This work end エルフ課長のさいなん   作:ARice アリス

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人魚たちのあくあろ~ど 水辺からの日常・深海への誘いー

夜の水族館、オレンジ色の誘導灯がわずかに足元と暗い水槽を鈍く照らす仄暗い通路

 

静まり返った水槽の手前、深海魚コーナーで何かの影が動いた

 

恐る恐る。タカアシガニ水槽の角を見やると

 

土茶色の鱗、ぬめるようなその魚の身体は異様なほど太く、人間の男性の足が生えていた

 

ソイツの目の前には、半透明の骨が透けている尾びれを持つ人魚が覆っていた

 

ギョロリとしたその魚眼、双眸をこちらに気が付いたのか振り返ると

 

全貌が明らかになる

 

 

 

人魚は胴体からサシミにされていたのだ!!

 

たまらずふたりは抱きあい。泣きだした

 

その役の演者である(・・・・・・・)ヒラメとカレイの人魚はさすがに擬態を解く(・・・・・)と血のりを拭きつつ慰めに向かった

 

 

「…っはー。こわかったねー。ぺあちゃ大丈夫?」

といってもう一人の 鱸・スズキ人魚のハズキはペアの愛称の 鮭・サケのカシオにハンカチを差し出す

「ありがとう。はーちゃん…」

ハズキはペアの赤らみが解けたのを見て目を合わせてにっこりほほえむとチョコバナナの屋台出てる!いこ!とほお を赤くするカシオに気が付くことなく引っ張っていった

 

「はーーーーーーーーっ、驚きました。新鮮でしたねぇーーーー」

おっとりとした頬に手をあて、たのしそうにぼんやりしている

どことはいわないが体格の大きなマンボウのナンゴウ

「まったく、ぼさっとするんじゃない。後が詰まっているんだ。」

ほら、いくぞ。委員長気質なハンマーヘッドシャークのカドワキが続々と出てくる人魚たちの邪魔にならないように不器用に手を引いて先を行く。それを見てナンゴウは慈愛の表情で笑みを浮かべ、頭を背中によりかかりながら歩いて行った

 

開催されている祭りスペースに手を引いてゆく

 

 

電機製ではなくロウソクで灯る提灯がならび

たくさんの出店からはかぐわしい香りや独特の機械臭なんかが大勢のヒトの声とともに印象を与えた

 

 

そう、水族館と合作して近隣の商店街を使い祭りが開かれていた

 

 

ロウとミヤノはお祭りのおみやげを渡し、一緒に楽しむために。そう!あの子たちのために来ているのだ!

 

「か、かたぬきじゃねえ!これは……」

 

「ま、まるでミシンのごとく、いや!電熱ノコのようにスッパリきれいに切り取られているッッ!スサマジイスピードだッッッ!」

 

「で~きた、はい」

 

「ご、ごせんえんに…ウゥ…なりまーす。」

 

「阿修羅像、五千円、たしかに。また、よろしくおねがいします。」ね!と言い残し目が笑っていない笑顔のロウちゃん

 

がやがやと周りの観衆の女性たちは驚きの表情で拍手で彼女を迎えた

 

「ロウちゃん!何やってるの!」

途中から見守っていたミヤノが駆け出してきた

「あそこの屋台があのイワシの子から一万円取り上げたときに、ね」

 

ん~?ならよろしいかしら。

イワシ・鰯のごとく体が弱い(守護らねばならぬ子ども)彼女は海獣水槽組(おねえさん)にとって愛護・保護の対象なのだ(YESなんちゃらNOなんちゃら)

「早くイカ焼き持って行きましょ」

ロウは大きくまとめた一袋の二別れの手持を片方持つと

「あたしも持つわ」

ふふ、とミヤノは小さく笑った

「なによ」

ミヤノは微笑むと

「い~え、なんでもありませんわ」

二人は言いなさいよ~!なんて言いながらいつもより静けさの待つ水族館へと戻っていった

 

 

 

「ちゃ、チャンチャンチャンチャン…」

眼の色を失った。失われたカシオが屋台の鉄板の前でたたずんでいた

「ど、どーしたのその子?」

ハシボソカラスの鳥人の店主も驚いている

 

「シャケの人魚なんです…この子」

ハズキはどこでタガがはずれたやら…いつもと違うはしゃぎっぷりに驚きつつ

いい傾向だと喜んでいたのだが

「あー、食べていいか悩んでるんだ」

苦笑いで鉄板を扱う店主

「ちゃん、ちゃ。どうしてそれを!?」

 

 

「いや、その駄菓子フルアーマーを見せられたら…ねえ」

 

彼女の身体の周囲にはには両手にたこ焼きお好み焼きたこせんべい、頭のバンダナにはイカ焼きチョコバナナりんご飴が刺さっており、背中のポーチにはかき氷各種わたあめたちの扇隊形で彩られていた

まさに祭りの権化、駄菓子フルアーマーと呼べる究極形態だろう

 

ここにご当地である鮭のちゃんちゃん焼きが加わればもはや「まつりごっど」だろうことはたやすい

 

境内で食べるスペースがあるそうですよ、と通りがかりの眼鏡の人魚さんに助言をもらったのでハズキに持ってもらい、恥じらいつつ向かったふたりであった

 

 

 

 

「ふふ、微笑ましいですねえ…………ねっ 」

 

腕を絡ませるナンゴウをカドワキは恥ずかしそうにキュウと瞳孔が狭まり赤くなった目で頬を赤らめながら

 

「さ、最近なんか距離感近くないか?そ、そう。ふ、風紀を守ろう」

 

「カドワキくんは昔はやんちゃしてたと思うんですけどね?」

 

 

 

「それはないですよぉ…先生」

 

「-…どれが、ないのかなぁ?」

 

右腕にくっついて腕を絡ませる。

さらに押しつけると形をゆがめる私のやわらかな胸元にカドワキはますます緊張してきたのか目が泳ぎまくってる。フフッ。かわいい

 

今、固く言うと硬派で律儀な彼に私は恋をしている

 

そう、昔は彼と私は今のようなことはあり得ない関係で、想像すらしなかっただろうね

 

最初に出会ったのは私が新任として派遣された高校で彼と出会ったのだ

 

あの異変の日、彼に助け出されてから…

 

 

 

 

 

サキ、シルキーの待機組へとミヤノ、ロウが館内で一旦合流したのはこの水族館の魚類搬入口の前であった

 

 

「サキー、シルキー…!買ってきたわよー」

 

二人は

 

「ありがと!」

 

 

 

 

ほら、とイカ焼き串とかき氷、綿あめをシルキー、キショウに渡し

 

最後にアユの塩焼きをキショウに渡すと綿あめとアユの塩焼きを足の触腕に絡め

口でも含んで食べていたのを物珍しそうに二人の人魚が見ていた

 

海獣水槽四人組からジトー、と睨まれるのを意識したのか片割れが咳を一つ佇まいを直すと

 

「どうもありがとう、私はオイカワの人魚のオイカワです。今回誘っていただいて助かりました!」

ややこしいけど覚えやすい名前でよかった、と優美なヒレと色鮮やかな髪色の彼女は照れながら

「私はベニザケのレンと申します。私たちは館内の淡水魚フロアなので、助かります。」

レンは真っ赤なブロンドの髪がきれいな人魚だ

 

 

「もうお二人はどうされたんですか?」

ミヤノが尋ねると二人は気まずそうに

 

「はい、ハタの人魚の新海(アラウミ)さんは今は諸事情で体調がすぐれないとのことで」

 

「あともう一人のアカメの子は来るはずなんですが…」

 

「がっつり肉食系だね」こらっ、とロウがシルキーを叱る。

 

それに笑って

「はい、オイカワさんのような方はなかなか少ないですね…やはり」

 

「なんだよー、気にしすぎだろー」と気やすい仲なのだろう肩を小突くとレンはふふっと嬉しそうに笑った

 

「今度水球しない?」「海獣系人魚かあ、いいねえ、おもしろそう」「ところで君、誰?」

 

「アカメの人魚、イショーだよ?」

いつの間にか銀色の人魚が混じっていた

 

『「なんか自然に混ざってますけど!?」』

 

イショーは不思議そうに頭を傾げた

 

「こういう子ね、思い当たるわ」

 

ジト目で爆弾級の仕業をしかけた一人の人魚を見やる。

 

サキに尾びれで少し足元に海水を浴びせつつ水分補給飲料のふたを開けて差し出している当の本人は気が付いていないようだ

 

「ともかく、イショー、遅かったよ!なにしてたの」

「ちょっと、トイレ。昨日小魚食べ過ぎてお腹痛くて」

 

「昨日のレシピは…ワカサギだったかしら?」ミヤノは100匹で少し油が来ていたかな程度だったが

 

「私たちは消費カロリー多かったものね」

 

「ふふ、淡水魚と海洋哺乳動物のカロリー差、気になるね」オイカワはむむむ、と自分のバストサイズと自分以外の周りの戦力差に少しうらやまし気に見ていたようだ

 

ね~、と間延びしてイショーは眠たげに空を見た

 

「夜間捕食を行うアカメなのに夜型?」「うん、がんばって合わせてるの」

偉いわね。とくすくすと笑って見せると「なでなで」とイショーが優しく撫でてくれた

 

「…この子。ほしいわ」ロウはガチめのトーンだった…

 

「私がその枠です!」意気揚々と名乗り上げる妹枠のサキにミヤノが甲斐甲斐しく

たくさん食べるキショウの頬をぬぐっていた

そんなサキを蕩けた満面の笑みでシルキーが撫でていた

 

「連れていかれるわけにはいかないなあ」

オイカワがにらみを利かせバチバチと火花が散る

 

それで導火線が付いたのか

 

 

ドォン!

 

と雄々しい音とともに灯の華が咲いた

 

 

 

 

 

あ、始まった!

 

がさがさと草むらから二人の人魚が現れた

「こっち、こっち!」

 

「ぺあちゃん、祭り会場回ってから登山なんてもう足が棒だよお…」

そこらで見かけた木の棒でやっとのこと立っているハズキ

「わっっぷ!」息継ぎしながら歩いていると突然足を止めたペアと前方不注意でぶつかってしまう

 

どうしたの?とペアの視線の先を見ると白髪の髪の人魚があお向けで倒れていた

 

二人は駆け出し向かう

 

「呼吸は…狭まっている…瞳孔…脈拍、尾びれ、鱗の状態、弱く…バイタルが悪い」

 

「こおり、みず…」

 

喋れる元気があることと氷水!?と驚いていると

 

「あっ」 "祭りゴッドセット"が意図せずしてかがんだ状態から彼女に倒れていった

 

 

 

「ごっ、ごめんなさーーーーい」

 

 

「うんん、大丈夫、むしろ助けられちゃったっ」ふふ、と素敵に笑う薄幸の美少女

「どうしたの」

ぷるぷると震えながら二人は赤くなっていた

「あっ、あなた、どこの水槽の子?」

緊張しすぎでしょ、と挙動不審なペアにハズキは若干嫉妬しているのを感じながら言葉を飲み込んだ

 

「でも、よく見ると…」

彼女の身体はホットドックのマスタードやケチャップ、焼きそばのソースにブルーハワイと彩られていて

おかしくて笑ってしまった

 

 

その様子をかしげて笑う二人にさらに笑いの燃料を足してしまったのだ

 

鱸・スズキの人魚のハズキが背負い、街まで戻ってきたが…

 

「混んでて見れないね…」

 

 

「いい処知ってますよ」

苦笑いのイワシの人魚が指し示したのは水族館だった

 

 

 

 

『「こんばんはー…」』

 

そこは本来ショーを行う海獣水槽だった

ハズキはここで実際のイルカショーを見たことがあったが海獣系人魚には出会ったことはない

 

祭りの会場である街のほうへ行かなかったのだろう多数の人魚が見られる

ふたりはおそるおそる除いているが鰯・イワシの人魚の子は慣れたように入ってゆく

「こんばんわ、みなさん。私と友達も混ぜてください」

 

「んー?あっ、シノリちゃん」

 

どこ行ってたのよ!とロウが怒りをあらわにする

 

「ごめんなさい、落とし物を探していたら山まで」

山ぁ!?と叫び始めたためシルキーとミヤノが止めに入る

 

二人に取り押さえられ説教モードの怒りをとりあえず納めたロウは二人の人魚にお礼を述べた

 

「いえいえ!私たちも高台から花火を見るのをあきらめていたところでしたし」

 

「とりあえず花火が終わってしまうよ。みんなで見て楽しもうよう」

 

 

 

 

た~~まや~!

 

シルキーと鰯・イワシのシノリ、サキ、ロウとミヤノがそれぞれハズキとペアを挟むようにきれいな大輪の花火を眺め、掛け声した

それぞれには笑顔が広がった

 

真夏の思い出の一つ、サキは自身の網膜映像から記憶へと焼き付けた

 

 

 

 

花火の音は館内にも響いていたが事務員室の中ではコツメカワウソの白石が電話を取り

隣には桐生さんが不安げに電話線を見ていた

 

「……ハイ、ハイ。それでは。そういうことで」

 

 

「…どうでした?」

 

 

「2泊3日…それくらいかな。漁業組合の方にも声をかけて全員だし、それでも人手は足りない。

 海獣組のみんなも連れて行かないといけないとのことだね」

 

 

「でも…シルキーちゃんは…海を恐れているんですよ!?」

 

「仕方ないでしょう。他も同様、請け負ったそうですし」

 

「私も行きます…!」

 

「いいえ、支援に新任の先生が来るそうなので、その方の援助をお願いします」

でも、と二の次を紡ぐ前に鋭い目で白石が告げる

「貴女にしか頼めないのです。海上に出たら我々はまだ食糧の危機や溺れ死は避けられますが」こう言っては難ですが…

 

「貴重な人間だ…」

 

 

白衣を羽織るとそのまま白石先生は事務員室から出て行った

 

そんな……と泣き崩れる桐生であった

 

その手には『沈没船舶への救助支援要請』と書かれた一枚の書類であった

 

深海への闇の誘いが彼女たちを待ち受けていた

 

 

 

 


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