剣と魔術とライフルと   作:あききし

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第二十話 前編

 

第二十話:黎明期の二年間 前編

 

 

今から二年前――。

ルーカスが5歳になったばかりのその年、侯爵邸の離れの一角に新設されたブートキャンプは、かつての荒廃した訓練場から一変し、まるで生まれたての生き物のように蠢き始めていた。侯爵家の血を引く者がこのような場所に赴くこと自体、前代未聞の出来事だったが、ルーカスはそんな周囲の好奇の視線も意に介さず、鬼教官さながらに訓練の指揮を執っていた。彼の訓示を受けて志願した217名の兵士たちは、来る日も来る日も過酷な訓練を耐え忍び、この奇妙な少年が率いる「海兵隊」として新たな一歩を踏み出そうとしていた。

 

 

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斥候の眼と隠密の足

 

戦闘部隊の訓練は、従来の騎士団のそれとは一線を画していた。ルーカスが重視したのは、真正面からの衝突よりも、高度な斥候、偵察、そして隠密行動だった。それは、戦場で敵の目を欺き、情報を確実に得るための最重要技能とされた。

ブートキャンプの周囲に広がる森林地帯は、格好の訓練場となった。

 

「いいか、貴様ら!敵は常に貴様らよりも狡猾だと思え!風を読み、匂いを嗅ぎ、地面の僅かな足跡すら見逃すな!そして何より、見つけられる前に見つけ、気づかれる前に仕留めろ!」

 

ルーカスの号令が、森に響く。幼い彼の声には、まるで戦場の指揮官のような冷徹な響きがあった。

 

訓練生たちは、迷彩服に身を包み、森の中を這いずり回った。木々の間を縫うように移動し、気配を殺して茂みに潜む。草の擦れる音、小枝を踏み砕く音一つにも気を配り、いかにして敵に悟られずに接近するか、あるいは離脱するかを徹底的に叩き込まれた。夜間の訓練では、暗視ゴーグル――初期プロトタイプが支給され、月明かりすら届かない闇の中での行動を強いられた。彼らは、人間離れした知覚と、それに裏打ちされた移動術を身につけていった。

また、個々の兵士に割り当てられた役割、すなわちMOS(兵科別技能)の習得も重視された。

 

「貴様は狙撃手(スナイパー)だ。風の流れ、魔力の変動、そして標的の呼吸まで読み切れ。一発で仕留めろ」

 

「貴様は爆破処理兵(EOD)だ。あらゆるトラップ、構造物の弱点を見抜け。破壊も、無力化も、全て貴様の掌の上だ」

 

ルーカスは個々の兵士の適性を見抜き、その才能を最大限に引き出すための専門訓練を課した。彼らはもはや、単なる戦闘員ではなかった。情報戦、心理戦、破壊工作、そして救護まで、戦場のあらゆる局面に対応できるスペシャリストへと変貌を遂げていった。

 

この訓練の苛烈さは、肉体的な限界だけでなく、精神的な壁も打ち破らせるものだった。「ちょっとの不調では優しく見ない」というルーカスの原則は、隊員たちの間にも浸透していった。弱音を吐けば、叱咤され、突き放される。怪我をすれば、適切な処置はされるが、同情の言葉はなかった。それは、戦場では甘えが命取りになるという、ルーカスの信念の表れだった。

 

 

 

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魔力駆動車両とダリルの焦燥

 

 

一方、整備・輸送部隊では、ダリル・ウッドワーズ改め、ダリル・フォン・ガレオンが、新たな任務に不慣れな苛立ちと、周囲との差に焦りを感じていた。彼が任されたのは、ルーカスが設計した魔力駆動輸送車の運転訓練だった。現在の車両はまだ試作段階で、その数は5~6台程度。それでも、既存の馬車とは比較にならない性能を持っていた。

 

「こんなデカい鉄の塊、どうやって動かすんだよ……!」

ダリルは、初めてトラックの運転席に座った時、その複雑な操縦桿と計器類に面食らった。魔力炉の調整、変速機の操作、そして何より、これまでの馬車の御者とは全く異なる「運転」という概念に、彼の荒っぽい気性は反発した。

 

訓練中、ダリルは何度もエンストさせ、急ブレーキを踏んで荷物を散乱させ、教官に怒鳴られた。

 

「おい、ダリル!ちゃんと前を見ろ!そんな運転で、どうやって補給線を維持するつもりだ!お前らのミス一つで、最前線の兵士が飢え死にするんだぞ!」

 

かつては恐れられたゴロツキの頭目も、この場ではただの不器用な訓練生だった。

その間にも、他の部隊の隊員たちは、森での隠密訓練や、遠距離射撃訓練、魔法障壁の展開訓練など、いかにも「戦士」らしい訓練を重ね、目に見えて成長していた。彼らの顔には自信が満ち溢れ、切磋琢磨する熱気が伝わってくる。ダリルはそれを見るたびに、胸の奥で燻るような焦燥感を覚えた。

 

(ちっ、俺はこんなところで、ハンドル握ってていいのかよ……。他の奴らは、どんどん強くなってやがるってのに……!)

 

彼は、かつての武力と経験が、この新しい訓練ではほとんど役に立たないことに戸惑い、自身の存在価値を見失いかけていた。

 

 

 

 

 

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サディスティックな才覚

 

 

医療部隊の訓練場は、常に消毒液の匂いが漂っていた。そこで指揮を執るのは、エリス・メイフィールド、21歳。赤髪のショートカットに、鋭い瞳を持つ彼女は、かつてはスリや窃盗で日銭を稼ぐ孤児だった。ブートキャンプで医術の才能を見出された彼女は、ルーカスの庇護のもと、この医療部隊の小隊長に抜擢された。

 

エリスの指導は、極めて独特だった。

「痛い、痛いって喚いてるんじゃないわよ、この役立たずども!頭が痛い?知るか!転んで擦りむいたくらいで、水でも飲んでろ、唾でも付けとけ!この程度の傷で死ぬ奴は、そもそも戦場に出る資格なし!」

 

訓練中に怪我を訴える男たちの体を、平気で蹴飛ばし、罵声を浴びせる。傷口に雑に薬を転がし、「チッ、ほらよ!」と吐き捨てるような態度だった。彼女にとって、男性の痛みは、観察対象でしかなかった。その治療行為は的確であるものの、患者への配慮など微塵もなく、まるで人体実験でもしているかのような異常な興味をその瞳に宿していた。

 

しかし、彼女は女性隊員に対しては一転して優しく、まるで姉のように親身に接した。その極端な態度は、隊員たちを困惑させつつも、彼女の治療の腕が確かなものであるため、誰も文句を言えなかった。ルーカスはそんなエリスの人間性を知りながらも、その才能と、いかなる状況下でも冷静に処置を行う冷徹さを高く評価していた。

 

 

 

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寡黙な巨人と重機の魅力

 

 

工兵部隊を率いるのは、ガレス・ストーン、25歳。彼は無口な街の木こりだった。その巨体と、寡黙すぎる性格ゆえに街では孤立し、些細な喧嘩が元で追い出され、職にあぶれていたところをルーカスに拾われた。口数は少ないが、その眼差しは常に真剣で、特にルーカスが持ち込んだ重機(小型の魔力駆動ショベルカーやクレーンなど、パワードアシストとは別の大型機)には異常な興味を示していた。

 

「……これ、動くのか?」

初めて魔力駆動ショベルカーを見た時、ガレスは珍しく目を輝かせた。その巨大なアームが、人の力では到底動かせない岩を軽々と持ち上げるのを見た時、彼の心は完全に奪われた。

 

彼は言葉少なながらも、ルーカスの指示を完璧に理解し、重機の操作を瞬く間に習得していった。木こりとして培った、土木や構造物に関する知識と、その怪力は、工兵部隊で大いに活かされた。黙々と作業をこなすガレスの姿は、隊員たちに安心感を与え、その確かな技術は彼らから絶大な信頼を勝ち取っていった。

 

 

 

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ベリルと服従の道

 

 

海兵隊には、ビーストの隊員も存在した。その中でもひときわ目を引くのは、犬系の獣人であるベリル、20歳だった。彼はかつて、喧嘩っ早く、町の通りでゴロツキのような真似をして暴れ回っていた。その野性的な衝動は、人間社会の規律には馴染まず、周囲から恐れられていた。

ルーカスのブートキャンプの噂を聞いた、ベリルは面白半分で喧嘩を売りに来た。

 

「へっ、ガキの坊主が何様のつもりだ。俺様が相手してやるよ」

 

しかし、その結果はベリルにとって悪夢だった。ルーカスは、わずか5歳の体躯でありながら、ベリルの猛攻を紙一重でかわし、的確な急所への打撃で、彼を完全に無力化した。その動きは、まるで精巧な機械のようで、ベリルは生まれて初めて「死」を感じた。

地面に組み伏せられ、首筋にルーカスの冷たい刃が突き付けられた時、ベリルは本能的な恐怖と、圧倒的な力の差を悟った。

 

「随分と躾のなって無い、わんちゃんだな?そんなに構って欲しいなら、おれが鎖を繋いでやるよ。俺に牙を剥くか、それとも俺の下で、その力を最大限に活かすか、選べ。そうすりゃ、貴様の力を存分に活かせる場所を与えてやる」

 

ルーカスの言葉は、ベリルの胸に深く突き刺さった。以来、ベリルはルーカスに対して絶対的な忠誠を誓い、最も従順な兵士の一人となっていた。彼の野性的な直感と身体能力は、斥候や追跡任務において無類の才能を発揮し、戦闘部隊の重要な一角を担っていた。

 

 

 

ブートキャンプでの日々は、地獄のような苛烈さと、未知への挑戦に満ちていた。しかし、隊員たちは確実に、旧来の軍隊の枠を超えた「新時代」の兵士へと変貌を遂げていた。彼らはまだ知らなかった。この過酷な訓練が、やがて来る領地の危機を救い、自分たちの存在が侯爵領の未来を切り拓くことになることを。

そして、この二年間で、ルーカスが描く壮大な計画の歯車は、着実に、しかし確実に回り始めていた。

 

 

 

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ブートキャンプでの苛烈な訓練は、日を追うごとにその成果を形にし始めた。これはAlphaの提案による、暗示や催眠に近い、脳内に直接的に作用するVR訓練によるものだ。実際の戦闘さながらの状況が脳内に再現され、恐怖や疲労すらもリアルに感じさせる。

これらは緻密な計算と複雑な術式により、展開され訓練の質を大きく向上させた。

 

 

 

海兵隊の活動は、やがて侯爵領の隅々までその影響を及ぼし始める。ルーカスがランディに指示して設計させた軽装甲高機動車や軽装甲偵察車LAV-25、そして中、軽迫撃砲といった新型兵器の試作車が完成し、この頃から試験運用が開始された。これらの車両は、ダリル率いる輸送部隊にも配備され、彼の運転技術も格段に向上していることを示唆していた。

 

 

海兵隊は領地内の小規模な村々へと展開し、「施し」という名目での実戦訓練を開始した。それは、困窮する領民を助けながら、同時に隊員たちの練度を高め、新型兵器の有効性を検証する、ルーカスらしい合理的な戦略だった。

 

 

整備・輸送部隊は、ダリルが駆る新型の魔力駆動輸送車を先頭に、迅速かつ大量に救援物資や資材を村々へと運んだ。土埃を巻き上げ、旧来の馬車隊を置き去りにするその速度と積載量に、村人たちは目を丸くした。

 

「ま、間に合った……!これで、冬を越せる……!」

物資を受け取った村長が、震える声で感謝を述べる。最初は半信半疑だった領民たちも、迅速な対応と目に見える物資の恩恵に驚き、やがて心からの感謝を捧げるようになった。

 

ダリルは、口では「ちっ、これだから世話が焼けるんだ、おっさんどもは」と悪態をつきながらも、彼の表情にはこれまで感じたことのない充実感が滲んでいた。荒っぽい気性の彼にとって、誰かの役に立つという実感は、全く新しい感覚だった。しかし、彼の胸にはまだ、拭いきれない焦りがあった。隣の訓練場からは魔導銃の激しい射撃音が響き、仮想の敵を容赦なく撃ち抜く戦闘部隊の怒号が聞こえてくる。パワードアシストを装着した工兵隊が、巨大な岩を軽々と持ち上げるのを目にするたび、自分の役割が地味に思えて仕方なかった。。

 

「おい、坊主様よ!俺はいつになったら、銃持って暴れられるんだよ!俺は戦闘要員になりたくてここに来たんだぞ!」

 

ダリルは苛立ちを隠さず、かつて自分が呼んだ呼称で、ルーカスに詰め寄った。ルーカスはそんなダリルを真っ直ぐに見据え、冷徹な声で言い放った。

 

「大尉殿、だ。ダリル。訓練中は階級を付けろと言ったはずだがな。まぁいい。貴様は、まだ己の役割を理解していないのか。輸送は兵站の要、軍の血管だ。貴様が運ぶ物資一つで、前線の兵士の命が左右される。これは、銃を持って突っ込むだけの単純な戦闘より、はるかに重要な任務だ。前にこうも言ったな。何時、どのような場所、どのような状況においても、迅速にかつ確実に届ける必要があると。それは今後銃火の中、砲火の中でも、だ」

 

ルーカスの言葉は、ダリルの心臓を直接掴んだようだった。

 

「貴様は、まだ戦場で生き残るための判断力も、己の感情を制御する術も、この新型車両を完全に御し、その性能を最大限に引き出す技術も、全てが未熟だ。その焦りが、いつか貴様自身を、そして貴様の部下たちを危険に晒すだろう」

 

叱責だった。しかし、その言葉には、ダリルの才能を信じ、彼がさらに成長することを願う、ルーカスなりの厳しさがあった。ダリルは反論の言葉を見つけられず、ただ唇を噛みしめるしかなかった。

 

 

 

医療部隊は、エリス・メイフィールド小隊長の指揮のもと、怪我人や病人を治療し、衛生環境の改善を指導した。

 

「ったく、こんな程度でへこたれるんじゃないわよ!さっさと立て!治してやるから、さっさと立ち直れ、この役立たず!」

 

と、相変わらず男たちには罵声を浴びせながらも、彼女の手つきは常に正確で迅速だった。治療効果は確実で、病床に伏せていた者が驚くほど速く回復するのを見て、村人たちは彼女の口の悪さにも慣れ、その確かな腕に全幅の信頼を置くようになった。女性や子供には打って変わって優しく接する彼女の姿は、隊員たちの間では既に「二つの顔を持つ天使」として知られていた。

 

 

 

工兵部隊を率いるガレス・ストーンは、口数は少ないが、黙々とその仕事に打ち込んだ。パワードアシストシステムを装着した隊員たちが、崩れた道や橋を驚異的な速さで復旧させ、土砂崩れで塞がれた道を瞬く間に開通させていく。彼の指示のもと、魔力駆動の小型重機が巨石を運び、頑丈な簡易防壁が築かれる様子は、まるで神業のようだと村人たちを驚かせた。「ガレス隊長がいれば、どんな困難も解決する」という信頼が、静かに広まっていった。

 

戦闘部隊は、周辺の魔獣掃討や不審者の排除を行い、村の治安を安定させた。彼らは量産された魔導銃を手に、風のように素早く移動し、見えない場所から正確な射撃で魔獣を仕留める。訓練で培われた高度な斥候、偵察、隠密行動の技術が、実戦でその真価を発揮し、領民たちは自分たちの村がこれまでになく安全になったことを実感した。

 

 

 

 

 

訓練を継続しているある日の事、侯爵領の東部、広大な荒野に、突如として奇妙な土の盛り上がりが現れた。それは日が経つごとに数を増やし、やがてその盛り上がりから、おぞましい姿の魔獣が姿を現し始めた。体長一メートルを超える巨大な「アントロード」、硬質な甲殻に覆われたその姿は、現実世界のアリを想起させたが、その鎌のような前肢と、獲物を求めて蠢く複眼は、見る者に悪夢を想起させた。偵察ドローンからの報告は、背筋が凍るようなものだった。その数は、数百。一兵卒が対応できるレベルを遥かに超えた、大規模な群れだった。

これらは各種情報偵察機器、特に空中の偵察ドローンからのリアルタイム情報により即座に察知され、海兵隊は準備に入った。

 

 

ルーカスの指揮のもと、海兵隊の各部隊は速やかに指定された展開地点へと移動した。最前線には、軽装甲高機動車が先行し、その横を軽装甲偵察車が並走する。ダリルが操る高機動車は、土埃を巻き上げながら荒野を疾走し、もはや彼の運転技術に迷いはなかった。

工兵隊はパワードアシストや重機を駆使して、速やかに、土嚢や陣地を設立し、各後方隊も配置に着いた。

 

ルーカスは、仮設された司令部の魔導スクリーンに表示されるリアルタイムの戦況データ――偵察ドローンからの俯瞰映像、アントロードの進軍経路予測、各部隊の配置図――を確認し、冷静に分析していた。彼は全部隊へと通信を繋げ、その幼い声には、戦場を支配する者の揺るぎない確信が宿っていた。

 

「さて栄えある、海兵隊諸君。戦争の時間だ。これより我々は害虫駆除を行う。この世界で初の近代的な戦闘だ。この程度の敵など、苦戦すら論外だ。訓練の成果を見せてみろ!」

 

通信機を介して、各小隊は実践における緊張と、しかし、それを上回る訓練で、培われた殺意を込めて、各々の武器を構えた。

徐々に迫り来る異形の群れにもう恐れは抱かない。

 

やがてアントロードの群れが、一斉に海兵隊へと殺到する。その異様な大群に、通常であれば士気は挫かれるだろう。しかし、海兵隊員たちの表情には、訓練で培われた冷静さと、最新兵器への絶対的な信頼が宿っていた。

 

「撃て!目標、前方の密集隊形!」

 

小隊長の号令が響く。戦闘部隊が構えるのは、量産型の魔導銃RS1だ。隊員が引き金に指をかけ、引き絞る。

「カキン!」と乾いた金属音が響き、銃身内部の魔術回路が激しく発光する。弾倉から送られた小さな金属製の球体、その直径はおおよそ30口径、7.62mm程度だろうか。それが薬室で魔術回路と接触した瞬間、まるで生き物のように蠢き、急速な変形を始める。弾頭の表面に螺旋状の魔力線が刻み込まれ、内部で凝縮された魔力が圧縮され、僅かに膨張する。そして、ズドン!と重い炸裂音を伴い、圧縮された魔力をまとった高速の弾頭が、銃口から幾つも吐き出された。

 

その弾頭は、ただの金属の塊ではない。魔力の殻を纏ったそれは、空気抵抗をものともせず、真っ直ぐにアントロードの甲殻へと連続で突き刺さる。硬い甲殻はあっけなく貫かれ、弾頭が体内で弾ける。魔力の衝撃波が内臓を破裂させ、アントロードは一瞬の痙攣の後、黒い液体を撒き散らして絶命した。

 

マークスマンたちは魔導銃RS-D1を構え、正確にアントロードの複眼や関節部を狙い撃つ。その一発一発が、群れの動きを鈍らせ、隊員たちの突破口を開いていく。後方からは、分隊支援火器SSW-1が火を噴いた。連続して「ズドドドド!」と魔導弾が連射され、嵐のような弾幕がアントロードの群れを薙ぎ払う。次々と吹き飛ばされる魔獣の残骸が、辺り一面に飛び散った。

 

 

 

この戦いにおいて、ベリルを含む少数の隊員は、試験的にマナ・パック式の魔導銃を扱っていた。ベリルが手にしているのは、大口径のスナイパーMR2だった。銃のストック下部に装着された円筒状のマナ・パックから、青白い魔力が絶え間なく銃へと供給される。

 

「くっ、この魔力の流れ、制御が難しいぜ……!」

 

ベリルは額に汗を滲ませながら、引き金を絞った。

「ゴオォォォォオッ!!」

その咆哮は、通常の魔導銃の比ではなかった。パックから供給された莫大な魔力が弾頭に注ぎ込まれ、弾丸は緑色の光を帯びて膨張する。それは、最大で現実世界の50口径ライフル弾にも匹敵する威力を秘めていた。弾丸はアントロードの硬質な甲殻をまるで紙のように貫き、その強靭な体をまるで爆弾でも仕掛けられたかのように内側から炸裂させた。肉片と甲殻の破片が、派手に舞い上がる。

さらに、ベリルは「弾道を曲げる」という、マナ・パック式ならではの特殊能力を試していた。遠距離の目標を狙う際、僅かに弾道が逸れたとしても、銃に内蔵された制御魔術回路をマナ・パックの魔力で駆動させ、弾丸を空中で微調整するのだ。

 

「そこだ、野郎!」

 

ベリルは咆哮しながら、茂みに隠れた指揮官らしきアントロードを狙う。一発目が僅かに逸れたが、ベリルは瞬時に魔力を操作し、弾道を修正した。「ギュルルッ」と空気を引き裂くような音を立てて弾丸が軌道を変え、アントロードの頭部を正確に打ち抜いた。それは、まるで彼自身の意思が弾丸に宿ったかのような、信じられない光景だった。

 

しかし、マナ・パック式兵器の運用は、膨大な魔力と高い集中力を要求した。ベリルの呼吸は荒く、体から汗が噴き出す。まだ開発段階のその技術は、使い手にも相応の負担を強いた。

 

全面制圧と「活用」の命令

後方からは、中軽迫撃砲が定期的に火を噴き、アントロードの密集地点に正確な砲弾を叩き込んだ。「ドォン!」「ドォン!」と耳をつんざく爆音が響き渡り、土煙と魔獣の残骸が空高く舞い上がる。偵察ドローンが上空から戦場全体を俯瞰し、魔獣の動きや海兵隊の展開状況をリアルタイムでルーカスに報告する。ルーカスは、その情報に基づいて的確な指示を出し、海兵隊の部隊はまるで一つの有機体のように連携していた。

 

ダリルが操る軽装甲高機動車から、自動擲弾砲が放たれ、アントロードの側面を崩す。そして、大型のアントロードが接近すると、対戦車ロケットランチャーLAT84が火を噴き、強固な甲殻を持つ魔獣すら一撃で粉砕していった。

 

海兵隊の圧倒的な火力と、統率の取れた戦術の前に、アントロードの群れは為す術もなく壊滅した。数百いた魔獣の群れは、短時間で掃討され、荒野には魔獣の残骸と土煙だけが残された。

 

「……掃討完了。残存個体はなし。捕獲可能な個体は、全て生きたまま確保せよ。ブートキャンプへ送る」

 

ルーカスの冷徹な命令が響く。それは、この戦いで得た魔獣の素材を余すことなく活用し、捕獲した生体を「資源」として利用するための、彼らしい合理的な判断だった。

 

この戦いは、海兵隊が単なる訓練集団ではないことを、領民だけでなく、侯爵領の重鎮たちにも知らしめる最初の「実戦」となった。彼らは、ルーカスが描く新時代の軍隊が、確実に、そして圧倒的な力で侯爵領に貢献し始めたことを、目の当たりにしたのだった。

 

 

 

 

海兵隊の献身的な活動と、その目に見える成果を目の当たりにした領民の中から、驚くほどの数の志願者が現れた。彼らは、旧来の貴族軍が何もしてくれなかった状況で、自分たちの生活を守り、未来を切り開いてくれる海兵隊に、深い希望を見出したのだ。

 

「どうか、私も海兵隊に入れてください!この村を救ってくれた皆さんのように、私も誰かの役に立ちたい!」

 

とある村で、家族を魔獣から守られたばかりの若者が、ルーカスに頭を下げた。ルーカスは、一人ひとりの志願者と向き合い、その覚悟と能力を冷静に見極めた。老若男女を問わず、様々な出自の者たちが、新たな道を求めてブートキャンプの門を叩いた。彼らは、単なる兵士ではなく、この侯爵領の未来を担う一員となることを願っていた。

 

この二年間の間に、海兵隊の隊員数は、初期の217名から、瞬く間に500名を超える大所帯へと成長を遂げていた。彼らは、ルーカスの理想とする「新時代の軍隊」として、領地の隅々にその足跡を刻み始めていた。

 

 

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