The End of The World  人と悪魔と天使の物語   作:俺俺

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腕試しに書いてみました。ハーメルンにおいてオリジナル作品の風当たりが冷たいのは知っていましたが、何処まで行けるかなーっと。


神よ、何故私を見放したのですか?
プロローグ


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮本秀樹はいわゆる不良生徒のレッテルを貼られている。

秀樹が通っている学校《神薙学園》の生徒は勿論、他校の生徒との暴力沙汰は日常茶飯事。制服のブレザーを着用した事など片手で数えるほど。授業は出席日数ギリギリ、テストの成績は赤点ギリギリ、そのくせ体育の成績だけは良い。学校から見れば、風紀を乱す脳筋男だろう。

 

「授業と成績はともかく、喧嘩と制服は俺が悪いって訳じゃねぇぞ」

 

秀樹は職員室からの帰りに、一人そう愚痴る。いわゆる呼び出しという奴だ。

 

宮本秀樹は《不良のレッテルを貼られているだけである》

 

「喧嘩しかけて来んのは何時も向こうからだっての」

 

曰く、眼つきが悪い。

曰く、先輩に対する態度が生意気。

曰く、メンチ飛ばしてやがる。

曰く、ガタイが良い。

曰く、生徒会長の双子の兄なのに出来損ない。

 

(眼つきが悪いのは生まれつきだし態度は普通だし別にメンチなんざ飛ばしてねぇしガタイが良いのはタダの妬みだし――――――)

 

心の中で一気にそこまで捲し立てて、一時思考を中断する。

 

(止めよう、嫌な事思い出すだけだ)

 

とにかく、それらの理由があって周りの不良共から売られる喧嘩を撃退している内に秀樹の名前が学内外に知れ渡り、喧嘩を仕掛けられる毎日である。

制服なんて着てても無残な姿に変えられるだけだ。

勿論、秀樹から喧嘩を仕掛ける事はない。何時も向こうから仕掛けてくるし、秀樹もそれを何度も説明したが、不良生徒のレッテルがそれを受け入れてくれない。

 

(まぁ、俺なんてまだ良い方か)

 

世の中にはもっと悲惨な目に遭っている人間が居る。

この神薙学園は非常に伝統がある学校で、実力主義をモットーとしている。優秀であるか従順な者には優しいが、そうでない者への風当たりは冷たい。秀樹はまさに後者だ。

不真面目かつ反発的、優秀で従順な双子の弟と常に比べられながら生きて来た。弟の他にも、両親と妹が居るのだが、その誰もが弟ばかりを見ていて、秀樹の事を見向きもしない。それどころか、まるで粗大ゴミを見ている様な目で秀樹を叱りつける。

 

曰く、どうしてお前はこうも駄目なんだ!

曰く、何で私の子供がこんな落ちこぼれなの!?

曰く、こんなお兄ちゃん要らない!

 

弟も秀樹の事を見下しており、そんな家族関係はさらに悪化した。帰るべき場所であるはずの家庭で、まさかの四面楚歌状態である。

それでも秀樹はまだ自分はマシだと言える。戦争やっている国は勿論、案外身近にもそう言った事例が多々あるのだ。

秀樹は高校に入ってから見て来たイジメの現場を思い出す。

 

『ほれほら、ちゃんと転がりなよ貞子!』

『う、うぅ・・・!』

『あっれー?何か声が聞こえなーい?ボールの方から!』

『えー、気のせいじゃなーい?キャハハハハハ!!』

 

カーテンに包まれて複数の女生徒に足蹴にされる少女。

例えばクラスメイトの岡本雪絵。低身長で極度の人見知り、膝まで届く長い髪で、前髪は目を覆い隠している。そんな彼女はすぐにイジメの対象となった。秀樹と同じく学に疎く、運動神経も悪い。学校という閉鎖された空間ではそう時間は掛らなかった。あだ名は貞子。

 

『おら、さっさと進めよデブ!』

『後がつっかえてんだよ!!』

『で、でも、まだ時間が・・・』

『その気持ち悪りー面見せんじゃねーよ!食欲失せるだろうが糞デブ!!』

 

客の空いた購買部で無意味に急かされる大柄な肥満体形の男子生徒。

彼の名前は後藤忠弘。昔家が火事に遭い、家族は彼を残して全員死亡。彼自身も顔に大火傷を負い、醜い火傷の跡が顔全体に残っている。本来なら擁護されそうな立場だが、彼もまた成績が伴わず、イジメの被害者となってしまった。

 

『何だこれ?ペンダント?』

『そ、それを返してくれよぉ!!』

『ギャハハハハハハハ!!ババァとジジィの写真なんか入れてやがる!!』

『気持ち悪りぃなお前!こんなもんはこうしてやるよ!!』

 

大切な祖父母の写真が入ったロケットペンダントを踏み砕かれた眼鏡の痩せた少年。

名前は木原和彦。彼がイジメの被害者になった理由は特にない。成績の事を除けば、タダの見せしめの対象になっただけに過ぎない不遇な少年だ。

 

そんな事が普通に蔓延るこの学校の教員や、彼らの代表である生徒会もこういった弱者達に厳しい。被害者を助ければ、その者も被害者になるこの悪循環がそれを加速させていた。

だが、そんな事は秀樹には関係なかった。秀樹は決して善人ではないが、気に食わない事やイジメられている者を見て見ぬ振りを出来るほど薄情でもないし、臆病でもなかった。

 

『おい』

『?なによあんた』

『フンっ!』

『プゲェェッ!!?』

 

雪絵をイジメていた女子グループを全員殴り飛ばし

 

『ゲッ!?宮本!!』

『な、何だよ、俺達は何もごばぁぁぁっ!!?』

 

忠弘をイジメていた生徒達を蹴り飛ばし

 

『ま、待ってくれ、俺らがお前に何やったてんだよ!?』

『た、助けぎゃぁぁぁあぁぁあ!!?』

 

和彦のペンダントを踏み砕いた連中の頭を踏み砕いた。

そうやって反骨心の赴くがままに暴力を振っていた秀樹の味方は数少ない。やりすぎたとは思うが後悔はしていない。俯いて歩く人生など真っ平御免。それが秀樹の生き方である。

そう言う事もあって、秀樹はこの学園では比較的恵まれている方である。

なぜならば、秀樹には加害者たちを追い払うだけの暴力と気迫がある。それすら持たない者達は、日々の学園生活は地獄にも等しい。

 

そんなことを思い返しながら教室へ戻る廊下の途中、秀樹の前に10人の生徒が立ち塞がる。皆一様に《生徒会》と書かれた腕章を装着している。

彼らこそがこの学園の頂点、教師以上の権限を持つ10人の精鋭だ。

 

「また暴力沙汰を起こしたみたいだね、秀樹」

「向こうから仕掛けて来たんだっての」

 

自分とそっくりな顔の造形の持ち主、唯一の違いは髪の色だ。秀樹は赤銅色に対し、目の前の男は黒髪だ。この男こそが秀樹の双子の弟にしてこの学園の生徒会長、宮本智明だ。

 

「もう少し身の程を弁えられないの?出来そこないの屑の分際で」

「弁える理由が無いからな。大体、俺を止めたいなら風紀委員でも寄こせばいいじゃねぇか」

「チッ、減らず口を・・・!」

 

実のところ、今までに何度も風紀委員が出張った事がある。しかしその度に秀樹が撃退し、風紀委員の殆どが病院送りにされた事がある。それは生徒会への不信感となって全校に波及した。

 

「あんたが暴れなきゃ済む話でしょ!?少しは大人しく出来ないの!?」

 

そう言って秀樹に食い掛ったのは、鮮やかな赤い髪の少女。1年生にして生徒会書記、秀樹と智明の妹である宮本鈴音だ。

 

(好きで暴れてる訳じゃねぇんだけどな)

 

そう言っても無駄だろうと、秀樹は溜息を溢し、無言を貫く。それを反論できない事と受け取ったのか、鈴音は更に捲し立てる。

 

「言っとくけどね、ここではあんたみたいな野蛮な奴は淘汰されるの!!こんな事を続けても、いつかは退学になるのがオチなんだからね!!」

「野蛮な奴が淘汰される、か」

 

だったら成績の悪い者が淘汰されるのはなぜか。その者に危害を加えている者が淘汰されないのはなぜなのか、秀樹は思わず失笑を溢す。その答えを、秀樹は良く知っていた。

 

「《魔術》の出来の良し悪しで、立場なんてもんが変わるだろうが」

「そう、そして僕達は[セフィロトの樹](オーディーン・カバラ)の適合者に選ばれたんだ」

 

時は、西暦2100年。現代と魔術が交差する時代にあった。

 

 

 

 

 

 

 

   ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

時代は遡ること1901年。世界大戦の真っただ中で、世界各地で発掘された未知の遺跡。その中に眠る驚異の技術、それが魔術だった。

その力を試した各国の研究者達は、総じて魔術の危険性と有用性に着目。領土問題などよりも、魔術の解明に興味を持った各国同士で停戦同盟を結び、やがて世界中に戦争終結が言い渡された。

 

そして1932年に、この日本国に魔術を使う者、《ウィザード》を養成する学校が建設された。魔術を操るにはある程度の素質がいる。そしてその素質を持つ者を世界中から集めたのが、この神薙学園だ。入学は国からの任命で断る手段などなく、ほぼ強制的に入学させられる。

授業内容は一般教養の他に、主に魔術に関連する事ばかりで、魔術の成績によって格差の振り分けが行われる。AからFまでのクラス分けがあり、Aに近ければ近いほど学校全体から優遇されるが、Fクラスの者は学園全体に虐げられる。

具体的に言うと、常に駄目な一例として全校に晒し者にされる。教室は校庭の片隅にある廃屋で、教師すら授業に来ない。そして、成績が一定以下になった者はこのFクラスへと送られるのだ。

言わば見せしめ、その上この学園の生徒には病欠などの事情が無い限り強制登校義務が生じている。単位を取らなければ卒業できない。退学になったら就職にも困る。ぶっちゃけ、逃げ場はない。

生徒会役員は全てAクラスで、秀樹を始め、岡本雪絵、後藤忠弘、木原和彦はFクラスだ。他にも30人以上の生徒がFクラスに居る。それが3学年分あるのだ。

 

そして近年、北極で発見された遺跡で世界最大の魔術兵装が発掘された。

偉大なる10の天使が封じられたそれは[セフィロトの樹](オーディーン・カバラ)と名付けられ、一体の天使で一国の総戦力にも匹敵する魔力がある事が解明された。

しかしそれらの力を使うには適合者が必要で、その適合者としてこの神薙学園の生徒会が選ばれたのである。助長していた者がさらに助長する事となり、逆にFクラスの者がより肩身が狭くなった。

 

故に、Fクラスに所属するもので魔術が好きだと言う者は誰1人として存在しない。

彼らにはもっと別の生き方があったはずで、こんな学園に押し込められて非難される様な青春など望んではいないのだ。

 

「ま、この学園を卒業すれば、魔術なんて物とはおさらばだよな」

 

そう言って秀樹は腐りかけの教室の扉を開ける。この教室に押し込められて2度目の春、温かな陽気も空調が整っていないこの教室では暑く感じる。

 

「オッス、我らがヒーロー!」

「ヒーロー言うな」

 

教室に入って早々ヒーロー呼ばわりしてくる金に染め上げられた髪に耳ピアスの不良少年。入学時からの悪友である静馬健吾だ。

 

「いやいや、実際秀樹は俺等Fクラスから見ればヒーローみたいなもんだぜ?魔術の精鋭部隊の風紀委員を素手でボコボコにして、いじめられっ子を助ける。これがヒーローじゃなくて何だよ?」

「あいつらが勝手に喧嘩し掛けてくるだけだっての!」

 

秀樹は全く意識してはいなかった事だが、周りから見ればそう見える。故に、周囲からの秀樹の評価は極端なのだ。

 

「ところで秀樹さんよぉ」

「どうした健吾さぁん?」

「例の物が手に入ったぜ・・・?」

 

そう言って健吾は鞄から黒いビニール製の袋を取り出す。東京店という本屋の名前が記載されているそれは、秀樹が健吾に頼んで入手した品だ。

 

「それを待っていた!」

 

秀樹は引っ手繰る様にして袋を奪い取る。そして中からある本を取り出した。

 

《爆乳ロリメイド・イリーナ  イケナイ私にお仕置きしてください》

 

やたらと丈の短いミニスカメイド服を着たロリ巨乳が、恥じらいの表情を浮かべている表紙の本。見ての通りのエロ本である。それも並の女子が見ればドン引き物の。

 

「あんたも好きだねーロリ巨乳」

「いやいや、あの背徳感と魔性の果実がたまらん訳ですよ」

「タダの変態じゃねーか!!やっぱりロリ物と言えば、緊縛SMに限るだろーが」

「テメーは病気だ!!幼女相手に何する気だ!!」

「違う!俺は《されたい》方なんだ!!」

「タダのマゾじゃねーか!!」

 

そんな会話が響き渡る教室の中で、クラスのほぼ全員から冷めた眼差しを受けている事をロリ巨乳好きの変態と、幼女に緊縛されたい高校男子は気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、世の中なんてものは何が起こるか分からないものである。秀樹は別に大抵の事では驚いたりはしない自信があった。学園の清楚なマドンナから「好きです、付きあってください種馬野郎!!」と、喜びと悲しみを同時に受ける告白をされようと、帰り道でインド象の大群が大名行列していようと、宇宙人が侵略を始めようと驚かない自信があった。実際のところはともかく、それぐらいの気概があった。だがそんな自信は、秀樹が住んでいるアパートの一室の扉を開けた途端に木端微塵に砕け散った。

 

(神様、俺何かしましたか?)

 

そう天を呪わずにはいられない惨状。秀樹の自信の様に粉々に砕け散ったガラス窓と、その前に転がっている少女。黒いローブに身を包んだ死体を連想させる白い髪の少女。その小さな体躯に、目を閉じていても学園中の女子が全て霞むほどの非常に整った顔立ちだと言う事が分かる。

そして何より、体全体を包むローブを盛り上げる胸部の巨大な膨らみ。

 

(待て待て待て、落ちつけ冷静になれクールになれ奇数を数えるんだ2・4・6・8・10・・・・家に帰って来たら俺好みのロリ巨乳がガラスまみれになって転がってるって一体何処のとあるシチュエーションですか教えてください先生ぇぇーーーーーー!!!)

 

余りにあんまりで嬉しいのか悲しいのか分からない展開に、思わず壁に向かって啄木鳥の如きヘッドバットをかまし始める秀樹。奇数ではなく偶数を数えた為か全く落ちつけていない。

 

「うるさい」

 

部屋に響く、鈴を転がした様な声。

突如、ガラスまみれの少女が声を上げる。

 

「っ!!?」

 

自分を僅かに睨む少女の瞳に、秀樹は声を上げずに驚いた。漆黒の強膜に金色の瞳、深紅の瞳孔と明らかにカラーコンタクトでは説明が効かない人外の目だ。そして何より目を引いたのは、人間とは違う長く尖った耳。

物語に登場するエルフを彷彿させる。

 

「?・・・キミは誰?」

「いや俺の台詞なんだけど!!?」

 

先程のシリアスに持っていきそうな展開はこんな一言で吹き飛んだ。勝手にガラス窓を突き破って人の家でグースカ寝ていた少女の、まさかの切り返しに秀樹は驚愕する。

 

「此処俺の家だから!お前こそ誰!?何で俺の家の窓ガラス突き破ってんの!?」

「それはボクの台詞。ようやく《樹》から出られたと思ったらここに居た」

 

微妙に会話が噛み合っていない。とりあえず秀樹は一つずつ質問する事にした。幸いにも話が通じる相手みたいだし。

 

「ここは俺の家だ。そこにお前が窓を突き破って侵入してきた。そこまでは良いか?」

「うん」

「だからまずは、俺の質問に答えるんだ」

「わかった」

「よし、まずは質問その1、お前は何者だ」

[クリフォトの樹](ディアボロス・カバラ)序列第3位、拒絶のルキフグス」

「さてと、1.1.0っと」

 

秀樹は携帯電話を取り出し、警察に電話を掛ける。容疑は不法侵入と器物破損だ。

 

『はいこちら警察です。どうかなさいましたか?』

「あのですね、今僕の部屋に訳の分からない女が勝手に《プツッ》え?」

 

そこまで言い掛けて、突然電話が途切れた。ツーツーツーと、電話の向こうから聞こえてくる。画面を確認してみても電波は3つ立っている。

電源ボタンを押した訳でもない。だったらこれを可能とする唯一の存在は――――

 

「魔術か・・・!」

 

目の前の少女がウィザードだと言う事だ。どんな魔術を使ったのかは、秀樹にはまるで見当もつかないが、何らかの方法で電話を切ったという事は分かった。

 

「魔術・・・とは少し違うかな。これはボクが持っている能力」

「はぁ?何を訳の分からん事を・・・大体クリフォトって何だよ――――」

 

そこまで言って、秀樹はある事を思い出していた。

 

([クリフォトの樹](ディアボロス・カバラ)ってどっかで似たような単語を聞いた様な気が・・・)

 

そして思い出す。近年の話題となった魔術兵装。神薙学園の生徒会が適合者。

 

「もしかして、セフィロトとなんか関係あるの?」

「あるよ」

 

ルキフグスと名乗った少女はあっけなく肯定する。

 

「セフィロトの事はどこまで知ってるの?」

「ニュースで見た程度だな。確か、スゲェ天使ってのが10体封じられてる魔術兵装が北極で発掘されたって聞いたな」

「ボク達[クリフォトの樹](ディアボロス・カバラ)はその対極。セフィロトが司る正義と理想、クリフォトが司る悪行と欲望、天使と悪魔、創造と破滅、秩序と暴走。ボクはクリフォトの10の悪魔の1」

「正直、突飛な話だがお前の言う事は信じる。魔術なんてもんがあって、セフィロトなんて物があるんだ。悪魔が居たって不思議じゃねぇ。でも何でその悪魔が俺の家に居るんだよ」

「それはただの事故としか言えない。・・・キミの話を聞く限りだと、セフィロトは人間の手で掘り返されたんでしょ?そして、セフィロトの力まで解き明かした。天使達が目を覚ましたんだ。そしてそれに呼応するように、ボクらも目を覚ました」

「目を覚ましたら、一体どうなるんだ?」

 

そこで少女は口を紡ぐ。

 

「話せるのはここまで」

 

少女は立ち上がり、秀樹を見上げる。改めてみると、本当に小さな体だ。それとは対照的に、その白い髪は向う脛まで届く長さだ。

 

「ボクに関わると、現世で地獄を見る事になる。だからボクはキミを拒絶する」

 

そして少女は砕けた窓ガラスに手をかざし、ポツリと何かを呟いた。

するとどうだろう、ビデオの逆再生を見ているかのように、見る見る内にガラスが元通りになっていく。秀樹は混乱する頭で少女の力だと推測していると、少女は玄関まで足を進めた。

 

「迷惑を掛けて、ゴメン。でもここでお別れだから」

「いや、俺は別に」

 

背を向けたまま喋る彼女が、一体どんな顔をしているのか秀樹には解らない。ただ、何故か秀樹には、その背中が泣いている様にも見えた。

 

「迷惑料に、一つだけ教えてあげる」

「何をだよ・・・」

「これからこの町で、物騒な事件が頻繁に起こる。キミは出来るだけ家を出ず、外出の時は寄り道せずに真っ直ぐに帰って、厄介事を拒絶するんだ」

「おい、お前・・・」

「それじゃあ、さようなら」

 

そう言って少女は秀樹のアパートを出ていく。何か声を掛けようとしても、結局言葉にする事が出来なかった秀樹は、いつまでも少女が消えていたった玄関を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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