テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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第32話 忌み名の聖主

「うああっ!」

 

「おっと、危ないところだったなライフィセット。もう少しで水浸しになるところだったぞ」

 

「足元には注意して進んだ方がいいわ。岩ばかりで足場が不安定だし、ただでさえあんたは歩幅が小さいんだから、一人で渡れそうになかったら今みたいなことになる前にすぐに言いなさい」

 

「水に落ちて風邪でもひいたら元も子もないからな。遠慮せず言ってくれ、言ってくれればいつでも担いでやるぞ」

 

「うん、次はこうならないように気を付けるよ。ありがとうロクロウ」

 

マーナン海礁、色とりどりの珊瑚と暑く照りつける太陽の日射しを受けて白く光る海が広がる絶景の中をベルベット達は横断していた。

岩と岩の間隔が不安定なため、足の置き場に注意を払いながら先へと進む。

 

何故彼らの姿がここにいるのか

その理由は

 

 

「昨日は息抜きできたみたいね」

 

時を少々逆のぼり、祭りが明けた日の朝。

ハリアの村の宿屋でグリモワールが告げた第一声がそれだった。

 

「古文書の解読はできたの?」

 

「いきなり本題に入るわね。ま、いいわ。ええ、この坊やのおかげでね」

 

「グリモワール先生の教え方が上手いからだよ」

 

師弟関係は良好なようでライフィセットの言葉にグリモワールは機嫌を良くする。

 

「ほんと可愛げがあっていい生徒だわ。どこかの騒がしいのとは大違い」

 

「言われてるぞお前たち」

 

「はてさて、一体どこの誰のことじゃろうなー。皆目検討も付かぬわ」

 

「……」

 

片やシラを切り、もう片やは自覚があるのか反省してフードの奥で黙り混む『騒がしいの』。

その態度にグリモワールは辟易しながら言葉を続ける。

 

「さぁて、坊や読んであげて。古文書の数え歌を」

 

「はい。グリモ先生」

 

グリモワールの言葉を合図にライフィセットは古文書を朗読する準備をてきぱき始める。

会って僅か一日であるが、良質な師弟関係が両者の間で生まれているようだ。どこかの騒がしい師弟と違って

 

『八つの首持つ大地の主は 七つの首で穢れを喰って

無明に流るる地の脈伝い いつか目覚めの時を待つ

四つの聖主に裂かれても 四色の光を授かりし戦士が現れようとも

御稜威に通じる人あらば 不磨の喰魔は生えかわる

緋色の月の満ちるを望み

忌み名の聖主心はひとつ 忌み名の聖主体はひとつ 』

 

「カノヌシを表す図と、かぞえ歌。この古文書は、その意味を解読した注釈書なのよ」

 

古文書の内容を読み上げたライフィセットとそれを補足するグリモワールの言葉の後、一同の間に沈黙の時が流れる。

 

「勿体ぶってないで、その注釈とやらを教えて」

 

「ごめん、まだかぞえ歌の歌詞しか解読できてないんだ」

 

「そう…」

 

「どうやら全部解読するにはまだまだ時間がかかりそうじゃの~」

 

「だが聖寮の目的と狙いを知るためには重要なものだ。時間がかかってもやるべきだろう」

 

「歌詞だけでも得られる情報はあると思います。とにかく情報を整理しましょう」

 

エレノアの言葉を皮切りに一同は再び古文書の情報をまとめる。

 

世界には地上に溢れる穢れを喰らい、地脈の力が集中する『地脈点』と呼ばれる特別な場所が複数ある。

カノヌシはその地脈点からエネルギーを得て復活しようとしている。

地脈点からエネルギーを送っているのは喰魔と呼ばれる業魔であり、それはカノヌシの首としての役割を担っている。

 

「この古文書によれば穢れを喰らうカノヌシの首は七つ、ということはその数だけ喰魔が存在しているということになる」

 

「要は七つ全ての喰魔を探しだしてカノヌシの首を潰す。そうすればカノヌシの力を削いで聖寮の目論みを崩せる。簡単な話よ」

 

「ならばまず地脈点を探すべきだろう。喰魔がカノヌシに穢れを送るなら地脈点に喰魔がいる可能性は充分考えられる」

 

「じゃが問題は-」

 

「その地脈点をどうやって探すかですね」

 

「何か手がかりでもあればいいんだがな」

 

世界各地に点在しているという地脈点をむやみやたらに当てずっぽで探すのは無理がある。

せめて何か位置を特定できる情報があれば…そう悩んでいると

 

「この印がある場所って…」

 

古文書の地図を眺めていたライフィセットがクワブトを取り出す。

 

「この虫がいた結界があったよね?」

 

「まさかその虫が喰魔だと?いえ、それなら聖寮が捕獲していたことの説明がつく」

 

「ローグレスにも同じ結界があったよね」

 

続いて血翅鰈からギデオン司祭の暗殺を請け負った時に見た巨鳥の業魔。

あれも結界に閉じ込められていた。クワブトと同じように

 

「あれも喰魔?喰魔はそれぞれ違うってことか」

 

「おそらくそういうことだろう」

 

「どうする?ローグレスに戻って確かめるか?」

 

「まだ無為に時間を潰したくない」

 

ロクロウの提案をベルベットはキッパリ首を振って却下する。

するとライフィセットを謎の感覚が走った。

 

「ワァーグ樹林の時と同じ感じがする!」

 

羅針盤の針が急速に回転し、ある方角でピタリと止まる。

羅針盤の針とライフィセットの指が指した方角にあると思われる施設にマギルゥは心当たりがあった。

 

「この方角あるのは聖主アメノチの聖殿パラミデス。今は聖寮の施設じゃったか」

「聖殿や神殿は霊的な力が集中する場所に造られると聞いたことがあります。地脈点を意味している可能性は高いのではないでしょうか?」

 

「地脈点は世界中に数多くある。喰魔が七体ならほとんどの場所はハズレだ」

 

「しかし決定的な手がかりもない。可能性があるなら行ってみるべきじゃないか」

 

「解読を無為に待つ気はないわ。ライフィセットの感覚の正体も気になるし」

 

エレノアが口にした推論にベルベットは迷っていたが、アイゼンの助言を受けてパラミデス神殿へ向かう決断をした。

 

 

というやり取りがあって彼らはパラミデス神殿を目指しているのだが

 

「もし喰魔がクワブトやローグレスの離宮の奴と同じなら戦う確率が高いな」

 

「そうですね。これまでの傾向からしてないとは言えませんね。戦わずに済めばそれにこしたことはありませんが一戦交える覚悟をしておいた方がいいかもしれません」

 

「オレとしてはその方が都合がいいんだがな。退屈せずに済むし腕試しにもなる。毎回それでもいいくらいだ」

 

「どっちにしてもやることは変わらないわ。喰魔を探してカノヌシの力を削れればなんだっていい」

 

そんな話をしているとロクロウがこんなことを言った。

 

「なぁエレノア、お前に聞きたいことがあったんだが」

 

「なんです?」

 

「村にいたジャグラーって男、元対魔士だったそうだがどんな奴なんだ?」

「彼は蛇心流という流派の使い手でテンナンバーという一等対魔士の中でも指折りの実力者です」

 

「蛇心流か。聞いたことがある。確か古くから伝わる長太刀の技を継承している東方の異国の流派だ」

 

「そんな優秀な対魔士が業魔になるなんてね。一体いつ業魔になったのかしら」

 

「…おそらく二年前です。ロウライネの塔の近くにあった遺跡の調査には彼も同行していましたから。グランが業魔になったことを考えるとジャグラーもその時に」

 

「さっき言ってたわよね。聖殿や神殿は霊的な力が集中する場所に造られるって、あの遺跡も地脈点だったってことはない?」

 

「まさかそんな、いえでももしそうなら…アルトリウス様が指示したのには他に理由が?」

 

「アルトリウスが?」

 

ベルベットは意外なところで出た人物の名に食い付く。

エレノアの幼なじみが遺跡の調査に向かった話はこれまでに聞いたり、その後の顛末を実際目にしたがアルトリウスが関与している情報は初耳だった。

 

「村で会うより前、業魔になったジャグラーが言ってました『いずれアルトリウス様の首を頂く』と。聖寮にいた時は彼はそんなことを言う人ではありませんでした。もしかすれば遺跡で起こった何かがきっかけでアルトリウス様を憎むようになったのではと」

 

「あいつが業魔になった理由にアルトリウスが絡んでる?カノヌシの復活の他にあいつは何か企んでいるってこと?」

 

「パラミデスに行けば手がかりくらいは掴めるだろう。アルトリウスの思惑もライフィセットの感覚の正体も」

 

「そうね、今考えても埒が明かないわ」

 

新たに浮上した疑惑に悩むエレノアとベルベットであったが、アイゼンの言葉で意識を切り替える。

一方でライフィセットは考え事を秘めている様子のガイアに声をかける。

 

「何を考えてるの? 」

 

「ああ…グリモワールの言ってたことがちょっと気になってな」

 

「喰魔が生え変わるって言ってたよね。どういう意味かな?」

 

「生え変わる…か」

 

グリモワールが気にしていた『生え変わる』という言葉。

それが何を意味するのか、二人が考えていると

 

「なんじゃなんじゃ、二人揃ってつまらん顔で考え事でもしとるのか?悩みがあるなら儂が聞いてやらんこともないぞ」

 

自信満々に威張るマギルゥを前にガイアはライフィセットと顔を見合せ、しゃがみこむと

 

「マギルゥに聞いて、わかるかな?」

 

「わかってても聞くだけ時間の無駄だぞ。はぐらかされるか適当に答えるかだからな」

 

「だけどあの様子だと絶対引き下がらなさそうだよ」

 

「面倒くさいよな…ほんと」

 

「聞こえておるぞ~?」

 

ボソボソと話していたのだがどうやら全部耳に入ってしまったようでマギルゥはプンスカと不満を表す。

 

「こそこそと話しおって!文句があるならはっきり言えばよかろう!何故わざわざ本人に聞こえぬようにする必要があるのじゃ!」

 

「どうしよう…」

 

「そこそこ正論なのが腹立つな…」

 

日頃の行いが悪いとはいえ、こちらの非を大声で叫ぶように突き付けられては言い返すのに抵抗がある。

仲間内でもエレノアを含め良心的な人たちトップ3の二人だ。例え相手がマギルゥであっても良心が痛むのだ。

その優しさにつけ込んで魔女は更に畳みかける。

 

「ひどいわ、初めて会った時はもっと優しかったのに…燃えるヴォーティガン海門で怯える私に『怖いなら安心して、君が眠れるまで僕が側にいてあげるよ』って言ってくれたあなたはどこへ行ってしまったの?」

「ガイア、そんなこと言って-」

 

「言ってないっ…!断じて言ってない!」

 

わざとらしくか弱い乙女を演じるマギルゥ。

ライフィセットはガイアのストレスをこれ以上蓄積させないために勇気ある行いに出る。

 

「ねえマギルゥ、前から気になってたんだけどその腰に付いてるのは何の本なの?」

 

「おお、よくぞ聞いてくれた」

 

ライフィセットに構ってもらえて気を良くしたマギルゥは元の調子に戻り、腰元の本について語る。

 

「マギルゥ叢書全五巻の秘密お主らだけに特別教えてやろう。右の尻側から家計簿と魔法大全集じゃ。魔法大全集は主にあぶらとりがみとして使っておる」

 

「あぶらとりがみ?」

 

「乙女のたしなみじゃよ」

 

「そんな使用用途でいいのか魔法大全集」

 

初っぱなからマギルゥ節漂う説明にガイアは不安しかない。

 

「左の二冊は押し花用の『重い本』と飛び出しすぎる絵本じゃ」

 

「飛び出しすぎる絵本!?」

 

「ひと開きで川に橋が架かるほどの飛び出しじゃ。敵に追い込まれた時に壁に向かって使えば瞬時に脱出できる優れものじゃよ。使った後で戻すのが玉にキズでな。ここ何年かは開いておらんがな」

 

「正面の本は?」

 

「バウムクーヘンじゃよ。重ねた生地には生き延びるための知恵が焼き印で記されておる。食べてタメになる魅惑のグルメ本じゃ」

 

(嘘じゃん…絶対嘘じゃん…なんでそう変な方向にだけ口が達者なの。バカなの?)

 

よくもまあそんなデタラメがすぐさま出てくるものだと、ある意味マギルゥの頭の良さに違った意味で感心するガイア。

一方でライフィセットはというと

 

「食べてタメになる…」

 

「マジメにリアクションされると罪の意識がわくのう…」

 

一方のライフィセットはマギルゥの話を完全に鵜呑みにしてしまっていた。

疑うことを捨て去ったその純粋な心にさしものマギルゥも罪悪感を感じているようだが、それで大人しく引き下がらないのがこの魔女だ。

 

「そんなに気になるというならどうじゃ?坊よ、見たいか?」

 

「はぁ!?」

 

「見たい!」

 

スカートの裾をちらつかせるマギルゥの発言にガイアは絶句する。

 

「バカマギルゥ、さすがにやめろ」

 

「何ゆえお主が止める?儂は坊に言っておるのじゃぞ」

 

「だからだ。ライフィセットに悪影響だろ」

 

「海賊がよく言うわ。坊が見たいと言っておるのだからそれで良いではないか。そ、れ、と、も~本当のところ主も見たいんではないか?」

 

「…いや、そんなことない。絶対ない!」

 

そう否定しながらも視線を別の方向に向けるガイア。

その反応に意地悪くほくそ笑むとマギルゥは

 

「ほれ」

 

「んなっ!?」

 

スカートをチラっと捲ってガイアに見せつける。

見えてはいけない布地が微かに露になり、反射的にガイアは首ごと目を横に反らす。

 

「んなっと言ったか、んなっと言ったかお主。可愛らしいの~ウブじゃの~お主。口では憎まれ口を叩くもののそういうところがあるから儂はキライになれぬぞ。坊も見たいなら見てもよいぞ…おろ?」

 

ガイアでこれなのだからライフィセットは一体どんなピュアピュアな反応をしてくれるのだろうか、とマギルゥが期待の眼差しを向ける。

 

「その鍵つきの本の装丁は確かメリオダス王朝で流行した形…」

 

ところが目線の先には熱心な瞳でマギルゥのスカートの中、本の外装を見つめるライフィセットがいた。

 

「マギルゥもう一回捲って本とベルトの繋ぎ方を見たいから」

 

「あっ…はい…」

 

ある意味純粋過ぎたライフィセットの熱意にマギルゥはキョトンとしたまま、彼の言葉に応じるしかなかった。

 

 

そんなことがありながらも歩みを進め続けた彼らは海辺に雄大に佇む神殿をその視界に捉えた。

 

「あれが聖殿パラミデスか」

 

「見張りがいないみたいね。聖寮が管理しているって言ってなかった?」

 

「管理していると言ってもここは人口密集地から遠く離れた聖殿だ。ここに来る者は村の住民ばかりでそのほとんどは信仰のために訪れる程度で業魔などの外敵は近寄らない」

 

「だから見張りはいらないってわけ?まぁ、こっちからすれば好都合だけど」

 

「だがその代わり中にはうようよ対魔士がいるぞ」

 

「わかってる」

 

百も承知と言うようにアイゼンに応えたベルベットは真っ先に神殿に入る。

他の面々もそれに続き、ライフィセットも中に行こうとするが目の前でガイアが足を止めた。

 

「ガイア?」

 

「…悪い、ちょっと先に行っててくれ」

 

「え?」

 

「後ですぐ追い付くから。頼む」

 

どうしたのだろうと、ライフィセットは答えを求めるように見るとアイゼンも無言で首を縦に振るだけだった。望む通りにしてくれということだろう。

 

「わかった。必ず来てね」

 

二人の意を汲み取ったライフィセットは言葉通りに従い、アイゼンもガイアと視線を合わせた後神殿へと姿を消す。

一人外に残ったガイアは神殿を離れ砂浜に移動する。

 

その彼の前に岩の陰から男が現れた。ガイアはその男に覚えがあった。

イズルトで青い巨人となって怪獣と戦った男だ。

 




久しぶりの更新だというのに話の展開がスローペースで申し訳ありません。
執筆速度次第にはなりますが近日中に次の話を投稿できると思いますのでよろしくお願いします

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