テイルズオブベルセリア~True Fighter~ 作:ジャスサンド
更新頻度が安定しない作品ですが今年もどうかよろしくお願いいたします。
レニードの地に無事降り立った一行はバンエルティア号をベンウィックに任せ、サレトーマの花を求めて街へ入る。
「この街に壊賊病を治す薬があるって話だったよな。サレなんとかって名前の草」
「サレトーマだ。ちょうど今はサレトーマが旬の季節だ。薬屋に行けばすぐに手に入るだろう」
「急がないと病気が悪化しちゃう。早くバンエルティア号に届けよう」
「ああ。わかっている」
アイゼンを先頭に一行は街中を進んでいく。
その最中対魔士の駐在所らしき建物の前で複数の人々が対魔士を囲んでいた。
「ローグレスの司祭が業魔の群れに殺されたというのは本当ですか?対魔士様」
「何度も言うがその事実はない。」
「でも大司祭様はいつまでたってもお仕事に戻ってないって言うじゃないですか。本当は業魔に襲われたんじゃないかって王都から来た人が言ってたんです」
喧騒から漏れる抗議の声。
それを見物しているロクロウは事情を察し、腕を組む。
「隠そうとした真実が漏れ始めたか」
「虚構で塗り固められた真実など脆いじゃよ。人の心に不安の種を生むはたやすく、その種は成長し恐れや恐怖となる」
そう冷淡にポツリと言うロクロウとマギルゥの前で対魔士を取り囲む民衆は不安を口にする。
「また恐ろしい災厄の時代がきたんですか?」
「本当のことを教えてください対魔士様。俺達はもう業魔の恐怖に怯えた暮らしはしたくないんです」
「そうよ。もう二年前みたいに怖い思いはしたくないわ!」
「落ちついてくれ。司祭の件はいずれ正式発表があるまで待ってほしい。不安な気持ちはわかるが我々を信じて欲しい」
対魔士は人々の不安を取り除こうと試みるが、一度芽生えた不安の種はそう簡単に消えはしない。
「先を急ぐわ。こんなところにいても時間の無駄」
対魔士の言葉を受けてもまだ場を去ろうとしない民衆を尻目にベルベット達は先を急ぐことにした。
街の隅の方で薬屋を発見すると、アイゼンがそこの店主に頼みを入れる。
「サレトーマが欲しい」
「珍しいものを欲しがるね。もしかして壊賊病かい?」
「ああ、最初の奴が熱を出して三日になる。早く手当てしてやりたい」
「そうか…悪いが今は切らしてんだ。」
「何故品切れになる。今が花の季節だろう」
「サレトーマ咲くワァーグ樹林に業魔が出てな。聖寮が樹林への立ち入りを禁止しちまったんだ」
急いでいる時に限って何故都合の悪いことが立て続けに起こるのか。
これまでの旅路を振り返ってベルベットはそう小言をこぼしたくなる。
「立ち入り禁止…?退治してないのですか?」
「よくわからんが探してもめったに見つからないらしい。百回に一回出くわすかどうかだとか」
「それ、危険じゃないだろう」
ロクロウが最もな意見を述べ店主も顔にその通りと出しつつも、その言葉を否定する。
「だが出会って生きて帰ったやつはいないんだ」
「壊賊病、薬はない、聖寮に妙な業魔。いよいよ死神の呪い全開じゃのー」
店主に茶々を入れるマギルゥ。
いつもならば誰かしらが一言言うなりしているところだろうが状況が状況なだけに、彼女の茶々に対する反応はなかった。
「他の街から取り寄せられるかもしれないけど発熱三日じゃ間に合うかどうか…」
正規の手段ではサレトーマの花を入手が不可能と知り一行は険しい顔をするが、その顔をしたのは店主も同様だった。
「やれやれ、二年前の一件に続いて今回のワァーグ樹林の業魔…この街はいつになったら業魔から解放されるんだ?」
「さっきの街の連中も言ってたな。二年前がどうのって」
「二年前にここで何があったの?」
店主の口から出た言葉に覚えがあったロクロウとライフィセットが訊ねる。
「二年前ローグレスから対魔士の編隊がブルナーク台地にある遺跡の調査に来たことがあったんだ。だが不思議なことに遺跡に行ったきりその対魔士達が一人もこの街に帰ってくることはなかった」
「……」
話を聞いている途中でエレノアは顔を俯かせる。
そんな彼女の様子を見逃さなかったベルベットとガイアはそれぞれ異なる心境を持ったが、それを口にしようとは思わなかった。
「その対魔士達はどうなったの?」
「それからちょっと日が経ってからまた王都から対魔士達が大勢来て遺跡に捜索へ向かったものの、一人も生存者はいなかったそうだ」
「遺跡の調査をした対魔士が全滅した原因も業魔だったのか?」
「捜索から帰って来た対魔士が言うにはそうらしい。調査隊を全滅させた業魔が出た危険な遺跡だからくれぐれも近付かないようにってな」
「近付かないようにってそれだけか?討伐は?」
「そこまでは知らないよ。それきり遺跡に対魔士が行くようなこともないし何がなんだか…まあ、はっきり言えるのはこの辺りも物騒になったってことだけは確かだな」
それで話は終わりと店主は口を閉ざす。
「ワァーグ樹林に行けばサレトーマの花は咲いてるのね?」
「たぶんな、でも森には業魔が-」
「ワァーグ樹林へ向かうわよ」
店主の言葉を途中で断ち切る形でベルベットは街の出口に体を向ける。
他の面々もその後を追い、レニードの街を出て街道を歩き始めた。
「やはり死神は天運に見放されておるようじゃのう…まさかわざわざ花を取りに行くハメになるとは。ほんとにお主らとおると退屈せんで済むわい」
例によってマギルゥがぐちぐちと文句を垂れるもそれに耳を貸す者はいない。
そんな折、元気のない様子のエレノアを気に止めたライフィセットは彼女を心配する。
「大丈夫?エレノア。ずっと暗い顔してるけどどこか具合悪いの?」
「いえ、体はどこも悪くありません…少し考え事をしてただけですから」
ライフィセットにそう返してまたエレノアは浮かない表情に戻る。
その理由におおよその予想がついているライフィセットはエレノアに聞いてみることにした。
「考え事ってもしかしてさっき薬屋のおじさんが言ってたこと?」
「ええ…」
重々しく肯定したエレノア。
それからロクロウが疑問を言葉にする。
「聖寮は遺跡の業魔をほったらかしにしたと言ってたがらしいがあれは本当なのか?」
「怪しいところね。ワァーグ樹林の業魔だって退治はしてないみたいだし。呆れるわね、全のためなんて言っておきながら業魔を野放しにしておくなんて」
「ほお~神に身を捧げた司祭様を殺した挙げ句今また導師様をも殺そうと目論む凶悪な業魔はさすが言うことが違うわい」
嫌味ったらしくからかいをマギルゥにベルベットは苛立ちから舌打ちをする。
「エレノア、あんたなら知ってることはあるんじゃないの?」
「薬屋の方が話した以上のことは私も知りません…」
「知らないの?対魔士なのに?」
「ブルナーク台地の遺跡の件について聖寮ではほとんど何も聞かされていませんでしたから。アルトリウス様にお伺いしても調査隊は業魔によって全滅し、その業魔の行方はわからずじまいだとしか」
「そんだけしか知らないならどうしてそんな顔までして悩む必要があるんだ?」
答えるか答えまいか浚巡した結果エレノアは答える選択肢を選んだ。
「私の幼なじみがいたんです…小さい時からずっと一緒にいて同じ一等対魔士だった私の幼なじみが調査隊の一人に選ばれたんです」
「え、じゃあエレノアの幼なじみは……」
いいよどむライフィセット。
その先が言えない彼に代わってベルベットが言う。
「死んだのね」
「…捜索に向かった隊が持ち帰った片腕が彼のものでした。他に遺体も生存者も見つからなかった…そう言ってました」
「エレノア…」
目を伏せるエレノアになんと言葉をかけたらいいかライフィセットが迷っていると、ロクロウがふとこんなことを呟いた。
「一等対魔士を打ち破る業魔か…そこまで腕の立つ奴なら一度お目にかかりたいものだな。斬りごたえがありそうだ」
「ロクロウ!」
「っと、すまないエレノア」
無遠慮な発言をしたロクロウをライフィセットは声を荒げて咎める。
そこで失言だったと気付いたロクロウは素直に謝罪を口にした。
丁度その時一行は視界を緑一色で塗り潰す程に左右に広がるを森を目前にした。
ワァーグ樹林に着いたのだ。
「ここで間違いないのね」
「この奥にサレトーマの花が咲いているはずだ」
念のためアイゼンに確認したベルベットを先頭に一行はワァーグ樹林へ入り込む。
「さっきの話だがどうだ?」
「間違ってるところはない。ただ-」
「なんだ?」
「やっぱり本当のことを包み隠さず、ってわけでもないみたいだ。調査隊の一人はメルキオルの指示で動いていた…アルトリウスが何も知らないなんてことはない」
「メルキオルか…」
肩を並べ密かに話し合いながらアイゼンとガイアは思案する。
二人にとってアルトリウス以上にメルキオルが気になる存在だ。
ブルナーク台地の遺跡でのこととアイフリードの失踪。
どちらにもメルキオルが絡んでいる。
「アルトリウスの近くにいる対魔士の中でも一番素性がわからないだけに何を考えてるか全然読めない。たぶんエレノアもテレサもオスカーも、メルキオルのことをよく知らないと思う…聖寮にいた時は気にならなかったけど本当に謎が多すぎる…」
「同じ組織に属していた者にすらそう言わせるとはな…アルトリウスが表立って動く可能性がない以上、やはり奴を引きずり出して情報を聞き出すしかなさそうだな」
ふと先頭を歩いていたベルベットが止まる。
何事かと正面を見ると対魔士が二人いた。
「あの対魔士妙だな」
「業魔を警戒している…ようには見えないな」
ロクロウが違和感を感じたのは対魔士の動作だ。
緊張感の欠片も見受けられない立ち振舞いはガイアの言う通り同じ密林にいる敵を意識しているとは思えない。
「片付けるわよ」
だがベルベットにはそんなのは些細なことだった。
先に進むためには対魔士を蹴散らす必要がある。
今重要なのはそれだけだ。
「貴様、何者だ!」
木陰から姿を現したベルベットに対魔士達は虚を突かれながらも武器を取り出し、身構える。
遅れてロクロウ達もベルベットの加勢に入り、戦闘が始まった。
対魔士の召還した聖隷が放出した水弾をマギルゥが火の霊力弾で相殺し、両者の中間で水蒸気爆発が起こる。
その中を突っ切ったガイアが勢いのまま回し蹴りで聖隷は吹き飛び、木の下に転がる。
「破ッ!」
その聖隷を使役する対魔士も、剣をロクロウの小太刀に弾かれ無防備になったところを斬り上げられバタリと倒れ伏す。
「ヴォイドラグーン!」
「はああああ!」
「こいつら…まさか!うおああああ!!」
残る一組の聖隷と対魔士もライフィセットとベルベットの波状攻撃に呆気なく敗れる。
「こいつら何だったんだ?業魔を探していたようには見えなかったが」
「力量から言って二人とも二等対魔士だろう。しかし業魔がいるとわかっていながら二等対魔士がたった二人でいるなんて…聖寮にしては珍しい編成だな」
這いつくばる二等対魔士を見下ろすガイアが何気なく目線を反らすと、自らをじっと見つめるベルベットに気付く。
「どうしたベルベット?」
「何でもないわ」
それよりとベルベットは森の奥地に目をやる。
彼女の態度に首をかしげかけたくなるガイア。
そんな彼の心情に構わず新たな出来事が起こる。
「あっ…」
ライフィセットの持つ羅針盤の針が奇妙な動き方をし始めたのだ。
不可解な現象を目の当たりにした彼らはライフィセットの周囲に集い、羅針盤の動きに注目する。
「あなたが動かしているのですか?」
「違うよ、急に動きだしたんだ」
「アイゼンの金貨のようにこの子と同調を…?」
「アイゼン、お主は地の聖隷じゃろ?何か感じんのか?」
「いや俺よりライフィセットの感覚の方が鋭いようだ」
アイゼンがそう断言したと時を同じくして羅針盤の異常な回転は止まる。
「止まったな」
「止まったけど、変な感じがする」
「どんな?」
「この前地脈に閉じ込められた時と似てるっていうか…」
ベルベットに自分の感覚を説明したライフィセット。
それを聞いてベルベットとガイアはそれぞれの見解を心中で述べる。
(つまりカノヌシの力に近い…?この先にいるのは普通の業魔だけじゃなさそうね)
(地脈…ミズノエノリュウの力が影響してるのか…?)
考え事から意識を切り替えた二人は己と同様に思考していた相手と目が合った。
「あんたはどう思う?」
「判断材料が少ないし聖隷の二人がわからないんじゃ何とも言えない。とりあえず今は先を急いだ方がいいだろう」
「同感ね」
意見の合致を経たところでベルベット達は改めて森の奥地を目指す。
するとやがて拓けた場所に行き着き、そこに紫色の華が少ないながらも育っていた。
「あ!紫色の花が咲いてる」
「それがサレトーマの花だ」
好奇心もあってか花へ一直線に駆けるライフィセット。
じっくり花を根元から花弁にかけて眺めるライフィセットにマギルゥが横槍を入れる。
「どうじゃ坊サレトーマの花はシュミの悪いじゃろ?色の組み合わせも最悪じゃし。ガイアもそう思わんか?」
「言われてみれば確かにどこかの誰かみたいな服の色してるな」
「ほうほうありがたいのう。それはシュミの悪い組み合わせだろうと華麗に着こなす儂への褒め言葉じゃろう。何だかんだ言いながら常日頃儂をその見つめておったとは意外じゃな」
「自分で趣味が悪いって自覚はあったんだな」
ガイアとマギルゥの下らない言い争いを間近で聞かされているのにライフィセットは熱心に花の観察を続行していた。
「サレトーマはシュミが悪いね…でもこれでみんな助かる」
これで後はバンエルティア号に戻るだけ。
誰もが安心に胸を撫で下ろした時だった。
ライフィセットがサレトーマの花の根元に昆虫を見つけたのは
(珍しい虫…)
図鑑でも見たことのない虫の発見に心を躍らせたライフィセットはその虫に触れようとした。
だがそのタイミングを見計らったように虫は一瞬にして巨大化し、ライフィセットは尻餅を付いてしまう。
「うわああ!?」
「ライフィセット!」
「危ない!」
異変に真っ先に反応したベルベットが跳躍と共にブレードを振りかざして虫を遠ざけ、遅れてガイアもライフィセットの腕を引っ張って助け出す。
「これが薬屋が言っていた業魔」
「違いない。これだけ大きな、まして虫の業魔だったとは思わなかったが」
「大丈夫?」
「うん」
エレノアとガイアが業魔の正体について呟く傍ら、ベルベットがライフィセットの無事を確認する。
そんな彼らには興味がないのか巨虫の業魔は羽根を広げ、空へ飛び立つ。
別の場所へ移動しようとする業魔だったが、それを許すものかとばかりに光の結界に阻まれ地に落ちゆく。
「またあの結界」
ローグレスの離宮で同じ結界を見たベルベットはその時の記憶を思い起こす。
一方で対魔士だったガイアは業魔を閉じ込める形で張られている結界に目を見張る。
(あの結界は一等対魔士ですら展開するのは至難の技のはず。それが張られているということはこれを仕掛けたのは特等対魔士。これもメルキオルの仕業か?)
結界を張った人物として疑いのある特等対魔士の顔が頭の中を過る。
だが今はそれを深く考えていられる状況ではないと、目の前の相手に集中する。
「何にしてもこの空飛ぶ虫を倒さねばサレトーマの花は手に入らぬぞ」
「わかってる。やるわよ!」
ベルベットの激が飛ぶ。
各々武器を握り、対峙する中ロクロウがこんなことを言い出した。
「なあアイゼン。あれってもしかしてアレだよな」
「間違いなくアレだ」
「だよな」
「ああ」
ロクロウとアイゼンの二人は巨虫の業魔の姿を前に、どこか楽しげに笑みを浮かべた。
「あれはクワガタだ」
「あれはカブトだ」
両者一斉に声を発し、一斉に相手の顔に目を向ける。
「おいおいあれはクワガタだろ。どう見たってハサミがある」
「いやあれは一見ハサミに見えるが実は角とみた。あれは三角のカブトだ」
「いやいや普通のハサミでいいだろ。なかなかの名刀だぞこいつは…それに見ろ、見た目も強そうだ。あれは最強の昆虫、クワガタの一種だ」
「…聞き捨てならんな。昆虫界の王者、カブトを差し置いてクワガタが最強だと?」
敵の目の前だと言うのに敵をそっちのけで議論を続けるロクロウとアイゼン。
それを止めるべくベルベットは口を挟むが、そう単純にはいかなかった。
「ちょっとあんた達-」
「すくい上げしかできないカブトが最強なんてありえん。その点クワガタは相手を挟み切ることができる」
「哀れだな。圧倒的なパワーで我が道をゆく。そんなカブトの生きざまを理解できんとは」
段々会話の雰囲気が悪くなってきた。
ただでさえ敵を前にしているのにこれはまずい。
見かねたガイアはベルベットに代わって会話を納めようとする。
「今は敵に集中しろ!そういう話は後で三人でじっくり語ればいい!」
「三人…?」
「さら~っと自分も頭数に入れおったの。さてはあやつ内心仲間に入りたくてウズウズしておったではあるまいな…」
どこかズレたガイアの発言にエレノアとマギルゥが呆れがこもったジト目になる。
「僕も混ざっていい?」
「当然だ。ロクロウ、決着は後回しだ」
「応、まずはこっちの決着を付けてからだな」
「いくぞ!」
完全に目的と異なる方向性にやる気を出す男性陣一同。
たかだか昆虫にムキになるその様に女性陣三人は素直に本音をこぼした。
「バカね」
「バカ丸出しじゃな」
「子供ですね」
今話から第一章の終盤、レニード編に入ります。
第二章までどれだけかかるかわかりませんが
オーブクロニクルでジャグジャグ成分を補充し、シュワシュワコーヒーを飲みながら作業を進めていきたいと思います。