FGOの世界にTS転生 作:イザベラ
冬木から戻り三日後、英霊召喚の実験が行われた。
カルデアの復旧状況はまだまだだったが、次の特異点はすでに発見されていたから、それに備えての戦力増強のためだ。
冬木では実質私は役に立てず、現地に居たキャスターさんに頼りきりだった。初めて見た敵対サーヴァントのランサー。そして私達の進行を妨害してきたアーチャー。冬木で聖杯を守っていたセイバーことアーサー王。そのすべてを倒したのはキャスターさんだった。
デミ・サーヴァントとなったが、私は明らかに力不足。戦力増強を決めたDr.ロマンの判断は当然だった。
私の宝具である盾を召喚陣の中央にセットし、マスターである先輩が詠唱を始めた。術式が正常に進み魔力の高まりに比例して、召喚陣を囲む青い輪が激しく回転しはじめた。
それから金色の光がはじけ、召喚陣にサーヴァントが出現した。
「サーヴァントアーチャー、召喚に応じ参上した」
凛とした英雄にふさわしい雰囲気を纏った、赤い外套のサーヴァントが立っていた。
初めて間近で見たサーヴァントの召喚で圧倒されていたが、私と違い先輩は気にした様子がなく、自然な動作で近づき挨拶を始めた。
「マスターの藤丸立香です。よろしく、アーチャー」
「ほう、なかなか肝が据わったマスターのようだ。よろしく頼む」
先輩をマスターと認めてくれたようで、二人は笑いあっていました。これが男同士の友情というものでしょうか。それとも歴戦のサーヴァントだからこそでしょうか。初対面のはずが何か通じ合っているようで羨ましいです。
そんなマスターとサーヴァントの画になる光景に邪魔が入ります。
『あぁ~、成功してよかった。もしかしてマシュがデミ・サーヴァントになった影響で宝具の力が安定した? ありうる。なんにしても碌に成功しなかった召喚式が成功してよかった』
マイクのスイッチが入っているのを忘れているのか、Dr.ロマンが雰囲気ぶち壊しの感想をぶちまけてくれました。
『はぁ、ロマニ、わかっててやっているなら君の才能は本物だ。さすがの私も認めてしまう』
『ん? なんのことだい? ダ・ヴィンチちゃん』
『君は後で立香くんとアーチャーに謝りたまえ』
パチンッと音が鳴って召喚ルームに静寂が戻りました。
過去の成功例が3件しかなく、成功するかも怪しい英霊召喚が成功して喜びたいのはわかります。身内であったレフ教授が裏切り、オルガマリー所長まで亡くなった状況でカルデアの最高責任者となったストレスもあるのでしょう。
ですがDr.ロマニの空気の読まなさは……。
マスターの初めての英霊召喚は、色々な意味で忘れられないものとなりました。
召喚に成功したアーチャーさんは凄く協力的でした。
カルデアの状況を聞いた彼は、自ら復旧に力を貸すと言い出してくださり、実際に様々な貢献をしてくれました。設備等の故障個所を的確に把握し報告。機材の修理も道具を使い補助。疲労していた職員に、いつの間にか食事の差し入れ。
いつも余裕をもって優雅なダ・ヴィンチちゃんが、彼を驚くほど賞賛してべた褒めしていたくらいです。
彼は大当たりだよ、大当たり。魔術にも機械にも精通していて、足りない部品を作り出す投影の天才。大仰なものは無理らしいが、今はネジ一つが貴重だ。おまけに料理の腕前はプロ級ときている。奇人変人だらけの英霊の中で、まともな生活能力まで有しているとは、いったいどんな経歴だったんだろうね。
ダ・ヴィンチちゃんも相当疲れていたのか、珍しく大喜びをしていました。
先輩や私のことも気にしているようで、暇を見ては会いに来てくれます。することはたわいない雑談ですが、それがとても大切なのだとか。
マスターとの関係はサーヴァントにとっては最重要で、お互いに能力だけではなく性格や趣味嗜好を知っておくのは大切なんだとか。それを怠ると、いざという時に必ず困るとか。ためになります。うっかり者かどうかを確認するのは大事だって言っていました。すごくためになります。
協力的で皆の良きお兄さんとして、アーチャーさんはすぐにカルデアに馴染みました。
アーチャーさんを召喚してから四日後、次の召喚を行うことになりました。
今のカルデアの状況ではかなり無理をしての召喚なのですが、それでも必要だからとDr.ロマンがダ・ヴィンチちゃんを説得して押し切りました。
現在いるサーヴァントはダ・ヴィンチちゃんを除けば二人。アーチャーさんとシールダーの私だけです。遠距離主体のアーチャークラスと、防ぐことがメインのシールダー。戦闘の主力ともいえる不在の前衛戦力を期待しての召喚でした。
前と同じように先輩が詠唱を行い、召喚はスムーズに完了しました。念の為と先輩の横で待機していた私は、よどみない詠唱を聞いて、アーチャーさんの時と同じく安心して見ていました。
しかし黄金の輝きを放ち顕現したサーヴァントを見て、体が強張ります。
現われたのは長身の女性のサーヴァント。血の気の薄い白すぎる肌に冷たい金色の目をし、身を包む鎧は青黒く暗い雰囲気を漂わせていた。
他者を圧し潰すような圧倒的な存在感。目の前の全てを破壊するのではと思わせる攻撃的な魔力。反英霊。人の守護とは逆の偉業や思想を持った英霊を指す言葉。それが強く頭に浮かんだ。
すぐに先輩の前に出て庇った。現れたサーヴァントが何をしても盾になれるように。召喚に宝具の盾を使わなくてはいけなくて、手に持っていないのが悔やまれた。
無表情に周囲を見渡す目の前の彼女は、つい先日冬木で戦ったアーサー王と似た印象を受ける。どこか見た目も似ているが、何よりも刺すような存在感と、私よりも強いであろう圧力が同等だった。
せめて先輩だけでもと覚悟を決めた時に、既視感を感じずにはいられないタイミングで声が聞こえてきた。
『やった! この魔力反応は大英雄クラスだ! 立香くん、よくやった!』
能天気としか言いようのないDr.ロマンの声に、がくりと肩を落としそうになる。それは私だけじゃなかったようで、目の前のサーヴァントも無表情から戸惑った顔へと変化した。
すると先輩が私を手で抑え彼女の前に進んでいった。先輩を信じてはいたけど心配だった。けれどその心配は杞憂で、先輩が挨拶をして握手をしたら、彼女が一瞬よろめいてから表情を作った。
ふらついた彼女を支えた先輩に対するお礼。ありがとうの一言を言ったときの彼女は、人とは思えぬほどの美貌で目を奪われました。
すぐに状況を思い出し、先輩に続き私もそばに行き自分の失態を謝罪しました。冬木のアーサー王と印象が重なったからといって、呼び出した相手を即警戒するのは無礼に他なりません。
合わせて自己紹介の挨拶をしたのですが、彼女は再び無表情になり黙ってしまいます。先輩と二人で、黙ってしまった彼女にどうしてよいかわからずに居たら、Dr.ロマンとダ・ヴィンチちゃんが室内に入ってきました。
その時、彼女が発した言葉は驚きのものでした。
なんとダ・ヴィンチちゃんを一目で『レオナルド・ダ・ヴィンチ』と見抜いたのです。理想の美とはモナ・リザであり、ならばモナ・リザになるのは当然。というようなことを言って憚らないダ・ヴィンチちゃんの真名を一目で看破したのです。
サーヴァントの真名を一目で見抜くとは、ただ者ではありません。召喚に応じてくれた彼女の実力が凄いことに私達は喜びました。ですが無表情にこちらを見ていた彼女の態度は素っ気無く、一つの要望を言うだけでした。
自分の部屋はあるのだろうか、と。
自室に案内されていった彼女に対し、私はもやもやする感情を抱えていました。自分でもよくわからない焦りも感じています。彼女ともっと仲良くというか、信頼関係を結ばなくてはいけない。そんな切迫感がありました。
Dr.ロマニやダ・ヴィンチちゃんはそのうち何とかなるだろうと、それぞれの仕事に戻っていきました。時間が解決する問題もあるのでしょう。それはわかります。
でも急いで何とかしたい私は先輩に相談しました。
「う~ん、そっか。じゃあ思い切って会いに行ってみればいいんじゃないかな? 当たって砕けろっていうし」
「なるほど、さすが先輩です。マシュ・キリエライト、当たって砕けてきます!」
「フォフォーウ……」
先輩の肩に乗るフォウさんが砕けちゃダメじゃんって言った気がしますが、気持ちが抑えきれない私は小走りで彼女がいる部屋へ向かいました。
ほどなく彼女の部屋の前に辿り着き、入室の許可を得て入ってみれば、驚きのお話が待っていました。
なんと彼女は私と同じく、正規の英霊じゃないというのです。召喚時に素っ気無かったのは、私と同じように悩んでいたが故の態度だとわかりました。
それを聞いて部屋に来る前の焦りにも似た感情は治まり、自然な気持ちで親近感を持てました。そして私自身のことを話しました。
彼女と同じような存在であると話し、戦うのが怖いという彼女の気持ちも少なからず共感できたので、なんとかしようとしてDr.ロマンのもとへ行こうと思ったのですが、そこで彼女に呼び止められます。
振り返って見た彼女は、覚悟を決めた凛々しい表情でした。
模擬戦を希望した彼女を修練場に案内し、相対するまでは冷静でいられました。
彼女が選んだフィールドは冬木の大洞窟。つい先日アーサー王と対峙した場所。そこに立つ彼女は、まるでアーサー王本人かのような圧力を醸し出していた。
明確に違うとすれば、手に持つ武器が槍であること。彼女が実体化させた武器はランス。ただ武器こそ違うが、禍々しさは変わらなかった。
彼女の腕試しの模擬戦と思っていたが、戦う意思を示し威風堂々とした彼女の前に立っていると、私のほうが試されているような錯覚を受けた。
彼女の静かな宣言で戦闘が始まる。
油断など微塵もなかった。だというのに突撃してきた彼女の槍に吹き飛ばされかける。態勢が大きく崩れてしまい、すぐさま盾を構えなおすと、再び彼女が突進してくる。
今度は最大限に衝撃に備えたが、盾から感じる威力は弱いものだった。先の突撃と違い、私のすぐ前に止まれるように加減したのだろう。彼女はランス特有の突破力がある突撃ではなく、その場に立ち槍による殴打を選んだらしい。
腰を据えて構えてしまっていた私は、縦横無尽に振るわれる槍の攻撃に耐えるしかなかった。始まった直後のように、回避や攻撃にも移れる姿勢でいなかったのが悔やまれる。
最初に強力な突撃の威力を見せ、全力で防がなくては危険だと思い知らせ、こちらの選択肢を奪って一方的に攻撃できる状況に誘導する。見事な戦術だった。
このままではやられてしまうと思っていたら、彼女から呆れを多分に含んだ声が聞こえた。
「マシュ・キリエライト、貴女は盾で防ぐだけですか?」
私は自分が未熟だと知っている。だから誰かにそこを指摘されても受け入れ、認めてもらえるように努力をしようと心がけている。そのはずだった。
でも彼女の言葉を聞いた私は、受け入れるどころか、自分でも信じられないような熱い想いが沸いてきた。彼女に失望されたくない。期待に応えたい。『彼の方』に認められたい。
渇望ともいえる想いに動かされ、攻撃の隙を突いて槍を弾く。そのまま盾を振り回し攻撃したが、あっさり回避され距離を取られる。好機を逃すまいと、間を置かず距離を詰めて追撃をした。けれどそれも彼女に届くことはなかった。
このままではダメだ。これでは彼女と共に戦う資格がない。私ができることを見せなくてはならない。私が唯一できる守る力を。
そんな想いに囚われた私は、彼女に宝具の使用を促していた。果たして彼女の宝具は振るわれ、黒い極光が私を襲う。それに対して私は、己が持つ最大の守りで抗う。
「
――――嵐のような暴風がおさまると、いつの間にか彼女は私のそばに立っていた。
「さすが、アーサー王の聖剣すら防いだだけはありますね」
思わぬ賛辞を受けて、私の中で高ぶっていた想いが霧散する。あぁ彼女に認められた。そう思っただけで体がものすごく軽くなりました。
気持ちに余裕がでたからか、彼女の言葉に少しだけ苦笑してしまう。
彼女が言った宝具の真名は『ロンゴミニアド』。アーサー王が叛逆の騎士モードレッドを討った時に使った槍であり、最後に手にしていた聖槍。
フィールドに冬木の大洞窟を選んだ理由がわかりました。彼女の正体は、冬木で戦ったアーサー王その人だったからでしょう。彼女は私と戦った記憶があるアーサー王本人に間違いない。そうでなければ、縁のある大洞窟を選ぶはずがない。
しかしそうするとわからないことがあります。なぜ自分は本来の英霊ではないと言ったのでしょうか?
聖槍『ロンゴミニアド』の真名解放ができるなら、それはアーサー王であるに決まっています。私のように本能で宝具解放をしたとしても、別人であるなら『ロンゴミニアド』の名を言うでしょうか。
仮に聖槍のことを知っている人だったとしても、フィールドに大洞窟を選んだのがおかしくなります。あの時あの場のことを知っているのは、カルデアのスタッフとキャスターさんにレフ教授にアーサー王だけです。その誰もが戦うのが怖いなどと、わざわざ私に言うはずがありません。
もしかしたら彼女は、戦うのが好きではないアーサー王の側面が強く出た存在なのかもしれません。英霊として召喚されるサーヴァントは、本人の一部が強調されて呼び出されることもあると、Dr.ロマンが言っていましたし。
ある程度結論を出した私に、王らしい威厳に満ちた態度で彼女からお願いがありました。本来の英霊とは違うことを内緒にしてほしいと。
なぜそんな約束をするのでしょう。本当は戦いが好きじゃないと思われたくないのでしょうか。真意はわかりませんでしたが、彼女が望むならと頷きます。
不思議な約束事でしたが、二人だけの秘密ができて、なんとなく彼女と仲良くなれた気がします。
事件は突然起きました。
先輩とランサーさんにカルデアの施設案内をしていた時にアーチャーさんを見つけ、休憩室で顔合わせをしていた最中にそれは突然起こったのです。
手を繋ぎ見つめあう、アーチャーさんとランサーさん。
どちらかといえば、無表情で素っ気無く冷たい印象のランサーさんが、頬を染めて目を潤ませています。
二人の邪魔をしては悪いと先輩と私は席を移動し、テーブルの端っこで肩を寄せ合い二人を見守っています。あ、ランサーさんが少し顔を上に傾けました。
「先輩、これがいわゆる男女の紡ぎごとですか?」
「何か違う気がするけど、大体あってるからいいのかな」
「見ているだけでドキドキしますね」
二人に聞こえないように小声で先輩と話します。模擬戦の時とは別のドキドキで感情が溢れ、先輩と話していないと落ち着いていられません。
アーチャーさんもカルデアに来てから初めて見せる満面の笑顔です。頼りになる皆のお兄さん的なアーチャーさんですが、その瞳は現在ランサーさんだけしか見ていません。目を逸らす素振りは一切ありません。
「先輩、この後どうなるんでしょうか?」
「ドラマならキス……かな。別れた恋人が再会したらお決まりだしね」
「キス、キスですか。粘膜接触による唾液の交換作業ですね」
「そういう言い方すると生々しいよね」
話しながらも視線は二人にくぎづけです。
召喚された時から触るな、近寄るな、話しかけるなといった雰囲気のランサーさんが、今は暖かい空気を放ちか弱く見えます。
「ランサーさんの纏う空気が別物です」
「恋する乙女って感じだね」
「あれが恋する乙女ですか」
Dr.ロマンが言っていた伝説の存在。彼の者に見つめられれば、どんな男も恋に落ちるとか語っていた気がします。恐るべき魔眼使いです。
ドキドキと見続けていたら、新たな動きがありました。
ランサーさんから力が抜け、繋いでいた手がするりと離れました。離したくなかったのか、離れる寸前にアーチャーさんの指を軽く引っ張ったみたいで、アーチャーさんが半歩前に出ます。つまりランサーさんに近づきました。
アーチャーさんが近づいてもランサーさんは後ろに下がらず、二人の距離はくっつかんばかりです。それでも見つめ合ったままです。
先輩と一緒に体を前に出して、何一つ見逃すまいと凝視しました。
互いだけを瞳に映す距離で見つめ合いながら、ランサーさんの唇が微かに動き――――休憩室のドアの開く音が聞こえました。
「あぁ疲れた。ん? 君たちも休憩かい? あぁなるほどね。マスターとサーヴァントの親睦会ってところかな。うんうん、いいことだね」
Dr.ロマンの悪意が一切ない声が響きます。
ドアの開く音が聞こえた瞬間にランサーさんは飛び退いてしまったので、起こるはずだった事象を見ることはできませんでした。
終わった感漂う空気の中、先輩が小声で呟きます。
「アーチャーは少しも動いてない。漢って感じだ」
ランサーさんが逃げなかったら、もしかして最後まで見れたのでしょうか。
次回はとうとう特異点へごーのはず( ˘ω˘ )
評価とか感想とかがあると、気持ちが盛り上がって頑張れます。
頑張ってまたガチャで爆……いや、当たる。次こそ当たる……。
皆様、水着イベント頑張りましょう!