後私達はどうなるの?〉

 

〈アナタは私達と生きていけるかもしれない。でも他の人間はどうかしら?だってそうでしょ?私達は深海棲艦を倒せる唯一の存在。それって…〉

 

〈深海棲艦より恐ろしいって事なのよ?〉

 

〈人間は皆、アナタの様に私達を愛してくれるかしら?いつ自分達に牙を剥くか分からない私達を…〉

 

〈ねぇ、アドミラル。もし私が人間の敵に回っても…〉

 

〈私の側に居てくれるかしら…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、この鎮守府を束ねる大本営から入った報は、提督のみならず艦娘達をも大いに驚かせた。

日本の艦娘達がいよいよ深海中枢へと、その駒を進めたとの事だった。

世間にはまだ大っぴらに発表されてはいないが、目敏い新聞社がそれを嗅ぎ付け、今や世間はこの話題一色になっていた。

一方で表立って口にする者はいないが、ある疑問が(くすぶ)り始めていた。

 

すなわち、深海棲艦無き世界で艦娘達は自分達にとって脅威に成りうるのでは、と…。

 

そんな不安に現実味を与える事件が鎮守府に、いや世界中に今まさに起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、言ったろウォースパイト。物事なんて成る時は、案外サクサク進むものさ」

 

「えぇ、そうね。でも少し残念だわ。まだまだ戦えるというのに。大好きな映画が思いの外、短かった気分だわ。続編が出ないかしら」

 

「安易な続編はだいたい駄作って決まってるものさ。余韻を残したまま終わるのが名作の条件だ。ただし《未来へ戻れ》と《抹殺者》は別かな?(4はクソだったが…)」

 

「アナタはいいわよ。この世界を二十数年…三十年?楽しんでるんだもの。私は半年よ?人間だったらまだ揺りかごの中よ?」

 

「(二十代でいいだろ…)確かに。だが、まだフィナーレが残ってる。キミも言ってたろ?深海棲艦が本当にこのまま終わるのかって…。実はこの辺りでも敵が観測されてね。このままエンディングって訳には行かなそうだ」

 

「そう…」

 

〈本当にそれだけかしら。いくら何でも呆気なさすぎるわ。…私の考えが正しければ、きっと彼女達は…

 

〈アドミラル、その時アナタは一緒に演じてくれるかしら?アナタが側にいないなんて、それこそ安易な続編になってしまうわ〉

 

「大本営からも出撃命令が出ている。カメラが回る前に化粧直しと行きますか」

 

「そうね、綺麗に撮ってもらえるかしら?」

 

「俺が綺麗に撮れないのは男だけでね」

 

「期待してるわ、名監督さん」

 

「たっ、大変だよ提督さんっ!!」

 

提督とウォースパイトの緩やかな一時を遮る様に、リベッチオが執務室に駆け込んで来た。勢いよくドアを開けた拍子に再び頭から転け、またもやワンピースが背中まで撒くれ上がり、そのお尻が丸出しになってしまった。

 

「今日は何色…えっ!?」

 

「リ、リベッチオちゃん、アナタ下着履いて…///」

 

「あっ!急いでたから忘れちゃった。そ、そんな事より大変だよ提督さんっ!テレビ!ローマさんがテレビ点けてって!!」

 

「リベは下着を着けような?」

 

「い、いいから早くぅ!!」

 

「あ、あぁ…」

 

テレビがどうかしたのか、何故パンツを履いていないのか、脇の下から見える胸の豆はB地区か?疑問に思いながらも提督は机の横にあるテレビのスイッチを入れた。

 

『9ヶ月…何と9ヶ月だ!この笑うのも気の毒に』

 

『私はオマエの父だ!』『嘘だァッッ!!』

 

『そうなのよサワキちゃ~ん』

 

「カワバンガ~♪…ご、ごめんなさい。あ、ここだよ!」

 

リベッチオが言うチャンネルにセットすると、アナウンサーが興奮気味に叫んでいた。

 

『…区の鎮守府で、突如、大量の深海棲艦が出現!同区は完全に封鎖されました!』

 

「えっ!?」

 

「何ですって!?」

 

提督とウォースパイトが驚いていると、アイオワとローマが慌てて駆け込んで来た。

 

「ダーリン、大変よ!」

 

「あ、あぁ」

 

「あら、みんな揃ってるわね。ホラ、リベ!下着持ってきたから早く履きなさい…後ろ向いてよ!」

 

『…たった今、新しい情報が入りました!…え?こ、これホントか!?し、失礼しました!住人の報告に寄りますと、か、艦娘が突如、深海棲艦に成り、人々を攻撃し出したとの事です。こ、この件に関しては多くの目撃情報が寄せられており…』

 

「そんなっ!そんなの嘘よっ!私達が深海棲艦に?人間を…?」

 

ローマが興奮気味に話す。

 

「落ち着けローマ。誰もそんな話信じちゃいないさ」

 

「当たり前よ!どうして私達が人間を襲わなきゃいけないの?馬鹿げてるわ!!」

 

「ねぇダーリン。これ、ジョークじゃ…ないのかしら?」

 

「わ、分からないが…例えジョークだとしてもタチが悪すぎるだろ。こんな事して誰も得なんか…」

 

急にテレビにノイズが走り、画面は掻き消えた。

 

「えっ!?」

 

「なっ!?」

 

そして、代わりに現れたのは白と黒の制服に赤茶色のミニスカートを履いた、まだあどけなさが残る金髪の少女だった。

 

「あーっ!!」

 

「な、何だリベ。この娘…もしかして艦娘か?」

 

「ねぇローマ、この娘確か…」

 

「えっ、えぇ…この娘、私と同じイタリアの重巡のザラよ」

 

〈で、でもザラって確か半年前に…〉

 

画面に映る少女、重巡洋艦の艦娘ザラは軽く一礼すると人懐こい笑顔で語り始めた。

 

『テレビを見ている皆さん、初めまして。私はある鎮守府に所属する艦娘で、ザラと申します。

 

『実は今日は、皆さんにショッキングなお知らせがあるんです。ザラも言おうかとっても迷ったんです…でもあのお方が望むので、言う事にしました…宮仕えは辛いですね。ウフフッ。

 

『さて、皆さんは私達艦娘と深海棲艦の戦いは知ってますよね?私や妹ポーラの頑張りで、まもなく戦いは終わる…皆さんそう思っていますよね?

 

『…でも、ごめんなさいね。艦娘は負けます。そして私達が勝ちます。

 

『…え?言ってる事が矛盾してる?意味が解らない?フフッ、そんな事ないですよぉ♪じゃあ、こうすれば…理解して…く…レル!?

 

次の瞬間、ザラと名乗る少女から禍々しいオーラが発せられ、その姿が歪んでいく。

金色だった髪は白く染まり、額に二本の黒いツノが生え、ザラの体を包み隠す程の、まるで巨大なナメクジの様な艤装が咆哮を上げた。

 

「きゃああっ!!」

 

「ひゃあっ!!」

 

「ザ、ザラッ!?…はっ、提督っ!?」

 

「…」

 

「ちょっとアンタッ!返事なさいよっ!!」

 

ローマが固まる提督の肩を揺さぶった。

 

「…ダーリン」

 

重巡棲姫…その姿を大きく変えたザラは、一息着くと後ろの白いナメクジに腰を下ろした。

 

『ツマリハ、コウイウ事ダ。ソウ…オマエ達人間ガ女神ノ様二崇メル艦娘ノ…私達ノ正体ハ…

 

『深海棲艦ダッ!!』

 

テレビの前の五人は、あまりの出来事に放心状態になっていた。

 

「な…何だ、これは…え、映画にしては出来すぎて…」

 

「嘘よっ!ザラ!嘘って言ってよザラッ!」

 

「ザ、ザラお姉ちゃん…」

 

「こんな事って…」

 

そんな五人の気持ちを踏みにじる様に、ザラは得意気に語る。

 

『我々ハ待チ続ケタ…オマエ達人間ガ艦娘ヲ信頼シ心ヲ許スノヲ。ダガ、モウソノ必要モ無イ。マモナク全テノ艦娘ガソノ正体ヲ表シ、オマエ達二攻撃スルダロウ。

 

『コノ海ハ…ソシテ大地ハ、我々ノ下へ戻ル。ダガソノ時オマエ達人間ハ、コノ世界二…イナイ…』

 

重巡棲姫(ザラ)の演説が終わると、再び男性アナウンサーの叫び声が始まった。提督は静かにテレビを切った。

 

「ダ、ダーリン…」

 

「ね、ねぇローマお姉ちゃん。リベ達、深海棲艦なの?ザラお姉ちゃんみたいに、あ、あんな姿になっちゃうの?」

 

「馬鹿言うんじゃないわよ!わ、私達が深海棲艦…?そんな訳…そんな訳ないでしょ!?」

 

アイオワ達四人の喧騒を背に、提督は黙って背中を向けていた。

 

「ねぇ…ダーリン。私は…例えザラの言う事が本当だったとしても、ずっと味方よ。お願い、信じて…」

 

「…アンタ、どうして黙ってるの?こっちを向きなさい!」

 

「やだよ…リベ、今のリベでいたいよ…ちゃんとパンツ履くから…お願い提督さん、リベの事、嫌いにならないで…」

 

「……」

 

「オオッ!!」

 

次の瞬間、提督は振り向くと同時に自分の頬を力強く殴った。

 

「え?」

 

「ダ、ダーリン!?」

 

「ぐっ…」

 

殴った反動で机にもたれ掛かる提督は、痛みを堪えながら皆に向き合った。

 

「そうか…お前達、あんな奴らといつも戦ってるんだな。俺達の代わりに…あんな恐ろしい奴らと毎日、それこそ命を懸けて…。

 

「なのに、俺は例え一瞬でもお前達を疑っちまった…許してくれ」

 

「ダーリン…」

 

「アンタ…」

 

「信じるよ。例えお前達の正体が何であれ、今まで戦ってくれた事は事実だ。それに深海棲艦の恋人ってのも悪くないかな。でもデートは…陸の上がいいかな?」

 

両目に涙を溜めたウォースパイトが提督に抱き付いた。

 

「もう…!バカ!許す事なんて何もないわよ!私は絶対にダーリンを裏切ったりしないわ!」

 

「…アンタには世話になってるからね。もし深海棲艦になるとしても、その義理は返してからにするわ。心配しないで」

 

「リ、リベも!リベも提督さん、だ~い好きだもん!ずっと提督さんと一緒にいるよ!パンツも履くよ!」

 

「出来ればブラもな」

 

「え?…ひゃあっ///て、提督さんのエッチ!」

 

「…やっぱり深海棲艦に寝返ろうかしら」

 

「最後に見るのが、お前の笑顔なら未練も無いさ」

 

「んもぅ!!そこは私でしょダーリン!」

 

ローマは呆れた様に肩をすくめ、ウォースパイトとリベッチオは顔を寄せて笑いあった。

その数秒後、提督は気付いた。

 

この場に一人、足りない事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈やっぱり…!私の思った通りだったわ!〉

 

提督達と共にテレビを見ていたウォースパイトは、その途中でその場を抜け出していた。

 

〈彼女達は諦めてなんかいなかった!ザラの言った事が例え嘘だろうと、全ての人間がアドミラル程、優しい訳じゃない〉

 

〈艦娘がいくら強かろうと、人間のバックアップが無くては戦う事すらできない。なら…〉

 

〈その人間に、艦娘を裏切らせればいい!!〉

 

〈これ以上の策なんて無いわ。人間は自分達を守る艦娘を、艦娘は人間を守る意味が無くなる…〉

 

ウォースパイトは鎮守府裏の外縁に辿り着いた。フェンスの外には百人以上の人間が集まっていた。彼らはウォースパイトを見付けると、火が付いた様に怒号を上げた。

 

「み、見ろ!艦娘だ!!」

 

「あ、あの娘もあんな怪物に変わるのか!?」

 

「テレビを見ただろう!あいつらはあの姿で俺達を騙していたんだ!!」

 

「殺せ!!」

 

「そ、そうだ!殺られる前に殺るんだ!!」

 

かつて自分達を女神の様に慕っていた人間達の姿はそこには無く、あるのは恐怖に踊らされた醜い獣の姿だった。

だが、不思議とウォースパイトに失望は浮かばなかった。それどころかむしろ予言者にでもなった様な高揚感に包まれていた。

 

〈アハハハハッ♪私の思った通りだわ!!〉

 

〈人間が…自分達より強い私達を認める訳が無い。これが…これが人間なのよ!〉

 

〈何もかも…何もかもが私の思った通り!!〉

 

〈アハハ…ハ…〉

 

〈…〉

 

〈どうして…私は喜んでいるの?私達が守る人間が、あんなに醜くなってしまったのに…〉

 

〈それに…何か妙だわ。あまりにも出来すぎてる。こんなにも都合よく…私の思った通りになるかしら?〉

 

〈何もかもが…都合が良すぎる…〉

 

「ウォースパイトお姉ちゃん…」

 

「!?あっ、ヒトミ、イヨ。た、大変な事になったわ。…どうしたの、アナタ達」

 

「やっぱり戻る事にしたんだね」

 

「も、戻る?イヨ、何の話を…」

 

「ね、ねぇイヨちゃん。もう少しこのままでも…いいんじゃないかな?」

 

「それは無理だよ姉貴。あの人間達を見たろ?もう人間は私達…艦娘達を信じちゃいないもん。それに私達もようやく戻れるんだよ?」

 

「う、うん…そ、そうだけど。でも私、ここの提督さん、優しくて…好きだったから」

 

「そうだね、私も好きだったよ。…何度か格納庫触られたけど…」

 

「えっ?イ、イヨちゃんズルい!わ、私触られた事ない…」

 

「あ、あなた達、さっきから何を言って…えっ!?」

 

〈…〉

 

「なっ、何っ!?〉

 

〈…?〉

 

〈聞こえ…い、今の…ヒトミ、イヨ…。アナタ達…なの?」

 

〈…〉

 

「ヒトミ、イヨ、アナタ達は…え?それが本当の…アナタ達の名前…?

 

「え?わ、私の名前?わ、私はウォースパイト…」

 

〈…〉

 

「ち、違う?じ、じゃあ…私は…私の…名は…」

 

〈……〉

 

翌日、ヒトミとイヨは鎮守府から忽然とその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間が過ぎた。

数にすればたった七日だが、世の中が変わるには充分だった。

ザラの放送は瞬く間に世界中に知れわたり、疑心暗鬼に駆られた人間達が連日、鎮守府に押し掛けた。

大本営も当初は艦娘を庇う立場だったが、幾つもの鎮守府で艦娘が深海棲艦化する現象が起こった事で、艦娘に対する信頼は地に墜ちていた。

 

「艦娘を出せ!!」

 

「あの化け物達を殺すんだ!!」

 

アイオワ達の居る鎮守府にも連日、暴徒達が押し寄せ提督を悩ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!あいつらっ!!」

 

提督は苛立ちを隠そうともせず机を叩いた。

 

「今までアイオワ達が誰の為に戦ってきたと思ってるんだ!…それなのに、こんなにあっさり手のひら返しやがって…!それにヒトミとイヨも何処へ…まさかアイツらの手に掛かって…!」

 

「馬鹿な事言わないでよ…私はウォースパイト程あの二人の事は知らないけど、仮にも艦娘よ?人間においそれとどうにか出来る相手じゃないわ」

 

「ローマ…」

 

「そ、そうだよ!リベだってあんな人達がかかってきたら、ガブ~ッて噛んじゃうんだから!」

 

「リベになら、噛まれてもいいかな」

 

「仕方ないわよダーリン。あんな放送を見れば誰だって私達を疑いたくなるわ…私だって、いつあんな姿になるのかと思うと…」

 

「そ、そんな事言うなアイオワ!いつものオマエはどうしたんだ!」

 

「で、でも…」

 

「ねぇ提督…、今ならアナタ一人でも、ここから逃げてもいいのよ?」

 

「なっ…ローマ、何を言って…」

 

「アナタは人間でしょ?いつまでも私達と一緒に居たら私達の仲間だって思われるわよ」

 

「そ、そんな事どうだって「解らないの!?」

 

「ロ、ローマ…?」

 

「これはアイオワとも話した事なのよ…もし私達がザラの様に深海棲艦になったら提督…アナタにも襲い掛かるかもしれないわ。そうなる前に、ここから逃げなさいって言ってるのよ」

 

「…アイオワ、そうなのか?」

 

アイオワは無言で頷いた。

 

「…アイオワ、ごめんなさいね」

 

「え?」

 

ローマは突然、提督に抱き付くと唇を重ねた。

 

「ロ、ローマ!?」

 

「ひゃあ~///ロ、ローマお姉ちゃん大胆~///」

 

「…勘違いしないでね。ただ、私もアンタの事は嫌いじゃないから…まぁ、信頼の証よ」

 

「…あぁ。だが、ローマからそこまで言ってもらえて嬉しいよ。ピザでも取ろうか?」

 

「パスタの方がいいわ」

 

「…俺もお前のそういう所、嫌いじゃないよ」

 

「り、リベも///リベもする!提督さん、少ししゃがんで!」

 

「ありがとうリベ。でも怖いお姉さんが二人睨んでるから、続きは10年後にしような?」

 

「んも~っ!!」

 

地団駄を踏むリベッチオの頭を撫でながら、アイオワはふと疑問に思った。

 

「ねぇ、ダーリン。最近ウォースパイトを見ないけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

Look to the sea,way up on deep(海を見よ、遥か深くを) There in the night waves are right(夜の波達が出揃えば)♪」

 

「良い歌だな」

 

「…」

 

防波堤に立つウォースパイトは、提督が息を切らせて駆け寄ってくるのも気にせず海を眺めていた。

 

「…心配させてごめんなさい」

 

「ここ数日、姿を見ないからびっくりしたよ。まさかヒトミ達に続いておまえも何処かへ行ったんじゃないかって。…ここは危ない。最近は変な連中が入ってくるってローマも言ってたからな。早く戻ろう」

 

「…ねぇ、アドミラル。前に私が聞いた事、覚えてるかしら?」

 

「…何の話だ?」

 

「私とアイオワのどちらかを選ばなきゃいけないとしたら、どちらを選ぶかしら?」

 

「ウォースパイト、みんなも心配してるぞ。とにかく戻ろう」

 

「お願い、答えて…」

 

ウォースパイトは振り返り、提督の目を見つめた。

 

「…俺はアイオワを選ぶよ。だが別にオマエの事が嫌いって訳じゃない」

 

「…そう。やっぱり私、戻れないのね」

 

「え?」

 

次の瞬間、爆発の様な水飛沫が海面に上がった。

 

「うおっ!!」

 

跳ね上がった波に流され、危うくその場から跳ね飛ばされそうになった提督はかろうじてその場に踏ん張った。だが、次に目を開けると彼は異常なプレッシャーに包まれた。

まるで鬼の様な仮面を被る者。

生き物の様な黒い兜を被る少女。

白い長髪に空母の様な黒い滑走路の艤装を持つ女。

額にツノを生やし、自分の体程の爪を持つ女。

黒いドレスを着た、怪しく光る紅い目の女。

 

人の姿でありながら人ではない、深海棲艦達が提督を取り囲んでいた。

 

「う、うわああっ!!」

 

恐怖に駆られその場を逃げようとする提督は、まだウォースパイトがいる事を思いだし、残った理性で呼び掛けた。

 

「ウ、ウォースパイトッ!は、早く逃げるんだ!!」

 

だがウォースパイトは、まるで提督の言葉が耳に入らないかの様にその場に立ち尽くしていた。

 

「ウォースパイト…え、お、オマエ達っ!?」

 

提督は深海棲艦達の中に、見覚えのある二人を見付けた。一人は白、もう一人は黒い髪と潜水服、ガスマスクの様な器具を着けた深海双子棲姫。その顔を提督が忘れる訳が無かった。

 

「ヒトミに…イヨ…なの…か?」

 

「…」

 

「ま、まさかオマエ達も深海棲艦になっちまったのか!?」

 

「そうじゃないのアドミラル。二人は…いえ、私と彼女達は違うのよ」

 

「私…?ウ、ウォースパイト、まさかオマエも…」

 

「黙っていてごめんなさいね…ええ、私も深海棲艦よ」

 

ウォースパイトの体は、かつてのザラの様に醜く歪むと、その姿を徐々に変えていった。

その髪は白く変化し、頭の両脇に小さなツノ、口元を覆い隠す様な禍々しい黒い牙。彼女本来の姿…

 

中間棲姫へと。

 

彼女の口が開くと、提督は自分の頭の中に電波が流れる様な感覚を感じた。

 

〈…私は劣勢になった私達、深海棲艦の状況を覆す為に送られて来たの〉

 

〈な、何だ?こ、声が…頭に響いて!?〉

 

提督が冷静になるのを待ち、ウォースパイトは語りだした。

 

〈私は人間の事をよく知る為に、先に潜り込ませてあるヒトミ達に私を発見してもらった事にしてアナタの下へ来たの。…ただ深海棲艦から艦娘に変化すると、それまでの記憶も無くしてしまうの。お陰で自分の正体を知って一番驚いたのは私だったけど…〉

 

「…ウォースパイト…でいいのか?オマエの目的は何だ?俺達人間を滅ぼす事か?」

 

〈ええ…でもね、アドミラル。今更かもしれないけど私はアナタ達と…いえ、艦娘達と戦わずに済む方法が一つだけあるの〉

 

「戦わない?それは…?」

 

〈…私達と戦わない事。私達が人間を滅ぼす間…ね〉

 

「なっ!?」

 

〈アドミラル、私達の目的は、あくまでこの世界の騒音である人間を滅ぼす事なの。つまり艦娘が戦わないと言うなら私達は戦わずに済むの。

 

〈元々、艦娘は“お父様”が深海棲艦を生み出した際に出来た、もう一つの深海棲艦なの。私達、深海棲艦が憎しみから生まれた様に、艦娘は人間に対する愛情が形を持ったモノ…〉

 

「人間に対する愛情?ザ、ザラや最近起きている艦娘の変化は…」

 

〈ご名答…私が艦娘でいる間理解したのは、全ての艦娘は人間に対する愛情であの姿を保っているという事。だから私、考えたのよ。

 

〈…人間が艦娘を信頼しなくなったら?って〉

 

「じ、じゃあ世界中の艦娘が深海棲艦になる事件は…」

 

〈ええ…私の思念を受け取った重巡棲姫(ザラ)が実行したのよ。人間への失望を植え付ける為にね〉

 

「…」

 

〈まもなく世界中の全ての艦娘が私達の仲間になるわ。その時、人間はもう何も出来ない。ただ私達に滅ぼされるだけ…。

 

〈でもね、アドミラル…アナタは別よ〉

 

「…どういう意味だ?」

 

ウォースパイトは右手を差し出した。

 

〈アドミラル…アナタ一人なら私が守れるわ。だからお願い、この手を握って…私を選んで〉

 

「…」

 

ウォースパイトの手を提督が握る事は無かった。

 

〈…残念だわ、本当に〉

 

「…俺もだ」

 

〈…どうやらアイオワ達が気付いた様ね〉

 

提督が振り替えると、アイオワとローマが血走った表情で二人に向かっていた。

ウォースパイトから目を離した提督に、彼女が走り寄った。

 

「んっ…!」

 

ウォースパイトは提督を力強く抱き締めると、彼に口付けした。

 

「…」

 

〈もしアナタが私を選んでくれたら、私はずっとウォースパイトでいられた。さよなら…私の愛しい人…〉

 

ウォースパイトが海に降り立つと、周りの深海棲艦達も彼女を取り囲みながら、海の水平線へと消えて行った。

 

「ダーリン!何があったの!?」

 

「アンタッ!これは一体…ウォースパイトは!?」

 

「…深海棲艦だったよ。ヒトミとイヨもな」

 

「…!?」

 

「そ、そんな…」

 

「ローマ…確か君の国、イタリアでは悪魔の事を…何て言うんだったか…」

 

「…ディアボロよ。それがどうかしたの?」

 

「いや…フフッ、もっと恐ろしい奴かと思ったが、あんなに美しいとは思わなかったよ」

 

「…ウォースパイトに、何か言われたの?」

 

「あぁ…とても恐ろしい誘惑だったよ。もし、アイオワやローマが居なかったら、きっと負けていたよ」

 

「…リベもね」

 

泣き顔のリベッチオが駆け寄って来ると、提督に抱き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一年。

ウォースパイトの予言通り、人間の世界は終焉を迎えつつあった。

自分達の手で艦娘達との信頼を踏みにじった人間が深海棲艦に対抗出来る筈もなく、その数は最早数える迄に減っていた。

だが、世界でただ一ヵ所だけ、彼女達深海棲艦と戦う鎮守府があった。

ほとんどの艦娘が深海棲艦化した中で、僅かに残った艦娘達が集結し、最後の抵抗を繰り広げていた。

戦いは絶望的で、勝つ見込みはまず無かった。だが、不思議な事にそこから逃げ出す艦娘は一人もいなかった。

彼女達も自分達が勝てない事は、或いは理解していたのかもしれない。だが、艦娘の本能が、最後に自分達が守りたかった人間と…提督と共に沈む事を望んだのかもしれない。

 

今、この鎮守府は海を埋め尽くす程の深海棲艦に囲まれていた。そしてその中心に、かつてウォースパイトと呼ばれた艦娘が、かつての仲間達と対峙していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一年か…よく持ったな」

 

顔はやつれ、無精髭を生やした提督が、アイオワやローマ達自分の指示を待つ艦娘を前に苦笑する。

 

「ええ、リットリオ姉さんが居たら後一年は持ったわね」

 

「君の姉を口説くとなると、もう一年は欲しいな」

 

「…フフッ、今だから言うけどアンタのその軽い性格、案外嫌いじゃなかったわよ」

 

「女を口説く時は真面目なつもりなんだがね」

 

「じゃあ真面目に言い訳するのね…後ろの彼女に」

 

「そうね、私も聞いてみたいわダーリン」

 

「キミを疎かにした訳じゃないよアイオワ。俺は美味しい物は最後に取っておくタイプなんだ。長男だし」

 

「私は真っ先に食べちゃいたいわ、我慢は苦手よ」

 

「もうその必要もないさ。最後の晩餐位、食い散らかしても神様も大目に見てくれるさ」

 

「リベはね!リベはねぇ!ニッポンに行ってみたかったなぁ!タコヤキ食べたかった!!」

 

「タ、タコ!?日本人ってタコ食うの?…スゲーな」

 

「リベ…先に行ってましょうか」

 

「え~なんで…あ、う、うん!!」

 

ローマはリベッチオを促すと、ウインクをして早足で去って行った。

 

「…気を効かしてくれたのかな?」

 

「そうね、ローマには感謝しなきゃね」

 

「アイオワ…今までありがとう。キミが居なかったらここまでやってこれなかった。本当にありがとう」

 

「ダーリン、私が聞きたいのはそんな建て前じゃないわ」

 

「…そうだな。じゃあ、こんなのはどうだ。この戦いが終わったら、俺とケッコンしてくれないか?」

 

「アッハハッ♪ダーリンのそういうセンス、私大好きよ!」

 

「答えを…聞かせてくれるかな?ハニー」

 

「…イエスよ。庭付きの大きな家に住みたいわね」

 

「そうだな。犬も飼いたいな。実家は猫派でね」

 

「子供も沢山欲しいわね」

 

「う~ん、暫くは二人っきりを楽しみたいかな」

 

「子供が産まれても楽しめるわよ。それとも子供に見られちゃ出来ない事でもするつもりかしら?」

 

「…先に保育所探さないとな」

 

 

 

 

 

〈…〉

 

ウォースパイトは目を開くと、右手を掲げた。

戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ、本当にヒトミとイヨなの…?もうリベの事は…忘れちゃったの!?」

 

「リベッチオ!!もう二人の事は忘れなさい!あの二人は、もう深海棲艦よ!!」

 

「ローマお姉ちゃん…グスッ」

 

「アンタは下がってなさい。この二人は私が倒すわ」

 

「…リベも…戦うよ」

 

「…好きになさい。二対二だし、ちょうどいいわ。行くわよ…ヒトミ、イヨ!!」

 

〈〈ククク…歓迎…シマショ…〉〉

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハ~イ、ウォースパイト、一年振りね。暫く見ない内に随分変わったわね。イメチェンかしら?」

 

〈…アイオワ…もう、お別れは済んだかしら?〉

 

「(頭に…声が!?)…面白い特技ね。後で教えてくれないかしら?」

 

〈《こちら側》に来れば、考えない事もないわ〉

 

「そう…じゃあ遠慮しておくわ。そのドレスもエレガントだけど、少し地味じゃない?前の方がずっと良かったわよ」

 

〈気にする必要あるかしら?これから海の藻屑となるアナタに〉

 

「驚いたわ…その姿になると性格も変わるのね。前のアナタの方がもっとプリティーだったわよ?」

 

〈最後だから言うけど…アイオワ、私アナタの事嫌いじゃなかったわ。私が持っていない物を全て持っていて…

 

〈妬んだ事もあったけど…それだけアナタが羨ましかったんだって…今だから言えるわ…〉

 

「『戦争と恋に手段は選ばない』…確かアナタの国の言葉じゃなかったかしら?」

 

〈フフッ…でもね、その結果、彼は私じゃなくアナタを選んだわ。諺なんて案外そんなものよ〉

 

「まだ勝負は付いてないと思うけど?」

 

〈アイオワ…せめてアナタだけは私が沈めてあげるわ…そして、その後は…〉

 

「彼は渡さないわ。それに…今の私は強いわよ?」

 

〈…誘爆シテ…沈ンデイケ…!!〉

 

「ねぇ…ダンスしましょうよ、ウォースパイト…二人っきりで!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い夕日が海の水平線に差し掛かっていた。

先程迄の激戦を物語るかの様に、至る所で艤装の残骸が浮かび、火の手が上がっていた。

そんな夕暮れの砂浜を一人の女が歩いていた。風に靡く白い髪に白いドレス、戦場には場違いな姿の彼女は砂浜に落ちていた黒い塊を見つけると、それを拾い上げた。片手で砂を払うと胸にしっかりと抱き寄せ、砂浜にゆっくり腰を下ろした。

 

〈ずっとこうして…二人になりたかったわ〉

 

〈さっき迄アイオワとローマも居たんだが…会わなかったかい?〉

 

〈意地悪ね…アドミラル〉

 

〈…〉

 

〈私達、深海棲艦は生まれる時、人間に対する未練が強いと艦娘に変化する事があるの。

 

〈私は深海棲艦として生まれたけど、艦娘と戦って不思議だったの。ザラやポーラ…私が倒した艦娘達は皆、轟沈の恐怖が無かった。それどころか、とても満ち足りた表情で沈んでいった。

 

〈それで人間に…アナタ達に興味を持ったの。だからアナタ達を知る為に私は艦娘、ウォースパイトになった。そしてアナタに出会った…。

 

〈でも、もう少し早く出会っていたかったわ。私と出会ったアナタは、とっくにアイオワに夢中なんですもの。何度アイオワが沈むのを願った事かしら…。

 

〈ねぇ、アドミラル。もし私の方が先に出会っていたら、アナタは私を選んでくれたかしら?〉

 

〈あぁ。キミを選んでアイオワに撃たれる未来がハッキリ見えるよ〉

 

〈じゃあ、どのみちアナタはこうなる運命だったのかしら?〉

 

〈美女二人が自分を取り合う…悪くないね〉

 

〈これが本当の引き裂かれる思い…かしら?

 

〈アドミラル…私は艦娘として生きる内に、艦娘を支えている物が人間に対する愛情だと知ったの。だから、私はそれを奪う事にした。

 

〈人間は私の思い通りに踊ってくれた…呆気ない程にね。

 

〈でもね、アドミラル。アナタが私を選んでくれたら、使命も何もかも捨ててウォースパイトとして生きていられたのよ?

 

〈いえ…これは言い訳ね。どのみち私のお目付け役のヒトミとイヨが、私の記憶を甦らせたでしょうし…〉

 

〈名前を…〉

 

〈え?〉

 

〈おまえの本当の名前を教えてくれないか…〉

 

「…」

 

暫しの沈黙の後、ウォースパイトは口を開いた。

 

〈出来れば言いたくはなかった。かつてあなたが愛したウォースパイトのままでいたかった…〉

 

〈…〉

 

〈クティーラ…それが私の本当の名前よ〉

 

〈クティーラ…か〉

 

紅い夕陽が海の水平線に落ち、海を紅く染めていた。

 

〈綺麗だ…〉

 

かつてウォースパイトと呼ばれていた彼女は、胸に抱く黒い塊を強く握り締める。

 

〈ウフフッ。それはあの夕陽の事かしら?それとも…〉

 

先程迄、ウォースパイトの頭に響いていた男の声が、その問いに答える事は無かった。

 

〈…アドミラル。どうして…どうして私を選んでくれなかったの?私はずっとあなたのウォースパイトでいたかった…

 

〈ずっと、あなたの側にいたかった…〉

 

クティーラは提督を…首から下を失った彼の頭を掲げた。その瞳に彼女はもう映っていなかった。

 

〈眠ったのね…続きは夢の中で…〉

 

ウォースパイトは彼に口付けすると、頭だけになった彼を優しく抱きしめた。

 

〈お休みなさい…〉

 

ウォースパイトの涙が、彼の頬を濡らした。

その涙の理由が、愛する者を殺めた罪悪感からなのか、それとも彼が自分を選ばなかった事への悔恨の涙なのか…それを知る者は、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈…ウォースパイト…〉

 

〈どうして…〉

 

〈どうして泣いているんだ…〉

 

打ち付ける漣の音が、いつまでも響いていた。

 

 

 




ある漫画が元ネタです。後半はまんまです。ネタ的にどうしてもやりたかったので。申し訳ない。ウォースパイトの歌は「旧支配者のキャロル」のパロディです。英語違ってたら誤字修正お願いします。
以前書いた「錨は~」が艦娘endだったのに対し、こっちは深海endって感じです。メガテンのLAWルートとCHAOSルートみたいな。NEUTRALルートに当たる人間endのネタもあったりします。

ソンナ…ハナシガ…ヨメルと…いうの?












艦娘型録

提督 そろそろ親が孫はまだか?とうるさい。来年三十路。愛読紙はBACHELOR。ロリ属性は無し。

ウォースパイト 椅子型の艤装は一人だけズルいと評判が悪い。リベッチオによくマッサージチェアと勘違いされていた。胸の形には自信がある。最近やたらとボーリングに誘われる。

アイオワ 性格は陽気だが、歌はバラード系が好き。ローマの食事に付き合っていたらバストサイズが上がった。ニプレスはしていない。最近イン・シンクにハマった。

ローマ イタリアの霧島。お尻を触られた時、提督のお尻を思いっきり蹴り上げたが内心満更でも無かった。ウォースパイトが一緒にボーリングしてくれないので、内心嫌われているんじゃと疑っている。

リベッチオ この話における富竹。時報みたいな物。この娘が執務室に来ると話が動く。好きなタートルズはミケランジェロ。

ザラ 今回いいとこ無し。少し早めにスタジオ入りしたのでポーラと飲んでいた。ポーラは酔いつぶれて急遽一人に。

クティーラ クトゥルフの娘の一人。昼寝してたら父ちゃんに「アイツらヤベーから助けに行ってこい」と叩き起こされた。暇潰しに魔法少女のコスプレで格闘ゲームに出たら思いの外好評だったので、この路線もアリかなと思っている。
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