テイルズオブベルセリア~True Fighter~   作:ジャスサンド

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…タイトルでお察し頂くように今回はローグレスでのあのシーンがあります。
ベルセリアではかなり印象に残っていて、この話の中では一番書いてて楽しかった場面です。


第8話 きたぞ、われらのマギルゥ奇術団!

「わあぁ…」

 

 

ゼクソン港に着いたバルエルティア号から降り地に足を付けたライフィセットは港町の景色に心を奪われた。

同じ港でも白銀ばかりだったヘラヴィーサとは違って、青や緑といった色が織り成す光景は大自然の躍動を感じる。

 

 

 

「まるで初めて見たような反応だな…ローグレスにいたならライフィセットは何度も来たことあるだろ」

 

「聖寮に使役された聖隷は自我を封じられておる。それ故にこうして自分の目で景色を感じるのはこれが初めてなんじゃて」

 

「そういうものか」

 

 

マギルゥの説明にロクロウが頷く。

そんな彼らから数歩距離を置いたところで、アイゼンとガイアはボラードにヘラヴィーサとヴォーティガン海門が落ちたと情報を提供し今後について話し合っていた。

 

 

「アイフリードの行方がわかった。ボラードの情報によれば監獄島に送られたらしい」

 

「タイタニアか、また面倒なところに…そういえばマギルゥが言ってたな。ベルベットは監獄島から脱獄してきたって」

 

「それが本当ならベルベットに聞けば何かわかるかもしれんな」

 

「あたしに何か用?」

 

 

遅れてバルエルティア号を降りてきたベルベットにアイゼンはいい機会とばかりに問い詰めた。

 

 

「丁度いい。お前に聞いておきたいことがある、お前はタイタニアにいたそうだな」

 

「ええそうよ…飯は最悪だったけど」

 

「そこにアイフリードという男はいなかったか?」

 

「アイフリードってあんた達の船長よね」

 

「ああ」

 

「囚人の話だといたみたい。でもあたしが脱獄した時にはもういなかった。メルキオルって対魔士が連れ出したって囚人達は言ってたわ」

 

 

メルキオル、その名がベルベットの唇から紡がれた瞬間ガイアの表情は著しく強張る。

横顔が見えずとも長年の付き合いからそれを察したアイゼンは彼を見ることなくベルベットに告げた。

 

 

「アイフリードの失踪に対魔士が絡んでるとなるとローグレスに行けばもっと有力な情報が掴めそうだ。もう少しお前達に同行させてもらおう」

 

「知らないわよ。地獄に道連れになっても」

 

「フン、お前達こそ気をつけることだ。死神と共倒れになって地獄からも突き返されても俺は責任をとれん」

 

「俺も共に行こう」

 

 

ベルベットとアイゼンが皮肉を交えたところにガイアが自ら同行を名乗り出た。

意外な申し出にベルベットは訝しげに眉を潜める。

 

 

「あんたが…?」

 

「俺はこの辺りには昔何度か来ている。土地勘はそれなりにあるしローグレスにも何度か足を運んだこともある。連れていって損はないはずだ…もちろん戦闘になれば戦いに参加する。足手まといにはならないつもりだ」

 

 

アルトリウスのいるローグレスはミッドガンド領王都にして聖寮の本拠地。敵の本丸だ

配備されている対魔士の数はヘラヴィーサとは桁違いだろうし、どんな罠を仕掛けているのかわからない。

どんなに微かな情報でも持っているのとそうでないのとの違いは大きい。

ましてやベルベット達の中にはローグレスを訪れた者はいない。田舎の村で育ち都会とは無縁の生活を送っていたベルベットはともかくロクロウとマギルゥは知らぬと断言し、ライフィセットは自我を封じられ道具として扱われていた。まともにローグレスを知る者がいないのだ。

 

 

「そういうことなら案内人にはもってこいね…なら道案内は任せたわよ」

 

 

己の意を伝えたベルベットは踵を返し好奇心に心を躍らせるライフィセットと合流し、一足先にローグレス側の街道へ歩いていった。

 

 

「いいのか?ローグレスには対魔士共がうようよいる。そいつらと戦うことになっても」

 

「海賊団に入った時からその覚悟はとうにできてる。それにいつまでも恐れてちゃいけないと思うんだ…いつかは向き合わないと知りたいことも謎のままだ」

 

「…わかった。他でもないお前自身がそう言うなら引き止めはしない。だがこれだけは先に言っておく。お前の命と対魔士の命なら俺は迷わずお前を優先する」

 

 

眼光を尖らせながら言い放ったアイゼンもまたベルベットの後を追い、ガイアは暫しそこに留まっていた。

 

 

「…いくか」

 

 

ガイアを加えた一行はゼクソン港とローグレスを結びつけるダーナ街道を歩む。

業魔と聖隷、魔女と人間、世界中どこを探してもこれらが一堂に会する光景が見られるのは今彼らがいるこの場所だけだろう。

 

 

「一つ言っておくことがある。ローグレスに入ったら目立つような真似は避けることだ。妙な行動を取ればすぐさま聖寮に通報される…」

 

「それぐらい言われなくてもわかってるわよ」

 

「だとしてもだ。念を押しておくに越したことはない」

 

「そうじゃのう。何にせよここにいるメンツはどれもイロモノばかりじゃからな…何もせんでも目立つ」

 

 

-お前がそれを言うか

ライフィセットを除いた一同がほぼ同じ感想を同時に抱き、内心で突っ込むもマギルゥはそんな彼らから浴びせられる視線なぞどこ吹く風。

露程も気にする表情を表さずルンルンとステップを踏み、先頭へ踊り出る。

ガイアとベルベットはただ呆れたように一言吐き捨てるしかマギルゥに費やす労力はなかった。

 

 

「今いちわけがわからないな…あいつだけは」

 

「まったくもって同感ね」

 

 

 

 

--------

 

 

 

 

立場上仲が良いとお世辞にも言えない連中でありながらも、どういうわけか他愛のない話には華が咲くというのは何ともおかしなものであったがローグレスに入った一行。

石造りの街並みやそれらを優に上回る全長を誇る王城とそれにはやや劣るものの、人々の目を引くには十分すぎる大きさの聖寮の紋章が印された垂れ幕を下げた建造物。

ベルベット達は呆気に取られ、驚嘆したりと様々な反応を示すが約一名に限っては一切の無反応であった。

 

 

(二等対魔士が増えている…警備体制が変わったか?)

 

 

二等対魔士の数が以前にもまして増えている。

ざっと見ただけでもガイアが在籍していた頃よりも十人は確実に警備兵に配備されている。しかしそれ自体は何ら不自然とは感じない。

 

 

(考えてみれば当たり前か。ここ二年だけでも業魔による被害は増えてる。それに怪獣も出没するようになった…警備を増やさない方がおかしい。でも二等対魔士の人数に対する一等対魔士の数が少なすぎるような…)

 

 

目につくのは二等対魔士ばかりで一等対魔士が不足している感が否めない。

代わりにミッドガンド王国の兵士が割り当てられたといった感じだ。

 

如何に業魔や怪獣による各地の被害が増加傾向にあると一言でいっても、二等対魔士を増員したらそれを指揮する一等対魔士も増えていなければ割に合わないというもの。

それに王国兵と二等対魔士は王都防衛の任を与えられているが、同じ目的を持っているにしても両者の指揮系統は大きく異なる。

それ故に現場の最高権限を持つべき一等対魔士が不足しているというのは、元対魔士の観点からすれば引っかかるところ。

 

 

「そこの黒コートの女とフードの男止まれ、手形を見せてもらおうか」

 

 

どうにも釈然としないガイアの思考を遮断したのはミッドガンド王国の鎧を着込んだ兵士。

彼はベルベットとガイアに近付くと厳しい面持ちで槍を携えたまま、問い詰めた。

 

 

「どうした?聖寮が旅人に発行する通行手形だ」

 

 

ベルベットは歯噛みしガイアを横目で睨む。

聞いてないと言いたげな仏頂面に気付いているもののガイアは目を向けず、対応策を思案していた。

 

 

「この未熟者!奇術師見習いの基本はにっこり笑顔と教えただろうじゃ!」

 

 

そんな時マギルゥがベルベットの頭を背後から小突き、舞い踊るようにベルベットとガイアの間に収まる。

 

 

「奇術師?」

 

「イカにも!御覧の通りクセ者揃いの我が一座、その名も『マギルゥ奇術団』と称しまする~」

 

「式典の余興か?」

 

「タコにもその通り!いやはや、我が馬鹿弟子共が失礼致しました。ほれ、兵士様の御不審を解くのじゃ。お前の得意芸ハトを出してみせよ!」

 

「は!?」

 

 

どうにか回避できると安堵しかけた矢先、無茶苦茶な要求を吹っ掛けられたベルベットはあからさまに狼狽えていた。

 

 

「……すみません師匠、仕込みを忘れました」

 

「な、な、な、なんと情けない奴じゃ!芸の道をイカに心得おるか~!」

 

 

大げさな振る舞いで驚愕し退いたマギルゥはその勢いのままくるりと一回転し、今度はガイアに話を振る。

 

 

「お主はちゃんと準備しておるはずじゃ!お前の秘技『七色の美声』を披露してみせよ!」

 

「なんだと…!?」

 

 

まさか自分にまで飛び火するとは、想定していなかったのかガイアはフードの奥で言葉をこぼす。本来の自分の声色が僅かに表に出てしまっていた。

 

 

「ほれ、早くするのじゃ。恥ずかしがることはない。いつものように麗しい乙女の声真似をするだけでよい」

 

「ちょっと待て-」

 

「いつまで焦らすつもりじゃはよせんか~い!」

 

 

でたらめなマギルゥの言葉を否定しようとガイアが口を開いた途端、彼女は声を張り上げた。黙って言う通りにしろと暗に命じているのだ。

 

-やむを得ない。

 

諦めがついたガイアは前に一度だけ見たマギルゥの演技力を参考に、身振り手振りを交えて愛らしい声色で彼女に言葉を返す。

 

 

「焦らせないでくださいマギルゥお姉様~私だって色々と心の準備とかあったんですよ~」

 

 

恥と引き換えに大切な何かを失ったような気がした。

後ろでアイゼンがドン引きしている光景が目に浮かぶようだ。だがもう後戻りできない。

この時点でガイアは完全にとんでもない方面へ振り切ってしまっていた。

 

 

「こ、こんな感じでどうですか?」

 

「おお!やればできるではないか、よいぞそれでよい!しかしもっと、もっとやれるはずじゃ!」

 

「もう、そんな意地悪言わないでください!これ以上はちゃんとした場所でお金を頂いてやるものですよ」

 

「それもそうじゃのう。無料で芸を披露してはマギルゥ奇術団の名が廃る…だがしかぁし!まだもう一人弟子の芸の披露が終わっておらぬ。これをやらずしてこの場は退けぬ。さあ、そなたも芸を披露してみせよ!ハトを出せぬというのであればハトマネをせよ!」

 

「頑張って!やればできるわ!自分を信じて!!」

 

(…こいつら)

 

 

しまいには徒党を組み出したマギルゥとガイアにベルベットはこの上ない程の敵意を覚えるも、その心情を知ってか知らずか彼らは彼女に芸を披露するよう仕向けてくる。特にガイアからはその気が顕著に見られるように思われた。

 

 

「ハ・ト・マ・ネ!」

 

「ハ・ト・マ・ネ!」

 

「「ハ・ト・マ・ネ!!」」

 

 

是が非でも断りたいところだが兵士の目線もある。

これも復讐のためと諦めの境地に行き着いたベルベットは顔を歪めながらも、片手で嘴を形取り赤面すると共に呟く。

 

 

「……ポッポ」

 

 

すると狙いすましたかのように絶妙なタイミングでマギルゥが手を振ると、実物のハトが現れパタパタと綺麗な音を立てて天へと飛び去った。

 

 

「斯様に泣く子も笑うマギルゥ奇術団!ローグレスの皆様に御挨拶の一席でございました~」

 

「こ、こんなところで宣伝するな!さっさと散れ!」

 

「「かしこまり~」」

 

 

マギルゥとガイアが息を揃えて答えた。

 

 

 

どうにか検問を誤魔化したベルベット達は情報収集を行うべく、ガイアを頼りに街中を散策した…のだが早速ベルベットの中で彼への信頼が揺らいでいた。

 

 

「……最悪ね。目立つ真似するなって言い出したの、どこの誰よ」

 

「…すまない」

 

 

反論の権利を失ったガイアは目を反らしながらもベルベットの文句を甘んじて受け入れる。

検問で最悪の目立ち方をしてしまっただけにガイアとベルベットは周りに目を向ける心の余裕はない。

そんな彼らをマギルゥがまた茶化す。

 

 

「そう責めるでない。上手くやり過ごしたことだし、結果オーライで何よりだポッポ~♪」

 

 

誰のせいだとベルベットはマギルゥを責め立てる衝動に駆られるが、彼女が機転を効かせたおかげで難を乗り越えたのも事実であるために何も言えない。

 

 

「あそこまで検問の目が過敏だとは思わなかった。以前はもう少し緩かったはずだが」

 

「以前って、どれぐらい前なんだ?」

 

「二年程前だ」

 

「ある意味当然の話だな。それだけの時間が経っていれば警備体制が変わっていてもおかしくはない」

 

 

ロクロウの質問を受けてのガイアの返しにアイゼンはそう呟く。

彼の意見に内心同意するベルベットは先の兵士の言葉を思い出す。

 

 

「さっきの兵士が言ってた式典って何なの?」

 

「俺もよくわからんが何でも聞いたところによるとアルトリウスが民衆を集めて演説を行うらしい。街中の警備が厳重な理由もそのためのものらしい」

 

「ならその時がチャンスね」

 

 

ロクロウがアルトリウスの名を口にした瞬間ベルベットが憎しみの感情が浮き出した。

それでガイアは彼女の復讐相手が誰なのか察した。

 

 

「城の前の広場がある。やるならおそらくそこで行われるはずだ」

 

 

 

 

「ミッドガンド!ミッドガンド!ミッドガンド!」

「こりゃ割って入るのは無理だな」

 

「せめてお互い別れよう。さっきので顔を覚えられた可能性もある」

 

ガイアの先導で広場に赴いたベルベット達。

奇抜な服装をした集団がこぞっていては怪しまれると判断し、ベルベット・ライフィセット・ロクロウ、マギルゥ・ガイア・アイゼンの二組で別れ距離を置いた。

しかしそれでいてお互いを視認でき、声の届く距離にいるように心がけた。

 

 

「これだけの人数を集めて何を言うつもりだ?」

 

「わからない。ただはっきりしてるのは世界の平和のためだってことは確かだ…あの人はそういう人だ」

 

 

 

「-来たぞ」

 

 

アイゼンにつられて城を見上げると端正な顔立ちで身なりのいい男がいた。

ミッドガンド王国第一王子パーシバル・アスガードだ。

 

 

「王国民よ!ミッドガンド聖導王国第一王子、パーシバル・アスガードである。この良き日を皆と祝えることを父王と共に嬉しく思う!」

 

 

演説が始まった。同時に民衆が静まりかえる。

 

 

「十年前の開門の日以来我が王国は存亡の危機を迎えていただが命が尽き果ててゆかんとする地に奇跡の剣を持ち立つ者があった。誰であろうアルトリウス・コールブランドである」

 

「あっち!」

 

 

演説の最中ベルベットが見晴らし台を発見する。

 

 

「登るのはいいがここで襲うのは無謀-」

 

「誰であろうアルトリウス・コールブランドである!」

 

「-ッ!」

 

 

ロクロウがそう言うもアルトリウスの名が出た瞬間ベルベットは弾かれたように、見晴らし台へ駆け出す。

危惧していた事態にロクロウを始めとする他の仲間達も後に続く。

 

 

「なくはないと思っていたが…!」

 

 

歩幅の短いライフィセットを腰の辺りに担ぎ上げながらガイアは毒づく。

その間もパーシバル王子の民衆への演説は続いている。

 

 

「アルトリウスの偉業は誰もがい知っている。彼は業魔に苦しむ民の救済に全てを捧げた。五聖主の一柱たるカノヌシを降臨させ聖隷の力を我らにもたらした」

 

ベルベットが業魔手を解き放ち石壁にしがみついたのだ。

しかし左手のみでは全体重を支えることはできず、彼女の体はずり落ちかけてしまう。

 

 

「ベルベット!」

 

 

ガイアに担がれながらライフィセットは悲痛な叫びを上げる。

 

 

「混沌の世に()という希望を与え今、その希望が絆となって我々を結んでいる。アルトリウスの偉大な功績と献身を讃え今ここに災厄を祓い民を導く救世主の名-導師(・ ・)の称号を授けん!」

 

「導師…アルトリウス!」

 

民が沸き上がりベルベットは石壁を登りきり見晴らし台をからその様子を見て、憤りを露にする。

彼女が憎しみを込めてその名を呟くとパーシバル王子の後方より、まさにその人物が陽光の元に姿を晒した。

 

 

「世界は災厄の痛みに満ちています。なのに私は皆さんに頼まねばならなかった。理による苦痛に耐えてくれと、意志という枷で自らを戒めてくれと…何故なら揺るがぬ理とそれを貫き通す意志。これが災厄を切り払う唯一の剣だからです」

 

 

その強い決意を秘めた声にガイアは二年前を思い出す。

ライフィセットを担いだ方と逆の手で弾倉に紫色のカプセル型の弾丸を装填し、壁目掛けて撃ち放つ。

銃光から伸びた紫の光がアンカーのように石垣に刺さり、ガイアはライフィセットを抱えたままトリガーを引くとアンカーに引き寄せられ二人は見晴らし台に降り立つ。

ライフィセットが着地すると心配そうにベルベットに寄り、ガイアはもう一度同じ弾丸を入れ、残りの三人を引き上げる。

 

 

「今ここにその剣がある。私は誓おう、我が体と命を全なる民のために捧げることを、全ての人々に聖主カノヌシの加護をもたらし災厄なき世に導くことを!世界の痛みは私が必ず受け止めてみせる!」

 

荒波が押し寄せたように民衆がわっと怒号にも似た叫びを上げる。

 

 

「バカ!見つかるぞ!」

 

 

ベルベットの頭をロクロウが抑え強制的に下げさせる。

彼女は今にも飛び出していきかねない衝動を押さえつけ、憤慨に震えた声で言葉を溢した。

 

「ライフィセットを殺した…!」

 

(えっ…)

 

 

それを聞いたライフィセットは喉の奥が詰まるような感覚に襲われ、固く握り締めたベルベットの左手から血が滴り落ちるのを見つめる。

ベルベット並々ならぬ憎しみを目の当たりにしたガイアは銃を懐に納めつつ、その目線はアルトリウスの横顔を捉えて暫し離さなかった。

 

 

 

 

「いきなり飛びかかるかとヒヤヒヤワクワクしたわい」

 

「それじゃ無駄死にでしょ。アルトリウス自身が言ってたでしょ、理と意志の剣がいるのよ。あいつを殺すためには」

 

 

煽り立てるマギルゥに冷静さを取り戻したベルベットは冷ややかな表情を決め込む。

 

 

「そろそろ儂はおいとまするかの。名残惜しいじゃろうが探し物があるでな。じゃあの、皆の大願成就、七転八倒を祈っておるぞ」

 

「仲間じゃなかったのか?」

 

「勝手に付いてきただけよ。それよりこれからどうするかよ」

 

「導師アルトリウス、あれがお前が標的か?」

 

 

アイゼンの問いかけにベルベットは口を閉ざし答えない。

だが否定もしないということはつまりそういうことだ。

 

 

「情報がいるわ。何か使えそうな話はない?」

 

「そのテの情報は…さすがに知らない。だが詳しそうな者なら心当たりはある」

 

「闇ギルドだな」

 

「闇ギルド?」

 

 

ガイアの思惑をいち早く見抜いたアイゼンが口にした言葉にライフィセットが疑問を持ち、二人はかいつまんで説明する。

 

 

「一言で言うなら悪い奴らの集まりだ。聖寮も王国も手を焼いていてその詳しい動向も、規模も、 正体も活動以外の何もかもが謎だらけの組織。隠れ蓑にもうってつけというわけだ」

 

「ローグレスにもアイフリードが懇意にしていた闇ギルドがあったはずだ。バスカヴィルというジジイが仕切っていて確か、王国の酒場が窓口だと…詳しい場所までは知らんが」

 

「俺もそれは聞いたことがある。場所にはおおよその検討がついている…今度は、大丈夫だ」

 

「任せていいのね?」

 

「ああ」

 

 

マギルゥが抜けたせいでベルベットからの不穏めいた視線を一身に背負ったガイアは緊張感に心を飲まれつつ、先頭を歩く。

するとその時ライフィセットが空腹に腹を鳴らし、恥ずかしそうにお腹を見た。

 

 

「おお、腹の虫か。これから復讐しようって時に豪胆だなライフィセット」

 

「無理もない。ゼクソン港からここまでまともな食事を取っていない」

 

「これから行く酒場にも食べ物ぐらいはある。後もうすぐだからほんのちょっとだけ我慢してくれ」

 

 

男性陣三人から三者三様の気遣いをかけられライフィセットは素直に嬉しさを噛み締める。

聖寮の使役聖隷として道具扱いされていた頃には味わったことのない、新鮮な気持ちがライフィセットの中で芽生え出していた。

そんな感情を胸に抱いたままライフィセット達はある質素な店の前にきた。

 

 

「ここだ」

 

「本当にここなの?」

 

 

石造りの質素な外観からはとても闇ギルドの拠点とは思えない。

いぶかしみながらもベルベットは他の面々を伴って中に入り、カウンターの向こう側に立つ老婆に告げる。

 

 

「この子に何か食べ物を」

「この店の名物はマーボーカレーよ。一週間も煮込んで作るの」

 

 

マーボーカレー、その響きにライフィセットは未知の物に対する好奇心を引き立たせられ、実際に一度食べたことのあるガイアは味を思い出しごくりと喉元が唸る。

 

 

「じゃあそれを頂戴」

 

「他の人達は?」

 

「同じものを頼む」

 

「私はいらないわ」

 

「わかったわ…それにしても貴方達ずいぶん変わった一行ね」

 

 

唐突に囁かれた一言に全員が眉を吊り上げ、代表してベルベットが詰め寄る。

 

 

「私達が誰だか知ってるの?」

 

「ええ、監獄島から脱獄してきたんでしょ?ベルベット・クラウさん?」

 

「-ッ!」

 

 

まんまと言い当てられたベルベットは瞳を見開くと共にアタリを引いたのだとこの時確信した。

 

 

「私達に用があるんでしょう…他の人達も初めてまして、ようこそ血翅蝶へ」

 

 

 




現段階でベルベットよりもマギルゥの方がガイアとの絡みが多いという事実…絡ませたいと思っているのですが何故かどうしてもマギルゥが前面に出てきてしまいます……書いてて楽しいからいっか!(開き直り)
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