テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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第2話 掴んだ光

ミッドカンド領最大の貿易港とされるゼクソン港にてグランとジャグラーは船の手配を行い、出港の準備が整うまでの僅かな時間を過ごしていた。

 

「アップルグミは買ってある。ピーチグミはまだ余ってた?」

「数個程しかなかったはずだ。いくらか買いたしておけ」

 

露店に並んだ品物を見渡しグランはジャグラーに確認を取り、回復用品のグミを購入し腰に下げた袋に収納する。

彼ら二人は他の対魔士達を宿に休ませ備品の調達をしていた。

 

「こんな雑用わざわざしなくても二等対魔士の連中に回せばいいだろうに」

 

「ちゃんと自分の目で確認しておきたいんだよ。何かあった時に手元に何があるか知っておかないと不安だろ」

 

「意外だな。お前がそんな殊勝な奴だとは」

 

そうぼやき、つい先程露店で購入した『シュワシュワコーヒー』なる飲み物を胃袋に運ぶジャグラー。

感想は彼いわく微妙なのだがその微妙さが返って癖になり、なかなか中毒性のある飲み物であるのだそう。

 

そんな彼の嗜好はさておいてグランは店に並べられた装飾品の一つに目を引き付けられる。

白い太陽の輝きを受けて光るピンクの指輪。

グランはそれを手に取ると店主は彼に勧める。

 

「さすがは対魔士様、それに興味を持つとはお目が高い。その指輪はつい最近仕入れた物でして、掘り出し物でございますよ」

 

「へーこれ、買うよ。いくら?」

 

「ありがとうございます。48000ガルドになります」

 

「なんだ柄にもなく洒落っけにでも目覚めたか?」

 

「そんなんじゃないって、人に贈るんだ」

 

金額を支払いながらその疑問に答えるグラン。

包装された指輪を胸の内ポケットに仕舞い込むとグランはその人物の顔をひっそりと思い浮かべる。

 

値段のことは秘密にしておこう。

返って気を使わせてしまうだけだろうし、あげるなら形に残る物にしたい。

-何せ明日は

 

そう思いを巡らせていた時シュワシュワコーヒーを飲み干したジャグラーの元に、空から白い鳥が降り立った。主に連絡用として扱われているシルフモドキだ。

個人の発する波長の些細な違いを区別できる優秀な鳥である。

シルフモドキの脚にくくりつけられていた用紙を開くジャグラーに、グランは何事だろうかと訊ねた。

 

「そのシルフモドキ聖寮のじゃないけど何かあった?」

 

「いやなんということはない。単なる手紙だ、文通相手からのな」

 

「へー……は?」

 

あんまりに自然に言うものだから聞き流しかけたグランだが、どうにかそうならずに済んだ。

信じられないと主張した気に目を丸くし、石化したように硬直する彼の態度にジャグラーは不満そうに片眉を潜めた。

 

「おい、何故そんな目で俺を見る」

 

「いや、だって文通だよ文通、ジャグラーに文通って、そっちの方が意外って言うか…く、ははは」

 

「今すぐこの場で切り捨ててやろうか。うん?」

 

驚愕から一転、腹を抱えて口元を塞いで笑うグランの太ももをジャグラーは鞘に収めたままの太刀で小突く。

 

「ごめん、失礼だってわかってる、わかってるんだけど、ダメだやっぱ面白い、うはははは」

 

しかし一向にグランは堪えきれず笑いを溢しジャグラーは額に青筋を浮かべかける。

-こいつ、本当に斬ってもいいだろうか

おそらく日頃の自分の振る舞いと文通というワードの不釣り合いさが生み出す破壊力が相当な威力だったのだろうが、目の前で虚仮にされて嬉しい人間はいやしない。

付き合う気のないジャグラーはそっぽを向いて手紙の内容に目を通す。

そこにようやく笑いを静めたグランが一言詫びの言葉をかけた。

 

「あの、本当にすみませんでした…それでその文通相手はどこの誰なの?」

 

「ふん……踊り娘だ」

 

「踊り娘かぁ、マジルゥちゃん?」

 

「違う。俺はあれには関心がない。ハリアの踊り娘だ」

 

「どこでいつ知り合ったのさ。そんな人と」

 

「二ヶ月ぐらい前にローグレスに観光で来ていたらしくてな、たまたま通りがかった時に道を聞かれただけだ」

 

「……それだけ?」

 

「それだけだ」

 

どうにもキナ臭い。話を聞いた限り道案内をしただけで文通のやり取りをするまでの関係に発展するとは思えない。

それにジャグラーは己のことになると口数が少なくなり本当のことを隠したがる男だというのは、グランもよく知っている。

 

「嘘つけ、それだけじゃないだろ。まだ他に何かあるんだろ?その人と」

 

「しつこいぞ貴様。ちゃんとした交際相手がいない貴様にとやかく言われる筋合いはない」

 

「な!?少し自分がうまくいったからってその言葉はないんじゃないか。そもそも文通相手がいるからってそれが恋愛の対象とは言えないと思うけどな~」

 

「ほお、これが負け犬の遠吠えというものか。初めて間近で見たが見苦しいな。結局は貴様は俺が妬ましいだけだろう」

 

「誰がそんなこと言いましたかー?」

 

しょうもない舌戦を展開していくグランとジャグラー。

船着き場を目前にしたところまでそのやり取りを持って行きながらも、二等対魔士らが待機している姿を見て意識を切り替える。

 

「船の準備が完了致しました。いつでも出港可能です」

 

「よしすぐ出港に取りかかれ」

 

ジャグラーの指示の元二等対魔士達が出港作業動き出し、ジャグラーはシュワシュワコーヒーの空き容器をグランに押し付け船内に乗り込む。

 

「ゴミ渡されても困るんだけど…」

 

 

文句を垂れながらも渋々グランはゴミをちゃんとした場所に処理しに向かった。

 

 

 

--------

 

 

 

 

レニードの港に船を停めたグランとジャグラーは隊を率いて調査対象とされる遺跡へ移動した。

ロウライネの塔より少し離れたブルナーク台地へ到達し、虹を描く間欠泉に心を魅了されつつも遺跡を探す。

 

「レニードの対魔士の話だと遺跡はロウライネとヴォーティガン海門とのほぼ中間地点に位置してるらしいけど、今のところそれらしいのはないな。もっと」

 

「アルトリウスが適当なことを言ってなければの話だがな」

 

「その含みのある言い方、よした方がいいと思うけどな。アルトリウス様に聞かれたら何言われるか」

 

「いなければ問題ないだろう。聖寮の掲げる理とやらに背いているつもりもない」

 

「前から気になってたんだけどジャグラー、アルトリウス様のことなんか邪険にしてないか?」

 

「アルトリウス個人に対して思うところは何もない。ただ理とやらで何でもかんでも縛りつけるスタンスは気に食わん」

 

刺のある返しをするジャグラーにグランは腑に落ちない感覚を抱く。

ジャグラーの態度には稀にまるでアルトリウスが気に食わないような節が見受けられるのだ。

対魔士になったからにはアルトリウスを尊敬すれど、敵対感情を持つのはおかしい。

 

「ならなんで対魔士になったんだ?」

 

「…知りたいか?」

 

「そりゃあ知りたいさ」

 

グランの返答が予想通りだったのかジャグラーは愉快そうに口角を上げ笑う。

何故可笑しいのかとグランが問いただそうとすると、それよりいち早く二等対魔士の声が割り込んできた。

 

「報告します。遺跡の入り口と思われる場所を発見しました」

 

「案内しろ」

 

会話を中断させて全員こぞってその二等対魔士に付いていくと、岩壁の下へと続く階段があった。

 

「地下遺跡か、どうやらここで間違いようだな。俺とグランが先行する。残りは後に続け」

 

ジャグラーが先陣を切りグラン、二等対魔士達と一列に並んで遺跡内部へ侵入する。

階段を一段一段静かな足取りで下り、平坦で窮屈な一本道差し掛かっても速度を一定に保ち深部へと進む。

そして数分かけて開けた場所を見つけた彼らは辺りを見渡して、遺跡の内観を調べた。

 

「今のところ安全みたいだけど」

 

「業魔の姿はおろか気配も感じない。どうなっている?」

 

業魔も魔物も影も形もない。アルトリウスから聞いた話とは違う。

ジャグラー程ではないがグランもアルトリウスの語った内容が真実なのか、怪しくなってきた。

そう思いつつ歩みを進めていくと遺跡の最奥部らしきただっ広い空間に行き着く。

空間の奥には祭壇とその上には祭り上げられているかのように土器に似た化石が置かれていた。

 

「これは…土器か?」

 

祭壇から化石を取り上げたジャグラーが興味深そうな眼差しで眺める。

何の翼を模した部分や何かを通すような輪っかの部分がある珍しい形状だがそれ以外には、外見的に目立った特徴はない。

 

「ここにこんな風にあるとなればそれなりに価値のあるものだろう。こいつは持って行くとするか」

 

 

ドゴオオオ!!

 

 

ジャグラーが土器を布袋にしまいこんだ時床が激しく振動し場にいたほぼ全員が姿勢を崩し、狼狽える。

 

「地震!?」

 

「これは…」

 

遺跡の一部の壁に皹が入り天井から砂粒が舞い落ちてくる。

それだけではない。

自分達が来た道から醜悪な容姿の獣の怪物の群れが入り込んで来た。

 

「業魔!?さっきまでいなかったのに!?」

 

ただ事ではないということだけは瞬時に飲み込めたグランは見に宿した聖隷を呼び出し、ジャグラーも同じ行動をとりながら今だに狼狽する二等対魔士らに命を下す。

 

「もたもたするな!お前達全員聖隷を出せ!応戦する!」

 

「「は、はい!」」

 

対魔士と聖隷、業魔の戦いが幕を開けた。

ジャグラーは長太刀をグランは片手剣を鞘より引き抜き業魔に立ち向かう。

 

「魔神剣!」

 

「蒼破刃!」

 

漆黒と蒼の衝撃波が数匹の業魔を弾き飛ばし、ひび割れた壁面に叩き付ける。

ジャグラーとグランはそのまま自らが使役している聖隷の援護を得て、獣型の業魔と打ち合う。

 

「こいつらどれだけいる!?」

 

爪竜連牙斬と呼ばれる剣技を浴びせ業魔を葬るジャグラーが刀身を振るって、染み付いた赤紫の血を払い叫ぶ。

一匹、二匹と確実に業魔を潰している。

潰しているのにも関わらず一向に敵の数が減る気配がない。

 

(減るどころか増えている…?先まで何の音沙汰もなかったというのにか?こんな増え方があるか…?不自然すぎる…もしやこの業魔達は)

 

太刀が赤く染まる程に思考を中断せざるをえなくなる状況下においてジャグラーはある仮説を立てていた。

物事の発端からこの状況に至るまでのあらゆる要素を組み立てて、それを整った形にしていく。

そしてそれが完成した瞬間ジャグラーはあまりの驚愕目を見張った。

 

(可能性の低い話だが、タイミングが良すぎる…しかしそんなことがあり得るのか…だがだとすれば、最初から全てが-)

 

「ジャグラー様!」

 

自分を呼ぶ声にジャグラーの意識は引き寄せられ、そこでようやく眼前の光景に気づく。

考え事をしていたせいで疎かになっていた隙を狙った業魔が迫っていた。

迎撃も援護も間に合わない。

ジャグラーが死を目前にした時、両者の間に割って入った者があった。

その者はジャグラーに背を見せ、業魔の中心部に剣を突き刺す。

業魔はゆらりと崩れ落ち絶命する。

が、ただでは死ななかった。

 

「ガ、アアア」

 

「ぐっああああああああ!!」

 

その寸前牙を剣の持ち主である人物の右肩に差し込み、首を振って腕を引きちぎる。

それが最後の行動であり業魔は今度こそ朽ち果てた。

ジャグラーはその者の元へ駆け寄り膝を曲げる。

 

「グラン!しっかりしろ!!」

 

「あああッ…!大、丈夫か…ジャグラー…」

 

「俺に気を使っている場合か!お前は下がれ。それでは戦えない!こいつの出血を止めろ!」

 

グランを使役聖隷に託したジャグラーは太刀を握り締め、再び襲い来る業魔を切り捨てる。

 

「うわああああ!!」

 

「あああああ!!」

 

ジャグラーが優位に戦いを進めていても他の二等対魔士達はそうはいかない。

二等対魔士達が傷を負い、劣勢に追いやられ死んでいく。

聖隷の援助を受けている分まだマシだが数で責めてこられれば、人間である以上いずれは体力が尽きる。疲弊した者から命を散らす。

 

「き、聞いてない…こ、こ、こんな、業魔が現れるなんて聞いてない…」

 

血だまりに沈む仲間の惨劇に臆した二等対魔士が怯えと共に漏らした呟きを漏らす。

ジャグラーは顔色を険しくさせ、悪鬼のごとき形相で彼に詰め寄る。

 

「貴様。シャプレーだったか。何を知ってる!」

 

「違うんです!俺はただ-」

 

「くだらぬ戯れ言に耳を貸す気はない。自分の身を守るための方便をそれ以上続けるなら業魔に殺られる前に俺が腸をかっさばいてやろうか」

 

髪を鷲掴みし太刀を喉元に添えてジャグラーは耳元で囁く。

首に突き付けられた刀身から微かに血が滴り、二等対魔士シャプレーの恐怖の対象は一気に書き変えられた。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!」

 

「ジャグラー!」

 

「お前は余計な口を出すな!わめくな!言え、お前が隠してるのは何だ!」

 

「…こ、この調査に参加するにあたって調査中何があっても一等対魔士の二人から目を離すなと」

 

「命令されたんだな?誰からの指示だ」

 

「メ、メルキオル様です」

 

「メルキオルだと…?」

 

メルキオルは十数人いる一等対魔士の中でも上位の君臨する老人だ。

アルトリウスの参謀的立ち位地にあたる男が二等対魔士に自分達二人をわざわざ監視させ、しかもそれを内密にするなどとは。ジャグラーもその理由にまるで見当がつかない。しかし確実に言えるのはメルキオルが何かを企んでいることだけだ。

 

「あの男、一体何が狙いだ…」

 

「グオオッ!」

 

悩むジャグラーに構わず業魔が二等対魔士の屍を越えて侵攻してくる。

 

「チィ、考える暇もないか…貴様もいつまでも怯えてないで戦え!今剣を取らなければ俺に殺されずともここで業魔共の餌になるぞ、それでもいいのか!」

 

「は、はい!」

 

「とはいえこれでは…くそ!数ばかりちょろちょろと!」

 

業魔を蹴散らすジャグラーが毒づいた時それまでより一際強い振動が遺跡全体に走る。

その揺れは脆い壁を破壊し床もところどころ抜け落ちていく箇所が増え始めた。

 

「ジャグラー!」

 

聖隷の治癒術を受けるグランが叫ぶ。

その途端グランと使役聖隷の足場が崩れ暗闇のそこへと消えていく。

 

「うわああああああ!」

 

「グラン!」

 

しがみ付く業魔を紅蓮剣でほふるジャグラーは落下するグランの名を、声を張り上げて呼んだ。

その次の瞬間彼らのいる空間は上から降り注いだ瓦礫に飲み込まれた。

 

 

 

--------

 

 

「…う…」

 

途絶えていた意識が目覚めグランは体を起こそうとする。

けれども頭では動かそうとしているのにまったく反応しない部位があった。

おぼろげな思考でそれがどこなのか探った時彼の意識は完全に覚醒した。

 

「…腕、ないんだな…」

 

他人事のように無気力に呟くグラン。

無事な左腕で体を起こして光が射し込んでくる、真上を見上げる。

 

「そうだ…ジャグラー、皆、早く助けに行かないと…!」

 

まだ戦っているはずだ。

グランは立ち上がり遺跡上部へ繋がる通路を求めて歩き出す。

その拍子に彼はある光景を目にした。

彼の視線の先には瓦礫の下敷きになり、身動きの取れなくなった自分の使役聖隷の姿があった。

 

「パル!」

 

それを目の当たりにしたグランは出血による目眩に襲われているにも関わらず、即座に瓦礫を取り除こうと試みる。

 

「しっかり!今すぐこの瓦礫を」

 

「グ、グラン様…」

 

「え……」

 

一瞬何が何なのか理解できなかった。

聖隷が自分の意思で言葉を喋ったのだ。

聖寮では聖隷は意思なき存在だと教えられていた。アルトリウスだって同じことを言っていた。

-なのにどうして?

グランは戸惑いを露にしながらも残った腕で瓦礫をどかそうと必死になっている。

 

「私に構わず、行ってください。私はもう、助かりません」

 

「駄目だ!そんな弱気になっちゃ!大丈夫。すぐに動けるようになる!」

 

己と聖隷に発破をかけるように言い聞かせ、グランは瓦礫を取り除きにかかるも、量が多い上に一つ一つが重く腕一つではどうにも捗らない。

片腕を失った自分に苛立ちを募らせるグランは悪態をつく。

 

「くそ!こんな時に両腕が使えないなんて!」

 

「例えこの瓦礫から脱け出せたとしても…もうじき私は私でいられなくなる…そうなれば私は、あなたに恐ろしいことをしてしまう」

 

「どういう、こと…?」

 

壊れた仮面から覗かせる純粋無垢な瞳にグランは眉を細めて聞き返す。

答えを聞こうと口を開いた直後、上の方でけたましい爆発音が鳴り響き、上で何かが起こったのだと彼に直感させる。

 

「もはや時間の猶予はありません、行ってください…あなたはここで終わっていい人じゃない…貴方には 帰りが待ってる人がいる…エレノア様に渡さなければならない物もあるでしょう…」

 

そう言われたグランはハッとさせられ内ポケットに入れた物を思い出し、続いてそれを渡すつもりである少女の容姿を脳裏に浮かべる。

 

「あなたがいなくなれば彼女は悲しむ…それはおわかりでしょう…?」

 

聖隷の言葉は何一つとして間違っていない。

自分が死ねばエレノアはきっと涙を流す。

幼くして両親を亡くした彼女にはもう悲しんで欲しくないと自分は思った。悲しい思いをさせないようにと彼女を守ると昔に約束した。

その約束を貫き、守り通すためには断じて死んではならない。

しかしそのためには自分の使役聖隷を見捨てなければならないのだ。

 

「ごめん…」

 

「お気になさらず…」

 

後ろ髪を引かれる思いに胸を引き裂かれるような感覚を持ったまま、グランは先の見えない空洞に走り出す。

その途中パルは土に目を落として哀愁を帯びた声色で呟いた。

 

「忘れません…貴方から授かった名を」

 

「…飽くなき探究心パル(エリアル・ガリバー)

 

それは本当の名ではない。

彼を与えられた時には意思がなく、名を訊ねても答えを返さない。だから名を考えるのには苦労した。

悩むに悩んで名付けたのは小さい時好きだった冒険小説にちなんだ名だった。

 

「……ありがとう…パル」

 

それを最後の会話としグランは遺跡の上部を目指して駆けた。

遺跡の至るところから爆発音が聞こえようが、脇目も振らず彼は疾走する。

背後で地を揺るがす轟音が発生しても、彼は振り返らず目から一滴の雫流しながら先を急いだ。

 

「うああああああああ!」

 

慟哭を上げ地下空間を走り抜ける彼の目と鼻の先に光の歪みが音もなく現出し、その体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

-ここは…どこだろう

 

 

ふと気付くと青と緑が支配する空間にいた。

絵画みたいに幻想的な景色が広がる空間にグランはいた。

見回している彼の足元に影が覆い被さり背後を振り返る。

そこで見下ろしているのは龍だった。

周囲の色とはまた違った色合いをした青を持つ体躯と八つの尻尾の先端を合わせた、九つの顔を持った巨大な龍だ。

 

 

-君は一体…?

 

 

不思議と喰い殺されるとは思わなかった。

鎌首をもたげる龍の目は敵意を抱いているよりも、何故か申し訳なさそうにこちらを気遣っているように見えた。

龍は体から赤と黄の光を出して、その光はさ迷うことなく自分の体に吸い込まれるように入った。

そして龍は雄叫びを上げると目の前の空間はあっさりと消え自分の視界が真っ白に埋め尽くされた。

 

 

 

--------

 

 

 

遺跡の外では山のような物体が身をくねらせて鳴き声を上げていた。否それは山ではない。

金と焦げ茶色の体表に埋め込まれた青い結晶を光らせ、三日月のような形状の角を生やした魔獣だ。

魔獣-コッヴは角より光の弾を放出し遺跡が隠された山を攻撃し、目障りな岩を鎌の成りをした両腕で切断する。

 

『クワアアア』

 

そんなコッヴの前に突如現れた赤い光はやがて人の形に変化し、地面に降り立つ。

着地の衝撃で土砂が巻き上がり、大地の震撼がコッヴの足元を伝って全身に行き渡る。

コッヴの前に立ちはだかったのは異様な存在だった。赤と白のボディと逆三角形の青い結晶を取り囲む金の意匠を胸に刻んだ巨人。

彼は両腕を特に右腕をまじまじと見つめると叫び声を出すコッヴに気付く身構え、左腕を顔の横で垂直に曲げて右腕を突き出すように構えをとる。

 

 

「デュア!」

 

 

 




後二話程原作前の話を入れていきます。

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