テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

25 / 37
もはや更新ペースが二週間に一回、土曜日と化している件。三日に一話更新してる人とか本当に尊敬します…もう少し早くなりたい


今回はベルセリアのミニゲームの一つを中心としたギャグ回です…もう一度言いますギャグ回です


第25話 激ファイト!!キャラ札三本勝負

レニード港の一画、停泊するバンエルティア号の手前には張りつめた空気が漂っていた。

その中心ではロクロウが神妙な顔で座っており、後ろでは他の男性陣が固唾を飲んで彼を見つめている。

 

 

「う~む…どうしたものか」

 

「さあ、お兄さんの番だよ」

 

「いやぁ、わかってはいるんだがなどれにしようか迷ってな」

 

 

ロクロウと向かい合っているのは東の大陸に伝わる古の怪奇、天狗をモチーフとしたお面を被る少年。

こちらはロクロウとは違って声に余裕が表れている。

 

 

(はぁ…どうしてこんなことに)

 

 

ロクロウ以外の男性陣から少し距離を空けている女性陣の中でベルベットが目一杯の呆れを込めて、心中で愚痴を吐く。

ジト目をする彼女の視線はロクロウと少年と、その間にある複数の札に留まっていた。

 

 

 

--------

 

 

 

時を遡ること数刻前。

懐賊病にかかっていた海賊達が快復に向かったとの報告をベンウィックより受けて、一行は当初の目的地であるイズルトへ旅立とうとしていた。

食料や備品などを軽く買い揃えてからバンエルティア号に乗り込もうと港へ赴いた時

 

 

「待てい!」

 

 

一行の進路を阻むようにお面をした少年が立ちはだかったのだ。

 

 

「オレはキャラ札一家の中でもなかなか才能のある三男秀才(ヒデミ)だ!ここから先に通りたいならボクと勝負しろ!」

 

 

突然勝負をふっかけてきたどこの者とも知れぬ謎の少年『秀才』。

彼は小さい体で精一杯威厳を出して、ベルベット達に勝負を持ちかけた。

 

 

「キャラ札?アイゼン知ってるか?」

 

「いや初めて聞く」

 

「聞いたことがあります。複数の札を用いて点数を稼ぐ遊びですよね。ローグレスでも対魔士カードに並んで子ども達の間で流行っているそうですよ」

 

(対魔士カード?え、何それ、そんなのあるの?初耳なんだけど)

 

 

アイゼンに説明するエレノア。

その中に出てきた対魔士カードなる物にガイアは謎の興味を惹き付けられるが、今大事なのはそこではない。

 

 

「要は子どもの遊びってわけ。くだらない」

 

「キャラ札をバカにするな!キャラ札は奥が深いんだ!大人だってドハマリするぐらいなんだぞ!」

 

「そんなのあたしが知ったことじゃないわ。どきなさい、さもないとあんた怖い目にあわせるわよ」

 

「な、舐めるなよ!お、お前なんか怖くもなんともないんだからな!!ボクと勝負しろ!じゃないとここをどかないからな!」

 

「おー恐ろしや恐ろしや。さすがは天下の対魔士様も恐れる業魔じゃて」

 

 

子どもが相手だろうと凄みをきかせるある意味で平常運航なベルベット。

一貫してらしさを貫く彼女と威圧に怯む秀才。

蛇に睨まれた鼠のような構図にマギルゥも面白おかしくブラックジョークで茶化している。

 

 

「おいおい子ども相手に大人げないぞベルベット。少年、その勝負オレが受けて立とう」

 

 

そう自ら名乗りを挙げたのはロクロウだった。

秀才の方へ歩み寄る彼にベルベットが咎めるように声を出す。

 

 

「あんた本気で言ってるの?」

 

「勝負事とあっては黙っていられないのがオレの性分でな。それにこの少年はお前に睨まれてたじろぎはしても道を譲らなかった。なかなかの度胸だ。こんな年下にそんな姿を見せられてその男気に応えないのはオレの性分じゃない」

 

「そんな勝負受ける義理などなかろうて」

 

 

ロクロウの自論に猛反発するマギルゥ。

そこに加勢するようにガイアがロクロウの名を呼んだ。

 

「ロクロウ」

 

「おお、言ってやれいガイア!こんな小僧めに構わずさっさと次なる地へ目指そうとな!」

 

 

何故だろうか。

まだそうなると決まっていないのに、ベルベットにはこの時点で凄まじく嫌な予感しかしない。

 

 

「その勝負受けてやれ」

「そうそ…って違うじゃろー!!何故そうなるんじゃ!今のはロクロウの暴挙を止める流れじゃったろうに何故に助け船を出すんじゃ!」

 

「そんな時間もかからなさだろうし少しぐらいいいだろ。懐賊病の連中は治ったんだしイズルトも逃げやしない。むしろああなったロクロウを止めるとなるとそっちのが時間使うぞ…たぶんウチの副長も許可しないだろうし。なあ?」

 

「男と男の意地をかけた勝負に水を刺そうなどと無粋な真似はせん」

 

 

ガイアが話を振るとアイゼンは当たり前だとばかりに頷く。

 

 

「言うとる場合かこんの馬鹿者どもめ!意地などとそんなしょうもないのが目的よりそんなに大事か!こうなればライフィセット、お主が最後の頼り。あの三人の能天気者を止めてくれんか」

 

「ごめんマギルゥ、僕もロクロウを止めたくない。キャラ札がどういうのか見てみたいし」

 

「それにあの様子だとこっちが折れるまでしつこく粘るぞ。変に騒ぎになって悪目立ちしたら何かと面倒だろ」

 

「な、な、なんということじゃ…坊までもが三人のアホたれにたらしこまれてしもうた…」

 

(やっぱりこうなったわね) (やっぱりこうなりましたね)

 

 

あらかじめ覚悟していたとは言えまさかここまで綺麗に実現するとは

 

失意に両手を地べたに付けて項垂れるマギルゥに同情を寄せるベルベットとエレノアは一種の諦めを持って傍観に徹していた。

 

 

「じゃあお兄さんがボクと勝負するってことでいいんだよね」

 

「ああ。いいよな?ベルベット」

 

「…勝手にしなさい」

 

何を言っても徒労に終わるとわかりきっていたベルベットはロクロウらの好きにさせる。

 

 

「よし、連れの許可も降りたし早速やろうぜ」

 

「ちょっと待っててね。準備するから。そうだ、お兄さんルールの確認はする?」

 

「そうだな…大まかなルールだけ教えてくれ。後は見て覚える」

 

「ならボクが先攻になってお手本を見せるよ。で、キャラ札のルールだけどね-」

 

 

秀才はキャラ札を場に広げながらロクロウに説明する。

 

 

「つまり相手より早く高い得点を稼いだ方の勝ちってことか」

 

「基本的なルールはね。最初にお互い八枚の手札から始めてるんだ。出した札とペアになる札を真ん中の場にある十枚の中から取って、これを交互に順番に繰り返して、先に札を組み合わせて役を作った方の勝ち…ざっとこんなところかな。あ、先に組み合わせを作った方の勝ちって言ったけど勝負を続けるか続けないかは自由に決められるから」

 

「その場合勝敗の条件は変わらないのか?」

 

「もし続けた場合先に役が完成したしないに関わらず続けると決めた次に役が完成した方に続けるかどうかの決定権が渡る。そこで中断するならその時点でのお互いの役によって得た得点によって勝ち負けが決まるんだ」

 

「ふむふむなるほどのう。つまりこういうことじゃな」

 

 

1、最初に配られた八枚が自分と相手の持ち札になる

 

2、順番に手札から中央の場にある札とペアになる札を出して、更に山札からもう一枚札を引いてペアとなる札があれば同じようにし、なければ場に置く。

それで取ったペアが得点稼ぎに利用できる札となる

なお中央の場の札がなくなる、もしくは場に札があってもペアとなる札が手札にない場合は手札から一枚場に捨て、山札から一枚取って同じようにする。

 

3、これを交互に繰り返して、取った札で決められた組み合わせを先に完成させた方の勝利となる。

だが先に組み合わせを完成させた方はこの時、勝負を続けるか続けないかを選ぶことができ、続ける場合は次にどちらかが組み合わせを完成させた時点で最終的に得点が高い方が勝利者となる

 

 

「よく考えられてるな。てか、なんだかんだ言いながら説明聞いてたんだな」

 

「あのような穀潰しにもならん娯楽興味なんぞ更々ないがの。あまりに退屈し過ぎてついつい耳に入れてしまっただけじゃよ」

 

「そうか」

 

 

ぶっきらぼうな態度にそぐわない簡潔でわかりやすいまとめをしてくれたマギルゥをらしいなと思いを寄せながら、ガイアはあちらの様子を伺う。

 

どうやら説明とキャラ札の準備が同時に終わったようだ。

秀才によって配られた手札となるカードをロクロウは確かめる。

 

 

「面白い絵柄だな。お、この男なかなか剣の腕が優れていそうだな。顔を見ればわかる。現実にいたら是非とも立ち合ってみたいものだ」

 

 

手札の中にある一枚、クラトスという剣士の札を見てロクロウが呟いた感想がそれだった。

 

 

「こっちの青髪の男も強そうだ。まだ若いようだがこれはかなりの手練れだろうな」

 

「お~いロクロウや。自ら手札を明かすような真似をしてどーするつもりじゃ?始める前から勝負を捨てるのか?」

 

「っと、そうだったな。すまん、助かるマギルゥ」

 

 

ロクロウは彼女に礼を言うと改めて手札を確認し、秀才へと準備万端だと目で合図を送る。

 

 

「準備はいい?ボクから始めるよ」

 

「ああ、どんと来い!」

 

--------

 

 

 

こうして今に至るわけであるのだが試合の進捗状況はというと

 

 

「今はどちらが優勢なのでしょうか?…」

 

「キャラ札とやらの役がどれだけあるのかどんな組み合わせで成立するのか、役を成立させるのに何枚の札が必要なのかさすがの儂もわからぬがどちらが優位にかあやつらの顔を見れば一目瞭然じゃな」

 

 

ロクロウは眉間にシワを寄せて、秀才は余裕たっぷりに涼しい顔をしている。

マギルゥの言うように彼らの表情が戦況を物語っていた。

 

 

「勝てるよね、ロクロウ。まだ出せる札ありそうだし」

 

「言うほど不利には思えないけどな。ただなんであいつさっきから男の札ばかり出してるんだ…?」

 

 

ライフィセットとガイアはまだロクロウの勝利を諦めていなかったが、ガイアには一つ引っかかることがあった。

 

秀才の場にはアスベル・ソフィ・コレット・ゼロス・カロル・レイヴンがある。

対するロクロウの場はヒューバート・マリク・コングマン・リオン・ジュード・ローエン。

清々しい程見事に男性の札しかない。

中央の場にはしいな・アルヴィン・キール・ジェイド・ロイド・ナタリア、そしてロクロウの手札はすずとジーニアスがある。

 

 

「やったことないから正しいかどうかはわからないが服装の似通ってる札を揃えてたら得点が入ってたんじゃないか?ロクロウの手札にある茶色い髪の女の子と真ん中にでてる紫っぽい髪の女の子の二枚、似たような格好してるしあれで何か役ができそうだと思うんだが」

 

 

すずとしいなの二枚で組み合わせができるのではないかと、予測を立てるガイアにライフィセットも同調する。

 

 

「きっとロクロウにも考えがあるんだよ。まだ勝負は終わったわけじゃないし勝てるよ」

 

「だな。最後の最後まで諦めなければ必ず勝利の兆しは見える」

 

「はてさてそれはどうかの~。儂らは極悪非道の限りを尽くした大悪党じゃからな。天が味方してくれるとも限らんぞ。おまけにこちらには不幸に恵まれた死神がおるからの」

 

 

ロクロウに応援としての言葉を送る二人。

通常ならばここからロクロウの怒涛の逆転劇が始まり、一気に勝ちをもぎ取るベタで熱い展開となるのがお約束なのだろうが、そうそう上手く事が運ぶわけはない。

むしろ二人のおかげで最悪な展開への扉が開かれたとマギルゥは考えていた。

 

 

「はいボクの勝ち」

 

 

そしてそれはすぐ現実となった。

ジーニアスを出してロイドを取ったロクロウは、エリーゼでアルヴィンをペアにした秀才にトドメを刺された。

ゼロス・レイヴン・アルヴィンの組み合わせで成立する『袂を分かつ者たち』を完成させたのだ。

 

 

「うおっ!オレの負けか…」

 

「お兄さん、初めての割には頑張ってたと思うよ」

 

「そうか?嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」

 

「でもお兄さん勿体ないね。この二枚の札を先に出してればボクより先に役を完成させて勝ってたのに」

 

「そうなのか?」

 

 

すずとしいなの札を指差しての秀才の言葉にロクロウは目を丸くする。

 

 

「なんだオレ勝ててたのか。それは確かに勿体ないことをしたな。はっはっは」

 

「笑い事ではないわ!勝てたはずの勝負をみすみす逃しおって!」

 

「ああ、悪い悪い」

 

「それが詫びる者の口振りか!謝罪するにあたる誠意が欠けておるぞ!」

 

「誠意がどうとかロクロウもお前に一番言われたくないと思うぞ」

 

「お主には言うておらんから黙っておれ!ええい、そこに直れ!今から儂がきついお説教をかましたるわ!」

 

「まあそうカリカリするな。余計に疲れるぞ」

 

「誰のせいだと思っておる!とにかく儂の目の前で座れ!正座じゃ!」

 

 

途中口を挟んだガイアをマギルゥは邪険に扱うとロクロウに正座を強要する。

断る理由もないのかロクロウもすんなりと従い、石の床に膝を付く。

 

「次は誰がボクと勝負するの?」

 

「次なんてないわよ。遊びはもうお仕舞い」

 

 

新たな対戦相手を望む秀才にまたしてもベルベットは目付きを尖らせる。

ますます末恐ろしさを増しているその目を向けられてビクビク震える秀才にガイアが声をかけた。

 

 

「次は俺が相手になろう」

 

「は?何言ってるの?」

 

「やり方とルールは今ので大体理解したつもりだ。この一戦で終わらせてみせる…ロクロウ、お前の無念は俺が晴らしてやる」

 

「頼んだぜ、ガイア!」

 

「ガイア頑張って!」

 

 

-何を遊びごときにこんな雰囲気になれるんだこいつらは

そう口に出したくなるベルベットのジト目を背中に受けながらガイアは秀才との対決に挑む。

 

 

「今度はフードのお兄さんかい?役の説明はする?さっきのお兄さんはよくわかってなかったけど」

 

「いや大丈夫だ。すぐに始めてくれ」

 

 

キャラ札第2戦、ガイアと秀才の対決が始まった。

 

 

「このキャラ札という遊び…手札と中央の場を確認してどんな役で点を稼ぐかだけじゃなく相手の場を見て相手が何の札を狙っているのかを推理し、自分の札で相手の役の完成を妨害する。確かに…君の言うように奥が深い」

 

「初めてでそこまでキャラ札を理解するなんてスゴいねお兄さん」

 

「年上を舐めるなよ?これでも頭を使う遊びは好きなんだ」

 

 

両者滞りなくゲームを進めていく。

マリク・パスカル・エステル・ジュディス・ルーク・ティア、リッド・メルディ・レイア・エリーゼ・ジェイド・ガイが場に出る。

3順目まで進んだところでガイアがエステルとナタリアの札で役を完成させた。

 

 

「この組み合わせで役はできるか?」

 

「できるよ。『王家の姫君』、10ポイントの役だね」

 

「これで終わりね。さっさと行きましょ」

 

 

役を完成させて決着がついた。

よってもう子どもの遊びに付き合う時間も終わったのだと肩を撫で下ろすベルベット。

だが

 

 

「まだ続けるぞ」

 

「はあ…!?」

 

 

数秒も経たずしてその思いは儚くも裏切られた。

思わずベルベットは絶句し、説教に熱中していたマギルゥもエレノアもその言葉に凍り付く。

 

 

「いいの?ここで止めたらお兄さんの勝ちなのに」

 

「構わない。続けてくれ」

 

 

ベルベット達の戸惑いに関わらず対決は再び動き出した。

 

 

「まったくもう何考えてるのよあいつは…これで負けたら承知しないわよ」

 

「さ、さっき勝ったし次も勝てるよ」

 

「だといいけどね」

 

 

苛立ちが溜まりに溜まるベルベットを宥めようとライフィセットは懸命なフォローを試みる。

バンエルティア号が積み降ろししていた空き箱に腰かけるベルベットは、せめて早々に終止符を打ってくれと願うが思わぬ形でそれは実現した。

 

 

「はい、ボクの勝ち」

 

「嘘ぉ!?え、ほんと?」

 

 

メルディ・アニス・エリーゼの組み合わせで『可愛い相棒』の役を成立させた秀才が得意気に勝ちを宣言する。

 

 

「…続けてくれたりする?」

 

「終わりにするよ。悪いけど」

 

「そっか~…終わりか~」

 

 

力なくほくそ笑むガイア。

負けを受け入れたガイアは自分の場にあるティア・ジュディス・パスカルと山札の中にあったミラを手にして、最後に秀才に訊ねる。

 

 

「ちなみにさ、この組み合わせで何かできたりする?」

 

「できないよ」

 

「え、ないの?バリボー的なそういう役ないの?」

 

「ないよ」

 

「あ、そう」

 

「もしかしてお兄さんが続けた理由って」

 

「うん。そう、この組み合わせでできる役があると思ってた…負けたけど楽しかったよ」

 

 

そう言ってガイアは目線を下に落としてベルベット達のところに戻る。

-合わせる顔がない

そんな雰囲気を纏いながら

 

 

「わかっておるな。自分が何をやらかしたか…そこに座らんか」

 

「…はい」

 

 

マギルゥに言われるがままガイアはロクロウの隣で正座する。

それを見たマギルゥはガイアの前で仁王立ちすると静かに尋問を行う。

 

 

「とんでもないことをしでかしてくれたのう?ロクロウに続いてお主まで同じ愚を犯しおって…いやロクロウが可愛く思える程にお主の過ちは許し難いぞ。お主は手にしていた勝利を自ら手放したのじゃからな。答えい?何故あんな真似をした?」

 

「…最初にできた役が自分の狙ってたのと違ったので…狙ってた役で勝ちたいと思いました…」

 

「ほう、なるほどなるほど。要は自分の納得できる勝ちを優先したと…そういうことか」

 

「…はい」

 

 

言い分を聞いたマギルゥは大きく息を吸って

 

 

「こんのアホンダラーー!!」

 

 

一喝が周囲に響き渡る。

 

 

「今さっきルールを知った初心者が勝ち方に拘るなどと一丁前にぬかすではない!そんなもんお主には二万年早いわ!」

 

「しかも存在しない役を狙ってたなんて…さっきのロクロウを見ていたのにどうしてルールを確認しなかったんですか」

 

「ロクロウと同じ条件でやらないと不公平だと思いました」

 

「不公平って…もう、そういう問題じゃないでしょう」

 

 

マギルゥだけでなくエレノアにも信じられないという顔で責め立てられるガイア。

言い逃れできぬだけにガイアは口調を敬語変えた挙げ句頭を上げられずにいた。

 

 

「くぁ~ほんとに情けないわい。勝ち方に拘る意味がわからんわ。どんな勝ち方であろうが勝てれば全部一緒じゃろうが…」

 

「…わかるよなぁ?」

 

「わかる。オレにはわかるぞ。勝負には時として勝ちそのものよりももっと大事なものがある。だがあいつらにそれを理解しようと求めるのは残念ながら無理なんだ」

 

「無駄とわかっていても無駄と捨てきれない。辛いでフけどそういう男の美学は女子には到底わからないものでフよね」

 

「あんまりそういうこと言わない方がいいと思うけど」

 

 

同意を求めるガイアの隣で横並ぶロクロウとビエンフーが共感の声を吐露する。

ライフィセットも彼らと同じ意見を持っていたが、今加わるのはまずいと判断し、むしろ彼らに注意を促す。

 

 

「負け犬がどの面下げてぬかすかー!」

 

「…なんで…俺だけ」

 

 

直後、やかましいとばかりにマギルゥはどこからか取り出したハリセンで横っ面をひっぱたく。ガイアだけ

 

 

「ねぇ次の相手-

 

「は?」

 

ひぃ!?」

 

 

ベルベットの横睨みが秀才に炸裂する。

その恐怖と言ったらもはやさっきまでの比ではない。

八つ当たりで理不尽に殺されかねないと、そう思わせるぐらいに瞳に怒りしかなかった。

 

 

「しばらく目を離した間に妙なことになっているな」

 

 

そこにアイゼンが町の方からやって来た。

 

 

「アイゼン。今までどこに行ってたの?」

 

 

ロクロウの対決の途中くらいから姿が見えなかったのを今更気付いたライフィセットが訊ねる。

 

 

「ちょっとばかし買い物にな。これを探していた」

 

「キャラ札の本?これを買ったの?」

 

「どこに行ったかと思ってたけどわざわざ町の方まで戻ってたのね。ちゃっかり札まで買って」

 

「どうせ買うのなら合わせた方がいいと思ってな。それよりも、ガイアまで負けたか。ロクロウはおそらく負けるだろうと思っていたが」

 

「負けたって言うか普通の負けよりずっと無様な醜態さらしてくれたわよ。あんたの相方」

 

「そうか」

 

 

かなり毒を含んだ言い方だがアイゼンはすんなりとその言葉を受け止める。

ガイアはガイアで痛いところを突かれたのか「うっ!」と喉に小骨がつまったような声を出して、ロクロウ共々マギルゥとエレノアのお叱りをもらっていた。

 

 

「俺に任せろ」

 

「アイゼンが?」

 

「これでルールと役は完全に把握した。安心しろ、遅れはとらん」

 

「…もうあんたにまかせるわ」

 

 

安心しろと言われても前二人のせいで不安が拭えないのは事実だが、事前に用意をしているだけアイゼンにはまだ期待できる。

 

そう思考したベルベットはアイゼンを送り出した。

 

 

「頑張ってアイゼン!」

 

「オレ達の仇をとってくれよー」

 

「お前に俺達の命運を託したぞ。全てはお前にかかっている」

 

「負け犬風情が誰の許しを得て勝手に口を開いておるかー!」

 

 

声援を送った男子3人の中でまたガイアだけがマギルゥの掌で頬から軽快な音を鳴らされる。

とことん慈悲のない仕打ちにライフィセットの顔には哀れみからくる力無い笑みが浮かんでいた。。

 

 

「さて、始めるとするか。お前が先攻で構わない」

「う、うん。じゃ、じゃあ始めようか」

 

 

目付きの悪さならベルベットに負けず劣らずのアイゼンに秀才はたじろぎながらも、第3戦を始める。

片や覚えたばかりの知識を引き出して、片や植え付けられた恐怖心と戦いながら、4順目に突入したがお互い会話のないまま展開が進む。

 

 

「オレ達の時より緊迫感があるな。見えない刃の鍔迫り合いが二人の間で幾度となく繰り広げられているようだ。これはどっちが勝つかわからんな。ガイアどっちが勝つと思う?オレはもちろんアイゼンを応援するが」

 

「…」

 

「ガイア?聞いているのか?」

 

「…お願いロクロウ、頼むから今話しかけるの止めて」

 

 

二人の接戦に沸き立つロクロウに見向きもしないガイアから返ってきた返事がそれだった。

素っ気ない返しにロクロウは盛り上がりに欠けると思ったがすぐに彼がそういう態度を取らざるをえない理由に思い至る。

 

 

「そうか、話してたらマギルゥにまた仕置きされるもんな」

 

「そういうことだ…」

 

「いやぁ悪い悪い。あまりに見てて面白い戦いだからつい興奮してしまってな」

 

 

そう言って軽快に笑い飛ばすロクロウ。

しかしマギルゥからは何の鉄槌は下されない。負けは負けなのにこうも待遇が違うのだろうか

凄まじいまでの不条理を身に感じながらアイゼンらの様子に目を移すと、黙々と続いていた戦いが幕引きを迎えていた。

 

 

「俺の勝ちだ」

 

 

ロイド・コレット・ジーニアス・リフィル・しいな・ゼロスの組み合わせで『テイルズオブシンフォニア』を完成させたアイゼン。

 

 

「負けちゃったか…けれど楽しかったよ」

 

「俺の方こそ礼を言わねばならん。こんな娯楽に興じる時間は久々だった」

 

「次は絶対負けないからね。覚悟しといてよ」

 

「望むところだ。いずれまた手合わせしよう」

 

 

戦いを終えて硬い握手を交わす秀才とアイゼン。

 

 

「これでやっとイズルトに行けるわね」

 

「そう大した時間ではないはずなのにかなり長い時間待ったように思いますよ」

 

 

観戦していたベルベットとエレノアはようやく目的地への旅を再開できると、安堵の言葉を呟く。

 

 

「やったなアイゼン。お前なら勝てると思ってたぞ」

 

「本当によかった…これでもう責められなくて済む」

 

 

ガイアとロクロウがアイゼンに感謝を告げる。

ガイアなど胸中に溢れる解放感からか、正座で痺れた足のことなど気にも留めていないようだった。

だがそこに悪魔の一声が去来する。

 

 

「何を甘いことをぬかしおる。アイゼンが勝ったからと言ってお主の罪が拭えたなどそんなことはあるまいて…船の中でみぃ~ちっり教育してやるからのう。心しておれ」

 

「へぇ?」

 

 

思わず間の抜けた声が溢れるガイア。

 

-え?まだ言われるの?

-百歩譲って責められるのはいいにしてもお主ってなんで複数系じゃないの?ロクロウは入ってないの?僕だけ?

 

そんな彼の困惑を他所にマギルゥを筆頭として女性陣はバンエルティア号に乗り込み、ロクロウとアイゼンはガイアの肩に手を置く。

 

 

「強く生きろよガイア。宿命を塗り変えて必ず帰ってこい」

 

「無事帰ってきたら一品物の酒を空けてやる。年齢だの細かいことは抜きだ」

 

「姐さんのお説教はもはや拷問…生きて帰れたら奇跡と思ってほしいでフ。だけどボクはその奇跡が起きてくれると信じてるでフよ」

 

「頑張ってねガイア…僕には無事を祈るしかできないけど待ってるから…」

 

「やめてくれ…その流れは多分一生帰ってこれないやつ」

 

 

ライフィセットにまで物語の中でこれから死にそうな人物に投げかけられる言葉を賜り、ガイアは益々畏怖する。

そこに彼の前を横切り天へと羽ばたく海鳥がいた。

何者の束縛も受けず気ままに快晴の空の下を飛ぶその姿を見上げ、ガイアは羨望の声で呟いた。

 

 

「鳥はいいなぁ…誰にも文句を言われずに自由で」

 

 

もし生まれ変われるのなら鳥になりたい。

ある種の諦観を持ってガイアは一番最後にバンエルティア号の板を踏んだ。

 




次回より新章へ突入します。いよいよあの戦士が本格的に参戦します

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。