カルデア物語   作:黒白紅藍

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罪とは他人が決めるもの。
罰とは自分に課せるもの。


救いの雨

6・救いの雨

 

 6-0

「マシュ…?」

「お久しぶりです、先輩。」

 彼女は御辞儀の見本のようにしっかりと下げていた頭を上げて、にっこりと笑う。

 その笑みにどんな意味が含まれているかは分からないが、以前のように屈託無くとはいかなかったらしい。疲れが表面に出てきていた。

「お迎えに来ちゃいました。」

「お迎えって……」

「はい、お迎えです。本当はリツカさんも居たんですけれど、商店街の辺りで別れてしまって、通信でも気にするなと言われたので、私だけでも、と。」

「…それはダメだよ、マシュ。」

 君だけは来ちゃいけない。ほかの誰かなら————いや、ほかに誰が来たとしてもあまり気は進まないけれど、でも、ほかの誰かなら許せたかもしれないのに————君だけは来ちゃいけなかった。

「僕は君を傷つけたくなくて、あの場所から逃げ出したんだ。それなのに……君がここに来たら、すべての行動に意味が無くなってしまう。それはいけない。」

「……先輩、それでも、私は…」

 彼女は手をこちらに伸ばす。

 雪のように白い肌をした、綺麗な手。

「貴方を……私だけのマスターに…」

 その手があと少しで僕の腕に触れる。

「ッ……!!」

 そう自覚したときには、僕はもう反射的に走り出していた。

 後のことは全く考えていない愚かな行動だったけれど、何とかしてこの場から離れたかった。

 

 6-1

 走って走って、足が棒になった辺りで、教会に着いた。

 かなり痛む足を引き摺って、四日前に見つけた例の地下室に入る。

 ドアを背にして、へたり込んだ。

 何でここに来たんだろう。

 そんなに思い入れがある訳でも、頼れる人が居るわけでもないのに。

「……それはきっと、マシュたちが知らないからだ。」

 この場所はマシュたちの意識の外にある。

 知っているのは衛宮君くらいか、もしかしたら桜ちゃんもそうか。

 だからここに居れば安心だと、そう無意識で考えたかもしれない。

「…………弱いなぁ。」

 本当に弱い。

 彼女は迎えに来てくれたと言った。

「それなのに。」

 逃げ出して、この様か?

 あまりにも弱い。脆弱で矮小だ。

「…………」

 怖い。

 心を恐怖が支配する。

 心に殺意が芽生える。

 …………

 殺意?

「なんで?」

 心に問うが、答えが返るはずも無い。

 だが、殺意と共に湧き出る感情で、誰に向けての殺意かは大体が想像できた。

 自分の感情なのに想像というのもおかしい話だけれど、ともかく想像は出来た。

「………嫌だ」

 嫌だ

 殺したくない

 もう誰も殺したくないのに

 殺意ばかりが湧いてくる

 井戸水のように湧いて

 溢れて

 感情が

 死んで

 感覚も

 温度も

 音も光も無くなって

 

 僕の全てが無くなって

 

「……だれか、助けて」

 虚空に響く、僕の声

 

 6-2

「おやおや、彼は案外、心が脆いらしい。」

 白ローブを深くかぶる魔術師は、億劫そうに呟いた。

 なんとも、つまらなそうに、呆れた顔で虚空を見る。

 暫くして、後ろに控える扉が音も無く開いた。

 一人、壮年の劇作家が歩いて入る。

「『そこの岩を砕くが良い、出来たのならば国をやろう!』」

「……また君は。騒々しいねぇ、シェイ氏。もう少し静かには出来ないのかい?」

「なんだか以前に似たようなことを言われた気がしますが、ともあれごきげんよう、Mr.フラワー。何が御用ですかな?」

「いやね、マスター君。心折れちゃった。」

「おお、なんと!……いやはや、やり過ぎましたかな?」

「いや、大丈夫さ。彼の心を救うには十分すぎる、最高の駒が一つある。彼女がそろそろあそこに着くはずだ。」

「ああ…少女も向こうへ行ったのですか。ここのシナリオは負けましたなぁ。」

「そうだね、アンデルセン氏は素晴らしい脚本を書く。こと悲劇に関していうなら、彼は天才だ。」

「まあ……うん、そうでしょうな。吾輩が担当したのはあくまで『逆転』。そこまでの道のりは彼にすべて放り投げましたからな。」

「それはそれは、随分とハードなことを頼んだものだね……彼、泣いていなかったかい?」

「なに、今は寝ております。倒れこむ寸前にナーサリー氏が通りかかったものですから、あとのことは任せました。それに、彼に無茶ぶりで返されましたから、御相子ですよ。」

「ハハハ、やはり仲がいいんだね。彼らは。」

「その様ですな…最も、彼女からの一方的な興味なようですがね。アンデルセン氏はもう興味を無くされている。」

「なんだ、そうだったの。彼があの魔本に興味を持ったんだったら、それはそれで面白そうなのに。」

「それは、まさに喜劇としか言いようがない!」

「そう笑ってやるなよ。」

「笑いたくもなります。」

「まあ、それもそうか。」

「………ところで、前々から疑問に思っていたのですけれど、彼を逃がすことなんて本当に可能だったのですか?」

「どういう事?」

「いえ、ですから。この去る者を仕留めると言っても過言ではない魔術師界隈、その中でも特に重要であるとされるこの天文台から、本当に貴方だけで彼を逃がすことは出来たのか、と聞いているのですよ、フラワー。」

「ふむ………ここで答え合わせでもするかい?」

「………………」

「君だけで、この価値ある情報を聞くかい?」

「……いえ、止めておきましょう。シナリオとは、演じてこそ意味がある。犯人の分かった推理小説なぞ、ただの紙も同然でしょう。」

「フフフ、良い判断だ。」

「それに私は……」

「私は?」

「私には探偵の演技は向いていないのですよ。」

「……うん、私もそんな気がするよ。」

「ええ、人生とは影法師、人情とは赤い夕陽……ならば人は、そこいらの猫と変わらない。違いますかな?」

「………私、哲学は苦手だよ。」

「呪文も読めないあなたの事です、さぞ難しいでしょうなぁ!」

「おやおや、言ってくれるじゃないか、シェイ氏。夢に化けて出てやろうか。」

「そりゃあ、勘弁ですな。」

「私も御免被る……お、場が動いた。」

「はい?」

「リツカさんが着いた。」

 

 6-3

「…………」

 どれほど経っただろう。

 もう三時間ほどこうしている気がするし、かと思えば次の瞬間には、まだ三分くらいしかたっていないような気もする。

「……………………」

 少し背中が痛くなる。

 思ったよりも固い床が影響しているらしい。

 一度立って、肩を回して背筋を伸ばす。

 体中に血が巡る、気持ちのいい感覚がした。

 扉には鍵が掛かっている。幸い、鍵は頑丈で、壊れるようなことはなさそうだ。

 部屋の中を見回して、以前では出来なかったような、しっかりとした探索を始める。

 こんなことをしている場合ではないと分かってはいるけれど、今は体を動かしていないと、気が狂いそうだった。

 とりあえず近くにあった棚を漁る。

 かなり昔のものだったが、まだかろうじて記憶にある、懐かしい車の玩具が出てきた。

「わぁ、懐かしいなぁ。」

 思わず声が出たが、気にしない。

 かなり薄れた記憶を辿って、後ろ側に付いている紐を引っ張って床に置くと、少しガタガタとした後に走り出した。

 驚いた。酷い保存状況だったけれど、まだ動くのか。

 からからと乾いた音を響かせて回るプラスチックのタイヤは、部屋の端から端まで走った後に止まる。

 立ち上がって拾いに行くと、玩具の止まった壁に接する棚の下から、何か細長いものが覗いている。

 気になって、引き出した。

「ッ!」

 それはロープだった。

 ちょうど僕が首を通せそうなくらいの、細長いロープ。

 一瞬の動揺。

 それと同時に、さっきの殺意が沸き上がる。

「……これがあれば」

 これがあれば、殺せる。この棚の中には金槌も釘もある。これだけ足りなかったけれど、此れさえあれば、彼女を救える。

 早く殺さないと

「早く殺さないと…」

 それだけがループする。

「……早くしないと」

 ギリギリ天井には手が着くくらいの椅子が、この棚の横にある。

 とりあえず、とその椅子に乗って、棚の中段から無造作に釘を掴む。

 何本か掌に刺さったが、あまり気にはならなかった。

 何本か、真っ直ぐなものを見繕って、それ以外を棚の金槌と持ち替えた。

 ロープを押さえて天井に釘を打つ。

 金槌がやけに重く感じた。

 十分後。

 小さな殺人器は完成した。

 少し首を通す穴が小さいかもしれないけれど、それは縄自体が短かったのだから、仕方がないと割り切ろう。

 ……これで準備は整った。 

 後は覚悟だけ。

 殺す覚悟

 死ぬ覚悟。

 生き抜く覚悟をしなければ。

 

 6-4

「君は、それでも私の恩人なの?藤丸君。」

 突然、最後の最後に覚悟を決めるための時間を過ごしていた僕の背後から、少女の声がした。

「君は……」

「そ、藤丸リツカ。君と同じ、カルデアのマスター。」

 藤丸リツカが立っていた。

 なぜ彼女がここに居るのだろう。

 部屋には鍵が掛かっていた。錠前やら閂やらでなく、よくあるタイプの鍵が閉まっていたはずだ。

 いや、それ以前に彼女はまだカルデアからここへは来れないはずではないのか?

 それになんで、ここが分かった?

「……んー」

 やれやれとでも言いたげに、彼女は顔を上げた。

「ここへは、普通に許可取って飛行機で来たんだ。

 なんで分かったかとここの鍵については士郎サンに頼んだんだよ。彼、凄いね。魔術でパパっとカギを作っちゃった。今はちょっと外してもらってるんだけど、あとで君もお礼を言うんだよ?」

 そんな風にニコニコと、今日あった出来事を面白可笑しく語る夕飯時のような雰囲気で、彼女は言った.

「……何で来たの。」

「決まっているじゃない。君を連れ戻すため……いや、違うなぁ。なんて言えばいいんだろう……うーん…」

「いや、決めてから来なよ。」

「いやいや、実際に会うと何を話していいか分かんないよねー。……そうだなぁ、君と話すため、かな。」

「話す?」

 こんな人間もどきの出来損ないと?

「うん、話す。だって君、私のカウンセラーなんでしょ?だったらしっかり私の想いとか聞いてもらわないと。」

「ああ……そう言えば有ったね、そんな話。」

 だが、こんな僕にはもう務まらないのでは?

「うーん…まあ、別にそれを気にしなくてもいいよ。私と話そう。」

 そう言って、にっこりと笑う。

 先程から全く以て屈託のない綺麗な笑みだった。

「私と話したうえでまだ君が死にたいって言うんだったらそれでも良いよ。でも最期にさ、一回だけチャンスを頂戴?」

「………………」

 ……………

「……うん、いいよ。でも最後に君の目の前で、首を吊って死んでやる。」

「ありがとう、藤丸君。」

「別に……いいよ。これで最期なんだから。」

 

 6-5

「んー……じゃあ、前々から気になってたんだけどさ。」

「なに?」

「藤丸君とキリエライトちゃんって付き合っているの?」

「………何でそうなるんだ。……付き合っちゃいないよ。ただ仲が良いだけ、特別な好意は何もない。」

「特別な行為も無いと。」

「やかましいわ。…女子相手に話してる僕の身にもなってくれよ。」

「わーるかったって。そう言えば、さっきキリエライトちゃん、酷く荒れていたんだよ。電話越しに号泣しちゃって。

 君、何をしたのさ。」

「何もしていないよ。僕はただここまで走っただけだ、彼女には何もしていない。」

「ふぅん……なるほど、それが原因か。」

「なんか言った?」

「ううん、何にも。それじゃ次…この前さ、あの施設でレオナルド先生から聞いたんだけど、最終的に君一人で人理を修復したらしいね。」

「……まあ、うん。最前線で戦った、今も生きている人間って言うのは、僕一人だ。」

「人間?」

「…君も見たでしょう?エミヤとか、マーリンとか。」

「ああ、そういう事。」

「うん、彼らは英霊だからね。僕みたいな後輩とは違う。」

「そう言うもんなんだね…大変だぁ。」

「何を暢気に言ってるんだ。僕が死んだあとは君が後釜に入るんだよ?」

「タハハ、大変だねぇ。」

「……僕からも一つ聞きたかったんだけどさ。」

「なにかな?」

「…君と衛宮君って、親戚だったりする?」

「ううん、全然そんなことないよ。士郎サンも私と似てるなぁって思ったみたいだったけど。」

「ふぅん…。」

「あー、でも兄貴が居たっていう話は聞いたな」

「ん?」

「いやね、今の私の藤丸姓って、母方の親戚のものなんだけどさ。昔、私が生まれた町で大火災があったらしくて、それで母さんも父さんも死んじゃったから、その家に引き取られたんだ。」

「………」

「で、その時に私の兄貴も行方不明になったらしいんだけど…良く分かんないなぁっていう話。

 もう十年くらい前のことだし、その町の名前も忘れちゃったしね。調べれば分かるかもだけど、もう私は昔の私とはきっと違うから。」

「……なるほど、良く分かった。」

「なにが?」

「君は強いって分かった。僕なんかと比べ物にならないくらい、硬くて強い。」

「でもその代わり、割れたら中々戻らないよ。……今の君みたいに。」

「言うね。」

「今までキリエライトちゃんがした心配の分の仕返しだよ。彼女はきっと許しちゃうだろうから、私が代わりにやっておく。」

「そりゃあ良い。」

「でしょ?……それじゃあ、最後の質問。」

「ああ、良いとも。」

「君は何を後悔しているの?」

「僕は……」

 

 6-6

「僕は……」

 答えに詰まる。

 この言葉を返して良いものか。

 彼女は落胆し、失望しないだろうか。

「僕は……」

 だが、話さなければいけないだろう。

 彼女はそのために、きっとここに来たのだ。

 なら、話すべきではないか。

「…僕は、たくさんの人を殺した。」

「……。」

「人理修復で救った人類の数に比べれば微々たるものだけれど、それでもたくさんの人が僕の目の前で死んでいった。

 憎しみの目を向け、悲しそうな顔をして、呪詛を吐きながら死んでいった。

 だから、僕は許されちゃいけないんだよ。

 許されて、そのことを忘れて、ただのうのうと生きるなんて、僕にはできない。」

「でも許されたい、と。」

「………僕はそれを願っちゃダメなんだよ。きっとそれをやったら、人間でいる資格は無い。」

「………はぁ…。」

 僕の答えを聞いて、リツカちゃんは呆れ顔でため息を吐いた。

「…君は、心底馬鹿だね。」

「なんでさ。そんなに言うことないじゃないか。」

「いや、言わせてもらうよ。ここは絶対に譲らない。君は心底馬鹿だよ。全人類をまとめたような大馬鹿者だ。」

「………」

 少しムッとする。

 そこまで言うことも無いじゃないか。

「……なんでそう思うのさ。」

「あれ、ちょっとムッとしてる?」

「そりゃあするさ。そんなに言われたら。」

「ああ、ゴメンね。悪かった悪かった。」

 絶対思ってないだろ。

 棒読みすぎて逆に清々しい。

「話を戻すけれど、君は本当に馬鹿だ。」

「お、おう…。」

「君は人を殺していないじゃない。なのに、なんで君が気に病む必要があるのさ。」

「…確かに、僕は彼らを殺していない。でもね、僕が助けることが出来たはずなんだよ。死んだ人たちは、僕がもっと早くその場に着いていれば助かった人たちなんだよ。」

「だから、そこが馬鹿だと言っている。全部が全部を救おうとするなんて、そんなのただの夢物語だ。しかも他人の殺意を自分のものにして、それが仲間を傷つけるから自殺?ふざけんなって話だよ。」

「……でも、実際に傷つけたじゃないか。」

「うん、そうだ。君はキリエライトを傷つけた。でも、それはキリエライトの方が悪い。」

「………なんで?」

「君一人にそれを背負わせておいて、それで私たちを傷つけるなっていうのはおかしい話だよ。

 今回のこれは、君の気持ちを理解できなかった彼女が悪い。」

「………」

「ここまで言っても、まだ死にたいの?」

「…それでも僕が彼女を傷付けて、人が死んだのは事実だ。

 だから、許されちゃいけない。

 罪を償わないと……」

 部屋に静寂が満ちる。

 顔を上げると、こちらを睨む彼女の姿があった。

 怒っているらしく、声のトーンが落ちている。。

「罪って何さ

 ……いや、君は人を救ったんだ。

 この町に居る人も、カルデアの人達も、君自身も。」

「…僕にそんな自覚も達成感も無いよ。」

「……なんでそう考えるの?見つめるべき事実でしょう。」

 一瞬、息が詰まる。

 ずっと避けるべき問いを突き付けられたような感覚だった。

「……僕は怖いんだよ。

 今回の事件で、僕は仲間を一方的に傷つけた。けれど、誰も僕を責めないんだ。

 おかしいだろう?

 僕は人を傷つけた。なのに、それについて僕のことを誰か責めた?僕の事を叱ったか?

 誰もそんなことはしていない。あそこから逃げたことを責めることはあれ、傷つけたことについて追及されたことは全くなかった。

 それが怖いんだよ。

『もし僕が人を殺してもこうなるんじゃないか。』

『周りを傷つけても、世界を救った人だからってだけの理由で誰も僕を罰さないんじゃないか。』

 そんなことは無いと分かっていても、そんなもしもが頭に浮かぶんだ。

 僕は死にたくない。人を傷つけたくないから傷つけるなんてことはもちろんしないし、殺すなんて持ってのほかだ。

 だけど、今回の事件があった。

 我を失って、マシュを傷つけて……それで僕はこんな風にのうのうと生きている。

 そんな現実が怖いんだ。

 だからこんな風な僕には、存在価値も、存在証明も、存在理由も何一つとして、残っていないんだよ。」

 喉が痛い。

 普段話す時よりも、無意識に声が大きくなってしまっていた。

 何故だか口調も荒い気がする。

 ふと、彼女とあってから今まで、まるで怒っているように彼女と話していたことを自覚した。

 僕が少し黙ると、彼女は口を開く。

「大丈夫だよ。」

「何が?」

「大丈夫。君には存在価値も、理由も証明も、何一つだって欠けていない。」

「何を根拠に……」

「この私が」

 静かで穏やかだが力のある強い声で、彼女は宣言をするように声高に言った。

「この私が、私自身の生を以て、君の存在を証明しよう。君の価値を肯定しよう。生きる理由を君に上げよう。だからどうか、お願いだから、君に生きてほしいんだ。」

 強い圧を放つ声でそう言った。

「……君は、何のためにそんな…」

「ほかでもない君のためだよ。君は、私の命の恩人だから。死なれたらとてもじゃないけど、私は生きていけないから。」

 そう言って苦笑いを浮かべる。

「…でも、もしそうだとしても、僕はあそこに戻れない。

 彼女を傷つけて、戻れるはずも無い。」

「なら、しっかり謝ろう。謝って、許してもらって、それで良いんだよ。」

「だけれど…」

「けれどじゃない。人間って言うのは、許される権利のある数少ない生き物なんだから、しっかり許されていいんだ。君が忘れなければ、大切な人の死も、無かったことにはならないからね。」

「…………」

「…何をポカンとしているの?大丈夫だよ、君がまた人を無差別に傷つけて死にたくなったら…その時は、私が君を殺してあげる。」

「…………」

 本当に強い。

 心からそう思う

「……観念した。」

「ん?」

「生きることにするよ。マシュに全力で謝って、許してもらわなきゃいけないから。」

 泣きながら、僕はそう言った。

 残念ながらしばらくは枯れることはなさそうで、枯れるまで、何とか笑っていることが出来た。

 

 なんだか、天使の羽で頬を叩かれて目が覚めたような、そんな心地だった。

 彼女に会えて良かったと、そう思えた。




リツカ「第一章もあと一話、盛り上がってまいりました!」
立香「元気だね、リっちゃん。珍しくも無い。」
リ「珍しくも無いなら突っ込まなくても良いじゃないのさ。」
立「こっちにまで出てくるのは珍しいからね、驚きもするよ。」
リ「そう言えば、あんときは大変だったねー、笑いながら大号泣しt「もうその話は止めようかりっちゃん!」」
エミヤ「喧しいぞマスター!」
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