The End of The World 人と悪魔と天使の物語 作:俺俺
「何だってんだよ、クソ・・・!」
秀樹は愚痴りながら通学路を歩いていた。理由は昨日秀樹の部屋に現れ、跡形も残さずに消えていったルキフグスと名乗る異形の少女。
(あの時の背中が、妙に瞼に張り付いて離れねぇぞ)
本当は秀樹も分かっていた。あの少女を引き止めておいた方が良かったのではないのかと。そう思う理由も根拠もなかったが、少女がただ事では無い事情に巻き込まれている事は明らかだ。
(俺には関係の無い話だし、あいつにも関わるなって言われてんのにな)
秀樹は弱者を見捨てはしない。この魔術が蔓延る時代において、自身の才覚の無さと周囲の非凡故に孤立してしまった秀樹は、辛い目に遭っている者には敏感だ。
(別に強制された訳でも約束をした訳でもないしな)
そう思って今後の方針を立てる秀樹。だが肝心の少女はどこに居るのかが分からない以上、秀樹はとりあえず学校に行く事にした。少女の事を知る為に、生徒会のメンバーが適合したという
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一口に魔術といっても、一人のウィザードが万能の力を振るえると言う訳ではない。個人差はあるものの魔術の素養を持つ者は、体内に
ウィザードは基本的に一人に付き一つの魔術しか扱えない。例えば炎を発生させるウィザードなら炎に関する魔術しか扱えなかったり、電気を操るウィザードなら電気しか操れなかったりと、案外使い方に悩む力でもある。
これは神薙学園のクラス分けにも大きく影響を及ぼした。簡単の言えば、Fクラスの
「だからって、こんな教室に押し込められたら学べるものも学べねぇよな」
「俺はむしろ、こんな薄汚い教室に押し込められたと思うと、ちょっと興奮してる・・・」
そんな雄豚発言をしている秀樹の悪友、静馬健吾を無視して学校行事の用紙に目を落とす秀樹。そこには今日の午後に行われる
「え~?宮本君、こんなの見てどうするのぉ?」
そんな言葉が秀樹の後ろから掛けられる。振り返ってみると、そこには見慣れたクラスメートの姿。165センチはある女子にしては高い身長と、それに見合った見事なプロポーション。健吾とは違い、完全に天然の金髪の少女、西谷姫乃だ。
「これは女王様ぁ!!どうぞこちらへ!!」
「何か汗臭そうだから嫌ぁ。それより宮本君だってぇ」
両手両膝を床に付いて人間椅子になり下がる健吾を軽くあしらって、再び秀樹に顔を向ける姫乃。そんな姫乃の態度に一周回って興奮する健吾を無視し、秀樹は姫乃の方に向き直る。
「あぁ、ちょっと気になる事があってな。覗きに行こうと思ってる訳よ」
「私達Fクラスには無縁の話よぉ?そんな物を見てどうするのぉ?」
「実は昨日な――――――」
そこまで言い掛けて、秀樹は口を閉じる。あの時の事を気軽に話しても良いのかと思ったからだ。幾ら魔術が蔓延るこの時代でも、否、この時代だからこそ話しにくい。
「昨日?」
「いや、何でもねぇよ。とにかく、ちょっと覗いてみたくなってな」
「ふぅん」
意外そうな目で秀樹を見る健吾と姫乃だったが、それ以降は特に詮索してこなかった。
――――――――――――――
放課後、秀樹は体育館の小さな窓から中の様子を覗き見していた。中には生徒会メンバー全員と、校長や理事長、教頭を含む教師数名と来賓と思われる人物が数名だ。
小さな窓から見る体育館は薄暗く見え、中の会話も聞こえなかったが秀樹にとっては問題ない事だ。秀樹は意識を集中し、
(魔力を目に、集中させる・・・!)
すると、秀樹の視界が先ほどよりも遥かに鮮明になる。例えるのならば世界の果ての荒野に住まう先住民の視界の様に、遠くにある物が見渡せるようだ。
これこそが秀樹に許された唯一の魔術
その力は、視力だけではなく聴覚の強化、皮膚や骨の硬化に筋力の増大まで含まれる。今回は生徒会だけではなく、教師達まで居るので魔術発動に伴う魔力の流れに気付かれるかもしてない。なので視力の強化のみにしているのである。
(なんだ、あれ?)
来賓客が用意されたテーブルの上に1メートル以上の石板の様な物を置く。秀樹が居る場所からは石板の側面しか見えないが、恐らくそれが件の品だと本能的に察した。
(もしかして、あれが
秀樹は当初、その名の通りの樹の様なものだと予想していた為、想像から外れた正体に目を丸くする。更に注視していると、生徒会メンバーが石板の前に立つと石板から強烈な光が発せられる。
(眩しっ・・・!?)
強化された目がが仇となり、秀樹は思わず目を閉じてしまった。瞼に閉ざされても、網膜に焼き付いた強烈な光がなかなか取れない。
ようやく目を開けられるようになり、再び体育館の中を除いてみると、既に適性が済んだのか、はたまた失敗したからなのか、石板は粉々に砕けていた。
(でも、あの表情を見る限りは成功してるんだろうな)
秀樹の視界の先には、興奮した様子の生徒会メンバーや教師達、来賓客の姿が映っていた。その光景を、秀樹はどこか羨ましそうに見ていた。
実際のところ、秀樹も魔術に夢を抱いていた時期があった。だがそれもすぐに終わってしまう。優秀な家族と比較される毎日。優秀どころか並みにすら届かない自分。幼い頃の自分が、夢を諦めてしまうのにそれほど時間は掛らなかった。
(何にせよ、収穫があった様な無かった様な・・・)
何とも言えない微妙な気持ちを胸に、秀樹は帰路に着いた。
今日はバイトのある日だった。
――――――――――――――――
夜の10時ごろ、秀樹がバイトから帰って来た時、予期せぬ再会が待ち受けていた。
アパートの2階にある、秀樹の部屋の前で倒れている一人の少女。その身に纏った見覚えのあるローブから見える死人の様な長い白髪。間違い無く、あの時の少女だ。
(これから探しに行こうって思ってたのに、何つー拍子抜けな展開・・・!)
意気込んでいた分、拍子抜けも良いところである。だが手間が省けたと言えば確かにそうだ。とりあえず秀樹は少女の傍にしゃがんで、体を揺すって起こす為に手を伸ばしたその時――――
「こ、これはっ!?」
気が付いた。少女の左肩から流れているおびただしい量の、真っ赤な液体。それが血であるという事に気が付くのに、秀樹は数秒の時間を有した。
「とにかく病院、いや、こいつ悪魔だし・・・!!」
秀樹は少女が身に纏っていたローブの肩の部分を破り、自分の制服のカッターシャツを脱ぎ、少女の肩に巻き付けて傷を防ぐ。そのまま少女を抱き上げて、とりあえず病院まで運ぼうとした時、少女の右手が秀樹の頬に触れる。
「気が付いたか!?待ってろ、すぐに病院に運んでやるからな!!」
秀樹は
「逃げて・・・・」
次の瞬間、ドゴォォォンッ!!!と音を立てて金属製の階段に風穴が開いた。空いた場所は、秀樹がまさに一歩踏み出そうとした段。牽制、もしくは狙ってきた謎の攻撃に、秀樹はゾッとする。
「っっ!!?」
そして、階段の下から感じられる強い魔力の奔流。秀樹はそこに目を向けると、神薙学園の制服を着た見覚えのある男子生徒がこちらを見ていた。
爽やかな印象を与える黒髪の男。生徒会メンバーの一人、海藤義幸だ。その手には、金色の光を放ちながらも水晶の様な透明感がある一振りの剣。鍔の部分には派手な装飾が施されている。
(何で海藤がここに・・・!?いや、それよりも・・・これはこいつがやったのか!?)
傷付いた少女と、義幸を交互に見やる。こんな展開であるならば、目の前に居る男が、秀樹が抱えている少女を斬り付けたと思うのが自然だ。そして、秀樹の予感は最悪の方向で的中する。
「これはこれは・・・落ちこぼれ代表の宮本秀樹君じゃないか」
「テメェ、人ん家のアパートに何してくれてんだ・・・!」
「決まっているだろう?その悪魔を殺す為に攻撃したんだ」
さも当然の様な顔で、剣の切っ先を秀樹と少女に向ける義幸。その答えに、秀樹は例えようのない怒りが込み上げるが、何とか冷静さを保ちつつ義幸に問い掛ける。
「何で、こいつを殺そうなんて思うんだ?人殺しは重罪だぞ?」
「それは相手が人間であった場合だろう?その悪魔は違う、この世界に居てはいけない悪魔の内の一人何だからな。さぁ、そいつをこっちに渡せ。今なら君を見逃してやる」
何処までも傲慢。何処までも上から目線。そんな浴び慣れた視線に晒されながらも、秀樹はハッキリと言い返す。自身の譲れない信条の為に、腕の中の少女を救う為に。
「お断りだ、この
そう吐き捨てて秀樹は少女を抱き抱えたまま踵を返す。義幸が追いかけて来る気配が聞こえるが、秀樹はそれを無視してアパートの2階の転落防止用の手すりに足を掛け、力強くジャンプする。
本来ならば、秀樹の魔力量で筋力を強化しようにも常人に毛が生えた程度の力しか発揮されないだろう。だが、常日頃から優秀な神薙学園の風紀委員や街の不良との戦いに勝利し続けた秀樹の運動能力は、高校界でもトップレベルだ。
故に、秀樹のとっては僅かな強化でも十分にその力を引き出せる。
アパートの2回から跳び、隣の敷地の建物の屋根に着地し、更に隣の建物の屋根に着地する。さながら忍者の如き動きで、秀樹は複雑に入り組んだ路地裏の中へと姿を消した。
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