剣と魔術とライフルと   作:あききし

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第五十五話 後編

 

第五十五話 後編

 

演奏後、俺は一度、会場の裏手にある簡易更衣室へと向かった。そこで、王都での滞在に向けて準備していた服装に着替える。

俺が選んだのは、この世界ではまだ見慣れない、漆黒のダブルのライダースジャケットに、濃いインディゴブルーのGパン。足元は重厚な編み上げブーツで固め、左の太腿にはタクティカルなレッグバッグを装着し、その中にはサバイバルナイフ、医療キットなどが収まっている。

更に、反対側の足には.45口径ピストルが、ジャケットの下、右脇の隠しホルスターに、緊急用のサイドアームがそれぞれ収め、メイン用の予備弾倉は左腰に、サイドアーム用は左脇にそれぞれ配置することで、服のラインを一切崩すことなく、完璧に隠蔽している。 これらの装備は、貴族の正装ではまずありえない代物だが、この服はそれを完全に隠し通す。

 

そして頭には、金色の刺繍で海兵隊のエンブレムが施されたベースボールキャップを深めに被る。この服装は、貴族の正装ではまずありえない代物だが、俺のスタイルを象徴する、機能性と実用性を追求した、まさに「俺の装備」だ。

 

 

「……Perfect」

 

俺は姿見の前で満足げに呟いた。エレノアは、俺の隣で静かに頭を下げる。

 

「ありがとうございます。ルーカス様の新しい『流行の最先端』としての側面を、王都に広める一助となれば幸いです」

 

従来の貴族服のような窮屈さはなく、動きやすさを重視した裁断だ。そして、

 

僅かな興奮の中、ミリアムがルーカスに近づき、静かに言った。

「ルーカス様、その新しい装いは、貴方様の目指される『機能と美の融合』を体現していますね。無駄を排し、本質を追求する。まさに、貴方様がこの領地にもたらされた秩序そのものかと。王都でも、その姿が多くの者の目を引くでしょう。そして、その視線の裏に潜む真意に気づく者は、まだ少ないでしょうが…」

 

俺はその言葉に、ニヤリと笑って返した。

「当然だ。俺は文化人だからな」

 

「貴方様は、この世界の安寧を築き上げる『覇王』となられるお方。私は、これからも貴方様の道を、剣と魔力、そしてこの頂いた装甲強化服で護り抜く所存です」

 

彼女の言葉に、俺は軽く眉をひそめた。

「……覇王、か。俺はそんな大層なものを目指してはいない。ただ、この地を、そしてこの地に集まった者たちを護るため、最善を尽くしているだけだ」

 

俺はミリアムの目を見つめ、静かに続けた。

「それに、王都で俺が為すのは、彼らの既成概念を打ち壊し、この地が持つ『未来』の可能性を突きつけること。それは『覇道』ではない。『正義』を掴むための、戦略的な戦いだ。お前には、その戦いを支える『牙』であってほしい」

 

ミリアムは一瞬、言葉を失った。やがて、その瞳に揺るぎない光を宿し、深く頭を下げた。

「……はい、ルーカス様。私は貴方様の『牙』として、この命を懸けて、その道をお護りいたします」

 

俺の王都での目的は、王都の貴族たちに皮肉を浴びせ、彼らの既成概念を打ち破ることにある。この「機能性と美学の融合」と称したスタイルは、彼らが安全な王都で退屈している間に、俺が構築してきた「現実」の象徴でもある。

 

俺はミリアムの肩にそっと手を置いた。

「感謝する。お前がここに残ることは、俺の王都での戦いを支える、最も重要な布陣だ」

 

彼女の顔が、少しだけ驚きに染まる。

 

「お前は、この領地における俺の『秩序』そのものだ。俺が不在の間、ダリルやバルバトスが暴走しないよう、その鋭い眼で、この場所を護り通してくれ。そして、いざという時には、この『要塞』を守る最後の砦となれ」

 

俺はそう言って、再びニヤリと笑った。

「戦いは、王都だけで起こるわけじゃない。お前がここにいることで、俺は安心して王都の馬鹿どもと遊んでこれる。頼んだぞ、ミリアム」

 

ミリアムは小さく震え、そして力強く頷いた。

「この地に、ルーカス様が築かれた秩序を乱す者、何人たりとも通しません。この装甲強化服をまとい、奥様をお護りし、この『要塞』を護り通します」

 

彼女の言葉には、護衛騎士としての誇りだけでなく、この地とルーカスに対する揺るぎない決意が満ちていた。

「(……私は、ルーカス様の『牙』。王都には行けなくとも、この地で、この命を賭けて貴方の背中を護ります)」

 

 

 

会場に戻ると、兵士たちは俺の新しい装いに気づき、ざわめいた。特に女性兵士たちは、その斬新なデザインに興味津々だ。

 

「これまでの貴族服は、不便で、無駄が多すぎる。これからは、機能と美しさを兼ね備えた時代だ。お前らも真似したければ、あっちのブースに行ってみろ。ただし、俺と同じものを作らせるには、それなりの技術と、金と、そして才能が必要だがな」

 

俺はそう言い放ち、貴族たちの伝統を嘲笑うかのように振る舞った。このスタイルを王都で流行らせれば、貴族たちの目を欺き、俺の基幹技術の隠蔽と混乱を誘うことができるだろう。特に、流行に敏感な女性貴族たちに浸透させれば、男性貴族たちの意識を「ファッション」という表面的なものに逸らすことが容易になる。

 

「おい、あれを見ろ! 若様の服、まるで戦場を生き抜くための鎧みたいじゃないか!」

一人の兵士が興奮した声で叫んだ。

 

「ああ。普通の貴族服じゃ、動きが取れないからな。あの服なら、訓練で泥まみれになってもへっちゃらそうだ」

別の兵士が、その実用性に着目して頷く。

 

「すごい! これを着れば、私たちも若様のような『文化人』になれるのかしら?」

女性兵士の一人が目を輝かせ、隣の友人とひそひそ話していた。

 

「たしかに、これまでこんな服、見たことがない。でも、俺たちの仕事にはこっちの方が絶対いい」

兵士たちは、単なるファッションとしてだけでなく、自分たちの厳しい日常に直結する「実用性」という視点から、その価値を即座に見抜いていた。彼らの反応は、ルーカスが意図した「機能と美の融合」が、貴族ではない、現場の人間たちにこそ響くものであることを証明していた。

 

その傍らで、エレノアの指示を受けた商会のお頭たちが、簡易的な販売ブースを設営していた。そこには、俺が今着ているライダースジャケットやGパンの試作品達が数点、驚くほど手頃な価格で並べられている。

 

「若様の新しい装いは、王都の流行を先取りする逸品でございます! 今後、王都の商会で売り出す予定ですが、本日は特別に、ここ侯爵領の皆様に先行販売させていただきます!」

 

商会のお頭の一人が、わざとらしいほどの大声で触れ回る。兵士や領民たちは、最初は戸惑っていたが、俺が「お前たちも新しい時代の『文化人』になれ」と声をかけると、興味津々に群がり始めた。特に女性兵士たちは、その動きやすさと斬新なデザインに歓声を上げ、試着を始める者もいた。

商人たちは、この機会を逃すまいと、必死に売り込みをかける。彼らは、俺の服装が持つ「機能性」を前面に出しつつも、それが王都で流行すれば、この領地の製品として大きな利益を生むであろうことを、その目に隠し持っていた。彼らにとって、これは単なる試作品の販売ではない。王都での新たな商機を見極める、重要な市場調査でもあったのだ。俺は、その様子を冷めた目で眺めていた。彼らの金の亡者ぶりは健在だが、それが結果として領地の発展に繋がるなら、利用しない手はない。

クライスの渾身の一作と新たな武具

 

 

 

 

俺が着替えて戻ると、会場では俺が密かに持ち込んだ「カラオケ」の機械が紹介される。兵士たちは最初は戸惑ったが、ギルバードやダリルが率先して歌い始めると、たちまち熱狂の渦に。普段は厳しい訓練に身を置く彼らが、童謡から行進歌、はたまた即興の替え歌まで、思い思いに歌い上げ、訓練所はまるで熱狂的な酒場と化した。

 

 

そんな賑やかな中、クライスが俺の傍らにやってきた。その手には、精巧な作りの箱が抱えられている。

 

「ルーカス、王都へ行く前に渡したい物があるんだ。んーと、よいしょ、と」

 

クライスは照れたように笑い、箱を開けた。中には、深みのある紺色の生地で仕立てられた、一見するとごく普通の外套に見えるものが収められていた。しかし、その内側には、緻密な魔術回路が編み込まれているのが僅かに見て取れる。

 

「これは、僕が開発した魔術的に装甲強化服を模倣した外套だよ。肌に触れる裏地には緻密な魔術回路が編み込まれていてね、外部からの衝撃を吸収し、着用者の身体能力を秘かに強化するんだ。パワーアシストは限定的だけど、ギルバードさんの装甲強化服と同等の防御性を持たせてあるのさ!」

 

クライスは目を輝かせながら説明を続ける。

 

「この外套の見た目は通常の服と変わりは無い筈だよ。王都では何があるか、分からないし、ルーカスはきっと無茶をするんだろう?少しでも身を守れる手段は持っておいたほうがいい。現地での調整や改良も任せてくれ」

 

クライスの言葉に、俺は頷いた。

「ああ、悪いな。ありがとう、クライス。王都でも、お前には色々と頼むことになるだろう」

俺がそう言うと、クライスは嬉しそうに頷いた。

 

 

続いて、ドヴェルク族の代表が、重厚な木箱を運び込んできた。

 

「ルーカス若様、貴方が我らに新たな道を提示してくださったことへの感謝の証しでございます!」

 

木箱の中からは、斬撃武器と射撃武器が融合した、奇妙な形状のブレードが現れた。それは、リボルバーのシリンダーが付いた片刃のブレードだった。

 

「これは、『リボルバーブレード』! 魔術的に撃発し、斬撃を強化することも、魔力弾を放つこともできます。自身の魔力を使わず、六回まで魔法行使が可能。我らの最高の鍛冶技術と、ルーカス若様の英知の融合でございます!」

 

ドヴェルク族の誇りが込められた、まさしく傑作だ。この刃を振るえば敵を切り裂き、シリンダーを回転させれば魔力弾が放たれるって事か。剣はあまり趣味では無いが、超至近距離での連続攻撃を可能にするってのは、新しい戦術を幾つも想起させられる。

 

「随分と面白いものを考えたな。感謝する」

 

次にホビット族の代表からは、小さな包みが渡された。

 

「若様! 我らの細工師たちが、若様の王都でのご活躍を願い、これを!」

 

中から現れたのは、手首裏側にブレードが仕込まれた篭手と、手の甲側には小型のシリンダーが見える超至近距離用散弾銃が二発分仕込まれた、精緻な篭手だった。

 

「隠密性と瞬発性に特化させました。いざという時の、最後の切り札にでもなれば幸いです!」

 

彼らの手先の器用さを示す、恐ろしいほどに実用的な武器だ。NINJAみたいで悪くない。

 

「Hehe.暗殺しに行くわけじゃないんだかな。有難く頂こうか」

 

 

 

そして、夜空を彩る「花火」。色とりどりの光が夜空に打ち上がり、轟音と共に瞬く間に消えていく。その光景は、兵士たちの心に一時の安らぎと、未来への希望を灯した。花火は、ルーカスがこの領地にもたらした技術革新の象徴でもあった。

 

俺はグラスを片手に、この賑やかな光景を静かに見渡した。俺は確かに、少数で小さく済ませるつもりだった。だが、エレノアが秘密裏に進めた大規模な計画と、俺の周りに集った者たちの熱意が、俺の思惑を超えてこの宴を作り上げていた。

彼女はしてやったりとした顔で、こちらを見て微笑んでいた。

 

「……まったく、派手な真似をしやがって」

 

俺は呟いた。その声には、いつもの皮肉が混じっていたが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。俺が王都へと持ち込むのは、単なる兵器や知識だけではない。この場所で培われた、俺を信じ、共に歩む者たちの「意志」なのだ。そして、その意志こそが、俺の「動く要塞」の真の動力源となるだろう。

 

 

 

宴の終盤、ギルバードが俺の元にやってきた。その顔は真剣だ。

 

「ルーカス様、王都へ向かわれる前に、今一度、手合わせ願えませんか?」

 

彼の目は、護衛騎士としての揺るぎない決意に満ちていた。

 

「Alright.剣術のみだ。ただし、治療費は自腹だぞ。お前も装甲強化服を着用しているんだ、手加減は無用だ」

 

俺は頷いた。場所は、宴の中心から少し離れた、開けた場所が選ばれた。兵士たちが周囲を取り囲み、息を呑んで見守る。

ギルバードは、大柄な体躯を活かした重厚な剣技で攻め立ててくる。その一撃一撃には、装甲強化服によるパワーアシストと、彼自身の身体強化が加わり、凄まじい威力を秘めている。俺は、前世で培った体術と、この世界の剣術、そして先程受け取ったドヴェルグ族のブレードを使い、独自のスタイルで対応する。ギルバードの剣は、まるで巨岩のようだ。しかし、俺は彼の動きを予測し、紙一重でいなし、かわす。

 

斬り込み、受け流し、隙を突く。俺の圧縮された体感時間による判断力と、体中の魔力を制御した精密な動きが、彼の剣を翻弄する。しかし、ギルバードは決して諦めない。彼の剣には、ルーカスを守るという「誓い」と、騎士としての意地が乗っている。彼は、俺の意表を突くような動きにも食らいつき、最後の一瞬、わずかな隙を突いて、俺の剣を弾いた。キン、と乾いた音が響き渡り、俺の剣が宙を舞う。

 

「……勝負あり。護衛として、まだまだ負けられませんな、ルーカス様」

 

ギルバードは息を切らしながらも、力強く言った。彼の表情は、達成感と、護衛としての責任感に満ちていた。

 

「……チッ。精進する」

 

俺は舌打ちしたが、その表情には、どこか満足げなものがあった。

 

 

ルーカスがギルバードとの手合わせを終え、汗を拭っているところに、シェーラが静かに近づき、グラスに琥珀色の酒を注ぐ

 

「ルーカス様、お疲れ様でございます。長旅の前に、ほんの少しばかりですが、身を労わってくださいませ」

 

ルーカスがグラスを受け取ろうとすると、シェーラの指先がかすかに触れ、微かな魔力の流れを感じた。それは、疲れを癒し、集中力を高めるための、彼女なりの気遣いだろう。

 

「王都でのご活躍、心よりお祈り申し上げます。そして、奥様共々、ルーカス様のご無事なご帰還を、ここトレンス領にてお待ちしております」

彼女は何時ものように、優しく微笑んでいた。

俺は無言でグラスを傾けた。この杯に込められた願いを、決して無駄にはしない。王都で何が待ち受けようと、俺は必ず、この場所へ、そして俺を信じる者たちの元へ、勝利を携えて帰還する。

 

 

彼の瞳は、王都へ向かうことへの決意を湛えている。

そこに、手にしたジョッキを掲げたバルバトスが、ニヤリと笑いながら近づいてきた。

 

「よう、坊主。なかなかいいツラしてるじゃねえか。ギルバードとの手合わせ、楽しかったか?」

「ああ。悪くなかったな」

 

ルーカスの素っ気ない返答にも、バルバトスは気にする様子もなく、ジョッキを一口煽る。

 

「だが、残念ながら剣術は趣味じゃねえ。俺が興味があるのは、もっと泥臭くて、力尽くな戦場だけだ」

 

バルバトスはそう言って、片腕を吊ったギルバードの装甲強化服を一瞥した。

 

「あいつの鎧は確かにイカつい。だが、俺たちの戦車は、もっと無骨で、もっと泥にまみれてる。そして俺は、その泥の中で、あんたの言う『資源』として、『正義』を掴み取るために戦う」

 

彼の口から「正義」という言葉が出たことに、ルーカスはわずかに眉を上げた。

 

「へっ、驚いたか? 俺が興味があるのは『正義』じゃねえ。ただ、あんたが言うことが正しいかどうか、俺自身で確かめてみたいんだ。王都の連中が、俺みたいな元盗賊をどう見るのか。ついでにあんたが本当に、この泥沼の戦いで『正義』とやらを掴めるのかをな。その為なら、あんたの言う『泥』なんざ幾らでも被ってやる

…、まあ、正義がどうなろうと俺には関係ねぇがな。あんたが面白えことしてくれるなら、それで十分だ」

 

バルバトスはジョッキを高く掲げ、ルーカスの瞳をまっすぐに見つめた。

 

「坊主。俺はあんたの命令に従う。あんたの言う通り、牙を研ぎ、次なる戦いに備える。だが、俺は誰の犬でもねぇ。この命を懸けた大博打、とことん楽しませてもらうぜ。だから、王都で何かあったら、空からでも戦車を降ろしてやる。その時まで、せいぜい生きて、俺を楽しませてくれ」

 

バルバトスの言葉は、決して忠誠を誓うものではなかった。それは、ルーカスが示した未来の戦場という「遊び場」で、自らの野心をどこまで高められるかという、彼なりの宣戦布告だった。

ルーカスは、その獰猛な挑戦状を静かに受け止めた。彼は、バルバトスのジョッキにグラスを軽く合わせると、口元に微かな笑みを浮かべて答えた。

 

「ああ、せいぜい楽しみにしていろ。その時までにダリルに空挺用の輸送機でも用意してやる。だが、俺の期待を裏切るような真似はするな。お前のような『資源』は、そう簡単に手に入らないからな」

 

その言葉は、彼らの間に、単なる主従関係ではない、互いの能力と野心を認め合う、奇妙な信頼関係が生まれたことを物語っていた。

 

 

宴も終盤になり、バルバトスからの挑戦とも激昂とも言えない会話の後、グラスを置き、俺は簡易ステージの中央に進み出た。会場の喧騒が、ゆっくりと静まり返っていく。集まった兵士たちの顔、領民の顔、そして家族や友の顔が、期待と少しの不安を滲ませて、俺を見上げていた。俺は、彼らの視線を受け止め、ゆっくりと口を開いた。

 

「皆、よく聞け。今夜は、王都へ発つ俺のささやかな送別会、そして、お前たちの日頃の労をねぎらう宴だ。この侯爵領に来てから、お前たちと共に泥水をすすり、汗を流し、血を流した日々を、俺は忘れない。この領地が、ここまで変われたのは、他でもない、お前たち一人一人の努力と、信じる心がもたらした結果だ」

 

俺は壇上から、集まった全員を見渡す。その視線は、一人ひとりの心に届くように、力強く、そして穏やかだった。

「俺はこれから、一時的に王都へ向かう。表向きは王立総合学園で学ぶためだが、真の目的は、この侯爵領をさらに発展させるための知見を得るためだ。旧態依然とした貴族どもが支配する王都で、この俺のやり方がどれだけ通用するか、試してくるつもりだ」

 

兵士たちの顔に、決意の色が浮かび上がる。領民たちは、固唾を飲んで俺の言葉に耳を傾けていた。

「だが、安心してくれ。俺は必ず、ここへ帰ってくる。そしてその時には、王都で得た全てを持ち帰り、この侯爵領をさらに高みへと引き上げる。お前たちがこの地で己の道を磨き続ける限り、俺が王都で何をしようとも、ここには俺が築いた『秩序』が揺らぐことはない」

 

「いかなる困難が襲いかかろうとも、恐れるな。怯むな。俺たちが目指すのは、ただ生き残るだけではない。この世界の誰もが、安心して暮らせる『楽園』を創り出すことだ。その大きな流れの始まりを、お前たちは今、この場所で作り上げている。それが、俺たちの『戦争』の、序章に過ぎない」

俺は、一呼吸置き、彼らの心に深く刻み込むように、最後の言葉を放った。

 

「故に、今日だけは、存分に飲み、食い、騒げ。そして、明日からは再び、牙を研げ。俺たちが再びこの場所で会う時、王都の景色は一変しているだろう。そして、この侯爵領は、世界の模範となっているはずだ。いいか、お前たちは、その礎となるのだ。……この俺を信じ、ついてこい。お前たちには、それだけの価値がある

……まぁ、王都にいるお上品な連中には、理解できんだろうがな」

 

俺の言葉が、夜空に力強く響き渡った。その瞬間、兵士たちは雄叫びを上げ、領民たちは熱狂的な拍手を送った。王都での「戦争」は、既に始まっている。そして、この場所こそが、その戦いを支える俺の「動く要塞」なのだ。

 

 

 

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