艦娘症候群   作:昼間ネル

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「3人に勝てるわけないでしょ!」

「馬鹿野郎アンタ私は勝つわよアンタ!!」



ルーズレイン

〈やっと…やっと、この時が来たわ…〉

 

一人の艦娘が廊下を闊歩していた。それだけなら何の事もない。だが、もし誰かが彼女の顔を覗き込んだなら、その鬼気迫る表情に恐れおののくだろう。

 

〈この時をどれだけ待ったか。今…この時を逃したら、もうチャンスは無い…〉

 

〈そうよ、これは私の為じゃない…アイツの為。これは可哀想なアイツを救う為でもあるのよ。アイツだってきっと解ってくれるわ〉

 

彼女は廊下を曲がると、大きなドアの前で止まった。

 

〈落ち着きなさい、私。大丈夫よ…今なら邪魔者は居ない…誰も私を止める事は出来ないわ〉

 

〈待っててね司令官…私がアンタを救ってあげるわ…!〉

 

彼女は大きく深呼吸をすると、ドアを開けた。部屋の中に居た人物は、彼女に気付くと顔を上げた。

 

「ねぇ、ちょっといいかしら」

 

「ん…どうしたんだ?」

 

「少し…私に付き合ってもらうわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…イヤだなぁ。帰りたい…」

 

鎮守府の廊下を一人の少女が歩いていた。黒い長髪に白いセーラー服を着た彼女は、一人気だるげに廊下を曲がった。

 

「あれ?もしかして…初雪ちゃん?」

 

廊下を曲がった先で一人の少女が声を掛けてきた。髪を両脇で結い、初雪と呼ばれた少女と同じセーラー服を着た少女は、目を見開いて驚くと次第に喜びの表情へと変わった。

 

「もしかして…吹雪ちゃんの代わりに来る娘って…キャッ!」

 

言い終わるよりも早く初雪と呼ばれた少女が彼女の胸の中に飛び込んで来た。

 

「ううっ…白雪ちゃん…!」

 

「どうしたの、そんな顔して」

 

「だって…ここ知ってる娘、誰もいないんだもん」

 

「大丈夫よ、これからは私と一緒に頑張ろうね。初雪ちゃん、司令官にご挨拶は?」

 

「…まだ」

 

「じゃあ一緒に…って言いたいけど、少し後がいいかな」

 

「…何で?」

 

「う、うん…その…今、叢雲ちゃんが…」

 

「ここ、叢雲ちゃんも居るの?」

 

「その…今は行かない方がいいかも」

 

「…?」

 

白雪が初雪から目を反らし言葉に詰まると、目の前の執務室から何やら言い争う様な声が聞こえてきた。

 

「あれ、あの声…もしかして叢雲ちゃん?」

 

「うん…」

 

不意に執務室のドアが開くと、一人の少女が怒鳴りながら出て来た。

 

「いいから私の言う通りにしなさい!いいわね!?全くもう…」

 

執務室から出て来た少女、水色の長髪に白いワンピースの様なセーラー服を着た彼女は目の前に立つ二人に気付いた。

 

「何よ、何見てるのよ…って、アンタ…もしかして初雪?」

 

「う、うん。久しぶり、叢雲ちゃん」

 

「久しぶりじゃない。元気してた?…そっか、吹雪の代わりってアンタだったのね。まぁせいぜい頑張りなさい」

 

叢雲は二人に手を振ると、膨れっ面のまま立ち去った。

 

「…もしかして叢雲ちゃん、司令官と仲悪いの?」

 

初雪は不安そうに白雪に尋ねた。

 

「う~ん、仲は悪くないんだけど…その…最近の叢雲ちゃん、ちょっとね…。そ、そんな事より司令官にご挨拶しなきゃ」

 

「う、うん」

 

白雪に手を引かれ、初雪は執務室の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪型駆逐艦3番艦の初雪は、先日まで別の鎮守府に在席していた。

ある日この鎮守府に在席していた吹雪が異動になった事で、駆逐艦を何人か回してほしいと彼女の居た鎮守府に要請があった。結果同じ吹雪型の方が良いだろうという事になり、初雪に白羽の矢が立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初雪ったら。ホラ、シャキッとしなさいよ。これから演習よ」

 

「え?そ、そんなの聞いてないよ」

 

「私が司令官に掛け合ったのよ。ホラ、急ぎなさい!」

 

初雪がこの鎮守府に着任して一晩が過ぎた。

初雪は同じ吹雪型の部屋で叢雲や白雪らと一夜を過ごし、今日は鎮守府を見て回るつもりだった。だが、そんな楽観視は叢雲の檄によって早くも打ち消されるのだった。

 

「叢雲ちゃん、初雪ちゃんは昨日来たばかりなんだから、そんな急がなくても…」

 

「あら、この鎮守府で一番練度の低い白雪が何か意見かしら?」

 

「そ、そんな…」

 

「む、叢雲ちゃん、そんな言い方しなくても…」

 

「初雪は黙ってなさい。白雪は甘いのよ。あんたが甘やかすから初雪も前と全然変わってないじゃない。初雪は私が預かるわ」

 

「う、うん…」

 

「む、叢雲ちゃん待ってよ。白雪ちゃん…」

 

「その…が、頑張ってね、初雪ちゃん」

 

叢雲に手を引っ張られ部屋を後にする初雪。そんな初雪に申し訳なさそうに、白雪は目を背けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、あまり見ない娘ね。もしかして、叢雲ちゃんの妹さんかしら?」

 

「妹は私の方よ。私の方が強いけどね」

 

「そ、そうなの?ごめんなさいね」

 

叢雲に申し訳なさそうに謝る長身の艦娘、扶桑。その扶桑の横の同じ扶桑型の2番艦、山城が初雪の前に進み出る。

 

「私は扶桑型2番艦の山城、こちらは私の姉さまよ」

 

「は、初雪です。よろ…しく…」

 

扶桑が握手を求めると、初雪も照れ臭そうに彼女の手を握った。

 

「私は扶桑、これから仲良くしましょうね」

 

「は、はい…」

 

「心配ご無用よ。初雪は私と同じ吹雪型よ?優秀に決まってるわ。…何処かの無駄飯喰らいの誰かさん達と違ってね」

 

「なっ!叢雲っ、アンタねぇ!」

 

「いいのよ山城…事実ですもの」

 

「そ、そんなっ!姉さま…」

 

叢雲と山城の睨み合いに挟まれ、どうしていいか分からず固まる初雪。

 

「さっ、行くわよ初雪。アンタはこの人達みたいになっちゃ駄目よ」

 

「あっ、叢雲ちゃん!ま、待って…」

 

固まる初雪を置いて一人行こうとする叢雲に、初雪は慌てて後を追い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は半日、水上機母艦、千歳と千代田達との演習に費やした。叢雲と違いまだ練度の低い初雪にとってはミスの連続だったが、千歳と千代田の二人はそれを責める事はせず、初雪が着いて来れる迄粘り強く指導した。

 

「ご、ごめんなさい。私、実戦出た事無くて…」

 

「私の方こそごめんね初雪ちゃん。私あまり人に教えるのって苦手だから。大丈夫?給油する?」

 

「アハハッ、千歳お姉は戦いではキリッとしてるけど普段はうっかりさんだものねぇ♪」

 

「もう千代田ったら!でも初雪ちゃんも筋は良いと思うわ。流石は特型駆逐艦ね…給油は平気?」

 

「そりゃそうよ。こう見えても私の姉に当たるんだから」

 

初雪の後ろの叢雲が三人の間に割って入る。

 

「今は練度が低いだけで、すぐにアンタ達より役に立つ様になるわよ」

 

「む、叢雲ちゃんっ…」

 

「そ、そうね、すぐに叢雲ちゃんみたいに強くなれるわ。その時は護衛はお願いね。もちろん給油は任せてね」

 

「…フン」

 

「あ、叢雲ちゃんっ…」

 

初雪は二人に頭を下げると、叢雲の後を追った。

 

 

 

 

 

 

初雪もかつては吹雪、白雪、叢雲と共に同じ鎮守府に居た事がある。その時に姉妹艦である叢雲と過ごし、彼女の気性は知っているつもりだった。

自分には無い自信に溢れた性格は初雪も知っている。初めこそ叢雲に再会した事に喜んでいたが、彼女の司令官や他の艦娘達に対する態度には些か驚きを隠せなかった。

彼女の勝ち気な性格は時に衝突を招く事もあったが、それは相手の事を思えばこその行動でもあった。

だが、久し振りに会った叢雲は言動こそ変わらない物の、明らかに刺があるとでも言うべきか、まるで誰彼構わず喧嘩を売る様な態度に初雪は少なからずショックを受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう?ここには馴れた?」

 

初雪がこの鎮守府に来て一週間。

初雪は執務室に報告に来ていた。初日こそ緊張していた初雪だったが、提督や姉妹艦と過ごす内にその態度は軟化し、今では用も無いのに執務室に来る程になっていた。

 

「うん…。白雪ちゃんや、叢雲ちゃんもいるし…」

 

「そうか。やはり同じ吹雪型を呼んで良かったよ」

 

ふと初雪は、辺りをキョロキョロと見回した。

 

「どうかしたかい?」

 

「うん、その…叢雲ちゃんの事、少し聞きたいんだけど」

 

「叢雲が…何かあったのか?」

 

「べ、別に何もないけど…その、叢雲ちゃん、皆の事、嫌いなのかなって…」

 

「その事か…」

 

「なぁに?何か知ってるの?」

 

提督は軽く溜め息を吐くと、椅子に深く腰掛けた。

 

「実は最近、叢雲の様子がおかしいんだ」

 

「叢雲ちゃんが…?」

 

「ああ。叢雲の性格は初雪の方がよく知ってるとは思うが…最近はそれに輪を掛けて口うるさくなったと言うか…」

 

「な、何かあったの?」

 

「分からない。以前はそうでもなかったんだが、秘書艦になった辺りから様子がおかしくなってね。…何かこう、俺が他の艦娘と接触するのを嫌がる、とでも言うか…」

 

「叢雲ちゃん、焼きもち妬いてるのかな?」

 

「それだけなら良いんだが…他の皆からも初雪と同じ様な事聞かれてるから、少し心配なんだ」

 

「ふ~ん…」

 

叢雲が提督を異性として見ているのは、初雪にもすぐに解った。口では提督の愚痴を言う時もあるが、それを話す時の叢雲はとても嬉しそうだった。

聞けば叢雲はこの提督の着任と共に来た最初の艦娘だと言う。それも叢雲がこの提督を気に入っている理由なのだろう。この時の初雪は漠然とそう思っていた。

 

「…あれ、おかしいな」

 

「どうしたの?」

 

「ああ、こっちの話だけど、最近物忘れが多くて…確かここにあった筈…」

 

提督が机の引き出しを探し始めると同時に、執務室のドアが開いた。

 

「あら初雪、来てたの?」

 

「あ、ああ叢雲。何処行ってたんだ?」

 

「…ちょっと白雪に用事があっただけよ。それより何やってんの?」

 

「いや、万年筆無くしたみたいで」

 

「…フン、どうせまた何処かに置き忘れたんでしょ?そんな事よりさっさと書類に目を通してよ」

 

「ああ、悪い悪い。じゃあ初雪、またな」

 

「うん、バイバイ」

 

提督に小言を言う叢雲を尻目に、初雪は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

〈白雪ちゃん、いないんだ…〉

 

初雪が部屋に戻ると、さっき迄部屋にいた白雪は居らず、少し開いた窓のカーテンが揺れていた。

初雪は自分の布団に寝そべった。

 

〈叢雲ちゃん、どうしたんだろ。白雪ちゃんにも冷たいし…。何かあったのかな?〉

 

布団に大の字になりながら提督とのやり取りを思い出していた初雪は、ふと叢雲の使っている机に置かれている物に目が止まった。別に初雪はそれほど注意力がある方では無いが、叢雲の机に部屋を出る前は見掛けなかった物が置いてあった。それは銀色に光る高価そうな万年筆だった。

 

〈万年筆…?叢雲ちゃん、あんなの持ってたっけ?〉

 

布団から起き上がり、机に近付いた初雪は万年筆を見つめた。

 

〈司令官も万年筆無くしたって言ってたけど…。アレじゃない…よね?〉

 

「あ、初雪ちゃん戻ってたんだ」

 

「うひゃあ!」

 

勢いよく部屋のドアが開くと、初雪は慌てて机から飛び退いた。

 

「…どうしたの初雪ちゃん」

 

「う、うん。な、何でも…ない。白雪ちゃんこそ何処行ってたの?」

 

「え、うん…千歳さんの所」

 

「ふ~ん…」

 

白雪は冷蔵庫から麦茶を取り出すと、喉に流し込んだ。

 

「…ねぇ白雪ちゃん。叢雲ちゃんって、みんなの事嫌いなのかなぁ」

 

「え、そんな事無いと思うけど…。どうしてそんな事聞くの?」

 

「だ、だって叢雲ちゃん、その…みんなと仲良くしたくないみたいだから」

 

「う~ん…。今から言う事は叢雲ちゃんには黙っててね」

 

「え?う、うん」

 

「前は皆と仲良くやってたの。私とも。でもね、初雪ちゃんが来る少し前かな、叢雲ちゃんが急に秘書艦になるって言い出して…。

 

「その辺りからなの。叢雲ちゃんが皆に刺々しくなってきたのは」

 

「何かあったの?」

 

「それは…私には分からないけど…。何て言うか…私や他の皆が執務室に行くと、酷く怒るの。…まるで司令官を誰にも会わせたくないみたいに」

 

〈司令官も同じ事言ってたなぁ…〉

 

「私や千歳さん達も…このままじゃいけないって思うけど、どうしたらいいか分からなくて…」

 

「そ…そうなんだ…」

 

〈叢雲ちゃん、司令官の事が好きだから、皆と喋ってるのイヤなのかなぁ…〉

 

初雪は白雪から受け取った麦茶を飲むと、布団に寝そべった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、なんでそうなるのって聞いてるのよ!!」

 

暇潰しに執務室を訪れた初雪が廊下を曲がると、離れた彼女にも聞こえる程の大声で怒鳴る叢雲の声が耳に入った。

執務室のドアは開けられており、初雪が恐る恐る中を覗くと室内の三人が言い争っているようだった。

 

「落ち着け叢雲。おまえは任務の他にも初雪の面倒も見てるだろ?だから、おまえの負担を減らそうとだな…」

 

「だからって、何で千歳が秘書艦になるのよ!」

 

提督を睨み付ける叢雲、その叢雲を必死に宥めようとする提督、その二人の間でどうすれば良いか分からず困惑する千歳。

 

「アンタ、私よりこいつの肩を持つワケ!?」

 

「叢雲、肩を持つとかじゃない。おまえ達駆逐艦は日頃の遠征任務がある。それに加えて俺の秘書艦も務めたんじゃ体が持たないだろう。

 

「だから千歳がおまえの事を心配してわざわざ代わろうって言ってくれたんだぞ?」

 

「余計なお世話よ!アンタの世話位、私一人で充分よ!」

 

「とにかくこれは決めた事だ。…俺もおまえの事は大事に思ってる。だから少しは休んでほしいんだ。解ってくれ叢雲」

 

「っ…!この馬鹿司令官ッ!!」

 

叢雲は執務室を飛び出ると、初雪には目もくれず駆けて行った。

 

「…ん?何だ初雪。何か用か?」

 

「え?べ、別に用は無いけど。お邪魔だった…かな?」

 

「そんな事ないよ。ちょうど休憩しようと思ってたんだよ。ちょっと待っててくれ、扶桑から貰った美味しい麦茶があるんだ」

 

提督は執務室の隣の自室へと入って行った。

千歳と二人きりになった初雪は、少々気まずい雰囲気を感じつつも椅子に座った。

 

「あ、あの…千歳さん。叢雲ちゃんが…ごめんなさい」

 

「ど、どうして初雪ちゃんが謝るの?…大丈夫よ、私は何とも思ってないから」

 

「あの、千歳さん…。今度から秘書艦になるんですか?」

 

「ええ。叢雲ちゃん毎日忙しそうだから、少しは代わってあげようとしたんだけど…。叢雲ちゃんの言う通り、余計なお世話だったかもしれないわね」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「だから、初雪ちゃんが謝る事は…」

 

「だ、だって叢雲ちゃん、私の面倒で仕事増えちゃって…そ、そのせいで千歳さんにも気を使わせちゃったから…」

 

「フフッ、大丈夫よ。最近は大きな戦いも無いから時間は有るもの。それに私も一度、秘書艦してみたかったの。だから、初雪ちゃんが気にする事は無いのよ」

 

「そうだぞ初雪」

 

提督がコップとやかんをトレーに乗せ、二人の下へ戻って来た。提督はコップに麦茶を注ぎながら語る。

 

〈ん…これ、何処かで飲んだ様な…いつだっけ?〉

 

「それに千歳は、こう見えて結構気が効くんだぞ」

 

「こう見えてって…提督は普段、私がどう見えてるんですか?あの…どうして胸を見てるんです?」

 

膨れっ面の千歳が提督に抗議すると、千歳の大きな胸が軽く揺れた。思わず初雪も心の中で生唾を飲み込んだ。

 

〈い、いつか私だって…〉

 

「ち、違う…って、そうじゃなくて…オホン!千歳は何と言うか…痒い所に手が届くと言うか、こっちが何を考えてるのか解ると言うか…。

 

「前も野暮用で外出した時に、敵が現れたんだが、千歳の水上機の妖精がいち早く俺の下へ来てな。慌てて鎮守府に戻ったよ」

 

「へ~、千歳さん凄いな…」

 

「た、たまたまですよ。妖精さんに提督に報せてって伝えたら、たまたま近くにいたものですから…」

 

「その時、俺も急だったから忘れ物しちゃってな。そうしたら千歳が、そんな事もあろうかと用意しときました、って代わりを用意してくれてな。忘れ物もその日の内に妖精が取って来てくれてな。あの時は助かったよ」

 

「そ、そんな…///」

 

「それに千歳は物覚えが良いから何処に何があるとか、誰がこうしたいって思ってるとか読み取るのが上手くてな。そんな所も秘書艦にした原因かな」

 

「うふふっ。提督の為なら一肌脱ぎます…って、どうして胸見るんですか!?初雪ちゃんまで!」

 

「「あはは、すいません///」」

 

「…そういえば提督、昨日、間宮さんの所で羊羮貰いませんでした?」

 

「え、もしかして見てた?…あはは、後でこっそり食べようと思ったんだが…。そうだな、今持ってくるよ」

 

「あと初雪ちゃん、間宮さんに提督だけズルいって駄々こねて、こっそり羊羮もらったでしょ?」

 

「えっ?ど、どうして知ってるの?」

 

「ふふっ、私は何でも知ってますよ。…提督さんがあの日、何処へ行っていたのかも…」

 

「えっ!?」

 

「…あぁ言ったイヤらしいお店は良くないと思います。大丈夫です、千代田には言ってませんから。あ、羊羮、私が取って来ますね」

 

千歳は椅子から立ち上がり、初雪の肩に両手を置くと、耳元で呟いた。

 

〈あまりその麦茶、飲み過ぎない方がいいわ。…それと白雪ちゃんに伝えておいて。もう少し上手くやった方がいいわよ、って…〉

 

「えっ?な、何の事?」

 

「フフッ、言えば分かるわ」

 

千歳は提督の自室へ入って行った。

 

「…イヤらしいお店って、なぁに?」

 

「は、初雪!これ、最近巷で話題の《遊戯少年》って携帯ゲーム機だ!よ、良かったら貸してやるよ!だから叢雲にはこの事…」

 

「…叢雲ちゃんには黙っててあげる」

 

「…あんがと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈えっ?もうこんな時間?〉

 

自室へ戻った初雪は、疲れが溜まっていたのか猛烈な眠気に襲われた。今日はやる事も特に無いので軽く一眠りしようと思っていた初雪は、夜中に目を覚ました。

 

〈おかしいな…いつもこんな時間に眠くならないのに〉

 

ふと見渡すと、隣で寝ている筈の叢雲は何故かいなかった。

 

〈叢雲ちゃん…こんな時間に何処行ったんだろ?〉

 

初雪が枕元を見ると、昼間、提督に借りた携帯ゲーム機があった。暇潰しに遊んでみようと思った初雪は、肝心のカセットが無い事に気付いた。

 

〈どうしよう…明日借りに行こうかな…〉

 

暫く迷った初雪は、布団から飛び出した。

 

見慣れた廊下の角を曲がると、執務室のドアが静かに開く音がした。

 

〈だ、誰っ!?〉

 

照明が落ちている為、誰かは分からなかったが、大きな人影がゆっくりと執務室から出て来た。

思わず隠れてしまった初雪は、恐る恐る顔を出し様子を伺った。幸いにも謎の人影は初雪には気付いていない様だった。人影は周囲をキョロキョロと見回すと、闇の中へと消えて行った。

 

〈…今日は出直した方がいいかな…〉

 

「初雪、アンタこんな所で何してるの?」

 

「ひゃあっ!…って叢雲ちゃん?」

 

初雪が振り返ると、そこにはまるで幽霊の様に音も無く叢雲が立っていた。

 

「し、司令官にゲーム借りたから、それで…。む、叢雲ちゃんは?」

 

「私?ア、アンタが居ないから探しに来たのよ!早く帰るわよ!」

 

「そ、そうなんだ、ゴメン…」

 

叢雲に連れられ、初雪は来た道を戻った。

 

〈…あれ?叢雲ちゃん、さっき部屋に居なかった気が…〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、初雪はいつもの様に朝の訓練の為、港へ来ていた。いつもなら千歳と千代田の二人が相手をしてくれているのだが、今日は一人しか居なかった。

 

〈あ、そうか。千歳さんは今日から秘書艦だっけ…〉

 

「おはよう初雪ちゃん。今日も頑張ろうね」

 

「うぅ…部屋で寝てたい…」

 

「もう!そんな弱気な事言ってると、千歳姉ぇに言いつけるわよ?」

 

「が、頑張る!だから千歳さんには言わないでぇ!」

 

「ふふっ、冗談よ。…それに私も千歳姉ぇも初雪ちゃんには期待してるのよ?」

 

「えぇ~。わ、私なんかが強くなれる訳無いよ…」

 

「まぁ強さって意味もあるけど、別の意味でもね」

 

「…別の?」

 

「初雪!!」

 

初雪が海に降り立とうとすると、彼女の後ろから甲高い声が響いた。初雪は思わず足を止め後ろを振り返った。

 

「む、叢雲ちゃん…あっ!」

 

叢雲はズカズカと大股で初雪に近寄ると、その手を力任せに引っ張った。

 

「あ、ちょっと…叢雲ちゃん!」

 

「叢雲ちゃん、初雪ちゃんはこれから私と訓練よ?」

 

「その必要は無いわ。叢雲は私が面倒見るわ。あなたには頼まないわ!」

 

「そうはいかないわよ。初雪ちゃんの事は、千歳姉ぇからも頼まれてるんだから」

 

「そんなの関係無いわ。初雪は私と同じ吹雪型よ?私が面倒見るのが筋ってもんよ。

 

「…それに、アンタと訓練してたら後ろから撃たれかねないからね…」

 

「む、叢雲ちゃん!」

 

初雪は叢雲の手をゆっくりと引き剥がした。

 

「初雪、アンタ私の言う事が聞けないの?同じ吹雪型よりこんな水母の言う事を聞く気!?」

 

「そ、そうじゃないけど…千代田さんも私の為にやってるんだし…」

 

「だから私もアンタの為を思って言ってるんじゃない!いいから行くわよ!」

 

「あっ、叢雲ちゃん!ち、千代田さん、ごめんなさい」

 

叢雲に手を捕まれ、引きずられる様にその場を後にする初雪。千代田は苦虫を潰した様な顔でその姿を見つめるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「お、お帰り、初雪ちゃん」

 

ある日の昼下がり。

初雪が叢雲との訓練から帰って来ると、白雪が自分のタンスの中身を整理している最中だった。

初雪達艦娘はそもそも衣装の類いは必要としない。彼女達は人間と言うよりは精霊や妖精に近い存在で、彼女達の着ている衣服や艤装も含めて一人の艦娘として成り立っている。戦闘でダメージを受けた際には、今の自分の状態を示す意味で衣服が破損する。逆に入渠や高速修復材で回復すると、衣類の破損も自然に回復する。

その為、人間の様に暑さや寒さを感じる事も無ければ外的要因以外で体が汚れる事も無い。

彼女達が今の衣類以外を身に纏う事も出来るが、これはあくまで人間の真似をしている様な物で、ほとんどの艦娘は然して衣装を必要としない筈だった。

それだけに初雪は白雪の持ち物の量をとても珍しがった。

 

「白雪ちゃん、いっぱいお洋服持ってるね」

 

「あ、えへへ…。別に集めてる訳じゃないんだけど、気が付いたら増えちゃって…。どれも思い出があるから中々捨てられなくて…」

 

〈白雪ちゃん、几帳面だから物持ちが良いのかな…。私も見習わなきゃ〉

 

「ふうっ、疲れたわね」

 

初雪がのんびりと白雪を見ていると、くたびれた顔の叢雲が入って来た。

 

「あ、お帰り叢雲ちゃん」

 

「ただいま、って…」

 

叢雲は白雪に目を止めると、何かを思い付いた様に彼女に近付いた。

 

「白雪、これ私が貰うわよ」

 

叢雲は白雪のタンスに目をやると、大きめの白いシャツを引っ張り出した。

 

「あっ…!そ、それは…」

 

「いいじゃない。この私が欲しいって言ってるんだから。文句無いわよね?白雪」

 

「…う、うん」

 

叢雲に一瞥された白雪は、それ以上何も言えずうつ向いてしまった。

 

「ち、ちょっと叢雲ちゃん。それ、白雪ちゃんのだし、その…そういうのは良くないんじゃないかな…」

 

「い、いいの初雪ちゃん。叢雲ちゃんが欲しいなら…」

 

「で、でも…」

 

「…」

 

叢雲はそんな白雪に見向きもせず、自分のタンスにシャツを仕舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ある作戦の説明があり、部隊の中に初雪も加わると告げられた。自分が加わる事はないだろうと思っていた初雪は驚く反面、演習の成果を出せるだろうかと、足取りも重く中庭へ向かった。

 

「隣、いいかしら?」

 

初雪が中庭のベンチで一人物思いに耽っていると、二人の艦娘が声を掛けてきた。

 

「あっ、扶桑さん…」

 

扶桑と山城の二人が初雪の隣へと腰掛ける。扶桑は目に隈が出来ており、どこか眠そうだった。

 

〈何か眠そうだなぁ…夜更かしでもしたのかな〉

 

「あ、あの…何か用事でも…?」

 

「特に用事と言う訳でもないのだけれど、初雪ちゃんとはまだお話した事無かったなと思って…。それに明日は一緒に出撃だから、仲良くなりたいと思ったの」

 

「え?ふ、扶桑さん達も出るんですか?」

 

「よ、呼ばれて執務室に一緒に居たのに…!姉さま、私達ってそんなに影が薄いんでしょうか…」

 

「そ、そんな事ないわよ山城。そんな事…そうなの?」

 

「ご、ごめんなさいっ!そ、その…不安だったので周り見てなくて…」

 

「そう言えば、初雪ちゃんはここに来てから初めての出撃だったわね。フフッ、大丈夫よ。あの叢雲ちゃんの妹さんだもの…。あっ、お姉さんだったわね?ごめんなさい」

 

「ううん、叢雲ちゃんの方が強いし、しっかりしてるし…」

 

「そんな事ないと思うわ。…山城、確か前に居た吹雪ちゃんも今の初雪ちゃんみたいじゃなかったかしら?」

 

「えぇそうですね姉さま。最初はオドオドしてましたね。…叢雲は最初から、あぁだったけど」

 

「吹雪ちゃんが…」

 

「そ、それに叢雲ちゃんも最初から強かった訳じゃないのよ。何度か出撃して強くなったんだから、あなたもすぐに追い付くわ」

 

「姉さまの言う通りよ。あんな頭に靴浮かべてる妹なんて、さっさと追い抜いちゃいなさい!」

 

「や、山城。アレは靴じゃないと思うわ…(そう言われてみればアレ何で浮いてるのかしら…?)」

 

「そ、そうですよね姉さま。日本人なら下駄ですよね」

 

「全然解ってないわね山城…」

 

「あの…」

 

暫しの沈黙の後、意を決した様に初雪は扶桑に尋ねた。

 

「…?何かしら、初雪ちゃん」

 

「む、叢雲ちゃんの事何だけど…」

 

「叢雲ちゃんがどうかしたかしら?」

 

「最近叢雲ちゃん、白雪ちゃんや千歳さんにも意地悪するから…。ふ、扶桑さんなら何か知ってるんじゃないかなって思って…」

 

「そうねぇ…。実はね、私、叢雲ちゃんの前に秘書艦していたの」

 

「扶桑さんが…?」

 

「えぇ。恥ずかしいけれど私、あまり出撃の機会が無くて…。せめてこの位はと、秘書艦にしてもらったの」

 

〈…私の制止も聞かず…妹の山城(わたし)を放っておいてまでねッ…!〉

 

「その時はかなり忙しくてね。それこそ夜中までお手伝いする事もあったの。…その辺りからかしらね。叢雲ちゃんが秘書艦を代わるって言い出したのは」

 

〈ナイスよ叢雲ッ!〉

 

「な、何で叢雲ちゃんは秘書艦を代わるって言ったのかな?」

 

「もしかしたら誤解しているのかもしれないわね。…私と提督がその…そんな仲なんじゃないかって。あ、誤解しないでね、提督の事は尊敬してるわ!で、でも叢雲ちゃんが疑っている様な事は無いわ!…でも提督から誘われたら、私…///」

 

「大丈夫です、姉さま!もし提督が何かしようものなら、私がスリガオに沈めてやりますわ!!」

 

「や、山城っ!提督がそんな事する訳ないでしょ?…で、でも提督に…提督にレイテ沖に突入したいなんてお願いされたら…私///」

 

「ど、どこですか!?姉さまのレイテ沖ってどこですか!?艦橋?弾薬庫?オメ「山城ッ!!///」

 

〈な、何言ってるかよく解んないけど、叢雲ちゃん、司令官が他の人と一緒にいるの焼きもち妬いてるのかな…?〉

 

「あ、あの…扶桑さんは司令官の事が好きなの「そんなワケないでしょ!「どうしてあなたが答えるの山城!?

 

「ハァ…ハァ…と、とにかくね初雪ちゃん!私達、叢雲ちゃんには嫌われちゃったみたいだけど、初雪ちゃんとは仲良くしたいの。だから私とお友達になってくれるかしら?」

 

「う、うん…ふ、扶桑さんみたいな綺麗な人が友達なんて、し、白雪ちゃんが聞いたら驚くかも…」

 

「ウフフ、白雪ちゃんはとっくにお友達よ」

 

「そ、そうなんだ!エヘヘ、う、嬉しいな…」

 

「…私と友達になるのは嬉しくないワケ?」

 

「も、もちろん邪魔し…じゃなかった山城さんとも「今何て言ったの?邪魔城(じゃましろ)?初雪ちゃん、あなた私の事そんな風に「エイッ!」ガハッ!!」

 

延髄に扶桑の手刀を喰らった山城はそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「もう、山城ったら。こんな所で寝ると風邪引くわよ?…じゃあね初雪ちゃん、また明日」

 

「は、はい…」

 

扶桑は山城をおぶると、鎮守府へと戻って行った。

 

〈…戦艦、怖い…〉

 

 

 

 

 

〈~~?〉

 

〈~~!?〉

 

〈う~ん、うるさいなぁ…〉

 

「あ、初雪ちゃん!」

 

翌朝、朝の微睡みの中にいた初雪は、騒がしい喧騒で目を覚ました。初雪が目覚めると隣で寝ている筈の叢雲の姿は無く、白雪が慌てた顔で右往左往していた。

 

「お、おはよう白雪ちゃん。どうしたの?」

 

「うん、その…。さっきね、叢雲ちゃんが初雪ちゃんを起こして演習に行こうとしたの。だから私、今日初雪ちゃんは任務だよって言ったら、叢雲ちゃん知らなかったみたいで…。司令官に止めさせるって出て行っちゃって…」

 

「な、何で止めさせようとするの?」

 

「そ、それは…叢雲ちゃんに聞かなきゃ分からないけど…」

 

初雪は、布団から飛び起きると執務室へ向かった。

 

初雪が執務室へ辿り着くと、案の定、提督と叢雲の二人が言い合いをしていた。部屋には千歳と扶桑も居り、二人共困った顔で叢雲を宥めようとしていた。

 

「だから、初雪にはまだ早いって言ってるのよ!代わりに私が行けばいいじゃない!」

 

「初雪も何時までも甘やかしている訳にもいかないだろ。何の為にお前に預けたと思っているんだ?」

 

「初雪の練度じゃまだ早いって言ってるのよ!」

 

「大丈夫だ。その為に千歳と扶桑が、自分達も行くと買って出てくれたんだぞ?」

 

提督の言葉を千歳と扶桑も後押しする。

 

「大丈夫よ叢雲ちゃん。私の水上爆撃機隊を信じてちょうだい」

 

「そうよ。あなたのお姉さんですもの。私と山城で守ってみせるわ」

 

「アンタ達なんかアテにならないわ。大事な初雪をアンタ達と一緒にしたら何が起こるか…」

 

「叢雲!言い過ぎだぞ」

 

「…ッ!そもそもアンタが間抜けだから…!」

 

「む、叢雲ちゃん…」

 

言い合いに夢中になっている皆は、ドアの前に立つ初雪に誰一人気付かなかった。

 

「わ、私、叢雲ちゃんに鍛えてもらったもん。が、頑張ってみるから…私の事、信用して?」

 

「…!!」

 

「…あっ!」

 

叢雲は初雪の腕を掴むと、部屋の外へと引きずり出した。

 

 

 

 

 

叢雲に引きずられた初雪は、誰もいない廊下に来ていた。

 

「叢雲ちゃん、どうしたの?わ、私なら大丈夫だよ」

 

「アイツらと一緒に出撃なんかしなくていいって言ってんのよ!」

 

「な、何でそんなに扶桑さん達の事嫌うの?扶桑さんも千歳さんもいい人だよ?こ、こんな事言いたくないけど…最近の叢雲ちゃん、ちょっとおかしいよ…「馬鹿ッ!逆よ!!」

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかしいのは、アイツらの方よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初雪ちゃん、気を付けてね」

 

「う、うん…」

 

初雪は白雪の見送られ千歳、扶桑達と共に海に駆け出した。あれだけ心配していた叢雲は何故か姿を見せず、白雪は初雪の姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 

『…出来れば姉妹艦のこんな事、言いたくなかったけど、この際だからハッキリ言うわ。

 

『昨日、私が白雪から無理やりシャツ奪ったでしょ?…アレ、司令官のよ。前にも司令官の万年筆こっそり盗んだから、私が問い詰めて奪い返したのよ。

 

『最近、司令官が物をどこに置いたか忘れたって言ってるけど、だいたい白雪の仕業よ』

 

『な、何で白雪ちゃん、そんな事…』

 

『知らないわよ。ただあの娘は司令官の物を欲しがるのよ。最近はどうやってか知らないけど、司令官の自室にまで忍び込んでる位よ』

 

〈あの白雪ちゃんが…そんな事を?〉

 

「どうしたの、初雪ちゃん。艤装の調子でも悪いのかしら?」

 

「う、ううん!だ、大丈夫…」

 

初雪の前を滑る千歳が振り返った。だが初雪は千歳の目を見る事が出来なかった。

 

『千歳は…アイツはね!艦載機で四六時中、司令官の事を付け回してるのよ。司令官だけじゃないわ!私達の事もよ。この鎮守府でアイツの知らない事なんてないわ!』

 

〈そ、そう言えば千歳さん、私がこっそり羊羮貰ったの知ってたけど…もしかして視られてたの?〉

 

初陣に緊張していると思っているのか、旗艦の扶桑が優しく微笑みかけた。

 

「大丈夫よ初雪ちゃん。あなたは私達の仲間ですもの。必ず守ってあげるわ」

 

「あ、ありがとう…ございます」

 

『初雪、前は扶桑が秘書艦だったって知ってる?多分、司令官は私が無理やり秘書艦に代わったと思ってるだろうけど…どうしてそうしたか解る?

 

『…扶桑が司令官を…アイツを眠らせてイヤらしい事してるからよ!』

 

『ふ、扶桑さんが…そんな事…』

 

『初雪、アンタも執務室から出て来る人影見たでしょ?アレ、扶桑よ。どうやってるのかは解らないけど…司令官はその事を知らないのよ。

 

『初雪、私アイツが…司令官が好きなの。アイツとは初期艦としてこの鎮守府に一緒に来たの。ずっとアイツと頑張ってきた。

 

『そんなアイツが私以外の奴を…アイツが選ぶならまだ許せるわ。でも奪われるなんて…考えたくもないわ…。奪われる位ならいっそ…

 

『私は扶桑達からアイツを守ってるの。…でも、もう私一人じゃ無理かもね…』

 

〈叢雲ちゃんからは、あぁ言われたけど…扶桑さん達がそんな事してるなんて信じられない。私、どっちを信じればいいのかな…〉

 

初雪は海を蹴り、速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?どうしたんだ叢雲」

 

ノックもせず執務室に入って来た叢雲に、司令官は顔を上げた。叢雲は何も言わずうつ向いていたが、やがて覚悟を決めたかの様に顔を上げた。

 

「何で艤装を着けたまま…む、叢雲!」

 

「司令官…悪いけど私と一緒に来てくれる?」

 

叢雲の背中から伸びる連装砲の照準が、提督を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらっ?あの水上偵察機は…千代田の…」

 

海面を走る千歳の肩元に一機の偵察機が止まった。報告を受けているのか、千歳は頻りに頷いた。

 

「な、何ですって!提督が!?」

 

驚いた千歳は足を止め、それに合わせて扶桑、初雪は慌てて千歳の下へと駆け寄った。

 

「千歳さん、どうしました?」

 

「た、大変です扶桑さん!叢雲ちゃんが…叢雲ちゃんが提督を刺して…!!」

 

「!!」

 

〈む、叢雲ちゃんが…?な、何でそんな事…〉

 

『奪われる位ならいっそ…』

 

〈ま、まさか…!!〉

 

「ふ、扶桑さん!一旦戻りましょう!」

 

「そ、そうね千歳さん。初雪ちゃん、ひとまず鎮守府へ引き返しましょう」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、扶桑さんっ、アレッ!」

 

鎮守府の引き返した扶桑達が見たものは、港に大勢の艦娘達が集まっている光景だった。そしてその前に立つ二人の姿。叢雲と提督だった。

 

「む、叢雲ちゃん!」

 

「来ないで!」

 

扶桑達が二人の下へ辿り着くと、叢雲は彼女達に連装砲を向けた。

提督は両手を後ろで縛られ、足を刺されたのか白い軍服は赤く染まっていた。叢雲に片手を掴まれ、片足を引き摺りながら歩いていた。

 

「む、叢雲ちゃん!どうしてこんな事を…」

 

「こんな所に…アンタ達の所になんか、コイツを置いとけないからよ!扶桑、千歳…それに白雪。私はアンタ達が何をしているかは全部知ってるわ」

 

痛みを堪える提督が、叢雲に顔を上げる。

 

「な、何の話だ?扶桑達が何かしたのか?」

 

「いっ、いけません提督!傷に障りますっ!」

 

「…ホント呑気ねアンタは。でも、そんなアンタが私は大好きだったけどね。戦いしか無い私の日常に、初めて温もりをくれたアンタが…。

 

「アイツらが出払っている隙に、隣の鎮守府に逃げ込もうと思ったけど、それも無理みたいね。やっぱりこれしかないか…。

 

「司令官、ごめんね…」

 

「叢雲ッ…!」

 

叢雲の連装砲が司令官に向けられる。数発の砲撃が鳴り響く!!

 

だが、撃ったのは叢雲ではなく、二人を取り囲む群衆の一人だった。叢雲は自分を撃った相手を睨み付けた。

 

「し、白雪っ…アンタッ!」

 

砲撃は叢雲の背中の連装砲を的確に破壊し、叢雲の艤装が彼女の背中からずり落ちた。

 

「ううっ、うわああっっ!!」

 

叢雲は左手に装備した酸素魚雷を、提督と自分の間の地面に向けて撃とうとした。

次の瞬間、叢雲は横からの砲撃に弾かれた。

 

「キャアアッ!!」

 

まるで球の様にその場から転がり飛ばされた叢雲は、慌てて体勢を立て直した。自分を撃った相手を睨み付けるが、その相手が扶桑でも千歳でもないと解ると、叢雲の顔は怒りから驚愕へと変わった。

 

「…アンタ、何で…」

 

叢雲の視線の先には、涙を流しながら彼女に銃口を向ける初雪の姿があった。

 

「ご、ゴメンね叢雲ちゃん…叢雲ちゃんの言ってる事、本当かもしれないけど…それでも…こんなのダメだよ…」

 

「み、みんなっ!叢雲ちゃんをっ!!」

 

千歳の号令に、呆気に取られていた周りの艦娘達が叢雲に掴みかかり動きを封じる。

 

「は、離してっ!離してよっ!私はアイツと沈むのよっ!邪魔しないでよぉッ!!!」

 

数人の艦娘に覆い被さられ、叢雲はもう叫ぶだけしか出来なかった。

 

「提督っ!ご無事ですかっ?その足の傷は…」

 

「だ、大丈夫だ千歳。俺が暴れない為に刺されただけだ。殺すつもりはないと思っていたが…まさか、一緒に沈む気だったとは…」

 

「き、傷も浅い様で何よりです。さ、掴まって下さい。すぐに治療しましょう」

 

千歳は提督の肩を抱くと、心配する他の艦娘と共に鎮守府へ戻って行った。

 

〈叢雲ちゃん、ごめんね…〉

 

「初雪ちゃん」

 

「は、はい…ッ!?」

 

「…よくやったわ」

 

初雪の肩に手を置く扶桑。その顔にはいつもの微笑が戻っていた。だが、その顔は初雪が今まで見た事の無い冷酷な微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、叢雲は提督に危害を加えた罰で軟禁される事になった。提督も彼女の行動には驚いたが、何年も共に過ごした情も働き、上には報告せず別の鎮守府への異動で済ませる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

自室へ戻って来た初雪は少々落ち込んでいた。初雪の言う事を俄には信じられなかった事、そして叢雲に銃口を向けてしまった事を。

 

「白雪ちゃん。叢雲ちゃん、ここには居られないんだってね」

 

「…そうみたいね。でも仕方ないわよ。司令官にあんな事したんだもの」

 

「そ、そうかもしれないけど…。白雪ちゃんは悲しくないの?叢雲ちゃんがいなくなっちゃうのに」

 

「もちろん悲しいわ…でも、叢雲ちゃん酷いんだもの。私が司令官の物、苦労して手に入れてるのに、それを邪魔しようとするんだもの」

 

「…えっ?」

 

「…叢雲ちゃんも司令官をお慕いしてるのは知ってるわ。だから、せめて司令官の物で司令官の温もりを感じていようと思っていたのに…叢雲ちゃん、それさえも邪魔しようとするんだもの、酷いと思わない?初雪ちゃん」

 

「し、白雪ちゃん…」

 

「ウフフッ。それより見て初雪ちゃん。これ、さっきまで司令官が着ていたズボンよ。私が捨ててくるって貰ってきたの♪

 

「ハァ…ハァ…///司令官の匂いがまだ染み付いてるわ♪それにここ、司令官の血がこんなに…!!叢雲ちゃん、もっと深く刺しても良かったのに…。そうしたら、もっと一杯…ああっ///」

 

「…」

 

〈ほ、本当だったんだ…白雪ちゃんがそんな事するなんて何かの間違いだと思ってたけど…。叢雲ちゃんの言う事、全部本当だったんだ…〉

 

 

 

 

 

 

 

〈提督…今はグッスリ寝ているみたいね。それにしても…千代田に叢雲ちゃんを見張ってもらって正解だったわ。

 

〈提督と初雪ちゃんの事になると何か言ってくるのに、今日に限って大人しいと思ったけど、まさか、提督を道連れに心中しようとしていたなんて…。

 

〈でも私達の偵察機は何処でも行ける、何時でも見てる。私と千代田に隠し事なんて無駄よ叢雲ちゃん。

 

〈もちろん、扶桑さんのしている事も知ってるけど…。扶桑さんも意外と大胆な一面もあるのね。こ、今度私もっ…!千代田、ゴメンね。お姉ちゃん先に大人の階段登っちゃうわ…///

 

〈それに、高速修復材にあんな使い方があるなんてね。こればっかりは、千代田にもナイショにしなきゃね。ウフフッ♪〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈提督…寝ちゃいましたか?ウフフ、完全に眠ってるわね。では失礼して…。ね、寝ていると解っていても、服を脱がす時はドキドキするわね///出来れば私も提督に脱がしてほしいのだけれど…山城が聞いたら大破しそうね。

 

〈それにしても…高速修復材って面白いわね。私達艦娘は何ともないのに、人間の提督が飲むと眠気に襲われるなんて。

 

〈提督は入渠ドックに近付かないのは、変な下心を出さない為だと思ったけど(別に構わないのだけれど)…この事を知っている大本営が、私みたいな事を考える艦娘を警戒して知らせないのかしら…?

 

〈味もしないから、麦茶に混ぜても疑われる事もない。しかも一度飲んだら何をしても数時間は目覚めない。…そう、何をしても…///

 

〈千歳さんは提督にやたらと麦茶や熱燗を飲ませたがるけど…恐らく知っているわね。

 

〈まぁいいわ。私と提督の一時を邪魔しないなら…。

 

〈提督、どうか私の事をはしたない女だなんて思わないで下さいね?女の私からこうして提督と交わりたいだなんて、とても恥ずかしくて言えません。

 

〈いつか提督から誘って頂けるのをお待ちしています。それまでは、こうして夢の中で…んっ///〉

 

 

 

 

 

 

それから数日後、叢雲は異動という形でこの鎮守府から姿を消した。初雪はそれに付いていけないか提督に尋ねたが、何故かと問われると答える事が出来なかった。

結局、初雪はこの鎮守府に残り、提督にも白雪や扶桑のしている事を知らせる事は無かった。

 

言えなかった。

 

初雪は…彼女は叢雲とは違う。例え戦艦が相手だろうと果敢に立ち向かう強さも無ければ精神力も無い。

叢雲を捉えた時の扶桑の顔を見た瞬間、初雪は理解した。自分はもう、クモの巣に囚われているのだと。

もう自分に味方はいないのだと悟った初雪が最後に選んだのは…

何も見ない事だった。

 

今日も、初雪の何事も無い一日が始まる…。

 

 




いつもだと主人公が…みたいな感じですが、今回は真逆の主人公以外みんなアレみたいな感じです。叢雲どうしちゃったんだ?みたいなのが伝わってれば嬉しいんですが。
タイトルは東方の曲で『策略の雨』って意味らしいです。

早いもので、投稿始めて1年経ちました。最初は設定や構成も好きな作家さんの真似から始めましたが、だんだん自分なりの展開が出来る様になったと思います。書いた後にUA数見ると、読んでくれる人いるんだと思ってホント励みになります。
まだネタはあるので、もう1年位は続けれたらなぁ~と思います。

次回は???で、前にも似た様なの書きましたが無駄に壮大な話です。bad endですが。(28話に当たります)





艦娘型録

提督 叢雲の耳のファンネルを見ていてつい「バニーガール着てみない?」と言ってしまい、パロスペシャルを掛けられた(2回目はOLAP)。3回目は言うまいと注意している。行ったお店には月一で通っている。

叢雲 提督から「バニーガール着てみない?」と言われ、ついついパロスペシャルを掛けてしまった(2回目はOLAP)。もう一回言われたら、着てあげてもいいかなと思っている。

初雪 唯一まともだと思っていた白雪が変な性癖の持ち主でドン引きした。この後、吹雪の居る鎮守府に行けないか尋ねたが、吹雪が一番ヤベー奴だとは夢にも思っていない。提督から借りたゲームでは【戦士達の王 拾三】がお気に入り。庵使い。

千歳 提督(と私の)記録日記が、昨日とうとう10冊を越えた。一部の艦娘から、書籍化を望む声も上がっている。提督の通うお店に爆撃でもしてやろうかと思っていたが、提督のお気に入りの娘が自分に似ていたので大目に見る事にした。

千代田 最近、軽空母に改装したら明らかに胸のサイズが大きくなって、提督の視線を強く感じる。千歳には提督の事は何とも思ってないと言っているが、万が一の時の勝負下着に抜かりは無い。

扶桑 隣の鎮守府に異動した吹雪になつかれていた。本人も満更でも無かったが、風の噂で吹雪の憧れの人が赤城に変わったと聞いて週一ペースで手紙を書くようになった。まだ返事が来ない。

山城 扶桑が修復材を睡眠薬に使える事に気付いたのは、入渠ドックに来ていた提督を覗きと勘違いした山城がドックへ突き飛ばした際に、提督が中で寝てしまったのが切っ掛け。扶桑が夜中に抜け出しているのは知っているが、詳しくは聞けない。

白雪 少し手癖が悪い。匂いフェチ。今回の件ではコレクションがより充実したので、叢雲には感謝している。
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