テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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今回も前回に続いて書き上げるのが遅くなってしまいました。大体の要因は劇場版ウルトラマンジードが面白かったせい…



第23話 仕組まれた再会

「嘘…」

 

 

エレノアは自分の目が信じられずにいた。

てっきり死んだと思っていた彼が生きている。

ボロボロの身なりでやつれた顔をしているが、見間違えるはずもない。

動揺する彼女の心境を表すように瞳は揺れる。

 

 

「ノア…?ノア…だよね?そこにいるの」

 

 

彼はエレノアの存在に気付いたのか、彼女の名前を口にした。

か弱く、しかしそれでいてしっかりとした意味を持って耳に届いた言葉にエレノアは目を大きく見開く。

 

 

「グラン…?本当に、あなたなの?」

 

「そうだよ。僕はグランだ」

 

 

改めて声を聞いてエレノアは驚きから一転して喜びの感情で表情を変え、一目散に彼の元に駆け寄る。

 

 

「よかった…生きててくれて…よかった…」

 

「ちょっと、苦しいって…でもよかった、元気そうで」

 

 

彼の首に腕を回して、その体をぎゅっと力強く抱きしめるエレノア。目尻には大粒の涙が溜まっている。

そして彼もエレノアを拒むことなく、嗚咽をもらす彼女を暖かな目で見つめていた。

ベルベット達もガイアも二人を今はただ黙って見ているしかなかった。

 

 

 

「ありがとう。おかげで助かったよ」

 

 

それから少し時間を置いたところでベルベットは彼の鎖を解き、ずっと聞きたかった疑問を訊ねた。

 

 

「エレノア、その男は誰なの?あんたとはどういう関係?」

 

「彼はグラン。私の幼なじみの一等対魔士です」

 

 

-幼なじみの対魔士

先ほどからのエレノアの様子からその可能性を予測していたが、よもや本当にそうだとは思っていなかったのかベルベットにしては珍しく驚きが微かに面に表れた。

 

 

「あれがエレノアの幼なじみか…案外大人しそうな奴だな。てっきりもうちょっとやんちゃそうなのを想像してたんだが」

 

「だけど優しそうな人だね」

 

 

ロクロウと一緒にライフィセットも驚きを隠さずにいる一方で、彼の中には嬉しさもあった。

幼なじみの話になる度ずっと暗い影を落としていたエレノアが笑っている。

それがライフィセットには喜ばしいことであった。

 

 

「お前は本当にエレノアの幼なじみか?」

 

 

だがアイゼンはそうではなかった。

猜疑心を募らせた目付きでアイゼンが凄みを効かせていた。

 

 

「他の対魔士が全滅した中でお前だけが生き残り結界の中で捕らわれていた。それは何故だ?」

 

「やめてくださいアイゼン。その言い方、一体彼の何を疑っているのです?」

 

 

あからさまな敵意を剥き出しにして追及するアイゼンをエレノアは食ってかかるように糾弾する。

 

 

「メルキオルはここに俺達を誘い込むように逃げた。奴がわざわざこんな場所に逃げ込んだのは無策仕掛けるために違いない。さっきのように俺達を欺く幻術を仕向けてもおかしくはない」

 

「彼は本物です。そんなはず」

 

「二度目がないとは言えない。そもそもお前がいくら本物だと叫んでも俺達には完全に信じられる根拠には乏しい。俺達はお前の幼なじみを知らないからな」

 

「それは…」

 

 

先程ロウライネの塔でメルキオルはアイフリードの幻影でアイゼンを惑わそうとしていた。

エレノアとて忘れてはいない。

だがもし本当にそうだったら、その可能性を考えるだけで心が張り裂けそうになる。

 

 

「大丈夫、僕は本物だから」

 

「ならば証明してみせろ。お前がエレノアの幼なじみなのだと言うのなら昔話の一つや二つあるだろう。エレノア」

 

 

エレノアの肩に手を置いて安心させようとするグランにアイゼンがある提案を持ちかけた。

 

 

「一緒に初めて釣りに行った時のこと覚えていますか?」

 

「うん。餌の結び方とか竿を引くタイミングとか丁寧に教えてくれたよね。同じ村のテネブおじさん直伝の業だって自慢気に」

 

「私がお義母さんに叱られて外に出されたのは?」

 

「それノアじゃなくて僕のことでしょ?母さんが僕達のおやつに買ってくれたプリンを黙って僕がノアの分まで食べてそれを隠してたのが母さんにバレて外に出された…だよね」

 

 

淀みなく答えるグランにエレノアはほっとして胸を撫で下ろす。

アイフリードの時と違ってカマをかけても引っかからず、間違いをきちんと指摘した。

本物でなければできるはずがない。

 

 

「引っかけにも間違いませんでした。紛れもなく彼は本物です。これでもまだ彼を偽物と疑いますか?」

 

「…いや。もういい」

 

 

さっきから静観しているだけのガイアを横目でちらりと見たアイゼンはこの場を引き下がった。

 

 

「あんたがエレノアの幼なじみだってのはわかった。で、なんでここで捕まってたわけ?」

 

「私もずっと知りたかったんです。話してくれませんか?あの日何があったのか」

 

 

ベルベットだけでなくエレノアからの頼みもあって、グランは拒む間を一切置かず口を開いた。

 

 

「アルトリウス様の命令を授かって僕達はこの遺跡に調査としてやってきた。祭壇のところまで中に進んだ僕達は突然現れた業魔の群れに襲われて、僕以外の対魔士は皆業魔に殺された…ただ一人残った僕も最後まで戦ったけれど業魔の群れの中に強大な力を持った業魔がいて、僕はそれに負けて目が覚めた時にはもう結界の中に閉じ込められていたんだ。きっと僕の霊力が目的だったんだと思う」

 

「霊力を?」

 

「業魔の中には霊力を吸収して自分の力にする業魔がいるんだ」

 

「どうなのマギルゥ?」

 

 

言葉の真偽を確かめるためベルベットは体の向きを変えると同時に名を呼ぶ。

呼ばれたマギルゥは『確かにそういう業魔もおる』と、グランの証言を裏付ける台詞を吐く。

 

-対魔士の霊力を自らの力の糧にする業魔

それがどれだけ危険な存在になりうるか想像したライフィセットはグランに業魔の居所を問うた。

 

 

「その業魔はまだここにいるの?」

 

「この下にいる。捕まっている間ずっと僕から抜け出た力が下の方に流れていくのを感じてた」

 

「まさかメルキオルはそいつを使って俺達を始末しようって腹積もりでここに逃げたのか」

 

「だとしたらあのジジイはもうこの遺跡にはいねぇってことだな。いたとしても外で俺達が罠にかかるのをゆっくり見物してる。さてどうする?下に降りてわざわざジジイの思惑に乗るか、このまま大人しく外に出てここを去るか。俺はどっちだって構わないぜ」

 

「…」

 

 

ロクロウとザビーダの発言を受けてベルベットは腕を組んで考え込む。

もうこの遺跡の探索でかなり時間を費やしている。

ロウライネで見せたように、一瞬にして正反対の位置に転移する術を持つメルキオルが自分たちに気付かれることなく、逃げ仰せるには十分な時間を与えてしまった。

ザビーダの言う通りおそらくもうメルキオルはここにはいない。当初の目的を考えればこれ以上遺跡に留まるのは無意味だろう

 

そこまで思考した時、何気なく動かした瞳がエレノアと交差した。

彼女の瞳から覗かせる心境を踏まえてベルベットが出した答えは-

 

 

「下に行ってみましょう」

 

「業魔が気になるのか?」

 

「さっきロクロウが言ってたようにメルキオルがそいつを使って何かしようとしてたならあいつは最初からその業魔の存在を知ってたことになる。ここで相手しなかったとしても次また利用して来ないとも限らない。潰しておくに越したことはないわ」

 

 

言葉を切ったベルベットはそれに、と一呼吸置いてグランの方に向き直る。

 

 

「そいつが関わった二年前のこともある。この遺跡を徹底的に調べれば聖寮の目的を知る手がかりがあるかもしれない」

 

「ベルベット…」

 

「ならとっとと先に進むとするとするぞ。善は急速発進というしの」

 

 

てっきり遺跡から去ると言うのではと思っていただけに、ベルベットの出した結論を意外だと言わんばかりに彼女の名を呟くエレノア。

マギルゥもまたエレノアとその隣にいるグランに一瞥をくれた後、独特の言い回しを用いてベルベットの決定に肯定した。

 

 

 

「本当に夢を見てるみたい。こうしてまた話せる時がくるなんて…」

 

「僕も驚いてるよ。もう君に会うことなんてないと思ってたし」

 

 

先頭でグランの隣に連れ添って語り合うエレノア。

二年もの間会話する機会が絶たれていただけあってエレノアは陰りのない晴れた表情をしている。

そんな二人の仲睦まじいやり取りをベルベット達その他の面々は一歩離れて観察する。

 

 

「私もですよ。けど私、心のどこかであなたがどこかで生きてくれているかもってずっと思ってたんですよ。だってジャグラーが…」

 

 

思いがけず口に出してしまった人物を思い出してエレノアは言葉を濁らせる。

月夜に怪しく光る赤き双眸、人間ではなくなっていた男の姿が脳裏に浮かぶ。

 

 

「どうしたの?」

 

「いえ、前にジャグラーと会ったんです…」

 

(ジャグラー!?)

 

 

エレノアが紡いだ名はガイアに思いきり鈍器で殴られたような衝撃をもたらした。

 

 

(ジャグラーが、生きている?そんな…馬鹿な、でもエレノアが嘘をつくはずが…)

 

 

突如として浮上した予期せぬ事実にガイアは激しく心を揺さぶられていた。

 

 

「ジャグラーと会ったんだ。どうだった?」

 

「えっ、と…少し雰囲気変わってましたけど元気でしたよ」

 

「そっか、ならよかった」

 

 

しかしそんな彼の動揺に関わらず二人の会話は展開を続けていく。

アイゼンは訝しげにそれを眺めながらガイアの耳元で囁くように意見を求めた。

 

 

「一体あれはなんだ?」

 

「…わからない…ただ…あっちが本物だとしたら僕は…」

 

ガイアはエレノアの横顔を見ながらそう儚げに呟く。

視線の先にあるのは自分と一緒にいる時には見せなかった、昔から大好きだった穏やかな笑顔。

心から生まれた感情のままに微笑むエレノアをガイアは共に行動をするようになってから今まで見たことがない。

そしてその笑顔と感情と引き出しているのはあのグランであって、ガイアではない。

その現実をこうして前にしているからこそどうしても自分の存在を疑ってしまう。

自分はエレノアの幼なじみのグランとは別人なのではないか、グランという人間の記憶を持った別の何かなのではと

 

 

「まだあいつが本物と決まったわけじゃない。そう悲観的になるな」

 

「アイゼン…頼みがある。ここにいる間は僕をアテにしないで欲しい。今の僕には周りを気にする余裕はない…」

 

 

状況に頭が追い付かずまともな判断ができない状態の自分が足手まといになるのは、わかりきっていたガイアはそう低く言った。

声色と表情から精神的にかなり動揺をきたしていると見抜いたアイゼンは無言の了承をすると、彼の数歩先を行き言葉をかける。

 

 

「…いいか、これだけは忘れるな。お前がグランでなかろうがお前はガイアだ」

 

 

どうやら不安を見透かされていたようだ。

おかげでガイアは心に余裕が戻っていくのを感じていた。

それでもまだ普段通りの思考ができるまでにはいかないが、さっきよりは大分落ち着いた気持ちになれた。

 

 

(ありがとうアイゼン)

 

 

心からの言葉を見かけに寄らず世話焼きな死神へ声に出さず伝えたガイアは気を取り直して、意識を己の外側へと向けた。

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

長い一直線の階段を下る最中ライフィセットの体に奇妙な感覚が走った。

以前にも体感した感覚にライフィセットは鞄から羅針盤を取り出して確かめる。

 

 

「また針が回ってる」

 

「ワァーグ樹林の時と同じね」

 

 

数時間前にも同じ現象が起こったのをベルベットは思い起こす。

ワァーグ樹林にいた時にもライフィセットの羅針盤は異常な回転をしていた。

そしてその反応の後、進んだ奥地には聖寮の結界の中に巨大な虫の業魔クワブトがいた。

つまり

 

 

「この奥にはクワブトに近い業魔がいるってことか。そしてその業魔が調査隊の対魔士を全滅させた奴」

 

「ならば聖寮がここに人の出入りを禁じたのも説明がつくが、この先にいるのが何であれ油断はするなよ…全員肝に命じておけ」

 

 

ベルベットの考えを読み取ったようにロクロウに同調してアイゼンも忠告を投げかける。

 

それから少ししてようやく最下層に辿り着いた。

広々としてはいるが辺り一面至るところに瓦礫が散乱し、壁や天井もほとんどが亀裂や穴が生じていたりと、遺跡の原型を留めていないほどに崩壊している。

 

 

「驚く程何もねえな。本当に業魔がいるのか?」

 

「隅々まで念入りに探してみましょう。必ずどこかにいるはずです」

 

 

壁や岩の破片ぐらいしか目立った特徴のない周囲の様を見回して辟易するようにザビーダがぼやく。

だがその矢先にエレノアが輪をはみ出して捜索を始める。

 

ベルベット達も顔を見合わせてそれぞれ別れて部屋を調べ出すし、ザビーダもまた後ろ髪をかきながらも同じように行動を始めた。

 

しかしどれだけ調べても業魔の姿は発見できず、時間だけが過ぎ去っていく。

 

 

「影も形もないのう。う~…目が疲れを訴えてしょぼしょぼしておるわい」

 

 

痕跡一つまともに見つからず、マギルゥが大袈裟にわめく。

ベルベットやライフィセットも彼女のように声には出さないものの、本当に業魔がいるのかと疑惑が芽生えている。

誰もが半信半疑で捜索を継続する中で一人、山のように連なった岩の前でしゃがみこんでいる者がいた。

 

(パル…)

 

 

以前使役聖隷だった存在を、初めて自分の意思で言葉を発した瞬間を、その最期が、彼の死に場所を前に蘇る。

 

 

(この記憶もグランだった時の記憶…でも君を思う僕の心が偽りだなんて思えない)

 

 

目前の岩の下で散らした命を思い、その死を悼んでガイアは右手を胸に添えた。

無意識に当てた右手が服の内側にある物体に触れ、その感触を不審に思った彼は服の中からそれを取り出して正体を確かめる。

 

 

(これは…)

 

 

 

ガイアに何かが忍び寄っていた。

無防備に背中を晒す彼との距離を着実に縮め、手を伸ばせば体に触れるのも容易い位置までガイアはその何かの接近を許してしまった。

しかしガイアはその接近に気付いていないのか、そこから動くことも振り返りもしない。

 

その何かは不穏な紫の光で覆った腕を彼の背中に目的を定め、垂直に降り下ろす。

が、その腕は彼の背中に届く寸前で真横から伸びてきた手に掴まれ動きを止めた。

 

 

「何の真似だ。これは」

 

 

何かは自らの腕を掴む手の主をその目で見た。

アイゼンだ。

彼はタカが餌を足爪で捉えるように左手をがっしり相手の腕に食い込ませ、束縛を強める。

 

 

「アイゼン…?どうしたの?」

 

「一体何があったんだ?」

 

 

ベルベット達もアイゼンの声で異変を感じ取り、彼が腕を掴む者の顔を視界に収めた。

そしてその直後一番先に大きな動揺を示したのはエレノアである。

彼女の目にはアイゼンに腕を掴まれ、彼を憎々しげに睨むグランがはっきりと映っていた。

 

 

「説明してもらおうか?お前が今何故ガイアを襲おうとしたのか」

 

 

一連の出来事を目撃していない者達が見守るしかできない中、アイゼンは腕の束縛を解いてグランを問い詰めた。

 

 

「襲おうとしたって…ガイアを?」

 

「ああ」

 

 

アイゼンの告げた言葉にライフィセットは瞳をグランとガイアの間を行き来させ、じっとグランの回答を待つ。

 

 

「黙りか。何か言ったらどうだ」

 

 

アイゼンそう追い込みをかけられても尚何も言おうとしないグラン。

彼を庇うようにエレノアが横から両者の中間に割って入った。

 

 

「待ってください。確かに疑われても仕方ない状況でしたけどグランがガイアを襲うなんて」

 

「対魔士の嬢ちゃん、気持ちはわかるがそいつの怪しさは満載だぜ。さっきのそいつの顔、ありゃ良いところを邪魔されて腹を立てた奴の顔だ」

 

「ものすごい形相だったの~悪鬼も恐れんばかりに憎しみを募らせておったぞ。それこそ目つきで人を刺し殺せんばかりにの」

 

 

エレノアの心情を汲みながらもアイゼンと同じくグランを疑うザビーダといつもと変わらぬ調子ながらも、目を細めてグランを注視するマギルゥ。

彼らの話の後にベルベットがエレノアに向けて言葉をかけた。

 

 

「あんただって間抜けじゃない。わかってるでしょ。この状況でそいつが怪しいってことぐらい」

「それは…」

 

 

俯くエレノア。

やがて意を決した彼女は落としていた顔を上げて、グランの方へと向き直る。

 

 

「グラン、お願いです。本当のことを全部包み隠さず話してください。あなたは本当にガイアを…?」

 

「エレノア…」

 

 

神妙な面持ちでグランを直視するエレノアをライフィセットは心配しそうに見つめる。

ライフィセットは感じていた。エレノアがまだグランを信じようとしているのを

 

 

「この辺りが潮時か」

 

「え…?」

 

 

グランの口から飛び出た思いがけない言葉にエレノアは目を丸くする。

 

「すぐそこから離れろ!」

 

「エレノア!逃げて!」

 

聖隷としての感覚がよからぬ何かに反応してアイゼンとライフィセットが叫ぶ。

 

 

「きゃっ!」

 

 

と同時に誰かがエレノアの体を突き飛ばした。

 

 

「ぐああっ!!」

 

 

エレノアがいた場所には右腕から血を垂らすガイアの姿があった。

床に尻餅をついたエレノアが見上げた時、それがまず真っ先に目に飛び込んだ。

 

当然彼女は驚くが一番衝撃的だったのは違う。

ガイアの右肩を貫く物体だ。

赤紫色の触手のようなそれが伸びる元を恐る恐る目で辿っていくと、それを伸ばしていたのは左腕を赤紫色の変異させたグランだった。

 

 

「グラン…?」

 

 

震えた声でグランの名を呼ぶエレノア。

それが合図となったかのようなタイミングでグランの体から突如紫の霧が溢れ、たちまち彼の体を覆い遺跡の天井を突き破るまでに巨大になっていく。

その過程で遺跡を支えていた柱が破壊されたせいで、遺跡全体がガタガタと嫌な音を立てて揺れだした。

 

 

「まずい、崩落に巻き込まれる前に急いで脱出するぞ!」

 

 

怪我を負ったガイアに肩を貸しながらロクロウが声いっぱいに叫ぶ。

皆即座に反応し降りてきた階段へと走る。

ベルベットも階段の方へ走るが、尻餅をついたまま一人動こうとしないエレノアの存在に気付くと舌打ちしながら彼女に駆け寄る。

 

 

「ぼさっとしないで立ちなさい!死にたいの!」

 

 

立ち上がる気力のないエレノアの腕を引っ張って無理矢理起こして、ベルベットは一緒に階段を駆け上がる。

ベルベットとエレノアが辛くも遺跡の入り口まで引き返すことができた。

その数秒後に遺跡が完全に崩れ、大地を強い振動が駆け巡った。

 

どうにか全員遺跡の崩落の犠牲にならずに済んだが、まだ危険は去ってはいない。

 

 

『ギャアアアアア!』

 

 

遺跡のあった場所から異質な声が轟く。

集約していた紫の霧が解けると死霊を思わせる人間と同じく二足の足で立つ異形が。ワイバーンをも上回る巨体が現れた。声が止んだ瞬間、醜悪なその顔には陽炎のようにグランの顔が一瞬浮かび上がった。

 

 

「あれがあいつの正体」

 

「このデカさドラゴンには見えないし怪獣か?いや怪獣にしては何か違う感じがする…」

 

「違う感じって何よ?」

 

「何て言うかこう、薄気味の悪い感じって言えばいいのか?とにかくあいつは普通の怪獣とは違う気がする」

 

 

ロクロウの表現にベルベットは彼の言わんとしていることが何となく読み取れた。

あの怪物は怪獣と同じくらいの大きな体を持っているが、発せられる気配はこれまで見た怪獣とは格別異なる。

 

 

(メザードとは…なるほどのう。ここまでの全てがあのジジイどもの筋書き通りということか)

 

 

目を細めるマギルゥの脳裏にメルキオルと他にある人物の容姿がよぎる。

 

 

『グギュルウウ!』

 

 

異形-サイコメザードは蕾状の胸部から紫の光弾を放つ。

自分達目掛けて直進するそれをベルベット達はそれぞれ真横に飛んでかわす。

するとサイコメザードは巨体から紫の光を天へと照射し、上空で拡散したその光はサイコメザードとベルベット達の周囲を囲うように特殊なフィールドを形成した。

 

 

「結界を張りやがった。外に出られねぇぞ」

 

「問題ない。要はこいつを仕留めりゃいい話だろ?」

 

「そういうことね」

 

 

サイコメザードの展開したフィールドを結界と見破ったザビーダの言葉にロクロウとベルベットは即座に剣を引き抜いて構えると、走り出す。

アイゼンとマギルゥも聖隷術の詠唱を開始し、後方からの援護をする。

ライフィセットも同じように戦いに加わりたい思いがあったが、それができないでいた。

その理由は

 

 

「そんな…どうして…」

 

「エレノア…」

 

 

槍も構えずサイコメザードに目を止めたまま動かないエレノアがいたからだ。

今の彼女はとても戦えるような状態ではない。

 

 

「坊主はその嬢ちゃんの側にいてやれ。何かあったらすぐに守れるようにな。後は…おい、あいつどこいった?」

 

「あいつ?」

 

「副長の仲間、ガイアだったか。あいついねえぞ」

 

「ガイアがいない?」

 

 

攻撃を加える仲間達の中にガイアの姿がないのを認識した、ライフィセットは辺りへ視線を巡らせる。

傷を負っていたから戦いに参加せず見守もっているのかと思ったが、どこにも彼の姿は見当たらない。

-どこに行ってしまったのだろうか

当然のごとくそんな疑問が浮上するが、サイコメザードがロクロウ目掛けて放った流れ弾がすぐ近くで爆発し、それどころではなくなってしまう。

 

 

「うっ…くぅッ…」

 

 

ガイアは右肩を抑えながら近くの岩壁の陰に身を潜めていた。

視線がないのを確認するとエスプレンダーを取り出して変身しようとするが、いつものくせで右手で持って前に突き出したせいで右肩に再び強い激痛が走る。

 

 

「ぐうっ!くそっ…!」

 

 

苦痛に顔を歪めてエスプレンダーを落としかけるガイア。

だが歯を食い縛り左手に持ち変えたガイアは痛みに耐えながら変身を果たす。

自らを赤い光に変化させたガイアはサイコメザードがベルベットへと放たれた光弾を防ぐ形で、巨人として降臨する。

 

 

「あいつまた…」

 

 

またしても自分達の前に姿を現した光の巨人。

怪獣が出現に合わせたようなタイミングで自分達の前に出てくるのはどういうことなのか。

 

そういう考えがベルベットの頭を横切る一方で身を包んでいた変身時の赤い光が消えたガイアはすぐさま振り返って、サイコメザードに向かって走り出す。

 

 

「おいおい今度は何だあの巨人は?」

 

「安心しろ。害はない」

 

「お前、あいつが何なのか知ってんのか?」

 

「仲間だ。俺達のな」

 

 

巨人となったガイアを見るのは初めてとなるザビーダはその登場に困惑するが、アイゼンが敵と誤解せぬように簡潔に説明する。

アイゼンの言葉に少なくとも敵ではないと信じたザビーダはサイコメザードにパンチを突き出すガイアを眺めた。

 

 

「デュア!」

 

 

左の拳で顔面を真っ正面から殴り、身を捻って軽く跳んで同じ箇所を右の踵で蹴りつけるガイア。

彼の攻撃で怯んだサイコメザードにマギルゥの水弾とザビーダの風の聖隷術による刃が命中し、ベルベットとロクロウの斬撃が続けざまに切りつける。

着弾の衝撃で体から火花を散らすサイコメザードを更にアイゼンの鉄拳が飛び、サイコメザードは疲弊する。

 

 

「今だ!決めろ!」

 

「ジュア、ハアァァ-」

 

 

アイゼンの声にガイアは両腕を広げてフォトンエッジの準備に入る。

 

 

「いや…やめて…」

 

 

 

腰を落としたガイアの頭頂部に赤い光が収束していく。

あの光がサイコメザードに直撃すればどうなるか。

エレノアには容易に想像できた。

 

-お願いだから、やめて

 

エレノアの願いもむなしく無情にも光は滞りなく溜まり、ガイアは上半身を前に出すと共に光の鞭を伸ばす。

 

 

「ジャアアアア!!」

 

 

その鞭はサイコメザードの全身を切り裂きそして、サイコメザードは爆発の中に消えた。

 

 

「いやああああああ!!」

 

 

エレノアの絶叫が響き渡る。

悲痛な叫びを上げて力なくへたり込む彼女にライフィセットもザビーダも、トドメを刺したガイアも胸を痛めいたたまれない気持ちになる。

 

だが倒さなければならなかった敵は消えた。これで

 

 

「待て、何かおかしい。結界がまだ消えてないぞ」

 

 

ロクロウが放った言葉に皆がまさかと思いながら一斉に周囲に目を向ける。

すると紫色のフィールドは自分達を取り囲む檻として確かに存在していた。

 

 

「このテの結界は仕掛けた術者がいなくなった時点で消滅するはず、それが残っているということは-!」

 

 

嫌な予感がしアイゼンとベルベット、そしてガイアは未だ立ち込める黒煙の中心に目を凝らす。

煙が揺らめき、そこから青い雷撃が這い出た。

 

 

「ドワアアア!」

 

 

完全に油断していたガイアは対応する間もなく胸を焼かれ、背中から地べたに倒れこむ。

煙が晴れると、そこにはやはりサイコメザードがいた。

胸部にあった蕾状の器官は人面に変わり、ベルベット達に与えられたダメージなど微塵もない健在な姿で

 

 

 




まさかウルトラマンとしてのガイアが登場するのが前回から9話ぶりになるとは、書いてる本人すらこんなに間が空くとは思ってなかった

感想並びに評価、誤字報告などありましたらよろしくお願いします。
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