世の中に たえて光のなかりせば 藤の心はのどけからまし   作:ひょっとこ斎

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第21手 中学2年生 その1

 4月。塔矢くんがプロ入りして、初めての対局も無事に勝利を収めた。そうなると、次に話題になるのは若獅子戦だ。

 

「アキラくんが、優勝候補だな」

「そうだね、俺も倉田も、今年は21歳だし。最大のライバルは……もしかしたらあかりちゃんだったりして」

 

 芦原さんがそんなことを言ってくる。こういうところが軽いなって思うけど、それも芦原さんの持ち味かもしれない。

 

「いや、プロの方が塔矢くんの他に15人もいるのに、私が最大のライバルなわけないじゃないですか」

「今年は他にパッとした子がいないよ。あかりちゃん、院生1位なんだろう?」

「芦原の戯れ言はともかく、藤崎も奈瀬も、公式の場でアキラくんと当たれるといいな」

「うっ、頑張ります」

 

 明日美さんは緒方さんの言葉でプレッシャーを感じたみたい。堅くなってるようじゃ駄目だよー。

 

「明日美さん、一緒に頑張ろう。まずは1勝」

「うん、そうだね」

 

 軽口を叩いてると、緒方さんから追加で質問された。

 

「進藤は、若獅子戦に出られるのか?」

「ヒカルも出ますよ。打倒塔矢アキラに燃えてます」

「へえ、そいつは楽しみだな」

 

 緒方さんの言葉に、塔矢くんが顔をしかめる。

 

「……例の子か」

「例の子?」

 

 塔矢先生がつぶやき、芦原さんが首をかしげた。明日美さんも不思議そうにしている。塔矢くんがヒカルを気にしているのは知ってるけど、理由は知らないし、ましてや塔矢先生や緒方先生まで気にしているとなれば、そりゃ気になるよね。

 物言いたげな明日美さんだったけど、空気を読んで黙っている。でも、緒方さんはお構いなし。

 

「奈瀬、院生研修で、進藤とは対局したか?」

「え? ああ、はい。2ヶ月くらい前に1度やりましたよ。その時は、私が勝ちました。今月も対局がありますね」

 

 明日美さんが、聞かれるままに答える。

 あれ? 今まで、私は1度も緒方先生に聞かれなかったよね?

 

「へえ。やってみた印象は?」

「性格に合わないしっかりした棋風、でしょうか……。あ、あかりちゃんが教えてるんだよね。だったら、しっかりしてるのも当然かな」

「いや、私がってわけじゃないけど。自分でも勉強してるみたいだし」

「ふぅん。基本的に早打ちなんだけど、粗くはないから、ちょっと焦っちゃう時がありました。持ち時間の差が出たので。時々、凄く鋭い手もありましたし」

 

 なるほど、と聞いていた緒方先生が頷く。その様子を見て、明日美さんが首をかしげる。

 

「どうしてあかりちゃんに直接聞かないんですか?」

「ん? 藤崎には、進藤関係なく研究会に来るよう誘ったからな。藤崎に聞くのは筋違いだろう」

 

 誘ってくれた時に、私が反発しちゃったことを覚えてるんだろう。緒方先生って、見た目に反して優しいから、気をつかってくれたのかな。言えないことも多くて、なんだか申し訳ない。

 

「それに、アキラくんが気にする奴なら、放っておいても上がってくるだろうからな。対局してみないと、実際のところは分からないし、待たせてもらうさ」

「僕は別に、気にしてなんか……」

 

 さっきから黙ってたし、これで気にしてないって言われてもなぁ。明日美さんも、何とも言えない顔になってる。

 どうしたものかなー。何か空気が重い。

 

「俺としては、進藤よりsaiの方が気になるな。あれだけの打ち手が、未だに正体不明というのも不可解な話だ」

「sai……あれは……」

 

 うわぁ。緒方さんも話題を変えようとしてくれたんだろうけど、私としてはそっちの方が困る。塔矢くんも、じっと手を見ている。

 分かる話題になったからか、芦原さんが口を出してきた。

 

「sai、凄いですよね。一柳棋聖に勝っただけじゃなく、中韓のプロ相手にも負け無しですよ。読みの深さも底が見えないし、勝負になるの、塔矢先生くらいじゃないかな」

「ほう。俺じゃ力不足だと?」

「あ。いやいや! 塔矢先生と緒方さんくらいかな!」

 

 そのまま、なし崩しに空気が軽くなり、話題がまぎれていく。芦原さんがうかつで助かった。

 でも、緒方先生もsaiと打ってみたいよね。saiも絶対に打ちたいだろうし、なんとかする方法あるかなぁ。偶然を装って対局させてみる? うーん、塔矢くんがどう思うかな。saiとの対局後も大して何も言わないし。内心でどう思っているのか分からないのが、わりと不気味。

 

「saiと対局、やってみたいですね。私もアカウント作って、時々見てみようかな」

「藤崎はアカウント持ってないのか?」

「家にパソコンがないですから。たまにネットカフェでインターネットとか触る程度だし、アカウント作ってもしょうがないです」

「あかりちゃん家、パソコンないんだ。あると便利だよ」

「明日美さんは家にあるの? いいなぁ、羨ましい。saiと対局したことある?」

「ないの、残念ながら。和谷は対局したことあるって言ってたな」

「うん。さんざん聞かされたよ」

 

 パソコンが家にあるのは、本当に羨ましい。何とかしてパソコンを手に入れたいけど、高いから難しいんだよね。

 若獅子戦で上位に入ったら、買えるかな?

 

「お小遣いで買えるようなものじゃないね。親にねだってみるとか?」

「うーん。ただでさえ碁でいっぱいお金使ってもらってるから、必須でもないパソコンまではなかなか。若獅子戦の賞金って、どんなくらいでしたっけ?」

 

 私の発言に、明日美さんがぎょっとした顔になる。緒方先生も呆れ気味。あれ、何かやらかしたかな?

 

「えっと、優勝者が50万で、準優勝が30万だったかな。3位と4位にも10万。パソコン買うには10万だとちょっと厳しいかな。今まで院生ではベスト4にも入った奴はいないから、準優勝は大変だね」

「え、そうなんですか?」

 

 優勝までいかなくても、院生でも準優勝くらいはあると思ってた。

 

「ベスト4でも、3回勝たなきゃいけないからね。2回戦、3回戦もプロだとして、プロに3連勝は難しいよ。そんなことできたら、プロ試験はトップ通過できちゃうんじゃないかな」

 

 なるほど。確かに考えてみたら、若手プロのみとはいえ安定して勝てるようなら、プロ試験も突破できるよね。そしてプロ試験を突破すると、翌年はプロとして参加。うん、院生で若獅子戦を勝ち抜くのは至難の業ね。

 

「明日美さんは、勝ったことある?」

「去年初めて出たけど、負けちゃったの。今年は勝ちたいな」

 

 明日美さん、院生内での実力で見ると、かなり上の方に位置していると思う。

 出会った頃はともかく、今は明日美さんより確実に上と言えるのは、伊角さんと越智くんくらい。和谷くんや本田さんとは、いい勝負だと思う。

 元々弱かったわけじゃないし、この1年での成長は、ヒカルや塔矢くんを除けば一番かもしれない。私も伸びているはずだけど、自らを客観的に評価するのは難しいし。

 

「さて、話はそこまでだ。検討を始めようか」

 

 塔矢先生の一言で、雑談に興じていた私たちは気を引き締めて盤面に向かった。

 

 

 5月に入り、私は院生1位をキープ。明日美さんは7位、ヒカルは10位まで上がった。

 これで、若獅子戦に出られるのが確定。あとは組み合わせだね。

 いつもの、ヒカルの家での対局が終わり、帰る前の雑談で、考えていた提案を持ち出してみる。

 

「ヒカル、ちょっとタイミングを見計らって、明日美さんとsaiを打たせてあげたいんだけど、試してもらえる?」

「奈瀬と?」

「うん。偶然を装って、対局を演出できないかなって。上手くできたら、次は緒方先生とsaiで対局とかも、できるかもしれないし」

 

 私が言うと、ヒカルが慌てて耳をふさぐ。

 

「わーった、分かったからちょっと静かにしろ! ……佐為が、絶対打ちたいってよ」

「うん、じゃあお願い。私が見つけたって明日美さんに連絡して、打ってもらったらどうかって言ってみるね。私は前に打ってもらったって言えば、なぜ自分で打たないかの理由にもなるし」

「ああ、それで少し前にわざわざネット碁で打ったのか。あかり、色々と考えるなぁ」

「だってヒカルのことだもん。佐為と仲良くやってるみたいだし、佐為が強い人と戦ったら、ヒカルの勉強にもなるでしょ?」

「そ、そりゃまぁ」

 

 ヒカルが一歩ひるんだ、ように見える。おっと、押しすぎたかな。気をつけないと。

 

「じゃ、じゃあ今日は帰るね。さっき言ってた件、よろしくね」

「おう。任せとけ」

 

 

 翌日、ヒカルがネット碁を始めたのを見て、近くの公衆電話で明日美さんの家に電話をする。

 あらかじめ今週の予定は聞いていて、学校が終わったら家に帰るって言っていたので、問題ないはず。

 

「明日美さん、今ってネット碁できる!?」

「どうしたの、あかりちゃん。珍しく興奮してるけど」

「今、ちょうどsaiがいるの。もしかしたら打てるかもしれないから、試してみたらどうかと思って」

「へえ。ちょっと待ってね……。sai、うんいるね。対局中だけど」

「え」

 

 ヒカルってば、待っていてって言ったのに。saiが打ちたがったのかなぁ。

 

「あかりちゃん、すぐに見られる?」

「うん、電話するのに席を外したから見てないだけで、すぐに戻るよ」

「相手がちょっと弱いし、すぐ終わりそう。しばらく様子を見て、申し込めそうなら申し込んでみるわ」

「うん、分かった。急にかけてごめんなさい」

「だいじょーぶ! ありがとね」

 

 受話器を置いて、ネットカフェへと向かう。ヒカルが打っているネットカフェとは別のところ。

 運悪く塔矢くんが通りかかったりすると、面倒だし、念を入れておかないとね。

 ネット碁にログインして、対局状況を確認すると、saiが打ち終わったところだった。

 

「ほんとに早かった。さて……」

 

 しばらく待つと、saiの対局が始まった。相手は、asumi。やった、上手く対局が始まった。

 saiも相手が明日美さんって分かってるからか、無理な手をとがめつつも完全には殺していない。

 明日美さんも負けているのは分かっているだろうけど、ヨセまで逆転の目がないか、必死に考えているのが分かる。

 でも、持ち時間が1時間で、それもあまり残っていない。

 そして終局。明日美さんの負けで終わったけれど、良いところもいっぱいあったし、面白い碁だった。帰ったら、また電話しよう。

 

 

「あかりちゃん、おかげでsaiと打てたよー」

「うん、見てたよ。善戦してたね」

「そうなんだよね。正直に言って、私が戦えるレベルじゃないんだけど、ところどころ緩めてたよね」

「saiから見ても、実力があるのは分かっただろうから、楽しみたかったんじゃないかな」

「うーん。どうだろ」

 

 電話越しで少しだけ検討して、長くなる前に電話を置く。さて、ヒカルの家で、どうだったか聞いておこう。

 急いで向かって、おばさんへの挨拶もそこそこにヒカルの部屋に入った。ヒカル経由で、佐為の感想を聞く。

 

「佐為も面白かったってよ。知ってる相手と打つのは嬉しいらしいし、奈瀬もそこそこ強いしな」

「あらら、上から目線だね」

「先月の対局では俺が勝ったからな!」

 

 順位では負けているけど、そこは触れないでおこう。

 明日美さんの打ち方で気になったところはないかと佐為から聞き、一段落したところで、それよりも、と棋院から届いた若獅子戦の対戦表の方に話題が移る。

 

「ヒカル、1回勝てたら塔矢くんと対局だね。頑張って初戦突破しよう」

「おう。お前は……当たるとしたら準決勝か。ちょっと大変だな」

「大変だけど、頑張るね。それより、打とうよ」

 

 今日はヒカルと私が打てる日。話に夢中になるのも悪くないけど、打つ機会は逃したくない。

 佐為には悪いし、佐為と打ちたがっている人にも申し訳ないけど、私はヒカルと打つ方が嬉しい。打てば打つほど、すぐ近くにいるという実感を得られる。

 どんどん強くなってるし、簡単に追い抜かれないよう、頑張らないといけないのが大変だけどね。

 

 

 これまでと変わらず碁を打つ日々が続き、迎えた若獅子戦。

 ヒカルと一緒に会場へ入ると、すでにたくさんの人で賑わっていた。

 

「和谷、いよいよだな!」

「張り切ってんなぁ」

 

 ヒカルが和谷くんと挨拶するのを横目に、明日美さんと挨拶をかわす。

 そうしていると、プロの人達の中から、1人の男の人が声をかけてきた。

 

「よぉ、みんな。久しぶり」

「真柴さん」

 

 そうだ、そんな名前だった。プロ試験の前にも挨拶くらいしたような覚えはあったけど、すぐにプロ試験が始まったから、覚えてなかったんだ。

 今日は伊角さんと対局みたいで、適度に煽っている。

 

「そういえば、伊角さん院生順位が2位になったんでしょ? そんなんで大丈夫ですか」

「何よ。伊角くんが弱くなったんじゃなくて、1位になったあかりちゃんが凄いんだから」

 

 ちょっと明日美さん、煽り返さないでよー。相手は腐ってもプロなんだから。

 

「藤崎さんだっけ。君みたいな女の子がねぇ」

「えっと。はい。当たることがあったら、よろしくお願いします」

「はい、こちらこそ。って、ブロックが違うんだから当たるはずないじゃん」

 

 忍び笑いを漏らしながら、真柴さんが戻っていった。

 うーん。今回の若獅子戦で当たらなくても、プロになった後に当たるかもしれないよね。そういった意図は理解してもらえなかったみたい。

 みんな、伊角さんが勝つように応援、というよりプレッシャーを与えている。

 

「和谷、藤崎」

「冴木さん!」

「俺ら、当たらなくて良かったなぁ。進藤くんも頑張れよ、打倒塔矢!」

「はい」

 

 嫌みな態度の真柴さんと話した後だけに、冴木さんの笑顔に安心する。

 さて、その塔矢くんは……。あ、来た来た。

 

「塔矢は――」

「きたよ」

 

 ヒカルがきょろきょろと探したので、肩に手を置いて振り向かせる。

 

「塔矢」

「……」

 

 スルッとヒカルを無視して通り過ぎて、私の前で少し歩調を緩める。

 

「おはよう、藤崎さん。奈瀬さんも」

「おはよう」

 

 私たちが塔矢先生の研究会に行っているというのは、院生メンバーも知っているので、私たちだけに挨拶があることも、疑問は抱かない。

 それに、雑談するでもなく、塔矢くんはプロが固まっているあたりに行っちゃったし。

 塔矢くんも緊張してるんじゃないかな。普段より表情が硬いし、不自然なまでにヒカルに目を向けなかったし。

 

 

 しばらく話していると、場内アナウンスで席に着くよう指示される。

 私の相手は、内山初段という方。調べてみたら、プロになって2年目で、初段のまま。だから多分、院生上位と大差ないと思う。

 院生が黒の互先。黒の方が完全に有利というわけじゃないけど、やっぱり一手目を打てるのは気持ちいい気がする。私は、黒の方が好き。

 

「はじめてください」

 

 対局が始まり、それぞれに手を進める。厚みを持たせる打ち方をして相手に大きな地を持たれたら、取り返せなくなるかもしれない。打ち間違いをしないように、荒らしながら地を広げたい。

 しばらく打つと、相手が大きなミスをした。左辺の急所と思える場所を放って、私の左上スミをつついてくる。これは駄目だよ、見逃せない。

 遠慮無く急所を突いて、相手の左辺を殺す。打った瞬間、相手が気付いたようで、手が止まった。

 左上スミに相手の地が少しできたけど、左辺が死んだら話にならない。

 

「負けました」

「ありがとうございました」

 

 良かった、1勝。それも案外早く終わったから、周りの様子も確認できる。

 相手と少しだけ雑談をして、すぐに席を立つ。

 ヒカルは、まだしばらく打ってそうなので、それ以外にも目を向ける。あ、フクくんが終わった。負けたみたいで、相手からアドバイスをもらっている。

 明日美さんは、まだまだ長引きそう。形勢は若干有利かな。でも、ちょっとした差だし、まだどうなるか分からない。和谷くんは少し不利。逆転の目はありそうだけど、このまま押されると負けそうかな。

 そして、塔矢くん。本田さんと対局中だけど、ギャラリー多くて、盤面はちょっと分からない。

 ヒカルの対局を、じっくり見ようっと。

 

「緒方先生」

「藤崎か」

 

 緒方先生が、先にヒカルの対局を見ていた。ぺこりと頭を下げて、ヒカルと村上二段の碁盤に目を向ける。

 ん? ちょっとよく分からない。ここがこうなって、こうきて。

 そっか、多分悪手を、上手く打ち回しで好手に変えたのかな。そうでないと、この盤面は説明がつかない。

 そのおかげか、五分より少しヒカルが良い。コミを入れて、2目半ってところかな。

 その有利を保ったまま、ヨセに入る。

 塔矢くんが打ち終わったみたいで、ゆっくりとやってきた。盤面を目にして、不可解そうな顔。うん、気持ちは分かるよ。

 ヨセは、相手の村上二段が上手く打って僅かに差が縮まったけど、ギリギリ残った、かな。

 

「1目半差で、進藤の勝ちか」

「……くそっ」

 

 相手の村上さんが悪態をつく。すぐに我に返って、ありがとうございましたと頭を下げた。

 ヒカルもつられて頭を下げて、ふうっとため息。

 

「ヒカル、おめでと」

「あかり。おう、勝ったぜ! って、塔矢!」

 

 ヒカルが私に笑顔を向けた後、すぐ横にいた塔矢くんを見て驚く。

 ふふ、さっきは無視していたのに、対局を見ていたとなれば、そうなるよね。

 

「午後から、君との対局だね」

「おう! 簡単には負けねえからな!」

 

 ヒカル、熱いなぁ。ずっと打ってる私よりも、ほとんど打てない塔矢くんとの対局で張り切るのも当然だし、しょうがないよね。

 

「それはそうと、お昼行こう。塔矢くん、一緒に行く?」

「いや、僕は……」

「昼から対局するっていうのに、一緒に飯は食えないだろう。アキラくん、行くぞ」

 

 逡巡した塔矢くんに、緒方先生がフォローを入れる。じゃあ、塔矢くんは緒方先生に任せよう。

 

 

 お昼に、手近なお店に入る。ハンバーガーを食べながら他のメンバーに話を聞くと、何人かは勝利をもぎ取っていた。

 

「じゃあ2回戦は、明日美さんとヒカル、伊角さんに越智くん、足立さんに私で、院生側は6人ね」

「16人中6人、まあ善戦した方じゃねえか」

 

 そういう和谷くんは負けたけどね。

 

「塔矢相手じゃなきゃ、勝つ気だったんだけどな」

「なんだよ、本田さん。塔矢相手でも勝つ気で打たなきゃ」

 

 塔矢くんと当たった本田さんはご愁傷様だけど、ここはヒカルの言うとおりだね。

 

「ヒカル、午後からの対局頑張って。塔矢くんに勝つんでしょ?」

「おう。もちろん負ける気なんてねえよ。絶対に勝ってやるさ!」

「じゃあ私も、ヒカルと当たるまでは負けられないね」

 

 私とヒカルが言い合っていると、明日美さんがやれやれ、と肩をすくめた。

 

「お熱いことで。って言いたいところだけど、私も勝ってあかりちゃんと対局したいから、頑張るね!」

 

 次、私と明日美さんが両方勝つと、3回戦で2人が当たることになる。そうなれば、凄く楽しいよね。ぜひ若獅子戦の場で明日美さんと対局したい。

 

「うん、頑張ろう!」

 

 えいえいおー。みんなで盛り上がっていると、店員さんから軽く注意された。ご、ごめんなさい。

 そうやって英気を養って、午後からの2回戦が、開始した。


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