テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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第7話 名は体を表すというけれど

ヴォーティガン海門は業魔の巣と化していた。

アイゼンの死神としての呪いが一端となり対魔士達が一斉に業魔へと変貌したのだ。

非常に厄介とも言えるが侵入しやすいという点ではむしろ好都合だった。

業魔が突如内部に出現したことで対魔士は統制がとれず、慌てふためくだろう。

その隙を突けば所詮は烏合の衆でしかないベルベットやアイゼンの少数でも海門を攻略するリスクは少なくすむ。

理性のない業魔と自分達の施設に出現した業魔に戸惑う対魔士を手当たり次第潰し、ベルベット達は着々と海門の警備を無力化していく。

 

 

 

「海門を開くための開閉装置があるはずだ。そいつを見つけ出さない限りバンエルティア号の援護は期待できない」

 

「船はもうこっちに向かってるの?もしそうなら業魔が船に取りつくかもしれない。いくら海賊が戦い慣れていても業魔はそうはいかないわ。そうなったらこっちの援護どころじゃないはずよ」

 

「心配はいらん。ここが業魔の巣になっていることは向こうに伝わっているはずだ」

 

 

アイゼンとベルベットはそのやり取りを交わしつつ渡り廊下を駆ける。

突き当たりに差し掛かりベルベットがドアを蹴破って外に飛び出た。

高所から海を見下ろすと確かにバンエルティア号は影も形もなく、あるのはただの残骸と成り果てた聖寮の戦艦のみであった。

 

 

「アイゼンの言う通りだな。いつの間に連絡をとったんだ?それとも最初からこうなるとわかってたのか?」

 

「俺は何もしていない。死神の呪いは俺ですらも何が起こるか想像がつかない」

 

「ならどうして船が来てないってわかったの?」

 

 

ロクロウの言葉に淡々と答えていくアイゼン。

しかしその次に投げかけられた質問には一瞬答えに窮するような間を置き、目を遠くの海面に向けた。

 

 

「バンエルティア号にこのテのことに鼻が効く奴がいてな。そいつなら計画していたより時間を贈らせて船を寄越してくるだろうと考えたまでだ」

 

「そんな奴がいるのか。気になるな」

 

「細かい話は後にして。さっさと装置を探しだして海面を開くわよ」

 

 

ロクロウがそう相槌を打つと横からベルベットが冷ややかに告げる。

二号はそんな彼らを一歩離れたところから口を閉ざして見つめていた。

 

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

 

アイゼンの予想通り業魔の出現を感知したガイアはバンエルティア号を一時岩影に待機させ、ベルベットとアイゼンが内部を攻略する時間の経過を待っていた。

 

 

「そろそろ頃合いだな。ベンウィック船を出せ」

 

「アイアイサー!」

 

「いやはや大したもんじゃて」

 

 

船上にこだまする海賊達の掛け声とは打って変わった呑気な調子の声色でマギルゥがぼやく。

 

 

「海賊とは荒くれ者の集まりと思っておったがまさかここまで統制がとれた動きをするとは。よっぽどアタマが優秀なんじゃろうな」

 

「船室で休んでるんじゃなかったのか?」

 

「そのつもりじゃったのだが眠りにつこうとすると憎き裏切り者の阿呆ヅラが脳裏をよぎってしまっての、とても休めるような気分じゃなくなってしまったのじゃよ」

 

「そうか…」

 

「むむ、お主ちと反応が悪いぞよ。そこはもう少し男として優しさを示すところじゃろうに」

 

「というと?」

 

「安眠できぬ儂を労るなり『眠るまで僕が側にいてあげるよ、心配しないで』とかなんなり言えんのかいな」

 

 

老獪な喋り方から急に愛らしい美少女の声質に変化するという多芸ぶりを惜しみ無く披露するマギルゥ。

どこからそんなにも聞いた時の印象差が激しい声を出せるのかと純粋に驚くガイアであるが、その思いをおくびも表に出しはしなかった。

 

 

「言ったら何かくれるのか?」

 

「儂はベルベットなぞと違い無慈悲な悪魔ではない。もちろん最高の褒美を恵んでやるぞ…」

 

 

思わせ振りな笑みを得意気に浮かべるマギルゥは一拍置いて声高らかに手振りを交えて語った。

 

 

「聞いて驚けい!なんと儂と添い寝をするありがたい時間を与えるぞ!かの魔女マギルゥ様と同じベッドで眠れるなど十回人生を繰り返しても一度あるかないかの機会じゃぞ!どうじゃ?まさしく心躍る、今にも断崖絶壁から飛び降りることもいとわぬ幸福な心境じゃろう?」

 

「…絶壁…か…」

 

 

マギルゥの熱烈な言葉にポツリとガイアは一言こぼし、マギルゥのある一点に視線を移す。

フードを被っているため目線がどこに注がれているのかは彼以外の人間には知るよしもない。

 

 

「海門が見えてきたぜリーダー!」

 

 

ベンウィックが呼び声に引き戻されたガイアは海門を上から下まで見つめる。

業魔がうようよと海門の壁を破壊し回り、対魔士達がその対処に追われひどく狼狽するような様が辺り一面に見受けられた。

その光景にガイアは奥歯を噛み締めるもそれらには目を止めず、アイゼンの姿を探す。

海門の最上部、西側と東側を繋げる役割を担う通路のような場所に彼とベルベット達はいた。

先まで戦闘があったようで壁と亀が合体したような業魔が這いつくばり、その前でブレードを納めるベルベットと小太刀をしまうロクロウの姿が遠目ながらも見られた。

 

 

「上手くいったみたいだな」

 

「このまま海門を抜ける。船を海門に寄せろ、なるべく急いでな」

 

 

周辺の業魔が襲撃してくるとも限らない。

ガイアは警戒を配りながらベルベット達が降りてくるのを待つ。

アイゼン、ロクロウと順に上空から飛び降り難なくバンエルティア号に着地してみせた。

 

 

「これで後は-」

 

 

残るはベルベットと聖隷二号。

だが彼らが倒したはずの業魔が起き上がり近くにいた二号へ剛腕を振り上げる。

 

 

「くっ!」

 

 

腰に後ろ手を回しガイアは拳銃のような武器を引き抜く。

照準を合わせるまでに五秒にも満たない早業で銃口に収束した赤い輝きが放たれる。

 

光の弾丸は寸分の狂いもなく業魔に被弾し、二号目掛けて降り下ろした大岩のような腕は無理矢理軌道を変えられその巨体ごとあらぬ方へ吹き飛ぶ。

だが着弾の際に巻き起こった風圧が二号の小柄な体を宙に舞わせ、彼は片手に羅針盤を抱えたまま無防備な姿勢で落下していた。

 

 

-ライフィセットッ!

 

 

誰が叫んだか

二号の耳に何者かを呼ぶ音が聞こえた。

その音を誰が、誰に、どんな意味を込めて発したのか理解する間もなく彼の体は同じく落下するベルベットに抱き抱えられた。

 

 

「そのまま手を離すな!」

 

 

船上からアイゼンがベルベットにそう叫びガイアは腰のポーチに手を突っ込む。

そしてそこから摘まみ出した縁が緑色をした楕円柱のカプセルを装填。

バンエルティア号の先端部へ撃つと瞬時に光子ネットが展開され、高所から落ちてくるベルベットと二号を優しく受け止める。

落下の衝撃を緩和した彼女達は怪我なく甲板に降り立つ。

 

 

 

彼ら全員を乗せたバンエルティア号はヴォーティガン海面を通り過ぎ、大海原へと旅立つのだった。

 

 

 

--------

 

 

 

 

 

 

ヴォーティガン海門攻略に成功したバンエルティア号はベルベット一行の目的地となるローグレスを目指していた。

その航海の間、暫し時の猶予を授かった皆は戦いの疲れを癒したり、己の鍛練に精を出したりとそれぞれ自由に時を使っていた。

 

 

「ローグレスか…」

 

 

ガイアもまたその中の一人であり、潮風に衣服を靡かせながら緩やかに流れる波の動きを観察していた。

とはいっても意識は別にあるらしく、波がやや荒れていることに関してはどこか上の空な様子だ。

 

 

「ここにいたのね。探したわよ」

 

 

そんな彼の背中にベルベットが声をかけた。

茫然としていたガイアは声をかけられるまでベルベットの気配には気付いていなかったために、僅かに驚くもフードで隠されたおかげで彼女はそれを知らない。

 

 

「何の用だ?」

 

「礼を言いにきたのよ。さっきは助かった」

 

「…それだけか?」

 

「何、悪い?」

 

 

ベルベットがそう聞き返すとガイアは即座に答えを寄越す。

 

 

「悪いわけじゃないんだが、まさか礼を言われるとは思ってなかった」

 

「あたしもよ。海賊に頭下げられるなんて今まで考えたこともなかった」

 

 

それもそうだと内心彼女に同意するガイアは静かにほくそ笑む。

 

 

「言いたいことはそれだけ。ローグレスまでしっかりね頼んだわよ」

 

「ひとつ聞かせてくれ。ローグレスで何をする気だ?」

 

 

それはベルベットに会ってからずっと疑問に思っていたことだった。

ヘラヴィーサを襲撃し、先程はヴォーティガン海門を機能停止まで叩いた。

後者は自分達がそうするように仕向けたところもある。

だが見たところ成人を迎えていないであろう年頃の少女が業魔となってまでしたいこととは一体何なのか。

それが気になってしょうがなかった。

 

 

「復讐よ…私達を捨てた男への」

 

 

振り向かずにそう呟いたベルベットの背中をガイアはまじまじと見つめた。

復讐という言葉とは裏腹にとても儚く脆い。軽く触れただけでも崩れてしまいそうな程に哀れとさえ感じた。

 

 

「復讐…それは業魔になってまでする意味があるのか」

 

「理解しようなどと思わんことじゃ」

 

 

ふと背後で聞き覚えのある声がしガイアはそちらに視線を移す。

口調から察した通り歩み寄るその人物はマギルゥであった。

 

 

「あんたか…ゆっくり寝れたか?」

 

「いやいやかれこれ三時間夢の国に旅立ったがまだまだ足りん。後二日程あちらの世界に居座りたいところじゃったが、その宿賃がもうなくての」

 

「結局はただ眠れなくなっただけじゃないのか」

 

「まあそうともいうの」

 

 

言い回しの独特さに呆れ返っているとガイアは思い出した訊ねた。

 

 

「それはさておきさっきの言葉どういう意味だ?」

 

「さっきのとな…もしやその気になってくれたのかえ。それはありがたいのじゃがちとばかし遅かったのう。儂の隣はもう予約でいっぱいじゃ…しかし落胆することはないぞ、ざっと二年程待てばまたチャンスもあろうて」

 

「そっちじゃない」

 

「なんじゃ違うんかいな」

 

「ついさっきのだ」

 

 

それでマギルゥはああ、と合点が言ったのか口元をニヒルに歪め始めた。

 

 

「そういうことかえ。簡単なことじゃよ、自分と異なる者を理解するなど無理だということよ…獣と羽虫がお互いを理解しあえんのと同じ理屈よ」

 

「少し違うと思うが…その例えが成立するのは言葉が通じない者同士の話だろう」

 

「同じじゃよ。業魔と人間も聖隷も、の…せいぜい言葉が話せるという共通点があるだけ、その一点が一致する…それだけでしかないのじゃよ。それに聖寮は聖隷の自我を封じ業魔を倒すため道具として使役しておる。そして民衆もその聖寮を支持し、何の疑いも向けず生活を送っている。人様はどちらとも理解するどころか歩み寄る気ゼロじゃ」

 

 

マギルゥはそこで話を切りガイアの反応を確かめると、再度口を開く。

 

「お主は海賊として聖隷と上手くやっておるようじゃが儂からすればお主らの方こそ異端であるとしか思わん」

 

 

言葉に詰まるガイア。

そこに締めとばかりにマギルゥが畳みかける。

 

 

「所詮は利用と敵対でしか言い表せぬ関係ではないという話じゃ…理解も共存も不可能。叶わぬ夢じゃよ」

 

 

両者の間合いを静寂が支配しマストに張られた帆が潮風に揺れる音だけが不気味にざわめく。

 

 

「ま、そのような夢物語を真に受けようが儂には関係ないがのー」

 

 

あっけらかんと言ってのけるマギルゥにガイアは、彼女がどこまでが本気でどこまでがふざけているのか、その境界線が見切れずにいた。

 

そこに羅針盤が転がり込んだ。

日の光を浴びて黄金に輝くそれをガイアは膝を曲げて掴み取ると、前方に人気を感じ顔を上げた。

 

「あっ…」

 

 

ぽつりと呟きをこぼしたその人物と間近で目が合い、ガイアは一瞬目を丸くした。

 

 

(テレサの聖隷…)

 

 

オスカーの義姉テレサが使役していた聖隷だとはガイアもよく知っていた。

それが何故ベルベットと行動するようになったのかそこに至るまでの経緯はわからないが、彼が自分の意思を持っているのはよくわかる。

現に今も落とした羅針盤に時折熱い眼差しを送っていることからもそれが見て取れる。

 

ガイアは羅針盤に付いた埃を軽く手で拭き取り、彼に手渡した。

 

 

「ほら」

 

「あ、ありがとう…」

 

 

聖隷二号改めライフィセットとベルベットから名を与えられた少年はたじろぎつつも、差し出された羅針盤に手を伸ばす。

 

 

「海賊は怖いか?」

 

「ううん」

 

「なら何故目を反らす?」

 

「それは…」

 

「鈍ちんじゃのーお主、顔を隠したフード男などそりゃ不審者にしか見えんぞ。坊でなくとも怖がるじゃろうよ」

 

 

それでようやくガイアはライフィセットの態度の理由に気づいた。

幼い少年から見た自分はマギルゥが評したように怪しい人間にしか見えず、猜疑心を植え付けるような印象でしかないのだろう。

 

 

「そう怖がらなくていい…そうだこれをあげよう。異大陸の遺跡で手にいれた戦利品だけど」

「綺麗、だね」

 

 

できるだけ恐怖心を与えぬように細心の注意を祓ったガイアは穏やかな口調でライフィセットに腕輪を渡す。

純白の宝石が埋め込まれた清廉な輝きに満ちたその腕輪をライフィセットは物珍しそうにいじくってから、自らの左腕にはめる。

しかしライフィセットの細腕では手首にフィットせず肘の辺りまで腕輪は到達してしまった。

 

 

「どうやら坊にはまだ早いようじゃな」

 

「ならそれがちゃんと付けられる男に早くならないとな」

 

「なれるかな僕に」

 

「もちろんさ。今が一番育ち盛りな年だろう?すぐ成長するさ、男なんて三日あれば身長が伸びてたりするもんだからな」

 

「ありがとう、えっと」

 

「ガイアだ。よろしく、ライフィセット」

 

「うん!」

 

 

警戒を完全に解いたライフィセットは腕輪を懐にしまうとそそくさと駆け歩き、船首のアイゼンに進路に関する提案をしに行った。

彼の後ろ姿はまさしく年相応の少年らしく軽快、それでいてピッシリと体に一本の芯が通っているようにガイアは思える。

 

 

「変わったな」

「無口であった坊がこの短期間であそこまで感情を露にするとは驚きじゃ、お主の言うように男子三日会わざれば刮目してみよなる格言もあながち間違いではないやもしれぬな」

 

「それだけじゃないさ。名前を新たに得たんだ…今のライフィセットはその名前に見合う男になるために必死に自分を確立しようとしている。だから他人の目には変化が見えて激しい」

 

「なるほど名は体を表すという格言もあったの。まあ全く面白みの欠片もない二号なんぞつまらんものよりかはよっぽど遊びがいのある名前じゃて」

 

 

せっかく前半部分はまともな発言をしていたのに後半部分で自ら台無しにするマギルゥに、ガイアは密かにジト目で呆れ果てる。

そんな彼の視線にマギルゥは感付く素振りはなく、会話を続けた。

 

「それにしても坊のおかげでそなたのことが色々と知れたわい」

 

 

-まさか僕の正体に気づいたか

 

 

危惧しつつ一歩踏み込み、ガイアはマギルゥに聞き返す。

 

 

「教えてもらいたいな。俺がどういう人間なのか」

 

「フフ、ええのかえ?後で泣いて聞いたことを後悔しても知らぬぞ…引き返すなら今のうちじゃよ」

 

「構わない」

 

「いい覚悟じゃ、ならばその覚悟に免じて今この場で答えてあげようではないか」

 

 

魔女を名乗るいかにも怪しい出で立ちの女とフードで顔を隠した不審者が緊迫した空気の中無言で睨み合いをしている。

端からすればシュールでしかない。

事実偶然通りがかったベンウィックが二人から漂う異様な雰囲気に気圧され、何もなかったと自分に言い聞かせて立ち去るぐらいには奇妙な構図だ。

 

 

「では語ろう。記念すべきマギルゥ姐さんの調査報告会第一弾の犠牲者になれた喜びを噛みしめつつ、恥じらいにもがき苦しむがよい!まずひとーつ、見た目の割にお喋りじゃ」

 

「……は…?」

 

 

溜めるに溜めた深刻な雰囲気を一気に打ち砕かれたような衝撃に襲われた。

 

 

「ふたーつ!意外に面倒見がよい。この発見は特に有意義じゃった。後で坊には褒美をやらんといかん…とまあそれはさておき、そして最後の三つはなんと!」

 

「もういい…また今度聞かせてくれ」

 

「こら、またんか!まだ最後まで言い終わってないじゃろうがー!」

 

マギルゥの制止の呼びかけを無視してガイアは船内へと足早に去る。

 

 

「やれやれ困ったものじゃ…しかしまああれでよかったのかもしれん。まだ確信が持てぬ以上迂闊に踏み込むのはかえって警戒されるじゃろうからな」

 

 

 

 




次回はいよいよローグレスへ向かうことになります。
この作品ではライフィセットやベルベットなどベルセリアキャラにも焦点を当てていきたいと思っておりますので今後ともよろしくお願いいたします
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