テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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ようやく正式にパーティーが揃ったので掛け合いを考えるのが楽しいです。
誰と組ませても一番思い付きやすいのはマギルゥですかねぇ…ムードメーカーはやっぱり貴重ですね




第14話 セカンドエンカウント

イボルグ遺跡で一夜を過ごしたベルベットはライフィセット達と外の平原でエレノアと対峙する。

昨晩のエレノアとアルトリウスとの密談を盗み聞いていた彼女は、一層警戒心を向けるよう努めていた。

 

 

「起きたな。具合はどうだ?」

 

「問題ありません」

 

「あの、もうあんなことしないでね。痛いのは、怖いでしょ?」

 

「…大丈夫、私はもう逃げません」

 

 

身を案じるロクロウとライフィセットにそう返事をするエレノア。

自害を図ろうとした昨晩と比べて心に落ち着きを保ったているのがベルベットのみならずアイゼンとガイアにも、ありありと感じられた。

 

 

「ぼくはライフィセット。よろしくね」

 

「え、ええ。よろしくお願いします」

 

自己紹介を始めたライフィセットに呆気にとられたエレノアは戸惑いつつも、礼節を持って応えた。

 

 

「もし逃げたしたりしたら手足を食らうわよ。生きてさえいれば器としての役割は果たせるんだから」

 

「ご心配なく。私は貴方との決闘の前に誓約をかけました。負けた場合相手に従うという枷によって自身を力を引き上げる誓約です。一度発動した誓約は自分でも解除できない、私は貴方との約束を守らざるをえないのです」

 

 

脅迫めいたベルベットの言葉にエレノアは真っ向から食ってかかるように言う。

凛とした佇まいで自身を睨むように見つめるエレノアにベルベットは猜疑心を持ちながら、彼女に忠告をもたらす。

 

 

「誓約ね…なら何としてでもライフィセットを守りなさい。器なんだから。相手が誰だろうと、対魔士でもね」

 

「ええ、わかっています」

 

 

半強制的にとはいえ、これから共に旅する関係となった二人の殺伐とした空気にガイアは今後の行く末を案じつつ、話題を切り替えた。

 

 

「それでこれからどうするんだ?ひとまず近くの街に向かうとしてその後の行き先は決まってるのか?」

「もちろん決まっておる。儂らの次なる旅路の行く先はイズルトじゃ」

 

「イズルト…何でまたそんなところに」

 

 

マギルゥの発した地名にガイアはそこに向かう理由を問う。がマギルゥは答える素振りを微塵も見せず、何故かライフィセットに話を振る。

 

 

「その説明は坊にしてもらうかの」

「え、ぼく!?」

 

「本を持っておるのは坊じゃぞ。そもそもかーってに人様の所有物を奪いかーってに自分の鞄にしまったのじゃ。ともすれば当然本の所有権は坊にあり、それが大きく関わっている以上説明する義務ももちろん坊にある」

 

 

何とも無茶苦茶で適当で無責任な言い分。

だが筋が通っている部分も少なからずあったのでライフィセットは小言をしまって、ガイアを始めとするベルベット以外の面々に説明する。

 

 

「ぼくがローグレスで見つけた古文書なんだけどこの本の表紙見て」

 

「御座にあったのと同じ紋章か」

 

「ということはこの中にはカノヌシについての記述が記されていると考えてよさそうだな」

 

「カノヌシ打倒の手がかりがあるかもな」

 

 

ライフィセットの提示した本の表紙を見たロクロウとアイゼンが意見を交わす。

そんな中まじまじと書物に目を留まらせたガイアはライフィセットに質問をかけた。

 

 

「古代語か、ライフィセットちょっとその本見せてくれないか」

 

「うんいいよ」

 

所有権を有する本人からの正式な許可を得たガイアはそれを受けとると、ページを開き瞳を右から左へせわしなく動かしていく。

 

 

「読めるの?」

 

「古代語の勉強は昔よくしてたからな…うん、読めないことはないか…しばらくこれを預からせてくれないか?」

 

「解読、やってくれるのね」

 

「ああ、ただあんまり期待しないでくれよ。古代語の知識はあると言っても王都から持ち出した書物が相手じゃ付け焼き刃同然だ。この中の全てを解読することははっきり言って自信はない」

 

「少しでも可能性があるならいいわ。時間は気にしなくて構わない。でもできるだけ急いで」

 

「そのつもりだ。善処する」

 

「まあ最悪どうにもならんようならグリモワールを頼ればよい」

 

「グリモワール?」

 

 

ベルベットと会話をしていた最中、割って入ってきたマギルゥの言葉にガイアは書物を閉じて顔を上げた。

 

 

「イズルトにおる儂の知人じゃよ。最も儂の元に来た最後の便りがイズルトからだったというだけで今もそこにおるかはわからん」

 

「マギルゥの知人か…」

 

 

短い付き合いながらもマギルゥの人物像を把握しているガイアはグリモワールなる彼女の知人を、脳内でイメージして思い浮かべる。

マギルゥと同じく常日頃からふざけた言動で他人を煽るのを趣味とする底意地の悪い人間なのか。

もしくは頭に火が付こうとも動じぬ常人離れした精神力の持ち主なのか。

 

いずれにしても自分の物差しでは計り知れない何かを持った人物なのだろうと、ガイアはマギルゥの印象から予想した。

 

 

「まともじゃないことだけは断言できるな」

 

「ガイアや、その発言の主旨をくわーしく説明してもらおうかのう」

 

「まずはここがどこなのか知る必要がある。バンエルティア号との連絡を取らなければならん」

 

「そうならそろそろ行くわよ」

 

「だな」

 

「こーら!儂の言葉を無視するでなーい!」

 

アイゼンとベルベットに会話を遮られただけでなくガイアにすら、あっさりスルーされたことに腹を立てたマギルゥは声を大にして叫ぶ。

しかしガイアを始めとした何人かは彼女の声に反応するでもなく歩みを始めた。

 

 

「軽い…最近儂の扱いが軽い…」

 

「そうか?元からこんな感じだったろ」

 

「納得いかん!お主ら全員魔女裁判にかけてやる!異議の申し立てをしてやるわい!」

 

 

遂にはロクロウにまでトドメを刺されたマギルゥの不平不満は天までぶちまけられた。

 

 

イボルグ遺跡周辺の地形は渓谷となっており、谷底に落ちぬようベルベット達は細心の注意を払いながら進む。

道中ライフィセットにエレノアに警戒するよう指摘するベルベットと、少し離れて歩くガイアの耳元にアイゼンは横から小声で進言する。

 

 

「エレノアのことだがあまり信用するな。あいつは-」

 

「わかってる。夜の話し合い(・・・・)のことだろ?」

 

 

アイゼンの言わんとしていることにガイアは検討がついていた。

昨晩のエレノアとアルトリウスの密談の話だというのは想像に難くなかった。

 

「警戒はしておく」

 

「知ってるならいい。だが念のため言っておくが昔の付き合いがあるといって油断はするな。紛いなりにもあいつは対魔士だ…最もお前には余計なおせっかいだったか」

 

「いや感謝してる。親切な忠告ありがとう」

 

 

その言葉が自らを気遣ってのものであると理解していたガイアはそう言うとアイゼンはほくそ笑み、彼の返答に満足したのか追及することはなかった。

 

 

「にしても人がまるでいないな。そろそろ誰かしらオレ達の前に姿を現してくれないと困るんだが…道がわからん」

 

「ロクロウ、そう都合よく事は上手く運ばんよ。何せ業魔と海賊、無法者が集まりじゃ。日頃の行いが悪い儂らにそうそう神様が振り向いてくれるはずがなかろう」

 

「人がいた」

 

「うそーん」

 

「マギルゥ、煩い」

 

 

マギルゥが言った矢先に人影を発見したライフィセット。

彼の言葉通り下り道には褐色の鎧を着こんだ男がおり、予想を裏切られたマギルゥは己の頬を二つの掌で押し潰し、おちゃらけた表情を作る。

そんなマギルゥにベルベットはもはや呆れるのすら放棄し一言だけ投げかけると、男に近付く。

 

 

「ちょっといい聞きたいことがあるんだけど」

 

 

ベルベットの声に振り向いた男はアイゼンとロクロウを見渡すと、突如叫び声を上げて彼女に斬りかかった。

 

 

「ひ!?刀斬りの仲間か!来るなああ!」

 

 

垂直に下ろされた剣を奇襲にも関わらずベルベットは容易に回避し一時男の間合いから離脱する。

 

 

「俺が悪かったああ!」

 

「謝りながら斬りかかるな!」

 

「何なのこいつ」

 

 

錯乱したかのように剣を振り回す男にロクロウとベルベットは似たような反応をしつつ、応戦する。

完全に怯えている男の剣の軌道は読みづらいが動き

はちゃめちゃな剣筋に対しベルベットはブレードを横払いに振るわせ、衝突した男の武具を軽くあしらう。

頭上にまで押し返された男にロクロウが二刀小太刀を縦割りに下ろし、一振りの元に刀身を叩き切った。

 

 

「ふん!」

 

「剣が…斬られた!?そ、そんな…」

 

 

もはや戦う術のない男は全身から力が抜け落ち片膝を付く。

 

 

「頼む、いやお願いします!業魔様どうか命だけは、命だけはお助けを!」

 

「心配するな。お前の命を取る気はない」

 

「嘘をつくな!そうやって油断させて俺を殺す気だろ!」

 

「落ち着けって。オレ達は別にお前を取って食おうって話じゃないんだ」

 

「騙されないぞ!俺を殺しても何の得にもなんないぞ!」

 

「あのーとりあえず話を聞いてくれないか?」

 

「嫌だ!俺はまだ死にたくない!」

 

「ちぃっーともこっちの話を聞く気ゼロじゃな」

 

 

ライフィセットを除く男三人集の声に耳を傾ける気も一切なく男は恐れ戦き、命乞いに熱心になっている。

その醜態にマギルゥは溜め息を付き、見かねたライフィセットはどうにかせんと一計を講じた。

 

 

「怖がらないでこの人対魔士だよ」

 

「え…あ、わ、私は一等対魔士エレノア・ヒュームです。落ち着いて話を聞かせてください」

 

「確かに対魔士だ…けどなんで対魔士がこんな奴らと一緒に?」

 

 

エレノアの着る対魔士の服装を認めようやく男は冷静さを取り戻したが、恐る恐る涌き出た疑問を口にする。

その疑問は最もだろう。

清廉潔白なイメージが世に浸透している対魔士が身なりの悪い女や目付きの悪い男、フードで目元を隠した不審な男と行動を共にしているのだから。

違和感を覚えない方がおかしい。

 

 

「極秘任務の途中なのです。ここがどこだか教えてもらえませんか?できれば港の場所も」

 

「どこって、アイルガンド領のカドニクス島だ。この渓谷を進めば港に出る」

 

エレノアの嘘のおかげで安心しきった男は先ほどの狼狽えぶりは鳴りを潜め、ベルベット達に情報を提供した。

 

 

「バンエルティアにシルフモドキ(つなぎ)飛ばす(つける)

 

「お願い」

 

 

腕組みをしたアイゼンがベルベットに許可を得たのを確認したガイアは、ゼクソン港でベンウィックに伝えた通りにシルフモドキを送る。

その一方でロクロウは別に気がかりなことがあったのか男に訊ね問うた。

 

 

「もうひとつ刀斬りってのはなんだ?」

 

「ああ、最近この辺りで暴れてる業魔だ。剣士ばかりを狙ってその刀を叩き斬るんだ。一等対魔士まで何人もやられてる」

 

(一等対魔士まで…相当の腕の立つ業魔みたいだな)

 

「だから刀斬りか」

 

刀斬りなる業魔にガイアは危惧をロクロウは好奇心を、それぞれ異なる感情を抱く。

 

 

「そいつの刀は異国で作られた業物でな。盗んでやろうと住処を探してたら襲われちまったんだ。あんたも気を付けた方がいい。背中の大太刀、刀斬りに見つかったらやばいぜ」

 

「応、やばそうだな」

 

 

親切心からであろう男の警告にロクロウはどこか楽しげに応えた。

 

 

「しかし業魔相手に盗みを働こうなどとは自業自爆じゃな」

 

「さすがにバカすぎたよ」

 

 

マギルゥのからかいを真に受けた男はがくりと肩を落として項垂れる。

 

「きっとこれを機に足を洗えということです。業魔に殺されなかった幸運な命をもう悪事で穢さないでください」

 

「………」

 

 

まるで慈母のような言葉とまごうことなき真摯な気持ちを放つエレノアに男は呆気に取られ、暫し茫然と佇む。

無言になった男にライフィセットが首を傾げた時彼はエレノアに二の句を告げた

 

 

「そうだな…あんたの言う通りだ。山賊から足を洗ってこれからは真っ当な人間として生きるよ…」

 

「それがいいです。まともに生きるということは素晴らしいことですから」

 

「それでよ、あんたさえよかったら俺と一緒にやり直してくれないか?姉ちゃんと一緒なら俺、なんとかやっていける気がするんだ」

 

 

そう男が大胆な告白をエレノアに言ってのけて数秒と待たずして、ライフィセットは隣から何か負の気配を感じた。

威圧のようなそうでないような。恐怖のようでそうでないような。とにかく強い力を感じさせる何かの正体がライフィセットはひどく気になった。

彼はその源泉たる人物に話しかける。

 

 

「ガイア、どうしたの?」

 

「…どうしたって、何が?」

 

「なんだかよくわかんないけど、なんか変だよ?」

 

「…変?俺はいつも通り普通だぞ……」

 

 

ガイアが感情は読み取れないがその言葉が嘘である事実だけはわかる。

そうでなければあのガイアが、抑揚のなくかつ感情の込もっていない声色を出すはずがないのだから。

 

 

「ごめんなさい。私は対魔士としての職務がありますすので貴方の手助けはできそうにありません。ですがそのお気持ちだけはありがたく受け取っておきます」

 

「……そうか…残念だ」

 

 

律儀に断ったエレノア。

すると不快な気配はなくなりライフィセットはガイアに話しかける。

 

 

「元に戻った」

 

「さっきから何言ってるんだ?ライフィセット」

 

「ううん、何でもない。僕の気のせいだったみたい」

 

 

今度は声の調子が戻った。いつものガイアだ。

ライフィセットは安心すると一つ新たに気になる疑問を抱いた。

 

 

(でもなんでガイアの様子が変だったんだろう)

 

 

その理由を彼がわかるようになるのはいつになるだろうか。それは他ならぬライフィセット自身もわからない。

 

 

 

 

「刀斬りとは物騒じゃのーしかしこうも先々でトラブルが起こるなぞ儂らには疫病神でもついとるのかのう?」

 

「疫病神はいないだろう。死神はついているがな」

 

「そりゃますます洒落にならんわ。儂はまだまだ長生きしていたいんじゃ。後数百年はピチピチのまま生きる予定じゃしのー」

 

「もしマギルゥが長生きしたら憎まれっ子世に憚るって言葉は真実ということか」

 

「…ほんとに口が辛辣になってきたのう」

 

盗賊稼業から足を洗うと宣言した男と別れて早々にマギルゥが愚痴を溢し、アイゼンの自虐めいた返しにますます肩を落とす。

その上ガイアにまで追撃を加えられてしまう始末だ。

一方で

 

 

「死神の、呪い?」

 

「…アイゼンは自分の周りにいる人達を不幸にする力を持ってるんだって」

 

「それはどういった類いの力なのですか?」

 

 

意味が理解できないエレノアはライフィセットに助け舟を求め、彼はエレノアの期待に一分の狂いもなく答える。

 

 

「力というよりは加護といった方が正しいだろうな」

 

 

そこにガイアも交ざりちょっとした講座が始まる。

 

 

「加護…ですか?」

 

「アイゼンは聖隷だ。そして聖隷は本来人々の祈りを受けてそれぞれの力に応じた加護をもたらすんだが…アイゼンは少し違う…アイゼンはその力の及ぶ範囲、領域に反転した加護を与える」

 

「それがライフィセットが言った…」

 

「死神の呪い…それがアイゼンの加護だ」

 

 

ガイアはエレノアの呟きに首を縦に振ると会話を切り上げる。

そしてライフィセットと並んでエレノアの元を離れる。

 

 

(彼らにも意思がありそれぞれの交友関係がある…まるで私達と変わらない、人間みたいに)

 

 

海賊の副長を自負しているのもだがそれより何より聖隷が自我を持ち、自らの意思で行動している事実の方がエレノアには信じられなかった。

だが信じようと信じまいと現実として事実が目の前にある。

ベルベットやマギルゥと仲睦まじく会話するライフィセット。ガイアとロクロウの二人と何事かを言い合っているアイゼン。

彼らがそのようにしているのが覆しようのない証拠だ。

 

聖寮での全てが否定されているような気がしてエレノアは整理のしにくい思いが去来する。

これまで信じていた物が揺らいでいきそうになる思いを、揺らぎかけている聖寮への信頼をエレノアは無意識に繋ぎ止めていた。

 

 

「あれは…」

 

 

先頭を行くベルベットが歩行を止め、他の面々は彼女の視線の先を辿って行く。

血を滲ませたような黒塗りの甲冑と刀を携行した業魔が仁王立ちでそこにいた。

 

 

「刀斬りってのはこいつか」

 

「その刀、征嵐(せいらん)か」

 

 

ロクロウの目に留まったのは刀斬りの手にある業物。

彼はどうやらその刀を知っているようで口角を吊り上げる。

 

 

「やる気みたいね」

 

 

刀斬りはベルベット達を刀の錆びにせんと業物を振りかざし斬りかかる。

狙いはベルベット。

彼女はブレードを抜刀しすかさず応戦する。

数瞬の内に幾度も刃を交わすが一等対魔士を蹴散らしたと噂されるだけあって刀斬りの剣技は冴え渡っていた。

結び合う中でベルベットは剣での対決は不利と悟り攻め方を変える。

 

 

「これなら、…説破!」

 

『くう!』

 

 

剣技に蹴りを混ぜた戦法で刀斬り業魔の刃を退けるベルベット。

更に左手の業魔手を解放しその指先刀斬りの鎧に触れる。いや正確には掠めた程度なのだが彼女の業魔としての特性を発揮するにはそれでも申し分ない。

 

 

「ジェットブリザード!」

 

 

-業魔手

業魔の象徴たる黒き左手で敵に触れることによって、その対象に応じた技を引き出すことを可能にするベルベットの特殊技能。

 

左右に高速で移動しながら、冷気を纏わせた刃による斬撃を繰り出し刀斬りを翻弄していく。

彼女によって生み出された隙を突くべくガイアは橙色の弾丸を銃身のスロットに込め、アイゼンも聖隷術の詠唱を整える。

 

 

「風の刃よ断絶しろエアスラスト!」

 

 

一度の銃撃で連続して射出された三つのオレンジの光弾と円盤状をした風の刃が、真っ直ぐ刀斬りの元へ飛んでいく。

 

 

『ふんっ!』

 

 

刀斬りはそれらを気迫の込もった一振りで霧散させるが、すかさずエレノアとライフィセットの攻撃が待ち構えていた。

 

 

「貫け緑碧!霊陣・空旋!」

 

「白黒混ざれ、シェイドブライト!」

 

 

槍の高速回転により引き起こされた旋風に足を取られて移動能力を奪われた刀斬り。

その足元より這い出た黒き腕の束が鎧に纏わり付いた時、刀斬りは鎧を貫かれたわけでもないのに苦悶の叫びをあげる。

 

 

『ぐおお!こ、こしゃくな!』

 

「まだまだ終わらんぞフラッドウォール!」

 

 

息つく暇もなく闇の腕が引っ込んだ地点から水流が巻き上がる。

数多くの猛攻を浴びても刀斬りは膝まずくことなく鎧を水浸しにしてでも、耐えしのぐ。

だがそこにロクロウが二刀を両手に颯爽と飛び込む。

 

 

「うおおおお!」

 

 

-キィィン!

二刀と大太刀どちらも勝ちを譲る気はないと誇示する持ち手の意思を反映するように甲高い反響音を、ぶちまける。

 

 

「ふっ!せい!」

 

『むあぁぁ!』

 

 

最初の衝突から何度も刃を斬り結ぶロクロウと刀斬り。

彼らの間合いからは何者の立ち入りも許されない緊迫感が生まれており、ベルベットもガイアも固唾を飲んで見守っていた。

 

 

「うおっ!なかなかの手練れだな。斬り甲斐があるぜ」

 

 

拮抗していた両者の状況にも終わりが告げられ刀斬りの一太刀を受けて吹き飛んだロクロウ。

小太刀で防いだために体に外傷はないようで嬉々とした微笑を浮かべてまた、太刀を翳す刀斬りに突撃する。

しかし

 

 

「ロクロウ!」

 

 

助太刀をしようとライフィセットが白銀と黒紫の光を放ち、刀斬りの一太刀を弾き返す。

ロクロウの身を案じての行動だったのだろうが、彼にとってその善意は邪魔以外の何物でもなかった。

ライフィセットの介入にロクロウは業魔の証たる右目を赤く光らせ、味方である彼に矛先を変える。

 

 

「邪魔をするな!」

 

「ぅ…!?」

 

 

その切っ先がライフィセットに届くより速く動いた者達がいた。

ベルベットとエレノアだ。

彼らはライフィセットの身を守るように前に出ると各々の得物をロクロウに突き付ける。

 

 

「仲間を殺す気ですか!」

 

「ならあんたを殺す」

 

 

強引な落ち着かせ方であるがロクロウは理性を取り戻す。

 

 

「すまん」

 

 

ライフィセットやベルベットに詫びを入れて刀斬りの方を振り向こうとするが、地面が激しく揺れそれを阻む。

 

 

「な、何だ!?」

 

「地震…!?こんな時に…!」

 

「いやこれは地震というより-」

 

 

突如として発生した揺れに戸惑うロクロウやベルベット達とは対照的にアイゼンは冷静に地面を観察する。

すると渓谷を囲むある山が崩れそこから巨大な怪物が姿を覗かせた。

 

 

『グゥゥ!』

 

 

背中に山一つを背負っているかのような甲羅が特徴的な風貌の怪物が、四足歩行でベルベットや刀斬りに向かって進行してくる。

 

 

「なんじゃあのバカでかいのはー!」

 

「怪獣!?こんなところにまで現れるなんて」

 

 

マギルゥとエレノアが狼狽えるのを余所に怪物-ゾンネルは左の前足を挙げてベルベット達の頭上ヘと振り上げる。

 

 

「全員よけろ!」

 

 

アイゼンの喚起で弾かれたように全員が横に飛んで前足をやり過ごす。

そして立ち上がって攻撃を開始しようとするがゾンネルの方が動きが早かった。

口がベルベットの近くにいたガイアヘ向けられそこから放たれた火炎が地面に接触。

巻き上がった爆発によりガイアは谷底へとまっさかさまに落下してしまう。

 

 

「うわああああ!」

 

「ガイア!」

 

 

その光景を目の当たりにしたライフィセットはガイアの名を叫ぶがゾンネルは彼を無視して、鋭い目付きをロクロウに向ける。

 

 

「見た目からして固そうな奴だな。だが面白い」

 

「呑気なこと言ってる場合じゃないわよ。とっとと蹴りをつける」

 

 

先の興奮がまだ残っているような言動をベルベットが咎めると、二人揃ってゾンネルに斬りかかる。

 

「容赦しない!消えない傷を刻んで果てろ!」

 

「瞬撃必倒!この距離なら外しはしない!」

 

 

これから彼らは同じタイミングで繰り出すは術技を遥かに凌駕する技。

今の彼らができる全てを込めた最上級の奥義だ。

 

 

「リーサル・ペイン!」

 

「零の型、破空!」

 

 

どす黒い気を伴う左腕と研ぎ澄まされた剣士の技を光らせる二刀小太刀。

それらは怪獣の身体を両断し、横倒しになったゾンネルの脚からは緑の体液が溢れ出す。

だがまだ絶命までにはいかない。

 

 

『グアアア!』

 

「ちっ、そう簡単にはいかないってわけね」

 

「なあに、なら倒れるまで叩き斬るだけだ」

 

 

 

 

 

「ふう…危ないところだったな。まあある意味好都合だが」

 

 

岩壁にアンカーを引っかけたガイアは足場の見えない暗闇を見下ろしてそう呟く。

命の危険に晒されたがおかげで姿を隠す手間が省けた。

左手で銃身をがっしり掴みながら懐からエスプレンダーを取り出し、自らの胸の前で突き出す。

 

 

エスプレンダーより解き放たれた赤と黄の光がガイアの体を包み、変異させる。

 

 

 

 

 

 

「今度はなんだ!?」

 

深い谷底から赤い光が昇った。

ゾンネルと一戦交えていたロクロウ達はそちらに意識を向ける。

 

 

「似てる…あの時見た光に」

 

 

競り上がる赤き光の柱にベルベットは三年前に起きた彼女の記憶に深い爪痕を残した光景を重ねる。

弟ライフィセットをアルトリウスに剣で貫かれ、そのか弱い体が故郷の祠に落ちた際に天に走った金色の光の柱。

ベルベットの瞳に映る赤い光の柱はそれに酷似していた。

 

 

「来たか」

 

 

誰もが光に着目する中でアイゼンだけが確信したように呟く。そして赤い光の巨人となったガイアは膝を抱えて空中で一回転し、大地に立つ。

 

 

「あれってヘラヴィーサで見た!」

 

「光の…巨人…」

 

 

これが自我を得て初めての対面となるライフィセット。

彼の後ろ姿にエレノアは巨人が超越たる存在であることを感じ取った。

 

 

「ジャア!」

 

 

着地するや否やゾンネルを見据えて構えをとるガイア。

両膝と左腕を曲げ右腕を突き出すポージングを保ったまま、ガイアは右にじりじりと動きゾンネルの挙動を窺う。

ゾンネルもまた自身に匹敵する背丈の見慣れぬ存在に戸惑っているのか、手を出す様子はない。

 

 

『グルル』

 

 

沈黙から一転、先に動いたのはゾンネル。

相手を寄せ付けまいと火炎弾を発射するもガイアに腕で防がれてしまう。

そしてガイアは火球を全て防ぐとゾンネルへ向かって前進。

火炎の発射口たる顎を蹴り上げその頭を掴み、上から肘打ちを叩き込む。

 

 

『グゥゥ…』

 

 

脳天を振動させる一撃にゾンネルはくぐもった声を出すも、負けじと身を翻して尻尾を振り回す。

側面から迫るそれをガイアは両手で捕らえ投げ飛ばそうと試みる。

しかしゾンネルは抵抗し尻尾を右に泳がせた。

それによってガイアは尻尾の動きにつられてしまい岩盤と体を衝突させてしまう。

 

 

「オアッ!」

 

 

巨体が激突したせいで岩肌から石が溢れ大なり小なり地表へ落ちた。

 

 

「おわああああ!?」

 

 

その内のいくつかがマギルゥの頭上に飛び彼女は能天気ともとれる声色を発して、逃れ回る。

それを尻目にガイアは周囲への被害を避けるべく、必殺光線クァンタムストリームの発射体勢に突入した。

 

 

「デュア!ジャアアア!-」

 

 

組み合わせた左の手首と右の手首が十字に交差し、橙色に発光したのを確認すると頭上へと振り上げる。

しかしエネルギーが収束するより先にゾンネルの火炎弾が複数ガイアの胸部で爆裂した。

 

 

 

「ジョア!?ウワァァァ!」

 

 

せっかく集めた光も霧散してしまい、ガイアは背中から倒れ込む。

巨大な質量の物体が重力によって倒れたためにまた地面が揺れ、その影響で岩肌から岩がこぼれ落ちる。

大人二人を余裕で押し潰すのも容易い大きさの岩が落下し、その地点にはライフィセットがいた。

 

 

「逃げてライフィセット!!」

 

「っ!」

 

 

次第に自らの視界を覆い尽くす巨大な岩を目前にライフィセットは動くことができなかった。

ベルベットは彼を救うため全力疾走で距離を詰めるがそれでも間に合わない。

頭の中で最悪のイメージが浮かぶ。

 

 

(ダメ、そんなの…絶対に!!)

 

 

そう己を鼓舞しベルベットはライフィセットの元に辿り着き、彼の体を抱き締めるように自身を盾にした。

このままでは二人共死んでしまう。

そう誰もが思った時、二人の頭上に迫っていた岩を横から飛んだ火炎が消し飛ばした。

 

 

「助けてくれた…?」

 

「あの怪獣が…?さっきまで戦ってた相手を助けたってこと?そんな馬鹿な話があるわけない」

 

「でも見て、怪獣から敵意を感じないよ」

 

 

ライフィセットに言われてベルベットはゾンネルをじっくり眺める。

先程までの刃物のような形相はどこへやら今は他人から借りてきた子犬のように大人しいではないか。

-急に何故?

そう思わざるをえない状況にマギルゥはある予想を打ち明けた。

 

 

「おそらくあやつはこの近辺を根城にしておるのじゃろう。本来は気性の大人しい可愛げのあるやつじゃが、儂らがこの辺り一帯でどんちゃん騒ぎをしたせいで怒り心頭に達して顔を出してきたんじゃろう」

 

「それにあいつはベルベットやロクロウばかり狙っていた。お前達二人の業魔としての気配があいつの闘争本能を刺激したんだろう」

 

「そう、なのか?」

 

 

そんな馬鹿なと言いたくなるロクロウの気持ちはベルベットにもわかる。

マギルゥやアイゼンの話はあくまでも仮説の域を出ないものだが、そう仮定してみると納得のいく点一つがある。

ゾンネルはライフィセットへの攻撃は避けているように見えた。

それを踏まえるとゾンネルは無差別にベルベット達を襲ったわけではないという裏付けにはなる。

 

 

「お願い!もうあの怪獣に攻撃しないで!」

 

 

ライフィセットの懇願にガイアはこくりと頷くと構えを解いてゾンネルに向き直った。

そして戦う気はないと頷き、乳白色の目で訴えかける。

 

 

『ガァァァ』

 

 

するとゾンネルはそのメッセージを受け取ったのかベルベット達に申し訳ないことをしたと謝るように、首を縦に動かし出てきた山に帰っていく。

 

 

「あの怪獣は自分の住処に戻っていったのでしょうか?」

 

「かもしれぬな。いつの間にやら刀斬りも退散しておるし何はともあれ一件落着。やれやれ一時はどうなるかと思ったわい。山賊風情に刀斬りに果ては怪獣…死神の呪いとはよく言ったものじゃ」

 

「嫌ならバンエルティアに乗る必要はないんだが…?」

 

「ダメだよアイゼン。僕達にはマギルゥの助けが必要なんだから」

 

「そうだな。置いてくならせめてグリモワールに会ってからするべきだ」

 

「そうそう、ってそんな侘しいこと軽々しく言うでない!」

 

「気を抜かないで!まだ巨人は残ってるわ」

 

 

自分を除いた面々にベルベットはそう警告を促す。

ゾンネルを攻撃したからといって巨人が自分達の味方とは言い切れない。

-来るなら来い

ベルベットはブレードを引き抜いたままガイアを睨む。

 

 

「…」

 

 

ガイアは体の向きを変えてベルベット達を見下ろす。

ベルベット、ライフィセット、ロクロウ、マギルゥ、アイゼン、そしてエレノア

 

一同の顔に目を通したガイアは胸の前で両腕を交差して姿を消す

 

 

「ハッ…」

 

 

背後に何か強い力を持った気配を感じガイアは振り向く。

だがその前に

 

 

「ドワアアアアァァ!!」

 

 

何かが通り抜け様に手にした得物でガイアの背後を斬りつけた。

背中から火花を散らしたガイアは、人間で言う絶叫にも似た叫びを出して膝から崩れ落ちてしまう。

胸の三角形状をした水晶体-ライフゲージを激しく明滅させて、ガイアは赤い粒子となって消える。

 

 

「あれは、あの太刀筋は…まさか! 」

 

ガイアが消滅する間際、大地に降り立った人影を捉えたロクロウは脇目も振らず駆け出す。

 

 

「あたし達も追うわよ!」

 

「待ってベルベット!まだガイアが!」

 

ロクロウを追おうとするベルベットにライフィセットがそう声を張り上げる。

しかしベルベットにはガイアの生存は絶望的と思われていた。

 

「この高さから落ちたんじゃもう助からない」

 

「まだ生きてるかもしれないよ!」

 

「ライフィセットの言う通りです。死んだと決めつけるのは早計ではないでしょうか?」

 

「あんたの意見は聞いてない」

 

 

ばっさりと言い捨てられエレノアは歯噛みする。

やりきれなさを見せるエレノア。

そんな中助け船を出したのは意外にもマギルゥであった。

 

 

「お主が諦めるのは勝手じゃがええのかえ?」

 

「…何?」

 

「今古文書を持っとるのはあやつじゃぞ。あやつを見捨てるとなると主の念願の復讐のせっかくの手がかりをみすみす手放すことになるぞ?それでも構わぬのなら儂は文句は言わんが」

 

 

言われてベルベットは本格的に思案する。

そんな彼女の悩みを解消するための案をアイゼンが持ちかけた。

 

 

「あいつの捜索は俺が引き受ける。お前達は先に行ってロクロウと合流しろ」

 

「そうね、手っ取り早く連れて戻って来なさい」

 

「私も行きます」

 

「あんたはあたしと来なさい」

 

 

名乗りを上げたエレノアに間髪入れず、ベルベットが切り返す。

それでも反論を行おうとするエレノアに対してベルベットは冷徹な目を注いで言い放った。

 

 

「これは命令よ…黙ってあたしに従いなさい」

 

「わかりました…」

 

 

誓約をしたと言ってしまった手前エレノアは歯噛みしながらもベルベットに返す言葉を発することなく、黙りこくる。

そんな彼女を気にも留めずマギルゥがアイゼンの側に移動してベルベットに告げた。

 

 

「なら儂がアイゼンに協力してやるわい。構わぬじゃろ?」

 

「あんたは好きにしなさい」

 

「アイゼン、マギルゥ絶対ガイアと一緒に戻って来てね」

 

「…二人共、お願いします」

 

 

本気で彼の身を案じるライフィセットとやや抵抗感に苛まれているように思えて見えるエレノアは、一足先に動き出したベルベットに付いていく。

去り際にアイゼンが煙たそうにマギルゥを横目で睨んでいたような気がするがそれを確認する時間すら、今の彼女には惜しい。

怪獣との戦いが起こった場所とは到底思えぬ静けさに不気味さを感じる暇もなく、彼らはロクロウの後ろ姿を視認する。

洞穴の入り口とおぼしき穴の手前で先程対峙した刀斬りが敗北しており、ロクロウはそれをまじまじと眺めていた。

いや彼の目は刀斬りよりもそれを下した白猫を連れた大太刀の剣士の横顔を掴んで離さなかった。

 

 

 




色々詰め込みすぎて最長の文字数12000字…
次回はもっと短めになると思います
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