-日曜-白城組本宅の中庭-
模擬戦の初戦が間近になったこの日、白城軍の指揮官クラスは全員ここに集められていた。理由は一つ、指揮官としての技能向上である。
「踏み込みが甘いぞいお嬢ちゃん、それと林冲!お主まだその癖直っとらんのか!」
武力向上担当は東堂義政、今現在南斗星、林冲の二人を同時に相手取っているのだがのらりくらりと攻撃を回避しながら時々セクハラを働いている、曰く「セクハラさせる隙を与えるような攻めをする奴が悪い」との事だ。
「敵方がこのような動きを取った場合、別働隊の隠蔽をしている可能性がある。だからこの場合は・・・・」
戦術向上担当は里見陣丞、一般生徒の中から選ばれた指揮官たちに戦術の講義を行っている。槍術の腕前から勘違いする人も多いのだが里見さんの本来の持ち味は頭脳だ、大和や冬馬よりも数段上の戦術、戦略を操る頭脳こそがこの人の最大の武器なのだ。
「踏み込みが遅い、ローキックは最小の動作で繰り出すんだ」
そしてこちらでは晴明が小雪の鍛錬の相手をしていた、とは言え今まで鍛錬らしい鍛錬を積んでこなかった小雪、素材が良くとも基礎が荒すぎたために今晴明がその矯正をしているところだ。
「んー・・・・こう?」
そして小雪は教えれば教えたでそれを直ぐに飲み込むため非常に教えがいがあるのだ。
「そうだ、それでで足はしなる鞭のように・・・・そうだな、小島先生の繰り出す鞭をイメージすると良い」
「梅ちゃん先生の?」
「そうだ、『蹴る』という動作全てに共通する事だがな・・・・しならせる動作を加える事で防がれにくく強い蹴りを放つ事が出来る」
「んー・・・・難しくてわかんないのだー」
「そうだな・・・・衛二」
一人暇を持て余して縁側で茶をすすっていた衛二を呼ぶ。
「ん?なんです?」
「スマンが・・・・取り敢えず蹴られてくれ」
「は?ってぶごぉわぁっ!?」
わけもわからぬウチに晴明のハイキックを食らって吹き飛ぶ衛二。
「今のが良い見本だ、で悪い見本だが・・・・起きろ衛二。俺に蹴りを一発寄越せ」
「え?蹴っていいんですか?じゃあ遠慮な・・・・くっ!!」
速度の乗ったミドルキックを放つがあっさり晴明に防がれる。
「わかったか?」
「うん、分ったー」
「と言うか衛二、お前あいも変わらず蹴りが下手だな・・・・」
「仕方ねーでしょって、俺は指突と掌打専門なんすから」
「それは言い訳じゃのぉ・・・・」
いつの間にやら背後に義爺降臨。
「んげっ!?」
「林冲と南斗星ちゃんの方が一段落ついたところじゃ、次はお主を鍛え直してやる」
「え!?まっちょっ・・・・あぁああああああ!!!」
連れ去られていく衛二。
「調子はどうだ、りん、南斗星」
少し前に、林冲からの申し出により林冲の事を「りん」と呼び始めた。なんでも林冲が同門の兄弟弟子なのだからもっと親しくしておきたいとの事なのだ。
「師匠は相変わらず手厳しいが矢張り一つ一つの教えが私の糧になります」
「いつもは大佐が相手なんだけど、やっぱりたまに違う人と組手すると新鮮で良いよね」
得るものはあったようで何よりだ。
「若」
不意に、陣丞に声をかけられる。
「ん?どうかしたか陣さん」
「あの小雪って娘、弟子にとってはどうです?」
「・・・・弟子?俺が?」
困惑、とでも言うべきか。普段は陣さんの言う事は大体の意図は読める、だが今回ばかりはどういうつもりか分からない。
「ワシも賛成じゃの」
片手にボロボロになった衛二を引きずりながら戻ってきた義爺も同意する。
「若は既に独力で到達出来る最大の領域にまで達しておる、そこより上を行くならば状況に変化を作るが最良、という訳じゃよ」
「それが小雪を弟子に取る事、と?」
「そうなるかは分からん、じゃが契機にはなると思うておる」
少しの間、考え込む晴明はゆっくりと小雪の下へと歩いていく。
「小雪」
「おー、どーしたのはるるん」
「お前・・・・俺の弟子になって本格的に鍛えてみないか?」
「はるるんの弟子?」
「ああ」
考え始める小雪、糸目になって眉間に皺を寄せている。
「弟子になったら強くなれる?」
「出来る限りのことはする」
「じゃあ・・・・やるー」
クルリと背後に回り込んで背中に飛びつく小雪。
「さて・・・・冬馬と準にも報告をせねばなるまい」
ふと、思ったよりもノリノリで教えようとしている自分がいることに気づくが・・・・
「今は今を見ようか」
今は目の前だけを見ることにした・・・・
『今は今を見る』、コレはいわばこの作品のテーマです。
これからどういった展開をさせるかが楽しみですね。