艦娘症候群   作:昼間ネル

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楽しかったですねぇ…夢の様でした…

もう一度話したいなぁ…提督と…

そっか…修理すればいいのよ…
そういう提督に…すればいいんだ…




二週間前から君を

あの日、私はあの人に会いました。

慣れない事務手続きに手間取り、書類の束を落としてしまった時でした。

私に優しく手を差し伸べてくれた一人の男の人。

その人は何も言わず書類を拾って、私に手渡してくれました。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとう…ございます」

 

「悪いけど執務室の場所を教えてくれないかな。ここに来たの初めてで」

 

「は、はい。あの、あなたは…」

 

「あぁ、ここの提督さんは僕の先輩でね、今日は用事があってね」

 

「そ、そうなんですか!わ、私は駆逐艦で吹雪型1番艦の吹雪って言います!」

 

「君が吹雪さんか。話は聞いてるよ」

 

「え、わ、私の事をご存知で?」

 

「あぁ、先輩から聞いてるよ。叢雲と吹雪って言う元気な女の子がいるって」

 

「そ、そうだったんですか!あ、案内します。こちらです!」

 

「あはは、元気だなぁ」

 

〈女の子…〉

 

…これが、後に私の生涯の司令官となる人との出会いでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの人よ吹雪」

 

あ、そうか。叢雲ちゃん、私があの人と面識あるの知らないんだっけ。

うふふ、ちょっと嬉しいかな。

あっ、こ、こっち来た!

髪は…うん、大丈夫。あ、スカートがまだ汚れてる!もう、こんな事なら叢雲ちゃんに付き合って演習なんてするんじゃなかった。

どうしよう、上手く話せるかな…。

 

「あ、吹雪ちゃん、久しぶりだね」

 

「ハイ、お久しぶりです!今日はどうしたんですか?」

 

「うん、今度鎮守府を任される事になってね。手続きの関係でちょっとね」

 

「そ、そうなんですか。おめでとうございます!」

 

「ありがとう。でもやる事は山積みだよ。秘書艦も選ばなきゃいけないしね」

 

「秘書艦…ですか」

 

「あぁ、最初に駆逐艦を秘書艦に選ばなきゃいけないみたいでね。…実は、ここの提督さんからは君と叢雲のどちらかがいいんじゃないかって言われててね」

 

「えっ?私と叢雲ちゃんを?」

 

「うん。よかったら考えてくれないかな」

 

「そっ、そんな…私なんか」

 

「ははっ、やっぱりこんな頼り無さそうな奴の秘書艦なんて嫌かな」

 

「そ、そんな事ありません!…ただ私より叢雲ちゃんの方が優秀ですし。私なんかが秘書艦になってもご迷惑なんじゃないかと…」

 

「う~ん、そんな事は無いと思うけど。まぁいいや。数日中には決まると思うから、ゆっくり考えておいてよ。じゃあね」

 

秘書艦かぁ。

私なんか叢雲ちゃんに比べればダメダメだし、選ばれるワケないよ…。

でも秘書艦になったら、あの人と新しい鎮守府に行くのかぁ。ちょっと興味あるな…。

 

 

 

「吹雪、あんたあいつの事知ってるの?」

 

「うん。前に来た時に少しお話ししたの」

 

「へぇ、そうなの。いい奴そうじゃない」

 

「うん!叢雲ちゃん、先行ってて。私もう一度演習してくる!」

 

「あ、ちょっと!…んもう、吹雪ったら」

 

 

 

 

 

 

吹雪か。

先輩が言ってたのと随分違うな。どっちかと言うと大人しいって聞いてたけど。

駆逐艦の娘は、皆恥ずかしがって近寄って来なかったけど、あの娘だけはやたら積極的だったな。

でも、そうか…。あの娘と叢雲のどっちか、か。

ここの提督の話だと、叢雲の方が何かと優秀だって聞いてるけど、顔見知りの方がやりやすいかな?

まぁ時間はある。明日までに決めるか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪、昨夜の事知ってる?」

 

「昨夜?な、何かあったの?」

 

「ここの鎮守府に泥棒が入ったんですって」

 

「泥棒?」

 

「ええ。まぁ特に盗まれた物は無かったらしいけど、放火されたらしいの」

 

「放火?ど、どうして?」

 

「そんなの知らないわよ。大方、盗む物が無くて腹いせに火をつけたんじゃないかって話よ」

 

「こ、怖いね叢雲ちゃん」

 

「あんた艦娘でしょ?シャキッとしなさいよ。…でも、何だってこんな所に泥棒に入ったのかしらね。金目の物なんてあるワケないのに」

 

「そうだよね。間違って入っちゃったのかな?」

 

「それにしたって間抜けよね。ここ鎮守府よ?銃を持った軍の人や私達艦娘がいるのに。下手したら命が無いわ。まぁ書類の一部が焼けただけで済んだらしいけど」

 

「そうなんだ。…今日はしっかり戸締まりしなきゃ」

 

「何言ってるのよ。私達艦娘よ?もし泥棒が来たら逆にふん捕まえてやるわよ!」

 

「はは、頼もしいな叢雲ちゃんは」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?わ、私を秘書艦に…?」

 

「うん、彼は君に秘書艦をしてほしいそうだ。嫌なら叢雲に頼むが、どうする?」

 

「い、嫌じゃありませんけど…。私で大丈夫かな」

 

「大丈夫だよ。もっと自信を持ちなさい。彼は私の後輩だからね。力になってあげてくれ」

 

「は、はい。吹雪、頑張ります!」

 

 

 

 

わ、私があの人の秘書艦?

ひゃ~嘘みたいだよ~。

そ、それは成れたらいいな~なんて思ってたけど、絶対に叢雲ちゃんが選ばれると思ってたのに。

どうしよう、上手くやれるかなぁ?

新しい鎮守府の人とも仲良くなれるかな。

…頑張らなきゃ!

 

 

 

 

 

昨夜の泥棒騒ぎは驚いたな。

まさか軍事施設に泥棒が入るなんて。

資料室が荒らされたって聞いたけど、金目の物なんかないだろうに。

秘書艦には叢雲って書いた書類も燃えたそうだが。

先輩にどっちにするって書いたんだって聞かれて、やっぱり顔見知りの吹雪でいいかと思って吹雪と答えたけど…。

うん、まぁいいか。吹雪となら上手くやっていけるだろ。

 

あぁそう言えば先輩も妙な事言ってたな。ここ軍の施設だし、犯人はどうやって忍び込んだんだって。言われてみればそうだな。

おかしな事もあるもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたが新しい提督か。私はここの艦娘達の代表の長門だ。よろしく頼む」

 

「同じく、高速戦艦の金剛デ~ス!ヨロシクお願いしマ~ス!」

 

「あ、あぁ。よろしく頼むよ」

 

「その娘は…?駆逐艦らしいが」

 

「あぁ、秘書艦の吹雪だ。仲良くしてやってくれ」

 

「は、初めまして!特型駆逐艦の吹雪です。よろしくお願いします!」

 

「ははっ、元気だな。よろしく頼む。分からない事があったら聞いてくれ」

 

「そんな畏まらなくても大丈夫ネ~。でも長門はアナタみたいな小さい娘が大好きだから、気を付けた方がいいカモネ~♪」

 

「えっ?そ、そうなんです…か?」

 

「こ、金剛っ!ち、違うぞ吹雪。そんなイヤらしい意味では無い!私は駆逐艦の娘達が、あの小さな身体で健気に頑張ってる姿を応援したいと思ってるだけで…。

 

「提督、何故そんな目で私を見る?ふ、吹雪、どうして距離を取るんだ?」

 

「oh~。吹雪、入渠は別々にした方がいいヨ」

 

「…そうします」

 

「な、何故だ?吹雪!?」

 

「長門、ヨダレ出てるヨ」

 

「~っ!!」

 

「さ、テイトク。ワタシが案内するヨ~♪」

 

「お、おい金剛。引っ張らないでも」

 

「ま、待って下さい司令官!」

 

「待ってくれ吹雪!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ここが新しい鎮守府かぁ。

上手くやれるか心配だったけど、皆いい人そうで良かった。金剛さんや工廠の明石さんも優しそうだし。…もちろん長門さんも。

同じ駆逐艦の睦月ちゃんや夕立ちゃんとも仲良くなれたし、何とかやっていけそう。叢雲ちゃん、元気かな?

私は大丈夫だよ。お互い頑張ろうね!

 

 

 

 

 

上手くやっていけるか心配だったが、幸先は悪くなさそうだ。

長門も頼りになりそうだし、金剛も俺の事を気にいってくれたみたいだ。ただ、妙にスキンシップが激しい気がするが…。いかんいかん、何を考えてるんだ。

吹雪の奴も早速友達が出来たみたいだし、このまま何事も無ければいいんだが。

 

 

 

 

 

「吹雪、新しい仲間はどうだ?上手くやってるか?」

 

「ハイ!皆さんとっても優しいし、睦月ちゃんや夕立ちゃんとも友達になりました。司令官は大丈夫ですか?」

 

「あぁ。だが覚える事が山積みでね。もう3日も風呂入ってないよ」

 

「あの…司令官。良ければ身の回りのお世話も…しましょうか?」

 

「え?いや、吹雪も毎日演習でクタクタだろう。悪いよ」

 

「大丈夫です!最近は慣れてきましたから、そんなに疲れません。それよりも司令官の方が顔に疲れが出てますよ。お願いです、私にできる事ならさせて下さい」

 

「そ、そうか?じゃあこれ、俺の部屋の鍵だ。すまないが片付けだけでもお願いできるかな」

 

「ハイ!あ、これからは夕御飯は私が作ります!一緒に食べましょう!」

 

「いや、毎日は流石に大変だろう。暇な時だけでいいけど…とりあえず今日は甘えさせてもらうかな」

 

「ハイ、任せて下さいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここが司令官の部屋かぁ。

ふふっ、もうこんなに散らかして。しょうがないんだから。

シャツも脱ぎっ放し。もう、男の人って皆こうなのかな。私がしっかりしないと!

資料もキチンと纏めておいてっと。これで良し!これからは私が掃除しなきゃ駄目ね。

あ、そうだ。後で明石さんに合鍵作ってもらおっと♪

 

 

 

 

 

 

 

 

早速、吹雪が片付けてくれたのか。

足の踏み場も無かった部屋が見違える様だ。

書類も揃えてくれたのか。マメだな。

あまり、吹雪には迷惑は掛けられないな。できるだけ自分でする様にしなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令官、私の料理美味しいって言ってくれるかな。

ふふっ、美味しいって言ってくれた。やっぱり司令官は優しいなぁ。司令官のシャツも私が洗うって言ったら喜んでくれたし。今度、間宮さんに料理教えてもらおっと。

もっともっと美味しい物食べてもらわなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪が料理を作ってくれたのは嬉しいが…。正直美味くはなかったな。ここには間宮さんもいるし、吹雪は訓練に専念しなさいと言っておいたが、上手く伝わっていると良いが。

そう言えばシャツが数枚無いな。もしかして吹雪の奴が洗濯にでも持っていったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪、あまり調子が良くなさそうだが…どうしたのだ?」

 

「あ、長門さん。はい、私あまり実戦に出た事が無いもので…。睦月ちゃんや夕立ちゃんに比べると、まだまだ練度が、その…」

 

「そうか。まぁこればかりは経験を積むしかないからな。頑張る事だ。…それはそうと吹雪よ。提督は私について何か言ってなかったか?」

 

「え?特に何も…。どうかしたんですか?」

 

「い、いや。最近はほとんど出番が無いものでな。少々退屈しているのだ。まさかとは思うが提督に嫌われている…などと言う事はないだろうか」

 

「だ、大丈夫ですよ。司令官は長門さんの事は頼りにしてますし、そんな事はないと思いますよ」

 

「う、うむ。だと良いのだが」

 

 

 

 

 

 

「司令官は、その、長門さんの事はどう思ってます?」

 

「どうしたんだ急に」

 

「あ、いえ。最近長門さん出番が無いので、もしかして司令官に嫌われているんじゃないかって落ち込んでたものですから」

 

「そうか…。ただ今の所、大きな作戦も無いからな。悪いがもう少し先になりそうだ」

 

「そうですか。…因みに長門さんの事…司令官はどう思って…」

 

「え、そりゃあ頼りになる…良い奴だと思うよ。他の皆を引っ張っていくリーダーって感じで。…ただ直情傾向なのは玉に瑕かな」

 

「そ、そうですか。はい、私もそう思います」

 

「…まぁ俺は吹雪が一番頼りになると思ってるけど」

 

「…なっ、何を言ってるんです司令官!もう///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長門さんは、最初は怖かったけどとても良い人だな。強くて頼りになるし。戦っている所は見た事ないけど、きっと凄く強いんだろうな。司令官も頼りにしてるみたいだし。

でも、司令官は私を一番頼りにしてるって…。

私が一番大事だって言ってくれた。

もう、恥ずかしいな…///

長門さんの方が役に立つのに。

司令官の期待に応える為にも頑張らなきゃ!

 

 

 

 

 

 

「夕立ちゃん、最近の吹雪ちゃん凄いね」

 

「うん、何か凄い気合い入ってるっぽい」

 

 

 

 

 

「いよいよ私の出番か。胸が熱いな」

 

「あぁ。期待してるぞ長門」

 

「フッ、任せておけ」

 

 

 

 

「長門さん、嬉しそうですね」

 

「あぁ。やっと出撃させてやれて俺も嬉しいんだが…」

 

「…?」

 

「頼りになるんだが、その分燃費がな…。色々削らなきゃならない。頭が痛いよ」

 

「あはは、長門さんは戦艦ですから。仕方ないですよ」

 

「あぁ。今日は徹夜になりそうだ。吹雪、今日は先に休みなさい」

 

「え、でも…分かりました。じゃあ」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

司令官はああ言ってくれたけど、秘書艦の私だけが休む訳にはいかないよね。

うん、そうだよ!

よ~し、また司令官の部屋のお掃除してご飯作ってあげよっと。

あ、また散らかってる。んもう、この間片したばっかりなのに。司令官って意外とだらしないんだから。これからは毎日来なきゃ駄目ね!

あ、この棚、鍵掛かって…あ、開いちゃった!

大事な資料なのかな…。み、見ちゃマズいよね?

で、でも気が付いたら開いてたし…。で、できるだけ見ない様に…っと。

うわぁ…皆の事一杯書いてある。こっちはお金の事かな。

これは…司令官の事が書いてある!

勝手に見ちゃ駄目だけど…私と司令官の仲だもん。ちょっとだけ…ちょっとだけなら司令官、怒ったりしないよね?

へ~、ふんふん、成る程…。

はっ!駄目よ吹雪、この位にしないと。

ちゃんと戻してっと。

よしっ。うん、綺麗になった!

ふふっ、司令官喜んでくれるといいな♪

あ、これ司令官の使ってるペンかな。

…いつもこれで書類書いてるのかな。

 

 

 

 

 

 

…うん?

部屋が片付いて…。もしかして吹雪の奴か?

だがおかしいな。鍵は俺が持ってるから、入れる訳ないんだが。どうなってるんだ?閉め忘れたっけ。

まぁいい。身の回りの事をやってくれるのは助かる。

あれ、ここに置いてあったペンはどこに行ったんだ?

吹雪の奴、片付けてくれるのはありがたいが、どこに置いたかも分かると嬉しいな。

 

 

 

 

 

 

 

「ヘ~イテイトクゥ~!ティータイムにしまショ~♪…って、アレ?ヘイ、吹雪(ブッキー)。テイトクは?」

 

「(ブッキー?)あ、金剛さん。提督なら用があるとかでさっき出掛けましたけど。夕方戻るそうです」

 

「オ~そうデスか。せっかくテイトクの為に新しい紅茶持ってきたのに…。残念デ~ス」

 

「…あ、良ければ私が渡しておきましょうか?」

 

「う~ん。そうデスね。じゃあお願いします。テイトクに私が来たって伝えて下サ~イ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?司令官、夕方まで戻らないんじゃあ」

 

「あぁ、その筈だったんだが、明石の用事が思ったより早く終わってな。…誰か来た?」

 

「…いえ、誰も。良ければ紅茶でも淹れましょうか?」

 

「ん~、じゃあ頼もうかな」

 

「はい!」

 

「ははっ、吹雪は気が利くな。いいお嫁さんになるぞ、なんてな♪」

 

「も、もうっ!司令官ったら///」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、吹雪ちゃん。工廠に来るなんて珍しいね。何か用事?」

 

「あ、はい。明石さんから要望が出た件に付いて、これを渡してきてくれと」

 

「あ、ちゃんと考えてくれたんだ。どれどれ…ふ~ん、成る程ねぇ」

 

「あ、あの明石さん。何か司令官にお願いしたんですか?…あ、あの、もし良ければ知りたいかな~なんて」

 

「ん?まあ別に隠す事でも無いかな。ハイ」

 

「…高速…修復剤の…人間に対する応用?」

 

「うん、実は前に金剛さんが『テイトクは私と違って人間ですカラ、怪我でもしたら大変デ~ス!』って言ってたの聞いて思い付いたんだ。私達艦娘みたいに人間でも傷がすぐ治せる薬作れないかなって」

 

「そ、そんな事できるんですか!?」

 

「う~ん。理論的には可能だって思ってるんだ。ただ戦力には何の関係も無いからね」

 

「す、凄いですね明石さん!」

 

「アハハ、ありがと…まぁ個人的な研究がしたいってのが本音なんだけどね。私も今の提督気に入ってるしさ、万が一提督に何かあったらって思ってね。

 

「あ、そうだ。吹雪ちゃんからも提督に頼んでみてくれないかな。どうもこの報告書だと、提督さんあまり乗り気じゃないみたいで」

 

「…それって、司令官の為なんですよね?」

 

「もちろん!提督に何かあったら嫌でしょ?特に吹雪ちゃんは?」

 

「えっ?な、何で…///」

 

「ふふっ、顔に書いてあるわよ。まるで金剛さんみたいに」

 

「も、もうっ!明石さんったら…///」

 

「とにかく一回言ってみて?吹雪ちゃんが言えば考え変わるかも」

 

「…そうですね、聞いてみます!」

 

「お願いね~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、明石さんの実験には…反対なんですか?」

 

「個人的には興味あるよ。ただそれが戦力に何の影響があるのかってなると、OKは出せないだろ?」

 

「まぁ、そうですよね。…でも明石さんも金剛さんも心配なんですよ!司令官に何かあったらって…」

 

「気持ちは嬉しいよ。でも仮に俺に何かあっても代わりの提督なんて幾らでも「司令官の代わりなんていません!」

 

「吹雪?」

 

「あっ、す、すいません。…でも、そんな事言わないで下さい。私にとって司令官はたった一人です。司令官の代わりなんていないんです」

 

「…ありがとう。でも心配の必要も無いんじゃないか?」

 

「どうしてです?」

 

「吹雪がいるじゃないか。吹雪だけじゃない、長門や金剛も。俺の事守ってくれるんだろう?」

 

「もっ、もちろんですっ!司令官は私がお守りしますっ!」

 

「ははっ、俺は幸せだよ。こんな可愛い娘にそんな事言ってもらえて。本当は男の俺のセリフだけどね」

 

「そ、そんな…///」

 

「まぁそんな訳だ。明石には吹雪の方からも言っておいてくれ」

 

「…はい」

 

 

 

 

 

 

 

明石か。

妙な実験をしてるから何かと思えば、人間を治す薬か。確かにそんな物が出来れば凄いが、人間は艦娘とは違う。できるとは思えない。

それに何だってそんな物作ろうなんて考えたんだ?

傷を治す?俺に何かするつもりなのか?まさか反乱?

…いや、よそう。あいつらは良くやってる。俺に何かするなんて考えられない。そんな事する理由がない。

その割には吹雪も乗り気だったな。

 

…まさか、な。

 

 

 

 

 

 

 

司令官、何で反対するんだろう。明石さんの実験が上手くいけば何かあっても安心なのに。そりゃあ私がいる限り深海棲艦に指一本触れさせたりはしないけど、万が一って事もあるし。

それにしても…。

フフッ、ウフフッ…。

『吹雪に俺を守ってほしい』だなんて…

そ、そんな面と向かって言われたら照れちゃいますよ///

大丈夫ですよ司令官。

司令官の気持ち、私、解ってますから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「He~yテイトクゥ、Breakfastにしようヨ~!」

 

「うん、ありがとう金剛…って、カレー?ま、まさか作ったのは」

 

「No problemネ~。比叡じゃなくて今日はワタシが作ったヨ~♪」

 

「そ、そうか」

 

「でも意外だな。金剛って料理もできるんだな」

 

「そ、そんなに上手くはないケド…。で、でも、テイトクがワタシの手料理食べたいなら、もっと頑張りマスヨ?」

 

「それは嬉しいな。こんなに美人に作ってもらえるなんて、俺は幸せ者だよ」

 

「ッ…!ンモ~ッ、テイトクったらぁ!誉めたって何も出ないヨ~///」

 

 

 

 

 

 

 

 

司令官、楽しそうだな。

私の料理食べてる時はあんな笑顔してくれないのに。

もしかして司令官、私より金剛さんの方が好きなのかな…。

何言ってるんだろ私。司令官が誰を好きになってもいいじゃない。司令官が選ぶ事だもの。

わ、私には…関係…無いのに。

じゃあ何で…

何でこんなに心がチクチクするのかな。

 

何でだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「テイトク~!今帰ったヨ~!」

 

「お帰り金剛。話は聞いてるよ、MVPだったそうだな、おめでとう」

 

「ミンナのお陰ダヨ~。長門もブッキーも頑張ってるヨ」

 

「そんな金剛にプレゼント…って訳でもないんだが、もしケッコン指輪を渡したいと言ったら…どうする?」

 

「へ?…テ、テイトクッ?そ、それって…」

 

「うん、もし良かったら、だが、その…うわっ!」

 

「もちろんっ…もちろんデスッ!テイトクッ!テイトクゥッ!」

 

「く、苦しいっ!わ、分かったから金剛っ!く、苦しっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

やっぱり司令官、金剛さんの事が好きなのかな。

そ、そうだよね、私みたいな子供と違って、金剛さん、大人っぽいし、とっても綺麗だし…。

アハハッ!私なんかよりとってもお似合いだよね!

…私なんか相手にされるわけないよね。

私は只の初期艦、一緒にこの鎮守府に来ただけ。皆さんよりちょっとだけ司令官と一緒にいた時間が多いだけ。

そうよ、だから勘違いしちゃったのよ。

もう、私ったらそそっかしいんだから。叢雲ちゃんがいたら笑われちゃうよ。

少し残念だけど…うん!司令官と金剛さん、とってもお似合いだよ!

私も歓迎してあげなきゃ!

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、金剛さんとケッコンするんですか?」

 

「ん、金剛から聞いたのか?…あぁ本当だ」

 

「どうして…どうして金剛さんだったんですか?」

 

「どうしてって…。何も本当に夫婦になる訳じゃないんだ。大本営からの説明では、力を大幅に強化する為だと聞いている。金剛はうちのエースだし適任だと思ったからだよ」

 

「…じゃあ、金剛さんの事は、何とも思ってないんですね?」

 

「何ともって…。正直、可愛いとは思ってるよ。あんな娘に慕われて男なら誰だって嬉しいんじゃないかな」

 

「私は、どう思ってます?」

 

「吹雪だって大事に思ってるよ。何しろ右も左も分からない俺に着いて来てくれた初めての初期艦だし…」

 

「…私にケッコン指輪、頂けませんか?」

 

「吹雪?いや、吹雪にはまだ早いだろう…」

 

「さっき司令官言いましたよね。あくまで力を強化する為で本当にケッコンする訳じゃないって。だったら誰でも…例え金剛さんじゃなくてもいいと思うんです。…この私でも」

 

「吹雪、どうしたんだ急に?」

 

「司令官。私、司令官さんの初期艦です。まだ不馴れな司令官さんとここに来て、司令官さんの任務をこなせる様に一杯頑張ってます。他の娘にも司令官さんの事、理解して貰える様に一生懸命説明してます。

 

「だから…もし指輪を贈るなら、私が一番じゃなきゃおかしいと思うんです…」

 

「ふ、吹雪?…そう言われると返す言葉も無いが、その…あれだ。指輪は何も一人にしか渡しちゃいけない訳じゃないんだ。だ、だから金剛の後は吹雪に…」

 

「司令官。ちゃんと私にも渡してくれるのは嬉しいです。…でも、最初に指輪を贈るって事は、誰を一番大事に思ってるかだと思うんです。私、一番最初に指輪が欲しいです…」

 

「…そうだな。すまない、そんなつもりじゃ無かったんだが。分かったよ吹雪。最初に指輪を贈るのは吹雪にするよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「あぁ、本当だ」

 

「あ、ありがとうございます!私っ、司令官のお気持ちに応えられる様に頑張ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゃあ~っ、ど、どうしようっ!

司令官、私にケッコン指輪を渡したいなんて!

嬉しい、とっても嬉しいけど…少し怖いかな。

そりゃあ私が一番、司令官を慕っているって自信はあるけど、私よりも役に立つ娘は一杯いるし。

金剛さんを差し置いて、私なんかで大丈夫かなぁ。

それにしても…ふふっ。

金剛さんより先に、私に渡したいだなんて…。

やっぱり司令官、私の事を一番大事に思ってくれてるんだなぁ。

も、もうっ。やだなぁ私ったら!

司令官も言ってたじゃない。あくまで力を強化する為だって!

だから特別な意味なんて無いの!

べ、別に司令官が私の事を好きだとか…そんな意味じゃないんだから!

でも、もしそうだとしたら…ちょっと嬉しいかな。エヘヘッ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の吹雪は何かおかしかったな。

それに、やたらケッコン指輪に拘っていたが。妙な迫力があったな。思わず指輪を渡すと約束してしまった。

確かに金剛に指輪を贈るのは、全く私情が無いとは言えないが。もしかして吹雪の奴、嫉妬しているのか?

…それに、最近部屋の物の置場所が微妙にずれている気がする。いつも適当に置いてはいるが、置いた覚えの無い場所にあったり。

執務室の机の中もどうも見られている気がする。俺はそんなに神経質に揃えたりするタイプじゃない。なのに、書類が綺麗に整理されている。

鍵が掛かっている戸棚も明らかに開けた形跡がある。鍵は俺が持っているから開けられる筈が無いのに。

考え過ぎかもしれないが、吹雪の仕業じゃあ…。あいつがそんな事するとは思えないが今日の吹雪を見ると、怪しくなってきたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、金剛さんっ!ごめんなさいっ!」

 

「Oh~、ブッキー、何の事デスか?」

 

「そ、その司令官、金剛さんにケッコン指輪渡す筈だったのに、先に私が貰う事になっちゃって…」

 

「ふふっ、気にシテないヨ~。…まぁ悲シクないと言えバ嘘になりマスが…。ブッキーなら仕方ないヨ。テイトクと一番ステディなのはブッキーだもんネ!」

 

「す、すみませんっ!私なんかより金剛さんが相応しいって言ったんですが…」

 

「そんな顔しないで下サ~イ!それにワタシ、返って燃えてきまシタ!ワタシ、もっともっとテイトクとステディになってみせマ~ス!そしてテイトク、ワタシと本当にケッコンして…キャ~ッ///」

 

「あはは…。ま、負けられませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは本当か、提督?」

 

「あぁ。今日吹雪が遠征の時に確認してもらった」

 

「この海域はもう解放済みだが、そんな一大戦力が集結を…俄には信じられんな」

 

「俺もそう思いたい。仮に本当だとして、この鎮守府の戦力で支えられない訳では無いが、正直厳しいだろう」

 

「…解った。皆にも警戒する様に伝えておこう。…ところで提督よ。吹雪にケ、ケッコン指輪を贈ると言うのは本当か?」

 

「吹雪から聞いたのか?…まぁそうなった。吹雪とは一番付き合いが長いしな」

 

「そうなのか。最近の吹雪はやけに機嫌が良いと思ってな。そんな理由なら仕方あるまい。…そうか、そうなのか」

 

「…長門、少し先になるが、おまえにも指輪を受け取ってほしいと言ったら、受け取ってくれるか?」

 

「いや、私は別に…」

 

「長門。おまえには色々助けてもらっている。不馴れな俺に変わって皆を纏めてもらっているし、本当に感謝しているんだ。それに、もし吹雪や金剛がいなかったら、俺は長門、最初におまえに指輪を贈っていたかもしれない。どうだろう?」

 

「…そ、そこまで言われては断る理由は無いな。解った。喜んで受け取ろう。だ、だが勘違いするなよ!私はあくまで戦力の向上の為に受け取るのだ。べ、別に提督の事を、あ、いやっ、提督が嫌いと言う事ではないのだ!」

 

「ははっ、解ってるよ。それで充分だ」

 

「う、うむ。…ところでだな。次の偵察任務、吹雪達だけでは危険だと思うのだ。そこで「却下する」

 

「な!まだ最後まで言ってないだろう!」

 

「長門の口車に乗らない様、駆逐艦にも言っておく」

 

「て、提督っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官、さっきの作戦の説明ですが…」

 

「どうしたんだ吹雪。何か解らない事でも?」

 

「いえ、編成は問題無いと思います!ただ…私だけでも鎮守府に残った方がいいと思いまして」

 

「…何故?」

 

「その…確かに今回の敵の戦力では総力戦になると思います。でも、そうなると鎮守府には明石さん位しか残りません。そうなると誰が司令官をお守りするんです?」

 

「…言いたい事は解る。だが、その心配はしなくてもいい」

 

「え、何でです?」

 

「仮に守りを突破されると言う事はおまえ達が破れると言う事だ。俺はそうはならないとおまえ達を信頼してる。それにもしそうなったらそれまでだ。俺もおまえ達の後を追うよ」

 

「そ、そんな事させません!司令官は私が守ってみせます!でも、やっぱり私だけでも残った方が良いと思います。お願いです。私だけでも残る許可を下さい!」

 

「吹雪、気持ちは嬉しいがその必要は…」

 

「私はただ司令官の事が心配なだけです!司令官は私に言ってくれましたよね。俺を守ってほしいって。だからそうしてるんです。その為には司令官の側にいなきゃ駄目なんです!どうして…どうして解ってくれないんですか!?」

 

「…吹雪。この際だから俺も言わせてもらうが、最近のおまえの行動は少々目に余る。俺の部屋に勝手に出入りしている位なら可愛げもあるが、執務室の書類も鍵を開けて勝手に漁っているだろう。

 

「それだけじゃない。長門や金剛から聞く話とおまえから聞く話では、若干食い違う事がある。おまえに指輪を贈る話も、金剛には俺がどうしても一番最初に渡したいと言ったそうだが…」

 

「そ、それは…その」

 

「吹雪、正直言うと、俺はおまえの事が解らなくなってきている」

 

「…何でです」

 

「…吹雪?」

 

「司令官、私の事が一番大事だって言ったじゃないですか。だから私もその期待に応えようと思ってるだけです。

 

「…なのに、どうしてそんな酷い事言うんです。私が間違った事をしてるとでも言うんですか?」

 

「…吹雪、やはり指輪の件は無かった事にしてくれ」

 

「司令官!」

 

「吹雪、今の俺はおまえを信用できないでいる。暫く考える時間…ふっ、吹雪っ!」

 

「冗談は止めて下さい司令官。私の言った事が気に触ったのなら謝ります。でも、指輪を渡さないなんて、いくら司令官でもそんな冗談は許せません…!」

 

「ふ、吹雪っ!腕を離すんだ。ぐっ!」

 

「あれは…指輪は、司令官が私に対する気持ちを形にした物なんです。それをやめると言う事は、私に対する気持ちが嘘だったと言う事です。

 

「司令官、私の事を好きだって言ったのは……嘘だったんですか?」

 

「吹雪っ!おまえを大事に思っているとは言ったが、それはそんな意味じゃない!くっ!」

 

「きゃあっ!」

 

「わ、悪い。だがおまえも悪いんだ。今日はもう下がるんだ。明日に備えなさい」

 

「…司令官」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしたんだろう、今日の司令官…。

何かイライラしてたみたい。

私、何か司令官を怒らせる様な事しちゃったかな…。

それに、私に指輪を渡すのを止めるだなんて…!!

どうして…何でです?

もしかしたら私の事、嫌いになっちゃったのかな。

やっぱり私なんかより、金剛さんの方が好きなのかな。

だとしたら、私どうしたらいいんだろう。

 

叢雲ちゃん、私、司令官が何を考えてるのか解らないよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり吹雪はおかしい。

今日の吹雪は普通じゃなかった。あんな顔の吹雪は初めて見た。指輪を渡すのは、やはり止めにした方が良さそうだ。

指輪を渡さなきゃ、俺を殺さんばかりの勢いだった。

まさか金剛や長門達も、もしかしたら吹雪みたいになるんだろうか。考えたくもない…。

 

…俺を殺す?

そう言えば明石が作りたがっていた薬。確か人間を治す薬だったな。そんな物作って何をするつもりだ?

そう言えば吹雪の奴も賛成していたな。

…まさか、いや俺に何かをしようとしているから作ろうとしているんじゃないのか?

俺を…本気で俺を殺す気なのか?

指輪を渡さない、たったそれだけの理由で…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一艦隊、出撃する!」

 

「テイトク~、私も行くネ!大丈夫。皆、私が倒しちゃいマ~ス!だから帰ってきたら…ムフフッ///」

 

「司令官、では行って参ります」

 

「…あぁ。頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁは言ったものの、やっぱり心配だよ。

もし私達に何かあったら、司令官が危ないもん。

で、でも目の前の敵に集中しなきゃ。私達が勝てば司令官には何も起きないんだから。

それに、司令官もきっと考え直してくれるかも。

こんな頼りになる私にあんな酷い事を言ってごめんって。

やっぱり指輪を渡すのは吹雪しかいないって……!

そうよ、きっと上手く行くよ。頑張るのよ吹雪!

司令官…私に力を貸して下さいっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この戦いが終われば当面の危機は回避できる。

暫くは大きな戦闘も無くなる筈だ。そうなれば指輪を渡してまで戦わなきゃいけない事態は無いだろう。

金剛には悪いが、吹雪にもこれを理由に断るとしよう。

…艦娘と言うのは、皆あぁなんだろうか。恐ろしく執着心が強いと言うか…。吹雪のあの変わり様を見ると、金剛も信じられなくなってきた。いや、金剛だけじゃない。長門も、明石も…。

 

明石か。

そう言えば明石とは、ほとんど話していないな。

あの明石迄があぁだとは思わないが…。良い機会だ。少し話をしてみるのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪、前に出過ぎだ!!」

 

「で、でも長門さんや金剛さんばかりに辛い思いはさせられません!」

 

「ヘイ、ブッキー!ワタシ達は戦艦デス!なめてもらっちゃ困るネ!」

 

「金剛の言う通りだ。おまえは…うああっ!!」

 

「な、長門さんっ!」

 

「ナガトッ!」

 

「だ、大丈夫だ!それより抜かせるなっ!ここを突破されたら鎮守府は丸裸だぞ!」

 

「で、でもワタシ達はここを動けませンッ!」

 

「吹雪っ!おまえ達駆逐艦だけでも後を追えっ!鎮守府に着く前に倒すんだっ!」

 

「はっ、はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督さん、どうしたんですか?こんな所に」

 

「いや、あまり明石と話す機会も無かったと思って…。ところで、このプールみたいのは何だ?まさか前に言っていた…」

 

「あ、はい、そうです。…提督さんに言われて研究は止まってますけど」

 

「そうか…。その、一つ聞きたいんだが。何だってこんな物を作ろうとしたんだ?」

 

「それは提督さんの身を案じて…」

 

「…」

 

「…分かりました。私も少し本音でお話します。まずこれは提督さんの事を思って…これは本当です。提督さんは、恐らく吹雪ちゃんを見て私や皆に何か違和感を感じてるんじゃないですか?」

 

「…何故そこで吹雪の名が出てくる?」

 

「吹雪ちゃんは私から見ても、提督さんへの執着が強いと思いますからね。これは金剛さんや長門さん、私達艦娘なら誰でも起こり得る事なんです。…もちろん私もです」

 

「…」

 

「私はこれを”艦娘症候群“と呼んでます」

 

「艦娘…症候群?」

 

「私達艦娘は元は船でした。恐らくそれが起因しているんだと思いますが…船は人を乗せるのを前提に造られています。つまり私達は自分を乗せる人間がいないと完成しないんです。

 

「私達は人の姿を得ましたが、絶えず本能で自分を乗せる人間、いわばパートナーを探し続けています。そしてそれは色んな形で現れます。

 

「金剛さんは提督さんと一緒にいたい。吹雪ちゃんは自分だけを見てほしい…。私は…言うまでもありませんね。この薬がそうです」

 

「だが、長門はそんな事は…」

 

「ふふっ、長門さんも私から見たら同じです。提督さんに褒めてもらいたいってね。気付いていませんか?」

 

「…」

 

「でも、これは単なる愛情表現みたいなものですから、問題はありません。ただ、ある条件で発病します」

 

「条件?」

 

「はい。これは私の推論ですが…やっと手に入れたパートナーを失いそうになった時です」

 

「…もし、そのパートナーとやらを失いそうになった時、どうなるんだ?」

 

「あぁ、誤解しないで下さい!別に危害を加えるとかはありませんから!それじゃ本末転倒ですからね。…ただ、強くなるだけです…って、きゃああっ!」

 

「な、何だっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪ちゃん、追い付いたっぽい!」

 

「見て、明石さんの工廠が!?」

 

「夕立ちゃん、睦月ちゃん!飛ばすよっ!」

 

「あっ、吹雪ちゃんっ!」

 

「ま、待ってっ!」

 

 

明石さんの工廠があんなにっ…。明石さん大丈夫かな。無事逃げられたかな?

大丈夫っ。司令官は大丈夫っ!私が着くまで大丈夫っ!

待っていて下さいね司令官っ!

吹雪はどんな事をしても…例えここで沈んでも必ず司令官を守ってみせますっ!!

だから、それまでっ…

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、ここにも敵がっ?て、提督さんは逃げて下さいっ!後は私がっ!」

 

「なっ、無茶だ明石!駆逐に潜水だけとは言え…十体はいるぞ!」

 

「わ、私も艦娘ですっ!こ、この位っ…」

 

「駄目だ!ひとまず退くんだ!港には待機している連中が何人かいる筈だ、そいつらと合流するんだ!」

 

「わ、分かりまし…あっ、ふ、吹雪ちゃん?」

 

「何っ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官っ!どうしてこんな所に!?」

 

「吹雪ちゃんっ!私と夕立ちゃんが引き付けるから提督さんを!」

 

「う、うん、分かった!」

 

 

 

 

 

どいてどいてっ…。

どいてよおっ!

私の司令官を傷付ける奴は、一人残らず沈めてやるっ!!

後一人っ!このこのっ!沈めぇっ!!

やったぁっ!

た、倒しましたよ司令官っ!

怪我は無いですかっ?今、行きますよ!

 

 

 

 

 

 

 

「て、提督さんっ!私も加勢した方が…」

 

「いや、ここは吹雪達に任せて港に行くんだ!」

 

「で、でも…」

 

 

 

 

 

 

 

司令官っ?

ど、どうして逃げるんですかっ?

待って下さい!待ってっ!

私から離れたら危険ですっ!

あ、明石さんっ!何で司令官と一緒に逃げるんですかっ?

何で…何で?

…明石さんっ!?

まさか私から司令官を奪う気なんですかっ!

…させないっ!そんな事させないっ!

例え明石さんでも許さないっ!

司令官はっ…あの人は、わたしのモノだっっ!!

 

 

 

 

 

 

「ふ、吹雪ちゃん!提督は無事よっ!提督さん、敵は吹雪ちゃんが倒して…って、どうして逃げるんです!?」

 

「~ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

な、何だあれはっ!あれが吹雪かっ?

何で俺を睨んでるんだっ?

俺は敵じゃないっ!何でだっ!?

本気で俺を殺す気なのかっ?

指輪を渡さないなんて言ったからかっ?

あ、明石は何故止まる?何故、吹雪の下へ行こうとするっ?あの顔が見えないのか?お、俺達を敵だと思っているんだぞっ!

ま、まさかっ…明石っ、おまえもグルなのかっ?

吹雪に俺を殺させるつもりなのかっ!?

じょ、冗談じゃないっ!

逃げてやるっ!おまえ達に殺されてたまるかっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、吹雪ちゃん、何をっ!きゃあっ!!」

 

「明石さんっ!司令官をどうするつもりですかっ!?例え明石さんでもっ…!!」

 

「ち、違うわ吹雪ちゃん!私達は提督さんの指示で、一旦この場を…提督さんっ!外は危険…あっ!ふ、吹雪ちゃん、あそこっ!潜水カ級がまだっ…!!」

 

「えっ!?」

 

 

 

 

まだ敵が残ってっ…!

大丈夫っ、後一匹っ!

 

「く、来るなっ!」

 

大丈夫ですよ司令官っ!

今行きますっ!今すぐ私がそいつを倒してっ…。

敵は私に気付いてないっ!

この一撃でっ!当たっ…

 

「俺に近付くなっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

……

司令…官?

何で…何で私を?

 

何故…私から…逃げ…るの?

 

どうして…?

 

 

 

 

 

 

 

 

「吹雪ちゃん…吹雪ちゃんは、悪くないっぽい…」

 

「ごめんね。私達が敵を見逃しちゃったから…提督さんが…ううっ」

 

「夕立ちゃんも睦月ちゃんも悪くないよ。私が倒せなかったのが悪いんだよ…」

 

「吹雪ちゃん…」

 

「皆、先に帰ってて。私、明石さんにお話があるの。もしかしたら司令官、助かるかもしれないから」

 

「えっ?む、無理だよ!だって提督さん、もう息して…ひゃっ!」

 

「…」

 

「わ、分かった!先に行ってる。皆には私から知らせるっぽい」

 

「お願いね、夕立ちゃん」

 

 

 

 

 

 

「ふ、吹雪ちゃん、凄い怖い顔してた…」

 

「あんな吹雪、初めて見るっぽい…」

 

 

 

 

 

 

「明石さん、さっきはすみませんでした」

 

「い、いいのよ。吹雪ちゃんが来てくれなかったら私も危なかったし」

 

「…明石さん、お願いがあるんですが」

 

「提督さんの事でしょ?解ってるわ。提督さんがここにいたのは、ある意味運が良かったのかもね」

 

「じ、じゃあ、司令官は生き返るんですね!?」

 

「あ~、それなんだけど…。多分、吹雪ちゃんの考えと違うと思うのよ」

 

「…違う?どういう事です?司令官は…!」

 

「ま、まずハッキリ言うとね…司令官は生き返らないの」

 

「…」

 

「お、落ち着いてっ!私達艦娘は例え大破しても高速修復剤や入渠で元通りになるけど、人間がそんな状態になると死んでしまうの。今の提督さんが正にそうなの。

 

「だからね、私考えたのよ。治すんじゃなくて、新しく作ればいいんじゃないかって」

 

「新しく…作る?」

 

「そう。これなら例えどんな事があっても身体が残ってさえいれば何度でも作り治せるわ…ただ、前も言ったかもしれないけど、完全じゃないかもしれないの」

 

「完全じゃない…?」

 

「うん、まぁ身体自体は完璧に治す自信はあるわ。でも心と言うか…。もしかしたら私や吹雪ちゃんの事、忘れてるかもしれないわ」

 

「そ、そんなっ!」

 

「それでも…やってみる?」

 

「…司令官は…蘇るんですよね?」

 

「そこは保証するわ。ただ最低でも…2週間は掛かるけど。それでもいい?」

 

「…やりましょう!」

 

「ふふっ、そう来ると思ったわ。もし吹雪ちゃんが嫌がっても私が勝手にやったけどね」

 

「えっ?明石さんも…?」

 

「うん、まぁね。だからこんな実験してたの。もし何かあっても私が何とかしてあげようって…」

 

「明石さん…」

 

「吹雪ちゃん、もうそろそろ長門さん達も戻ってくるでしょ?説明はお願いね。まぁ長門さんと金剛さんは反対する事はないと思うけど…頼むわね」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

吹雪ちゃんはもう手遅れね。完全に我を失ってるわ。…フフッ、まぁ私も人の事言えないけど♪

提督さん、私達がパートナーを失いそうになった時、どうなると思います?答えは簡単ですよ。

独占欲が強くなるんですよ。それこそ仲間や姉妹艦が眼中に無くなる程、強烈に。

私がこの薬を作ろうとしたのも、吹雪ちゃんにはあぁ言ったけど、もう一つ目的があるんです。もし提督さんに何かあったら治す名目で、提督さんを作り替えるつもりだったんです。今の私と同じ様に。

…私の事しか考えられない様に。

多分、実験は失敗するでしょうね。でも時間は幾らでもある。何回でもやり直せばいいだけ。

長門さんや金剛さん、吹雪ちゃんではなく、私を選んでくれる提督さんができるまで何回でも…

提督さん、あなたはもう逃げられないんです。例え死んだってね。何回でも黄泉から引きずり出してあげますよ。私達の誰かを選ぶまでね…

 

「フッ、フフッ…ウフフッ…クヒヒッ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令官は死んでない!

帰ってくる!

きっと実験は上手く行きますっ!

だって、司令官と吹雪は結ばれる運命だもん!

あの日、私の前にあなたが現れた時、私には解りました。私はあなたの為に…あなたは私の為に生まれてきたんだって!

今回の事は何かの間違いなんですよ。

そう、きっとそう!

 

私には聞こえますよ、司令官の声が。

早く会いたいって…

私に…吹雪に会いたいって言ってるのが!!

今度は…今度は必ず添い遂げましょうね!

 

待ってて…待ってて下さいね、

司令官っ!!

 




一応前の話の前日譚になってます。
まさか吹雪で2回も話作るとは思ってませんでしたが、タイトル(のパロディ)思い付いたので、関連のある話にしてみました。
次の話は吹雪が異動した後の叢雲の話ですが、こっちの吹雪の事知ったらどんな顔するんやろ…。












艦娘型録

吹雪 自分の記憶を都合よく頭の中で改竄する、ちょっと困ったちゃん。鎮守府に泥棒が入ったと聞いた時も、その時自分は寝ていた事になっている。彼女の頭の中では。

長門 自尊心をくすぐると何でもやってくれるチョロイン。駆逐艦達には完全に見抜かれていた様で、上手く利用されていた。本命は暁型。

金剛 今回は提督と相思相愛の正統派ヒロイン扱い。明石の実験はかなり前から知っていた。彼女が準主役の話が内定している。May be…。

明石 予期せず前回の話同様、オチ担当に。まぁ話の展開上、多少はね?この後3回作り治すのは知っての通り。明石はザオリクを唱えた。

提督 疑心暗鬼に駆られた圭一君状態。吹雪の様子がおかしいなんて俺じゃなかったら見逃してるね!この後3回蘇る。おぉ提督よ、死んでしまうとは何事だ。

睦月 夜な夜な吹雪がいなくなったり、吹雪の私物が増えていくのを変には思ってた。吹雪が隠していた提督さんのシャツをクンカクンカしていたのは誰にも内緒。

夕立 朝じゃないよ!夕方だよ!

叢雲 吹雪とは同期。本来なら一緒にこっちに来る筈だった。頭に浮いてるファンネルのせいで龍田と姉妹説あり。
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