艦娘症候群   作:昼間ネル

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今回、私、提督は任務中に部下であり、駆逐艦の娘である潮さんに不快な思いをさせてしまい深く謝罪致します。
まず、私が曙サイドがセクハラだと訴える行為を働いた経緯を説明しますと、説教中に潮の胸がいやらしく揺れるもので、私は、そこで、アラっと思い胸を揉んでしまいました。
遠征前に第七駆逐内で「ご主人ならある程度いっても大丈夫っしょ」という噂があったのです。
私が潮の胸を触ったのは紛れもない事実であります。
しかし、潮といえばどスケベなイメージがあるという事も事実であります。
よって、ここは喧嘩両成敗という事で、水に流して頂けないかと思っている所存でございます。

佐世保鎮守府 提督



改二
妄執潮流


(さざなみ)っ、そっち行ったわよ!」

 

「ガッテン承知の助!行くよ、(うしお)っ!」

 

「う、うん!」

 

あたしの砲撃を交わした軽巡ホ級が二人の方へ逃げて行く。あの二人なら、あたしより弱いと思ったのかしら?馬鹿ね。

 

「ギィイイイッッッ!!」

 

ほら、見なさい。あの二人は練度だけなら、あたしよりも下だけどコンビ組んだら、あたしよりも強いんだから。

…ちょっとだけね。

 

「イェーイ!やっぱ漣と潮っちの駆逐ボンバーはサイキョーっしょ!」

 

漣の奴、また変な漫画読んだわね。確かにホ級は変な仮面着けてるけど。

 

「ほれ、潮ちん。ハイタッチ、ハイタッチ!」

 

「…」

 

「んも~!潮っち、ノリ悪い!」

 

「だ、だって漣ちゃん…」

 

「ふふっ、いいじゃない潮。勝ったんだから少し位付き合ってあげれば?」

 

「う、うん…じゃあ…」

 

「ホレ~♪」

 

「ひゃあんっ!」

 

さ、漣っ!何で胸を?ゆ、揺れて…じゃなくって!

 

「…だからイヤだったのに」

 

「ちょっと漣、いくら女同士だからってヤメなさいよ」

 

「だって潮ちゃん、こんなモンぶら下げてんだもん!同じ駆逐艦なのに!ウラヤマー!」

 

「す、好きでこうなったんじゃないもん…」

 

…あたしも好きでこうなった訳じゃないけどね。

 

「ホントは、(ボノやん)も羨ましいんでしょ?」

 

「誰がボノやんよ。べ、別に羨ましくなんかないわよ。愛宕(あたご)さんも言ってたでしょ。大きくても肩が凝るだけだって」

 

「そ、そうだよ。私は漣ちゃん位の方が小さくて可愛いと思うよ」

 

「ムガー!聞いたボノやん?ウチらの方が小さいだって!「ウチら?あたしも!?」

 

「あ、あたしは漣ちゃんや(あけぼの)ちゃんの方が…女の子らしくってイイかなって」

 

…本当に大きいわね。同じ駆逐艦とは思えないわ。

 

「ね?曙ちゃんもそう思うでしょ?」

 

「え、ええ…そう思…」

 

そんなよりりましょうまたれるかもしれないです

 

「…」

 

ちゃんもってるよ

 

「…」

 

ちゃ「フンッ!」ひゃあっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたし、綾波(あやなみ)型駆逐艦、(あけぼの)が生を受けて何年経つのかしら。気が付けば人の形になって目を覚ました。艦娘って呼ばれてるみたいね。いまいちパッとしない呼び方だわ。もっとこう…なかったのかしら。船乙女(ふなおとめ)とか、海の貴婦人(きふじん)…少女とか。

幸い、あたしの鎮守府には1番艦の綾波姉さんも居たし、その後を追う様に(さざなみ)(うしお)もやって来た。

戦いは…あまり好きじゃないわね。皆は意外だって言うけど、失礼しちゃうわね。昔は嫌いじゃなかったわよ。昔はね。でも海に出ると、どうしても思い出しちゃうのよ。翔鶴(しょうかく)さんを守れなかった事や最上(もがみ)さんをこの手で沈めた事を…。

もう二度とあんな思いはゴメンだわ。

 

でも、今の体に生まれたのは悪い事ばかりじゃない。昔助けられた潮とも、こうして話せるし。

それに、もう一つだけ良い事もあったわね…

 

 

 

 

 

 

 

「三人とも無事そうで何よりだ」

 

「ご主人さま、お帰り!「ただいまな」

 

「潮も、お疲れ」

 

「…はい」

 

「ちょっと、何であたしには何も言わないのよ」

 

「あ、ああ…忘れた訳じゃないよ。お疲れ、曙」

 

「…ふん」

 

あたしの密かな楽しみ…それはこの瞬間。

あたしが帰って来て、提督が出迎える。提督の顔を見ると、あたしは初めて帰って来たって実感出来る。もちろん、こんな事口が裂けても言わないけど。

でも、もしあたしが帰って来なかったら提督はどんな顔するのかしら。いっつも、あたしにべったりだもんね。

べ、別にあたしは、こんな奴どうでもいいけど…あたしがいなきゃダメだもんね。ホント、世話が焼けるわ。

ふふっ♪

 

「いや~今日も漣と潮っちの完璧なコンビネーションで決めましたよ!」

 

「そうなのか、潮」

 

「は、はい」

 

「まぁ、あたしの次に頑張ったんじゃないかしら?」

 

「あれ?でもボノやんって今回は…」

 

「何よ、何か言いたいの?」

 

「潮っち~、ボノやんが苛めるよ~」

 

「も、もう、漣ちゃんったら…」

 

「まあまあ…でもなボノやん「曙よ」お前…」

 

「何?」

 

「…いや、何でもない」

 

「何よ、男らしくないわね。言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ」

 

「…まあ、無事で良かったよ」

 

「べ、別に気にしないでいいわよ!…フン」

 

何よ、奥歯に何か挟まった様な顔して…あたし、どこも変じゃないわよね?

 

「見ました奥さん、あれがツンデレですわよ」

 

「変な言葉ばっかり覚えるんじゃないわよ」

 

「て、提督さん!」

 

「ん、どうした潮?」

 

「気、気にしなくて…いいです…ハイ」

 

「潮「っち!?」

 

「あ、ああ…」

 

「ご、ゴメンなさい、やっぱり私には無理ですぅ

 

あ、出て行っちゃった。この手のノリは潮にはキツいかもね。私でさえ漣にはペース乱されてる位だし。

 

「う~ん、やっぱり潮っちにはボケとツッコミの砲雷撃戦は無理かにゃ」

 

「何よそれ…」

 

「提督、今夜は赤飯で祝いましょう!」

 

漣、何言ってるの?あたし達人間じゃないんだから…

 

「そうだな、用意するか「ちょっ…ちょっと!アンタ達意味解ってんの!?」

 

「そりゃあ…アレしかないだろう」

 

「女の子の大事な日…んもぅボノやんったら、トボけちゃってぇ♪」

 

「い、いや、あたし達艦娘よ?そりゃ北上さんや大井さんみたいな軽巡や重巡の人はあるかもしれないけど…ま、まさか漣、アンタ…あるの!?」

 

「う~ん、漣はまだないかな~。でも北上さんに聞いたら最初は辛いって言ってたな~」

 

「ええっ!?き、北上さんって…そうなの?」

 

「俺には一生無縁だけどな」

 

「当たり前じゃない!あったら怖いわよ!」

 

「男のご主人さまには、少しキツいと思いますよ~」

 

「じ、じゃあ…将来あたしも…あるの?」

 

「そりゃあ俺としては成ってくれた方が嬉しいよ」

 

「はあっ?」

 

「あ、潮っちは、もうすぐですね」

 

「はあっ!?」

 

「そうだな、改二になれば、少しは弱気な所も…「ちょ、ちょっと!」

 

「どうした、曙」

 

「え…か、改二?あたし、てっきり…」

 

「てっきり…?」

 

「ご主人…ゴニョゴニョ

 

「え!あ…う~んと…そうだな。曙も…あ、あるかもしれないな」

 

「…何がよ」

 

「き、近代化改修が」

 

「ええっ?あ、うん…そうね。悪くはないわね…あたしはてっきり…」

 

「生理?」

 

「んなあっ!さ、漣ッ!あんた…!」

 

「…」

 

「こっち見んな糞提督!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔するわよ…って、いないの?」

 

執務室の隣は、提督(アイツ)が普段寝泊まりしている私室へと繋がっている。(あたし)は週に何度かアイツの部屋へ通っている。本当はあたしだって、こんな事したくない。変な噂が立つのもイヤだし。ただ、アイツは自分の事には無頓着だ。服はいつもシワがあるし、いつ洗ったかも判らない。ご飯だって作るのが面倒だからと、麺や酒のおつまみばかり食べている。

あんな奴でもあたし達の提督だ。栄養失調で倒れられては困る。そう思ったあたしは仕方なく…そう、本当に仕方なく、時々こうやってアイツの部屋へ通っている。

 

〈相変わらず汚い部屋ね。そこら中に服が脱ぎっぱなし。この布団も最後に干したのいつかしら…〉

 

男って、みんなこうなのかしら。これじゃ結婚しても、お嫁さんも苦労するわね。

…結婚ね。アイツと結婚したいなんて人いるのかしら。まあ、艦娘のあたしには関係ない話だけど。

 

「…っと、曙?どうして俺の部屋に」

 

「別に。潮達が、アンタがちゃんとご飯食べてるのか心配してたから、変わりに見に来ただけよ」

 

「ああ、それはすまないな。まぁ適当に済ませるよ」

 

「またラーメンで済ませる気?そう言うと思って食材持ってきたわよ。あたしが作ってあげるから、それ食べなさい!」

 

「はは、悪いな。でも曙の方はいいのか?用事か何かないのか?」

 

「あたしだって暇じゃないわよ。でも、アンタに倒れられたら皆が困るでしょ。だから仕方なくやってあげるのよ」

 

「何だかんだで曙には世話になりっぱなしだな。今度お礼でもしなきゃな」

 

「別にいいわよ…あたしが勝手にやってる事だし」

 

「そうか。何かあったら言ってくれ」

 

「…じゃあ釣竿が欲しいわ。最近釣りに凝ってるんだけど、そろそろ新しいのが欲しかったの」

 

「釣りか。何か釣ったら食べさせてくれよ」

 

「いいわよ。何がいい?フグ?アカエイ?オニカサゴ?」

 

「それ、全部毒あるよね。曙、もしかして俺の事嫌い?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、旨いよ」

 

「ありがと」

 

あたしの作った料理を提督が食べる。次いでにあたしも食べていく。この光景も見慣れてきたわね。

ふふっ、こうしてるとまるで夫婦みたいね。

…何言ってるのよ、あたし。馬鹿みたい。

ホント…

 

「随分と部屋が片付いてるみたいだけど…」

 

「アンタが来る前に、あたしが片しておいたのよ。その布団もそろそろ干しなさいよ」

 

「あ、ああ…ツマミは…」

 

「そこにあるわ」

 

「酒は…」

 

「冷蔵庫に入れておいたわ。今日は仕事終わりだからって、あまり飲み過ぎるんじゃないわよ」

 

「分かってるよ」

 

「次いでにゴミも纏めておいてあげたから。明日出しておきなさい」

 

「あ、ああ…何か実家にいるみたいな気分だな」

 

「実家…?どういう意味?」

 

「その…お袋と話してるみたいだなって」

 

「あたし、まだそんな年じゃないわよ!」

 

「そんな意味じゃないって」

 

「それに、こんな手の掛かる子供なんて要らないわよケッコンだってまだなのに

 

「…曙、本当に無理しなくていいんだぞ」

 

「無理?一体何の話よ」

 

「いや、お前にもやる事はあるだろうし、無理に俺に構わなくてもいいって意味だよ」

 

「じゃあ自分の世話位、自分で出来る様になりなさい。あたしは艦娘よ?家政婦じゃないんだから」

 

「耳が痛いな」

 

「あ、そういえば赤城さん、今度の任務で出るんでしょ?あたしも護衛で行くわよ」

 

「曙が?でも北上と大井もいるし、駆逐艦なら曙以外もいるだろう」

 

「いいじゃない。それとも、あたしじゃ役不足だって言うの?」

 

「そうじゃないが、曙には、また別のを振り当てるつもりだったからな」

 

「それは他の子にでも回しなさいよ。じゃあ、頼んだわよ」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、曙ちゃん。次はウチらと出るんだって?」

 

演習の為に港に来ると、今演習を終えたらしい二人がいた。球磨(くま)軽巡洋艦の北上(きたかみ)さんと大井(おおい)さん。北上さんは普段のやる気のなさとは裏腹に、軽巡洋艦としてはトップクラスの強さを誇る。そんな北上さんに(変な意味じゃなくて)付いてまわる大井さんも、何だかんだで強いんじゃないかって、あたしは思ってる。

 

「ええ。さっきアイツにも頼んでおいたわ」

 

「曙ちゃんは働き者だね~。アタシはのんびり、お茶でも(すす)ってたいよ」

 

「そうですよね~。あ、北上さん、任務終わったら、あそこ行きましょうよ。魚雷喫茶!」

 

「魚雷喫茶?…何それ」

 

「お、イイねぇ」

 

「えぇ…」

 

「曙ちゃんも行ってみる?」

 

「…(ジロリ)」

 

「別に睨まなくても邪魔しないわよ。あたし軽巡じゃないから魚雷の魅力解んないし。二人で行ってくれば?」

 

「魚雷って言えばさ大井っち。あの日はちょっとツラいよね~」

 

「あの日?ツラいって…何が?」

 

「解ります。多い日はツラいですよね~」

 

「多いって…あ、任務の日って事?魚雷が重いって事?」

 

「そだよ。何だと思ったのさ」

 

「え…いや、その…その言い方だと…」

 

「横漏れとか、もう最悪ですよね!」

 

「ええっ!?お、大井さん…?」

 

「最近は羽根付きもあるから良いけどさ」

 

「ね、ねぇ…魚雷の話よね?…魚雷が横に落ちちゃうから支えが必要って事よね?」

 

「まぁ、こればっかりは艦娘に生まれたから仕方ないけどね~」

 

「艦娘?女の子の…アレじゃなくて!?」

 

「当たり前じゃない。曙、アンタさっきから何を言ってるの?」

 

「いや、それこっちのセリフよ、大井さん!その言い方じゃ、まるで人間のせ…

 

「北上さんは入れる派でしたよね?」

 

「えっ…入れるって、用品

 

「やだな~曙ちゃん。魚雷だよ。アタシは自分で発射菅に入れる派なの」

 

「う、うん…そうよね…」

 

「私は恥ずかしいけど入れるのは怖くって…だから付ける派です」

 

「付ける?大井さん、それ…ナプ…」

 

「何言ってるのよ曙。魚雷よ魚雷。私は持つのが怖いから明石さんに付けて貰ってるのよ」

 

「そ、そうよね…あたし達艦娘だもん…ある訳ないわよね…」

 

「ウチら艦娘で良かったよね~♪」

 

「やっぱ生理の事じゃない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ潮ちゃん、ヨロシクね~」

 

あら、潮じゃない。どうしたのかしら。北上さんと一緒なんて珍しいわね。

 

「どうしたの潮。北上さんに何か用でもあったの?」

 

「あ、曙ちゃん。う、うん、明日の赤城さんの護衛に一緒に来てって」

 

「ああ、それね。それ、多分あたしになるわよ」

 

「え…どうして?」

 

「昨日アイツに言っといたから。潮は休んでていいわよ」

 

「あ、あの…曙ちゃん。その任務、あたしに任せて欲しいの」

 

「…どうして?」

 

「じ、実は…もうすぐ改になれそうなの。だから、今回の話聞いて、北上さんに私から頼んだの」

 

改…潮って、そんなに練度積んでたっけ。あたしだって、まだなのに。

 

「そ、それに北上さんや大井さんとなら、私でも大丈夫かなって…」

 

…まぁ、あの二人がいるなら安心か。あたしより先に改になるのは癪だけど…。

 

「分かったわ。今回は潮に譲るわ。アイツにも、そう言っといて」

 

「う、うん!ありがとう、曙ちゃん」

 

「別に礼を言われる事じゃないわよ。無理しないでね」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふあぁ…よく寝たわ。

あら、潮がいないわね。いつもは、あたしより起きるの遅いのに。

 

「おはよ~ボノやん」

 

「おはよう、漣。ねぇ、潮は?」

 

「え?潮っちなら、もう出掛けたよ」

 

あ、そうだった。確か今日北上さん達と遠征に行くんだったっけ。

 

「でも潮っち、ハリきってるよね。やっぱ改が近いからかな」

 

「多分そうでしょうね」

 

「ん~、でも漣の推理では、それだけじゃないんだな~」

 

「それだけじゃない…?」

 

「潮っち、ご主人さまにイイ所見せたいんじゃないかな。潮っちも、ああ見えてご主人さまの事好きだからね~…誰かさんみたいに」

 

「べ、別にあたしは…」

 

「あら~?別にボノやんとは言ってないけどな~」

 

「…んもぅ」

 

「ニヒヒッ、アオハル真っ盛りですな~♪」

 

何よアオハルって…

でもまぁ、潮も…気持ちは解るけどね。

 

「でもね~、ボノやん。ご主人さまには、あまりお熱になるのは良くないって漣は思うな~」

 

「な、何よ、お熱って…」

 

「ご主人さまはウチらにも優しいけどさ、それって赤城さんや北上さん達に対する優しさとは違うからさ」

 

「優しさが…違う?」

 

「何て言うのかな…赤城さん達の事は、ご主人さまも女の人って感じで扱ってるけど、ウチらは妹とか娘って感じじゃん」

 

「…」

 

「だからさ、あまり、ご主人さまに本気にならない方がボノやんの為だよ」

 

「は、はぁ!?べ、別に本気になんかなってないわよ!」

 

「…漣もそう思ってるよ。ボノやんが傷付くのは見たくないもん」

 

「漣…」

 

まあ、それはあたしも薄々勘づいてはいたけどね。

一番解りやすいのは、ミスした時のあたし達に対する対応だ。作戦に失敗した時のアイツは、場合に因っては赤城さん達にダメ出し、時には叱咤する事もある。

でも、あたし達にはそれが無い。

そう、アイツはあたし達を決して怒ったりはしない。

例えどんなミスをしても、まるで子供をあやす様に困った顔で嗜めるだけ。あたしは、それがとても不満だった。

叱られない事が悔しいんじゃない。失敗しても仕方ないと思われているのか…そう考えると無性に腹が立った。

 

確かに赤城さんに比べれば、あたし達なんてどうって事ないかもしれない。でも、あたし達も同じ艦娘だ。役に立っているって意味じゃ赤城さんにだって負けてないって自負してる。

そりゃ、赤城さんや愛宕さんには女としての魅力では敵わないかもしれない。

何よ、あんなの!ちょっと胸が大きいだけじゃない!あたしより、ほんの少し…20センチ位違うだけじゃない!

でも…もし、アイツがあたしを本気で叱る様な事があったら…

それは、あたしが赤城さん達と同じって事なのかしら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、大変だよボノやん!」

 

「何よ漣、朝っぱらから騒々しいわね」

 

「赤城さん達が帰って来たんだけど、どうも任務に失敗したみたいで…だ、誰か沈んだって」

 

「えっ…ま、まさか潮が!?」

 

「わ、判んない!と、とりあえず港に帰って来てるみたいだから、行ってみようよ!」

 

「ええ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、潮ッ!」

 

「潮ちん!」

 

「み、皆…ごめんなさい」

 

「な、何言ってるのよ。中破程度で済んで良かったわよ。漣が潮が沈んだかもって言うからビックリしたわよ」

 

「べ、別に潮っちが沈んだとは言ってないもん。でも、あれ…皆平気みたいだし。漣、聞き間違えたかな」

 

「そんな暗い顔しないでよ、駆逐艦」

 

「あ、北上さん…だ、大丈夫?」

 

「うん?あたしは平気だよ曙。それよりも潮の心配してやりなよ」

 

「え、ええ…」

 

な、何だ。誰かが沈んだって言うから、あたしてっきり潮かと…。でも、良かったわ。北上さんも赤城さんも大した事なかったみたい。

あら、そう言えば大井さんは…?確か一緒に出撃じゃなかったかしら。

 

「ね、ねえ潮。大井さんは?もしかして遅れてるの?」

 

「…う、ううっ」

 

「潮、どうしたの?」

 

「私の所為なの…私の所為で、大井さんが…!」

 

次の瞬間、潮はその場に座り込んで泣き出してしまった。

一体どうしたのかと問うあたしの後ろに、申し訳なさそうな顔をした赤城さんが立っていた。泣く潮に代わって、あたしは赤城さんから事の顛末を聞かされた。

何でも、赤城さんの護衛に付いていた潮が不意を突かれ中破してしまったらしい。その隙を突く様に狙われた赤城さんの楯になるべく北上さんが飛び出した。だが、結果被弾したのは北上さんではなく、大井さんだったらしい。恐らく北上さんを庇ったんだろう。

集中砲火を浴びた大井さんは、二人の目の前で別れを惜しむ間もなく沈んでしまったそうだった。

 

「大井さんが…」

 

「私が悪いの…私がちゃんと赤城さんを守っていれば、大井さんを…」

 

「潮の所為じゃないわよ」

 

「そ、そうだよ潮っち!今回はたまたま運が悪かっただけだって!」

 

「でも…提督にも自分から行かせて下さいって言ったのに…」

 

「そんな事でアイツは怒ったりしないわよ。だから、あまり気にしちゃ駄目よ、潮」

 

「曙ちゃん…」

 

「あの…北上さん…」

 

「…何、曙」

 

「大井さんがこんな事になって…あたしも本当に残念です」

 

「…」

 

「その…気を落とさないで下さい」

 

「…じゃあ、アタシ報告してくるから」

 

いつもの様に笑顔であたしに挨拶すると、北上さんは赤城さんと一緒に去って行った。

気丈に振る舞ってる様に見えるけど、心なしか顔色が悪い様に見える。無理もないわ。あたしだって潮や漣を失う事になったら、暫くは立ち直れないもの。

でも北上さんは、そんな表情を少しも見せなかった。

北上さん、強いな。あたしも見習わなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふふっ♪」

 

「北上さん?」

 

「曙ちゃん、何言ってんだろ」

 

「…え?」

 

「あの言い方じゃ、まるで大井っちが沈んだみたいじゃん。ね、大井っち」

 

「…北上…さん?」

 

「…だよね、大井っちもそう思うよね。あ、もしかして前にからかった時の仕返しかな?」

 

「き、北上さん…何を言ってるんですか?お、大井さんは…!」

 

「…ねぇ、赤城さんも…そう思うでしょ?」

 

〈き、北上さん…あなた…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夕方、あたしは特に理由もなく、いつもの様にアイツの部屋にでも行こうと思った。また適当に夕飯を済ませるつもりなら作ってあげようか、あたしはため息を吐きながら執務室のドアに手を掛けようとした。

 

〈あら…〉

 

中には先客が居る様で、何やら話し声が聞こえる。ただ、その様子が妙だった。まるで口論でもしているのか、廊下にいるあたしにも声が届く位だった。それに、この声の主は、アイツと…

 

《…そんな、私ッ!》

 

〈潮…どうして、ここに?〉

 

《しつこいぞ潮。お前の気持ちは聞いていない。今言った通りだ。解ったな?》

 

《…どうしても、ですか》

 

《潮、黙って言う事を聞くんだ。でなきゃ漣や曙を…》

 

《ま、待って下さい!漣ちゃんと潮ちゃんは関係ありません!だから二人を巻き込まないで下さい!》

 

〈何やらただ事じゃないわね。それに妙な雰囲気ね。何を話してるのか判らないけど、まるで潮が脅されてる様な…〉

 

《ああ。俺も…だから、ちゃんと言う事を聞くんだ。解ったな?》

 

《…》

 

部屋の中から床を蹴る音が聞こえると、あたしは反射的にドアの後ろへと隠れてしまった。部屋のドアが開くと、潮はドアの後ろにあたしがいるのも気付かず走って行ってしまった。

少し泣いていた様な気がしたが…気の所為だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐呼吸綾波

 

〈漣ったら、相変わらず寝言が酷いわね。その点、潮は…あら?〉

 

ふと、寝返りを打ったあたしは、隣に寝ている筈の潮がいない事に気付いた。いつもこの時間には、あたし達は就寝している。まして潮は、今日任務から帰って来たばかり。本来ならぐっすり寝ている筈なのに…。

 

《カチャッ…》

 

ドアが静かに開けられ、音を立てない様に抜き足で近付いてくる小さな影。あたしは寝た振りをしながら薄目を開けた。

 

「ふうっ…」

 

潮だった。

潮は、あたしと漣が寝ているのを確認すると、静かに布団に潜り込んだ。

 

〈潮ったら、どうしたのかしら…〉

 

9千発っている

 

〈だから何の夢を見てるのよ、漣…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、朝よ。さっさと起きなさいよ」

 

「ううん…うおっ!あ、曙?何で俺の部屋に?」

 

「ちょっと覗いてみただけよ。そしたらまだ寝てるから起こしに来たのよ」

 

「ん、ああ…悪い」

 

珍しいわね、提督(コイツ)が寝坊するなんて。あたしと同じで早起きするタイプなのに。

 

「ほら、今日の仕事が待ってるわよ。さっさと顔洗って来なさい」

 

「あ、ああ…その、曙」

 

「…何よ」

 

「…いや、何でもない。それより…潮はどうしてる?」

 

「潮?多分、まだ寝てるわよ。それがどうしたの?」

 

「い、いや…もう大丈夫かなと思って」

 

「あたし達はそんなにヤワじゃないわよ。そんな事より自分の心配しなさいよ。まだ寒いんだから風邪引くわよ」

 

「その時は間宮さんでお粥でも作って貰うかな」

 

「まず風邪を引かない事を考えなさいよ。それに…お粥位、あたしが作ってあげるわよ」

 

「たまには風邪引くのも悪くないな」

 

「そんな事でサボろうなんて承知しないわよ。それはそうと…大井さんは気の毒だったわね」

 

「…そうだな。北上も落ち込んでなきゃいいがな」

 

「そうね。あたしも潮や漣が沈んだらって思うと…ゾッとするわ」

 

「俺もだよ」

 

…本当にそれだけ?

あたしが沈んだら、もっと悲しいって…言ってはくれないの?

…何を言ってるんだろう、あたし…。

 

「…それと、曙。潮にも言っておいてくれ」

 

「潮に…何を?」

 

「別に潮が悪い訳じゃないから、あまり思い込まなくていいって」

 

「そりゃ伝えろって言うなら伝えるけど…どうしてそこで潮が出てくるのよ」

 

「それは…その…」

 

「…やっぱり言わない。言いたきゃ自分で言いなさい」

 

「あ、曙…?」

 

何よ、さっきから潮は潮は~、って。今はあたしと話してるんじゃない。

さっきも、あたしの事は心配してくれなかったし、今この場に居ない潮の事ばっかり話すし。

 

ねぇ…

あたしと話すのは…そんなに詰まらない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、あたしと潮、漣はいつもの様に寝床に入った。珍しく寝付けなかったあたしは、まだウトウトとしていた。

時計は見えないが、多分日付も変わった頃だろう。早く寝付かなきゃ…そう思っていると、潮が静かに起き上がった。

 

「…」

 

〈そう言えば、前にも夜中に起きて…こんな夜更けにどこへ行くのかしら〉

 

潮は、あたし達が寝ているのを確認すると、音を立てない様に部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、潮。昨夜はどこへ行ってたのよ」

 

「えっ…?」

 

翌朝、漣が一足先に部屋を出たのを見計らって、あたしは潮に昨日の事を聞いてみた。本当は執務室でアイツと何を言い争っていたのかを聞きたかったが、それだと盗み聞きしていたのがバレてしまう。

…この事は、アイツにでも聞けばいいわ。

 

「曙ちゃん…起きてたの?」

 

「え、ええ…たまたま目が覚めたら潮がいなかったから、どうしたのかなって思って」

 

「そ、そう…」

 

潮は、あたしに見られていた事を知ると、急にそわそわし出した。

 

「さ、散歩だよ!うん!」

 

「散歩…あんな時間に?」

 

「う、うん…その…私、夜の港が好きなんだ。だ、だから…その…」

 

「ふ~ん…まぁいいけど。あたし達は人間みたいに風邪引く訳じゃないし。何なら、あたしも付き合うわよ」

 

「い、いいよ!起こしちゃ悪いし…」

 

「まあ、潮がそう言うなら、別にいいけど」

 

「…ご、ごめんなさい」

 

潮は言葉を濁すと、クルッと背を向けて走って行ってしまった。まるで、あたしと一緒にいるのが嫌だとでも言う様に。

でも、夜の港の散歩ねぇ。潮にそんな趣味があったなんて初耳だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《カチャッ》

 

その日の夜、時刻も零時を回り、あたしも漣もグッスリと眠っていた…いつもなら。

あたしは今日の潮の態度が、どうにも気になっていた。

前に提督と言い争っていた事、その辺りから潮が夜更けに部屋を抜け出している事。この二つがどうしても気になったあたしは、好奇心から潮の後を付けてみようと思った。

あたしが寝た振りをしていると、潮は以前の様に起きて布団を出て、音を立てない様にドアを開けた。

 

サザナミックソウルブランディング

 

「…!」

 

漣の寝言に、一瞬潮の動きが止まったが、起きた訳ではないと気付くと、以前の様に部屋を抜け出して行った。

潮がドアを閉める音を聞いたあたしは、漣を起こさない様に起き上がると、潮の後を付ける事にした。

 

ゲギョーッ

 

漣、今日は何の夢を見てるの…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こっそりと部屋を抜け出した潮の後を、あたしはバレない様に付いて行った。幸いにも潮は、あたしが後を付けている事には気付いていない様だった。

潮の話だと港へ行くと言っていた。だが、潮は外へ出る様子もなく、迷わず目的の場所を目指している様だった。

 

〈え…どういう事?ここって…〉

 

潮の後を付けたあたしが辿り着いたのは…外でもない、執務室だった。

潮はドアをノックすると、中へと入って行った。恐る恐るドアに近付いたあたしは、部屋の中の声が聞こえないものかと耳を澄ませた。何やらボソボソと喋っているのは判るが、ここからでは聞こえない。

あたしは何故、潮がこんな時間にアイツの所へ行くのか疑問に思いながらも、部屋に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、潮。アンタ、昨夜どこへ行ってたの?」

 

「ど、どうしたの曙ちゃん。もしかして起こしちゃった?」

 

「ええ。せっかくだから、あたしも夜の散歩でもって思って付いて行ったの」

 

「えっ!?」

 

「そうしたらアイツの所に行くんだもん。びっくりしたわよ」

 

「そ、それは…その…」

 

「まさか任務の説明だなんて言わないわよね?」

 

「…」

 

「ねえ、潮…もしかしてだけど、アンタ、アイツに脅されてるの?」

 

「あ、曙ちゃん?どうしてそんな事…」

 

「だっておかしいじゃない。あたしだってアイツがそんな奴じゃないって思ってるけど…そうでも思わなきゃ説明が付かないじゃない」

 

「ううっ…」

 

「何ならあたしから…」

 

「だ、駄目っ!それだけはやめて!」

 

「う、潮…?」

 

「お、お願いだから、そんな事はやめて。わ、私…曙ちゃんや漣ちゃんを巻き込みたくないの」

 

「…やっぱり、アイツに何か弱味を握られてるのね。何?もし逆らったら、あたしや漣を解体するとでも言われたの?」

 

「ち、違うの…そうじゃなくって…」

 

「だったら何なの?仲間のあたしにも言えない事なの?」

 

「…提督は悪くないの。お願いだから、この事は忘れて。お願いだから…」

 

「あっ!う、潮ッ!」

 

言うが早いか、潮はあたしの前から去って行った。

でも、これであたしの疑惑は確信へと変わった。

潮は何かをアイツに強要されている。潮はあたし達に心配を掛けまいと、その事を内緒にしている。

でも、何を…?

一瞬、あたしの頭を考えたくない下衆な考えが過った。

 

〈な、何を考えてるのよ、曙!〉

 

その時あたしの脳裏に浮かんだのは、人間の男女の愛情表現についてだ。駆逐艦(あたし)達は軽巡や重巡に比べれば子供じみた姿をしている。精神年齢も姿に比例するらしい。そして人間の女の子と同じ様に、性に関する興味も人並みにある。

ある時休暇で買い物に行った際に、興味本位から人体に関する本を買った。そこには男女の体の違い、生理現象、そして…いわゆる性行為の事も記されていた。あたしは艦娘だけど、こんな事は可能なのかしらと夢想した事もある。

たまに、あたしがその本を読もうとすると、微妙に本の位置がずれている事がある。…漣が盗み読みでもしてるんだろう。別に構わないけどね。

その時の記憶が、まるで(せき)を切った様に溢れ出て来た。

でも、あたしはその考えを必死に否定した。

何故、否定したのか。それは、アイツが()()そんな下衆な事をするなんて想像したくなかったから…この時のあたしは、そう自分に言い聞かせた。

 

もう一つの考えを…あたし自身の感情を覆い隠す様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お休みなさい、提督」

 

「今、帰り?潮」

 

「…!あ、曙…ちゃん」

 

深夜の執務室から出て来た潮は、目の前にあたしが待ち構えていたのが余程驚いたのか、幽霊でも見た様に目を丸くしていた。

だが、内心驚いているのはあたしの方だ。

潮の格好。それ自体は普段の、セーラー服型の衣装のまま。いつもと違うのは不自然な着崩れだった。

几帳面な潮には珍しく胸元が開かれ、ネクタイも着けていない。出て来た瞬間もスカートの位置を直そうとしていた。

そして何より、その顔。

暗闇で判りづらいが、まるで入渠上がりだとでも言わんばかりの上気した顔。

 

「こ、これは…その…」

 

「…ッ!」

 

頬を染めて口ごもる潮に、あたしは無性に腹が立ち、考えるより前に潮を平手打ちしていた。

 

「あうっ!」

 

「…不潔よ!」

 

「あ、曙ちゃん…」

 

「潮、アンタは部屋に戻ってなさい。あたしはアイツに話があるわ」

 

「あ…ま、待って」

 

「聞こえたわね?」

 

「…」

 

潮は涙目になりながら、その場を走って行った。

潮の姿がなくなったのを確認すると、あたしはドアを開いた。

 

「…入るわよ」

 

「…曙か」

 

「何よ、驚かないのね」

 

「そりゃ、あんだけ廊下で言い合いしてればな。嫌でも聞こえるよ」

 

「…まあいいわ。アンタに話があるの…当然、解ってるわよね?」

 

「…潮の事か」

 

「ええ。あたしも回りくどいのは嫌いだから、単刀直入に聞くわ。アンタ…潮に手を出したの?」

 

「…ああ」

 

「…ッッ!!」

 

次の瞬間、あたしは頭に血が上り、潮の時とは違う本気の平手打ちを提督に叩き付けていた。

 

「ぐふっ!」

 

「この…恥知らず!裏切り物ッ!」

 

椅子から転げ落ちた提督にあたしは馬乗りになり、何度も何度も提督の頭を叩いた。提督は驚いてはいるものの何故か防ごうとはせず、むしろ打ってくれと言わんばかりに脱力していた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

「…気は済んだか?」

 

「…ええ。続きはアンタの話を聞いてからにするわ。話して貰うわよ。潮に何をしたのかを」

 

「分かった…」

 

あたしは側のソファーに座ると、提督も叩かれた頬を擦りながら椅子へ座り直した。

 

「話す前に曙、お前はどう考えているのか知りたい」

 

「そんなの言うまでもないじゃない。アンタが潮の弱味でも握って、いらやしい事してるんでしょ?この()に及んでシラを切る気?」

 

「まあ…後半は否定しないが、前半に関しては違うな。まず、俺は潮を脅迫なんかしていないし、潮を呼んだ覚えもない」

 

「…はあっ?」

 

「潮が真夜中に俺の許へ来るのは…潮の意思だ」

 

「ちょ…ちょっと待ちなさいよ。潮が…自分の意思で…?な、何を馬鹿な事言ってるのよ!」

 

「戸惑うのも無理はない。順番に話していくよ。潮は…どちらかと言えば人見知りするタイプだ。出来れば仲良くなりたいとは思ったが、こればっかりは時間が掛かる。それに任務に支障が出なければと、俺も特に気にしてはいなかった。

 

「ただ、何度か接する内に潮の方からも話し掛けてくれる様になった。俺は心を開いてくれたのかと喜んだよ。それだけなら良かったんだがな」

 

「…何が言いたいの?」

 

「確か、大井が沈んだ日の夜だったかな。真夜中に潮が俺の部屋へとやって来たんだ」

 

〈真夜中に…?そう言えば潮が夜中に抜け出す様になったのも、大井さんが沈んだ辺りからだわ〉

 

「こんな夜更けにどうしたのか聞くと、潮は大井が沈んだのは自分の所為だから、償わせて欲しいと言い出したんだ。俺は気にしなくていいと言ったが、潮は帰ろうとしない。

 

「それだけならまだ良かったんだが、潮は罰を与えて欲しいと…服を脱ぎ始めたんだ」

 

「…ええっ?」

 

 

 

 

 

『提督さんの信頼を裏切ったんです。どうすれば償えるか、私にはこれしか思い付かなかったんです』

 

『お前の所為じゃない。気にしなくていい…』

 

『そんな、私ッ…』

 

『しつこいぞ潮。お前の気持ちは聞いていない。今言った通りだ。解ったな』

 

『…どうしてもですか?』

 

『潮。黙って言う事を聞くんだ。でなきゃ漣や曙を、ここへ呼ぶぞ』

 

『ま、待って下さい?漣ちゃんと潮ちゃんは関係ありません!だから二人を巻き込まないで下さい!』

 

『ああ。俺も今日の事は忘れる。だから、ちゃんと言う事を聞くんだ。解ったな』

 

『…イヤです。提督さんの言う事でも、こればっかりは聞けません。それに今は曙ちゃんもいません…』

 

 

 

 

 

 

 

「もちろん俺は断った。とにかく今日は帰りなさいと説得した。正直俺も驚いたが、話はこれで終わらなかったんだ」

 

「…」

 

「次の日も潮はやって来た。昨日と同じ様に罰を与えて欲しいと。俺も…強く断っていればと思うよ。だがな、その…言いにくいが俺も男なんだよ」

 

「それって…潮を…」

 

「ああ。俺は潮の誘惑に…負けた。罰を与えるって名目で…潮を…」

 

「…ッッ!」

 

あたしは右手を大きく振り上げたが、提督の頬を打ちたくなる衝動を必死に抑えた。もう一度、最低と罵ってやるつもりだった。なのに、あたしの口から出た言葉は…

 

「…何で…潮なのよ」

 

「曙…?」

 

「何で、あたしじゃないのよ!あたしは何時(いつ)もアンタの側にいるじゃない!どうして、あたしじゃないのよ!!」

 

「お、落ち着け曙」

 

「アンタは潮に迫られたって言ったわね。じゃあ、アンタは潮の事は何とも思ってないんでしょ?それじゃあ、あたしにだって同じ事出来るわよね」

 

「お、おい、曙!」

 

あたしはアイツが止めるのも聞かずセーラー服を乱暴に脱ぎ捨てた。ピンクのキャミソールも引き剥がし、下着一枚になったあたしは羞恥に震えながらなけなしの勇気を振り絞った。

 

「ほら…アンタの好きにしていいわよ…誰にも言ったりしないわ。潮にした事と同じ事、あたしにもしなさいよ」

 

「…よせ、曙」

 

「し、下着も…脱ぐわ…これでどう?それに…あたしだって、それ位の知識はあるわ」

 

「…」

 

提督は椅子から立ち上がると、胸元と股間を手で隠しているだけのあたしに、ゆっくりと近付いて来た。

提督の…アイツの手が、あたしに伸びてくる。あたしは覚悟を決め、一糸纏わぬ体をアイツの前に晒した。

 

「…んっ」

 

だが、提督の手は、あたしの体ではなく頭に置かれた。まるで猫を撫でる様に頭を擦ると、あたしの下着を拾い出した。

 

「曙…気持ちは嬉しいよ。でも、お前を抱く事は出来ない」

 

「…なっ…何で…」

 

「確かに潮の誘惑に負けたのは俺だが…。曙、ここでお前にまで手を出したら、俺は本当にお前の言う恥知らずになってしまうよ」

 

「あ…ち、違っ…そんなつもりじゃ…!」

 

「だから、今日はもう帰るんだ。お前が俺を許さないって言うなら、俺もそれを受け入れるよ」

 

「違う…違うの!あたしが言いたいのは、そんな事じゃないの!」

 

「…」

 

「ど、どうして?何がいけないの?あたしと潮の何が違うの?どうして潮は受け入れて、あたしは受け入れてくれないの!?

 

「そ、そうよ!おかしいわよ!あたしは毎日アンタの世話をしてあげてるわ!アンタの頼みだって断った事はない!艦娘としてだって潮より貢献してるわ!

 

「そのあたしを受け入れないなんて、あり得ない!お願いだから、あたしにそんな事言わないで!お願いだから…あたしを見て…」

 

あたしは心の何処(どこ)かで相思相愛なんだと信じていた。何だかんだ言っても最後はあたしを選ぶ、そう信じて疑いもしなかった。にもかかわらず提督の心に、あたしがいないのだと知った時の感情は何と表現すればいいのか。

 

彼の心はあたしの物だと自惚れていた慢心?

一人の女として見て貰えない屈辱?

それとも…潮への嫉妬?

 

気が付けば、まるでイタズラを咎められた子供が母親に許しを請う様に、あたしは提督の腕にすがり付いていた。

 

「…曙。俺も前から言おうと思っていたんだが…もう、俺の事は気に掛けなくていい」

 

「…えっ」

 

「お前が俺を気に掛けてくれるのは嬉しい。だが、俺はお前に部下としての感情以外持っていないんだ」

 

「…」

 

「それに、こんな形になったが、俺は潮に愛情を抱きつつある。だから、尚更お前の気持ちには答えられない」

 

「…」

 

「ごめんな…」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の記憶は定かではない。

乱雑にセーラー服を気直したあたしは、一人廊下を歩いていた。気が付けば放心状態のまま、自分達の部屋の前まで戻って来ていた。

 

「曙ちゃん」

 

そんなあたしを待ち構えていたかの様に、彼女は立っていた。今、一番会いたくなかった…

 

「…」

 

潮に。

 

「あの…曙ちゃん。もしかして、私と提督さんの事…誰かに言っちゃうのかな…」

 

「…そうね。上に報告でもしたら、アイツに懲罰でも…あっ!!」

 

肩に錨でものし掛かった様な重さが掛かる。見れば潮が、あたしの肩を渾身の力で掴んでいた。潮は目を見開き、あたしを睨み付けていた。今までに見た事のない潮の形相に、あたしは一瞬怯んでしまった。

潮の手が肩から離れると、そこにはいつもの笑顔の潮がいた。

 

「う、潮…」

 

「私、ずっと思ってたの。どうしたら提督さん、私の気持ちを解ってくれるかなって。何度も伝えようと思ったけど、私にそんな勇気なんてない…

 

「それに、提督さんの側にはいつも曙ちゃんがいるんだもん。曙ちゃん、ズルいよ…」

 

「あ、あたしはそんなつもりじゃ…」

 

「…じゃあ、どうして私と同じ事をしたの?」

 

「同じ事…?ちょっと待って潮。アンタ何でその事を…アンタまさか、ずっと…!」

 

「うん♪残念だったね、曙ちゃん」

 

「…潮ッ!」

 

「私の事、不潔だなんて言ったのに…同じ事してるんだもん。曙ちゃん、卑怯だよ」

 

「あ、あれは…」

 

「でもね、許してあげる。だって私、曙ちゃんに感謝してるの」

 

「感謝…?」

 

「曙ちゃん、人間の体について書いてある本持ってるでしょ?私、曙ちゃんがいない時に、こっそり読んでたの」

 

「…あの本を?」

 

「うん。その本にね、人の愛し合う方法も書いてあったでしょ?私、それを見た時これだって思ったの」

 

「それで…そんな事を…?」

 

「うん。提督さんの期待を裏切っちゃった私が償う方法は、これしかないって思ったの。私も恥ずかしかったけど、そうじゃなきゃ罰にならないもん」

 

「だ、だからって何も…」

 

「提督さんは、とっても優しいから最初はいいって言ってたけど…ウフフッ、ちゃんと私を受け入れてくれた」

 

「潮…それは罰なんかじゃないわ。アンタ、それを口実にアイツに迫ってるだけじゃない」

 

「…違うよ。これは私の償いなの。提督さんもちゃんと解ってくれた。もし、提督さんにそれ以外の気持ちが…私を好きになっても…それは仕方ないよね?」

 

「潮…アンタ…」

 

「だから曙ちゃん。この事…誰かに言ったらイヤだよ。例え曙ちゃんでも…私、許さないから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一ヶ月。

あたしと潮、そして提督はイザコザもなく上手くやっている。

…表面上は。

提督も潮との仲は表向きは隠しているが、漣や一部の艦娘は二人の仲に気付いている。

潮との仲も悪くなった訳じゃないが、私から話し掛ける事はなくなった。潮の顔を見る度に、あの時の…私を口止めした時の潮の本性を思い出してしまうからだ。

 

「もう、漣ちゃんったら…あ、曙ちゃん」

 

「潮、漣。先に行ってるわよ」

 

たまに潮と目が合う時がある。その顔は、いつもの穏やかな潮だったが、目だけは笑っていない。私達の事を誰にも言わないで…そう訴えてる様で…まるで監視されている様で、思わず目を逸らしてしまう。

 

「…グスッ」

 

そして潮を見る度に気付く。いや…

 

「…ううっ…」

 

思い知らされる。

 

「て…提督…ウェエエン…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは失恋したのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この話が最初に書いた話なので、書き直すのも感慨深いです。投稿して本当に載ってるかドキドキしながら確認したのも良い思い出です。
狙ってる訳じゃないんですが、自分の話で北上と大井を出すと、だいたい沈む展開になります。金剛、榛名と同じで妙な因縁がある様です。






艦娘型録

曙 やっぱり胸が原因なのかしら。で、でも霞の所の提督は駆逐艦好きって聞いた事あるわ。ハァ…何でウチの提督は駆逐艦好きじゃないのかしら。

潮 ねえ提督さん。私のどこが好きですか?…やっぱり胸…でしょうか。そ、そうですよね、他にもありますよね。セーラー服?紺の靴下?あ、あの…もしかして提督さんって…制服好き…ですか?

提督 チラッと見えたけど、曙って少し生えてるんだな。あれ、じゃあ何で潮は生えてないんだ。潮、お前もしかして、剃ってる?

漣 ゲーッ!正義マン強すぎ!ほ、ホントに倒しちゃったよ。あ、こっちの話です。ところでご主人さまは誰が好きですか?漣は水と蛇が好きです。ご主人さまは…恋…あっ(察し)

赤城 あの、大丈夫ですか北上さん…と大井さん。ラムネ貰ってきたんですが、飲みます?…あ、そうですね、大井さんの分が…わ、私のどうぞ!…え?大井さんが羊羮を食べたがって…次いでにアイスも?北上さん、それ本当に大井さんが言ってるんですよね?

北上 ねえ大井っち。最近あまり部屋から出ないけど、どったの?演習出なくても皆怒んないし。あと、影が無いんだけど…気のせいだよね?

大井 北上さん、私こっちですよ!何で私の事無視するんですか?あ、あの…私何か怒らせる事しましたか?あ、綾波!いい所に来たわ!アンタからも…え?アンタも漣に無視されてるの?


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