剣と魔術とライフルと   作:あききし

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第一話

第一話 現状確認とパラダイス

 

あれから更に数ヶ月

今や俺は文字を習得した。

毎日のように母クリスティアナが絵本を読み聞かせをしてくれたお陰だ。

文字がアルファベットのような物だったのも一因かもしれない。

 

そんなこんなで俺は書庫にいる。

この世界を知るために。

様々なジャンルから情報を抜き取り頭の中で整理して自分なりに咀嚼する。

 

この国は、寒暖の差が小さく夏は涼しく、冬は雨が多いらしい。

春から夏にかけては偏西風の影響で海洋性の湿気がもたらされ、気温は穏やかだが、秋になると空は澄み、日差しにはまだ力が残るが、夜には霧が立ちやすくなるという。

そのお陰で農作物も多く採れているみたいだし、酪農、牧畜も盛んで、海産物にも恵まれていると。

 

どうやら生まれた場所には恵まれたようだ。

何も無い砂漠の朝焼けを見て育つのはゴメンだからな。

 

食料自給率の高さは、国力の基礎パラメータが高いことを示唆している。つまり、ロジスティクスの基盤は強固だということだ。

これなら他国に攻め滅ばされる可能性も低いと考えられる。

そしてそれだけに軍事にも力は入れられるだろう。

 

前世からも戦争位しか取り柄がなかったんだ、今回もきっと同じ道を歩むだろう。

幸い我が家もそれなりに軍功を挙げて来たみたいだからな。

貧弱な軍隊で貧弱な装備を渡されるのは真っ平ゴメンだぜ。

 

我がトレンス侯爵家は広大な森林地帯に囲まれ小さな漁港と木材資源が主な収入源だ。

森にはちょくちょく魔物やらが現れるから領内を守るために精強な騎士団が編成されているらしい。

 

「とは言え憶測や推測が混じってる上に、この本の内容も何処まで正しいのやら……」

 

そう言い本をしまい、次の本を探す。

 

「魔法…ね」

 

これは正直興味がある。前世ではあり得ない存在だったからな。

何が出来て、何が出来ないのか。それを知るだけでも十分だ。

 

 

・・・・・・

・・・

 

まず魔法とは大別して3つある。

1つは魔法。

これはそのまま火やら水やらを体内の魔力を使って、現象を起こす。

杖を振って唱えてポン。一番想像しやすい。

それだけに脅威だ。テロには持ってこいだな。

 

2つ目は精霊術

自然に宿る精霊の力をかりて行使する。

種族や個人の資質に大きく影響するらしい。

馴染みが無いから、良く分からんが

 

 

3つ目は魔術。

魔力を触媒に込めて魔方陣を描いたり、組み合わせてあるもの―魔道具―を用いて、現象を起こしたりするもの。

理を理解し魔力を用いて、物を造り変えたりと錬金術というか、一部で科学的というか。

……興味深いな。上手くやれば……

そう思考を巡らしていると書庫のドアが開き人が入って来た。

 

「ルーカス様」

 

現れたのは鋭い目付きをしたメイド姿の少女シェーラだ。

 

「どうかしたか?シェーラ」

 

「はい。奥様がお探しです」

 

そう言って佇む姿は凛としていて、隙を見せず無表情だ。

 

「あぁ、分かった。今いくよ」

 

本を元に戻そうと立ち上がるが―

 

「……魔法に興味があるのですか?」

 

そう言われ手が止まる。

振り返りながら、少しの恥ずかしさと若干の期待を込め言う。

 

「まぁ……ね。強いて言うなら魔術の方だけど」

今はこんななりだが、中身はいい大人。前世でこんなこと言ったら、もれなく白いお部屋の病院だな。

 

「基本的な事でよろしければ、私がお教え致しましょうか?」

そう言って彼女はブラウンカラーの瞳を真っ直ぐに向けてくる。

 

「それは有難いが……良いのか?」

彼女には他にも仕事がある筈だ。俺に係りきりには出来まい。

 

「ええ、構いません。私は貴方様の側仕えですので、それも仕事のうちです」

俺の考えを見抜いたのか彼女はそう言った。

 

「そうか。なら、宜しく頼むよ」

 

「かしこまりました」

そう言うと彼女は深々と頭を下げた。

 

「では奥様がお待ちですので此方へ」

 

本をもとに戻し彼女について書庫を出た。

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

・・・

 

書庫から出て、クリスティアナの元へ向かう廊下。

足音1つ立てる事欠く歩くメイドのシェーナ。その後ろには彼女の主ルーカス付いてきている。

 

 

本当に不思議なお方だ。

私はそう思わずにはいられない。生まれてから2,3年間は普通の赤子だったと思う。それがここしばらくの間で、大きく成長したような気がする。

 

先程の魔法についてもそうだ。

普通は分りやすい魔法に興味をもつはずです。

魔術なんて小難しいものに興味を示すのは、学者か偏屈な者位なのに。

そもそもあの年頃であれば、魔法と魔術の違いなども理解出来る筈がありません。

 

会話の中にも瞳には明確な意思と知性が、そして此方を気遣う素振りも感じました。

まるで大人と会話しているみたいに。

私の勘違いかもしれない。けれど、普通の子供とは思えないのは確かです。他のご兄弟方を見れば尚更に。

いえあれらは最早、恥性を宿した野性動物です。比べる事すら烏滸がましい。

 

 

そんな事を、考えながら歩いていたシェーラは、やがて目的地に近づいたのに気が付いた。

 

 

「ルーカス様をお連れしました」

ノックをし一拍置いて中の人物にそう声を掛けた。

 

すると中から、パタパタと駆けてきて勢い良く扉が開かれた。

「ルーカス!」

そのままの勢いで彼女は、輝く絹糸のような髪を踊らせルーカスに抱きついた。

 

「おはようっ!ルーカス。起きたらいないから驚いたわ」

そのまま胸元に抱き上げられ、戸惑いと恥じらいの顔を向けるルーカス。

 

「……母さん。おはよう。その……下ろしてくれないかな」

顔を赤く染め、ふぃっと背ける素振りは先程は違い、年相応の子供にしか見えない。

 

(……やはり考え過ぎでしょうか?)

内心で首をかしげ、目の前の親子のスキンシップを尻目に、部屋に入りお茶の準備を進めていくシェーラ。

その間にも親子のじゃれ愛は続いていく。

 

「どうして?ママのことがキライなの?ママはこんなにもあなたを愛しているのに!」

悲しげな表情を造りながら、豊かな胸元に抱いた我が子を見つめる。

 

彼女の純粋すぎる愛情表現は、前世の記憶を持つ俺には眩しすぎる。

硝煙と血の臭いではなく、日向とミルクの匂い。

これが「平和」というやつか。

……悪くない。だが、この平和がただの幸運の上に成り立っているなら、脆いものだ。

 

「そうじゃないよ!。ただ……その恥ずかしいんだ」

あわてて否定しつつ、なんとか逃れようともがくが意味をなさなかった。

 

「まぁ!じゃあママのことすき?愛してる?」

途端に表情を一転させ花の咲いたような笑みを浮かべ顔を近づけた。

 

「……好きだよ」

もう勘弁してくれと言いたげな表情でそう告げるので精一杯のルーカス。

だがその返答は彼女にはお気に召さなかったようだ。

 

「愛してくれなきゃイヤ!ねぇ、ママを愛してる?」

そう言いながらも慈愛に満ちた表情で、より一層強く胸に抱き寄せた。

世の男性のパラダイスである。

 

「奥様。お茶のご用意が出来ました。此方へどうぞ」

そんなルーカスには救いの、クリスティアナにはお邪魔

虫な言葉が二人を止めた。

 

「シェーラっ。邪魔しないでちょうだい!これから私とルーカスは愛を語り合うのよ」

むぅ!と唸りながら可愛い睨み付けてくる。

 

「……そろそろ放して差し上げないと、ルーカス様が窒息なさいます」

ため息と共にそう指摘すると、彼女はあわてて息子を解放し、ルーカスは九死に一生を得たかのように大きく深呼吸した。

 

「あぁルーカス。ごめんね。苦しかった?」

悲しげに眉尻を下げそう問いかける。

 

「……大丈夫です」

顔を赤くするのは、恥じらいか息苦しさか。

そう返すのみだった。

安堵の表情を浮かべるクリスティアナが、再びじゃれつこうとするが、牽制するように素早くシェーラが割り込んだ。

 

「では、お席へどうぞ。本日はロマンドの新作が手に入りましたのでお楽しみ下さい」

一瞬不満げな表情を浮かべるが、我が子とのティータイムを優先させたのかしぶしぶ向かっていった。

 

「ハイハイ分かりましたよーぅ」

ぷぃと唇を尖らせつつも、目線はテーブルのお菓子に釘付けのようだ。

 

そんな後ろ姿をため息と共に見送り、着席をエスコートするべく素早く行動した。

 

「本日のお茶菓子は蜂蜜入りのしっとりとしたクッキーです。それに合わせて紅茶も少し酸味の有る、ローズヒップティーを用意致しました。お好みでミルクと砂糖をお入れください」

 

そう言い残し、彼女は後ろに下がる。

 

「ほらルーカス、あーんして?あーんよ。ロマンドのお菓子はとっても美味しいのよ。あなたもきっと気にいるわ」

抱き抱えた息子に手ずから、口元に運ぼうとするが、彼は口を開かない。

 

「……自分で食べられますので、放して下さい」

目を反らし僅かな反抗をするがそんな事で引き下がるほど柔な親バカではない。

 

「うふふ。照れているのね?大丈夫よママが食べさせてあげるから」

 

先程の続きと言うわけか、より一層激しくじゃれつき、終わる気配はない。

呆れを含んだため息と共にシェーラはこの状況を見守るのだった。

 

 

・・・

・・・・・・

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