カルデア物語   作:黒白紅藍

3 / 7
罪から脱するには死ぬしかないと、誰かが言っていたのを思い出した。
僕は死にたくないというのに。


それぞれの思想、それぞれの理想

3・それぞれの思想 それぞれの理想

 3-0

 エミヤ。

 衛宮。

「衛宮……衛宮か…。」

 夕食に呼ばれて屋敷の廊下を歩きながら考える。

 少なくともカルデアに入る前の僕の周りでは聞かなかった名だ。

 それなりに珍しい名前であるのは確かだろう。

 だから、連想せずにはいられない。

 かつての友人。

 切り捨ててしまった彼の顔を。

 黙々と淡々と、敵を切り伏せていく彼の姿が脳裏を過る。

 彼…衛宮士郎はあの英霊の血縁者だろうか。

 それとも、もしかしてもしかすると、子孫という事もあるかもしれない。

 そう思ったのは、きっと目だろう。

 目が似ているのだ。

 悪を糺し、正義を尽くす。

 そんな意思を奥に燃やす瞳が、どこまでも似ている。

 凛として、静を見据える彼ら。

 どうしたって、重ねてしまうのは必然だった。

「……………。」

 果たして、彼に会ったのは偶然だろうか。

 どうも出来過ぎているような気もする。

「絶対に忘れさせない。」「お前は苦しむべきなのだ。」「人殺しへの罰だ。」

 そんな世界の意思を感じる。

 世界の意思。

「………世界の意思、ねぇ。」

 シェイクスピアの影響だろうか。

 自分からそんな詩的な意見が出るとは思えなかった。

 思わず苦笑する。

 と、ここで気付いた。

「……なんだ。」

 笑えているじゃないか。

 顔の筋肉が、その形に動いている感覚がある。

 苦笑とはいえ、笑みは笑み。

 カルデアからここまで、笑うことができなかった。

 だから笑えたことは大きな進歩だ。

 そこで油断して。

 窓の外の暗くなった窓を見た。

 見てしまった。

「………。」

 無表情の僕の顔が映っていた。

 どうしてだろう。

 明らかに笑っているはずなのに。

 窓ガラス。

 黒い鏡の向こうが笑う。

 僕の顔が醜く笑う。

(ぼく)は失敗作だ。』

『もう笑えることすらできないじゃないか。』

『人を殺した(ぼく)に人を笑う資格なんて残されていない。』

『ならば、自分を笑わず、誰を笑う?』

『誰を馬鹿にするというんだ?』

『誰を蔑み堕とすんだ?』

『もう自分しか残っていないだろう。』

『だから自分を笑ったんだ。』

『なのに』

『其れすら出来ない(ぼく)は』

 

『きっとただの欠陥品だ。』

 

 3-1

 ハッとして、目が覚める。

 暖かい。

 これはストーブだろうか。

 後ろを見ると、電気のストーブが点いていた。

 どうやら、また悪夢のようだ。

 これから僕は、一生僕を苦しめるつもりなのだろうか。

「………ここは」

 和室だ。

 それなりに広い。

 壁のところにある柱の真ん中より上、鴨居の辺りにかけられている時計を見る。

 時刻は午後八時。

 なぜこんなところにと、そこで思い出した。

「…そっか。夕飯後に寝ちゃったんだ、僕。」

 あの後。

 夕飯を頂いてしまった僕は「質問があるから待っていてくれ。」と片づけを始めてしまった彼を待っていたところ、久々の温かさで寝てしまったらしい。

 当初は、食事中に紹介された桜ちゃんも居たはずだけど、彼女はもう帰ったらしい。

 簡単明瞭な回想終了。

 人様の質問を放り出してなんて失礼なことを………。

 なんて頭を抱えていると、僕の右側の部屋の奥。

 据え付けられたキッチンで何かしらの作業をしていたのであろう。衛宮君が顔を出した。

「お、やっと起きたか。魘されてたから心配したんだぞ。」

「……衛宮君。」

「まあ、しょうがないか。体もボロボロ、服も汚れて、かなり疲れていただろうから。」

「…ゴメン。」

「良いよ、別に。」

 そう言って、こちらにお盆の上に乗せた茶を運んできた。 ここでふと、少し前の記憶を思い出した。

「……そういえば、僕に質問があるんじゃなかったっけ?」

「ああ、そうそう。少し聞きたいことがあってさ。いいか?」

「……答えられることならいいけど。」

 何だろうか。

 こんな怪しいものに質問と言うのも当たり前のようだが、それにしてはやけに衛宮君が真剣だ。

「でも、それにしたって、こんな僕に質問するようなことも無いように思えるけど。」

「いや、そんなことは無いぞ。色々聞きたい。」

「…色々って。」

「俺の家に雨宿りに入ったのも、きっと何かの縁だろうし、そういう細かい縁は大事にするべきものだろ?」

 衛宮君はそう言った。

 それについては大いに同意だ。

 僕もそれによって、一つしかない命を何度も救われた。

 最後の日だって、縁がなければ勝てなかっただろう。

「……そっか。」

「ああ。…それで、質問なんだが、いいか?」

「うん、構わないけど。」

「手の甲にあるその刺青みたいなのって、令呪で合ってるか?」

 

 3-2

 何故、彼がこの事を知っているのだろう。

 一般人には知られていないはずだ。

 魔術協会や聖堂協会が行う神秘の秘匿によって、聖杯戦争その他魔術については、一般人には知れ渡っていない。

 だから彼が知っているはずがない。

 なぜ知っているんだろう。

 昨日の夜にそう考えて、そう聞いた。

「……なんで知ってるんだ?」

「ああ、そのことか。」

 そりゃあそうだと、そう言って納得するような、やってしまったというような顔をした。

「……今から一年くらい前に、俺も聖杯戦争に参加したんだ。」

 聖杯戦争の参加者。

 という事は、恐らく彼は魔術師か。

 彼の間隔で今から半年前から一年前という事は、二年前くらい。

 という事は、話に聞く『冬木の第六次聖杯戦争』だろうか。

 いくらか前に、Dr.ロマンからその話は聞いた。

「少し前に日本の冬木で聖杯戦争が起きたんだ。本当に一年くらい前の話なんだけど、驚くことに冬木では、その十年前にも聖杯戦争が起きているんだ。つまり僕が前所長と参加したものを含めても計三回、冬木で聖杯戦争が起きていることになるんだ。ある意味聖地だよ、あそこは。」

 そんなセリフを思い出す。

 アニムスフィア家が勝者として聖杯を勝ち得た聖杯戦争が大体、十から二十年前。

 そこから、三十年間の間に三回の聖杯戦争が起きた場所。

 僕の間隔で言ったらそんなに多くない気がするけれど、僕のケースは異例だという事を考えると、確かにあの規模の戦いが三回も起きるなど、どうして神秘が露見していないのか不思議なレベルである。

「それで、その時にいろんな人に迷惑をかけて、いろんな人の手を借りながら、それでも何とか勝ったんだ。」

「……なら、衛宮君は聖杯を手にしたの?」

「いや、壊した。」

「は?」

 聖杯を壊した?

 願いを叶える万能器ではなかったのか?

 そもそも、そんな簡単に破壊できるものとも思えないのだが…

「いや、それが俺にも良く分かってないんだけど、普通の聖杯とは違ったらしいんだ、ここの聖杯っていうのは。」

「違うってどういうこと?願いが叶わないとか?」

「いや、違う。人間の願いをマイナスの形で叶える願望器ってだけだ。」

 人の願いのマイナスを叶える。

 オケアノスのメディアの発想のようなものだろうか。

「世界は滅びる、即ち敵は居なくなる、つまりは無敵である。」

 そんな感じの。

「うん、まあ、そんな解釈で良いと思うよ。……あれは汚れた聖杯って呼ばれていた。」

「汚れた聖杯……。」

 綺麗を白とするなら、汚れとは黒。

 汚れた聖杯。

 黒の聖杯。

「何回か前の聖杯戦争で使われた聖杯が、何ゆえかの原因で変容したらしい。」

 汚れた原因は不明なんだそうだ。

 衛宮君はあきれた様な口調でそう言った。

「というか、俺に願いとか、そんな大層なものも無かったしな。」

「……なら、何で聖杯戦争に参加したの?」

「いや、俺は自分から参加したんじゃないよ。巻き込まれたんだ。」

「巻き込まれたって…」

「まあ、いろいろあってな。」

 いろいろあった。

 “いろいろ“とは、恐らく一点の曇りもなく”“いろいろ”で、その言葉にどんな意味が込められているのか、どのような出来事、どのような重みが込められているのか、とてもじゃないが分からなかった。

「……ん?」

 そこで、はたと気付く。

「なあ、衛宮君。聖杯戦争って、途中で止めることもできるって聞いたんだけど…。」

「ああ、その話な。……俺には志と夢があったから。」

「でも願いは無いって…。」

「願いじゃないよ、これは夢だ。」

 真剣な顔をして、彼は語る。

「それに、そんな風に夢が叶っても、なんか嫌だろ?」

「…どんな夢か聞いてもいい?」

 知りたいと思った。

 彼みたいに強い意志を見つめる人がどんな願いを持って夢を見るのか、興味を持った。

「あー……。」

 衛宮君は照れくさい顔をする。

 まあ、そんなものなのだろうな。

 夢と言うのは恥ずかしいものだ。だが、だからこそ美しい。

 そんなシェイクスピアの言葉を思い出した。

「自分でも心底恥ずかしいと思うし、人に言ってもいいのかとすら思ってることなんだけどさ。」

 照れくさそうに、だけどしっかりと強い目をして。

 彼は言った。

「俺はさ、正義の味方になりたいんだ。すべての人を助けることのできるような、そんな正義の味方に。」

 

 3-2

 成人してから名乗るのが難しく、最も非難されやすいであろう職業、暫定一位。

 正義の味方。

 その定義は人それぞれ、かなりの数を占める。そしてそれはきっと、人の理想の具現だ。

 心に存在する感情の形態などと、そんな曖昧で抽象的な産物だけれど、それに縋る事によって人々は平穏を保つのではないだろうか。

 悪行を踏み止まり、弱きを助け、正義を成す。

 その原動力。

 そしてその“正義”もまた、人それぞれ。

 例えば“悪を懲らしめるヒーロー”。

 例えば“謎を解き明かす頭脳”。

 例えば“この世の神秘を守る義務”。

 それが時に悪となる事もある。

 人それぞれなのだから、そうなることもあるだろう。

 悪行を踏み止まり、弱きを助け、正義を成す。

 それは限りなく自分基準だけれど、なんせ全人類は七十億人。どんな人物がいるかわからないし、どんな人物だって居るだろう。

 だからきっと、正義は両側面なんだ。

 人との違いによって、善にも悪にもなる。

 自分の正義が正しいのか。それとも間違いなのか。

 それを決めるのは自分でなく、それを見た赤の他人だ。それ故、世界中で戦争が起こり、他人を排他し支配しようとするのだろう。

 だから価値観の違い、反りが合わない原因とは即ち他人との正義の相違にある。

 と、ここまでをまとめて、僕の主張をできるだけ簡潔に表現するとしたら、だからきっとこうなるだろう。

 他人のためとか、人類の革命とか、そんな民主主義を気取っても、最終的には正義の味方とは、圧倒的なエゴイズムである。

 

 3-3

 昨日、衛宮君の屋敷から帰るときに「明日、また家に来て、藤丸の事情について話してみてくれ。色々あったみたいだし、少し話を聞きたいから。」と言われた。

 こりゃあ、桜ちゃんが惚れるのも当たり前か。

 そんな風に納得した。

 そういう訳で僕は今、衛宮君の屋敷に向かって、教会から出て歩いていた。

 まだ朝の八時。

 薄靄のかかった街中、歴史的な建物の立ち並ぶ住宅街を、僕は走っていた。

 別に何か理由があって走っていたとか、そんなことは一切無く、ただ運動がてらに軽くランニングをしながら向かったというだけである。

 自分の事だけど、心底暇な奴だな、僕。

 こんな時間に来られても、衛宮君も迷惑だろうに。

 教会を出てから、すでに十五分ほど走っているが、冬の寒さに自分の汗を掻かない体質も相まって、あまり汗をかいていない。

 とはいえ、さすがに少し疲れてきた。

 今回の一人での逃避行には、あまり服を持ってくるのも邪魔になるからと、カルデアの制服くらいしか持ってきていない。

 汚れがすぐに取れるし、それなりに繊維も丈夫だから役立ってはいるが、今回ばかりはその繊維の丈夫さが仇となった。

 少し繊維が固くなり、走りにくい。

 これならば、運動用に戦闘服でも袋に入れて持ってくればよかった。

 とはいえ、後悔先に立たず。

 どうにもできないことを考えても仕方ない。

 あの時の自分は間抜けだったと諦めて、そのまま走り続ける。

 そこからまたしばらく走って、衛宮君の家の塀が見えてきた。

「……にしても、相変わらず大きいな。衛宮君の家。」

 なんだか、『や』の付く仕事の人達の仕事場のような風の屋敷である。

「入るのが億劫だよ、全く…。」

 とはいえ、今日は僕が呼ばれた側だ。入らない訳にもいかない。

 まだ朝早いことを気遣って、静かに門を通る。

 確か、「いつ来ても構わないから」と、そう話した記憶がある。

 とはいえ、こんなに早く来るとは思っていなかっただろう。悪いことをしたかもしれない。

 家の玄関の前まで来たけれど、人が居るとか、

 生活をしている気配がない。

 まだ寝ているのだろうか。

 昨日会った時にはそんな印象はなかったけれど、もしかして彼は朝に弱いのだろうか。

 そこで待っていても何か起こるわけでは無し。ベルを鳴らす。

 一分待っても二分待っても、さっぱり反応は無かった。

 これではどうしようもないし、一度帰って出直そうかと体を半分振り返らせた辺りで、何かの音が聞こえた。

 恐らくこの屋敷の向こう側。

 兵の向こう側に見えた蔵の辺りから重い音が聞こえた。

「……なんだろう。」

 何か作業中だったのだろうか。

 ともかく、そこに誰か居るならちょうど良い。

 衛宮君じゃなくとも、そこから衛宮君に繋いでもらえばいい。

 そう思って、家の裏側に向かった。

 予想よりも少し広い庭を通って、裏手に回ると、案の定、倉らしき場所から衛宮君が出てくるところだった。

「衛宮君。」と呼びかけると、彼は振り返った。

 僕を視界に収めると同時に、少し微妙そうな苦笑を浮かべる。

「おはよう、藤丸。」

「うん、おはよう。朝早くにごめんね。」

「いや、構わないさ。何時でも良いって言ったのはこっちだしな。」

「いや、それについては本当に悪いと思ってるんだよ。でも寝泊まりしている教会に人が入ってきちゃったからさ。バレないように出てくるの大変だったよ。」

 アハハと笑ってそう言うと、今度は信じられないものを見るような目になって、次いで溜息を吐いた。

「……まあ、その辺りの話も後でするか。」

 僕はそうだねと返して、屋敷の表側に向かった。

 

 3-4

 玄関から上がって、そのまま居間に通されたそのまま待つのでは暇だったので、衛宮君の朝食中に他愛のない話をして時間を潰した。

 それこそ、好きなもの、嫌いなもの、聖杯についてとか、英霊の皆と話していたようなことだった。

「それで、三人目、一番最後の彼はこう言った。『俺の勝ちだな。俺の彼女は性格もルックスも最高。唯一の欠点は、のどぼとけが異常に出ていることぐらいだ』ってさ。」

「ははは!面白いな、それ。実話か?」

「ああ、少し前にアメリカで。」

「本場のそれか。さすがだな。」

 なんて、そんな軽口も叩けるくらいの信頼を置くことはできた。

 この時ばかりは嫌なことを忘れることが出来ていたんじゃないかと思う。だがそんなことを意識している時点で、きっと忘れることなく心に深く罪悪感が根付いていたんじゃないだろうかとも思う。

 なんて、こんな思考を言葉にして書くことで、僕は何とかして言い訳を探しているのかもしれない。

 と、こんな考えがずっと頭を巡る。

 もはや自分にも疑心暗鬼になっているらしいことだけは確かに分かった。

 

 3-5

 しばらく話して、衛宮君があの話を切り出してきた。

「それでさ、藤丸。昨日言っていた話なんだけど。」

「ああ、僕がどう言った経緯でここにいるのかって話?」

「ああ。話してもらえないか?」

「別に構わないよ。秘密とかもあんまり無いし。心配なのは信じてもらえるかどうかってとこだけど。」

 嘘だ。

 実際、カルデアの話をどこまで話していいのか分からない。だが、それについて話さない事には、事態の前進は

ない。

 だったら、真実を話すことが必須だろう。

 その真実も、夢だったといわれたら信じてしまいそうな奇抜なものだけれど、それでも面白い話ではあるから、面白くないよりはマシだろう。

 だから、嘘だと思ってくれて構わない。判断はすべて衛宮君に任せよう。君が嘘だと思えばそれは全て嘘で終わるし、本当だと思ってくれたなら、それはそれで話した甲斐があるというものだ。

 そう前置きをして、僕は彼に話を始めた。

 一年前、カルデアで起きた最初の爆発から、冬木市街、オルレアン、ローマ、オケアノス、ロンドン、アメリカ、キャメロット、バビロニア。そして最後のソロモン神殿。すべての特異点で起きた出来事を、包み隠さず、出来る限りの全てを話した。

 その間、彼はとても真剣に僕の話を聞いてくれたし、僕もそれに合わせて喋って、それなりに詳しい説明が出来たのでは無いかと思う。

 その後、半日くらい掛けて何とか、ここ一年の人理修復についてのエピソードを話し終わった。

「……うん、これで終わりかな。僕のここ一年の活動っていうのは。」

「そうか。……大変なことをしてたんだな、藤丸。」

「……信じてくれるの?」

 まさかこんな簡単に信じてくれるとは思わなかったけれど。

「ああ……まあ、俺も一応魔術師だからな。嘘のような体験なんて、何回もしてきたから。」

「そっか、ありがとう。」

「別にいいよ。ただ、一つ分からないことがある。」

「?」

「藤丸が、どういう経緯を辿って、何があってこんな処に居るのかっていう今回俺が聞きたかったことが全く以て分かっていない。」

「………ああ。」

 そのことをまだ話していなかった。

 というか、きっと、無意識に避けていたのだろう。

 こんな話聞きたくも無いだろうしと、自分の中で答えを決めて、話すことから逃げていたのだ。

「……僕はさ、君みたいに正義の味方を目指したりしている訳じゃないけれど、それなりに責任感は強い方だと思ってる。」

 いや、違う。

 もうここにいる時点で、責任感なんてものは、僕には欠片も残っていない。

 あるのはきっと、どす黒い人殺しと言う存在だけだ。

「だから、世界を救うならその時代の人たちは全員助けるべきだったんだ。誰一人殺すことなく、人種も性別も欠かさず、老若男女分け隔てなく、全員助けるべきだったんだ。」

 衛宮君は黙って聞いている。

 僕はそのまま続けた。

「だけど、僕が行った場所では沢山の人が死んだ。子供も死んだ、大人も死んだ、男も女も死んで、動物ですら死んだ。僕が殺したんだよ。皆を僕が苦しめて殺した。」

「……違うだろ。それは藤丸のせいじゃない。」

「そんなことは分かってる。俺のせいじゃないってことくらい、百も承知なんだ。」

「だったら……。」

「でも、なんでかな。きっと僕のせいなんだっていう気持ちが、何時まで経っても消えないんだ。だって彼らは、僕がもっと完璧だったら死ななかったんだから。」

「……完璧な奴なんて、この世にはいないよ。きっと、宇宙を探したところで存在しないだろう。欠点があるのが人間なんだから。」

「………うん、そうだよ。ただ、僕にはその欠点が許されないものなんだ。僕だけが損をするならそれで良い。だけどそれで、ほかの関係ない人たちが死んだんだ。だから、僕にはそれが許せない。」

「………藤丸」

 世界を救って、その優越に浸って、一日も経たずにそれに飽きて、残ったものは後悔と酷いPTSDのような魔術王の呪いだけだった。

 そんな僕を見ると、惨めで仕方がない。

 世界を救ったのがこんな男では、誰だって幻滅するだろう。

「……PTSDって、そんなに酷い状況なのか?」

「いや、それについては僕一人で苦しめばいいだけだから、別にいいんだ。だけど、ここに来る数日前に、その発作で大切な人を傷つけたんだ。僕が苦しめばいいのに、僕が苦しみに耐え切れず外にそれを漏らして、あろうことか、この世で一番大切な後輩を傷つけた。だから、酷いっていうならそっちの方が酷いんだ。」

 質問の答えになっていないような、彼からしても聞いても居ないような独白を、嫌な顔一つせず真面目に聞いた後に、どうも微妙な表情を浮かべてこう言った。

「そこまでしょい込むべきでもないと思うがな……。まあいい。一旦、その話は置いておこう。昼飯、食べていくだろ?」

「いや、悪いよ。それに僕、まだ地下で見つけた缶詰とかあるし……」

「いや、そんなところに病人を置いておく訳にもいかない。とりあえず食っていけよ。」

 そう言って、強引に押し切った後、キッチンの方に歩いて行ってしまった。

 と言うか、病人?

 体は特に異常は無いし、熱がある訳でもない。

 なぜだろう。

 その後、そんな思考を十分ほど繰り返したが、答えが出ることは無く、衛宮君の声にかき消されて、記憶の底に消えていった。




衛宮「俺のキャラ崩壊、酷くないか?とくに口調。」
原作が出来ないんです。なぜあれがエロゲなんだ……。R指定め、憎らしい。
藤丸「最近は携帯でもできるらしいよ、あの原作。」
へぇ、そうなんだ。
エミヤ「そんなあからさまに媚びを売るな、マスター!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。