テイルズオブベルセリア~True Fighter~ 作:ジャスサンド
「後ろから来るぞ!気を付けろベルベット!」
「言われなくても…!」
対魔士の訓練施設であったロウライネの塔。
今ここでは四体の翼竜と七人の無法者達が激しく入り交じて、大混戦の場と化していた。
ロクロウとベルベットは迫り来るワイバーンの足爪を回避。あるいは各々の剣で払いのけてから反撃に転じる。
「風の刃よ、斬滅しろ。エアスラスト! 」
「漆黒渦巻き軟泥捉えよ、ヴォイドラグーン!」
アイゼンとライフィセットは術主体の遠距離からの攻撃でワイバーンを追い立てる。
いくつもの風刃と地より這い出る闇の魔手に両翼と脚を傷つけられ、近づくこともままならず苦しみの悲鳴をあげる。
そのすぐ近くで別のワイバーンと戦っているのはガイアとエレノアのコンビ。
宙から降りかかる二つの火の弾のそれぞれにガイアは橙の光弾を一つずつぶつけて、相殺する。
「そのまま突っ込めエレノア!」
火炎弾と光弾の交錯による巻き上がった黒煙の中を突っ切って、ワイバーンの片翼に長槍の先端を突き刺す。
深い食い込んだ長槍をエレノアごと振り落とそうと身を捩る。
そうはさせまいとエレノアもグッと力を込めて足掻く。
簡単に抜けない槍に苛立ったワイバーンは体の向きを変えて壁に突進する。
「くっ…!」
ワイバーンがどこに向かおうとするのか見抜いたエレノアはやむを得ず槍を手放し、すんでのところで飛び降りた。
壁に自ら突進したワイバーンは雪崩れ落ちる壁の破片を被りながらも、まるで意に介さない様子でエレノアとガイアを細い金の瞳に納める。
「あんまり出張るなよ。今前に出たらかえって危なかっしい」
「お気遣いには感謝します。ですが心配は無用です。伊達に一等対魔士は名乗っていません」
「そうか…ならいいんだ」
エレノアの身を案じての言葉だったが彼女には刺のある言い方をされてしまい、ガイアは落胆する。
だがそれを態度に出すよりも前にワイバーンの火炎が迫り、二人はバラバラに散ってかわす。
『グアアアア!』
高らかに雄叫びを上げて口から火炎を吐くワイバーン。
その一体を単身相手にするマギルゥは前方に水流を扇状に展開して難なりと防ぐ。
自らの攻撃が受け止めらた事実を目の当たりにしてワイバーンは激昂し、再度マギルゥに火を放つ。
今度のはさっきより大きく、威力も上と思われる。
「アクアスプリット!」
だがそれすらマギルゥは楽々と水弾で打ち消してしまい、ワイバーンに格の違いを見せつける。
「案外大したことないのう。この程度かえ?威勢がよいのは図体と耳障りな叫びだけなのか?」
現に彼女は涼しい顔をしてワイバーンに軽口を叩く程に余裕たっぷりな様子だ。
「ふん、悔しかったら文句の一つや二つ言ってみるがよい…最もそうなってしまってはもはや何も言えぬか…」
意思の疎通も、気持ちを口にすることも叶わない。
理性を失い、ただただ獣としての本能のみで動く化け物と成り果てた
『ゴワアアアア!』
火炎が通用しないとわかったワイバーンは手段を変えて、直接彼女を喰らうべく急接近する。
「うそじゃろおおおおお!!そりゃ反則じゃてえええ!」
自身の聖隷術の直撃を堪えて進行を続ける翼竜にマギルゥは逃げながらも、緊迫感をこれっぽっちも感じさせない悲鳴を声の限り叫ぶ。
足で逃げるマギルゥと翼で追いかけるワイバーン。
両者の間隔が縮まるのはあっという間で、ワイバーンの顋がぐわっと開かれた。
「ひょえええ~!?儂なんぞ喰らっても腹を壊すだけじゃぞー!!」
ワイバーンの胃袋に収まりかけたマギルゥを、すんでのところで横から抱え込んで救助した者がいた。
ガイアだ。
「間一髪、だったな」
少しヒヤリとした感じでガイアはマギルゥを抱えたまま、ワイバーンとの距離を置く。
俗に言うところのお姫様抱っこの格好でワイバーンの餌になる危機から助けられたマギルゥは彼の首に腕を回して、感謝の言葉を声高らかに並べ立てる。
「助かったぞガイアや!ちょ~どよいところでよくきてくれたではないか!…己の身を省みず助けてくれるとは、お主の優しさが目に染みるわい…!!」
「っ抱き付くな、うるっさい!耳元ではしゃぐな!」
「かわいいの~なんじゃ?緊張しておるのか?こんな大胆な行動に出ておいて今更恥ずかしがることもないぞ。まあ気持ちはわからんではないがの」
「黙れバカ!自惚れも甚だしい!」
「バカとは何か!バカとは!悪魔も名を聞いて恐れ腰抜かす、このマギルゥ様に向かってそのような暴言を吐いて」
四匹の竜が目の前にいるというのにいつも通りのやり取りを交わす二人。精々違う点を挙げるとすればガイアの語気が荒くなっていることぐらいであろうか。
そんな彼ら二人にマギルゥを付け狙うワイバーンが翼を広げて前進してくる。
「かわせ!全速前進で逃げるのじゃ!」
「前進したら自殺行為になるだろ!てか密着するな!動きにくい!」
「律儀に突っ込んでおる場合か!前を見よ!すぐ目の前まで来ておるのじゃぞ!」
ぎゃあぎゃあと無駄な口論を喚き散らすマギルゥとガイア。
既にワイバーンは凄まじい速さで迫っており、回避するゆとりは残されていなかった。
「ほれ見たことか、もたついておるせいで逃げることもできなくなってしもうたではないかぁ~!」
「誰のせいだと…!ああ、もう腕はそのままでいいから背中に回れ!早くしろ!」
限りなく恫喝に近い指示にマギルゥはぶーたれたように唇を縦に尖らせながらも、言うことに従い首に両腕を回したまま背中におぶさるような姿勢で大人しくなる。
おかげで両腕が自由になったガイアはシャープネスを自らにかけてワイバーンを待ち構えた。
『ガアアア!!』
ワイバーンの巨体がガイアとマギルゥを壁に押し潰さんとする。
筋力を強化したガイアは両腕を前方に差し出して、ワイバーンを受け止めているが、時間が経つに従って背後の壁際に追い込まれていく。
「んん…こんなっくそぉぉ…!」
「しっかりせい!踏ん張るのじゃ!儂は挽き肉なんぞにはなりとうないぞ!」
「やかましい…黙ってろ…!!」
さらっと不吉なことを耳元で口煩く言うマギルゥに苦情をぼやくガイアだが次第にその余裕もなくなり、限界を迎えようとしていた。
(まずい…!もうもたない!)
あわやこれまでかと諦めかけた時、右方から業魔手を解き放ったベルベットが飛びかかり、ワイバーンの巨体を引き剥がす。
「さ、さすがの儂も今のにはヒヤリとしたわい」
「…本当に挽き肉になる寸前だった」
ペタリと脱力して地べたに座り込むマギルゥと痺れた腕をだらりと伸ばしたままその場から動けそうにないガイアは、安心感からお互いに大きく息を吐く。
彼らの窮地を救ったベルベットは地面に叩きつけたワイバーンの首筋を切り裂いて、トドメを刺す。
他の二体のワイバーンもライフィセットとエレノアの支援を受けたロクロウとアイゼンの攻撃によって沈黙し、今なお活動している個体は一体のみとなる。
「策士策に溺れるとはこのことだなジジイ」
ザビーダがメルキオルを捕らえて戻ってきたのはちょうどその時だった。
ペンデュラムで両腕ごと身体を縛り上げたザビーダは彼に銃口と敗北を突きつける。
「溺れたのはどっちかな?」
「あん?」
余裕の笑みを乱さないメルキオル。
直後撃沈していた二体のワイバーンが起き上がり、すぐさま攻撃を再開するような所作を取り出した。
それに真っ先に反応したのはアイゼンとベルベット。
逆襲の一手を食らう前に拳と業魔手を叩き込み、相手を完全に仕留める。
「何!?」
「残りはあたしがやる!」
躊躇いなく命を奪った彼らにザビーダは心の底から驚きの声を上げる。
その彼の前でベルベットはまだ息をしている最後のワイバーンをも排除しようとしていた。
業魔としての彼女の腕がワイバーンに触れる間際、メルキオルの拘束を解いたザビーダがペンデュラムを飛ばしてそれを防ぐ。
そして次に彼はワイバーンを守るようにベルベットの行く手を阻んだ。
「どういうつもり…?」
思わぬ妨害にベルベットは顔をしかめてザビーダを糾弾するように問い詰める。
しかしザビーダは無言のまま、ワイバーンに銃口から緑色の光弾を打ち出す。
すると緑色の光を浴びたワイバーンは弱っていたのが嘘であるかのように、気力を取り戻し悠々と空へと羽ばたいていったのだった。
「ワイバーンを助けた?」
「あっさり殺しやがって…それがてめえらの流儀かよ!」
ザビーダの取った行動に戸惑いを隠せないエレノアを他所にザビーダはベルベット達に憤りを露にする。
「素晴らしい。ジークフリート、まさに求めていた力だ」
声がしたかと思えばメルキオルは誰にも察知されずにザビーダの背後を取り、彼の持つ銃に緑色の光線を照射。
銃身を組まなく解析するように光は当てられ、その光が消えるとメルキオルは陽炎のごとく姿を消して部屋の入口に転移していた。
「目的は達した。もうここに用はない」
そう言って駆け足で階段を下るメルキオル。
「待ちやがれ!」
「俺達もいくぞ」
逃亡を謀るメルキオルの後を追ってザビーダとアイゼン達も部屋を後にし、ロウライネの塔を出る。
「逃がしてたまるかよ」
草原の上を走るメルキオルの背中を目視したザビーダは全速力で追随する。
ベルベット達もまた彼の後ろに並ぶようにして走る。
「野郎、どこへ向かうつもりだ」
(この方角…まさか)
ブルナーク台地から通じるレニードともヴォーティガン開門とも、どちらとも異なる道を行くメルキオルの逃亡先にアイゼンは見当がつかずにいた。
しかしガイアはただ一人、周囲の景色とメルキオルの走る方角からある場所を思い浮かべる。
そして予感は的中した。
ところどころ散らばる岩の数々、踏み荒らされた草花、焼け焦げた大地の跡。
記憶にある風景とはやや異なるもののそれらはガイアにとって忘れられない出来事を思い起こさせる。
「くそ、どこに消えやがった!!」
ザビーダがメルキオルの姿を探して辺りを見回す一方、ガイアは眼前の景色をじっと見つめていた。
(間違いない。ここは、僕が初めて巨人になった場所…)
「見て、あそこに何かある」
ガイアがかつて巨人として戦った記憶を呼び起こしている傍らで、ライフィセットは岩山の一帯に何かを発見したようだ。
ベルベット達は皆ライフィセットの指指す方向に目を向ける。
そこには支柱が無残に倒壊しているものの、遺跡の入り口と思われる建造物があった。
「遺跡、みたいだね」
「まさかあいつ、ここに逃げやがったのか」
「中に入ってみりゃわかるさ」
そうアイゼンに言うとザビーダが一番乗りで中へと入る。
アイゼンも遅れを取るまいと足を進め、ベルベット達も彼と同じくザビーダの後に続く。
階段を下り、一本道の通路を警戒しながら歩いて行く彼らを拓けた部屋が待っていた。
かなりの広さがあり、奥には祭壇があるが何かを奉っていた物置かれていたであろうその上には埃しかない。
しかもあちこちの床も黒く染まっており、その近くには砂のように金属の破片が散っている。
とても神聖さは感じられず、まるで廃墟のような虚しさが蔓延していた。
「乾いた血の跡…?」
「それに金属の欠片だな。しかもこれは剣や鎧の材料によく使われる金属だ」
「血や武器の欠片があるということはここで以前何かしらの争いがあったということか…」
「争いだあ?こんな遺跡の中で誰がどんな理由で争うってんだよ」
ザビーダの問いはベルベットも気になっていた。
遺跡の内部に何故血や武器の破片が散らばっているのか。しかも量からしてかなり規模の大きな争いが起こったと思われる。
そこまで考えたところでベルベットは何かに気づき、エレノアに訊ねる。
「エレノア、聖寮の対魔士が業魔に全滅させられたのはレニードの近くの遺跡って言ってたわね。その遺跡ってここのこと?」
その問いにエレノアは口を閉ざしたまま俯く。
ぎゅっと何かを堪えるように拳を握って、エレノアは目線を落としたままか細く呟く。
「…おそらく間違いないと思います」
「じゃあここにあるのは対魔士と業魔の戦いの痕跡か」
絞り出すように告げたエレノアの回答にロクロウが合点がいったとばかりに声を上げる。
「メルキオルを追って来てみればトンでもない場所を訪れてしまったのお~もしやあやつがここに逃げ込んだのは志し半ばに死んだ対魔士の怨念で儂らを呪い殺すつもりためかもしれんな」
「マギルゥ!」
不謹慎な発言だと言いたげな目を向けてライフィセットはマギルゥを咎める。
けれどもマギルゥはそれで反省する素振りを表さず、エレノアに謝ることもしなかった。
そんな彼女の態度にいちいち指摘するのも面倒だと、ベルベットは祭壇の奥に目をやる。
奥まで歩いてみると祭壇の裏側には扉があり、開けてみると十字の通路があるのがわかった。
「道が別れてる。手分けして先に進んだ方がいいわね。もたもたしてたらメルキオルに逃げられる」
「それには賛成だが問題はどうやって戦力を分配するだ。ただでさえ数が少ない上に相手が相手、戦力はなるべくにわける必要がある」
「道は三つ、人数がザビーダを入れて八…となると一つの道に多くて四人少なくて二人か。シンプルに戦闘方法で分けるか?前衛と後衛で組んで、互いの不得意な距離を補い合うって具合で」
「単純だがそれが一番かもな。あんまり長々と話してる時間もないしな」
話し合いがまとまったところで今度は三つのグループに分かれるためのメンバー決めの段階に移行する。
「後衛だったらライフィセットと俺、後は-」
「儂がいるぞ~」
「…これでちょうど三人だな」
「ならお前達は別々に行動した方がいい。特に治癒術が使えるマギルゥとライフィセットはバラけるべきだろう」
「あたしはライフィセットと行くわ」
「ならオレはマギルゥの方に行くとするか」
後衛組はライフィセットとガイア・マギルゥに決定し、ベルベットとロクロウも即決する。
「私はガイアと行きます。構いませんよね?」
「…ああ」
ガイアの了承を得たエレノア。
その様子を静観していたアイゼンは先程からじっと黙っているザビーダに呼びかける。
「お前はどうするつもりだ」
「フン、好きにさせてもらうさ」
ザビーダはそう言ってガイアの近くまで寄ると、彼の肩に腕を回す。
「俺はこっちに行かせてもらうわ。いいだろ?副長さんよ」
「好きにしろ。だが妙な真似はするなよ」
念のためにザビーダに釘を刺したアイゼンはマギルゥとロクロウの方に加わることになり、これで全員の割り振りが完了した。
「進んだ先に何もなかったところはすぐに引き返してここで他の方を待つこと。もし暫く待っても戻って来なかったところがあったらすぐそっちの方に行くこと…いいわね?」
ザビーダを含めて全員の顔を見渡してベルベットが言う。
異論がないのを確認するとベルベットとライフィセットは真ん中の道、ガイアとエレノア・ザビーダは右の道、マギルゥとロクロウ・アイゼンは左の道へ進む。
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「なあ、ちょっといいか?お前はなんでアイフリードやあの副長と海賊やってんだ?」
「…昔色々あってな。他に行く宛のなかった俺をアイフリード達海賊は受け入れてくれたんだ。あそこはある意味普通の世界じゃ生きられない奴らの集まりだからな。そういうお前はなんで一人で聖寮に敵対してる?」
「気に食わねぇんだよ。聖隷の意識を封じてそいつの意思に構わず道具にして従わせる聖寮のやり口がな…けどなお前らもはっきり言って気に入らねぇ。ドラゴンになったからって簡単に殺しちまう…お前らのやり方が俺は好かねぇ」
ロウライネでメルキオルがワイバーンにさせた聖隷達のことを言っているのだろう。
それらを躊躇いなく殺した事実にザビーダは憤りを感じている。
そんな彼に対してガイアが反感を持ちはしなかった。
「認めるよ…お前の言ってることはたぶん間違ってないと思う」
「だったら-」
「でも殺すことが間違っていようと…どうしようもない状況だったら…俺はドラゴンだろうと殺す。殺すことを躊躇ったせいで大切なものが傷付くのなら俺はそうすることを選ぶ」
「あくまで殺しを否定しないってわけか…対魔士の嬢ちゃん。あんたはどうなんだ?」
「…え?」
「あんたもこいつと同じ考えか?守るためとは言え命を奪うのを肯定するか?」
どこか上の空で話を聞いていたエレノアは一瞬何を質問されているのか理解が追い付かず、返答に手間取る、
「…私は、対魔士は人々の暮らしを守るためにあります。人々の安全が業魔やドラゴンによって脅かされるのであれば当然私はそうします。個の犠牲で全を犠牲にしなくて済むのなら…それがアルトリウス様の教えですから」
「理の元にか…聖寮の模範みたいな回答だな。さすがは対魔士様だ」
-個よりも全
聖寮の唱える理念をそのまま口にするエレノアにザビーダは苛立つ。
それきり誰かが声を発することのないまま歩き続けていると、前方に壁が見えた。
「行き止まりか」
「こっちはハズレみたいだな。さっきのところまで戻ろう」
「特に何もなさそうだしな。引き返した方がよさそうだ」
来た道を引き返す三人。
戻る道すがらこれまで自分からは言葉を話さず、固く口を閉ざしていたばかりのエレノアが唐突にガイアに向かって声をかけた。
「ガイア…あの、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
名を呼ばれて一時止まると、そちらを振り返るガイア。
フードの奥でどんな顔をしているのか定かではないがしっかり目を合わせてくれているのを認識したエレノアは呼吸を整え意を決めて、ある問いを彼に投げかける。
「グランという名前に心当たりはありませんか?」
「……知らないな。聞いたことのない名前だ」
「……そうですか。すみません、変なことを聞いてしまって」
「いや大丈夫だ…気にするな」
それきり何も言わず黙る二人。
ザビーダも今の質疑応答にただならぬ雰囲気を感じ、エレノアに質問の意図を聞く真似はしなかった。
言葉を交わすことのないまま祭壇のあった部屋まで戻ると、そこには既に先客の姿があった。
ベルベットとライフィセットだ。
「あんた達の方には何もなかったみたいね」
「そっちもか。ロクロウ達は…まだか」
どちらの選んだ道も収穫がなかったのを認めると、ベルベットとガイアは揃ってこの場にまだ帰還していない三人が進んだ道を見据える。
「未だ戻って来ないとなるとメルキオルはこっちか…」
「その可能性が高いだろうな。俺達も行こう」
合流を果たした二組もロクロウ達が選んだ道を進む。
階段を使って下の階層へ降りて真っ直ぐな一本道の通路を、会話もなしにただただ先を目指して前進するだけの彼ら。
その道中ライフィセットがエレノアに、彼女にしか聞こえない程度のか細い声で喋りかける。
「エレノア、辛かったら無理しないでね」
「え…?大丈夫ですよ。私は全然無理なんてしてませんから」
「嘘だよ。だってエレノアここに来てからずっと元気ないし…だからちょっと心配だったんだ」
自分に明るい笑顔向けるエレノアだがそれが本当の笑顔でない作り笑顔なのは、ライフィセットにはお見通しだ。
現にライフィセットに指摘されたエレノアの表情は暗く強張ったものへと変わっていた。
「ごめんなさい、あなたに余計な心配をさせてしまって」
「ううん、僕でよかったらいつでも話を聞くから。一人で抱え込んで辛い時は誰かに話をしたら少しでも気持ちが楽になると思うし」
「ありがとうございます。ライフィセット、あなたは本当に優しい子ですね」
エレノアの顔に少しだけでも元気が戻ったのを見てライフィセットも自然と笑みが浮かぶ。
安心したライフィセットが目線を正面に移すと、ロクロウとマギルゥそしてアイゼンが立ち止まっていた。
「お、お前達の方から来てくれるとはな。おかげで手間が省けた。丁度今呼びに行こうとしてたんだ」
「こんなところで何を立ち止まってるの?」
「これを見ろ」
ベルベットの疑問にアイゼンが首を向けて示したのは、薄暗い空間…ではなくその中に入らせないように張られている結界。
「これって結界?」
「その通り、これがあるせいで先に進めんのじゃよ」
「結界があるってことはこの先に何かあるのは間違いないな」
「だからお前達と合流してから先に進むべきだと判断した。それにこの結界は俺達では破れなかった」
「なるほど…」
アイゼンら三人が先へ行けず立ち往生していた理由を知り納得したベルベットは業魔手を解放して、結界の前に立つ。
そして業魔の証たるそれを結界に押し付けるように突き出すと、音を立てて結界は形を失い消滅する。
「ぅ…っ…」
結界によって遮られた部屋の中に入るとすぐ自分達以外の何者かの声が耳に響く。
それは部屋の中央奥の壁際から聞こえた。
「何かいる…」
遺跡内の暗がりもあって声の主が何者なのか分からず、ベルベット達は身構えて一層警戒を強くする。
壁際まで距離を詰めて姿を確認したベルベット達の中で驚愕に瞳を大きく見開いた者が二人いた。
「嘘…」
「バカな…」
エレノアとガイアは信じられないとばかりに目の前の存在を凝視する。
その人物は壁から伸びた鎖で両腕を繋がれていた。
だが二人の注目を集めていたのはそこではない。
肩より下の辺りまで垂らしたやや乱れた茶色の髪と黒い瞳、そして何よりもところどころ破けているもののエレノアと同じ色彩の青い衣服。
それらの特徴から二人がある人物を連想されたのはほぼ同時だった。
エレノアの幼なじみにして、二年前にかつてこの遺跡を訪れた対魔士にして、ガイア自身であり、今彼らの前にいるその人物の名は
-グラン