テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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この作品を読んでくださる皆様に感謝です!
色々と拙いところの多い作品ですが、これからもよろしくお願いいたします!




第21話 流儀(ちかい)

ザビーダとアイゼンの後を追うべくレニードの町を発ったベルベット達。

今現在湿原を越えてブルナーク台地を横断していた。

 

「エレノア、ロウライネって場所について詳しく教えなさい」

 

 

足を止めずベルベットがやや後ろに並ぶエレノアに聞く。

今の内に敵が待つ場所について知っておこうと考えての発言だろう。

 

 

「ロウライネは塔のような形をした遺跡で、元々は単なる古代遺跡だったのを聖寮が訓練施設として管理下に置いた場所です。対魔士の適正試験や各対魔士ごとの霊力に応じた聖隷の付与、その他に聖隷術の修練と規律を享受するために利用されていました」

 

「下級の対魔士が聖隷術の特訓をして上級の対魔士を目指す道場か」

 

 

ロクロウは自分なりの解釈でまとめる。

だがエレノアは肯定せず間違っている部分を訂正した。

 

 

「いいえ、対魔士の霊力は訓練で強化できる類いのものではありません。私達は生まれ持った素質によって聖隷を与えられ、自らに適した技術を学ぶだけです」

 

 

つまり一等対魔士は生涯ずっと一等対魔士のまま、二等対魔士は生涯ずっと二等対魔士まま、どんなに努力しても上の位になれはしない。

エレノアの言うことはそういうことだ。

 

 

「そんなんじゃ張り合いがないだろう。強くなりたいとか出世したいとか思わないのか?」

 

「等級の上下は使える聖隷の種類や数といった適正の違いでしかないのです。私達は皆、業魔から人々を守り世界を良くしたいという願望を持って聖寮の門を叩くのです。それ以外に意味などありません」

 

「そういうものなのか…」

 

 

エレノアはにべもなく言うがロクロウからすれば少々納得できないところがあるだろう。

自分の腕を磨いて上を目指す価値もなければ、格上の相手と勝負して地位や名を上げる名誉を求めることもない。

世界のために勤める献身の精神がなければ、自分から進んでわざわざ入りたがるような場所ではないな。

とロクロウは思った。

 

 

「塔にはそういう対魔士達が待ち構えているわけか…」

 

「そういうことになるな…」

 

 

ベルベットとガイアの二人はあくまでもロウライネの戦力に注目を寄せているようだった。

 

 

「ん…利用されていたと言っていたな。エレノア、ロウライネの塔は今訓練施設として使われていないというのか?」

 

「仰る通りです。二年前の調査隊の全滅の一報があった後、聖寮は全面的に塔の利用を禁じました。理由は調査隊を襲った業魔の危険性を認知してのものと」

 

 

ガイアの問いかけにエレノアは頷いて応対する。

それを聞いてベルベットはまた別の疑問が出てきた。

 

 

「既に使われていない施設をどうしてメルキオルは利用した…?」

 

「確かにな。訓練施設なら対魔士が大勢いると踏んでいたが、戦力目当てで塔に罠を張ったわけじゃなさそうだな」

 

「もしかすると塔に求めたのは戦力ではなく記号なのかもしれない」

 

「記号?」

 

 

それぞれが議論を重ねていく中で出されたガイアの主張にライフィセットは疑問の声を上げた。

ガイアは彼に目を向けつつ、自ら発した言葉の意図を説明する。

 

 

「訓練施設としてもはや機能していない塔。しかしそこでは特等対魔士が手配聖隷を確保するために動いている。これだけの記号があれば聖寮と対立する奴が気にならないはずがない」

「しかもそこにいるのはメルキオル。メルキオルはアイフリードの失踪についての手がかりを握ってる。罠とわかっててもザビーダやアイゼンが食いつかざるを得ない…目的の相手を確実に誘き寄せる絶好な場所にしたってわけね」

 

 

納得したように呟くベルベット。

 

 

「なんにせよこんなところでいくら憶測を立てようとさほど意味なかろう。今は先を急ぐのを優先したほうがよい。どのみちあのジジイの元に辿り着けばお主達の疑惑を晴らす答えが得られるのじゃし」

 

「そうね」

 

 

マギルゥの言葉を皮切りに一行はロウライネの塔に向かうことに集中する。

その道中何気なく周囲の景色に目を向けたライフィセットの口から感嘆の声が出た。

 

 

「うわぁ、きれい…山がお湯を吹き出してる」

 

「しかも虹がすごい…」

 

 

緑の生い茂る草木の奥で岩山から吹き出る間欠泉。

その上でアーチ状に鮮明に光る虹の数々。

それらが上手く合わさった景色はまさに素晴らしいの一言に尽きる。

状況が状況でなかったらライフィセットでなくとも足を止めて、じっくり眺めていたい美しい眺めだ。

現にその風景はベルベットの視線をも釘付けにしていた。

 

 

「有名な世界七不思議のひとつ、ブルナーク間欠泉ですね。地下で温められたお湯が吹き出しているんですよ」

 

「付け加えればお湯に溶けた鉱物に含まれる塩分が光を反射させて無数の虹が生まれるんじゃ。その鉱物が少しずつ溜まってあんな奇岩に育ったんじゃよ」

 

「へぇ~!」

 

「今みたいに見晴らしがいいと澄んだ青空と色んな形の雲もあって格別な景色が見れる。まさに絶景と呼ぶに相応しい」

 

 

エレノアとマギルゥ、そしてガイアの解説もあってライフィセットは瞳を輝かせる。

その一方でベルベットはマギルゥの博識ぶりを皮肉を交えて評価した。

 

 

「常識はないくせに妙な少知識はあるわね」

 

「ちなみにお湯の元である地下水脈は海と繋っておるらしい。そのせいで間欠泉からは時折茹でられたタコやカニが飛び出すらしいぞよ。先の塩分がいい感じに加わって味は絶品じゃとかなんじゃとかー」

 

「タコやカニが…」

 

「本当か。それ…」

 

「あり得ない話ではない…かも…」

 

「まあ一応…は、な。可能性としては大分薄いが」

 

 

ベルベットの小言などお構い無しとマギルゥが更なる知識を披露する。

だが内容が内容だけにでたらめではないのかと疑う声も少なくないようだ。普段がふざけて見えるだけに尚更だ

 

そんな雑談を交わしながらも一行の目に飛び込んできたのは聖寮の紋章が刻まれた白いテント。それがいくつかあるところからしておそらく駐屯地なのだろう。

周りには十数人の対魔士らが手足をだらりと伸ばして倒れており、その中心にアイゼンの後ろ姿があった。

 

 

「アイゼン!無事だったんだね!」

 

「サレトーマの花は届けられたか?」

 

「うん。ちゃんとベンウィックに渡したよ」

 

「そうか。すまないな」

 

 

そうライフィセットに礼を言うアイゼン。

彼の足元に散らばる対魔士達を見下ろしてベルベットは彼に訊ね聞いた。

 

 

「あんたがやったの?」

 

「俺が来た時にはこうなっていた。ザビーダの野郎だろう」

 

「まだ息があります」

 

「こっちもだ。たぶん全員気を失ってるだけだ」

 

 

近くの対魔士の脈を確めたエレノアとガイアが口々に報告し、それを聞いたベルベットは顔色を変えずに呟く。

 

 

「一人も殺さない流儀か」

 

 

最初に遭遇した時もそうだった。

敵対する者であろうと戦闘の継続ができないまでに攻撃の手を留め、命までは奪わない。

相手が対魔士であろうともそのスタンスを崩さない。

それがザビーダの流儀でありこだわる理由もあるのだろう。

 

 

「ザビーダは先へ行ったようだな」

 

「奴もこの先にあるのが罠だとわかっている。わからんのは何故アイフリードの存在をほのめかし俺を巻き込んだかだ…手を組む気がないのならハナからそうする必要はない」

 

「だがザビーダやメルキオルの思惑が何であれ塔に行くのは変わらない…だろ?」

 

「ああ」

 

 

誰かの思惑が絡んでいようと、真意がどうであれ、塔に向かう。

そうはっきり意思を示したガイアとアイゼンにエレノアは改めて問う。

 

 

「罠だとわかって行くのですか?どうしてそこまで」

 

「確めたいからだ」

 

 

アイゼンは岩山の方角に体を向けると、雄大な景色を瞳に刻み込みながら語る。

 

 

「アイフリードは、あいつは死神の呪いを解く方法を見つけようと躍起になっていた俺に言った。『無駄なことはやめろ。呪いの力を持って生まれたのなら呪いごとお前だろう。自分の意志で舵を切れば、死神だって立派な生きる流儀になるはすだ』ってな。だから俺はバンエルティアに乗った」

 

「生きる流儀…」

 

 

流儀、アイゼンがよく口にするのをライフィセットもこれまで何度も見てきたし、彼自身もベルベットの仲間になって間もない頃もよく言われてきた。

自分の舵は自分で取れ、自分の流儀に従って生きろ、と。

それらの言葉を言ってくれたアイゼンもまたアイフリードに言われていたのだと、この時ライフィセットは気付いた。

同時にアイフリードの存在がアイゼンの中でどれだけウエイトを占めているのかも

 

 

「例えアイフリード殺されたとしてもそれがあいつの意志の、流儀の果てならそれでいい。だがあいつの流儀を踏みにじったとしたら誰だろうが絶対に許さん」

 

 

アイゼンの言葉を聞いてベルベットらの間暫しの静けさが訪れる。

そんな中ライフィセットはガイアに目を移した。

向けられている視線に気付いたガイアは彼の言いたいことを察し、口を開く。

 

 

「俺もアイゼンと似たようなものだ。アイフリードには大きな借りがある。だからこそアイフリードを-」

 

「誰だ!?」

 

 

ガイアの言葉を潰す形でベルベットがテントに向かって叫ぶ。

テントの陰に潜んでいる気配を感じたのだ。

そして気付かれて観念したのか潜んでいた人物が姿を現す。

それはザビーダだった。

 

 

「立ち聞きとは行儀が悪いな」

 

「内緒話ならお家でやんなって」

 

 

皮肉を皮肉でもって返しあうアイゼンとザビーダはお互いに刺のある視線で向かい合う。

 

 

「アイゼン、ザビーダ一緒に行くことはできないの?」

 

「ケジメを付けなきゃ手は組め(ん/ねえ)」

 

 

二人にライフィセットは協力の提案を持ちかけるが彼らは揃ってきっぱりと断る。

息はピッタリだというのに共に力を合わせるのは御免だそうだ。

 

 

「ま、そういうこった」

 

 

そう言ってザビーダはまた単独でロウライネの塔を目指して行った。

 

 

「わざわざ出て来んでもよいのに訳のわからん奴じゃの~」

 

「まったくね」

 

 

むちゃくちゃで合理性のないザビーダにマギルゥもベルベットも、理解できないとばかりに呆れた声色を発した。

いなくなったザビーダの姿を見送ったアイゼンは憎たらしげに舌打ちを打つと、歩みを進める。

 

 

「俺達もいくぞ」

 

 

その言葉を合図として他の面々も一拍遅れてアイゼンの後に続いた。

そうしてしばらくして、彼らは塔のような形状をした遺跡の前に行き着いた。

 

 

「これがロウライネの塔。天辺が見えないぐらいすごく高い」

 

 

塔を見上げたライフィセットが門前で感想を呟くのを他所にアイゼンは真っ先に扉に手をかけ、中へと踏み入れる。

中はサークル状に広がっており、いくつかの壁や水路あるぐらいの侘しい感じの印象を与える空間だ。

 

 

「お目当てのザビーダが入り込んだ割にはずいぶんと静かだな」

「ここはもう敵陣よ。敵が攻めてくるかわからないし、罠だってある…気を緩めないで」

 

「待て」

 

 

辺りを警戒しつつ、奥に進んでいこうとするベルベット達だがそれを制したのはガイアの声だった。

 

 

「この奥に行っても無駄だ…罠を張るとしたらこの階層じゃなくおそらくこの上だろう」

 

 

ガイアが親指を向けたのは上層へと繋がる階段。

 

 

「根拠は?」

 

「ただの勘…それもあるが、罠を仕掛けるには水路ばかりのこの階は少々不向きだと思ってな」

 

 

疑ってかかるベルベットにそう断言するガイア。

アテにしていいものかと悩むベルベットにロクロウが助言をする。

 

 

「見たところこの階に敵が隠れている気配もなさそうだし、ガイアの言う通り上へ行った方がいいんじゃないか?」

 

「…そうね。上へ行ってみましょう」

 

 

階段を登って上層へ進むベルベット達。

螺旋階段を駆け上がりながらエレノアはある人物の背中をじっと見つめていた。

 

 

(さっきの言葉、まるでこの塔の内部を知っていたような言い方だった。彼は以前にもここに来たことがあるのでしょうか…いえ既に使用されてないとは言ってもここは聖寮の管理下にある施設。その内部構造を外部の者が把握できるとは思えない)

 

 

先のガイアの発言が引っ掛かっていたエレノアは心の中で疑問を口にする。

 

 

(もしかして彼は…でもまさかそんなはずは-)

 

 

-ありえない。だってあの時に彼は死んだのだ。仮に生きていたとしても海賊なんてやっているはずはない。人々の平和のために対魔士の道を選んだ彼が業魔と行動を共にして、聖寮に歯向かうなんて行為をするはずがない。

 

そうであって欲しいと思う一方で、それを認めたくないと望む自分がいる。

どちらが本当に自分が望んでいることなのだろう。

結論のでそうにない思考をするエレノア。

 

その合間に彼女とベルベット達は拓けた場所に出ていたた。

訓練施設の名残りを残した遮蔽物のない広い砂だらけの場所。

その中央で十字架に縛られている赤紫の衣装の男にアイゼンは過敏に反応を示した。

 

 

「アイフリード…」

 

「あれが海賊アイフリード」

 

 

これまで名前しか聞いたことのない男が目の前にいるとわかりベルベット達はアイフリードに視線を集中させ、縛られている彼にアイゼンが近付く。

同じ船に乗った仲間との再会にアイフリードは苦い顔をしながらも、静かに微笑む。

 

 

「アイゼン、ガイアも一緒か…久しぶりだな…」

 

「生きてたんなら手紙くらい寄越せ」

 

「くくく、お前、男に手紙出したことあるのかよ?」

 

 

からかうように笑うアイフリード。

彼の冗談交じりの皮肉に吊られてアイゼンもクールさを表情に意地したまま、そっとほくそ笑む。

 

 

「ふっ…弟以外には一度もねぇな」

 

「弟…?」

 

 

アイフリードは一瞬怪訝そうな顔をする。

だが気を取り直したのか、崩した笑みを戻してアイゼンに答えた。

 

 

「…ああ、そうだったな…ぐはっ!」

 

 

瞬間、アイフリードの体は十字架に固定されたままでありながらもくの字に曲がる。

彼の腹部にアイゼンが一撃を入れたのだ。

 

 

「何故だ…アイゼン…!?」

 

「俺に弟はいねぇんだよ」

 

 

カマをかけられたと気付く間もなくアイフリードは跪き、体と彼を戒めていた十字架は緑の光となって消える。

 

 

「消えた!」

 

「幻覚だったのか」

 

ライフィセットとベルベットが消滅したアイフリードの幻影に驚く。

そんな彼らの前、つまりアイゼンの後ろにまた別の姿が音もなく現れる。

無論アイゼンも出現に気付いている。

 

 

「下手な幻覚は-」

 

 

通用するものか、とでも言おうとしたのだろうが彼がそれを最後まで音にすることはできなかった。

振り向くと同時に彼は絶句した。そしてそれはベルベット達も同じだった。

 

鮮やかな黄と白の服を着込み、小さく可憐な体を日差しから守るように傘をさしたアイゼンと同じ髪色の少女。

その少女の背中しかベルベット達には見えないが、目を丸くするアイゼンの反応を見るに彼にとって重要な人物なのだろうか。

少女が傘を閉じ、アイゼンにしっかりと顔を見せようとした時

 

 

-タァン!

 

 

小気味の良い音と共にどこからか緑の光が少女の頭を撃ち抜く。

衝撃で吹き飛んだ少女をアイゼンもベルベット達も目で追うと、その幼い姿はどこにもなく代わりに聖寮の使役聖隷が一体転がっていた。

それを視認したアイゼンは反対方向に目を移す。

 

 

「おとり役助かったぜ。副長」

 

 

緑の光の軌跡を辿った先に銃を握り締め、こちらを見下ろすザビーダがいた。

彼は高所から飛び降りるなり、左右に首を動かして声を荒らげた。

 

 

「出てきやがれジジイ!」

 

するとそれに呼応するように倒れる使役聖隷の近くにメルキオルの姿が先の少女と同じように現れた。

 

 

「メルキオル様…」 「メルキオル…!」

 

「儂の二重幻術を破るとは…」

 

「二度も同じ手くうほど間抜けじゃねえんだよ」

 

 

エレノアとガイアに己の名を呼ばれているのが聞こえていないのか、メルキオルの興味の視線はザビーダへと注がれている。

 

 

「…以前逃したのは失策だった。今回はそうはいかんぞ」

 

 

そう言うや否や彼は三体の使役聖隷を召還する。

その後に緑の光を浴びた使役聖隷も起き上がった。

 

 

「使役聖隷が四人も…」

 

「ただの使役聖隷じゃない。特等対魔士の使役する聖隷だ。これまでの聖隷のようにはいかないぞ」

 

「関係ない。全部潰すだけよ」

 

 

ライフィセットとガイアが自らの武器を体の前で構えながら言う。

先程エレノアから対魔士の等級の説明を聞いていただけに、特等対魔士の使役する聖隷を相手にする危険性をベルベットは理解していた。

だが邪魔だてするようなら容赦はしない。

そうベルベットが思いを胸に手甲から刃を引き抜いた時だった。

 

 

「う…何故、私はここに…??」

 

 

ザビーダの弾丸を食らった使役聖隷が意識を取り戻し、困惑の言葉を出す。

 

 

「意思が戻った…あれの力か」

 

 

自身の聖隷に起きた異常にメルキオルは驚く素振りを一切見せない。

それどころか眉一つ動かさずに、掌に形成したドス黒い気をその聖隷に浴びせた。

 

 

「うう、ああ…うああああああ!!」

 

 

黒い瘴気を纏い、使役聖隷は断末魔の叫びと共に翼竜-ワイバーンへと変異する。

 

 

「聖隷を業魔に!?」

 

「まさかそんな!」

 

 

ベルベットとエレノアがその現象に驚く一方で、ガイアはメルキオルの仕打ちに怒りのあまり唇を噛みしめる。

だが驚くにはまだ早い。

 

 

「「「ぐ…あっ…ぐあああああ!!」」」

 

 

残る三体の使役聖隷も最初の聖隷と同様に黒い瘴気を発して、ワイバーンと化しその強大な両翼で宙を舞う。

そしてそれらは群れをなしてベルベット達に襲来する。

 

 

「死神の力が連鎖させたか…大した負の影響力だ」

 

 

いつの間にか入り口の方に移動していたのかメルキオルはワイバーンとベルベット達の闘いを見て、踵を返す。

 

 

「逃がすかよ!」

 

「ザビーダ!…すまない、ここは任せた!」

 

「ちょっと勝手に-!」

 

 

戦いの場から離脱するメルキオルを追うザビーダ。

彼一人でメルキオルと対決するのは危ういと悟ったガイアは四体のワイバーンをベルベット達に託し、二者の後に続く。

だが

 

 

『グガアアアアアアアア!!』

 

 

不用意に背中を向けたのが間違いだった。

ベルベット達が相手していた内の一体が強襲し、無防備な彼の体を脚で捉える。

餌を狩る猛禽類のように空を駆けるワイバーンは、そのまま獲物を壁に叩きつける。

 

 

「がはぁっ!」

 

「ガイア!」

 

 

ワイバーンの火炎を火の聖隷術で相殺したライフィセットがそちらに目を傾ける。

次の瞬間、彼の視界に映り込むガイアの体は壁に押し付けられたままワイバーンの脚に引き摺られていく。

 

 

「ぐっ、がああああ!!」

 

 

摩擦熱で皮膚が焼ける痛みに苦しむガイア。

悲痛な声を上げる彼に構わずワイバーンは飛行を止めることなく、彼の体を塔の形状に沿って引き摺り回す。

 

 

「今助けます!霊槍・岩奴!」

 

 

エレノアが狙いを定めて地属性の聖隷術を発動させる。

いくつもの岩が放たれ巨大な体躯に炸裂すると、ワイバーンは動きを鈍らせてガイアを手放す。

解放されたガイアは着地の間際にかろうじて受け身をとって地上に転がり、どうにか事なきを得た。

だが受けたダメージは重く、肌は擦り切れ、頭から血を垂れ流し片膝をついていた。

 

 

「じっとしてて下さい。すぐに治療します」

 

「まったく世話を焼かせるのう。戦いの最中に余所見なんぞしよるからそうなるのじゃ」

 

 

そこにエレノアが聖隷術で治癒に、マギルゥがわざわざ皮肉を言いに駆け付けた。

 

 

「悪かった…今はこっちに集中する」

 

「時間がないので今は傷口を塞ぐくらいしかできません。多少痛みは軽くなったと思いますが、あまり激しい動きをするとまた傷口が開いて痛みが強くなりますから気を付けてください」

 

「いやだいぶ楽になった。助かる」

 

 

額の血を指で拭ったガイアが礼を述べてすぐエレノアの聖隷術の直撃を受けたワイバーンが敵意を向きだしに、三人を高みより見下ろす。

 

 

『ガアアアアアアア!』

 

ワイバーンの咆哮が轟くロウライネの塔。

四体の翼竜との戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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