艦娘症候群   作:昼間ネル

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「殺るのね!?吹雪ちゃん!!」

「ええ!勝負は今!ここで決めます!!」




二週間後の君へ

暖かい…暖かい光が…

さっきまで真っ暗だったのに…

ここは…どこなんだ…?

あれは…白い、大きな建物が崩れて…

よく分からないが…逃げないと…

今度は…体が宙に浮いて…?

地面が…いや、これは空か…

何でこんなに赤いんだ…

誰だ…女の子…どこかで会った気が…

どうして…みんな泣いているんだ?

 

『…』

 

何だ…?

 

『…!』

 

この娘は…さっき泣いていた娘か…?

 

『…く』

 

うるさいな…俺は眠いんだ…静かにしてくれ…

 

『…れい…』

 

この声は…どこかで聞いた事が…

君は…確か…

 

「司令官!!」

 

〈はっ!?〉

 

「よ、良かった!皆さん、成功ですよ!」

 

「よくやった、明石!」

 

「て、提督!待ちくたびれたヨ!!」

 

「…グスッ…し、司令官…」

 

次に目を開けると、俺は青い液体のプールに浸かっていた。俺の目の前には四人の女が、皆とても嬉しそうに俺の顔を覗き込んでいた。四人共、どこかで会った様な気がする。

何か…とても長い夢を見ていた様な気がする。

どうして俺はこんな所に居るんだ?

それに目の前の彼女達…。見覚えがある。確か名前は…

名前…?

そうだ、俺は誰だっけ?

名前は…確か…

 

俺は…誰だ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

『そ、そんな…なんか…』

 

『私より…ちゃんの方が…「司令官?」

 

「はっ…」

 

「あの…司令官、顔色が悪い様ですが…大丈夫ですか?」

 

「あ、いや…大丈夫だ。昔の事を少し思い出して…」

 

「えっ!?じ、じゃあ私の事も…?」

 

「…すまない。まだハッキリとは…」

 

「…そ、そうですよね!大丈夫ですよ、時間はたっぷりあるんですし。ゆっくり思い出していきましょう!」

 

「ああ…ありがとう、吹雪」

 

 

 

 

 

 

 

あれから丸一日…今、私は執務室で一人の女の子と話をしている。

昨日、私は海の様なプールで目を覚ました。

最初に目を開けた時、何人かの女が私の前で涙を流していた。彼女達が何故泣いているのかは解らなかった。だが、彼女達には何処か見覚えがあった。

何が何だか解らない私は彼女達に尋ねた。

ここは何処なのか?

君達は誰だ?

そして…私は誰なのか…。

 

私の質問に彼女達は目に見えてがっかりしていた。そして私は彼女達から、どうして私がここにいるか説明を受けた。

 

私、そして彼女達は深海棲艦と呼ばれる敵と戦っているらしい。

今から二週間前、私が居るこの場所、鎮守府にも敵の攻撃があったそうだ。

彼女達の指揮官である私は、その時の爆撃で吹き飛ばされたそうだ。幸いにも怪我は大した事はなかったが頭を強く打ったらしく、二週間もの間昏睡状態が続いたらしい。

生と死の狭間をさ迷った私は、ようやく昨日目を覚まし、今に至る。

命を失わずに済んだのは幸運かもしれない。だが、その代償に私はこれまでの全て…過去の記憶を無くしていた。

これまでの人生も、彼女達との思い出も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの…司令官…良ければ…』

 

『はい…これからは…一緒に…』

 

 

 

 

 

 

 

「…で、私は司令官と共にこの鎮守府に来たんです」

 

あれから数日、私は実務にも取り掛かれる程には回復しつつあった。

 

「もう、司令官、ちゃんと聞いてますか?」

 

「あ、ああ。ちゃんと聞いてるよ」

 

今日も私は吹雪から過去の思い出を聞いていた。

吹雪。

吹雪型一番艦の駆逐艦。お下げの髪型が特徴的な、白いセーラー服と紺のスカートの少女。思い出した記憶のほとんどが彼女との会話ばかりだ。きっと昔は良好な関係を気付いていたんだろう。

吹雪も一日も早くかつての私に戻ってほしいのだろう。だがこればっかりは時間が解決するのを待つしかない。何とも、もどかしい限りだ。

 

「あの時…司令官と一緒にこの鎮守府に来た日の事、私は昨日の事の様に覚えています」

 

「そ、そうか…そう言えば思い出したんだが、前の鎮守府でボヤ騒ぎがあった様な…」

 

「え?あ、あ~…そういえば…そんな事もありましたね」

 

「確か、泥棒が入って…だったかな」

 

「そ、そうですね。よく覚えてますね」

 

「それに…そう叢雲だ、吹雪の妹の。彼女の事も思い出したよ」

 

「叢雲ちゃんか…フフッ、叢雲ちゃん、元気にしてるかな」

 

「大丈夫だよ。吹雪の妹なんだろう?」

 

「艦娘としてはそうですけど…実際は叢雲ちゃんの方が私なんかよりしっかりしてるし、どっちがお姉さんなんだか…」

 

「叢雲か…話した記憶は無いけど…どんな娘なんだろうな」

 

「…司令官、もしかして私より叢雲ちゃんの方が良かったですか?」

 

「な、何を言ってるんだ!そんな訳ないだろう」

 

「本当ですか…?」

 

「…叢雲がどんな娘かは知らないけど、私は吹雪との思い出の方が大事だよ」

 

「そ、それならいいんですけど…」

 

「ところで…君たち艦娘は、その…建造された時からその姿なんだよね?」

 

「え?そ、そうですが…それが何か?」

 

「いや、ちょっと気になったんだ。君たち吹雪型の娘は何人か見た事あるんだが、みんな吹雪と同じ制服だった気がするんだ…どうして叢雲だけ違うんだろうって…」

 

「言われてみれば…昔、白雪ちゃんや深雪ちゃんも叢雲ちゃんは私達と違ってワンピースで可愛いねって…」

 

「ふ、吹雪!偶然、偶然だよ!た、確か高雄型の摩耶とか球磨型の北上なんかも上の姉とは全然違うし!吹雪の制服だって可愛いさ!」

 

「で、でも…一番下の磯波ちゃんは私や白雪ちゃんと同じなんです…どうして叢雲ちゃんだけ…ま、まさか叢雲ちゃん、吹雪型じゃないんじゃ…」

 

「そ、そんな事ないって!そ、そう!髪型なんか似てるし、姉妹って感じがするよ、うん」

 

「そ、そうですよね。妹を疑うなんて、私どうかして…でも叢雲ちゃんだけ頭に電探カチューシャ持って…やっぱり叢雲ちゃん、私の妹じゃないんじゃ…」

 

「そ、そんな事…そ、そうだ、確か軽巡の天龍も妹の龍田と違う電探の形してるじゃないか」

 

「で、でも私達吹雪型で電探カチューシャ持ってるのは叢雲ちゃんだけ…ハッ!そ、そういえば駆逐艦の初春ちゃん、叢雲ちゃんとそっくり…せ、制服も髪型も…」

 

「は、初春?い、言われてみれば確かに…」

 

「…司令官、二~三日休みを貰っていいですか?」

 

「え?どこか具合でも…」

 

「前の鎮守府に行って来ます。吹雪型緊急会議を開きます!」

 

「…そんな理由で行くんじゃない」

 

「で、でも叢雲ちゃんだけ違うんですよ?どうして叢雲ちゃんだけ私達と違う制服なんですか?おかしいですよ!」

 

「そ、それは…そういう仕様なんだろう」

 

「だから上に掛け合って、制服を変えて貰います」

 

「そんな事したら叢雲がかわいそうだろう」

 

「みんな、叢雲ちゃんと同じにして下さいって!」

 

「吹雪達が変えるの!?」

 

 

 

 

 

 

吹雪に限らず、艦娘は姉妹間での絆…とでも言うのか、それがとっても強いんだな。長門や金剛達もそうなんだろうか。少し怖い気もするが。

でも…言われて初めて気付いたが、叢雲と初春はそっくりだな。本当にあの二人、姉妹なんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの白雪、電話?誰から?」

 

「そ、それが向こうの鎮守府の吹雪ちゃんなんだけど…叢雲ちゃんの制服、送ってって…」

 

「はぁ?」

 

「着払いで…」

 

「はぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

『司令官は…の事…どう思って…』

 

 

 

 

 

 

 

「よし、演習はこれまで…うん?提督、どうしたのだ、こんな所に」

 

「特に理由は無いんだが…長門や皆の事を見てれば何か思い出すかと思ってね」

 

「…そうか、だが気に病む事はない。提督が戻って来てくれただけでも皆喜んでいる」

 

「そう言ってくれると…ありがたいよ」

 

長門。

長門型一番艦戦艦。腰まで届く黒髪が特徴的な、この鎮守府の纏め役。私の記憶の中の彼女はとても勇ましく、何度も鼓舞されたものだ。

 

「因みに…私の事は覚えているのか?」

 

「あ、あぁ。おぼろ気ながら覚えているよ」

 

「例えば?」

 

「この鎮守府を纏めるリーダーで…皆の信頼も厚い」

 

「ほ、ほう…嬉しい事を言ってくれるじゃないか…だが、まだあるんじゃないか?」

 

「確か…妹の陸奥と共に当時の最高峰のビッグセブンと呼ばれているんだっけ」

 

「フッ…胸が熱いな。だ、だが…まだ何か思いだしたりは…しないか?」

 

「他に…す、すまない。他にはまだ…」

 

「そうか…」

 

「も、もしかして何か大事な事を忘れていたり…長門、言ってくれれば思い出すから、教えてくれないか?」

 

「あ、いや、大した事ではないのだ!気にするな!」

 

「そ、そうか…すまない」

 

「…フフッ」

 

「な、何かおかしいか?」

 

「いや、そうではないのだ。昔を思い出してな。前もこうして二人でよく話したものだ」

 

「そうか…また前みたいになるといいな。あぁ、そういえば…ふと思ったんだが…」

 

「何だ?」

 

「ビッグセブンって…七人いる筈だが。長門と陸奥…残り五人は誰なんだろうと思って…」

 

「えっ!?」

 

「良ければ教えてくれないか?」

 

「うっ、うむ!それはだな…」

 

〈ビッグセブン?語呂が良いから使っていたが…確かに七人という意味だな。七人?そんなにいるのか?誰だ?知らんぞそんなの!〉

 

「長門…?」

 

「私と陸奥の他に…そ、そう、金剛だ!」

 

「金剛が!?す、凄いな。確かに金剛も戦艦だったな」

 

「そ、それに…明石もだ!」

 

「え?アイツが…そ、そうは見えないが…明石って実は凄い奴なのか?」

 

「フ、フフン…見た目で判断する様ではまだまだだな」

 

「そ、そうか。言われてみれば明石って妙なオーラがある気がする。明石がなぁ…」

 

「呼びました?」

 

「うおっ!?」

 

「あ、明石、ちょうどいい所に。君は実は凄い奴だったんだな」

 

「…」

 

「…?何の話です?」

 

「今ビッグセブンの話をしていたんだ。君と金剛もその一人なんだって?大したものだ」

 

「…!」

 

「え?いやだなぁ。金剛さんはともかく私な訳ないじゃないですか~」

 

「え?でも…」

 

「正確には長門さん陸奥さんの他にネルソン、コロラド、ロドニー、メリー「…ジロッ」ヒッ!」

 

「明石?」

 

「あ、後は…そ、そう!金剛さんです!」

 

「そうか…ウチの鎮守府にビッグセブンが二人も…。それは責任重大だな」

 

「うむ、解ってくれればそれで良いのだ!」

 

「あ、あぁ。邪魔したな。じゃあ私はこれで…」

 

「あぁ、無理はせぬようにな」

 

「…」

 

「…」

 

「明石よ…」

 

「は、ハイ!」

 

「すまん…」

 

「…いえ」

 

 

 

 

 

 

 

長門か…。資料には目を通したが、アイツやっぱり凄い奴なんだな。駆逐艦にも慕われているみたいだし。

そんな事も忘れるなんて…早く思い出せればいいが。

それに金剛もビッグセブンの一人だったなんて。確かに明るいし根はいい奴だと思うが…人は見た目にはよらないっていい例だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『司令官…さんと…するんですか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘ~イ、テイトクゥ~ッ!Breakfastにしまショウ!」

 

「ああっ、お姉さま、き、危険ですッ…!」

 

朝の空ろな気分は、執務室に乱入した二人の喧騒によって吹き飛んだ。金剛とその妹、比叡だ。

 

「もう、比叡は心配性ネ~。そんな事ある訳ないネ~!」

 

「そ、そうですけど…」

 

「そんな事…?」

 

「あっ、こっちの話デ~ス。そんな事より朝食持ってきたヨ~♪」

 

「ありがとう。遠慮なく貰おうか」

 

「ワタシの手料理、ゆ~っくり味わってネ~♪」

 

「私も手伝ったんですけど…」

 

 

 

 

 

 

金剛。

金剛型戦艦一番艦、金剛四姉妹の長女に当たる。

白を基調とした巫女装束の様な服装と亜麻色の髪が特徴的な艦娘。

自分の記憶の中の彼女も今と変わらず快活で、見る者を明るくする。それに吹雪や長門達には感じなかった親近感を感じる。記憶を失う前の私とはどんな関係だったんだろうか。

…それに長門の言に寄れば、彼女もビッグセブンの一人に数えられていると言う。う~ん、人…もとい艦娘は見かけに寄らないものだな。

 

彼女に隠れる様に寄り添うのは…確か比叡と言っていたな。そうか、彼女が次女の比叡か。

見た目は金剛に似てはいるが、性格は微妙に違う様だ。確か記憶の中の比叡は、もう少し快活だった気もするが。

それに気の所為か私を警戒している様な…。もしや怒らせる様な事をしたんだろうか…。

 

 

 

 

 

 

「うん、旨いよ」

 

「エヘヘッ…ワタシこう見えても料理得意なんデス!」

 

「わ、私も得意ですよ!…何故かみんな食べてくれないけど…」

 

「比叡の料理はスパイスが強いだけネ。少~し加減すれば、きっとみんな食べてくれるヨ~」

 

「で、ですよね!私が下手なんじゃなくて、みんなの舌が少し変なんですよね!」

 

「…その自信も少し加減した方がいいデ~ス」

 

…何だろう、とても懐かしい気分だ。

金剛とはこうしてよく食事を取った気がする。それに金剛には、長門達にはない感情も湧いてくる様な。

だが仮にそうだとしても、それは前の私にだ。変わってしまった私に、金剛が以前と同じ気持ちでいてくれるとは限らない。

 

「…もしかして、気分が悪いデスか?」

 

「あ、違うんだ。別の事を考えてたんだ。その…昔もこうして食事したなって」

 

「…!じ、じゃあ、テイトク、昔の事を思い出してッ!?」

 

「すまない…そこまでは」

 

「オー…」

 

「あ、あのっ、司令!じゃあ本当にあの事も…覚えて「比叡ッ!」

 

「…?」

 

「ご、ごめんなさい、お姉さま。解ってはいるんです。でも、司令の顔を見るとやっぱり…」

 

「そんな事ある訳ないヨ。だってテイトクは…ん、んんっ!Sorry、ムード壊しちゃったネ~」

 

「…なぁ、金剛。何か隠してないか?もしかして私は何かヘマをやらかしたんじゃ…」

 

「アー…ヘマをしたのはワタシ達と言うか…その…」

 

「何があったんだ?思い出すかもしれないから教えてくれないか?」

 

「え、エーット、その…テ、テイトクッ!これを食べてみてッ!」

 

これは…ポテトサラダか。そういえばまだ手を付けてないな…何故だろう?

 

「これがどうかしたのか?」

 

「食べてみれば…何か思い出すかもしれないヨ!」

 

「あ、あぁ…」

 

これを食べれば何かあるのか?もしや昔の私が好物だったとか。

 

「…ブッ!」

 

「あっ!テイトクッ!」

 

「司令ッ!」

 

な、何だ?これ、サラダだよな?何でこんなに辛いんだ?か、辛いと言うか苦いッ!

 

「ま、まさか隠してる事って…これ?」

 

「sorry…実はそれ、比叡が作ったの…ワタシは止めたんだケド…」

 

「し、司令、酷いですよ!私が二週間も掛けて考えた『胃に優しい&気合いサラダ』ですよ?」

 

い、胃に優しい?気合い?サラダなのに…?

 

「そ、そもそも何でサラダが辛いんだ」

 

「え?せっかくだから隠し味にタバスコをドバッと…」

 

「つ、次からはタバスコは控えてくれ」

 

「だから言ったデショ?唐辛子にした方がいいッテ」

 

何故、サラダに辛さを求める!?

 

「おかしいな~。榛名も霧島も姉さまらしいアグレッシブな味だって褒めてくれたのに」

 

アグレッシブ?サラダなのに?

 

「う~ん…あ、朝はさっぱりした物が食べたいかな」

 

「分かりました!じゃあ残りは夜持ってきます!」

 

まだあるの!?

 

「テイトク…Good Luck…」

 

え?こ、金剛?

それ…どういう意味…?

 

 

 

 

 

 

 

 

そ、そうか。

あのサラダに何故か手を付けなかったのは、本能が回避していたのか。きっと昔の私も比叡の料理に悶絶していたのかもしれない。

しかし金剛は普通に食べていた様な…。

やはり人と艦娘では味覚が違うのかもしれない。

でも…今夜もアレを食わなきゃいけないのか…。

…胃薬あったかな。

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい、お姉さま。どうでした?司令は何か…?」

 

「全然ダメネ~。霧島の言う通りだったヨ」

 

「そうですか…それは残念です」

 

「で、でも!例え昔の事を思い出さなくても提督は提督です!榛名は大丈夫です!」

 

「そうよ、それに司令、私のサラダもちゃんと食べてくれたのよ!」

 

「えっ!?」

 

「あ、あの…サラダを…ですか?」

 

「うん!まだ作り置きあるから、夜も持ってってあげようと思うんだ」

 

「司令…ご武運を…」

 

「勝利を…提督に…」

 

「あ、榛名達の分もあるから安心して♪」

 

「どうして…私の戦況分析が…!」

 

「榛名は…大丈夫じゃありません…」

 

 

 

 

 

 

 

『私は…どう思ってます?』

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

吹雪達を始め、鎮守府にいる皆の事や自分達のおかれている状況はほぼ完全に思いだした。

相変わらず彼女達と過ごした時間だけが、すっぽり抜け落ちてしまっている。時おり思い出す言葉はあるが、どれも断片的な物ばかり。

このまま永久に思い出せないのでは…。少し不安になっていた時だった。

いつもの様に何か思い出す切っ掛けはないかと資料を漁っていた時だった。

机の引き出しに一冊のノートが紛れていた。ひっそりと、まるで資料に隠れる様に。

 

〈これは…日記?〉

 

パラパラと捲ってみるとおそらく過去の私が付けたであろう日記らしかった。

ありがたい。自分が付けた物なら間違いはないだろう。少しでも何かを思い出すヒントになればと、私は日記を読んでみた。

 

 

 

 

 

 

 

『○月×日

『今日から確認の為に、この日記を付ける事にする。

昨日、僕は二週間振りに目を覚ました。だが、おかしな事にその前の事を覚えていない。』

 

『○月▲日

僕はこの鎮守府で提督という立場だと吹雪ちゃんや長門さんから聞かされた。

彼女達の言う通り皆の指揮を統る事になったが、何が何だかさっぱりだ。』

 

『○月□日

僕の作戦がまずかったのか、戦いは負けた。』

 

『○月●日

今回も負けた。皆の僕を見る目が心なしかキツい気がする。吹雪ちゃんは僕を励ましてくれたが、誰の目から見ても僕の原因なのは明らかだ。』

 

『○月◇日

長門さんの妹の陸奥さんが沈んでしまった。その事で長門さんと少し口論になった。仕方ないじゃないか。僕は何も覚えていないんだ。それでも皆がやれと言うからやっているんだ。僕にどうしろって言うんだ。』

 

『○月△日

また轟沈を出した。吹雪ちゃんや金剛さんは僕を庇ってくれるが、皆、僕に不満を言っている。

もう嫌だ。僕は何も悪くない。そんなに不満なら新しい提督とやらを呼べばいいじゃないか。

そうだ、その方が良い。僕なんかがここにいるべきじゃないんだ。』

 

 

 

 

 

…どういう事だ?

この日記を付けた過去の私は今の私とそっくりだ。何故、この私も何も覚えていないんだ?

それに、この日記に書かれている事が本当なら長門や皆は私を憎んでいるんじゃないのか?

とてもそうは見えないが…。

 

もう少し読んでみよう。日付が少し飛んでいる様だが…。

 

 

 

 

 

 

『△月●日

頭はまだ痛いが吹雪や金剛が私を助けてくれる。特に金剛は熱心に私に付き添ってくれる。』

 

『△月△日

金剛の妹の比叡が料理を作ってくれた。辛かった。もしかして私は嫌われているのだろうか。』

 

比叡…この頃から変わってないのか。

 

『△月□日

最近、比叡とよく話す。彼女も金剛の前ではあまり話さないが、二人きりだとよく喋る。それに彼女の料理も慣れてくると美味しく感じる様になった。』

 

う~ん…これには同意しかねるな。

 

『△月◇日

比叡と話せば話す程、彼女の魅力が伝わってくる。姉の金剛の事しか考えていないのかと思ったが、色々な事を考えているみたいだ。姉妹の事、仲間の事、そして私の事も…』

 

『△月●日

比叡に私の事をどう思っているか聞いてみた。以前なら私には金剛お姉さまが、の一点張りだったが、最近はそうでもない。彼女も私に会うのを楽しみにしていると言ってくれた。』

 

 

 

 

 

 

…以前の私は比叡が好きだったのか。

たしかにさっぱりして良い奴だとは思うが。

日記はこのページで終わりかな…まだあるな。

 

 

 

 

 

 

『□月〇日

…どいつもこいつも忌々しい。

艦娘は俺の言う事を聞く人形に過ぎない。黙って言う事を聞いていれば良いものを。』

 

…何だ?

比叡の辺りでも妙だとは思ったが、日付が飛ぶと性格まで変わっている。

それに、この私は今までと違って酷く粗野な気がする。

 

『□月△日

相変わらず吹雪がうるさい。二言目には前の司令官ならと、文句を言ってくる。前の司令官がどんな奴かなんて関係ない。』

 

『□月◇日

文句があるなら睦月を解体すると言うと、吹雪は大人しくなった。』

 

『□月●日

吹雪が出払っている間に睦月を解体した。帰って来た時、どんな顔をするか見物だ。

…だが明石がすんなり受け入れたのは意外だった。仲間を解体するんだ、文句の一つも言ってくるだろうと思っていたのに。』

 

『□月▲日

睦月が解体された事を知った吹雪は泣いてしまった。これで吹雪も少しは懲りただろう。』

 

『□月□日

吹雪は俺の事を恨んでいると思ったが、次の日にはケロッとしていた。それどころか以前よりも俺になついている気がする。何を考えてるんだ?

吹雪だけじゃない。長門も金剛も…。俺が憎くないのだろうか?不気味でしょうがない。』

 

 

 

 

 

 

 

…この私は随分と酷い奴だったらしい。覚えてはいない事とはいえ吹雪には悪い事をしてしまった。

だが…日記にも書かれていたが、もしこれが本当なら長門や吹雪は私が憎くないのだろうか。そんな素振りは見せないが…。

まだ日記は…少し残っているな。だが正直見たくはないのが本音だな。知れば知る程、昔の自分に嫌気が差してくる。

日記に書かれていた事が本当かも気になるが。

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、比叡。吹雪を見なかったかい?」

 

「吹雪ちゃんですか?今日は見てませんが…どうかしたんですか?」

 

「い、いや、そうじゃないんだが…そうだ比叡、一つ確認したいんだが…」

 

「はい…?」

 

「もし私が昔の事を覚えているとしたら…」

 

「え…し、司令?」

 

「昔…君に言った事を覚えているとしたら…」

 

「…ッ!」

 

「あ、比叡!」

 

何故か青ざめ、私から逃げる様に行ってしまった比叡を追いかけようか迷ったが…。

やはり何かを隠してるのは間違いないな。

 

「うん?比叡の奴どうしたのだ、あんなに慌てて」

 

「な、長門…」

 

「ちょうど良かった。提督に用があってな」

 

「…私も君に話したい事がある。執務室まで来てくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは本当か!?」

 

「ああ。全てじゃないが思い出したんだ。長門には悪い事をしたな。私が至らない所為で妹の陸奥を沈める羽目になって…」

 

「…全くだ」

 

「な、長門…?」

 

「何故あんな指示を…ッ!」

 

「お、おい」

 

「陸奥は…アイツは私の可愛い妹だった!この世でたった一人の同じ長門型だったんだ!アイツは私を庇って沈んだんだ!

 

「それもこれもキサマがッ!キサマがあんな事になるからッ!!」

 

「ま、待ってくれ!確かにそれは俺の所為かもしれないが…」

 

「…少し取り乱したな、すまない。だが安心しろ。別に私はキサマを恨んではいない」

 

「…?」

 

「そうだろう?キサマはちゃんと帰って来てくれたじゃないか。そうだ、提督よ、キサマはここで私と共に戦い続けるのだ。陸奥もそれを望んでいるはずだ。

 

「…よもや嫌とは言うまい?」

 

「な、長門…」

 

「…だが妙だな。今のキサマがどうして陸奥の事を知って…」

 

「そ、それは…」

 

「まあいい。提督よ、これからもよろしく頼むぞ。大丈夫だ、他の者が何と言おうと、この長門が付いている」

 

「あ、ああ…」

 

 

 

どういう事だ?

あの日記を読んで少し試すつもりで聞いてみたが…。やはり長門は私の過去を隠している。私を傷付けない為だろうか?

だがそれなら何故、以前の私に起きたであろう怪我の事も隠してるのだろうか。

 

「…テイトク」

 

「こ、金剛?ど、どうしたんだ?」

 

「ア~…長門の声が廊下にまで聞こえたケド…ケンカでもしたノ?」

 

「ち、違うんだ、少し口論になっただけで…」

 

「フ~ン…それって比叡にも関係あるコト?」

 

「比叡?比叡が何か言ったのか?」

 

「ウン…昔の事を思い出したッテ。でも、ソレって…嘘だよネ?」

 

「…何でそう思うんだい?それに昔の事を思い出した方が金剛達もいいんじゃなかったのか?」

 

「思い出してくれるのは嬉しいヨ。でも、そっちの事は覚えてる筈ないッテ、ブッキーが言ってたヨ」

 

「吹雪が?」

 

「ウン。じゃあテイトク、試しにその覚えてるコト、言ってミテ?」

 

「あ、あぁ。そ、その…昔の私が比叡を気になっていたり…」

 

「オ~!本当に覚えてるんデスネ!…じゃあ答えて下サイ。どうして比叡を選んだノ?」

 

「そ、それは…」

 

「昔テイトク、ワタシに言いましタ。ワタシとケッコンしたいッテ…なのに…どうして?ネェ、テイトク…答エテ?どうして…

 

「どうしてワタシじゃなかったノ!!」

 

「こ、金剛ッ!」

 

「嘘ツキッ!嘘ツキッ!ワタシが比叡に負ける筈がナイッ!テイトクはワタシの方が好きなンデショ!ネェ!そうだっテ言ってヨッ!!」

 

「お、落ち着いてくれ金剛!」

 

「フーッ…sorry。少しexciteしちゃったネ。少し頭を冷やしてキマ~ス。

 

「…でもネ、テイトク。もし本当に思い出してるナラ…ブッキーにはその事、言わない方がイイヨ」

 

「ふ、吹雪に…?」

 

「だってブッキーは…何でもないデス、see you」

 

「…」

 

 

 

 

吹雪が…吹雪が何か知ってるのだろうか。

だが、もしかして吹雪も長門や金剛みたいに、私が思い出したと知ったら興奮してしまうんじゃないだろうか。

吹雪にも少し聞いてみたい気はあるが…嘘を付かずに正直に聞いてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「し、司令官、金剛さんに聞きましたが思い出したというのは本当でしょうか?」

 

「…それなんだが。吹雪、実は嘘なんだ」

 

「え?じ、じゃあどうして昔の事を知って…」

 

「それは…これだ」

 

「これは…日記?」

 

「あぁ。どうやら昔の私が付けていたらしい。それを読んで昔の私がどんなに酷い奴か解ったよ」

 

「そ、そんな!司令官は何も悪くありません!」

 

「だが、この日記が本当なら睦月を解体したのは私だ。覚えてないとはいえ、恨まれても仕方ない。すまなかった」

 

「そんな…そんな事はありません。だって…あの司令官は…」

 

「金剛も似た様な事を言っていた…吹雪、何か隠してるんじゃないのか?」

 

「そ、それは…その…」

 

「頼む、吹雪、君の知ってる事を教えてくれ」

 

「…分かりました」

 

「吹雪…」

 

「その前に…私にもその日記、見せてもらえませんか?」

 

「…ああ」

 

吹雪は日記を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪は私が手渡した日記を驚きながら読んでいた。まるで初めて日記を読んだ私の様に。特に最後のページの辺りで、手が震えているのが分かる程、驚いていた。

…最後のページは、そういえばまだ目を通してないな。

 

「…司令官、この日記…もう全部読んだんですか?」

 

「いや…途中で読むのが嫌になってしまって。何か書いてあったかい?」

 

「い、いえ…そういう訳じゃないんですが…」

 

「その日記で幾つか気になる所があるんだが…昔の私も怪我で二週間眠っていたと書いてあるが、何か怪我でもしたのか?」

 

「そ、それは…最初に言った通り、司令官は頭を打って…」

 

「それは今の私だろう?私は二回も怪我をしたのか?それに長門や金剛は私がその事を覚えてる訳がないと…それは一体どういう事なんだ?」

 

「覚えてる訳がないと言ったのは当然です…。だって司令官は…

 

「一度、死んでるんですから…」

 

「…な、何?」

 

「あの日、司令官は戦闘に巻き込まれて一度死んでしまったんです。長門さんや金剛さんはもちろん、私もとても悲しみました。

 

「そんな時、明石さんから提督を生き返らせる事が出来ると言われました。

 

「高速修復材の応用とか…私にはよく解りませんが、そのお陰で司令官は今こうしているんです」

 

「…」

 

…死んだ?

私は…既に一度…死んでいる?

そ、そんな馬鹿な。

それを蘇らせた?そんな事が可能なのか?

だが、現に私は今こうしてここに…。

じ、じゃあ私は…。

 

「そ、それともう一つ妙な事があるんだ。日記の私は、まるで別人が書いた様に性格が変わっている。これについては…」

 

「それは簡単です。日記を書いてる司令官は…全部で三人いるからです」

 

「な、何だって…?」

 

「司令官…あなたは四人目なんです」

 

「…」

 

「明石さんは言ってました。死んだ司令官の身体の一部を使って新しい司令官を造ってると。今まで三回…いえ、今の司令官で四回、新しい司令官を造りました」

 

まさか…

私が過去の事を思い出せないのは…新しく造られたから…。

最初から過去が無かったからなのか…?

僅かに思い出す記憶は…最初の私の記憶だったのか?

だから、それ以外の…私の前の三人の記憶は無いのか?

長門や金剛が覚えている筈がないと言ったのは、そういう意味だったのか…?

 

だが、ちょっと待て…。

となると、一つ大きな疑問が沸いてくる。

私の前に三人いた…。

だが、今ここには私しかいない…。

 

「ち、ちょっと待ってくれ吹雪。私の前に三人、造ったんだよな?その三人は…今、どこに…」

 

「…殺されました」

 

「…え?」

 

「失敗作だからと…長門さん達に殺されました!」

 

「な…」

 

「日記を見たなら解ると思いますが…一人目の司令官は、優しい人でしたが何も覚えていませんでした。妹の陸奥さんを失った長門さんが司令官を…

 

「二人目は…僅かに昔の事を覚えていましたが…比叡さんを好きになってしまい、怒った金剛さんが…

 

「三人目は…とても酷い人でした。私や皆も何度殴られたか分かりません。最後は明石さんに…」

 

「そんな事が…」

 

「司令官…私と…私と逃げませんか?」

 

「何…?」

 

「ここに居たら、また殺されるかもしれません。だったら何もかも捨てて、私と逃げましょう!誰も知らない場所で、二人で暮らしましょう!」

 

「待ってくれ…気持ちは嬉しいが、どうしてそんな事を…君だって睦月や夕立を失って、私を恨んでるんじゃないのか?」

 

「それは今の司令官の所為じゃありません。それに…もう嫌なんです。司令官が殺されるのを見るのは!」

 

…確かに、吹雪の提案が一番正しいのかもしれない。

もし吹雪の言う事が本当なら、また何かのきっかけで処分されるかもしれない。

それに日記の私も、吹雪だけが自分に優しいと書いていたな。

いつ殺されるかもと怯えながら、ここにいるよりは…吹雪の言う通り、誰も知らない所に逃げた方が…。

 

「…分かった。吹雪…今夜、ここを出よう」

 

「…司令官!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?長門さんに金剛さん。工廠に来るなんて珍しいですね」

 

「明石、少し聞きたい事があるんだ」

 

「はぁ…そういえば吹雪ちゃんに頼まれた事、始めちゃっていいんですか?」

 

「What?何を頼まれたンデスか?」

 

「え?金剛さん達が決めたんじゃ…ないんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの行動は早かった。

私は仕事を早めに切り上げると、ありったけの現金を持ち、闇夜に紛れて鎮守府を出た。長門や金剛に出くわさないか心配だったが、こんな時間に出歩いている者はいない。

吹雪と落ち合う予定の港へ来ると、物陰に隠れていた吹雪が顔を出した。

 

「司令官!」

 

「ふ、吹雪。良かった、無事来れた様だな。で、どうやって逃げるんだ?」

 

「そこにボートが用意してあります。海に出てしまえば、どこに逃げたかは誰にも判りません。とにかく海に出て、それから考えましょう」

 

「そ、そうだな」

 

このボートに乗ってしまえば、もうこの鎮守府ともオサラバか。

長門、金剛…。

悪い奴らではなかったと思うが、あんな事を聞かされては、もう一緒にいられない。

しかし、かわいそうなのは吹雪だ。

あれからずっと考えていたが、やはり吹雪を巻き込んでいいものだろうか。

何があったにせよ、吹雪は艦娘だ。仲間のいるこの鎮守府が一番なんじゃないだろうか?

それを私の我が儘に付き合わせていいのだろうか。

やはり吹雪は…

 

「なぁ、吹雪…私からも一つ提案がある。君はここに残るべきだと思うんだ」

 

「え…ど、どうしたんですか急に…」

 

「私も考えたんだが…こんな事で仲間を裏切る事はないと思ったんだ」

 

「そ、そんな事気にしないで下さい!」

 

「そうはいかない。考えたんだが…この脱出は私が勝手にやった事にするんだ。君はそれに気付いて長門達に私が逃げたと伝えればいい。そうすれば君は裏切ったとは思われないだろう」

 

「…どうしてですか?」

 

「…吹雪?」

 

「私、何か気に障る事しましたか?もしそうなら言って下さい。ちゃんと直します!司令官がやれと言うなら何だってやります!だから…私も連れてって下さいッ!」

 

「吹雪…気持ちは嬉しいが、やはり君は艦娘だ。ここに残るべきだよ」

 

「…」

 

「俺の事はどうとでもなるさ。君の事は絶対忘れないよ」

 

「…分かりました。私はここに残ります」

 

「あぁ、色々とあり「そして五人目を造ります」

 

「…え?」

 

「今度は…今度こそは成功だと思ったのに…今度こそは私と一緒になってくれるって信じてたのにッ…!」

 

「ふ、吹雪…?」

 

「そう思ったから三人も殺したのに…また最後の最後で私を裏切るんですか…!」

 

「殺した…?前の私は長門達が殺したんじゃ…」

 

「長門さん達は中身は違っても司令官には変わらないって言ってましたけど…私に言わせれば只の失敗作です。

 

「私を選ばない司令官なんて要りませんよ…」

 

「な、何だって…」

 

「そしてアナタもね…さようなら、偽物さん」

 

「吹雪、早まるな!」

 

「Wait!ブッキー待つネ!!」

 

聞き慣れた声に振り向くと、長門と金剛の二人が物陰から姿を現した。

だが次に吹雪を見ると、彼女の手にはいつの間にか艤装が…手に握られた連装砲が私を捉えていた。

 

「ふぶ…!」

 

私の言葉を書き消す砲撃音と共に、私の体は木っ端微塵になったボートごと宙に飛ばされていた。

海に落ちた私の視界に、吹雪と彼女に駆け寄る長門と金剛が写った。

長門と金剛は吹雪に何かを言っている様だったが、当の吹雪はまるで表情を変えず立ち尽くしていた。

以前の私達も、こうやって吹雪に殺されたのだろうか。

薄れ行く意識の中で、一瞬吹雪と目が合った気がした。だが、彼女の瞳に以前の光は無く、まるで深海棲艦でも見る様な目付きで私を睨んでいた。

…それが、私が最後に見た物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、吹雪…何て事を…」

 

「ブッキー…アナタ、crazyネ!」

 

「…お二人が隠れている事は知ってましたが、どうして黙って見ていたんです?」

 

「そ、それは…」

 

「本当は二人共、私がいなくなるのが嬉しかったんじゃないですか?」

 

「そ、そんなコト…」

 

「あぁ、一応伝えておきますね。司令官が記憶を取り戻したって言うのは嘘です。この日記を読んで私達を試したみたいです」

 

「日記…?こんな物が…」

 

「でもおかしいと思ったんです。もし日記を全部読んだのなら私に尋ねる筈はないと。だから聞いてみたんです、最後まで読んだのかと」

 

「最後のページ…oh!」

 

「司令官はそこまでは読まなかった様です。だから私は二人で逃げようと誘ったんです。お二人には悪いと思ったので、明石さんに五人目を造る準備をお願いしておきました」

 

「ふ、吹雪…お前、提督を殺して何とも思わないのか?」

 

「ふふっ♪それはお二人もでしょ?」

 

「…why?」

 

「だって私が司令官を処分しましょうと言った時、二人共、私を止めなかったじゃないですか」

 

「そ、それは…」

 

「長門さんは陸奥さんを失った事を、金剛さんは比叡さんに司令官を取られた事を恨んでいた。だから私が造り直そうと言っても止めなかった。そうですよね?」

 

「…」

 

「勝手に鎮守府から逃げようとした事は謝ります。でも、その必要もなくなりました。さ、早く鎮守府に戻りましょう。そして造りましょう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新しい司令官を…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『□月×日

万が一の事を考え、この日記に全てを記す。

これを読んでいるという事は、俺はもう殺されたという事だろう。

どうして自分の記憶が無いのか不思議がっているかもしれない。だが、それも当然だ。

何故なら俺たちは最初の自分の複製だからだ。

 

睦月の解体に明石の工廠を訪れた俺は、そこで恐ろしい物を見た。

水槽に入った上半身しかない男の遺体。だか、その顔は紛れもない自分自身だったからだ。俺は何故、自分がもう一人いるのか明石を締め上げた。

明石が言うには本当の俺は既に死んでいるそうだ。

ならここにいる俺は誰なのか?明石は全てを教えてくれた。

俺はその遺体の一部から造った複製だという事。俺が三人目の複製だという事…。

前任の二人はどこにいるのか尋ねると、全て吹雪に殺されたそうだ。

これを読んでいる次の自分よ、悪い事は言わない、今すぐここから逃げろ。でなければ、いつ吹雪に処分されるか分からない。

 

この日記を読んだ次の自分が、俺と同じ末路にならない事を心から願う。

これから生まれてくるであろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『二週間後の 君へ』

 




前回は吹雪と無理心中でしたが、今回は提督だけ殺しちゃうオチに変更しました。この方が吹雪の怖さが引き立つかなと思いまして。





艦娘型録

提督 途中までは良かったんです。そう、途中までは…。最後で吹雪連れて行くの面倒だと思ったのが良くなかったんです。吹雪連れてくって言ってれば今頃は…。

吹雪 今回は上手くいくと思ったんだけど…。途中まで完璧だったし。まぁいいや、次行ってみよ~!

長門 吹雪って…こんな怖い奴だったっけ?フ、フフ…怖いぞ。陸奥、戻って来てくれ。わ、私一人じゃ…。

金剛 相変わらずブッキーはcrazyデ~ス!殺したら、また最初からやり直さないといけまセ~ン。でも、次こそは…。

比叡 あれ?お姉さま、昨晩どこへ行ってたんです?それに司令もいないみたいですけど…もしかして、また夜逃げしたんですか?

明石 みんな簡単に言うけどさ、結構大変なのよ?複製造るのって。それをホイホイ簡単に処分しちゃって。そりゃ、うっかり喋っちゃったのは反省してますけど…。

白雪 叢雲ちゃんの服、胸ブカブカだねって。

叢雲 はあっ!?
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