ロクでなし魔術講師と白き大罪の魔術師   作:灰ノ愚者

12 / 18
みなさんお久しぶりです‼︎
色々と忙しかったので投稿日が遅れました。
本当にすみませんでした‼︎m(_ _)m



そして【投票者】『7人』【お気に入り】『94人』
誠にありがとうございます‼︎



後、『ロクでなし魔術講師と禁忌の教典14巻』
の発売記念も兼ねて必要に頑張って投稿しました。



今回も膨大な量を書かせてもらいましたので是非、
読んで見て【投票】や【お気に入り】をお願い
します‼︎ 更には【意見】、【感想】がありましたら
是非、よろしくお願いします‼︎


そして今現在書いている『他の連載中の投稿作品』
の『ロクでなし魔術講師と死神の魔術師』や
『落第騎士と幻影の騎士』、更には最近投稿をした
『殺戮者が斬る!』などありますのでこれからも
よろしくお願いします。


見えない傷と赤き雫

 

 

――――。

 

――あっと言う間に時間が過ぎた。

グレンの授業は別に、よくいる似非カリスマ講師

の授業――奇抜なキャラクター性や巧みな話術で

生徒達の心をつかむような物でも、やたら生徒達

に迎合し、媚を売るような物でもない。ただ、

教授する知識を真の意味で深く理解して、それらを

理路整然と解説する能力があるゆえに為せる、

本物の授業であった。

 

 

 

「……ま、【ショック・ボルト】の術式と呪文に

関してはこんな所だ。何か質問は?」

 

 

 

グレンは小奇麗な文字や記号、図形でびっしりと

埋まった黒板をチョークで突いた。

 

 

質問者は誰一人いない。グレンの存在感に圧倒

されていることもあるが、質問の余地がないと

いうのが本音だった。

 

 

 

 

「今日、俺が話したことが少しでも理解できる

なら、三節を一節に切り詰めた呪文がいかに綱渡り

で危険極まりない物だったか多少はわかった

はずだ。確かに魔力操作のセンスさえあれば実践

することは難しくない。だが、詠唱事故による暴発

の危険性は最低限理解しておけ。軽々しく簡単

なんて 口にすんな。舐めてると、いつか事故って

死ぬぞ」

 

 

 

そして、グレンはかつてないほどの真剣な表情を

生徒達に向けた。

 

 

 

「最後にここが一番重要なんだが……説明の通り、

魔力の消費効率では一節詠唱は三節詠唱に絶対

勝てん。だから無駄のない魔術行使と言う観点では

三節がやはりベストだ。だから俺はお前らには

三節詠唱を強く薦める。別に俺が一節詠唱できない

から悔しくて言ってるんじゃないぞ。本当だぞ。

本当だからな?」

 

 

 

(やっぱり、悔しいことは悔しいんだ……)

 

 

 

その瞬間、生徒達の心中は見事に一致した。

 

 

 

「とにかくだ、今のお前らは単に魔術を使うのが

上手いだけの『魔術使い』に過ぎん。将来、

『魔術師』を名乗りたかったら自分に足らん物は

なんなのかよく考えておくことだな。まぁ、お薦め

はせんよ。こんな、くっだらねー趣味に人生費やす

くらいなら、他によっぽど有意義な人生がある

はずだしな……さて」

 

 

 

グレンは懐から懐中時計を取り出し、針を見る。

 

 

「ぐあ、時間過ぎてたのかよ……やれやれ、

超過労働分の給料は申請すればもらえるのかねぇ?

まぁ、いいや。今日は終わり。じゃーな」

 

 

ぶつぶつ愚痴をこぼしながらグレンは教室から

退室していく。生徒達はそれを放心したように

見送る。ばたんと扉が閉まった瞬間、それが

まるで合図であったかのように、生徒達は一斉に

板書をノートに 取り始めた。皆、何かにかこく

取り憑かれているかのような勢いだった。

 

 

 

「なんてこと……やられたわ」

 

 

 

システィーナが顔を手で覆って深くため息を

ついた。

 

 

「まさか、あいつにこんな授業が

できるなんて……」

 

 

「そうだね……私も驚いちゃった」

 

 

 

 隣に座るルミアも目を丸くしていた。

 

 

 

 

「悔しいけど……認めたくないけど……あいつは

人間としては最悪だけど、魔術講師としては

本当に凄い奴だわ……人間としては最悪だけど」

 

 

 

「あ、あはは、二回も言わなくたって……」

 

 

 

「ルミア。多分、大丈夫だと思うよ?」

 

 

 

 

「えっ? どうしてなの……ウィル君?」

 

 

 

 

目を丸くしていたルミアがウィルに聞くと隣の席

に座ってペラペラと音を立てながらページを

めくっていたウィルはパタンと音を立てて本を

閉じて無表情で光無き瞳の視線をシスティーナと

ルミアに向けて

 

 

 

 

「今、東方の本読んだけど今のシスティに

ぴったりな『とある言葉』があるんだけれど」

 

 

 

 

「へぇ〜‼︎ 凄いね。ウィル君‼︎ 東方の本を

持っているなんて、東方の本なんて手に入れる

のはなかなか難しいって聞いた事があるけど?」

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

「ウィル君……?」

 

 

 

ウィルがルミア達にそう言うとルミアが笑顔で

ウィルを褒めるがウィルは俯いて静寂に包まれて

いたが、ウィルが少しして俯いていた顔を少し

上げて

 

 

 

「……別に。僕の今、世話になっている人が用意

してくれるから……」

 

 

 

(今、ウィル君……照れた…?)

 

 

 

 

普段から褒められ慣れていないのか真っ赤に頬を

染めてウィルは俯きながらも視線を向けて

ポツリポツリとではあるがルミアに言葉を

発していた。

 

 

 

ルミアはそんなウィルの今の表情を見てとても

驚いていた。ルミアが驚くのもその筈だ。今まで

短い間だったがルミアなりにウィルを見てきた

つもりだった。最初、ウィルに初めて会った時に

感情が乏し過ぎて感情が読み取りづらかったけど

一瞬、ほんの一瞬だけであるが少しだけウィルの

感情を感じ取れるようになった。

 

 

 

 

 

 

しかし、どうしてなのか本人のルミアには全く

分からず気にしなかった。そしてその違和感が

一体、それが何なのかが分かった。その理由は

グレンとシスティのこの世界の『魔術師』の

在り方や『魔術の善悪』について話し合った時に

何故かは分からないがその時のウィルはどこか

悲しそうで憎んでいる様に見えた。だが、それでも

ウィルの言っている事は正しい。だが、それでも

ルミアはウィルの事がとても心配だった。

 

 

 

その小さな体には一体、どれだけの深い闇を

背負っているのだろう、と心配していると

システィーナがイキイキとした表情で話しをする。

 

 

 

 

「それでも凄いわよ‼︎ あ‼︎ も、もし……

良かったらだけど……今度、本を貸してほしいの

だけど……」

 

 

 

「良いよ。別に……」

 

 

 

システィも驚いて戸惑いながらも魔術師や魔術

についての議論などの事を思い出してウィルに話し

づらかったがルミアがウィル話しているのを見て

システィーナも勇気を出してウィルに話しかけた。

もしかしたらあの時みたいに暗くて冷たい瞳を

こちらに向けてくるかもしれないとブルッと体が

身震いしたが話しかけてみればどうと言う事は

なかった。更には前から気になってた東方の本が

読めるので喜ばすにはいられなかった。

 

 

 

 

「それで、私にピッタリな言葉って何かしら?」

 

 

 

システィーナは気になったのか興味津々でウィル

に聞いてみた。

 

 

 

 

『嫌よ嫌よも好きのうちって言葉がある』

 

 

 

 

 

「嫌よ嫌よも……? どういう意味なの?」

 

 

 

 

 

ルミアがウィルに言葉の意味を聞くとウィルは

「システィみたいな人の事を言う言葉」と二人

に言ったがシスティーナとルミアは全く意味が

分からないという表情を浮かべているのが

分かったウィルは

 

 

 

「主に女性が男性に誘いを掛けられた際などに、

口先では嫌がっていても実は好意が無いわけでは

ないと解釈するって意味……」

 

 

 

 

 

「ん、んにゃ‼︎ にゃにをッ⁉︎」

 

 

 

 

 

ウィルの言葉で意味を理解したシスティーナの顔は

真っ赤にしてオロオロした表情で動揺しながら

ウィルに返事をした。

 

 

 

「なるほど……確かにウィル君の言う通りかも……」

 

 

 

 

「でしょ?」

 

 

 

「ちょ、ちょっと‼︎ ルミアまで‼︎」

 

 

 

ウィルの言葉で納得したルミアを見て

システィーナは更に顔を真っ赤して動揺した。

 

 

 

 

「どうしてそんなに恥ずかしがるのシスティ?

恋をするのは人として当然の機能でしょ?

それに本に書いてあったんだけど?」

 

 

 

「ぜ、全然恥ずかしくないしっ‼︎ そ、それに

貴方、もう少し『女心を……いや、人の心』を

理解する事を心掛けた方が良いわよ‼︎」

 

 

 

 

「女心を人の心を……理解する……」

 

 

 

ウィルはシスティーナの言葉を聞いてただ一言、

「難しい……」と深く考える様な仕草をして言うと

ルミアは「そんなに深く考えなくて良いよ?」と

言うがウィルは更に集中して考え込んでいた。

 

 

 

(良かった……魔術についてウィル君とシスティが

揉めたあの時はとても心配だったけど何の問題なく

話せていて本当に良かった……もし、叶うなら……)

 

 

 

この時、ルミアはシスティーナとウィルのたわい

もない平凡で幸せな日常がいつまでも続きます

ようにと密かに願った。

 

 

 

するとシスティーナはそんなウィルを見て顔を

真っ赤にしながらも動揺して噎せながらながら

もさっきの話を必死になって逸らそうとする。

 

 

 

 

「で、でも、あいつ、なんで突然、真面目に授業

する気になったのかしら? それにあいつも昨日

はあんなこと言っていたのに……あれ?」

 

 

 

 

慌てながらもルミアに目を向けてシスティーナは

気づいた。

 

 

 

 

「ルミア……貴女、どうしてそんなに嬉しそう

なの? なんか笑みがこぼれてるわよ?」

 

 

「ふふ、そうかな?」

 

 

 

「そうよ。なんかかつてないほど、

ごきげんじゃない。何かあったの?」

 

 

 

「えへへ、なんでもないよー?」

 

 

 

「嘘よー、絶対何かあったってその顔はウィルも

そう思うでしょ?」

 

 

 

「僕にはよく分からない……」

 

 

 

 

 

「えへへ……」

 

 

 

何度もルミアに聞いてウィルにも同意をウィルに

求めるがウィルは頭を傾げてルミアはのらりくらり

とかわして嬉しそうな微笑みを崩さない親友に

システィーナは首をかしげていると

 

 

 

 

「分からない……分からない…」

 

 

 

 

ウィルはシスティとルミア、二人を見て心の底の

モヤモヤするこの感覚にかなり戸惑って胸が苦しく

ながら幼い子供の様に無意識にただ小声で

呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメ講師グレン、覚醒。

 

 

その報せは学院を震撼させた。噂が噂を呼び、他所

のクラスの生徒達も空いている時間に、 グレンの

授業に潜り込むようになり、そして皆、その授業の

質の高さに驚嘆した。

 

 

 

これまで学院に籍を置く講師達にとっては、

魔術師としての位階の高さこそが講師の格であり、

権威であり、生徒の支持を集める錦の御旗だった。

だが、学院に蔓延する権威主義に硬直したそんな

空気は一夜にして破壊された。まさに悪夢の日

だった。

 

 

 

「セリカ君の連れてきた彼、凄いそう

じゃないか!」

 

 

 

ごきげんなリック学院長の興奮気味な声が、

学院長室に響き渡った。

 

 

 

「最初の十日はえらく評判が悪くて、どうなる

ことやらと懸念してたが杞憂に終わったようで

何より何より」

 

 

 

「……くっ」

 

 

 

ハーレイが悔しげにうめく。グレンが真面目に

授業し出した日以来、自分が行う授業の出席率が

微妙に目減りしたからだ。つまり、ハーレイの

授業を欠席してまでグレンの授業に参加しようと

する生徒がいるのだ。

 

 

 

 

「ふふふ……何を隠そう、グレンはこの私が

一から仕込んだ自慢の弟子だからな」

 

 

 

ここぞとばかりにセリカは胸を張って宣言した。

 

 

 

「なんと! セリカ君、君、弟子を取っていた

のかね⁉︎ 弟子は取らない主義じゃなかったの

かな?」

 

 

「アイツが唯一の例外だ。ま、デキは悪かった

けどな」

 

 

「ほう、なんとなんと。でも、なぜ今までそのこと

を隠されていたのかな?」

 

 

「ん? 決まってるだろ? グレンが講師として

ダメダメだったら、師匠の私が恥ずかしいだろ?

だから黙ってた」

 

 

 

「根本的に似た者師弟だな、あんたら!」

 

 

 

学院長室にハーレイのツッコミが虚しく響く。

 

 

 

「よせよ、ハーレイ。

そんなに褒めても何も出ないさ」

 

 

 

 

「やかましい! 褒めてないわッ! 

この師匠バカめ!」

 

 

 

 

「いやぁ、グレンって魔術の才能は残念なやつ

なんだが、これがまた努力家でさー、あいつが

子供の頃、お前には向いてないから別のこと

やれって何度言っても、アイツ、私みたいな

凄い魔法使いになりたいって聞かなくてさぁー、

それが今では三流とは言え、一応人並みの魔術師に

なっただろ? だから私は知ってたんだよなー、

やればできる子だって。あ、そうそう、

そう言えば、アイツに魔術を教え始めた頃、

こんなことがあってな――」

 

 

 

にへらにへらと。

 

 

 

セリカは普段の鉄面皮からは信じられないほど

緩んだ顔で、弟子自慢を始める。

 

 

まったくもって聞きたくも知りたくもない

マル秘情報開示に、ハーレイはぶるぶると肩を

震わせながら、こめかみに青筋を浮かべていく。

 

 

 

(おのれ……グレン=レーダス……ッ!)

 

 

 

ハーレイは苛立ちに打ち震えながら、ふと、

つい先日の出来事を思い出す――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、グレン=レーダス。おい、聞いてるのか

グレン=レーダス! 返事をしろ!」

 

 

 その日。

 

 

ハーレイは素行の悪さで有名なグレンを先輩講師と

して締め上げてくれようと、学院内廊下をのそのそ

歩くグレンの背中に威圧的な言葉を浴びせかけた。

するとグレンは突然、きょろきょろと周囲を見渡し、

ちらりとハーレイを一瞥すると、不思議そうに首を

傾げ、ハーレイを無視して再び歩き始めたのだ。

 

 

 

「って、おい⁉︎ 貴様、なんだその『アイツは一体、

誰に声をかけているんだ?』的なその態度は⁉︎

グレン=レーダスはお前だろ⁉︎ お前しかいない

だろ⁉︎」

 

 

 

 

ハーレイはグレンの前に回り込んで進路を塞ぎ、

凄まじい形相でグレンを睨みつけた。

 

 

 

「違います。人違いです」

 

 

 

 

「んなわけあるか⁉︎ この間抜けな面は間違い

なくグレン=レーダスだッ! そもそもこの間、

貴様の採用面接をしてやったのはこの私

だろうがッ!」

 

 

「あ、誰かと思ったら先輩講師のハーレムさん

じゃないっすか! ちぃ~っす!」

 

 

 

「ハーレイだッ! ハーレイッ! 

貴様、舐めてるのか!?」

 

 

 

 

「いえいえ、そんなコトはないっすよ、えーと、

ハー……何とか先輩」

 

 

 

「貴様、そんなに覚えたくないか? 

私の名前……」

 

 

 

ハーレイは怒りと屈辱に身を焼き焦がしながらも、

本題に入った。

 

 

「噂は聞いているぞ、グレン=レーダス。

貴様、講師にあるまじき態度らしいな?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

「調子に乗るなよ? 貴様が今のような破格の

立場を享受できるのは貴様の器でも実力でも

なんでもない!あの魔女……セリカ=アルフォネア

の増上慢があってこその物であると知れ! 

いくらセリカ=アルフォネアが――」

 

 

 

「そのいちいち姓名合わせて呼ぶの疲れね?」

 

 

 

 

「やかましい! 話の腰を折るな! いくら

セリカ=アルフォネアが神域の第七階梯(セプテンデ)に至った

魔術師とは言え、このような横暴がいつまでも

通るとは思わないことだ!」

 

 

 

「ですよねー? セリカって最近、調子乗り過ぎ

ですよねー? ありゃいつか絶対、天罰下るわー」

 

 

 

「なんでそんなに他人事なのお前⁉︎ 

とにかく契約期間は一カ月だが、貴様、一ヶ月間も

この学院にいられると思うなよ⁉︎ あらゆる手を

尽くして貴様をこの学院からすぐに叩き出して

やる、覚悟しろ……ん?」

 

 

 

ハーレイが気付くとグレンはハーレイの前で

深々とお辞儀をしていた。

 

 

 

「ありがとうございます! どうかよろしく

お願いします! 俺、めっちゃ期待してますから

頑張って下さい! えーと、ハー……? あ、

ユーレイ先輩!」

 

 

 

「き、き、き、貴様ァアアアアアアア――ッ⁉︎」

 

 

 ……。

 

 

 

 

あれだけなら私も我慢出来ただろう……それに

グレン=レーダスはまだマシだと本当に思う。

だが、『あいつ』だけは許せない……ああ‼︎

思い出すだけで腹立たし過ぎてしまう‼︎

そう、『ウィル=オリバー』だけは……ッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは三属呪文についてのおさらいするぞ」

 

 

 

 

ハーレイはそう言うと黒板にルーン文字書いて

更に説明していく

 

 

 

「んで、こうなることにより三属呪文は根本的に

同じだ。更に導力ベクトルは根源素中の電素の

振動の方向と流動方向がある。そして……」

 

 

ハーレイは前回グレンが授業した三属呪文に

対抗する様に授業していた。

 

 

「ってなわけだ。質問ある者はいるか?」

 

 

 

ハーレイが質問するが誰も手を上げる生徒は

いない。

 

 

 

 

(ふっ……私が言うのも何だがどうやら私の授業は

完璧だったみたいだな……)

 

 

 

 

 

ハーレイは安堵しながら「今日はここまでだ‼︎」

と言って満足そうに教室から立ち去ろうとすると

 

 

 

 

 

「はい。質問があります」

 

 

 

 

 

静寂の中、『ある一人の生徒』の声が静かな教室に

響いた。

 

 

 

 

「貴様は……」

 

 

 

 

「はい。ウィル=オリバーと言います。実は

ハッピー先生に教えなきゃいけない事が

ありましてよろしいでしょうか?」

 

 

 

 

 

「ハッピーじゃない‼︎ 何故、間違えるんだ‼︎

私の名前はハーレイ‼︎ハーレイ=アストレイだ‼︎

全く…最近は貴様といい……あの男といい……

非常に不愉快極まりない……それで一体、私に

何の用だ。ウィル=オリバー?」

 

 

 

ハーレイが不満そうにギロリとウィルを睨みつけ

ながらそう言うとウィルはハーレイがいる教卓辺り

に近づいて

 

 

 

 

「バーゲン先生。貴方の授業見ていましたが非常に

効率が悪過ぎます」

 

 

 

 

 

 

「バーゲンじゃない‼︎ 何度言えば分かるんだ‼︎

ハーレイ‼︎ ハーレイ=アストレイだ‼︎ それに

効率が悪過ぎるだと……?」

 

 

 

 

 

 

「そうです。貴方の授業は効率が悪過ぎます。

それにこの問題の間違いすら分からないなんて講師

としては貴方よりグレン先生の方が優れています」

 

 

 

「何だと…?第五階梯(クィンデ)である私よりあの怠惰で

不真面目なあの第三階梯(トレデ)の非常勤講師が私よりも

優れていると、更にこの説明に間違いがあると

貴様は言っているのか……?」

 

 

 

 

「そう言ったのですが、貴方の耳には聞こえて

いなかったのですか?」

 

 

 

 

ウィルがハーレイに堂々と言うと二人の会話を

聞いていた後ろの席に座っている生徒達は

ざわざわと騒ぎ始めていた。

 

 

 

 

「ふん‼︎ なら私の授業の一体、どこが違うのか

教えてもらおうか……ウィル=オリバー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

ハーレイは怒りを込めた声でギロリとウィルを睨み

つけながらダン‼︎ と右手で黒板を力強く叩きつけて

説明を要求するとそんな緊張感の中周りの生徒達は

「どうなるんだ?」と言う生徒や「ハーレイ先生の

授業は完璧だったわよね?」とざわざわと騒ぎ始め

ていた。

 

 

 

「分かりました。それでは今から誰もが分かりやすい

様に説明されてもらいます」

 

 

 

ウィルはハーレイにそう言って視線を黒板に向けて

チョークを持ってカツカツと音を立てている中、

ハーレイは何か言いたげにウィルを睨みつけていた

がウィルはそんなハーレイを無視してハーレイが

書いた術式に何の迷いや躊躇いもなく淡々と色々な

書き足しをしていていた。

 

 

 

「そもそも…この三属呪文の説明があまりにも

回りくど過ぎるんですよ。少し誤字がありますし、

更にはこの不必要過ぎる大量のルーン文字。

こんなに術式にルーン文字を引き詰めては意味

ないですし、前にグレン先生が言うにはルーン語

とは最も効率良く、効果的かつ普遍的に、自己暗示

による深層意識変革を起こせるよう、人間が長い

歴史の中で編み出した暗示特化専用言語に過ぎない

らしいですよ?」

 

 

ウィルがハーレイにそう言ったと同時にガッ‼︎

と黒板から音が鳴って書き終えた後だった。

 

 

 

「んな⁉︎ ば、馬鹿な……‼︎ こ、こんなに事が……

だ、だが…この術式ならば……あり得ない……だが、

これは……一体、どうして?」

 

 

 

 

 

「この程度の魔術の方程や式術式で驚くくらいなら

貴方はやはり教師としてはそれが限界ですよ? 貴方

が三流と馬鹿にしたグレン先生に負けて更に魔術師

の階級を根本的に覆されたからっと言って駄々を

ごねるその態度……貴方はグレン先生の足元にも全く

及ばない……グレン先生の方が経験も知識もむしろ、

貴方の方が三流です」

 

 

ウィルがハーレイにそう言うと周りの生徒達も

「確かに……」とか「そっちが分かりやすい‼︎」

と複数の人の声が聞こえてきた。

 

 

「他の生徒達の様子を見れば結果は一目瞭然

ですね。階級に拘るからですよ? 全く……この程度

すら全く分からないなんて貴方はもう一度、魔術に

ついて勉強し直した方がいいのでは?もしくは、

グレン先生に魔術理論を教わった方がいいのでは?

えーとー……ハ、ハゲ先生……?」

 

 

 

「お、お、お、おのれェエエエエエエエーーー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だかつて、あれほどこの自分をコケにし輩達が

いただろうか。しかも第五階梯(クィンデ)であるこの私に

魔力容量(キャパシティ)意識容量(メモリ)も普通、系統適正も全て平凡、

更に講師としてあるまじき振る舞いをしている

第三階梯(トレデ)であるあのグレン=レーダスに教えを

請えだと……? 更には第五階梯(クィンデ)であるこの私に

魔力容量(キャパシティ)意識容量(メモリ)も普通、系統適正も全て

平凡の魔術師の第三階梯(トレデ)で優って魔術の発展に貢献を

しているこの私があの男、グレン=レーダスに魔術も

そして魔術師としてもよりも劣っているなどと生徒達

の前であんな戯言を並べて私に恥を屈辱をかかせて

……思い出しただけますます胃がキリキリと

してきたわ‼︎

 

 

 

(おのれ……‼︎ ウィル=オリバーめ‼︎ 私の授業を邪魔

をしただけでは足らず更にはあんなふざけた男が講師

としては私より格上だとぉッ⁉︎ 認めん!

認めんぞぉ!)

 

 

 

 

 

「それでさー、アイツが一生懸命頑張って、初めて

その魔術を成功させてさー、セリカありがとうって

泣きついてきてさー、いやー、可愛い時期もあった

なぁー。とにかく、あの一件で私はアイツを見直し

たね。お前もそう思うだろ? ん?」

 

 

 

ハーレイの煮えたぎる胸中など露知らず、

セリカの誰得弟子自慢は続いている。本当に師弟、

更にはその弟子の生徒もそろって鬱陶しい連中

だった。

 

 

 

(ぐぬぬ……おのれ、グレン=レーダスッ!

いつか、絶対、この学院から追い出してやるぞ

……ッ! そして、ウィル=オリバーッ! 貴様も

絶対にグレン=レーダスよりも私の方が優れている

と言う事を認めさせてやる。 覚悟しろ……ッ!)

 

 

 

顔を真っ赤にしてハーレイは打倒グレンを密かに

誓うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

専属講師としてグレンがあてがわれた

システィーナ達二年次生二組のクラスはとにかく、

学院の生徒達の羨望を集めた。教室で空いている

席は日を追うごとに他のクラスからの飛び入り

参加者で埋まっていき、さらに十日経つ頃には

立ち見で授業を受ける者も現れた。

 

 

 

グレンが生徒達に一目置かれるようになるにつれ、

学院の講師達の中には今まで自分達が行っていた

『位階を上げるために覚えている呪文の数を増やす

だけの授業』に疑問を持ち始める者も現れる。

若く熱心な講師の中にはグレンの授業に参加して、

グレンの教え方や魔術理論を学ぼうとする者もいた。

だが、自分がそんな注目を集めていることなどは

露知らず、相も変わらずグレンはやる気なさげな

言動を繰り返しながら、今日も面倒臭そうに授業

を行っていた。

 

 

 

 

「……魔術には『汎用魔術』と『固有魔術(オリジナル)』の二つが

あって、今日はお前らが誰でも扱えるからと馬鹿に

しがちな汎用魔術の術式を詳しく分析してみたが、

固有魔術(オリジナル)と比較して汎用魔術がいかに緻密に高精度

に完成された術なのか理解できたかと思う」

 

 

 

黒板に書かれた魔術式の一節をチョークで

突きながらグレンは言った。

 

 

 

「そりゃ当然だ。【ショック・ボルト】みたいな

初等の汎用魔術一つをとっても、お前らの何百倍

も優秀な何百人もの魔術師達が何百年もかけて、

少しずつ改良・洗練させてきた代物なんだからな。

そんな偉大なる術式様に向かって、やれ独創性が

ないだの、古臭いだの……もうね、お前ら

アホかと」

 

 

 

授業の当初、固有魔術(オリジナル)こそ至高だと

主張していた生徒達は肩を落とすしかない。

 

 

 

「お前らは個々の魔術師にオンリーワンな術である

固有魔術(オリジナル)をとてつもなく神聖視なんてしているが、

実は固有魔術(オリジナル)を作るなんて全然、たいしたこと

じゃねーんだ。魔術師としちゃ三流の俺だって余裕

で作れる。じゃ、固有魔術(オリジナル)の何が大変かと言えば、

お前らの何百倍も優秀な何百人もの魔術師達が何百年

もかけてやっと完成させた汎用魔術を、固有魔術(オリジナル)

自分たった一人で術式を組み上げて、かつ、それら

汎用魔術の完成度をなんらかの形で越えてなければ

ならないという一点に尽きる。じゃねーと固有魔術(オリジナル)

なんて使う意味がない」

 

 

 

あからさまに意気消沈する生徒達を見て、グレンは

底意地悪そうに笑った。

 

 

 

「ほーら、頭痛くなってきただろ? 今日見た

とおり、お前らが小馬鹿にした汎用魔術はとっくに

隙も改良の余地もない完成形だ。並大抵のことじゃ、

固有魔術(オリジナル)は汎用魔術の劣化レプリカにしか

ならんぜ? 俺も昔やってみたけど、ロクなものが

できんかったから馬鹿馬鹿しくなってやめたわ。

はっはっは、時間の盛大な無駄遣いだった」

 

 

 

この物言いに、くすくすと笑う生徒が半分、

眉をひそめる生徒が半分。グレンの授業手腕は

認めても、魔術に対して欠片の敬意も払わない

その態度に反感を覚える者は多い。そんな中、

ウィルはグレンの授業を聞いてはいたが視線は

グレンを向けて追いかけながら心ここにあらずと

言った表情だった。

 

 

 

 

(非常勤講師……グレン……グレン……

レーダス……)

 

 

 

「──グッ……⁉︎」

 

 

 

 

そして無意識のうちにグレンの名前などの

フルネームを心の中で呟いていた。だが、グレンの

事考えるとノイズが走り頭痛が異常なまでに酷く

なってきた。

 

 

 

 

 

(■は■■■であり、■■なんだよ‼︎)

 

 

 

 

 

(■■‼︎ この■は■■の■を■■■■■■

■の■■ぞ‼︎)

 

 

 

 

(ま、また、映像が……‼︎)

 

 

 

荒いながらも痛みを和らげようと必死になって呼吸

して片手で頭を押さえて痛みを落ち着かせようと

いると

 

 

 

 

 

「ウィル君、大丈夫……?」

 

 

 

「えっ? る、ルミア……?」

 

 

 

 

ウィルはルミアの今の行動に予想をしていなかった

のかウィルがそんな情け無い声を出す中、ルミアは

そんなウィルを見ていて心配だったのかとにかく声

をかける。

 

 

 

 

「ほら、ウィル君の額にこんなにも……

汗が出るよ?」

 

 

 

 

「る、ルミア……ルミアのハンカチが汚れる……」

 

 

 

 

「いいから‼︎ それに、ハンカチを使って

良いから、ねっ?」

 

 

 

 

ルミアはそう言ってハンカチを使って必死に

なってウィルの額をポンポンと汗を拭いていく。

だが何故だか分からないが男子生徒達から

睨まれている様な気がした。

 

 

 

 

更には「クソッ‼︎ クソッ‼︎ リア充が‼︎」とか

「見せ付けやがって……」と目から血の涙を流し

そうな表情だったが、本人のウィルは男子生徒達

が何故、そんな表情をしているのか全く分かって

いなかった。そんな中、ルミアは先程のハンカチ

をウィルに渡してにっこりと笑っていた。

 

 

 

 

 

「この領域の話になってくると、センスとか

才能とかが問われるな。だが、それでも先達が

完成させた汎用魔術の式をじっくりと追っていく

ことには意味がある。自身の術式構築力を高める

意味でも、ネタ被りを避ける意味でもな。お前ら

が将来、自分だけの固有魔術(オリジナル)を作りたいなんて

思っているなら、なおさらだ。ま、そんな屁の

突っ張りにもならん自己満足に時間費やすくらい

なら他に有意義な人生の過ごし方がある気が

するがな……さて」

 

 

 

グレンが懐から取り出した懐中時計を見る。

 

 

 

「……時間だな。じゃ、今日はこれまで。

あー、疲れた……」

 

 

 

授業終了を宣言するとクラスに弛緩した空気が

蔓延し始める。

 

 

グレンは黒板消しをつかんで、黒板に書かれた

術式や解説をおもむろに消し始めた。

 

 

「あ、先生待って! まだ消さないで下さい。

私、まだ板書取ってないんです!」

 

 

 

システィーナが手を上げる。

 

 

 

すると、グレンは露骨にニヤリと意地悪く笑って、

腕が分身する勢いで黒板を消し始めた。クラスの

あちこちから悲鳴が上がる。

 

 

 

「ふはははははははは――ッ! 

もう半分近く消えたぞぉ!? ザマミロ⁉︎」

 

 

「子供ですか⁉︎ 貴方はッ!」

 

 

 

システィーナは呆れ果てて机に突っ伏した。

 

 

 

「あはは、板書は私が取ってあるから後で

見せてあげるね? システィ」

 

 

「グレン先生……大人気ない……」

 

 

 

「ありがとう……しかしまぁ、良い授業してくれる

のはいいんだけど、ホントウィルの言う通りあの

ねじ曲がった大人気ない性格だけはなんとか

ならないかしら?」

 

 

 

システィーナが目を向ければ、黒板を消している

最中にグレンは爪で黒板を引っかいてしまった

らしい。耳を押さえて悶えていた。なんとも哀愁

漂う間抜けな姿である。

 

 

 

 

「そう? 私、先生はあれでいいって思うな」

 

 

 

「ルミア……それ、本気?」

 

 

 

「うん、なんだか子供っぽくて可愛い人だと思う」

 

 

 

「僕も何故か分からないけど……グレン先生は

あのままで良いと思う……」

 

 

 

 

「私、貴方達の感性、よくわからない……」

 

 

 

システィーナは疲れて混乱した表情をしながら

ルミアとウィルに言っていると

 

 

 

「……あ、先生!」

 

 

 

その時、突然ルミアが席を立ち、子犬のように

グレンの下へと駆けていった。

 

 

「あの、それ運ぶの手伝いましょうか?」

 

 

 

見ればグレンは分厚い本を十冊ほど抱えて、

教室から出て行こうとする所だった。

 

 

 

「ん? ルミアか。手伝ってくれるなら助かるが

……重いぞ? 大丈夫か?」

 

 

「はい、平気です」

 

 

 

 

「そうか……なら少しだけ頼む。あんがとさん」

 

 

 

グレンは本を二冊取ってルミアに手渡した。

普段は決して見せない穏やかな表情をグレンは

ルミアに向けている。それを受けてルミアは実に

嬉しそうに笑っている。まるで仲睦まじい兄妹の

ような光景。その様子を見ていたシスティーナは

どうにも面白くない。

 

 

 

 

「システィ……」

 

 

 

 

「な、何よ……?」

 

 

 

 

システィーナはウィルの言葉に反応して視線を

向けると無表情に近いウィルだったがシスティーナ

に対して何か言いたい事がありそうな表情だって事

は分かった。

 

 

 

「もしかして…嫉妬?」

 

 

 

 

「し、し、嫉妬なんか、し、してないわよ‼︎

だ、誰があんな根性が捻じ曲がった奴なんかに…」

 

 

 

 

システィーナは顔を真っ赤になってウィルの言葉を

必死になって否定する。

 

 

 

「そもそも、嫌いなら先程の授業中やルミアと

一緒にいる時、そんなに熱心に見る必要がない」

 

 

 

 

 

「そ、それは、アイツの授業の内容が実に興味深い

から真剣に見ていただけよ‼︎」

 

 

 

 

システィーナはウィルに正論を言われたから

かかなり動揺していた。

 

 

 

 

 

「だったら、そんなに顔を真っ赤にしながら動揺

する必要がない筈……?」

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

システィーナは必死になってウィルの言い訳を

考えていた。

 

 

 

 

「それはいいけど、グレン先生とルミアが

行っちゃうみたいだけど大丈夫なの?」

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 

 

 

考え事に集中し過ぎたのかシスティーナはウィル

の言葉で情け無い声を上げて視線をグレン達に

向けると本を持って教室を出ようとしていた。

 

 

 

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

 

 

(これは…そう‼︎これはルミアの為よ‼︎ルミアが

あの男の毒牙に犯されないようにする為に‼︎)

 

 

 

ウィルが溜息をつく中、そう考えながら必死と

なった表情でシスティーナもグレンに歩み寄る。

 

 

 

「ん? お前は……えーと、シス……テリーナ?

 だっけ?」

 

 

 

「システィーナよ! システィーナ! 貴方、

わざと言ってるでしょ⁉︎」

 

 

 

「へーいへいへい。そのシスなんとかさんが

ボクになんの御用でしょうか?」

 

 

 

「わ、私も手伝うわよ……ルミアだけに手伝わせる

わけにもいかないでしょうが……」

 

 

 

「……ほう? じゃ、これ持て」

 

 

 

 

ニヤリと口の端を吊り上げて、グレンは持っていた

残りの本をいきなり全部システィーナに

押しつけた。

 

 

 

「きゃあっ⁉︎ ちょ、重い⁉︎」

 

 

 

よろめいて倒れそうになるのをすんでの所で、

こらえるシスティーナ。

 

 

「いやぁ、あはは、手ぶらは楽だわー」

 

 

 

それを尻目にグレンは意気揚々と歩き始める。

 

 

 

「な、何よコレ⁉︎ アンタ、ルミアと私で

どうしてこんなに扱い違うの⁉︎」

 

 

「ルミアは可愛い。お前は生意気。以上」

 

 

 

 

「この馬鹿講師……

お、覚えてなさいよ――ッ⁉︎」

 

 

 

背中に罵声を浴びながらも、グレンの口元は笑み

を形作っていた。

 

 

 

 

(なんでだろう……グレン先生達を見ていると

何故かモヤッとする……?)

 

 

 

ウィルはグレン達を見て何故か分からないが心が

モヤモヤとした気持ちになって胸を抑えながら

ウィルにとっては感じた事がない未知の感覚に

戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒達がすっかりと帰宅した放課後。グレンは一人

学院の屋上の鉄柵に寄りかかり、閑散とした風景を

遠目に眺めていた。夕日に燃え上がるフェジテの

町並みは、紅に染め上げられた幻の城は、やはり

あの頃と変わらない。変わったのは自分だけだ。

ふと、グレンはこの学院に非常勤講師としてやって

来てからの日々を思い出す。なんと言っても強く

思い出されるのは、自分によく絡んできた二人の

少女と一人の少年の姿だ。

 

 

 

 

なぜか妙に懐いてくる、可愛い子犬みたいな少女、

ルミア。なぜか妙に突っかかってくる、生意気な

子猫みたいな少女、システィーナ。そして、かつて

自分の大切な人達の一人にかなり酷似している確か

……ウィル=オリバーだったか……彼を見ていると

かつて一緒にいたあいつ(ノア)の事を思い出してしまう

……だが、あいつは誰よりも賢こい。だが――

いや…今は言うまい……

 

 

 

 

そして彼等が何を思って自分のような人間に積極的

に接してくるのかは わからない。だが、なんだ

かんだで彼女達との交流を心地良いと感じる自分が

いなかったか?それに見てみたいとも思ったのだ。

彼女達がこれからどう成長するのか。

 

 

 

どんな道を歩むことになるのか。魔術と言う

ロクでもない物に新しい可能性を切り開いて

くれるかもしれないルミア。かつて自分が

見失った魔術への情熱を胸に抱き、なんの迷い

なく突き進むシスティーナ。

 

 

 

そして魔術や他の知識までも知っているウィル。

いまだ若く、そして幼い彼女達は何をやってくれる

のか、どう成長していくのか。その手助けをして

やりたくないと言えば……嘘になる。

 

 

 

「まぁ、なんつーか……」

 

 

 

相変わらず魔術は嫌いだ。反吐が出る。こんな

もの早くこの世からなくなるべきだ。この考えは

きっとこれからも変わらないだろう。だが、

こんな穏やかな日々は――

 

 

 

「悪くない……か」

 

 

 

自分でも気づかずグレンは笑みを浮かべていた。

 

 

「おー、おー、夕日に向かって黄昏ちゃって

まぁ、青春しているね」

 

 

 

突然、背中に冷やかすような声を浴びせられ、

グレンは首だけ回して振り返る。

 

 

 

「いつからいたんだよ? セリカ」

 

 

 

そこには淑女然とすました顔のセリカが静かに

たたずんでいた。燃える紅に染まる美女。夕日に

輝く麦畑を思わせる美しい髪が優しい風に

揺れていた。

 

 

 

「さ、いつからだろうな? 先生からデキの悪~い

生徒に問題だ。当ててみな」

 

 

 

「アホか。魔力の波動もなければ、世界則の変動も

なかった。だったら、たった今、忍び足で来たに

決まってる」

 

 

 

「おお、正解。あはは、こんな馬鹿馬鹿しいオチが

皆、意外とわかんないんだよな。特に世の中の神秘

は全部魔術で説明できると信じきっちゃってる奴に

限ってね」

 

 

 

グレンの即答に、セリカは満足そうに微笑んだ。

 

 

 

「何しに来たんだよ? お前、明日からの学会の

準備で忙しいんだろ?」

 

 

 

「おいおい、母親が息子に会いにきちゃ

悪いのか?」

 

 

 

「なにが息子だ。俺とお前は元々赤の他人

だっつーの」

 

 

 

「だが、私はお前がまだこんな、ちっちゃな頃

からお前の面倒見ているんだ。母親を名乗る権利

は充分にあるんじゃないか?」

 

 

「年齢差を考えろ魔女め。母親と息子っつーより

婆さんと孫、下手すりゃ曾孫かそれ以上だろ」

 

 

 

セリカの外見はどこをどう見ても二十歳前後の

妙齢の女だ。だが、グレンはセリカが外見通りの

年齢でないことは知っている。なにしろグレンと

セリカは、グレンの幼少の頃からのつき合いだと

言うのに、セリカの外見は出会った当初から

まったく変化していないのだ。

 

 

セリカがなぜ歳を取らないのか。本当は一体何歳

なのか。セリカは自身について頑なに語ろうと

しないが……三桁は確実に達しているだろうと

グレンは踏んでいる。

 

 

 

「あーあ、子供の頃はあんなに素直で可愛い

男の子だったのに、今じゃこんなスレた男に

なっちゃって……時の流れは残酷だな」

 

 

「……放っとけ」

 

 

 

ふて腐れたようにグレンはセリカから視線を

外した。

 

 

 

「元気が出たようで……よかった」

 

 

 

「はぁ?」

 

 

意図のわからないセリカのつぶやきに、

グレンは間抜けな声を上げた。

 

 

「お前、気づいてないのか? 最近のお前、

結構生き生きしてるぞ? まるで死んで一日

経った魚のような目をしている」

 

 

「……おい」

 

 

 

「前は死んで一ヶ月経った魚のような目だった」

 

 

 

それを聞いたグレンはため息をついて頭を

かいた。

 

 

 

「……心配かけたな。悪かったよ」

 

 

 

 

「いや、いい。私のせいなんだからな」

 

 

 

セリカは目を伏せ、いつもの自信に満ちた声とは

かけ離れた、か細い声で言った。

 

 

 

「きっと、親馬鹿だったんだろうな。私はお前の

ことが誇らしかったんだ。だから――」

 

 

 

「よせよ。何度も言ったがお前は関係ない。

浮かれてのぼせて現実を見てなかった俺が馬鹿

だっただけだ」

 

 

 

「でも、お前はまだ魔術を嫌悪してる」

 

 

 

その一言でグレンはようやくセリカの真意を

悟った。

 

 

 

「……なるほどな。で、少しでも魔術の楽しさを

思い出して欲しくて、魔術の講師か?」

 

 

 

 

グレンは思い出した。そう言えば、子供の頃の

楽しかった記憶は、いつだってセリカと一緒に

行った魔術の勉強や実験の中にあった気がする。

 

 

 

「ったく、お前、何年生きてんだよ? 意外と

ガキだよな。俺とお前を結びつけているのは

魔術だけじゃねーだろ。確かに俺は魔術が嫌いに

なったが、だからと言ってお前まで嫌いになる

ことはありえねーよ」

 

 

 

 

「そうか。うん、そうだよな……よかった」

 

 

 

 

グレンの言葉を聞いてセリカは穏やかに笑った。

どこか晴れやかな笑みだった。

 

 

 

 

「あー、くそ、そういうことかよ。じゃあなんだ?

最初にそう言ってやれば、俺は非常勤講師なんぞに

ねじ込まれずに済んだのか?」

 

 

 

「馬鹿、それとこれとは別だ。いい加減、

自分の食い扶持くらい自分で稼げ」

 

 

 

「あー、あー、聞こえなーい」

 

 

 

「このダメ男が……」

 

 

 

セリカは呆れたように肩をすくめて、

言葉を続ける。

 

 

 

「まぁ、いい。何はともあれ、社会復帰が順調

そうでなによりだ。その調子で例の病気も治して

おけよ?」

 

 

 

 

「病気? 何、言ってんだ。俺は健康――」

 

 

 

「自分には他人と深く関わる資格がないと

思ってる、なるべく他人を自分に近づけたくないと

思ってる――それゆえにあえて他人の神経を逆なで

するような態度を取ったり、好意を向けてくれる

人を素っ気なくあしらう――そんな病気」

 

 

 

「…………う」

 

 

 

セリカの指摘に、グレンは脂汗を額に浮かべて

頬を引きつらせた。そして、セリカは底意地悪く

にやにやしながら、肩をすくめてみせる。

 

 

 

「なぁ、グレン。お前の場合は過去が過去だが、

それ、普通、子供の病気なんだぞ? その歳にも

なってこんなに拗らせちゃって、まぁ。社会復帰

ついでに、いい加減治し――」

 

 

 

「う、うっさいわい! 放っとけ⁉︎」

 

 

 

羞恥で真っ赤になりながら、グレンは叫いた。

 

 

「大体、好意を向けてくれる人うんぬんってのは

俺のせいじゃねーぞ!? ガキの頃からお前

みたいなスタイル群バツの女に見慣れちまって

たら、そんじょそこらの女に興味なんか持てる

かっつーの⁉︎」

 

 

 

「おや? ということは、つまり、お前は

母親に欲情してたのか? このド変態」

 

 

 

嗜虐的で妖しげな笑みを浮かべながら、セリカが

背後からグレンへと歩み寄って身を寄せ、両腕を

グレンの首に絡めた。

 

 

 

「んなワケあるか! そして、いちいち母親面

すんな! ええい、寄るな!胸を押しつけんな! 

耳に息を吹きかけんな! 気色悪い!」

 

 

 

「ふふ、つれない男だな。何、たかだか親子の

スキンシップじゃないか」

 

 

 

そんなグレンの反応に、満足そうに口の端を

釣り上げながらグレンから離れ、セリカは

グレンに背を向けた。

 

 

「じゃ、私は明日からの魔術学会の準備が

あるからそろそろ行くぞ?」

 

 

 

「……ああ。帝国北部地方にある帝都オルランド

まで行くんだろ?」

 

 

 

ぶすっとした態度でグレンが応じる。セリカの

この手の悪ふざけは今に始まったことではないので

流して忘れるのが一番だ。

 

 

 

「そうだ。私を含めた学院の学会出席者は今夜、

学院にある転送法陣を使って帝都まで転移する

予定だ」

 

 

 

「早馬で三、四日かかる距離を一瞬で移動できる

なんてな……やれやれ、魔術は偉大だ」

 

 

 

 

「まぁ、お前も明日からの授業、頑張れよ?」

 

 

 

 

「……は? 明日から学院は一週間休みだろ?」

 

 

 

想定してないことを言われ、グレンは焦った。

 

 

 

「俺は非常勤だから参加しないが、明日からお前達

教授陣や講師達は揃って件の魔術学会だろ?それに

合わせて学院は休校になるんじゃなかったか?」

 

 

 

「ああ、それ、お前の担当クラスだけ例外だぞ。

なんだ? 聞いてなかったのか?」

 

 

「はぁ⁉︎」

 

 

 

「お前の前任講師だったヒューイがある日、

なんの前触れもなく突然、失踪してな。お前の

クラスだけ授業の進行が遅れてんだ。だからお前

のクラスだけその穴を埋める形で休み中に授業が

入っているんだ」

 

 

 

「なっ……聞いてねーぞ⁉︎」

 

 

 

「守衛が学院の門番している以外には、学院の

関係者は明日からいないからな? お前、学院で

変なイタズラすんなよ?」

 

 

 

「するかっ⁉︎ ……いや、ちょっと待て」

 

 

グレンはセリカの話の違和感に気づいた。

 

 

 

「前任の講師が……失踪? ちょっと待て。

そりゃどういう意味だ?」

 

 

「どういう意味も何も……そのままの意味だよ。

お前の前任だった講師、ヒューイ=ルイセンは

ある日、突然、失踪した。足取りはいまだに

つかめない。行方不明だ」

 

 

 

「おい、話が違うぞ。ヒューイとかいう奴は

一身上の都合で退職したって……」

 

 

 

「そりゃ、一般生徒向けの話だ。そもそも、

正式な手続きで退職するなら、代わりの講師が

一カ月も用意できないなんて事態は起こらんよ」

 

 

 

グレンはなんとも言えないしかめ面で

頭をかいた。

 

 

 

「どーにも、きな臭い話になってきたな……」

 

 

 

 

 

「ま、近頃はこの近辺も何かと物騒だ。お前に

心配はいらんと思うが、まぁ、私の留守中気を

つけてくれ」

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

 

 

「後、お前のクラスに『ウィル=オリバー』という

生徒がいるだろうと思うがあいつには気を

つけろよ……」

 

 

 

「あ? どうしてだよ? セリカらしくねえな?」

 

 

 

 

グレンが意味が分からんという声出してセリカに

聞くようにそう言うとセリカは先程のふざけた

表情ではなく、真剣な表情で

 

 

 

 

「奴は『軍から来た魔術師だ』」

 

 

 

 

 

「なっ⁉︎ ぐ、軍からだと……ッ‼︎」

 

 

 

 

グレンはかつてない筈の驚いた表情をしていた。

 

 

 

「ああ、最近、書類が送られてきたんだ。しかも

奴はあの『宮廷魔導士団』だ。入学の時に軍から

入学手続きが必要な資料が一気に送られてきた」

 

 

 

 

 

セリカが『宮廷魔導士団』の名前を聞くとグレンの

顔色が悪くなっていた。

 

 

 

 

「そうか……ってことは奴は『特務執行官』か?」

 

 

 

 

「ああ、だろうな……そして奴はイグナイト家、

イグナイト公『アゼル=ル=イグナイト』の推薦だ。

更にこの案件は女王陛下も認めた。それに魔術学院

はとにかく各政府機関の面子や縄張り争いが

うるさい魔窟だ。グレン、お前なら分かるだろ?」

 

 

 

 

「なるほど……」

 

 

 

(って、事はイヴも一枚噛んでいるって訳か……)

 

 

 

 

ヒューイの失踪と言う言葉には確かに事件性が

感じられる。だから奴、『ウィル=オリバー』が

この魔術学院の生徒として任務を遂行してる。

だが、イヴがこれだけの為に執行官を派遣する

はずがない…きっと何か大きな目的があるはずだ。

だが、それが何か自分に影響するかと言えば間違い

なくそんなことはない。だが、グレンはなんとなく

心に棘のような不安が刺さった感覚が

抜けなかった。

 

 

 

 と、その時だ。

 

 

 

 

 

「あ、やっぱりここにいた! 先生!」

 

 

 

屋上への出入り口の扉が開かれ、もうすっかり

見慣れてしまった、いつもの二人組が姿を見せた。

片や笑顔で、片や仏頂面で。

 

 

 

 

「あれ? アルフォネア教授。

ひょっとして、私達お邪魔でしたか?」

 

 

 

 

「いいや。私はもう上がるところだ。どうした? 

グレンに用か?」

 

 

 

「はい」

 

 

 

花のように笑ってルミアはグレンの前に歩み寄る。

不機嫌そうなシスティーナがそれに渋々続く。

 

 

 

 

「グレン、あんまり気にするなよ…?」

 

 

 

 

セリカは心配だったのかグレンにこっそりと耳打ち

していた。それはそうだ。なんせグレンがこんな風

になってしまった原因は幼い頃『正義の魔法使い』

に憧れて『宮廷魔導士団』に入ったのに魔術の闇

を見過ぎてしまい更にはグレンの唯一の心の支え

の『セラ』と『ノア』を死なせてしまって魔術師

である事をやめようとしていたのだから…

 

 

 

 

「大丈夫だ…後、もう少しだけ非常勤講師を

続けてみるよ…」

 

 

 

グレンはセリカに苦笑いしながらシスティーナと

ルミアの元に向かう。

 

 

 

「お前ら、帰ったんじゃないのか?」

 

 

 

 

「あ、私達、学院の図書館で板書の写し合いと

今日の授業の復習をしていたんですけど、

どうしても先生に聞きたいことがあるって……

システィが」

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと⁉︎ それは言わないって

約束でしょ⁉︎ 裏切り者ッ!」

 

 

 

 

 

真っ赤になってシスティーナが怒鳴り立てるが、

すでに後の祭りだった。

 

 

 

 

「ほーう? つまりなんだ? システィーチェ君。

まさかまさか、君はこの天才で稀代の名講師、

グレン=レーダス大先生様に何か質問があると

でも言うのかね? んー?」

 

 

 

 

グレンは清々しいほど、なんの迷いもなく図に

乗った。上から目線で、思わず拳を顔面のど真ん中

にめり込ませたくなるような、実に腹立たしい笑い

を浮かべている。

 

 

 

 

「だからアンタにだけは聞きたくなかったのよ!

後、私はシスティーナよ! いい加減覚えてよ⁉︎」

 

 

 

 

「なーんか覚えにくいから、やっぱ、お前は白猫で

いいや」

 

 

 

「ああ、もう――っ!」

 

 

 

 

とうとうシスティーナは涙目になってしまう。

 

 

 

「先生、今からお時間少しよろしいですか? 私も

その部分、後で考えてみたら実はよくわかって

なくて……」

 

 

 

「ああ、悪かったな、ルミア。俺も今日の授業に

関しちゃ少し言葉足らずな所があった気もした

んだ。多分、そこだろ。見せてみな」

 

 

 

 

「だ、だから、私とルミアのこの扱いの差は

なんなの……ッ⁉︎」

 

 

 

「ルミアは可愛い。お前は生意気。以上」

 

 

 

「む、ムキィイイイイイ――ッ!」

 

 

 

やんややんやと騒ぎ立てる三人をしばらくの間、

セリカは微笑ましく見守って。何かに安堵した

ようにそっと屋上を後にした。

 

 

 

 

グレンに頭を下げて教えを請うという屈辱の一時を

なんとか耐えきったシスティーナは、その苛立ちと

不機嫌さを隠そうともせず、ルミアを伴って帰路に

ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まったく、なんなのよ、あいつ!」

 

 

 

 

そんなシスティーナの心境とは裏腹に、フェジテ

の町はいつも通り平和そのものだ。夕方ゆえに

閑散とした中央表通りに、システィーナの荒げた

声は虚しく霧散していく。夕焼けの緋色が目に

優しい、落ち着いた顔色の町並み。自分一人

こうしてカリカリしているのが馬鹿みたいである。

 

 

 

 

「ルミアもホント、あいつのどこが良いわけ? 

妙に気に入ってるみたいだけど!」

 

 

 

「え? だって、先生、優しいよ?」

 

 

 

「ええ、そうね! 貴女だけには、

妙に優しいわね! 貴 女 だ け に は!」

 

 

 

 

腹立たしさのあまり、システィーナはぷるぷると

拳を振るわせていた。

 

 

 

 

「普通、あそこまであからさまに、露骨に贔屓

する⁉︎いくらなんでも、もうちょっと人の目とか、

世間体とか気にするものじゃない⁉︎

それなのにあいつったら……ッ!」

 

 

 

ルミアが、まぁまぁ、と苦笑いする。

 

 

 

「これは絶対、何かあるわ! そうだ! きっと、

あいつ、ルミアの優しさに勘違いして、ルミアに

邪な下心でも持っているに違いないわ! ええ、

そうよ! きっとそう! いい? ルミア、あいつ

がいるときは私から離れちゃだめだからね⁉︎

あいつめ……ルミアに手を出したら、今度こそ、

本当に容赦しないんだから……ッ!」

 

 

 

 と、その時である。

 

 

 

 

「ふふっ」

 

 

 

ルミアが含むように笑い始めた。

 

 

 

「……どうしたの? ルミア」

 

 

 

「うん、その、システィがそこまで私の心配して

くれているのが、おかしくて」

 

 

 

「心配するに決まってるじゃない、私達は家族

なんだから!」

 

 

 

怒ったような素振りのシスティーナに、

ルミアがぽつりとつぶやいた。

 

 

 

「三年前のこと、覚えてる?」

 

 

 

「三年前……貴女が私の家にやって来た頃よね?

それがどうかしたの?」

 

 

 

なぜ突然、そんな話が出てくるのか。

システィーナにはルミアの意図が読めない。

 

 

 

 

だが、ルミアは懐かしむような笑みを絶やさず、

言葉を続けていく。

 

 

 

「あの頃の私達って、いつも喧嘩ばっかりだった」

 

 

 

 

「そ、それは……だってほら、あの頃のルミア

って卑屈で、わがままで、泣き虫でさ……その、

実の両親から捨てられた当時の貴女の心情を

汲めなかった私も私だけど……」

 

 

 

気まずそうにシスティーナが頬をかく。

 

 

 

「そんなある日、私がシスティと間違えられて、

悪い人に誘拐されちゃって」

 

 

 

「……そんな事件、そう言えばあったわね」

 

 

 

「私、なんとか無事に帰って来て、そうしたら、

システィがいきなり抱きついてきて」

 

 

 

「……う」

 

 

 

「あの時は一晩中、一緒に抱き合って泣いたね。

ごめんね、無事でよかった、って」

 

 

 

「…………ぅ、そ、それは……その……」

 

 

 

 気恥ずかしさにシスティーナの顔が、夕日も

かくやと言わんばかりに染まっていく。

 

 

「思えば、あの時からかな。

私とシスティがこうして仲良くなったの」

 

 

 

 

そんなシスティーナに、ルミアは暖かな笑みを

向けていた。だが、ここまで聞いても、ルミアが

どうして突然そんなことを蒸し返したのか、

システィーナには見当もつかなかった。

 

 

 

「……どうしたの? 急に」

 

 

 

「なんかね、最近、よく昔のことを思い出すの」

 

 

 

そして、ルミアはシスティーナに少し切なげな

笑みを向けた。

 

 

 

「……なんでだろうね?」

 

 

 

問われてもシスティーナにわかるわけがない。

何が切欠で、ルミアが三年前のことを物思うように

なったかなど、ルミアのその真意は知る由もない。

ただ、ルミアにとって三年前の記憶は、色々な

不幸が重なった辛い思い出であろうことはわかる。

 

 

 

だから――

 

 

 

「私達は家族よ」

 

 

 

ぽつり、と。システィーナは素直な思いを口に

する。

 

 

 

「なんで貴女が突然、三年前のことを思い悩む

ようになったかはわからないけど、いつだって

私はルミアの隣にいるわ。だからさ、その……」

 

 

 

 照れたようにしどろもどろ言葉を

紡ぐシスティーナに。

 

 

 

「……ありがとう、システィ」

 

 

 

ルミアは春風のように微笑みかけるのであった。

黄昏の夕日に燃える、フェジテの町並み。二つの影

が寄り添うように、どこまでも延びていた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は以上です。イヴ室長、今のところ観察対象

のルミア=ティンジェルに異常はありません」

 

 

 

 

 

暗がりの路地裏で外道魔術師達の死体は一人二人

ではなく、何十人の死体がたくさん転がっており、

顔や体中には外道魔術師達の血がたくさん付着して

いるにもかかわらず何事もなかったかのように

平然と魔法石で通話していた。

 

 

 

 

『ご苦労様、助かったわウィル。廃棄女王の観察を

してもらっているのに外道魔術師達の殲滅の任務

まで完璧にこなして実に素晴らしい功績だったわ。

これからも廃棄女王の観察を頼むわよ?』

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

『ウィル……?』

 

 

 

違和感を感じたイヴはウィルの名前を呼ぶ。

 

 

 

 

 

『ウィル‼︎ 話しを聞いているの⁉︎』

 

 

 

「──ッ‼︎ だ、大丈夫です……聞いてました」

 

 

 

『……ウィル。まさか……貴方、あの廃棄女王に

余計な感情が移ったんじゃないわよね?』

 

 

 

 

「…それは……分かりません」

 

 

 

ウィルは魔法石を耳に当てながらもまた胸が苦しく

なって右手を胸に当てて自分の中にまた未知の感覚

になってしまう。

 

 

 

『良い? 何度も言うけど貴方は私の大事な戦力と

言う名の駒なのよ?貴方は余計な事を考えないで

私の指示に黙って従って任務をいれば良いのよ。

いい、分かったわね?』

 

 

 

「……分かりました……イヴ室長……」

 

 

 

 

ウィルはそう言ってイヴとの通話を切った。

その後、頬に違和感を感じて触ってみると

 

 

 

 

「……なに、これ……?」

 

 

 

 

ウィルは暗い路地裏でそう言って暗くて全く

見えなかった自分の頬に付着していた赤黒い

『外道魔術師達の血の雫』で流れたものなのか

それとも『涙の雫』が流れたのか分からないが

ウィルの頬にまるで涙のように流れて星空が全く

見えない真っ暗な夜空の世界を一人で眺めながらも

ポタリポタリと音をたてて地面に落ちた。

 

 

 

その後、夜空を眺めるウィルの後ろ姿は人間に

あるはずの『喜怒哀楽』の表情は本人は全く

出さなかったがその後ろ姿はまるで寂しそうな

『子供のような』寂しそうな姿だった。





読んでいただきありがとうございます‼︎


これからも豆腐メンタルな自分ではありますが
一生懸命に頑張っていきますのでよろしく
お願いします‼︎





【報告】


新しい作品の投稿も考えています。なので今、
連載中の作品の投稿が遅れるかもしれません。
本当にすみません……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。