カルデア物語   作:黒白紅藍

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人は死ぬために生まれる。
生まれた瞬間それを悟る。
だから胎児は慟哭を上げる。


罪滅ぼし

2・罪滅ぼし

 2-0

 意識の戻る感覚があった

 ベッドであろう柔らかい背中の面に、肩甲骨が押し付けられる感覚。体に重力が戻ってくる。

 未だ瞼が重い。朝には強いはずだったのに、目を開けるのが億劫だ。

 少しずつ意識が戻ってくると、耳元で規則的な機械音が聞こえる。

 病院で聞いた音だ。名前は呼吸心拍監視装置だったか。ピッ、ピッと一定の間隔で音が鳴っている。

 いい加減、周囲の状況が分からないので目を開ける。

 見慣れぬクリーム色の天井が視界いっぱいに映った。

 僕の部屋ではない。ここよりもう少し天井の色が白いはずだ。

 腕を動かそうとして、違和感。

 見ると、点滴のような管が腕に繋がっている。

 「………………えっと。」

 体の怠さはこの点滴が原因か。

 なんだろう、入院している気分だ。

 まあ、今はそれは置いておこう。

 とりあえず。

 「……何があったんだっけ。」

 確か、リツカちゃんの歓迎会をしようという話になったのは覚えている。

 エミヤと話して、マーリンに相談して、それで………。

 「ッ!?」

 記憶が流れ込んでくる。

 夢の記憶。

 罪の記録を思い出した。

 死の記憶。傷の寄り集まりが、頭に流れ込んでくる。

 頭が痛い。息が苦しい。体が歪んで…

 『先輩。』

 と。

 気付く。

 頭に直接響く声。

 聞き慣れたその声に体を起こす。

 すると、ベッドに横たわる僕の下半身。その上に座るマシュの姿があった。

 「……マシュ?」

 『先輩、貴方は酷い人です。』

 「!?」

 『他人を殺すに飽き足らず。貴方はもしや、ソ連時代の独裁者の生まれ変わりですか?』

 「違う、待ってくれ違うんだ。僕はそんなつもりじゃ」

 『傷つける人は、皆そう言うのです。僕は悪くない。傷つけるつもりじゃなかった。そんな風に取り繕う。もし先輩が今の私なら許すのでしょうけれど、ですが。』

 眼鏡の奥の目が濁る。

 『そんな言い訳、私は嫌いなのです。』

 「………マシュ。ねえ、マシュ。」

 『なんでしょう。』

 「僕は、どうすればいいんだ。どうすれば、この地獄から解放される?」

 『先輩、あなたは如何されたいのです。』

 「僕は————」

 どうされたい。

 決まっている。

 「僕は許されたいんだ。殺した人に謝って、過ちを謝って、それで許してほしいんだ。」

 『許してほしい…ですか。』

 一言。

 重く感じた。

 『そうですね………分かりました。私もお世話になりましたし、私の予想くらいは教えて差し上げます。』

 嗤った。

 不気味な笑顔を、彼女は浮かべる。

 『ですが、そのためにはまず不公平を無くさなくてはありません。個人差があっては誠意は感じられませんからね。ですから、やらなければならない事が一つあります。』

 ニヤニヤ、と。

 「……わかった。何をすればいい?」

 かつてのソロモンのような、黒く不気味な人形の笑顔。

 『では、貴方の総ての恐怖で以て、()()()()()()()()()()()。』

 

 2-1

 「………。  。 。」

 「ッ!!!!!」

 声が聞こえて、飛び起きる。

 冷や汗が流れて、恐らく涙であろう液体が頬を伝う。

 何が何だか分かっていないのに、思考は恐怖と怯えしかない。

 視界が歪む。

 息が荒い。

 「ああ、よかった!やっと起きたか、立香君。」

 誰かの声。

 弾けるように顔を上げると、例の芸術家の姿があった。

 「気分はどうだい。」

 なんて言って、此方に手を差し伸べる。

 怖い、嫌だ、来るな、きっとまた傷つける、止めて、来ないで、お願いだから

 「………さすがに、そんなに怯えられると少しショックだな。」

 ダ・ヴィンチちゃんは直ぐに手を引っ込めた。

 悲しそうな顔だった。

 そのまま、踵を返して部屋から出て行く。

 そう言えば、ここは何処だろう。

 僕の部屋では見ないようなクリーム色の天井と壁が僕を囲っている。

 ちょうど夢の中に様な部屋だ。

 腕を動かそうとして、点滴のコードが邪魔になる。

 頭痛も酷い。

 と、ここで機械音とともに、普段から使っている通信が入る。

 『やっほー、立香君。』

 「………ッ、ダ・ヴィンチちゃん。」

 『これなら君への精神的負担も比較的少ないと思うが、どうだろう。』

 「……まあ、それなりに。」

 『全く、一年も一緒に戦ってきた相手に怯えられるというのは、いささか堪えたけれど。まあ、それはそれ、しょうがない事なのだろうね。』

 「……ごめん。」

 『いいさ、君は人間なんだから。』

 人間。

 果たして僕は人間なのか?

 プライミッツ・マーダーよろしく、あんな量の人を殺しておいて?

 『それよりも、一つ聞いておきたいことがある。辛かったら答えなくてもいい。』

 「……なに?」

 『今現在、君の精神状態と身体状態をモ二ターしているんだ。』

 「……………。」

 『無許可で悪いとは思うが、まあ許してくれ。それで率直に言って、今の君は精神状態が著しく不安定だ。

 何かあるなら話してくれないかな?』

 「………何もない。ただの後悔だよ。」

 『……そう。君が言うならそうなんだろうね。』

 溜息のような吐息が聞こえる。

 『なら、君は昨日の夜の事を覚えているかい?』

「昨日の夜………?」

 昨日の夜。

 確か、マシュに少し休むことを告げて、それで自室に行って、それから

 「ヒッ………」

 『思い出したかな。』

 「僕は……マシュを?」

 『連絡を受けて、部屋に言ったらあの状態だったよ。

 この話を踏まえてもう一度言うよ?何があった。』

 「僕は……。」

 マシュを傷つけた。

 唯一と言ってもいい大切な人を、僕はこの手で傷つけた。

 自分でも記憶がない。でも確実に僕のせいだ。

 何とかしないと。

 何とかしないと、ほかの皆に危害を加えてしまうかもしれない。

 それだけはダメだ。

 「……出来れば、話したくないんだ。ゴメン。」

 『いや、別に構わないさ。何が何でも話せって訳じゃない。』

 「……マシュの容体は?」

 『安定しているよ。頬に少し痣が残っちゃったけど、それも数日で消える。少し脳震盪があったから心配していたけれど、そっちも問題なさそうだし。』

 「そっか……。」

 これで安心した。

 いや、そもそも傷つけた僕には心配の権利すらないのではないだろうか。

 加害者が被害者を心配するなど、あってはならないことだ。

 でもまあ、後遺症が残らないのならひとまず良いだろう。

 『なあ、立香君。』

 まだ通信が切れていなかったらしい、ダ・ヴィンチちゃんは僕に声を掛けた。

 「何かな。」

 『一応、私は君の仲間であるつもりだし、他に何人も、君の仲間が居る。だから、少しくらいは迷惑をかけてくれてもいいと思うよ。んじゃ、これで通信は終わり。何かあったらこれで声を掛けてね。』

 一方的に捲し立てられて、通信は切れた。

 「……そんなこと言われたら、頼れないじゃないか。」

 彼らには、もう迷惑はかけてきた。

 それに、これは僕が解決しなければならない。

 ただでさえ数の少ない『僕に出来ること』を、他人になんて押し付けられない。

 

 2-2

 「なあ、マーリン。」

 『おや、マスター。通信なんかでどうかしたかい?』

 「頼みがあるんだ。きっと君にしかできない。」

 『ふぅん?』

 「頼めるかな。」

 

 2-3

 頼んだのは、空間転移。

 もはや魔法の域に達している魔術。

 そんな風に倣った。

 だから、これは魔術を使った逃亡だ。

 当然、そんなことをすれば封印指定を受ける可能性だって出てくるけれど、それでも良かった。

 あそこから居なくなれればそれでいい。後はどうにでもなる。

 そう考えての行動だった。

 「でも、本当に良いのかい?これをやってしまったら、簡単には戻れないと思うけど。」

 僕と向かい合って椅子に座って、マーリンは笑う。

 「いいさ。みんなを傷つけないで済むなら。」

 「もうすでに私が傷ついているんだけど、そこについてはノータッチ?」

 「悪いとは思っているよ。だけど、こんなことを頼めるのは君だけなんだ。」

 「分かっているさ。これだって信頼だろう?」

 僕にはできない。

 僕に出来るのは、この迷いを捨てること。

 そして、皆に危害を加えないこと。

 二つ目のそれは、僕がこのカルデアを離れることで達成される。

 一つ目はその後だ。

 だから、まずはそれを実行したのだった。

 「だが、分かっているんだったら、次に会ったときにで良いから、アプリコットを淹れてくれると嬉しいね。」

 「あれ?マーリンって紅茶飲んだっけ。」

 「紅茶は飲まないけれど、ほら、私は夢魔だろう?」

 「そうだね。」

 「だから、アプリコットが好きなのさ。」

 「なるほど。流石だね、洒落てる。」

 こんな軽口も、ある程度の友愛と取ってみても良いのだろうか。

 「ああ、こうでなくっちゃ。別れくらいは明るく笑顔!泣き顔なんて、嫌いだからね。」

 「僕を口説こうとしないでよ。」

 「良いじゃないか。明るく、だよ。」

 そう言って、頭を撫でられた。

 乱雑に優しく、くしゃくしゃと紙に指が絡まる。

 「………優しいね、マーリンは。」

 「残酷なだけさ。ともあれ、これで君の悩みは一つ消えるはずだ。だけど私の悩みは増える。」

 「心配してくれているのかな。」

 「当たり前だろう、自分の主の旅立ちなんだから。」

 そう言って、目を細める。

 なんだか、しばらく会っていない父にあったような気持ちになった。

 「大丈夫だよ、心配しないでも。みんなの前から居なくなれば、傷つけなくて済むんだから。」

 「全くだ。一番合理的だね。私からすれば、合理的と云うのはいささか気分が悪いけれど。」

 「嫌いになったかな?」

 「まさか。」

 マーリンは笑う。

 だけど、僕は笑えない。

 こんなことを計画しておいて、責任感もへったくれも無いけれど、だけど、ここで笑ってしまったら、自分でも分かっていない何かが壊れる気がした。

 「そろそろかな。」

 マーリンは立ち上がる

 「そうか。…マーリン、今までありがとう。縁があったらまた会おう。」

 「契約したんだ。きっとまた会える。」

 「そうだね。」

 「どこか、送って欲しい希望の場所はあるかい?」

 「無い。今の自分を見ても、親は悲しむだけだと思うから。」

 「それじゃあ、マスター。最後に私の恨み節だ。」

 未だに笑う。面を被っているようだ。

 「君はきっと後悔する。苦労をして、悲しみもするだろう。だけど、それは本当に悲しい事かな?」

 「そうだね、でも、全部、今だ。今、僕がそれを体験してる。だから断言しよう。これは悲しいことさ。」

 今、全ての罪を体験してる。

 だから。だけど。

 「きっと、俺の運命は、とっくの昔に狂っている。」

 

 2-4

 「こんな僕でも、大切なものを失えば、善人にはなれるんじゃない?」

 「俺はもう、人を殺した。資格がないさ。」

 「それは、リスクから逃げているだけじゃないのかな?」

 「そうだよ。これだけ僕は戦ったんだ。普通に縋って何が悪い。」

 「普通に縋って、普通に生きて、普通に死んでいく。そんなものなんて、我楽多と変わらないと思うよ。それに固執することも、ね。」

 「だったら俺はガラクタで良い。」

 「臆病だね。」

 「悪いかな?」

 「悪いだろ。それでも人類を救ったマスターなのかな?」

 「そう、そこだ。」

 「何が?」

 「僕を縛っているのは、きっとそれなんだよ。」

 「人類を救ったってやつ?」

 「それ。本当に人類を救ったか、なんてわからないじゃないか。」

 「そうかな?じゃあ、あのドクターの慌てよう、あと例の魔神王の話はどうするのさ。」

 「きっと、俺を陥れるための一連の芝居かもしれない。僕が騙されたせいで、ロマンやゲーティアも殺しちゃったけど。」

 「ゲーティアは死ぬべきだった。だって、人類を殺そうとしたんだよ?」

 「なんとか、改心をさせる方法だってあったはずなんだよ。人間の温かさって言うのは、その為のものなんだから。」

 「それは人間にしか通じないでしょ。」

 「でも、その道を進む前に諦めて、逃げ出そうとする俺に蜂起せず、放棄したのは僕なんだ。」

 「難儀だねぇ、俺も。」

 「そうだろう?そんな君だ。」

 

 2-5

 目が覚める。

 目に映るのは、一年間にわたるサイクルで見慣れてしまったカルデアの部屋じゃなく、薄く埃の積もる汚れた協会の中だ。

 「……………。」

 三日前に目が覚めてみると、既にこの教会の中だった。

 つまり、マーリンと別れてからは、三日が過ぎた。

 一応、或る程度の金銭は持ってきたが、元々小食で燃費の良いことがあってか、あまり食事に不便はしていない。

 三日間此処に居たが、人が来る気配も無く、それ以前に人がここに来ている雰囲気が無かったので、ここを拠点にさせてもらっていた。

 住めば都という言葉を聞いたことがあったけれど、この教会は典型的なそれだった。

 埃っぽいのが気になるけれど、我慢すれば何とかなることだ。

 問題はここから、どうにかして生活しなければならないことだった。

 改めて、彼らの偉大さを知る。

 「………まあ、とりあえずおはよう。」

 自分とは思えない自分へとあいさつして、体を起こす。

 まずは、働き先だ。

 そう思って歩き出す。靴も服も、近くの公園に夜の間に出て洗った。

 もう乾いているので、それを着て、協会の外へ出た。

 「…………。」

 曇りだった。

 今にも雨が降り出しそうな黒い曇天である。

 日差しが無いのが少し寒かった。

 そう言えば、まだこの地域の名前を聞いていない。

 だが、公園の近くの看板に、日本語で何かしら書いてあったのは覚えている。暗くてよく見えなかったので、地域は分からないにしても、日本という事については確定のようだった。

 辺りは森。

 それなりに暗い。

 公園のあった方向に向かって、とりあえず歩く。

 

 しばらく歩いて、公園に着いた。

 夜の閑散としたそれとは違い、ベンチで座って日に当たる御老体や、砂場で砂を積み上げては崩し、暢気に笑っている子供姿がちらほらと見えた。

 こんなに寒いというのに元気なものだ。

 件の看板は東側。

 他の人たちが喋っている言葉は日本なので、予想は違っていないらしい。

 声のトーンから察するに、西日本の地域だ。

 僕の住んでいた場所よりも南である。

 どうも違うと思った。

 雰囲気に活気があふれている。

 俺の町よりも人が温かい。

 思っていたよりもいい場所に着いたらしい。この雰囲気は嫌いじゃなかった。

 そんな街の空気を浴びながら歩いて、看板が見えてきた。

 道路標示の青い看板。

 方向を示す矢印やら距離、主な施設の位置なども書かれていた。

 その中から、名前を見つける。

 「えーっと……冬と木、フユキ、かな?」

 おしゃれな名前だ。

 そんな名前の町は聞いたことが無い。

 聞いたことがないという事は、どうやら僕の故郷からは遠いらしい。

 好都合。

 「……まあいいか。」

 今はとりあえず、進む方向の一つや二つ、決めなければならない。

 方向を示す看板を眺めて、考える。

 「新都と深山町、か。」

 どちらがどのような特徴を持ち、どちらの方が便利なのかとか、そう言ったことは分からない。

 「………うーん。」

 少し考えたが、天啓は下りてこなかった。

 「まあ、とりあえずコッチかな。」

 結局は直感。

 新都を出る方向、深山町の方に向かって歩く。

 

 川を越えて、街の風景がガラリと変わった。

 歴史的な建物が増えたのが、そう感じた原因だろう。

 新都にあった高層ビルとは違い、少し昔の建物が所狭しと並んでいる。

 そんなこんなで深山町に着いた。

 「今日とってこんな感じなんだろうな……。行ったことないけど。」

 そもそも、こういう歴史的なモノに触れるのは、この一年でのことが初めてだった。

 だから、然程興味が無い。

 外国に比べて、日本のものが特殊だというのは分かるが、だから何だというのだろう。

 少し特徴的なだけで、特別扱いするのもどうかという気持ちがある。

 そんな風に自分に重ねてる問題を処理出来たらどんなに楽か。

 「……そんな楽じゃないよな。」

 こんなになるまで思い込んでいることが、楽なはずがないのだ。

 と、鼻に何かが当たる。

 拭ってみるとそれは水。

 雨が降ってきたようだ。

 今のところはひどくなる様子は見えなかったが、これからどうなるかはわからない。

 雨宿りでもしなければならないだろう。

 とりあえず、近くにあった家に入る。

 門を通って、庭を抜けて、玄関前まで着いた。

 玄関の扉横にあった、備え付けのチャイムを鳴らす。

 「はい、ただ今!」

 そんな声と共に、足音が此方に近づいてくる。

 数秒後に扉が開いて、少女が顔を出した。

 濃い紫色をした不思議な雰囲気の少女。

 「この家の者に何か御用でしょうか?」

 「すいません。用という訳では無いんですけれど、雨が降ってきたしまったので、雨宿りできませんか。」

 「ああ、はい、どうぞ上がってください。」

 僕みたいな怪しい奴のこんな胡散臭い頼みにも、快く答えてくれた。

 きっと純粋ないい子なんだろう。

 「こちらです。」

 そう言って、少し先に進む彼女の後を付いて歩く。

 普通の家と比べてかなり広い。家というより屋敷に近いと思う。。

 その建物の中を案内されて、客間らしき場所に着いた。

 「少しお茶を取ってきますので、お待ちください。」

 「あ、お構いなく……。」

 言い終わる前に出て行ってしまった。

 それにしても、今の日本にこんな大仰な個人宅があるとは思わなかった。

 あの娘はこの家の娘なのだろうか。

 なんだか、この家に住んでいる風にしては違和感があった。

 少し余所余所しいというか、玄関でも「この家のものに御用でしょうか」とかなんとか言っていたし、もしかしたら親戚やら関係者の類かもしれない。

 だとしたら悪いことをした。

 「……本当にどうしようもない奴だな、僕は。」

 いつも誰かに迷惑をかけて、無意識の悪意を振り撒いて、災厄が歩くように生きている。

 きっと僕さえ居なければ、あのままゲーティアの人理焼却が成され、皆が生きる希望を抱くことなく楽に死ねたかもしれないのに。

 世界を救ったことに意味があるのか?

 きっと意味はない。

 もしかしたらこの世界は人理焼却される直前に見ている理想なのではないかとさえ思う。

 そうだったらどんなに楽だろう。

 全部夢で、全部幻で。

 だが、もしそうだったらマシュとのあの記憶もなかったことになるのだと思うと、やはりそんなにいい物でも無いらしい。

 それによく考えたら、死ぬのが嫌で戦ったのに死んだらダメではないか。

 元も子もなくなる。前提の崩壊だ。

 どうやら相当に精神がやられているらしい。

 「………もういいや。」

 とりあえず、久々の屋内の床。

 何も考えることも無くゆっくりとしたかった。

 

 2-6

 「………ん?」

 目が覚めた。

 目が覚めたという事は、即ち数瞬前まで寝ていたわけで、つまり人様の家に上がり込んで勝手に寝始めた不届き者という事に……

 「お、目が覚めたか、あんた。」

 廊下の方からそんな声がして、意識がそちらに持っていかれる。

 「相当疲れていたみたいだったから、しばらく休んでもらおうと思ってな。」

 そこには赤毛の少年が居た。

 優しい目をして、優しい声をした、不思議な雰囲気の少年。

 「大丈夫か?」

 「……、はい。大丈夫、だと思います。」

 「そうか、外はもう暗いから、うちで飯でも食べてくと良い。」

 「はぁ!?」

 外を見ると、確かに暗闇に包まれていた。

 嘘だろ、ここに来たのは午前中のはずだぞ。

 という事は、少なく見積もっても九時間は寝たという事になる。

 いや、それよりも。

 「というか、いや、悪いですよ。雨宿りさせてもらった挙句に夕飯までごちそうになるとか……。」

 「見たところ数日は何も食べていないような奴を放っておけるわけないだろ。もうそろそろできるから食べて行け。聞きたいこともあるし。」

 恐ろしいほど面倒見が良い。

 きっと人を怠惰へと導くのが得意なタイプの人間だ、油断ならない。

 すると、僕の警戒とは裏腹に少年は人懐こい笑みを浮かべた。

 「あ、自己紹介がまだだったな。」

 「ああ、そういえば。僕は藤丸です。藤丸立香。」

 あ、反射的に答えてしまった。

 別に悪いという訳では無いけれど。

 なんて、暢気なことを考えている僕に少年は言った。

 こちらの気など知らずに。

 ただただ純粋な好意と誠意を主成分とした残酷さで。

 「そうか。俺の名前は衛宮士郎だ。」

 「…………エミヤ?」

 「ああ、そうだ。宜しく、藤丸。」




思ったよりも時間掛かっちゃったけど、まあ是非もないよネ。
ノッブ「おう儂の持ちネタパクんのヤメーや」
アシスタントでエドモンでも召喚するか。
巌窟王「俺は絶対にそちらへ行かない。俺は絶対呼ばれてない。」
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