剣と魔術とライフルと   作:あききし

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第五十七話

 

第五十七話:王都への最終盤

 

 

 

母との穏やかな一日を終え、王都への出立を二日後に控えたトレンス侯爵邸は、それまでの喧騒が嘘のように、静かで張り詰めた空気に包まれていた。俺は執務室で最終的な書類に目を通していた。

 

その扉がノックされ、エレノアが静かに入室した。その手には、王都での行動計画が記された分厚い資料が抱えられている。

 

「ルーカス様、王都での最終的な作戦概要の確認と、幾つかの懸念事項のご報告に参りました」

 

彼女の言葉はいつも通り冷静だが、その瞳の奥には、これから始まるであろう激動への確固たる覚悟が宿っている。

 

「入れ。まさか、今になって粗相があるなんて言い出すんじゃないだろうな?」

 

俺が軽く皮肉を飛ばすと、エレノアは涼しい顔で首を横に振った。

「ご安心ください。全て滞りなく進行しております。『月下の雫』下賜を目的とした『王国の揺籃(ゆりかご)作戦』は、現時点では順調に進行中であり、フェーズ1である経済的圧迫と世論操作は、計画を上回る成果を出しております。特に、この二ヶ月の間で、レガリア関連の貿易収益が約15%減少し、特定の有力商会は既に経営破綻寸前まで追い込まれています。また、彼らの抱える複数の投資案件が突如として暗礁に乗り上げ、王都の経済界に不穏な空気を流し込んでいます。同時に、王都の巷では王室の奢侈や、レガリア王家の一部貴族による私腹を肥やす行いに関する『民衆歌』が急速に広まり、王室への不満がかつてないほど高まっています。この『歌』は、貴族社会には無関係な『普通の市民』の間で自然発生したかのように見せかけていますが、全ては我々が流した情報が基になっております」

 

エレノアは淀みなく説明を始めた。彼女の用意周到さは、いつも俺の想像をわずかに超えてくる。王都での政治的駆け引き、情報戦、そしていざという時のための隠密行動の計画まで、その全てが緻密に練られていた。

 

 

「『王国の揺籃作戦』のフェーズ2は、ルーカス様の王都滞在中に進行する予定です。具体的には、対象国である隣国レガリアの貴族と民衆の間での不満をさらに拡大させ、一部勢力への間接的な支援を通じて、対外的な紛争への動きを加速させます。同時に、王都の主要商会との取引を拡大し、侯爵領の技術を段階的に市場に投入することで、経済的な支配力を確立します。そして、その成功を鑑み、王都においても、貴族社会の閉塞感と民衆の鬱積した不満を利用した新たな『心理的・文化的浸透戦略』の構想を練っております。これは、貴族の子女や夫人層向けに、既存の被服とは一線を画すストリートファッションや機能美を導入することで、ルーカス様への対立を柔らかに逸らし、一方で民衆へはロック等の新しい音楽を徐々に浸透させることで、王都の経済基盤を揺るがし、最終的には我々の主導権を確立する算段です。ルーカス様のご不在の間も、全ての計画は滞りなく進行するよう、万全を期します」

エレノアは一呼吸置くと、真剣な眼差しで俺を見つめた。

 

「…そして、これら全ての計画において、ルーカス様の安全確保が最優先事項となります」

 

エレノアがそう締めくくると、俺は深く頷いた。

 

「当然だ。最も危険なのは俺の『死』ではなく、『拘束』だ。俺の知識が王都の腐った連中に渡るなど、悪夢でしかない。お前たちの忠誠は疑わないが、それでも、何か予期せぬ事態が起きた場合に、お前はどう動く?」

 

「理解しております。そのための最終手段として、私と幾人かの精鋭が、万が一の際にはルーカス様の確保と、最悪の場合の『情報隠蔽』を担当いたします。もちろん、そのような事態は回避いたしますが、万一、貴方様の身に危険が及び、我々が物理的に保護できないと判断した場合は、速やかに『虚無の儀式』を発動させ、貴方様の脳内の情報を完全に消去いたします。これには貴方様の同意が必要となりますが、事前にその許可をいただいておくことは可能でしょうか?」

 

エレノアの言葉は冷徹だが、その瞳には確かな忠誠と、任務への責任感が宿っていた。

「Hmph.『虚無の儀式』か。そこまで考えていたとはな。いいだろう、万が一の際にはお前に一任する。ただし、その判断は慎重に行え。無駄なリスクは冒すな。王都は、トレンス領とは格が違う。貴族どもの思惑、権力闘争、そして水面下の動き、全てを読み切れ。お前ならできるはずだ」

 

俺がそう言うと、エレノアは静かに一礼した。

「かしこまりました。ルーカス様の期待に応え、必ずや万全の態勢を整えてご覧にいれます」

 

彼女の言葉には、揺るぎない自信が満ちていた。

 

 

「よろしい。それでは、次の報告へ移ろうか」

 

俺が命じると、エレノアは執務室の奥にある通信機に指示を出した。数分後、扉がノックされ、アルバードとエドモンドが入室する。彼らは磨き上げたブーツを履き、シワひとつない制服に身を包み、その眼差しには明確な光が宿っていた。

 

「ルーカス様、お呼びでしょうか」

 

アルバードが深々と頭を下げた。エドモンドもそれに倣う。かつての傲慢さは消え失せ、規律と責任感がその態度に表れていた。

 

「うむ。お前たちには、ポートリオンの設備拡張計画の進捗、そして各種艦艇の運用状況について報告してもらう。エレノアも同席し、補足してやれ」

 

俺が促すと、アルバードが前に進み出た。

 

「はっ。港湾都市ポートリオンの設備拡張計画につきまして、ご報告申し上げます。旧来の港湾施設は、老朽化と非効率な構造により、侯爵領の貿易拡大に足かせとなっておりましたが、この数ヶ月間で、ルーカス様より賜りました設計図と、最適化された工法を用いることで、飛躍的な進捗を遂げております」

 

アルバードは、手に持った資料を広げながら淀みなく説明を始めた。その声には、かつての不貞腐れた響きはなく、明確な自信が宿っていた。

 

「まず、港湾の浚渫作業が完了し、喫水の深い大型船の入港が可能となりました。これにより、従来の約1.5倍の積載量を持つ船舶が同時に5隻まで接岸できるようになります。また、高効率クレーンを新たに10基設置し、荷役作業の時間を従来の半分以下に短縮。これにより、船舶の滞留時間が大幅に削減され、年間貨物取扱量が20%増加する見込みです。さらに、港湾倉庫群には自動搬送システムと、魔力による温度・湿度管理システムを導入し、物資の保管効率と品質保持能力が飛躍的に向上いたしました」

 

ここでエレノアが静かに補足を入れる。

 

「アルバード殿の報告の通り、ポートリオンのインフラ整備は順調です。特に、新型魔導具による温度・湿度管理システムは、食料品や精密機器の輸送・保管において、画期的な効果を発揮しております。これにより、これまで輸送が困難であった高級食材や、繊細な魔道具の流通も可能となり、侯爵領の貿易品目の多様化と収益増に貢献しています。また、ドヴェルク族の協力を得て、新型クレーンの稼働率は98%を維持しており、人手不足の解消にも繋がっております」

 

続いて、エドモンドがやや緊張した面持ちで言葉を継いだ。

 

「次に、各種艦艇の運用状況についてご報告申し上げます。現在、河川高速艇、ミサイル艇、そして哨戒艦の初期運用部隊は、それぞれ実戦訓練を重ねております。ミサイル艇は時速40ノットでの高速航行、および改良型魔力誘導ミサイルの精密照準能力を実証済みです。河川においては、侯爵領とレガリアの国境を流れる大河アリアス川流域での訓練を重点的に実施しており、密輸船の拿捕、不審船への警告射撃といった任務を滞りなく遂行しております」

 

エドモンドは一旦区切り、さらに続けた。

 

「哨戒艦部隊は、ポートリオン沖合の沿岸警備と、広域での偵察任務に当たっております。半径120マイル圏内の海域における魔力探知システムおよび長距離通信能力において、既存の王国海軍艦艇を圧倒します。訓練では、仮想敵船の追跡、不審な魔力反応の特定、そして味方部隊への情報共有を迅速に行う能力が確認されており、現時点における侯爵領の沿岸防衛において、最も効果的な抑止力として機能します」

 

エレノアが再び補足を加える。

「エドモンド殿の報告の通り、これら初期運用部隊は、想定を上回る練度と運用能力を示しております。特に、魔力探知システムは、霧や夜間といった悪天候下でも高い精度を誇り、従来の目視や音響による偵察に依存する王国海軍に対し、圧倒的な優位性をもたらしております。これにより、侯爵領の海上防衛は、以前とは比較にならないほど強固なものとなりました」

 

二人の報告に、俺は満足げに頷いた。彼らの言葉には、かつてのような表面的な報告ではなく、自らが関わり、理解し、その成果に誇りを感じているような響きがあった。

 

「ご苦労だった。貴様らの報告も随分と様になって来たじゃないか? ようやく鼻たれ小僧は卒業か?」

俺はニヤリと笑ってそう告げた。

 

その言葉に、アルバードとエドモンドは一瞬言葉を詰まらせた。かつてであれば、間違いなく反発していたであろう。しかし、泥のような日々を経験し、自分たちの無力さを嫌というほど思い知らされた今、彼らの口から出たのは、絞り出すような感謝の言葉だった。

 

「……は、はい!ルーカス様のお陰でございます!」

 

アルバードが顔を赤らめながらも、必死にそう答えた。エドモンドも無言で深く頷き、その瞳の奥には、変わろうとする強い意志が宿っていた。

エレノアは、そのやり取りを静かに微笑んで見つめていた。彼女の表情には、二人の成長を認めるかのような、かすかな満足の色が浮かんでいる。

アルバードとエドモンドは深々と頭を下げると、静かに執務室を後にした。

 

 

執務室に静寂が訪れ、俺は一人、静かに宙を見つめていた。

 

そこへ再びノックの音が響き渡る。王都への護衛として先行して出発していたベリルとアレックスが、先行部隊と共にトレンス領へと帰還した。彼らは王都周辺の地理、情報網、そして潜在的な脅威について、詳細な報告を持ってきていた。

 

「閣下、王都の貴族たちは、表面上は穏やかですが、その内側では泥沼の権力争いが繰り広げられております。特に警戒すべきは、第2王子レオナルド殿下と彼を支持するアークランド公爵家の派閥の動向です。殿下は自身の才覚に絶大な自信を持ち、王都の貴族間の対立を優位に進め、王位継承を着実に画策しておられます。故に、この国の統治が揺らぐとは考えておられません。しかし、その足元には金で容易に動く貴族や、僅かな揺さぶりで派閥を変えかねない者たちが蠢いております。特に、侯爵領の高品質な織物や加工食品の大量生産によって打撃を受けた旧来の商家や、それに連なる貴族は、不満を募らせており、我々の支援を取り付ける余地が十分にございます」

 

ベリルは淀みなく報告を続けた。彼の鋭い直感は、王都の淀んだ空気を明確に捉えていた。

 

「また、王都の裏社会における各派閥、特に違法な魔獣素材の密売や、禁制品の流通で利益を得ている勢力は、彼らの縄張り意識が強く、介入には慎重を要します。しかし、彼らの活動を監視することで、王都の政治的な圧力とは異なる、新たな情報源となり得ます。現在、各勢力の構成員、主な活動拠点、そして彼らの資金源に関する詳細な調査を進めており、閣下が王都入りされた後、いかに彼らを利用し、支配下に置くかの『介入計画』も並行して策定中でございます」

 

そして、ベリルは一瞬の間を置いた後、顔色一つ変えずに続けた。

 

「加えて、王太子エドワード殿下の動向につきましても、ご報告がございます。殿下は、レオナルド殿下とは対照的に、ハートフィリア公爵家が派閥の中心となっております。しかし、最近の殿下は、深夜に城を抜け出し、王都の酒場街や裏路地の賭博場に頻繁に出没されております。常に下級貴族の子弟や、不良グループのような者たちを伴っており、酒と女に溺れ、時には喧嘩騒ぎを起こす姿も確認されております。ハートフィリア公爵家は、殿下のこうした放蕩に呆れ果てている様子ですが、王太子としての地位を揺るがすほどの動きはまだ見せておりません。殿下は、現状では単なる放蕩王子に過ぎませんが、その行動パターンは、我々の王都における『文化戦略』に利用できる可能性を秘めております。殿下への接触方法、および情報操作による誘導計画も、現在策定中でございます」

 

(そういえば、あの時のお嬢ちゃんも、ハートフィリアだったな……まさか、ここにも繋がるとは、おあつらえ向きだ)

 

ルーカスは、ベリルの報告を聞き終えると、口元に薄い笑みを浮かべた。それは、侮蔑と皮肉が入り混じった、冷ややかな笑みだった。

 

「まさしくその通りだな。レオナルド王子は、随分とおめでたい頭をしているらしい。己の才覚が絶対だと信じ込み、その愚かしい自信で、この国の根幹がとっくに腐りかけていることに気づきもしない。まったく、見下げ果てたものだ。とわいえ、駒として使うなら、愚かな方が使いやすいか」

 

ルーカスは椅子の肘掛けに指先をトントンと打ち付けた。

 

「そして、エドワード王子か。王太子ともあろう者が、夜な夜な路地裏で不良と戯れているとは、実に馬鹿らしい。だが、そのくだらない放蕩が、我々の計画の最高の隠れ蓑になる。金で動く貴族、不満を抱える商家、裏社会の連中…どれもこれも、俺の手で握り潰すか、あるいは利用するための駒に過ぎない。王都の奴らは、己の首を締め上げられていることに気づきもしないだろうな」

彼は忌々しげに吐き捨てるように言った。

 

ベリルの報告は、俺がAlphaから得ていた情報とほとんど差異はなかったが、生の現場感覚が加わることで、より鮮明なものとなった。

続いて、アレックスが前に進み出た。

 

「閣下、王都別邸の防衛体制につきまして、ご報告させていただきます。キース侯爵時代に施されていた警備は、確かに甘く、侵入経路となり得る場所がいくつも見受けられましたが、この二ヶ月間で、私の部隊とグラント大尉のシャドウ・ランスが連携し、完璧な防衛ラインを構築いたしました。外からは通常の貴族邸と変わらぬように見えますが、敷地の周囲には魔力探知式の自動防壁を複数起動できるようマーカーを設置し、物理的な防衛線と連携させております。門衛は二重に配置し、壁の死角には狙撃手と魔力探知要員を常時配置。庭の巡回ルートも変更し、地下への侵入経路も徹底的に塞ぎました」

 

アレックスは胸を張って続けた。

「さらに、王都での長期滞在と、閣下の活動の秘匿を考慮し、別邸の地下には、偽装された地下駐車場を建設し、新型輸送車両を複数格納できるようにしました。その奥には、外部からは感知不能な魔力遮断結界に守られた執務室と研究室を新設しております。非常時には、この地下施設が閣下様の活動拠点となり、外部からの干渉を完全に遮断できます。視覚的な欺瞞としては、邸宅の各所に、装飾用の結界石に見せかけた魔力妨害装置を設置し、魔力探知型の偵察魔導具を無効化するだけでなく、特定周波数の魔術発動を一時的に阻害することも可能です。これにより、別邸は外部から見た姿と、内部の真の機能が全く異なる、『隠された要塞』と化しました。閣下が安全かつ秘密裏に活動できる環境は、万全に整っております」

 

「ご苦労だった。お前たちの報告、しかと受け取った」

 

俺は彼らにそう告げた。彼らの表情には、疲労の色は見て取れたが、それ以上に、ルーカスのための任務を全うしたという誇りが宿っていた。

その時、ベリルがゴホンと一つ咳払いをした。彼の耳は普段よりもわずかに垂れ、視線は手元を彷徨っている。

 

「どうした?まだ何か懸念でもあるのか?」

 

「……その、閣下。先日、送別会への参加が叶いませんでしたので……」

 

ベリルは言い淀むように、懐から小さな革製の袋を取り出した。

アレックスがニヤニヤと笑いながら、ベリルの背中を小突く。

 

「おいおいベリル、何をモジモジしてるんだ? 珍しいじゃないか。とっておきの『お守り』なんだろ? 早く渡しちまえよ」

 

アレックスの言葉に、ベリルの顔がわずかに赤らむ。彼は目を伏せ、しぶしぶといった様子で革袋をルーカスに差し出した。

 

「これは……我々ビーストの部族に伝わる、『護りの刻印』が施されたお守りでございます。私の魔力と、少しばかりの……毛の一部を織り交ぜてあります。持つ者の身を守り、特に他のビースト種からの不要な敵意や縄張り意識を和らげる効果がございます。また、同族からの牽制にも有効かと……。どうか、ご無理なさらず、お受け取りください」

 

ベリルは最後の方を早口でまくし立てた。普段の彼からは想像できないほどの動揺ぶりだ。

ルーカスは革袋を受け取り、中を覗き込む。そこには、小さな木片に複雑な模様が刻まれ、その周りに細く編み込まれた毛糸のようなものが巻き付けられていた。微かにベリル特有の、土と木の香りがする。

 

「ほう。これはまた……俺にその気はないぞ?」

 

ルーカスは軽く笑いながら、冗談めかして言った。その言葉に、ベリルはがばっと顔を上げ、焦ったように声を荒げた。

 

「な、何を仰せですか、閣下!そのような意味では断じてございません!これはあくまで、部族の伝統として……!任務の安全を祈る、ただの護身用でございます!」

 

「分かってる、分かってるよ。冗談だ。ありがとう、ベリル。わざわざ作ってくれたんだな。大切に使わせてもらうよ」

 

ルーカスは、ベリルの珍しい取り乱しぶりに少し呆れつつも、その心遣いを素直に受け取った。彼の表情には、先ほどの皮肉めいた笑みとは違う、わずかな温かさが浮かんでいた。

 

「まったく、ベリルも変わったな。俺たちのボスも、随分と人望があるもんだ」

 

アレックスが楽しそうに言うと、ベリルは「う、うるさい!」と、さらに顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「さぁ、お前らも早く休め。出立までには万全の体制を整えておけ」

俺は彼らにそう告げた。彼らの表情には、疲労の色は見て取れたが、それ以上に、ルーカスのための任務を全うしたという誇りが宿っていた。

 

 

・・・・・

・・・

 

 

 

その夜、残った書類を整理していると、脳裏にAlphaの無機質な声が響いた。

 

『貴方は、王都において我々の目標達成に向けた基盤を確立することが期待されます。必要に応じて、情報の提供、および技術的な支援は継続されます』

 

「Hmph. そういえば、以前、お前は何か『成し遂げられることがある』と言っていたな?具体的な目標は何だ?今なら話せるようになったのか?」

 

俺がそう問いかけると、Alphaは一瞬の沈黙の後、淡々と応じた。

 

『質問の意図は理解しました。しかし、貴方への開示は現段階では想定されていません。時期が来れば、必要な情報は貴方に提供されます。それまでは、貴方自身の判断と行動が優先されます』

 

「相変わらずだな。まったく、お前は何をそこまで隠しているんだか。まあいい。お前の言う通り、今は俺自身の判断が最優先だ。

それより、海上戦力の中核を担う新型艦艇の開発状況は?」

 

俺が問うと、Alphaは即座に回答した。

 

『海上戦力の発展に関しましては、現在、巡視船レベルの洋上行動能力を持つ中型巡視艇『シーホーク級』の設計が最終段階にあります。これは既存の哨戒艦よりも大型で、全長約150フィート、排水量350トンを予定しています。最大速力は45ノットで、外洋での長時間の巡航能力を持ち、艦載砲による限定的ながらも対艦攻撃能力を付与される予定です。また、不審船への臨検や海賊対策を想定し、高速短艇を2隻搭載する設計となっております。さらに、最適化された情報システムと連動することで、広範囲の海上状況をリアルタイムで把握し、戦略的な優位性を確立することが可能となります。

 

また、これと並行して、魔導技術と積載効率最適化技術を融合させた、新型の高速輸送艦『レディアント級』の基本設計が完了しました。全長は約400フィート、排水量5000トンと大型でありながら、新型の魔導機関により30ノットの高速航行が可能です。最大で陸上部隊2個中隊分の兵員および、車両、補給物資を一度に輸送でき、迅速な海上輸送が可能となります。荷役効率を最大化するため、船体後部に大型ランプと、吊り上げ能力の高い魔力クレーンを複数搭載する設計です。これにより、遠隔地への部隊展開や、補給線確立に劇的に寄与する見込みです。これらの艦艇は、次期海上主力戦力として、侯爵領の海域支配を確固たるものにするでしょう』

 

この世界を変える。腐敗した旧体制を打ち破り、新大陸の脅威に対抗できる、新たな秩序を構築する。そのための最初の舞台が、王都だ。そこには、俺を嘲笑うであろう貴族どもがひしめき、あらゆる妨害が待ち受けているだろう。だが、もう、俺は立ち止まらない。

 

俺には、このトレンス領で築き上げてきた、かけがえのない仲間たちがいる。俺の異端な発想に食らいつき、その実現のために泥水を啜り、血反吐を吐いてきた部下たち。俺の両腕として支えてくれる、ギルバードとミリアム。俺を信じ、無条件に愛してくれる母さん。そして、俺の真意を見抜き、共に歩むことを選んだシェーラやエレノア。

 

「さあ、行こうか。王都よ、震えてチビんなよ?お前たちが築き上げてきた全てを、この俺が、今から、塗り替えてやる」

俺はそう呟き、静かに、しかし確かな力で、机の上の書類を閉じた。

 

 

 

 

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