剣と魔術とライフルと   作:あききし

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第九十九話

 

 

第九十九話 メンバー選考:殺気と期待の交差点

 

 

重厚な扉が閉ざされ、静寂が戻った学園長室で、アメリア・フォン・グロースハイムは署名したばかりの書類を指先でなぞっていた。

 

「トレンス侯爵……。下水という『地底』を掌握した直後に、今度はハートフィリアの令嬢を使い、学園の『文化』という表舞台を力ずくで奪いに来たか」

 

アメリアの目には、アンジェリカの突飛な行動すら、ルーカスが裏で糸を引いた「政治的奇襲」に見えていた。真正面から議論を挑むのではなく、最も拒絶しがたい「公爵家の純粋な欲望」を矢として放ち、学園側の「慎重な審議」という時間を強引に奪い去ったのだ。

 

「……入学して早々、これほどの手配を。貴公の時間は我々の数倍の速さで流れているのか」

 

アメリアは、その手際の良さに感嘆するよりも、背筋が凍るような危うさを感じていた。ルーカスの行動には、若者らしい「迷い」や「試行錯誤」の余地が一切ない。まるで、数手先で王国が崩壊することを知っているかのような、狂気すら孕んだ性急さ。

 

「キース侯爵もクリスティアナ殿下も、これほどまでの『焦燥』は持っていなかった。あの子は、何をそんなに急いでいる?」

 

教育者として、アメリアは若者がその若さゆえに己の力を過信し、制御を失うことを最も恐れる。ルーカスが敷こうとしている「新しい秩序」が、あまりにも合理的で強固であればあるほど、それが壊れた時の衝撃は王国全土を覆い尽くすだろう。

 

アメリアを最も戦慄させたのは、『ハートビート・ロマンス』という俗な名称を彼が受け入れた事実だった。冷徹なトレンス侯爵が、学術の府を冒涜するかのような名称を許容した。それは、彼にとって「名誉」や「形式」が、実利を得るためならいつでも捨てられる「コスト」に過ぎないことを意味していた。

 

「彼は、自らのプライドを切り売りしてでも、機材の持ち込みと技術実証という『実』を取った。形式に拘泥する我々貴族の弱点を、彼は自分自身を犠牲にすることで突いてきた……」

 

それは、伝統という名の「美徳のブレーキ」が効かない相手であることを示していた。アメリアはアンジェリカがもたらした騒動の書類を脇に避け、深い溜息とともに背もたれに身を預けながら、かつての生徒たちの姿を追憶の淵から呼び起こす。

 

 

学生時代のキース・フォン・トレンスは「絵に描いたような高潔な騎士」だった。真っ直ぐな瞳、折れぬ誇り。しかし、卒業直後の魔獣大規模侵攻という残酷な現実が、彼の「誇り」という名の背骨を叩き折った。

 

「キース侯爵……。貴公はあまりにも純粋すぎた。友を、部下を、そして父を一度に失った空洞を、王室は『白銀の精霊』と呼ばれた公爵令嬢を与えることで埋め合わせようとした。それは救いではなく、傷口に塩を塗り込むような仕打ちであったろうに」

 

脳裏には、学生時代の快活だったキースと、花のように微笑んでいた、世俗の汚れを知らぬクリスティアナ殿下の姿が浮かんだ。

彼が妻と子を離れに遠ざけたのは、憎しみからではない。クリスティアナ殿下の放つ「天衣無縫な輝き」が、暗い後悔の中に沈む彼にとって、自らの不甲斐なさを焼き尽くす「残酷な太陽」であったからだと、アメリアは確信していた。

 

「王室も残酷なことをなさる。失意のトレンス家を支えるどころか、『精霊の祝福(呪い)』とまで言われた殿下を押し付けることで、辺境の監視と厄介払いを同時に済ませた。……あの離れの静寂の中で、どのような絶望が醸成されたというのか」

 

その子息ルーカスに重なる「精霊の呪い」。

 

そして今、アメリアの目の前には、その「太陽」から生まれながら、父の「折れた誇り」を継ぐどころか、全く未知の冷徹な論理を振りかざす少年がいる。

 

「父が力不足で全てを失ったのを見て、あの子は『力そのものを定義し直す』ことに決めたのか。騎士道ではなく、下水と、計算と、増幅器。これら卑近な実利こそが、誰も失わないための彼の『武器』なのだとしたら……」

 

アメリアは窓の外を見つめ、独り言ちる。

 

「キース侯爵は光を恐れて影に隠れた。だが、その影の中で育ったご子息は、自らが『冷たい光』となって世界を照らし返そうとしている」

 

計算技術、軍事基盤、そして今度は感性の統御。アメリアは教育者として、また学園の権威として、彼の若さゆえの性急な変革に危うさを感じずにはいられなかった。彼の目的も、その根底にある危機意識も、既存の王国の時間軸とは明らかに剥離している。

 

「彼がもたらすものは、数百年停滞した王国への『祝福』か、それとも既存の秩序を根底から腐らせ、崩壊させる『災い』か。私は、歴史が分岐する瞬間に、教師として立ち会わされているのかもしれない」

 

アメリアは、ルーカスという「未来」に対し、教育者の責任をかけて戦いを挑む覚悟を固めた。しかし、その強引な覇道が王国を焼き尽くさぬよう、より強固な論理と倫理をもって、若き覇王の進撃を食い止める決意を固めた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・

 

 

アンジェリカが嵐のように走り去ってから数分。ガゼボに残されたのは、静寂と、冷めかけた紅茶、そして取り返しのつかない名前が記された書類だけだった。

 

 ミリアリアは、震える指先で書類の「ハートビート・ロマンス」という文字を指し示した。

 

「……トレンス侯爵。今からでも遅くありません。学園長室へ追いかけ、名称の再考を促すべきです」

 

 その声は、悲鳴に近い。

 

「この名称が公になれば、社交界は間違いなく『トレンス侯爵家とハートフィリア公爵家の蜜月』と解釈します! 勘の鋭い貴族なら、明日の朝には婚約の準備を始めるでしょう。……これは、もはや学園のクラスターという枠を超えた、政治的な自爆行為ですわ!」

 

 だが、ルーカスは紅茶を一口啜り、眉一つ動かさなかった。

 

「……ノイズだな」

 

「なっ……ノイズ、ですって!?」

 

「そうだ。名称という名のラベルが、中身(実利)にどのような影響を与えるかは、この際重要ではない。……オルスタイン嬢。今、私が彼女を追いかけ、論理的な対話によって名称を撤回させるために必要な時間を計算したことがあるか?」

 

 ルーカスは、無機質な瞳でミリアリアを見た。

 

「最低でも三時間は要するだろう。そして三時間を費やしたとしても、彼女が最終的に『やっぱりこっちの方が響きが素敵よ!』と直感で結論を維持する確率は、私のシミュレーションでは八割を超えている。……不確実な対話にリソースを割くのは、最も効率を欠く行為だ」

 

「……っ、ですが! 恥をかくのは、その……現場の事務処理を担当する私でもあるのですわ……!」

 

「『ハートビート・ロマンス』。……反吐が出るほど非効率な名称だが、これによって『機材の持ち込み』という最短経路が開通した。……私はプライドで飯を食っているわけではない。目的を達成するためのコストとしては、許容範囲内だ」

 

 ルーカスは、もはや書類のタイトルなど興味がないと言わぬばかりに、視線を前方へと向けた。

 

「さて、オルスタイン嬢。無駄な感傷は捨てろ。次のステップへ移行する」

 

ルーカスは、手元の冷めかけた紅茶を一口飲んだ。彼の表情には、先ほどの『ハートビート・ロマンス』という命名への苛立ちや、規則が破られたことへの不快感は既に消え失せ、代わりに「次のステップへの集中」という冷徹な光が宿っていた。

 

「学園の正式な認可には、最低でも5名のメンバーが必要だ。そして、ミューズ教授が監督する以上、単なる『感情的な遊び』で終わらせるわけにはいかない」

 

ルーカスは、冷静な口調で続けた。

 

「私がこのクラスターに関与する『効率的な実利』を最大化するため、メンバーは、アンプ技術の実証に必要な論理的思考力、または、アンジェリカ嬢の『熱狂』を増幅させる音楽的才能を持つ者でなければならない」

 

彼はミリアリアに視線を向けた。

 

「早速だが、メンバーの募集についてだ。何か心当たりは?」

 

ミリアリアは、ルーカスの言葉に、一瞬、驚きに目を見張った。

「…意外ですね。トレンス侯爵。先程までは、あの非効率的な騒動に対し、極めて消極的でしたのに」

 

彼女の言葉には、ルーカスの豹変に対する戸惑いが滲んでいた。

ルーカスは、ミリアリアの疑問に対し、感情を排した必然性を説明した。

 

「彼女の手にかかれば、このクラスターは既に既定事項となるだろう」

 

彼は、学園長室で今起こっているであろう、アンジェリカの『感情の突撃』と『権威による強制承認』を正確に予測していた。

 

「不要な抵抗や、論理的な反対によって、エネルギーを浪費することは、最も効率を欠く行為だ」

 

ルーカスは、紅茶のカップを静かに置いた。

 

「であれば、面倒な事は、最小限の工数で、早めに終わらせておくべきだ」

ルーカスの脳内では、既に「ハートビート・ロマンス」の立ち上げプロセスが、「最優先タスク」として組み込まれていた。

 

「オルスタイン嬢、貴女の伯爵家はハートフィリア公爵家と近しい。貴公は、社交の場における生徒たちの『論理的な能力』と『感情的な動機』について、私よりも多くのデータを持っている」

 

ルーカスは、ミリアリアの人的ネットワークという「リソース」を、効率的に活用しようと促した。

 

「クラスターの要件を満たし、かつ、私の技術実証の効率を阻害しない人物を、貴公のデータから即座に抽出していただきたい」

ミリアリアは、ルーカスの冷徹な合理性に、再び背筋を正した。彼女は、ルーカスの論理が、いかに感情的な障害を乗り越えて、実利へと直結するかを理解していた。

 

「承知いたしました、トレンス侯爵。アンジェリカ様の『熱狂』に釣られる『論理的な才覚』を持つ人物……私達の情報に照らし、速やかに候補を抽出いたします」

 

ミリアリアは、心の中で(これで、また私の休憩時間は削られていく……)と疲弊を感じつつも、ルーカスの命令に従い、即座に頭の中で学園の生徒名簿を照合し始めた。

 

 

ミリアリアは、ルーカスの命令を受け、頭の中で生徒名簿を照合し始めたが、ふと、ある生徒の顔が思い浮かび、口元に微かな疲労の色を浮かべた。

 

「そういえば、侯爵様。ヴェクター様という生徒をご存知ですか? ウィルソン商会のご子息で、最近ご入学されたばかりですが」

 

ミリアリアは、顔見知り程度の情報としてヴァイスの名を出した。

 

「彼は、明るく親しみやすさ、そして少し軽薄な態度で、既に学園内で幅広く顔見知りを作っています。女子生徒の間でも『面白い人』として話題になっているようです。昨日、中庭で、彼は複数の女生徒に囲まれていました。まるで、道化を演じているかのように」

 

ルーカスは、その報告を聞き、内心ではヴァイスが任務を優秀にこなしていることを評価していた。彼の脳内では、効率性とリスクが天秤にかけられていた。

 

(ヴェクター…か。あいつの任務特性上、俺の近くに置くのは避けたかったが…。とはいえ、奴なら機材の運搬、対外交渉、演奏の全てをこなせる最適な人材でもある)

 

しかし、ルーカスは「ヴェクター」との関係をミリアリアに悟られないよう、表向きの建前としての懸念を表明する必要があった。

 

「…あのような軽薄な者を、学術クラスターとはいえ、側に近づけて大丈夫なのかね?」

 

ルーカスは、眉間にわずかに皺を寄せ、「品位」と「秩序」を重んじる侯爵としての建前を装った。彼の言葉には、「偽装された護衛」という真の目的を隠すための、表向きの遠ざけようとする感覚が込められていた。

ミリアリアは、ルーカスの懸念に強く同意した。彼女もまた、ヴェクターの軽薄な態度は、侯爵の側近として不適切だと感じていた。

 

「それは……確かに懸念されます、侯爵様。学術的探求の場とはいえ、侯爵様の品位を守るためには、もう少し思慮深い人物を選ぶべきかと存じます」

 

ミリアリアは、ヴェクターが公爵令嬢アンジェリカの奔放さに付き合えるだろうとは予測できるものの、主人の側に置く人物としては不適切と考え、静かに悩んだ。

 

「彼の社交性は魅力ですが、彼の振る舞いは『ハートビート・ロマンス』という名称の非効率性を、さらに増幅させることになりかねません」

 

ルーカスは、ミリアリアの反応を見て、これで「ヴェクターの起用は簡単ではない」という体裁が整ったと判断した。これは、ルーカスが「渋々」ヴェクターを受け入れるための布石となる。

 

「ふむ。ウィルソンは『効率』という点では魅力的だが、『品位』と『秩序』という点で、確かに懸念が残るな」

 

ルーカスは、カップを静かにテーブルに置き、結論を保留した。

 

「オルスタイン嬢。他に、このアンジェリカ嬢の奇抜な発想に快く付き合うことができ、かつ、論理的な才覚を持つ生徒はいないか?ヴェクターを最終手段とするためにも、他の候補を徹底的に探す必要がある」

 

ミリアリアは、ルーカスの意図を汲み取り、姿勢を正したが、すぐに疲れた表情を見せた。

 

「…ですが、そのような…特異な方はそうそう…」

 

「確かにな…」

 

ルーカスが次なるメンバー選定という「泥沼のパズル」に意識を向けようとしたその瞬間、脳内にAlphaの電子的音声が響いた。

 

『バイタル・チェック完了。心拍数115、基準値より30%の上昇から、急速な下降を確認。副腎皮質ホルモンの分泌抑制、およびセロトニン濃度の微増――。……貴方のストレス値の劇的な低減を確認しました。バイタルは正常。……極めて良好な、戦闘最適化状態(クリア・マインド)です』

 

網膜に投影されるステータスウィンドウが、苛立ちを示す警告色から、透き通るような蒼白へと変わっていく。

ルーカスは、自らの手のひらを見つめた。指先の微かな震えは、いつの間にか収まっている。

徹夜明けの重い頭痛、アイリスやエリザベートから受けた高慢な挑発、そして何より――自身の足元が、公衆衛生の概念すら欠落した「不衛生な汚泥」の上にあるという耐え難い屈辱。それらすべてが、先ほどまでの激しい怒りと共に、霧散していた。

 

(……らしくもないな。この程度で揺さぶられるのか)

 

原因は明白だ。アンジェリカ・ド・ハートフィリア。

論理も手順も踏み潰して暴走するあの少女の、あまりに純粋で、裏表のない天真爛漫な熱量。計算も汚濁もない真っ直ぐな瞳。それが、トレンス領の窓辺でリュートを奏でていた母の姿と、一瞬だけ重なった。ルーカスの張り詰めた神経を、無理やり、しかし優しく弛緩させてしまったのだ。

「虚飾」という名の香水で悪臭を誤魔化す貴族たちの中で、彼女だけは、ただひたすらに「楽しい」という光だけを追いかけていた。その毒のなさが、ルーカスのシステムに溜まっていた「毒」を中和してしまったらしい。

 

(遊びに来たわけじゃないんだがな……。だが、おかげで視界のノイズが消えた)

 

ルーカスは思考を切り替えた。苛立ちという感情を排し、この状況を純粋な「盤面」として再定義する。

 

(どの道、学園内での文化戦略は必須事項だ。彼女の暴走を第一段階として利用すれば、最短距離で機材の導入という実利に繋がる。……悪くない)

 

自嘲気味に口角を上げたルーカスの視線が、テーブルの上のカップに落ちた。アンジェリカとの騒動で放置され、完全に熱を失った琥珀色の液体。

彼は無造作にカップの縁に指先を触れさせた。

 

「……侯爵様? 急に黙り込んで、どうかされましたか?」

対対面に座るミリアリアが、ルーカスの纏う空気が完全な「凪」へと変わったことに気づき、怪訝な声を出す。

 

ミリアリアの視線の先で、カップの底に刻印された魔法回路が、淡く蒼い光を放った。

 

ルーカスが魔力を微調整しながら流し込むと、冷え切っていた液体の中から、細かな気泡と共に熱が再構築されていく。沸騰による茶葉の変質を避け、最も香りが際立つ 185°F へ。誤差0.5度以内の精度で、液体の分子運動を物理的に加速させた。

立ち昇る湯気が、ルーカスの表情を薄く覆う。

適温に戻った紅茶を一口啜り、熱が喉を通るのを確認すると、彼はわずかに残っていた精神的な「澱」を完全に排した。

 

ルーカスは、既にAlphaが示した「戦闘最適化状態」のまま、視線を前方へ向けた。

 

「何でもない。……オルスタイン嬢、予定通りメンバーの選定を進めろ。リソースを無駄にする時間はない」

 

「……候補を絞り込むにあたって、最低条件を提示しておく」

 

ルーカスは、再び熱を帯びたカップをソーサーに戻しながら、事も無げに言った。

 

「第一に、私の設計思想を0.1秒で理解し、並列処理で実行できる論理演算能力。第二に、アンジェリカ嬢の非論理的な暴走を、音響エネルギーの『推進力』へと即座に変換できる音楽的動的な感性。そして第三に――不測の事態において、私の指揮下で一糸乱れぬ機動力を発揮できる、高度な戦術的柔軟性。この三点を兼ね備えた個体を、優先的に抽出してくれ」

 

ミリアリアは、手に持っていたメモ用のペンを止めた。その瞳には、隠しきれない困惑と、深い疲労が混ざり合っている。

 

「……トレンス侯爵。念のため確認させていただきますが、ここは『王立総合学園』であって、侯爵様の『直属私設部隊』の徴兵会場ではありません」

 

彼女は小さく溜息をつき、呆れたように首を振った。

 

「その要求目標は学生ではなく、計算機を内蔵した歴戦の騎士か、あるいは魔法と芸術に精通した賢者です。そのような『完成された生徒』がその辺を歩いているのなら、今頃王国に悩みなどありません」

 

「……そうか。やはり一般学生のスペックでは、この程度の並列処理も厳しいのか」

 

ルーカスが本気で「意外だ」と言いたげに眉を寄せると、ミリアリアはさらに声を落として付け加えた。

 

「軍事教練でも受けているなら別でしょうが、普通の子はもっと……その、長閑なものです。せめて、話が通じて、楽器が持てるというレベルまで基準を下げていただけませんか? 掃いて捨てるほどいるはずの『若きエリート』たちが、侯爵様の基準ではゴミ同然に分類されてしまいます」

 

「妥協は非効率だが……やむを得ない。抽出条件を『既存の教育体系における上位5%』まで緩和しよう」

 

「それでもまだ高すぎますが……妥協してくださり、感謝いたします」

 

ミリアリアが「これでもまだ前途多難だ」と心の中で毒づいた、その瞬間だった。静寂を破る無作法な足音が、二人のもとへ近づいてきたのは。

 

 

 

「おい、ルーカス・トレンスだな?」

 

その男は、威圧的な態度を取りながら、座っているルーカスの肩を後ろから乱暴に掴んだ。

 

「ちょっとツラ貸せや。裏で話がある。逃げんなよ、優雅な侯爵様」

 

彼の目には敵意はないが、その口調と態度は、「喧嘩の呼び出し」以外の何物でもなかった。

 

ルーカスは、掴まれた肩を冷静に振り払い、椅子に深く腰掛けたまま首だけを動かし、目の前の生徒を一瞥した。

制服を着崩し、顔には喧嘩慣れしたような傷跡。

 

(何の真似だ? 誰かの命令か、それとも単なる下級貴族の代理喧嘩か。どちらにせよ、叩き潰すまでだ)

 

ルーカスの脳内では無感情に、この騒動を「最も迅速に鎮圧する手順」が既にシミュレートされ始めていた。

 

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