あくまでも楽しむために   作:隔離場

2 / 2
登録

 

再び意識を取り戻したところで、周辺の状況確認をする。もしも新しく足を踏み入れた土地がスラムだったりしたら困る。いきなり後ろから刺されるほど勘が鈍っているとも思えないが、一応念のため。

 

新しい世界はレンガの家々が立ち並び、その光景はさながら中世のヨーロッパの様な感じだった。自分の世界にあった荒廃したビルやボロボロの民家は影もなく、遠くには緑が見えるというある意味では異常事態。なんだここは、天国か。

 

近くを歩く人々の頭上に光る輪っかがないし背中に白い翼が生えていないのでここは天国ではないかもしれないと考えを改めた。偶然ではあるが自分の知り合いには翼を自力で生やして高速飛行する変態と頭部に天使の輪っかのような拘束具を取り付けて強制的に命令を遂行させる加虐嗜好癖の変態がいる。万が一目の前に天使の輪を付けた人物が現れたら警戒対象である。

 

何はともあれ、無事に転移は成功したようだ。

 

とりあえず自分の知り合いから異世界に行った時の対処法はいくつか学んでいるが、こういった時は大体街の中心にある主要施設に行けば何とかなるそうだ。女神アクアの言っていたファンタジー世界とやらは大抵が怪物の被害に困っており、その怪物を倒すことを生業とした冒険者、もしくは狩人が集まる施設というのがあるらしい。

 

実際に体験させられながら解説をされたのでよく覚えている。こういう事態が実際に起こった以上とやかく言おうとは思わないがとりあえず死ねばいいと思う。

 

そんなことを考えながら歩いていると、周りとは少し雰囲気が違う建物を見つけた。看板には冒険者ギルドと書かれているので、どうやらドンピシャのようだ。特に外装を見ても面白そうなことはないだろうと、早々にギルドの中に入っていく。

 

このギルドという建物には酒場が併設されているようで、昼間だというのに大勢の冒険者と思わしき男女が思い思いに食事をしていた。中にはかなりガタイのいい男が混じっているが、ぱっと見あまり強いとは思えないのでいわゆる低レベルの冒険者なのかもしれない。

 

さて、以前受けさせられた異世界探検ではここで「こんなヒョロヒョロのやつがここに何の用だ~?」とか言いながら絡んでくる面倒な冒険者がいたのだが、この世界ではそんな品の無いチンピラはいないのかもしれない。

ギルドに入った自分を横目でちらりと見るものはいるが、特にそれ以上に絡んでくる様子もないのでとても楽だ。ちなみに先ほどの面倒な冒険者は会話するのも面倒だったので顎を叩いて脳を揺らし、一撃でノックアウトした。

 

「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてるお席へどうぞー!」

 

短髪赤毛のウェイトレスが愛想よく出迎えてくれた。今回は登録という目的があるので真っ直ぐカウンターへと向かう。

 

 

「初めての方ですね、本日はどうされましたか?」

「冒険者登録をしたいのだが」

 

 

偶然にも人が並んでいなかった受付があったのでそちらに並んで受付嬢に要件を述べる。

 

「はい、1000エリス丁度いただきます。…はい。では簡単にですが説明を始めさせていただきますね」

 

エリスというのはこの世界の共通貨幣で、国教であるエリス教から採られているらしい。いつの間にか自分のズボンの中に貨幣が入っていたのでそれを渡す。

 

「では。冒険者になりたいと仰るのですから、ある程度理解しているとは思いますが、まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター──人に害を与えるモノの討伐を請け負う人のことです。簡単になんでも屋みたいなものです。討伐のみを請け負うわけではありませんが……冒険者とはそれらの仕事を生業にしている人達の総称。そして、冒険者には、各職業というものがございます」

 

こちらは以前体験した異世界と同じような説明だった。説明中に受付嬢は冒険者カードの見本のようなものを提示してきた。

ちなみに、体験した世界で適正職業とされたのは暗殺者だった。失礼極まりないとその時は憤慨したのは覚えている。

 

「こちらに、レベルという項目がありますね?ご存知の通り、この世の中のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めいます。どの様な存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺すことで、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値、と呼ばれるものですね。それらは普通、目で見る事などはできません。しかし……」

 

ここで受付嬢はカードの一部を指さした。

 

「このカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値が表示されます。それに応じて、レベルというのものも同じく表示されます。これが冒険者の強さの目安になり、どれだけの討伐を行ったのかもここに記録されます。経験値をためていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。俗に、レベルアップだの壁を越えるだのと言われていますが……。まぁ要約すると、このレベルが上がると新スキルを覚えるためのポイントなど、様々な特典が得られますので、ぜひ頑張ってレベル上げをしてくださいね」

 

この時点で特に聞きたいことも無いので適当に頷く。

 

「では、こちらの書類に身長、体重、年齢、身長的特徴等の記入をお願いします」

 

身長 176cm、体重57kg、年齢 26、特徴は特になし。と記入する。本当にないからしょうがないな。

 

「はい、結構です。えっと、ではこちらのカードに触れて下さい。それであなたのステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んで下さいね。経験を積む事により、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んで下さい」

 

職業というものにどれだけ種類があるかは分からないが、まぁ、暴れられそうならなんでもいいかな、と思いつつカードに触れてみる。

 

「はっ!?はあああっ!?なんですこの数値!?筋力、生命力、魔力に器用度、敏捷性に幸運、全てが平均値を大きく上回っていますよ!?特に筋力が尋常じゃないほどの数値に……。あなた一体何者なんですか……?」

 

とりあえず受付嬢からのお墨付きを得たということは女神アクアの転生特典とやらはしっかりと機能しているようだ。これで逆に身体能力がすべて最低値でした、では話にならない。

 

適当にはぐらかして受付嬢に次にすするように指示すると、硬直していた身体をようやく動かし始めた。

 

「えっと、あなたに適性がある職業は多数ありますね。最強の攻撃力を誇る剣士《ソードマスター》、最高の防御力を誇る聖騎士《クルセイダー》、プリーストの上級職である《アークプリースト》、多様な魔法攻撃を行う《アークウィザード》など、最初からすべての上級職に……!」

 

受付嬢はゆっくりと自分のなれる職業を言っていく。冒険者カードの職業欄に書かれている文字を読んでいるだけだが、職業名を分かりやすく解説してくれるのはありがたい。そして自分は前線で暴れたい。

 

「では《ソードマスター》で」

冒険者カードの項目に《暗殺者》と《バーサーカー》が見えたが気のせいだと思いたい。

 

「《ソードマスター》ですね!では、冒険者ギルドへようこそミコト様!スタッフ一同、今後の活躍を期待してます!」

 

そういっていっそ清々しい気分になるほど綺麗な営業スマイルを浮かべた受付嬢。

自分は名乗った覚えがないのに名前を知られていることについては冒険者カードにいつの間にか名前が表記されていたので特に追求しないことにした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。