艦娘症候群   作:昼間ネル

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そうです、あの人が私の畏敬する提督なのです




さよならを言わせて

ねぇ、覚えてる?

あたしと初めて会った時の事。

鎮守府に来たあんたの事、提督って知らなくってさぁ。まだ昨日の酒が抜けてなくて、ちょっと恥ずかしい所見られちゃったねぇ。

 

『ここの艦娘かい?執務室に案内してほしいんだけど』

 

『へ?いいけど…まさか、今日来る提督さんって…!?』

 

『今日からよろしく。君、名前は?』

 

『し、失礼しました!私は飛鷹型二番…ヴェ~ッ』

 

『お、おいっ!誰かいないかっ!』

 

変な所見られちゃったねぇ。(ついでに変な物も)

でも、あんたも人が悪いよ。来るなら来るって…

へ?皆知ってた?ま、まぁいいじゃないか、過ぎた事はさ。

 

 

 

『ウチは龍驤型一番艦、龍驤(りゅうじょう)や。よろしゅうな』

 

『ち~ッス!最上型三番艦の鈴谷(すずや)でっす』

 

『もう鈴谷ったら…わたくしは同じ最上型四番艦の重巡、熊野(くまの)ですわ!』

 

『飛鷹型一番艦の飛鷹(ひよう)です。で、隣が…』

 

『飛鷹型二番艦の…な、何だよ飛鷹その目は。大丈夫だよ、今日はシラフだからさぁ!』

 

『自分、何かあったん?』

 

『ハァ…この娘ったら提督さんの前で盛大に戻したらしくて…』

 

『『『うわ~…』』』

 

『な、何だよっ!たまたまだよっ。てっきり憲兵かと思ってただけで』

 

『いや、憲兵だから吐いてもいいってわけじゃないやろ…』

 

『だ、大丈夫だよ!そりゃ靴に引っ掛かったかもしれないけど…先っちょだけ!先っちょだけだから!!』

 

(な、何かイヤらしい話に聞こえるのは何故かしら///)

 

『どうしたの熊野。顔が赤いよ。ニヒヒッ♪』

 

『な、何を言ってるんですの鈴谷ったら!』

 

『アハハ…まぁウチらこれでも頼りになるんよ。これからよろしゅうな提督さん』

 

『…で、名前は?』

 

『名前?』

 

『君の妹さんの名前』

 

嘔吐(おうと)空母の隼鷹(じゅんよう)や』

 

『だ、誰が嘔吐空母だ、この貧乳空母!』

 

『ひ、貧にゅ…!おうコラァ!自分、言うて良い事と悪い事あるやろ!?』

 

『おまえが言うな、この駆逐艦体型が!』

 

『やるんか!?『やらいでか!!』

 

『そこまで』

 

『痛たたっ!飛鷹、耳引っ張るなや!』

 

『ちょっ、飛鷹っ!あたし悪くないじゃん!』

 

 

 

アハハッ。第一印象は最悪だったねぇ。あの後、飛鷹にも小言言われたし、反省してるよ。

でも、あんたはそんな事気にしてない、今度一緒に飲もうって言ってくれて、あたしも話の分かる奴だって思ったよ。

早速その日の晩、歓迎会も兼ねて鳳翔んとこで飲んだよねぇ。覚えてる?

 

『…でな、鳳翔。隼鷹の奴、この人が提督とは知らずに目の前で吐いたんやと』

 

『まぁ!そ、それは…災難でしたね』

 

『ち、違うんだよ鳳翔さんよぉ!龍驤、あんた黙ってるって言ったろ!?』

 

『どうせバレるやん。大丈夫や、提督さんに引っ掛けた事は内緒にしといたる『おもいっきり言ってるじゃねーか!』

 

『…』

 

『提督さんも何か言ってやってくれよ、このまな板艦に』

 

『誰がまな板艦や、このアル中空母!ウチはまだ成長期なんや!伸びシロはある!そやろ鳳翔?』

 

『え、えぇ…その…』

 

『何で目ぇ()らすん!?』

 

『提督はあたしみたいな大人の女が好きだってさ♪なぁ提督』

 

『こ、こら隼鷹。胸を押し…付け…///』

 

『提督さん、顔ニヤケとるで…』

 

『…(モミッ)』

 

『大丈夫だって飛鷹。あんたも大きい方だって。誰かさんと違って♪』

 

『誰かさんって誰や!』

 

『…(ニヤッ)』

 

『笑ったな!?今、ウチ見て笑ったやろ?』

 

『まぁまぁ龍驤さん、これでも食べれば少しは大きく…アラいやだ、私ったら!』

 

『鳳翔、オマエもか!?』

 

 

 

あの時は楽しかったねぇ。結局みんな酔い潰れて。

知ってる?酔ったあんたを執務室まで運んだのあたしなんだよ。知らなかったろ。

あの程度で潰れるなんてだらしないねぇって思ったけど、そんなになるまで付き合ってくれて嬉しかったよ。

思えばその時からかねぇ。…あんたの事、意識し出したのは。

でも、最近のあんたは…少し変わっちまったよ。どうしたんだい?

何かあったんなら言ってごらんよ。

 

 

 

 

 

 

 

「…以上が今回の作戦だ。今回はあくまで偵察が目的だ。深追いはしない様に」

 

提督の指示の下、執務室に集まった艦娘達は散会する。その中に一人残る影に提督は気付いた。

 

「…隼鷹、どうしたんだ。何か分からない事でもあったか?」

 

「い、いやそうじゃなくってさ。ただ…」

 

隼鷹は照れた様に下を向いた。

 

「最近あんたと飲んでないから、たまには…って思ってさ」

 

提督は何も言わず隼鷹から目を反らした。

 

「あっ、ごめんよ、こんな時にさ!そっ、そうだよね、今はそんな事言ってる場合じゃないよね…ごめんよ」

 

「…今回の件が一段落したら、付き合うよ」

 

「ほ、ホントかい!?約束だよ!」

 

「あぁ。だからおまえも」

 

「あっ、ああ!そうだったね。じゃああたしも行くよ。楽しみにしてるからね♪」

 

さっきまでの沈んだ表情はどこへやら、隼鷹は踊る様に執務室を後にした。

 

「きゃっ!危ないわねぇ…隼鷹の奴、どうしたの?」

 

隼鷹と入れ替わる様に飛鷹が入って来た。

 

「飲みに誘われただけだよ」

 

「…そう。そう言えば私達とは」

 

「俺と飲むのは、な」

 

「…そうね。あ、それはそうと…こ、この間の話なんだけど…」

 

 

 

 

 

 

ねぇ、覚えてる?

あんたとも週に一度は鳳翔んトコで飲む様になってさ。

そんな時だったね。厄介な敵が現れてさ。あたしら空母組にも出番が回ってきてさ。

あたし、珍しく張り切ったんだ。

だって、そうだろう?

…あたしにだってプライドがあるからねぇ。

いつも飲んでるだけのただ飯喰い、なんて思われてると思ってたからさ。ここらで一丁活躍して、頼りになる所見せとこうと思ってさ。

 

『龍驤、飛鷹っ、そっち行ったよ!』

 

『おっしゃっ!任しときっ!!」

 

『発艦開始!逃がさないわっ!』

 

『…やったっ!敵さん逃げてくよっ!』

 

『いよっしゃ、よっしゃっ!ウチに掛かればこんなモンや!』

 

『…了解。作戦終了ですって。私達も帰投しましょ』

 

『いや~、やっぱシメはウチでないと駄目やな♪』

 

『はぁ~?何言ってるんだい。あたしの爆撃が決め手になったんだ。MVPは当然このあたしだよねぇ~』

 

『…誰かさんが撃ち洩らした敵をウチらが片付けたんや。感謝してもええんよ?』

 

『…せっかく来たんだ。少し位は、おこぼれあげないと誰かさんは拗ねちゃいそうだからねぇ♪』

 

『…言うやないか。あ、艦載機が戻ってきたで。気い付けや。その針ネズミみたいな頭に突き刺さっても知らんで』

 

『…あっ、あんたの艦載機が戻ってきたよ。早く巻物出して…って、代わりに平らな部分あるねぇ♪』

 

『ど、どこ見て言うてんねん!胸か?胸の事言うてんのか!?』

 

『そんな事言ってないだろぉ?まぁ、あたしは山が二つあるから無理かねぇ♪』

 

『九七式、ぶっ放してやりぃ!』

 

『来いよ龍驤、艤装なんか捨ててかかって来なよ♪』

 

『…全機爆装!!』

 

『ちょっ、飛鷹っ!』

 

『じょっ、冗談だって…装甲は止めっ…!』

 

『『ギャア~~ッッ!!』』

 

龍驤とは腐れ縁みたいなモンだからねぇ。あたしもついノッちゃうよ。そのせいでいつも姉貴を怒らせちまうけど。何も本気で攻撃する事は無いんじゃないかい?

え、あたしが悪い?

男がそんな細かい事気にすんじゃないよ。全く、だんだん姉貴に似てきたねぇ。

あっ、ひ、飛鷹には黙っといてくれよ!

 

 

 

『よくやった、皆。特に今回は龍驤達が制空圏を取った事が大きかったと聞く。ご苦労様』

 

『あぁ~、それなんやが…』

 

『うん?』

 

『隼鷹が最初に危険な役を買って出てくれたのが大きいんや。褒めるなら隼鷹、褒めたげてや』

 

『な、何言ってんだい!あんたも言ってたろ?あたしが撃ち漏らした敵を片付けたんだって!』

 

『ま、結果的にはそうやが、それもあんたの先制攻撃があればこそや。そやろ?飛鷹』

 

『…まぁね。今日の隼鷹はカッコ良かったわよ♪』

 

『姉貴…』

 

『じゃあ何で二人共、中破して『さ!二人共っ、入渠しましょうか!』

 

『ちょ、飛鷹、腕引っ張んなや!』

 

『わ、分かったって!黙っとくから、引っ張らないでってば!』

 

龍驤も、ああ見えていい所あるんだよ。あたしが背中預けられるのもあいつ位だよ。

え?どっちが背中か分からない?

フフッ、あんたも口が悪いねぇ。龍驤には黙っといてあげるよ。

 

…そんな龍驤とも最近は息が合わなくなってきてね。何でだろう。敵が強くなったのか、それとも…。

何と言うか、お互いの考えてる事が噛み合わなくなった、とでも言うのかねぇ。

 

 

 

 

 

「隼鷹、何ボサッとしてんねん!早く発艦しいや!」

 

龍驤の言葉に、隼鷹はここが戦場だと言う事を思い出した。

 

「…っ、ああ!ごめんっ!」

 

隼鷹は素早く巻物を広げた。やがて隼鷹が念を込めると艦載機が実体化する…筈だった。

ところがいつまで経っても艦載機は巻物から飛び立とうとはしない。

 

「…っ、何でっ!」

 

「隼鷹、あんたどうしたの!?」

 

「ひ、飛鷹姉っ。あたしにも分かんないだよ」

 

「隼鷹、あんたは下がっとき!飛鷹、頼む。ウチだけじゃ支えられへん!」

 

「分かったわ!」

 

龍驤の檄に、飛鷹が前に躍り出る。巻物を開こうとした飛鷹は、目を丸くして隼鷹の後ろを見た。

 

「隼鷹っ、危ないっ!」

 

「…えっ?」

 

飛鷹は振り替える隼鷹を突き飛ばした。

 

「きゃああーっ!」

 

飛鷹は敵艦載機の爆撃をまともに食らう形で吹き飛ばされた。

 

「飛鷹っ!」

 

「あ、姉貴っ!」

 

龍驤は自分の艦載機に迎撃を命じながら、飛鷹を庇う様に前に立った。

 

 

 

龍驤達のフォローで戦いは辛勝に終わったが、隼鷹の不調が戦局に少なからず影響を与えた事は、既に提督の知る所となっていた。

 

「報告を読んだが…隼鷹、やはり調子が悪いみたいだな」

 

「ご、ごめんよ。あたしにも分からないんだ。こんな事初めてで…」

 

「わ、私は大丈夫です。龍驤も庇ってくれましたから」

 

「提督、あんま責めんといてや。隼鷹は、その…まだ本調子じゃないんよ」

 

「そ、そんな事!あたしは…」

 

「隼鷹。少し休暇が必要なんじゃないか?」

 

「あ、あんたまでそんな事言うのかい!?」

 

「だが、次もまたこうならないとは限らない。…暫く編成からは外す事にする。飛鷹、龍驤、そのつもりで頼む」

 

「「…はい」」

 

「…ッ!」

 

隼鷹は何も言わずに執務室を飛び出して行った。残る飛鷹と龍驤は気まずそうに顔を見合わせた。

 

「提督、隼鷹の分は私が働きます。あまりあの子を責めないでやって下さい」

 

「うん、ウチも頑張るから…さっきも言ったけど、暫くすれば治ると思うんよ。せやから…」

 

「あぁ、その点は気にしてないよ。ただ、な…」

 

「ただ?」

 

「いつになったら俺を…」

 

 

 

 

 

どうしてこうなっちまったんだろうね。私もこんな事初めてだから、さっぱりだよ。

…何だか湿っぽい話になっちまったね。

あ、そうそう、あの時の事覚えてるかい?

そう、鈴谷と話した時だよ。

 

 

 

 

『おい隼鷹。前の報告書、いつになったら出すんだ?』

 

『あ、あれぇ?おっかしいな。飛鷹に渡しといたはずなんだけど』

 

『その飛鷹から本人に聞く様に言われたんだがな』

 

『くっ!先手を打たれたか』

 

『うぃーっス!』

 

『何だ鈴谷。どうかしたか?』

 

『ちょ、提督さん冷たくない?せっかく遊びに来てあげたのに』

 

『今それどころじゃないんでね』

 

『えぇ~っ、何で?あ、もしかしていい雰囲気だった?鈴谷お邪魔だった?』

 

『ち、違う!』

 

『…そんなムキになって否定しなくてもいいじゃんか。あたしと一緒にいるのがそんなに嫌かい?』

 

『…報告書を持ってきてくれれば好きになるかもな』

 

『水に流してくれれば、もっと好きになるかもよ♪』

 

『あっはははっ♪二人ともいいコンビじゃん。熊野にも教えたげよ~っと!』

 

『あ、おいっ!』

 

『何だい、そんなにあたしと噂になるのは嫌かい?…あたしは、そうでもないけど…ね』

 

『…色仕掛けでごまかされない様に、とも言われてるんだが』

 

『んもうっ!そんな事言わずにさ。ネッ?』

 

『何がネッだ。…頬を染めるな、上目遣いは止めろ!』

 

 

 

あの時は冗談でごまかしたけど、実はドキッとしたんだよ。鈴谷の一言。あたし達って周りからはそう見えるのかなって思って。

…そっからかねぇ。妙にあんたの事気にし出してさ。

わざと報告書出し忘れて、あんたと話す時間作ったりねぇ。そうでもしなきゃ、あんたから話してこないだろう。

もうちょっと乙女心を分かってくれよ。ニブいんだから。

あ、今笑わなかったかい?あたしには似合わないって思わなかったかい?

 

 

 

「そんな事言わずにさぁ~。ねっ?提督さんの、ちょっといいトコ見てみたいな♪」

 

提督と鈴谷が話していると、執務室のドアが開いた。

 

「あっ、取り込み中だったかい?」

 

「いや、大丈夫だ。何か用かい」

 

ドアを開けた隼鷹は一瞬、入室をためらったが提督へ紙の束を渡した。

 

「あぁこの前の報告書か。ありがとう、目を通しておくよ」

 

「…」

 

報告書を渡した隼鷹は、何故か何もいわずその場に立っていた。三人共喋らず、数秒の沈黙が支配した。

 

「あ~…す、鈴谷はこれで!じゃあね提督さん、ちゃんと考えといてね」

 

「あ、鈴谷」

 

沈黙に耐えきれなくなった鈴谷が、執務室を後にした。

 

「まったく…」

 

「何を話してたんだい?」

 

鈴谷を見送った提督に隼鷹が話しかけた。

 

「何って…。新しい装備のおねだりだよ。ただ鈴谷だけっていかないだろ?必然的に熊野にもって事になるから」

 

「…本当にそれだけかい?」

 

「それだけって…何を疑ってるんだ?」

 

「疑ってなんかいないよ…ただ、最近のあんた、ちょっと冷たいんじゃないかと思ってさ」

 

「そんな事ないだろう。ただおまえとは「嘘付かないでくれよ!」

 

隼鷹は顔を上げ、提督に叫んだ。その顔は怒っているというよりは、必死に泣くのを堪えている様だった。

 

「どうしてそんなに冷たいんだい?あたしが何かしたなら謝るから言っとくれよ!」

 

「隼鷹…」

 

「い、今は調子が悪いだけさ!すぐに良くなるよ!…それとも、こんなあたしは、もうお払い箱かい?」

 

「…そんなわけないだろ」

 

隼鷹は突然、提督に歩み寄ると提督の上着に手を掛けた。

 

「じ、隼鷹!何をっ!」

 

「もしかして寂しいのかい?そうなんだろ?だ、大丈夫だよ。そりゃあ上手くはないかもしれないけど…」

 

隼鷹は提督の手を押し退け、ズボンのベルトに手を掛ける。

 

「失礼します…って隼鷹!あんた何してんの!?」

 

隼鷹は執務室のドアを開けた飛鷹の声に振り返った。隼鷹の力が抜けた瞬間、提督は隼鷹を力一杯払いのけた。その力が強すぎたのか、隼鷹は受け身も取れず地面に転がった。

 

「あっ、す、すまない」

 

「提督、これは…」

 

「飛鷹、勘違いしないでくれ。君の考えてる様な事は何もない。本当だ」

 

「えっ、ええ…それは疑ってないけど…」

 

床に倒れた隼鷹はゆっくり顔を上げた。彼女の頬を一筋の涙が零れ落ちる。

 

「どうして…。どうしてあたしを拒むんだい。お願いだよ。あたしを…あたしを捨てないでおくれよ…」

 

「隼鷹…」

 

飛鷹は肩を貸し、隼鷹を立ち上がらせた。

 

 

 

 

 

この時はあたしも恥ずかしかったんだよ。

そうだろ?人間の男は、そ、その…そういう事したいんだろ?

もう!こんな事、女のあたしに言わせないどくれよ!

そう言えば、思い出したよ。

初めてあんたが、あたしを求めた日の事…。

 

 

 

『提督さんよ~。飲んでるかい?』

 

『背中を叩くな~。飲ん…でるよ…でも、これ旨いな』

 

『あら、本当ですわ!…白木久ですか』

 

『だろ~♪鳳翔さんが四越から提督の為に取り寄せたんだよ』

 

『うふふ、喜んで頂いて光栄です』

 

『あたしが酌してやってんだ。感謝しなよ』

 

『なぁんでオマエが偉そうなんだ~』

 

『おう、熊野!そんなちびちび飲むんじゃないよ!もっと、豪快に行きな!』

 

『わ、わたくしは提督さんと飲みに来たんですわ!隼鷹さんが居るなんて聞いてませんわ!』

 

『甘いよ熊non。光ある所に影がある。…酒ある所にあたし在りってなぁ!』

 

『人をどっかの絵描きみたいに…って、乗っからないで!お、重いっ。す、鈴谷ーっ!』

 

『…だからね?モガミンや、くまりんことデザインが違うのはそ~ゆうワケ。ちょっと鳳翔さん、聞いてるぅ?』

 

『はいはい、聞いてますよ(鈴谷型の話が始まったという事は…あと30分は語りそうね…)』

 

『全く、鈴谷は情けないねぇ、って、あんたドコ触ってんだい!?』

 

『おまえの髪型はどうなってんだぁ?針ネズミみたいな髪型しやがって~。悟○の兄貴かぁ?』

 

『し、知らないよぉ。生まれた時から…ひゃっ、引っ張んないでおくれよ!』

 

『提督さん、艦娘は髪型が生まれた時から変化しないんですよ』

 

『そうなんスか鳳翔しゃん…ってどっかで聞いた様な…』

 

『改二になると髪の色が金色に『どこの戦闘民族ぅ!?』

 

『そう言うあんたはどうなんだい?もっと伸ばしてもいいんじゃないかい?』

 

『下はボーボボだZE☆』

 

『し、下って…///』

 

『て、提督さん、酔っています?』

 

『酔いましぇ~ん。僕は酔いましぇ~んっ!』

 

『モガミンの事ですか~っ!?』

 

『あんたも酔ってるんかい!』

 

『疑ってんのくぁ?』

 

『…じゃあ、見しとくれよ///』

 

『ちょっ、隼鷹さんっ///』

 

『は、はしたないですわ!(えっ、え?本当に脱がすの?ちょっ、え?マジで?)』

 

『やっ、止めるぉ!ぶっ飛ばすぞ~』

 

『いいじゃんかオラァ~、見したきゃ見してみろよ~』

 

『パンツ下ろすな~、止めっ…あっ』

 

『『『…ひゃっ///』』』

 

『…鳳翔さん、聞いてるぅ?』

 

 

 

いや~、あんた意外と酒癖悪かったんだねぇ?もっと静かな男かと思ったら。びっくりしたよ。

…ま、まぁ?あたしらも、悪ノリしちまったけどさ?

で、でも…は、初めて見たよ///

熊野の奴も驚いてたっけ?鳳翔さんはそうでもなかった様な…。

で、結局あたしが介抱したんだよねぇ。

 

 

 

『提督さんよ~、悪かったって言ってんじゃんよ~』

 

『もうヤだ…提督お婿に行けない…家事手伝いもしなぁい!!』

 

『そ、そん時ゃあたしが貰ってやるからさ~』

 

『隼鷹さん。今日は提督さん、帰した方がいいんじゃ…』

 

『そうだね、あたしがおぶってくよ。ったく、しょうがないね~』

 

『…ウフフッ』

 

『何だい熊野、気持ち悪い』

 

『いえ、こうして見ると提督さんと隼鷹さん、まるで夫婦みたいだなって思いまして』

 

『よ、よしとくれよ///』

 

『じゃあ、提督さんはお任せしますわ。わたくしは鈴谷を連れて帰ります』

 

『えぇ。皆さん、また明日』

 

『ふふっ、隼鷹さん。くれぐれも送り狼になってはいけませんわよ♪』

 

『そりゃ男に言うセリフだろ?あたしに言うんじゃないよ!』

 

『ほら、鈴谷。起きてちょうだい!』

 

『…聞いてるぅ?』

 

 

 

 

 

ある日の早朝。

執務室の隣にある自室で提督は起床した。まだ寝惚け眼のまま背広に腕を通した提督は、執務室へのドアを開けようとした。

 

「うん?」

 

ドアが開かない事に気付いた提督は、そう言えば鍵をしていたなと鍵を差し込んだ。

カチャリと小さな音と共に提督はドアを開けようとしたが、思いきり顔をドアにぶつけた。

 

「痛っ!」

 

開けたはずのドアは開いておらず、まるで壁の様に動かなかった。

 

(…あ、…よう…たんだね)

 

「なっ!」

 

急にドアが軽くなったと思うと、ドアの向こうに座っていただろう隼鷹が、目を擦りながら、立ち上がった。

 

「じゅ、隼鷹!何でこんな所に!」

 

「ヒドいよ…あたしずっと待ってたんだよ。でも、あんた鍵閉めちまうから、仕方なく…」

 

「ま、まさか一晩中ここに居たのか?」

 

「そ、そうだよ。もう忘れちまったのかい?あんたとこうして過ごした時の事…」

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほら、あんたの部屋だよ』

 

『うぃ~。あれぇ、何れ俺の部屋に…。まさか、瞬間いろう?』

 

『何言ってんだい。あたしが運んでやったんだよ』

 

『隼鷹~。おまえイイ奴だな~。愛してるぞぉ』

 

『ね、寝惚けてんじゃないよ、全く…きゃあっ!』

 

『隼鷹~おまえ胸デカいな~♪』

 

『ちょっ、や、止めなって///終いにゃ怒る…ひゃんっ!』

 

『隼鷹~初めて会った時から、おまえとこうしたかったんだよ~』

 

『な、いきなり何言って…んん~っっ!!』

 

『…ぷはァ!酔ってるかもしれないけど、これは本気なんだよぉ』

 

『えっ、えぇっ!?』

 

『今日は帰さないぞ…。おまえは俺のモン…だ…』

 

『…本気…なのかい?』

 

『当たり前…だろぉ。ほ~しょ~さんでも、ず~やでもクマでもない。俺は…おまえが好きなんだよ』

 

『…いいの…かい?あたしで…』

 

『隼…鷹っ!!』

 

『…あっ』

 

 

 

全く、色気も何もあったもんじゃないよ。最低の告白だよ。

金剛じゃないけどさ、もう少しムードとか、考えて欲しかったよ…。

で、でも…あたし、そんな事言われたの初めてだから…。

嬉しかったよ…。

 

 

 

 

『…おはよう。目が覚めたかい?』

 

『…え?じゅん…えっ?』

 

『何、寝惚けてんだい?…あたしが隣に居るのが、そんなに不思議かい?』

 

『いや、その…隼鷹、俺、昨日おまえに…』

 

『き、気にしてないよ!昨日はあたしも酔ってたからねぇ。あたしは艦娘だけどさ、人間の男女には、その…よくある事なんだろ?』

 

『…すまん』

 

『あ、謝らないでおくれよ!あたしだって好きでもない奴と…そ、そんな事したりしないよ!』

 

『え、じゃあ俺の事…』

 

『ま、まぁ///…って、何言わせんだい!恥ずかしいね』

 

『…』

 

『だ、大丈夫だよ!別に責任取れだの、ケッコンしろだの言う気はないからさ…あたしも昨日の事は…忘れるよ』

 

『…いや、そんなの駄目だ』

 

『…えっ?』

 

『思い出したよ…確かに酔ってたかもしれないけど、昨日言った事は本当だ』

 

『か、からかわないでよ。本気にしちゃうじゃない…』

 

『からかってなんかない!改めて言うよ。隼鷹、俺、おまえの事が好きだ。

 

『将来、指輪を取り寄せられる様になったら…俺と…ケッコンしてくれ』

 

『…ほ…本気で…言ってるのかい?』

 

『ああ』

 

『でも…あたし…こんな飲んべえだよ?』

 

『…ああ』

 

『飛鷹にアルコール依存症のセミナー行けって言われて『やっぱ考え直していい?』えぇっ!?』

 

『嘘だよ。俺はありのままの隼鷹を好きになったんだ…その位、どうって事ないさ』

 

『…あんた』

 

『でも暫く禁酒な』

 

『そんなぁ!!』

 

 

 

 

 

 

あの時、あたし本当に嬉しかったよ。

今だから言うけどさ…あんたに押し倒された時も…実はちょっと嬉しかったんだよ。

あんたの事は気になってたし、まさかあんたの方から求めてくれるなんて…。

でも、あんたもあたしも酔ってたし…明日になれば、あんたも後悔するんじゃないかと思ってさ。

あたしはてっきり、鈴谷か熊野辺りが好きなんじゃないかって思ってたからさ。あの娘達の方が、あたしみたいなガサツな女と違って可愛いだろう?男はああいったのが好きなんじゃないかって思ってたからさ。

本当に…本当に嬉しかったよ。

誰かに必要とされる事が、こんなに嬉しいなんて…。

でも、どうしてだい?

どうして…

 

 

 

 

 

 

「部屋に戻るんだ、隼鷹」

 

「…えっ?」

 

提督の言葉を聞いた隼鷹は、まるで冗談は止めろとでも言わんばかりにおどけた笑いをしてみせた。

 

「…んもぅ、またそんな事言って♪いくらあたしでも、そろそろ怒る「帰るんだ隼鷹!今日は訓練にも出なくていい。龍驤達には俺から言っておく。怒鳴ったのは謝る。とにかく今日は戻れ」

 

「な、何で…何でそんな冷たい事を言うんだい!?いくらあんたでも言っていい事と悪い事があるだろう!!」

 

「隼鷹!いいから今日は帰るんだ!明日、時間を作る。その時ゆっくり話そう。だから今日は…」

 

「…誰なんだい?」

 

「じ、隼鷹?」

 

「誰か居るんだろう?あんたの部屋にさ!…だからあたしを部屋に入れたくないんだろう!?」

 

隼鷹は突如、鬼の様な形相になり、提督に掴み掛かった。

 

「うわっ!じ、隼鷹っ!!」

 

女にしては背は高めとはいえ、隼鷹は男の提督に比べればはるかに華奢な体格のはずだった。少なくとも提督は、今この瞬間までそう思っていた。

だが彼女もまた、艦娘なのだ。

日々、恐ろしい深海棲艦と互角に渡り合っている戦艦なのだ。その彼女が激情に身を任せた時の腕力は、人間の提督に容易に止められるものではなかった。

 

「ぐああっ!隼…鷹っ!止めるんだっ!」

 

「鈴谷かい?熊野かい?それとも龍驤の奴かい!?出て来なっ!あたしの大事な人をたぶらかしてっ。タダじゃおかないよっ!!」

 

「何事で…隼鷹さん!一体何を!?」

 

騒ぎを聞き付けたのか、執務室に飛び込んで来た大淀が提督と隼鷹を引き剥がそうと間に入った。

 

「隼鷹さんっ!提督に何をしているんですっ?離して下さいっ!」

 

「邪魔すんじゃないよ大淀!あんたには関係無いんだ、すっ込んでな!!」

 

「い、一体何を言ってるんですか!?どうしたんです隼鷹さんっ!相手は提督ですよ!!」

 

提督に掴み掛かる手を引き剥がそうとする大淀。そうはさせまいとする隼鷹。自分の肩の骨を砕かんばかりに力を込める隼鷹を、必死に振りほどこうとする提督。

その三竦みの均衡は、廊下に現れた二人によって崩れた。

 

「何事で…って、隼鷹さん?何をしてるんですの?」

 

「どうしたの熊野?えっ、隼鷹さんに…提督?やだっ、修羅場?」

 

鈴谷と熊野の顔を見た瞬間、隼鷹の手から力が抜けた。

 

「うおっ!」

 

「きゃあっ」

 

提督と大淀は互いにぶつかる様に、その場に尻餅を着いた。

 

「…あんたらじゃない…のかい」

 

隼鷹の目がいつもとは違う事に気付いた鈴谷と熊野は、少し怖じ気づいて後退りする。そんな二人を睨み付けていた隼鷹は、ハッと何かに気付いた様に提督へ向き直る。

 

「と言う事は…!」

 

隼鷹は尻餅を着いている提督の横を走り抜け、提督の私室へ飛び込んだ。

 

「ッ!」

 

だが、部屋には誰もいなかった。

 

「いい加減にしないか隼鷹!」

 

隼鷹の肩を掴んだ提督が、彼女を部屋から引っ張り出した。

 

「誰もいない!おまえの考えてる様な事はない。今日はもう戻るんだ!」

 

提督の言葉が聞こえていないのか、半ば茫然自失としている隼鷹は、フラフラとしながらその場を後にした。

 

「…悪い大淀。変な事に巻き込んで」

 

「いえ。ただ、隼鷹さんは暫くお休みした方が宜しいのでは」

 

「…」

 

大淀は外れた眼鏡を戻すと、提督の後ろへ視線を送る。

 

「それに…彼女に指輪を贈る事を隠していると、また今回の様な騒動が…」

 

「え?」

 

提督が振り向くと、そこには騒ぎを聞き付けたのか、一人の艦娘が立っていた。

 

 

 

 

 

 

「うん、何や?」

 

自室でくつろいでいた龍驤の頭に、どこから現れたのか、数人の小さな妖精が乗り掛かってきた。

 

「あれ?アンタら飛鷹の艦載機の…」

 

龍驤がおちょくる様に妖精の頬をつつくと、妖精は怒って彼女の顔に蹴りを入れた。

 

「った!何やの。冗談やん…え?そんな場合じゃない?そういや何でアンタらだけここに居るん?飛鷹は…」

 

 

 

 

 

 

ねえ、覚えてるかい?

出張で別の鎮守府に行く時、ケッコン指輪を持って帰るから待っててくれって、あんた言ったよね。

あたし、本当に嬉しかったんだ。

その…あんたを疑うつもりじゃないけどさ。

もしかしたら…心変わりしてるんじゃないかって。酔った勢いで言っちまっただけなんじゃないかって思ってたからさ。

ちゃんと…約束覚えていてくれたんだ。…本気なんだって、とっても嬉しかったんだ。

 

 

 

 

『じゃあ大淀、龍驤。頼むよ。明日の夜には戻れると思う』

 

『はい、お任せ下さい』

 

『提督さん、折角なんやし息抜きでもしてきたらどうや?どうせ今日は向こうに泊まるんやろ?』

 

『息抜きって…あくまで仕事だからな?』

 

『わ~ってるって。別に変な遊びしてるなんて思てへんよ♪』

 

『変な遊びって…えっ?ええっ///』

 

『お、おい!変な事言うな!』

 

『…ウチ、最近、日本酒に凝っててな』

 

『…何本か見繕ってくるよ』

 

『いや~悪いなぁ、急かしたみたいで♪』

 

『…じゃあ隼鷹。行ってくるよ』

 

『ねぇ、やっぱり途中まであたし達が護衛に付こうか?』

 

『大丈夫だよ。せいぜい二~三時間の距離だし。それにこの辺りはもう解放区域だ』

 

『でも…!』

 

『大丈夫やって隼鷹。この辺りの深海棲艦はウチらが絞めてやったから、大人しいもんや』

 

『あんたの乗る船の艦橋が、波浪で圧壊しやしないか心配だよ!』

 

『イヤミか、じぶんッッ!!』

 

 

 

 

あたし、あんたを笑顔で見送ったよね。

ふふっ、明日には帰ってくるのに、たった一日がまるで一年にも感じたよ。

やっぱり似合わないかい?こんな女々しい事言うの。

 

…次の日の昼だったかね。

大淀がとんでもない事言い出してさ。

 

 

 

 

 

 

『…なんや、今日の隼鷹、えらいご機嫌やな。何かあったん?』

 

『提督が帰ってくるからでしょ』

 

『え、それがどうしたん飛…あぁ、そう言う事か』

 

『ええ。でもびっくりしたわよ。まさか朝帰りした挙げ句、ケッコン申し込まれた~なんて。そりゃ隼鷹が幸せになるのは嬉しいけど…姉としては複雑な気分ね』

 

『フフッ、先越されてもうたなぁ♪』

 

『ちっ、違うわよっ///そんな意味で言ったんじゃないわよっ!そっ、それにそれを言ったら龍驤だって同じじゃない!』

 

『ふふっ、ウチはアテがあるからなぁ♪今から楽しみや』

 

『アテ?それって』

 

『た、大変ですっ!』

 

『なんや大淀、どないしたん?』

 

『て、提督が!提督の乗った船が深海棲艦にっ…!!』

 

『えっ!』

 

『なんやて!』

 

『…それ、本当かい?』

 

『じ、隼鷹。聞いて…たの?』

 

『大淀、提督の乗ってた船が…何だって?』

 

『…帰りの便に乗った提督の船が、恐らくはぐれ深海棲艦に襲われて…。向こうの鎮守府の艦娘が着いた時にはもう…』

 

『…』

 

『…プッ♪』

 

『じ、隼鷹?』

 

『あっはっは!驚いたよ大淀。あんたもっと堅物かと思ってたけど、冗談も言えるんだねぇ♪』

 

『え?』

 

『ちょ、ちょっと隼鷹っ…』

 

『じ、隼鷹さん、何を言ってるんですか?こんな事冗談で言えません!』

 

『はは~ん、分かったよ?ここに居る皆グルなんだろ?で、驚いたあたしの前に、もう帰って来てた提督が登場!そういう事かい?』

 

『そ、そんな事しません!』

 

『お、おい隼鷹。あんた…』

 

『提督さんよ!もしかしてドアの後ろにでも居るのかい?もうバレてるよ。出ておいでって♪

 

『あれ?おっかしいねぇ~。ドアの後ろじゃなかったのかい。あ、執務室で待ち構えてんのかい?

 

『それとも港の方かい?ふふっ、全く憎い事しちゃって。提督さん、どこなんだい?ねぇ、提督さんよぉ!』

 

 

 

 

全く、大淀も皆も人が悪いね。まさか龍驤や飛鷹の奴もグルだったなんて思わなかったよ。

ふふっ、もしかしてあたしに妬いてるのかねぇ。だとしたら、良い気分じゃないけど…悪くはないかもね。

結局、あんたはその日は帰って来なかったけど、ちゃんと帰って来た。

もう、皆なんだってあんな嘘付いたんだか。

あんたもあんただよ。

遅れるならそう言っとくれよ。

少し大淀の言う事信じちまったじゃないか。

 

 

 

 

 

『初めまして。今日からこの鎮守府の提督に着任する事になった。よろしく頼む。前の提督については本当に気の毒…』

 

『遅かったじゃないか!』

 

『ん?あぁすまない。少々、道が混んでいて』

 

『ちょ、ちょっと隼鷹!』

 

『ち、違うんよ提督さん。これはその…』

 

『一日で帰ってくるはずが一ヶ月も待たせて!何してたのさ。…まさか変な女に引っ掛かってたんじゃないだろうね?』

 

『な、何の話だ?君は…ここの艦娘の一人かい?』

 

『何だい?もしかして会わす顔が無いから、誤魔化そうとしてるのかい?ふふっ、もういいよ。今日はあんたの奢り、それでチャラにしてあげるよ。久しぶりに飲むよ♪』

 

『…すまない、見覚えが無いんだが。もしかして以前どこかで会った事が?』

 

『ち、違うんです提督。妹は少し勘違いをしてまして!』

 

『そ、そうなんや。ちょっと説明しときたい事あるから、顔貸してくれへん?』

 

『あ、あぁ』

 

『あ、ちょっと飛鷹、龍驤。提督をどこへ連れてくのさ!』

 

『龍驤、提督には私から話すわ。悪いけど隼鷹をお願い』

 

『あ、あぁ分かった。頼むわ』

 

『ちょっと、何二人でこそこそ…あっ、龍驤引っ張らないでおくれ。まだ話は終わって…』

 

『その前に飛鷹が用事あるんやと。ウチらは後で、な?』

 

『な、用事って何さ。離しとくれよ、もうっ!』

 

 

 

 

何なんだい、飛鷹も龍驤の奴も。

折角、一ヶ月振りで積もる話もあるってのに。

もしかして、痴話喧嘩すると思って引き剥がしたのかい?こんな所でおっ始めたりしないよ全く。

そりゃあ、一ヶ月も何やってたんだか気になるけどさ。ちゃんと帰って来てくれた。それに…。

夜は久しぶりに、二人で過ごしたいしさ…///

 

でも、そこからだよね。あんたが変わっちまったのは…。

その原因が、まさかアイツだったなんてねぇ…。

 

 

 

 

 

 

「提督、以前の…ケッコンのお話ですが…。今はお受けできません」

 

提督の机の上には小さな小箱が置かれていた。開かれた箱の中で、指輪が銀色の光を放っていた。

 

「そうか…いや、俺も悪かったよ。こんな時期に」

 

「て、提督は悪くありませんっ!…でも、今は隼鷹の側にいてやりたいんです」

 

飛鷹は申し訳なさそうに頭を上げた。

 

「もし、隼鷹が元に戻ったら、この指輪、喜んで受け取ります。だから…」

 

「そういう事だったのかい」

 

「!?」

 

「えっ、隼鷹?」

 

二人の後ろで執務室の扉がゆっくり、不吉な音を立てながら開いていく。扉が内側へ開かれると、そこには無表情の隼鷹が気配も無く立っていた。

 

「…飛鷹、まさかあんたに奪われるとは思わなかったよ」

 

「隼鷹、違うのっ!あたしの話を聞いてっ!」

 

「聞きたくないよ!泥棒猫の言い訳なんざっ!」

 

隼鷹は怯える飛鷹に、今にも飛び掛からんばかりの殺気を放つ。だが、二人の間に割って入る影があった。

 

「あ、あんた…」

 

提督が飛鷹の前に立ち、彼女を守る様に両手を広げる。

 

「隼鷹。俺は飛鷹にケッコンを申し込んだ」

 

「…何を…言ってるんだい?」

 

「その机にある指輪は、俺が飛鷹に贈った物だ。今は理由があって受け取れないが、いずれは彼女とケッコンするつもりだ」

 

「…嘘だろう?あたしを…からかってるんだろう?」

 

すっかり殺気が消え、意気消沈した隼鷹が提督の肩に掴み掛かった。

 

「冗談…だよね?その指輪は…あたしに贈るつもりだった。そうだろう?」

 

「…」

 

「…嘘だ。そんなの嘘だよ。嘘だ嘘だ嘘だ…」

 

「本当だ」

 

「飛鷹ッッ!!」

 

「ぐっ!じゅ、隼鷹っ!」

 

提督の肩を力無く掴んでいた隼鷹の手に、再び力が宿った。死んだ魚の様な目に再び光が宿り、目の前の姉を睨み付けた。自分の大事な人を奪った恋敵を。

 

「隼鷹。私を沈めたいならそうしてもいいわ。でもその前に聞いて頂戴。

 

「あの日…前の提督が亡くなった後、私と龍驤はここに居る提督に必死に懇願したわ。だってそうでしょ?もしあなたが普通じゃないと…戦えないとなれば、あなたはここに居られなくなるかもしれない。

 

「それだけならまだしも、役に立たなければ解体を命じられるかもしれない!だから、私と龍驤で必死に提督を説得したわ。あなたの分まで私達が働く、だから隼鷹が治るまで待ってほしいって…!

 

「あなたを助ける為なら、私は何だってするわ。だから私、この身体を使ってでも提督に懇願しようとしたわ。

 

「でも、この人はそんな弱味に漬け込む真似はしたくないからって、私には指一本触れなかった…一緒にあなたを治す方法も調べてくれた」

 

「…」

 

「最初は愛情なんて無かったわ。でも、そんな提督と過ごす内に…私の気持ちも傾いていったの。最初はあなたの延命の為だった…でも今は違う。私はこの人を愛してるの…あなたが前の提督にそうした様にね」

 

「…黙れ」

 

「隼鷹、私が憎いなら…私を沈めたいならそうしてもいい。それでもね隼鷹…私はあなたを愛してるわ」

 

「…黙れぇッ!」

 

叫びと共に隼鷹は左腕に巻物を開いた。彼女が念を込めると、そこに描かれた式神が見る見るうちに浮かび上がる。

 

「…提督、お気持ちに答える事が出来なくて申し訳ありません…隼鷹、先に逝ってるね」

 

「攻撃隊、目標…うっ、うううッ…!」

 

涙目の隼鷹が、実体化しつつある艦載機に目標を伝えようと飛鷹を睨み付けた、まさにその時だった。

執務室に黒い影が飛び込んで来ると同時に、機銃の音が鳴り響いた。

隼鷹の巻物は機銃掃射によって貫かれた。実体化しつつあった艦載機達は力を失い、まるで濁流の様に巻物へと戻ろうとする。だが、その巻物が粉々に弾け散ると戻る場所を失った艦載機達は火の塊となって粉々に爆散した。

 

「きゃあっ!」

 

「ああっ!」

 

「ひ、飛鷹っ、隼鷹っ!」

 

壁に頭を打ち付けその場に倒れ込む二人。提督は慌てて二人の下へと駆け寄った。二人とも気を失ってはいるが、目立った傷も無い。

 

「ふぅ~、間一髪やな」

 

執務室のドアの前に息も絶え絶えの龍驤が立っていた。

 

「りゅ、龍驤、今のはおまえが…?」

 

「せや。危なかったな提督さん。飛鷹は自分だけ轟沈するつもりだったんやろが、この距離じゃ提督さんも只じゃ済まなかったで」

 

龍驤は自分の頭上を旋回する艦載機を巻物に封印すると、隼鷹の肩を抱き起こした。

 

「うん、大丈夫や。気ぃ失ってるだけや。飛鷹の方も大丈夫やろ」

 

「龍驤、俺は…」

 

「何も言わんでええよ…今回の事は誰も悪くない。隼鷹は前の提督さんに恋するあまり、アンタに代わりを求めた。飛鷹はそんな妹を何とかしてやりたかった…アンタは飛鷹の苦労を分かち合いたかった。それだけや」

 

「…」

 

「隼鷹は…すぐには治らないかもしれへん。でもウチと飛鷹が責任持って何とかする。だから提督さん、飛鷹も隼鷹も大目に見たってくれへんか?…頼むわ」

 

龍驤は提督に、深々と頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ龍驤。今回の事は俺にも責任がある」

 

「…そんじゃあ」

 

「ああ…さっき飛鷹が言っていたんだ。自分は隼鷹を助ける為ならこの身体を捧げてもいい、俺に愛情がある訳じゃないと。

 

「でも、本当は俺は喜んでいたんだ。飛鷹には悪いが、隼鷹がこのまま治らなければいいって…。

 

「そうすれば、ずっと俺の側に居てくれる。例え俺の事を何とも思ってなくても。だから一緒に治そうなんて言っておきながら、俺は何もしなかった。それが間違ってると知りながら…」

 

「…」

 

「だから龍驤、俺の事も許してくれないか?」

 

「…ふふっ。何や、ほなお互い様やな♪」

 

「ふっ、そうだな」

 

「!…後は妹さんに聞いたらどうや?」

 

「妹?あ、隼鷹!」

 

「う…ん」

 

龍驤に抱き抱えられていた隼鷹は、気だるそうに目を開けた。

 

「隼鷹!良かった。痛くないか?何ともないか?」

 

「提…督」

 

「…あぁ、そうだよ。おまえの提督だよ」

 

「…フフッ、何言ってんだい。あたしの良い人はもっとイイ男だよ」

 

「え?」

 

提督と龍驤は目を丸くしてお互いの顔を見合わせた。龍驤が恐る恐る、頭を抱える隼鷹へ声を掛けた。

 

「じゅ、隼鷹、アンタまさか…元に戻ったんか?」

 

「なんだかずっと酔ってた気がするよ…もしかしてあたし、何かやらかしたかい?」

 

「隼鷹…」

 

「ハ、ハハッ♪飛鷹、アンタのした事無駄じゃ無かったで!ホレ、早よ起きい!」

 

龍驤は提督の抱き抱える飛鷹の肩を揺さぶる。

 

「う…ううん」

 

龍驤に肩を揺さぶられた飛鷹が首を左右に揺らした。目は閉じているものの、飛鷹が意識を取り戻しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、あんたは誰なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

「お、おい隼鷹。アンタ何言って…」

 

「龍驤、この人誰だい?それにあたしの提督はどこに居るんだい?もしかしてまだ帰って来てないのかい?

 

「…全くどこで油売ってるんだか…まさか、向こうの艦娘に浮気してるんじゃないだろうねぇ。もしそうだったら、とっちめてやんないとねぇ!龍驤もそう思うだろう?

 

「龍驤?やだねアンタ、何て顔してるんだい。あ、飛鷹姉。そういやどうしてこんな所で寝てるんだい?…それにこの男の人誰なんだい?軍の人らしいけどさ。

 

「あぁ、もう待ちきれないよ。どこほっつき歩いてるんだか。ちょっと港見てくるよ。じゃあね龍驤!」

 

「…」

 

「隼…鷹」

 

提督と龍驤はお互い目を合わせると、まだ意識が朦朧としている飛鷹に目をやった。

今、ここで起こった事を在りのまま話すか…。

それともこのまま黙って、昨日の続きを始めるべきか。

二人の思案をよそに、飛鷹は目を醒ました。

 

「あ…提督。あ、あたしまだ…生きて…それに…龍驤。どうしてここに?ハッ!それより提督っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隼鷹は…隼鷹はどこです?」

 

 




表現方法が上手く伝わってるかちょっと不安ですが。元ネタのゲームでも、自分が学校の先生だと思ってた主人公が最後、治ったと思ったら今度は病院の先生だと思い込むって救いの無い終わり方です。

次はある映画が元ネタのホラー回です。







おまけ 艦娘型録

隼鷹 性格的にガサツに見えるが、料理(お摘み)も出来るし、提督の前でリバースした時もちゃんとかからない様に気を使えたり、何気に女子力は高い。飲む時も分量は弁えている。弱虫ではない。好きな漫画はラーメン大好き小池さん。

飛鷹 隠れヒロイン。本当は提督を道連れに無理心中しようとしていた。隼鷹は…まぁ艦娘だし巻き込んでも大丈夫だろうと。隼鷹と同じ部屋だが、落ちてる物はだいたい飛鷹の。汚部屋の創造主。好きな漫画はわたモテ。

龍驤 前回ではかなり頭のネジが外れた役回りだったが、今回はそれが嘘みたいに爽やかな締め役。この話の一年程前に鳳翔の息子と遭遇。好きな漫画は刃牙(擂台祭編)

鈴谷 今回はチョイ役。絡み酒。鈴谷型の制服の話以外に好きなカレー十選がある。こっちは結構タメになる。ただしリピートする。終わりの無いのが終わり。好きな漫画は逃げ恥。

熊野 今回はチョイ役。鈴谷に比べると酒は強い方で隼鷹と同じレベル。意外にムッツリ。鈴谷よりもその手の知識は深い。織田nonなんて知らない。ほ、本当ですわ!そんなエッチい漫画家、知りませんわ!

鳳翔 今回はチョイ役。本当は龍驤と隼鷹の掛け合いに参加したいが、テンポが掴めずにいる。この数年後、生き別れの息子と再会する事に。好きな漫画はドラゴンボール(セル編)

提督(故) 酔った勢いで告ったらOK貰ったラッキーボーイ。その場の勢いって大事なのかもしれない。好きな漫画はもちろんボーボボ。

提督(なう) 飛鷹が自爆しようとした時、こんな事なら一回位ヤっときゃ良かったと思ったのは墓場まで持ってくつもり。なぜか飛鷹が部屋に入れてくれないので、本当は嫌われてんじゃないかと、最近不安になってきた。好きな漫画はJoJo(第5部)

大淀 今回はチョイ役。飛鷹とは見た目も髪型も似てるし、自分の方が横パンまでしてるのに、なぜ選ばれなかったのか釈然としない。世の中には眼鏡っ娘フェチと言う人種がいる事を伝えてあげたい。好きな漫画はR.O.D(OVA版)
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